タイトル:海より這い出るマスター:黒風

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/04 19:17

●オープニング本文


 海に面した港町。
 主な産業は漁業ぐらいなもので、閑散としてはいたが、それ故に戦火を浴びる事なく平和な町でもあった。
 今日も一日、普段と変わらない生活が始まる。住民達はそう思っていた。危機が、音もなくすぐ傍にまで近付いてきている事に気付く事なく‥‥。

 突如として海から現れた「ソレ」は、逃げ惑う人々を尻目に街を蹂躙する。
 車は叩き潰され、家は砕かれ瓦礫の山と化し、多数の足をくねらせそれらを乗り越えていった。
「何なんだ、あのイカは!」
 誰かが叫んだその先には、街を蹂躙する巨大なイカの形をした三体のキメラの姿がある。キメラの足先は一様にヘラの様に平らになっており、それらを叩きつけて町を破壊していっているのでいった。
「多分あれがキメラだ! 能力者に来てもらうしかないぞ!」
 キメラは三体ともがそれぞれ別々の方向へと向かっており、被害が広がるのも早い。無駄な時間を過ごしている余裕はないと、まだキメラからは遠い役場からULTへと即座に救援要請が出された。

●参加者一覧

愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
ロジャー・藤原(ga8212
26歳・♂・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
鳳凰 天子(gb8131
16歳・♀・PN
夢・激情(gb8636
25歳・♂・EP

●リプレイ本文

 キメラ出現の報からしばらくの後。能力者達は、キメラが最初に出現した港へと集まっていた。
「迅速かつ確実な行動が功を為しそうなカンジだな‥‥。気合い、入れていきますか‥‥っと」
 ヤナギ・エリューナク(gb5107)が、目の前の瓦礫の山と、その先を見据える。手には用意した地図があるが、キメラが通った跡はこの場所から三本伸びており、このまま追っていく事が可能そうだ。
「平和な街は…平和であるべきッスよ。この時代、それが一番の幸せなんスから」
 六堂源治(ga8154)の言葉に皆が頷き、能力者達は、今なお侵攻を続けるキメラを止めるべく、三手に分かれて駆けだしていった。

 愛輝(ga3159)が双眼鏡を下ろす。双眼鏡を使ってもキメラの姿は確認できず、キメラはまだまだ先に居る様だ。即座に、また瓦礫の山を駆け抜ける。
 そして、愛輝と共に瓦礫を越えていくのは、最上 憐 (gb0002)。彼女は瞬天速を使用して、感触を確かめていた。
「‥‥ん。焼きイカの為に。頑張る」
 食べる事も忘れていない様であるが。
 
 源治、イーリス・立花(gb6709)、鳳凰 天子(gb8131)の三人もまた、キメラによって作られた瓦礫の道を急ぎ進んでいく。
「‥‥急ぎましょう」
 港町の生まれであるイーリスには、キメラに破壊されたこの光景がより一層悲しく映る。ついつい急ぎ足になってしまうのも仕方がないだろう。
「A班はまだ発見してないそうッスよ」
「こちらもまだだそうだ。なかなか奥まで入り込んでいるようだな」
 無線機で連絡を取り合っていた源治と天子が告げる。キメラの発見が遅くなると、その分被害は大きくなる。三人は無意識に、進む速度を速めていった。
 
「庶民を守るのは貴族の義務である。庶民の町を破壊したキメラは万死に値する!」
 瓦礫を軽快に乗り越え先に進みながらも、夢・激情(gb8636) はキメラへの怒りを隠そうともしない。
 同様に、ロジャー・藤原(ga8212)もまたキメラに対する怒りを隠そうとしていない。こちらは叫び声とでも言うべき声を上げている。その怒りはキメラの破壊行為に対するものであって、決して邪なものではない‥‥筈だ。
「怒るのはいいが、いざって時に頭に血が上らないようにな」
 そんな彼らとは対照的に、ヤナギは普段通りに飄々とした態度を取る。他の二人が怒りを露わにしているだけに、よりいっそう違いが明確になっている。
 暫くはそんな状態が続いていた彼らだったが、ロジャーが他班からの連絡を受け取ると、場の空気が急激に引き締まった。
「A班が発見したそうだ。こっちもそろそろだろうな」
 その言葉の通り、その後すぐに、彼らの視界に町を蹂躙しつつ突き進むキメラの姿が映った。
 
「‥‥ん。発見した。回り込んで。挟む。囮は。お願い」
「任せとけ」
 憐の言葉を合図に、愛輝が未だ能力者達に気付いていないキメラへと加速する。瞬く間に目にも止まらぬ速度となり、愛輝はそのまま槍を深々とキメラに突き立てた。突然の攻撃にキメラは反応が遅れ、反撃の足も叩き付ける頃には愛輝は既に間合いの外まで離れている。
「遅いな」
 余裕とも挑発とも取れる一言。その言葉の意味を解したのか、キメラは愛輝へと向き直り、多数の足をくねらせ突き進む。それが、罠だと知らずに。
「‥‥ん。挟み込んだ。サンドイッチ成功。このまま。押し込む」
 キメラにとっては、再びの背後からの突然の一撃。愛輝に気を取られている隙に背後へと回り込んだ憐がキメラを切り裂いた。
 愛輝が引き寄せ、憐が押し込む。既に通った場所へと引き戻されそうになったキメラはそうはさせまい滅茶苦茶に暴れだす。二人は、激しくのたうちまわる足を避ける為に距離を取らざるを得なかった。
「もう少し引き寄せたかったが‥‥」
 穿かれた墨を避け、愛輝が槍を構え直す。少々、時間がかかりそうな予感がした。
 
 B班も、時をほぼ同じくしてキメラを発見し、攻撃を開始していた。
「これ以上、街を壊されてたまるかってーの。オラオラ!! こっちに来やがれッス!!」
「久しぶりの戦闘だ、私の機械剣がどこまで通じるか分からんが気を引き締め行かねばな。」
 源治の刀と天子の機械剣より衝撃波が放たれ、能力者達に背を向けていたキメラへと吸い込まれる。二発の衝撃波を受けたキメラは身を震わせ、何が起こったのか確認するかのように能力者達の方へと向き直った。
 それを見た能力者達は後退を開始し、更にイーリスが駄目押しの銃弾を放つ。
「さぁ、烏賊釣りの始まりですよっ‥‥」
 三度の攻撃を受け、キメラは能力者達を邪魔な存在と認識し、排除する為に近寄り始めた。能力者達は来た道を引き返し、キメラはそれを追う。キメラは墨を吐く様子もなく、ただ追ってくるのみだったので誘導は楽だった。
 やがて、彼らはやや開けた場所へと到着する。キメラも到着した事を確認し、能力者達は反転して攻勢へと転じる。
 まっさきに動いたのは源治だ。刀を構え、キメラへと肉薄する。無論、キメラもやられっ放しではない。自ら間合いへと入ってきた源治を屠ろうと、足の一本を叩き付ける。
「こっからは‥‥俺の間合いッスよ?」
 だが、源治はその足を籠手で受け止め、更には地へと落ちた所を爪が取り付けられた足で踏み抜く。キメラは即座に足を振り上げ源治を振り払うものの、その足には深々とした穴が開いていた。
「ととっ」
 足元から振り払われた源治が体勢を崩す。キメラは別の足で源治を叩き潰そうとするが、そうはさせじとイーリスが銃弾を撃ち込む。
「これ以上、瓦礫の山を築いて貰っては困りますからねっ!」
 イーリスは更に二発、三発と銃弾を放つ。キメラが怯んだ隙に源治は大勢を立て直し、更に天子の衝撃波がキメラへと放たれた。
「あまり効いていないのか?」
 衝撃波は確かにキメラへと届いた筈なのだが、然程効いた様子はない。衝撃波では機械剣の威力を利用する事は出来ない様だ。
 ならばとばかりに、天子はもう一度だけ衝撃波を放ち、即座に疾風の如き速さでキメラへと肉薄した。天子の接近にキメラが気を取られそうになり、その瞬間に源治が紅蓮衝撃を込めた一撃を叩き込む。更にイーリスの銃弾も撃ち込まれ、キメラに深々と傷が刻み込まれた。
 深く傷付いたキメラは滅茶苦茶に暴れだし、墨も撒き散らしだした。
「危ないッスね」
「備えあれば‥‥と言った所だったか」
 近くに居た源治と天子が墨を被るが、源治は籠手で顔はガードし、天子もゴーグルをしていたので然程問題にはなっていない。即座に、刀と機械剣で切り返す。
 途中、何度か足を叩き付けられるものの、イーリスの援護もあり、能力者達は着実にキメラに切り傷を刻みつけていく。やがて、動きが鈍くなったかと思うと、キメラは全ての足を地へ落とし、力なく崩れ落ちた。
「こちらは、終わりましたね」
 イーリスがキメラの死亡を確認し、彼らは一息ついた。
 
 そして、C班もまたキメラの居場所へと到達していた。まっさきに動いたヤナギが、雷の如き速度を以てキメラの前方へと突き進む。
「鬼さん‥‥じゃねーや、イカさん此方、手のなる方へ」
 くくっと笑いつつヤナギは照明銃をキメラへ向けて発射する。然程の効果はなかったものの、挑発も相まってキメラはヤナギへと向かおうとした。
「おらあああぁぁぁ!」
「イカの分際で庶民共に手をだしおって! 成敗してくれる!」
 そこへ待ったをかける様にロジャーと激情が突撃する。叫び声もあってか二人の方へ向き直ろうとするキメラだが、そこをヤナギの遠心力を乗せた一撃が襲う。ヤナギの一撃でキメラの動きが止まり、更にロジャーの件と激情の短剣が突き立てられた。
 深々とした傷が刻まれ、挟み撃ちの形となったキメラは、まずは人数の多い方からと考えたか、ロジャーと激情の方へと向き直る。能力者達はそれを確認すると、B班同様、より戦いやすい場所へと誘う為に後退を開始した。
 そして、こちらもまた、多少開けた戦いやすい場所へと誘い込む。ここまで来たら、こちらもまた反撃へと転じる。
「お前さんの相手はこっちに居るゼ〜」
 ヤナギが、繰り出された足を避けつつ挑発する。流石に全ての足を避けるのは困難だが、僅かにでもキメラを引き付けられれば十分なのだ。
「こっちにもいるんだぜ!」
「隙だらけである!」
 ヤナギに気を取られた隙に、ロジャーと激情が背後から仕掛ける。キメラは背後の二人へ反撃しようと動くが、それはヤナギにとっては絶好の攻撃の機会。
「またまた隙在り‥‥ってなッ!」
 二連続の斬撃がキメラを切り刻む。彼らの波状攻撃に、キメラは翻弄されていた。それでも能力者達を追い払おうと、足を振り回し、墨を吐き散らす。
「折角のパイレーツセットが汚れちまうだろうが!」
 ロジャーが怒りに満ちた声で咆える。あわや墨の直撃を受けそうになり、大きな盾に隠れる事で難を逃れたのだ。返しで、力を込めた一撃を見舞う。キメラの足の一本が切り落とされ、ぼとりと地に落ちる。
 それでも尚、キメラは暴れ続けた。近付く者には片っ端から足を叩き付け、近寄らすまいとしている。
「そろそろ諦めちまえよなッ!」
 ヤナギが再び二連続の斬撃を繰り出した。キメラの体に二条の線が走るが、直後、ヤナギは暴れ回る足の一本に襲われる。
「これ以上暴れさせはしないのである!」
 距離を取っていた激情が、強力な弾丸を放つ。威力ある一撃に、キメラが僅かにたじろぐ。
「もらったゼ」
「終わりだ!」
 絶好の機会を逃す筈もない。ヤナギとロジャーが全力を以てそれぞれの剣を叩き込み、キメラはようやく息絶えた。
 
 A班の戦闘は少々長引いていた。挟み撃ちを行っている事により優位に進めてはいるが、やはり人数の違いが響いてきている。足を叩き、動きを鈍らせてはいるが、能力者もまた無傷と言う訳にはいかない。
「しぶといな」
 愛輝が斧の部分で斬りつける。既に何度攻撃したのかも分からないが、キメラはまだ生きているのだ。
「‥‥ん。でも。もうちょっと」
 憐の言う様に、キメラも弱ってきてはいる。足を集中的に狙ったので半数近くがすでに動かなくなっているし、本体も動きが鈍くなってきた。最後の足掻きとばかりにキメラは尚も暴れるが、二人がキメラへの攻撃の手を緩める事はない。
 そして、愛輝の槍が頭部を貫き、キメラは動きを止めた。
「ようやく、か」
「‥‥ん。これで。最後。だったみたい」
 二人が、深く息を吐いた。これで、キメラは全て駆除されたのだ。
 
 能力者達の迅速な行動によって、町への被害は最小限で食い止められたと言っていいだろう。避難していた人々も戻ってきて、現在は後片付けに勤しんでいる。
「大丈夫ですか? 手伝います」
 手伝いに回っている愛輝が、散らかった瓦礫を軽々と持ち上げては運んでいく。同様に、ヤナギやイーリスも瓦礫の撤去を手伝っており、見る見るうちに瓦礫が片付けられていった。全てを片付けるには時間が足りないが、復興は大分早まる筈だ。
 そして、町の外れ付近には他の能力者の多くが集まっていた。辺りに漂うのは、香ばしい匂い。
「‥‥ん。イカ。食べ放題。幸せ」
 憐が、調理済みのイカにかぶりつく。目の前には大量の調理されたイカキメラだった物が並べられており、その表情はとても幸せそうだ。
「おお、こんな所に偶然やまじ湯浅醤油が」
 と言いつつ懐から醤油を取りだすのはロジャー。醤油をかけているのとかけていないのの二つの味を楽しむ。
 ロジャーの横では激情が「美味だ」と言いつつ食べている。ちゃんとした調理がされているので、本心からの言葉だ。
「イカ墨というのは食べられるそうだが、コヤツのもいけるのかね」
「‥‥ん。これは。無理」
 天子の疑問に、憐がイカを頬張りながら答える。このキメラの墨はとても食べられる物ではなかったそうだ。
 瓦礫の撤去作業を一休み中のヤナギも合流し、益々賑わいを増す。平穏を取り戻した町に、人々の賑わいの声が響き渡った。