●リプレイ本文
本来ならば、親子や仲間で過ごしていた楽しい一時。だがそれは、今はキメラに奪われていた。だが、それも長くは続けさせない。
「や、キャンプ場なんて何年振りでしょう‥‥言ってもいられないんですが」
フェイス(
gb2501)が、管理人から借りてきた地図を広げる。
「やはり、地図を見た上では隠れられそうな場所はないようですね。残されていったテントなら使えるかもしれませんが」
「‥‥それしかありませんか」
流 星刃(
gb7704)が地図を眺めて悩んでいる。所々に木々や施設はあるものの、身を隠すには心もとない。そして、利用出来そうな起伏も見当たらない、ときている。テントの傍だと荷物もありそうだし、視界外からの攻撃は難しいかな、とだけ考え、星刃は確認を終えた。キャンプ場までは、後僅かだ。
ドクター・ウェスト(
ga0241)、七市 一信(
gb5015)、雨夜月(
gb6285)の三名が、キャンプ場へと入っていく。彼らが囮となってキメラを誘き寄せ、一網打尽にする手筈だ。
「サクッとキメラを退治して、キャンプ場のお客さんには、またキャンプ、楽しんでもらえれば良いかな?」
奇襲を受ける心配がほぼない為、雨夜月はまだ多少気楽にしている。とは言え、こちらも向こうもお互いに発見しやすい状態。気楽な時間は、長くは続かない。
「集まってきたみたいだね〜」
ドクターが、抜け目なく周囲のキメラを確認する。キメラ達はリーダーと思われる個体へと集まっていっており、集まってから仕掛けてくる気のようだ。
「こっちも準備が出来るってもんだぜ」
ドクターと雨夜月の前にパンダ‥‥否、パンダのカラーリングを施したAU−KVを身にまとった一信が出る。こちらの準備は整った。
そして、キメラは全てが集った後、間を置かずに能力者達へと一斉に殺到する。最前列のアタックビーストが一信へと牙をむいた。
「残念、そんなの当たらないよ」
一信は、キメラの一撃を爪で受け止め、もう一方の手に装着している爪を突きたてる。アタックビーストが弾き飛ばされ、地面を転がった。すぐさま立ち上がったが、なかなかに効いているようだ。
しかし、キメラの数は能力者達よりもかなり多い。一信のみで止められる数には限りがあり、残りがドクターと雨夜月へと向かう。
「厳しいが、まあ、何とかなるだろう〜」
ドクターは、盾でキメラを受け止めつつ、巧みにエネルギーガンを扱ってキメラに接射していく。強力な銃撃は、ガードビーストにすら深手を負わせる。
そして、雨夜月は目にも止まらぬ速さで戦場を駆け巡る。その速度によって、雨夜月はキメラの群れをかき回し、集団行動を上手く機能させずにいた。
「容赦は、致しかねますよ?」
先程までとは打って変わった雰囲気の雨夜月の爪が、キメラを徐々に傷付けていく。
だが、やはり数の差は埋めがたい。どうにか統率を取り戻したキメラは、能力者達を劣勢へと追いやっていく。一斉に飛びかかられては対処出来る数に限りがあり、どうしても一部の攻撃が防ぎ難い。ドクターは治療、一信は竜の血や鱗で凌ぎ、雨夜月がかき乱すが、なかなか攻勢に移る事が出来ない。
とは言え、今この時点で攻勢に回る必要もない。準備は既に整っている。
「そろそろだね〜」
ドクターが盾でキメラを止めた次の瞬間、彼を襲っていたキメラが横殴りの衝撃で弾き飛ばされた。
「さて、数は多いようですから先ずは頭数を減らす方向ですかね」
フェイスが、小銃から二発三発と立て続けに銃弾を発射する。それらは、囮班を襲っていたキメラへと直撃し、キメラの動きを大きく狂わせた。
「さっさと倒します! 無理せんといてくださいね」
星刃もまた、拳銃でキメラを撃ち抜いていく。二人の攻撃によって、キメラの統率は再び乱れ、囮班にも反撃する余裕が生まれてくる。
「キメラちゃーーーん? パンダ達を倒すには火力が一サジ、たりなかったぜえ」
竜の血によって、一信の傷が癒えていく。キメラからの攻撃が緩み、これまで凌ぐのが限界だったのが回復へと向かっている。
そして、一信の爪が目の前のガードビーストを貫き、地へと伏せさせる。雨夜月も、再度攪乱を行い混乱を静まらせない。
無論、キメラもただやられる訳にはいかない。リーダーの指示により、三体のアタックビーストが手近なドクターへと襲いかかる。ドクターはその内の一体を盾で防ぎ即座に銃で撃ち貫いた。その瞬間を狙った残る二体は、フェイスや星刃に狙い撃たれ、一体は地に落ち、もう一体はそれでも尚ドクターへと迫ったが、割り入った雨夜月によって叩き落とされる。
大勢は決したと言っていいだろう。キメラはみるみる数を減らし、既にガードビーストが数体しか残っていない。対して、能力者達はまだまだ余裕がある。それを見て、リーダーのガードビーストが動いた。能力者達に背を向け、全力で駆けだした。逃亡を図ったのである。
「逃げられると思っているのかね〜」
「無駄です」
「逃がさへんでぇ!」
逃げ出そうとしていたリーダーだったが、それを警戒していたドクター、雨夜月、星刃が即座に仕掛ける。ドクターと星刃に撃ち抜かれ、一瞬で接近した雨夜月の一撃によってリーダーは息絶えた。
こうなると、後は一方的だ。統率者も数の優位も失ったキメラは、ほどなくして全て駆除された。
「うむ、コレで治療は終わりだ〜。皆も怪我のないように楽しんできたまえ〜」
皆の治療を行っていたドクターだったが、彼は治療が終わるとすぐさま帰っていってしまった。どうやら、今回のキメラのサンプルを採取して研究したかったようだ。
残念ながら、筋組織が発達している以外の事は分からなかったようであるが、これはまた別の話である。
「ささ、今日もキャンプ場は快晴日本晴れ! 蚊に刺されて脚がはれはれ、それでも皆森林浴で心晴れ晴れ‥‥ってああ、ぶらさがらないで」
一方で、キャンプを楽しむ事とした能力者達は、それぞれが思い思いに楽しんでいる。一信はパンダの恰好で客引きをと考えていたが、むしろ子ども達の興味の対象となってしまっており、次々に集まってくる子ども達への対応に追われている。客引きにもなってはいるのだが。
キメラが退治されたとの一報を聞いた客は徐々に戻ってきており、キャンプ場には元の賑やかで楽しい時間が流れだしている。
フェイスは後片付けが済んだので一服しており、この後は戻ってきた客の力仕事を手伝ったりするつもりだ。
雨夜月は混じらせてもらおうという事で、テントの設営を手伝っている。この後は竈の準備だろう。
星刃は川で泳いでおり、清流を貸切とも言える状態で楽しんでいた。お客が戻ってくればまたこの川にも人が来るであろうから、それまでの僅かな時間だ。
やがて、キメラに追い出された客が全員戻ってきて、キャンプ場は元の賑わいを完全に取り戻した。
そして、能力者達を交えて行われるバーベキュー。この日は客が持ち込んだ物も色々と加えられ、様々な食材が揃っていた。キメラを退治してくれた能力者を一目見ようとキャンプ客のほぼ全員が押し掛けてきており、とても大規模で賑やかなものとなっている。
「お、焼けた焼けた。やっぱ肉だねうん」
「ん、好き嫌いは無いですよ?」
肉類中心に食べていく一信に、色々と食べていく雨夜月。フェイスや星刃も、ビールを飲んだり一服したりしてのんびりとした時間を過ごしている。
「こう言うのは、良い気分転換になりますね」
フェイスの言葉が、賑わいの中へと消えていった。