●リプレイ本文
「遭遇したのは、山道をずっと登っていって山の中腹辺りだったかと。前の方に動物みたいな影が見えたと思ったらいきなりこっちに向かって突っ込んでくるもんですから、そりゃあ驚きましたよ」
キメラに遭遇した男性が、当時の状況を思い出しつつ喋る。彼を訪れたのは、ヤナギ・エリューナク(
gb5107)とレイド・ベルキャット(
gb7773)の二名だ。
「で、キメラはどんなのだったんだ?」
エリューナクの問いに、男性は「ちゃんと見ていた訳ではないので、はっきりとは言えないんですけど‥‥」と前置きしつつ、馬の様な足に猪の胴と頭で牙は大きかった、と答える。
「いやはや、災難でしたねぇ‥‥。お怪我がなくて何よりです」
「ええ、本当に不幸中の幸いでしたよ‥‥」
レイドの言葉に、男性は一気に疲れた様な表情となる。やはり、一般人にとってキメラとは恐怖の対象としかならないのだ。
「安心しな、きっちりと全部倒してきてやるゼ」
「ええ、お願いします」
エリューナクがそう言ってくれたおかげで楽になったか、男性の表情は多少晴れた物となっていた。
普段は自然の音しか鳴らない山に、吸気・排気の音が鳴り響く。ミカエル・ラーセン(
gb2126)は一人AU−KVのバイクに跨り、先行して偵察を行っていた。
「足跡らしきものは見つからないし、折れた木とかもなさそうだね。普段は物を壊したりはしてないって事かな?」
ミカエルは足跡や木が折れた跡に注意を払っていたが、最近は雨が降っていないらしく、キメラの足跡と分かる痕跡は見当たらない。同様に、木についてもこれまでにそれらしき物は見受けられなかった。
「後少しで目撃現場だから、そこまで行けば何か分かるかな」
目撃現場なら何らかの痕跡が残っているかもしれないと思い、ミカエルはAU−KVを走らせる。
一方、ミカエル以外のA班の三名は、双眼鏡を片手に捜索を続けていた。
「普通より長い足って、何かスタイルのバランス悪そなキメラだネ。狙い易そーではあるケド」
ラウル・カミーユ(
ga7242)が双眼鏡から目を離す。木の上から見渡してみたが、キメラの姿はない。下の二人も確認出来ていないようだ。
「この辺りには居なさそうだな。先に進もうゼ」
「そうだネ」
エリューナクに促され、ラウルが木から降りてくる。先行しているミカエルもまだ遭遇していないようなので、三人は道なりに先へ進んでいく。
「私は食べたことはないのですが、猪の肉っておいしいらしいですよ。キメラとはいえ猪は猪。今夜はごちそうですかねぇ」
山道を進みつつ、レイドがぽつりと。どうやら彼は、キメラを退治した後を楽しみにしているようである。
そして、B班。こちらでも、双眼鏡を使った捜索が行われていた。
「この辺りには居なさそうですね」
「数が分からないという事以外は、あまり手こずる相手では無いだろうが‥‥」
朝霧 舞(
ga4958)とブロント・アルフォード(
gb5351)が、ほぼ同時に双眼鏡を下ろす。ブロントは口ではこう言うが、表情や振る舞いに油断はない。
「野生の動物の動きにもおかしい所はないわね」
二人に遅れて、ゴールドラッシュ(
ga3170)も双眼鏡を下ろした。彼女は他のメンバーよりも念入りに警戒しており、その立ち振舞いにはまるで隙がない。
「いきなり泥まみれの身体でタックル喰らったりするのは嫌だもの!」
どうやら、警戒する理由は少々違う様だが。
「‥‥ん。上から見ても。やっぱり。居ない」
そんな彼らに、次。行こ。と声を掛けつつ、最上 憐(
gb0002)がするすると木から下りてくる。彼女も、木に登ってキメラを探していたのだ。
残念ながらキメラは発見出来なかったが、代わりに違う物を見つけたらしく、憐は目的の場所へと駆け寄る。
「‥‥ん。見付けた。この。山菜は。揚げると。美味」
一緒に、食材も探していたようだ。そんな憐はキメラを丸焼きにする為の道具も持参しており、気合の入れ方が違う。主に、食べる方向に対しての。
そんなどこか緩い空気も流れていたB班であったが、ゴールドラッシュがA班からの無線連絡を受け取ると、空気が一気に変わる。
「A班が一体と遭遇したそうよ。こっちもそろそろかもしれないわね」
その言葉を聞いて、全員の表情が引き締まった。
「ちょっと予定は狂ったけど、問題はないかな」
ミカエルはちらちらと後ろを確認しつつバイクを走らせる。AU−KVの発する音に誘われたか、男性が遭遇した場所よりも手前の地点での遭遇となり、キメラはまっすぐにミカエルを追ってきている。
とは言え、いくら舗装されていない道と言えどAU−KVに小回りの利かないキメラが追いつける筈もない。ミカエルはすぐに他の三人と合流し、迎撃の態勢を整える。
誘われたキメラは三人の姿を確認すると、一直線に突撃を開始した。
「長い足が逆に弱点だったネ。狙い放題っ」
直後に訪れたのは、キメラにとっては思わぬ一撃。木の上に潜んでいたラウルの矢が、キメラの足を正確に射抜いた。
キメラはバランスを崩しかけるが、体勢を立て直しなおも一直線に突き進む。ラウルの矢やミカエルやレイドの銃弾がキメラの足へと集中的に飛び交うが、それでもキメラは突き進むのを止めない。
「まっすぐしか走れないなんてさぁ、どんな馬鹿かって思うよね♪」
当たれば痛烈であろう一撃。それをミカエルは横に跳んで軽く避けてみせた。エリューナクやレイドも軽く避けている。キメラへの恐怖心が薄い能力者にとって、これほどまでに直線的な攻撃はあまりにも避けやすいのだ。
そして、再度突進するには一度止まって振り向かなければならない。その際に生じる隙を見逃すほど、能力者達は甘くもない。
「ミカエル、今だ‥‥っ」
「ああ」
キメラが止まったその瞬間に、ミカエルとエリューナクが一瞬でキメラの前後に移動し、挟み込んだ。虚を突かれた形となり、キメラの動きが止まる。
「その脚、邪魔なんだよな〜‥‥1本頂くゼ」
そこを狙い、エリューナクがキメラの足へと銃弾を放つ。これまでにも集中して攻撃されていたキメラの足はついに限界を迎え、地面へと崩れ落ちた。
こうなると後は狩られるのみだ。キメラは牙を振り回し抵抗を試みるが、まともに動けない状態での攻撃が当たる筈もない。
「や、さすがに皆さん手際がいいですねぇ‥‥」
手際に感心しつつも、レイドは仕留めるべく二丁の銃を撃つ。ラウルも木の上から射続けており、キメラはすでに虫の息だ。
「甘い‥‥甘いゼッ」
「あは、肉塊にしちゃわないように気をつけないとね?」
最後は、後で食べるからやりすぎないようにと注意された、エリューナクとミカエルの同時攻撃でキメラは息絶えた。
一方、B班の面々もキメラを発見し、迎撃の態勢を整えていた。
「‥‥ん。一気に。行く。先制攻撃」
そう言いつつ、憐が一瞬の内にキメラとの距離を詰め、薙ぎ払う。大鎌を振るう事で発される音色が、キメラの悲鳴と重なった。
相手の勢いも利用しての一撃は強力であったが、能力者の攻撃はこれで終わりではない。
ゴールドラッシュのソニックブームと、舞やブロントの銃弾が容赦なく襲いかかる。それでもキメラは突き進むが、やはりゴールドラッシュや舞は軽々と避ける。
「猪突猛進とは良く言ったものよね‥‥」
ゴールドラッシュが体勢を直し、振り返るとキメラを待ち構えるブロントの姿が映った。その手には、瞬く間に二丁拳銃から持ち替えた、二本の刀。
「来い、化け物。迂闊に飛び掛ったのが運の尽きだ!」
カウンターとなる一撃でキメラは大きく体勢を崩し、倒れ込む。そこに、舞が容赦なく銃弾を浴びせる。
「このブタがッ!」
猪は豚に近い存在なので、一応間違ってはいないだろう。キメラはなんとか立ち上がり、再び能力者達を見据える。が、
「ブタのくせに生意気ねっ」
そこに舞の銃弾がもう一発。それでもまだキメラは抵抗しようと動く。
「‥‥元気なブタね」
更に追い打ちでもう一発。続けてゴールドラッシュのソニックブームがキメラを弾き飛ばした。
流石のキメラもここまで痛めつけられれば逃げ出したくもなるだろう。能力者達に背を向けて走りだろうとする、が、そうはさせないと憐がキメラの正面へと回り込んでいた。
「‥‥ん。これで。確保完了」
「斬らせてもらうぞ!!」
背後から斬りかかるブロントと憐の一撃が重なり、今度こそキメラは崩れ落ちた。
その後、能力者達は捜索を続け、A班とB班が更にそれぞれ一体ずつ倒し、計四体を倒した所で山の全域の捜索が終了した。
となれば、後はお楽しみの時間である。
倒したキメラの肉を食べる為の下ごしらえをしているラウルの横で、憐は今か今かと待ち続ける。憐の横には、丸焼きにする為の道具が並べられている。
「‥‥ん。こんな事も。あろうかと。猪。丸焼きセットを。用意して来た」
そんな憐を、ミカエルは珍しい物でも見ているかの様に眺めていた。
普通ならばキメラを食べようと言う者はそんなに多くないだろう。だが、ここに居るのは傭兵の集団。この集団に関して言えば、食べようと言う者が大多数なのだ。
「‥‥ん。飯ごうを。持参した。米もある。猪丼」
軽く頭を悩ませるミカエルを余所に、着々と準備は進む。既に下ごしらえが済み、丸焼きにする為火にかけられてくるくると回っているキメラもある。
「結構キメラって美味しいの多いケド、この猪キメラはどーなんだろ?」
焼けたのを確認し、ラウルが憐に尋ねる。憐はと言うと、既に肉にかぶりついていた。余程お腹が空いていたのだろう。
「‥‥ん。癖は。あるけど。おいしい。むしろ。やみつきになる。ただ、足は、だめ」
胴体部分は普通の猪とほぼ同じだが、足は筋張っていておいしくない様である。
しかし、胴体はおいしい。それが分かり、準備も出来あがったので能力者達は一斉に食事に入った。
食費が浮いたと喜ぶ者、おそるおそるや試しに食べてみる者、喜んで食べる者と様々であったが、皆楽しそうに食事をしている。
「ほとんど手こずる相手ではなかったようだな」
「ありがとうございます。ええ、大きな怪我もなく何よりです」
ブロントからコーヒーを受け取ったレイドが受け答える。怪我なく討伐を終えられたからこそ、今この時間を存分に楽しめるのだ。
「‥‥ん。五臓六腑に。染み渡る。感じかも」
憐の幸せそうな表情と食べっぷりが、殊更に印象的だった。