タイトル:孤児院に迫る危機マスター:紅山小太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/10 23:18

●オープニング本文


 町の外れにある小さな孤児院を切り盛りしているのは恰幅の良い女性、ミッシェル・アヴィントン。
 彼女はこの辺りでも有名な資産家だったが、バグアによって親を失った子供達の為にその資産のほとんどを売り払い寄付をし、残った資産を使って今の孤児院を運営していた。
 良く笑い、朗らかなミッシェルは町の人からも親しみを込めてマムと呼ばれ、現在では8人の孤児達と共に生活をしている。


 とある日の午後のこと。ミッシェルは昼食の片付けをしながら、かつてここに住んでいた9人目の孤児の少女をぼんやりと思い出していた。
 エミタ適性を認められた彼女は「傭兵になる!」と家を飛び出したっきり。今どこでどうしているのか・・・・

(「あの子なら大丈夫。元気にやっている」)

 何度そう自分に言い聞かせてきた事か‥・・ミッシェルは小さく一つ溜息をついて汚れた皿を水に浸ける。


 そんな小さな孤児院に明るい声が響いたのは本当に突然だった。
「マム! みんなー!! ただいま〜」
 懐かしい声が玄関に響く。
「お姉ちゃん!!」
「アンナ姉ちゃんが帰ってきたっ」
 その声に最初に反応したのはリビングで遊んでいた孤児達。アンナと呼ばれた女性に駆け寄り騒ぎ出す。
 騒ぎに気がついたミッシェルは洗物の手を止め、急いで玄関へと小走りに走った。子供達に囲まれ、嬉しそうな、半分困ったような顔をしているのは間違いなくアノ、家を飛び出して行った少女で・・・・
「まぁ! アンナ‥・・アンナ・・・・おかえりなさい・・・・」
 彼女はアンナを強く抱きしめ、アンナもまたミッシェルを抱き返した。

「マム、今までゴメンなさい。どうしても一人前になるまで戻りたくなくて・・・・」
「いいえ・・・・私は貴方が無事に戻って来てくれて嬉しいわ」
 手を離し、瞳の端に浮かんだ涙をエプロンで拭うミッシェル。彼女の腰に下げられた剣がチラリと目に入り、恐ろしい想像が現実にならなかった事に感謝した。


 その後リビングでささやかな『おかえりパーティ』が開かれた。
 沢山のティーセットがテーブルに並べられ、お菓子も奮発。子供達は大喜び。
「大きくなったねぇ、テッド。ん? 隣の子は初めましてかな?」
「アンナ姉ちゃん見て〜アヤトリ!!」
「凄いじゃない! 出来るようになったんだね。前は糸が絡まって泣いてたのに」
 楽しい談笑はいつまでも続くかに思われた、が・・・・


「キャーッ!!」


 何の前触れも無く、家の外から恐怖に慄く少女の叫び声が響く。突然の事態に緊張が走った。何事かと窓から外を窺う子供達。
「猿だ! 猿がいる」
 小さな手が指差す方向を見れば、白い毛むくじゃらの猿達が小さな少女を追い詰めているではないか。
「キャス・・・・!!」
 青ざめた顔を両手で覆うミッシェル。アンナは急いで玄関に向かいドアを開け放った。
「マザー! 皆を地下室へ!! キャスを連れて私もすぐ行くから」
 そう叫ぶと返事を待たずアンナは少女のもとへと飛び出していった。手には既に抜かれた剣が握られている。

 数秒の間、呆然としていたミッシェルだったが、子供達が不安そうにエプロンを引っ張っている事に気付き我を取り戻した。
「さぁ、皆‥‥地下室へ」
 急いで台所の床、食料庫にもなっている地下室の入り口を持ち上げ子供達を中へ誘導する。
 最後の子供が中に入った所で窓から外を見た。しかしアンナとキャスの姿は無い・・・・「まさか!」と思った瞬間ドアから三つの影が転がりこんで来た。

「二人とも!!」
 ミッシェルの叫びに反応するように台所へと駆けて来るアンナ。腕には少女を抱き、後ろからは白い毛むくじゃらのキメラが。
「マム、早く中へ!」
 アンナは半ば放り投げるように少女をミッシェルに預けると背後の猿に向き直った。
「ULTに連絡して、応援を! 時間くらいなら私でも稼げるから・・・・」
「ダメ、ダメよ! 貴方も早くこちらへ」
 飛びかかってくる猿を押し戻し、アンナが振り返る。
「・・・・私が、何の為に傭兵になったと思ってるの? こんな時の為だよ!」
「大丈夫だから」そう言って安心させるように微笑むと彼女は床の扉を強引に押し閉めた。
「アンナ!!!」

 ミッシェルの声は無情にも扉に遮られ・・・・



「・・・・依頼です。孤児院が数匹の猿型キメラに襲われているとの連絡が入りました。キメラの数は不明。少なくとも室内に1匹。住人は既に地下に非難し、居合わせた傭兵が一人応戦しているようです。
 皆さんには応戦している傭兵を助け、キメラの殲滅と住人の保護をお願いします。もっとも、状況が不明のため傭兵の安否は分からないようですが・・・・」

 書類に視線を落としながら若いオペレーターが淡々と依頼内容を告げた。
「では、頑張って」
 ポンッと手渡された資料に目を通しつつ貴方が横目でオペレーターを見やると、彼女は既に別の仕事に取りかかっていた。果たしてこの人物に感情があるのか・・・・時々おかしくはあるけども。
 まぁ、それを考える時は今ではないだろう。貴方は軽く頭を振り資料を手に歩き出した。

●参加者一覧

ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
シエラ・フルフレンド(ga5622
16歳・♀・SN
草壁 賢之(ga7033
22歳・♂・GP
リオン=ヴァルツァー(ga8388
12歳・♂・EP
神無月 るな(ga9580
16歳・♀・SN
水雲 紫(gb0709
20歳・♀・GD
ユイス=ネイビア(gb2576
14歳・♀・DF

●リプレイ本文

●それぞれの思い

 今回の依頼。孤児院を襲ったキメラ。居合わせた駆け出しの傭兵‥‥アンナ。


「勘弁してくれ‥‥敵の数は不明なのに居合わせた傭兵は一人‥‥あぁ〜心配でやきもきするなぁ」
 そう言って、まるでヤキモキを体現するように頭を掻いているのは草壁 賢之(ga7033)。
「草壁さん、焦りは禁物なのです。お茶飲みますか?」
 シエラ・フルフレンド(ga5622)が空気を少しでも和らげようと賢之に紅茶の入ったポットを見せる。


「孤児院の人達無事だといいな‥‥うん、絶対助けないと!」
 一方、ユイス=ネイビア(gb2576)は(「足手まといになるかもしれない」)という不安を払拭するように両の拳を胸の前でムンッと握った。
「えぇ。視えないけれどそこに在るもの‥‥護ってあげませんとね」
「ただでさえこんな世の中だ、更に悲しみを増やしちゃならねぇよな。必ず、皆助けてみせる‥‥!」
 狐の面をつけた一風変わった雰囲気の水雲 紫(gb0709)と蓮沼千影(ga4090)がユイスに応える。
 絆を守る事‥‥それは皆を無事再会させること。紫は千影の言葉に頷きつつ手にした扇子を口元にあて窓に頭を預けた。


 依頼を受けた者の中にはアンナの境遇と自分の境遇を重ねる傭兵達もいる。
 ゼラス(ga2924)、リオン=ヴァルツァー(ga8388)、神無月 るな(ga9580)の三人だ。
 同じ孤児院出身だからこそ分かる。『家族』の大切さ。ゼラスは親代わりの神父から譲り受けたマフラーを一撫でし、リオンもまた自身の育った施設に思いを馳せ、るなは祈るように目を閉じ手を組んだ。
(「アンナさん‥‥無理しないでいて下さい。絶対に助けますから!」)


 やがて移動艇が目的地に到着する。

「うしッ。猿猴捉月、その身に教えてやるとしますかッ」
 気合一発、左手に右の拳を打ちつけ賢之。
「急ごう‥‥手おくれになんか、絶対に、させない‥‥!」
 そしてリオンの言葉に全員が頷いた。


●アンナ救出
 孤児院内の台所にゼィハァと荒い息遣いが響く。アンナの足元には胸を突かれた猿の死骸が一匹。右腕を犠牲にしてようやく倒すことができた猿だ。
(「‥‥守るって、決めた。だから」)
戦闘のせいで既に台所はめちゃくちゃだった。盾にした机も破壊され木片が飛び散っている。
「だから、アンタ達になんか負けられないのよ!!」




「効果があるか分からないですが‥‥」
 シエラが持参してきたのはフルーツの入った袋。孤児院の外には猿が2匹。
「ご飯の時間ですよ〜!」
 袋の口をバッと開き、シエラは孤児院と逆方向にソレを勢い良くほうり投げる。

 すると、甘いフルーツの香に猿達が興味を持ったらしい。気が付けば孤児院内からも数匹の猿が飛び出してきたようだ。
「1,2,3‥‥4匹ですか。このまま気付かずにいてくれたら良いのですがね」
 紫が食べ物を争う猿達を見ながら言う。
「気付かれた時はその時です」
 アサルトライフルの銃口を猿に向けつつ、るなが支援班の面々に声をかけ一行は気配を殺しながら全力で走り出した。


 猿達はといえば、よほど腹でもすかしていたのだろう‥‥食べ物の奪い合いに忙しく気付かないようだ。急いでいる彼等にとってとても幸運な事だ。



 無駄な戦闘を避け、一行が建物に到着し千影が玄関扉に手をかけるのと、ゼラスが窓越しにアンナを発見するのとはほぼ同時だった。懸命に剣を振るアンナ‥‥
「ここで守ってやらにゃ何の為に来たんだか‥‥一人前として錦を飾るためにも‥‥突っ込ませてもらうぜ!」
 言うが早いか、ゼラスは窓から室内に飛び込んだ!
 大音響と共にガラスの破片を飛ばしながら、起き上がりざまにガンドルフで猿を薙ぎ払う。
「おい猿ッ! そんなに踊りたけりゃ、俺がお相手してやるよ!」


 ゼラスが窓から飛び込んだ事でアンナの存在に気が付いた千影達はとにかく玄関から台所へ向かおうと扉を開ける。
「待って!」
 その時、探査の目を発動させていたリオンが千影を押しのけ前に出た。
「クッ」
 廊下から突進してきた猿の鉤爪がリオンを襲う。しかし自身障壁で強化された身体には掠り傷程度のダメージ。通用しないと悟った猿はそのまま後ろに飛び退り次の攻撃の機会を窺っているようだ。

「ほーら、そこのお猿っ、こっちに美味い飯があるぜ」
 リビングへと移動した千影が相手を誘い込むように軽い口調で猿を挑発する。
 猿は見事に引っかかり黄色い歯を向き出しにしてリビングへと走りこんで行く。
「待ってました!」と言わんばかりに千影は蛇剋を閃かせた。豪破斬撃で威力を高められた刃は見事に猿の急所にヒット!
 追い討ちをかけるように氷雨と菖蒲の二刀を構えたシエラの太刀が飛ぶ。
「遠距離だけじゃないですよ〜?」
 猿は最後の咆哮を上げる間も無く絶命した。


 台所ではゼラスが猿と対峙していた。
 だが、威嚇するように毛を逆立て歯茎を向き出し飛びかかろうとする猿の背後を鋭いサーベルの一突きが襲う。
「ギャッ」と短い叫びと共に猿がその場に崩れ落ちた。
「良かった。アンナさんは無事ですね‥‥」
 サーベルを引き抜き安堵の溜息をついたのはるなだ。
「貴方達は‥‥」
「ULTからの‥‥応援‥‥間に合って良かった」
 リオンがエマージェンシーキットを取り出しながら微笑む。
「では、一先ずアンナさんの手当ては突入班の方々にお任せして支援班は予定通り2Fへ向かいましょう」
 るなの言葉にユイスが一瞬ビクリと肩を震わせる。それに気付いたのは彼の保護者をしているゼラス。
「ユイスっ! ガチッと決めろよ!」
 励ますように背中を叩かれた。それが嬉しくもあるのだが、若干、反抗期気味であるユイスはつっけんどんに返してしまう。
「ユイスは大丈夫だから!! ゼラスはあっち」



●孤児院安全確保

 2Fへと上がる階段を支援班の面々はユイスを先頭にして慎重に上っていった。
(「怖くない‥‥怖くない‥‥怖くない!」)
 必死に自分に言い聞かせる。
 階段の上はどうやらそのままベッドルームになっているようだ。
「‥‥物音?」
 賢之が何か異変に気付いたらしい。紫も気付いたようだ。
「敵です! 2匹‥‥気をつけて!」
 声があがると同時に隠れていた猿が先頭のユイスに向かって体当たりを仕掛けてきた。
「うわわっ」
 だが、事前に危険を察知していたため上手く受け流しそのまま斧で切り返す。
 深手を負った猿にるなの止め。
 もう一匹の猿は傭兵達の勢いに押され窓を突き破って外へと逃げ出してしまったようだ。

「2Fにはもうキメラはいないようです」
 紫に同意した賢之が無線機で突入班に連絡を入れる。
『2F制圧完了』

「それでは合流しましょう。お猿さん達が、そろそろ食事に飽きたようですよ」
 るなが緊張した面持ちで窓の外を見ている‥‥視線の先には争いを止めた猿達が孤児院の入り口を取り囲むようにゆっくりと移動しているのが映った。



 アンナの手当てを終えた突入班はちょっとした問題に直面していた。
「まだ戦える! 私も行く!!」
 地下室で皆と一緒に待機していて欲しいという提案にアンナが真っ向から食い下がっているのだ。
「ここに、残って‥‥地下室を守る事も‥‥必要。僕、も‥‥残って守る」
「皆を安心させるのはアンナの姿を見せることが一番なんだ」
 リオンと千影の説得に「う〜んっ」と考え込んでいたアンナ。
「頼んだぜ?」
 そう微笑みながら言う千影の言葉がダメ押しだった。彼女はしぶしぶ了承し地下室の扉を開け中へ入っていく。

「アンナ!!」
「アンナ姉ちゃんっ」

 地下から口々にアンナの名前を呼ぶ声があがる。
「マム、ULTから応援が来てくれたよ。皆もう大丈夫だからね」
 傷を心配するミッシェルと子供達を安心させるように穏やかな笑顔で話しかけるアンナと、やり取りに胸を撫で下ろす突入班。


「チッ、猿がこっちに気付きやがった」
 外を警戒していたゼラスが声を掛ける。階段から降りてきたるな達も緊張した面持ちだ。
「キメラが孤児院を囲もうとしています。その前に倒してしまいましょう」
 それぞれが返事を返す中、地下の子供たちが不安げにざわついた。
「安心して下さい。ここは私とリオンさんと‥‥」
「アンナ、が‥‥守るから」
 名を呼ばれたアンナが力強く頷いた。そんなアンナに、
「これをどうぞっ♪」
 と、シエラが紅茶のポットとサンドイッチの袋を手渡した。
「子供たちにあげて下さいです」
「‥‥有難う」
 袋を受け取り気遣いに微笑むアンナ。

「よーし、いっちょやりますか」
「一家団欒を邪魔する奴ぁ‥‥爪に裂かれて地獄に飛べ!」
 リオン、紫を護衛に残し、賢之とゼラスの掛け声と共に傭兵達は外へと飛び出して行った。


●屋外の攻防

 傭兵達が飛び出して行った先には怒りと獰猛な衝動に目を赤くギラつかせ獲物を狙う猿達が待ち構えていた。
 一匹が捉えたのはユイス。猿の両腕が異様に盛り上がったかと思うと物凄い勢いで突進。両手の鉤爪を振り回す!
「お姉さんは約束を守るもの。その手助けをするのもユイスの仕事!」
 ユイスは「こんなの痛くない!」とばかりに歯を食いしばり耐える。
「猿っ! うちの子に何してくれてんだっ‥‥踊り狂って裂き飛べ!」
 反撃をくらわせたのは保護者であるゼラスだ。すり抜けざまに爪で猿の腹を裂き、後ろのユイスに止めを刺せと目配せする。
 返事の代わりに斧を勢いよく振り下ろすユイス。渾身の一撃は確実に猿の脳天を割った。


「援護、頼むぜっ!」
「ふふ‥‥お任せ下さい」
 ユイスとゼラスの隣では別の猿を相手する千影とるな。
 蛍火に持ち替えた千影が猿の懐に入り込み一撃を見舞う。
「もういっちょっ!!」
 さらに一撃‥‥だが猿は間一髪、背後に飛び退り千影に体当たりをくらわせようと態勢を低くした、所へ‥‥
「そうはいきませんよ?」
 るなの構えたアサルトライフルから銃弾が乱れ飛び、猿の頭を吹き飛ばした。


 残る猿は3匹。勝てないと踏んだのだろうか、猿達はジリジリと後退し逃げる機会を窺っているように見える。
「逃がさないですよ〜♪」
 およそ戦闘には似つかわしくない明るい声でシエラが退路を絶つ様に銃を乱射。猿達の足を止め、且つ、賢之が狙う猿の腹に正確にヒットさせる。
「草壁さん、チャンスですっ! いっちゃいましょ〜っ♪」
「ナイスアシストっ!」
 隙を逃さず賢之の銃弾が猿めがけて飛ぶ。スキルフルコースの弾の威力は絶大だ。
「うしッ、シエラさん、次々ーッ!」
 続いて2匹目の猿も撃破。しかし仲間がやられているのに乗じて1匹の猿があろう事か孤児院へ向かって逃走。気付いた時には猿はゼラスの割った窓から台所へ侵入していた。


 だが、猿を待っていたのは紫の盾扇だった。
「ここに貴方の居場所はありゃしませんよ! 捌いて‥‥廻す! リオンさん!」
「‥‥ッ!!」
 紫の合図に合わせ、リオンの攻撃がふらつく猿を捉る。
 苦痛と悶絶の咆哮の後、やがて猿は静かになった。



●孤児院の母
「おーぃ、賢之! そこの道具とってくれないか?」
「分かりました〜」

 トンテンカンと孤児院に響く音はゼラスが持ち込んだ工具セットで孤児院を補修する音だ。
「すみません。助けていただいた上に‥‥皆さん少し休憩して下さい。お茶にしましょう」
 そう言うのは他でもないミッシェル。今できる精一杯のもてなしを用意したレジャーシートにミッシェルはにこやかに手招きする。
 お茶の準備を手伝っていた子供達も一緒においでおいでをしていた。


 しばし賑やかな時間が流れた。

「ほらよ」
 っと、ゼラスが近くの子供に手渡したのは木で作った玩具。補修作業の合間をぬって子供達の為に作ったのだ。
「うわぁ〜凄い!」「僕にも貸して〜」
「おぃ、まだ作ってやるから喧嘩するなよ〜」
 かなりの反響にゼラスも満足そうだ。

 シートの隅で風に任せてクルクルと何かを回している紫の周りには女の子が二人。彼女のお面に初めは抵抗の素振りを見せた子供達だったが、手にしたモノに興味を惹かれたらしい。
「クルクル回るでしょ? 風車は、風が無いと回らない。風が一番大事。そう、君が風車なら、お母さんは風って所かな?」
 そんな子供達に気付いてか紫は振り向かずに風車を眺めたまま応える。いつの間にか子供達は紫の隣にちょこんと座り一緒になって楽しげに風車を眺めていた。


「この子達の未来が明るく幸せになりますように‥‥」
 楽しげな孤児達の様子に微笑みつつるなが呟く。
「皆の幸せ、願ってくれてるんだ? でもうちのマムならこう言うよ『貴女にも幸せになって欲しい』って」
 声を掛けたのはアンナだ。るなの隣に腰をおろし微笑む。
「‥‥素敵な、お母様ですね」
「へへっ♪」
 ニッと笑うアンナに釣られてるなも笑顔を作る。そこへシャツを腕まくりした千影がやってきた。
「アンナ! 今日はよくやったな。この修羅場をくぐったんだ。立派な能力者だぜ」
 千影の言葉にアンナは一瞬照れくさそうに頬を掻いたものの、
「うぅん。ほんとまだまだだって、思い知ったよ‥‥もっと強くならないと」
「ま、そう気負うなって」
 沈みそうになるアンナの頭をクシャリと軽く撫で、千影が微笑んだ。
「ん、ちょっとずつ‥‥頑張るよ」
 明るさを取り戻したアンナは立ち上がり近くにいた子供達の輪に入る。まるで誓いを再確認するように。


 シエラと共にお茶を入れ配っていたミッシェル。そんな彼女をジィ〜ッと見つめる少年が一人‥‥ユイスだ。
 視線に気付きミッシェルがユイスを見つめ返す。するとユイスは顔を赤らめ視線を泳がした。どうやら彼女の姿に自分の両親を重ねていたらしい。
「どうかした?」
 声を掛けられますます慌てるユイス。
「あの、あの‥‥なぜ孤児院を?」
 たどたどしい質問に優しい笑みをたたえながらミッシェルは応えた。
「そうねぇ。自分にできる事があるのに、何もしないなんて嫌だったの」
 言いながらユイスの髪を一撫で。
「あの、あの‥‥これからも‥‥ここでお母さん‥‥してるんです、か?」
「えぇ。これからも、ずっと‥‥私はここにいるわ」
 懐かしい母の感覚にユイスの高ぶっていた感情が決壊してしまう。
「ユイス、強くなる‥‥もっと‥‥自分に自信が持てるぐらい‥‥絶対にっ!」
 ミッシェルに抱きつき泣きじゃくるユイス。そんな彼をミッシェルは他の孤児達と同様、自分の子供のように愛おしげに抱き返した。
「‥‥えっと。僕も‥‥『マム』って、呼んでも、いい‥‥かな‥‥?」
 そんな温もり溢れるミッシェルに対し、リオンがおずおずと言う。
「もちろん。どうぞ呼んでちょうだい」
 彼女はユイスと一緒にリオンも抱きしめた。ありったけの愛情を込めて‥‥



 やがて別れの時間。惜しみながら傭兵達が孤児院を後にする間際、キャスと呼ばれた女の子が全員に花を一輪プレゼントしてくれた。移動艇に向かっていつまでも手をふる子供達。
名も無い小さなピンクの花びらが、感謝の気持ちをいつまでも彼等に伝えていた。