●リプレイ本文
●出発前、とある一室にて
「はーい、みんな〜女装するならちゃんとお化粧しないとね♪」
そう言いながら囮役を志願した男性陣にメイク指導を行っているのは神崎・子虎(
ga0513)。セーラー服に身を包み、コサージュで可愛らしく着飾っているがれっきとした男の子である。
「なぁなぁ、どうこれ? Fカップ巨乳巫女!」
メイクを済ませた那智・武流(
ga5350)が寄せて上げているのはパッドを詰めるだけ詰め込んだ偽胸。本来ならばセーラー服を着ておびき寄せるところなのだが、支給品に恵まれず巫女服で参戦する事にしたらしい。
「うん。似合ってると思うよ。しかし俺も、セーラー服を自分が着る日が来るとは夢にも思わなかったな」
鏡の前でしみじみと呟くのは大泰司 慈海(
ga0173)。「やっぱり女の子が着てこそ、だよね」と女性陣をチラ見してみる。しかし、そこに映ったのは必死で笑いを堪えている門屋・嬢(
ga8298)と、
「‥‥これは任務です。任務ですが、皆さん‥‥正気ですか?」
何だか遠い所を見ている水無月 魔諭邏(
ga4928)の姿だった。
「ん? そういえばもう一人はどうしたんだ?」
一、二、三‥‥七と人数を指折り数えていた九条・縁(
ga8248)が首を傾げる。その時、
バンッ!
と音がして部屋の扉が開いた。
「すまない。遅くなった」
現れたのはエルガ・グラハム(
ga4953)。今回、唯一男装して任務にあたる女性は髪をひっつめ愛用のジャージを身にまとい、その姿は男そのもの。男臭まで漂わせる様は見事‥‥ん? いや、臭う‥‥確実に臭うぞ! 何だこれは?!
皆がフンフンと鼻をひくつかせる中、エルガは仲間にこやかな笑顔を向ける。
「あぁ、長靴の中に納豆をちょっとな」
この瞬間、部屋の空気が凍りついたのは言うまでも無い。
「いやはや、ほんと〜に世の中いろんな人がいるもんですね〜世間様は広いな〜」
仲間達の愉快なやりとりを眺めていたケイン・ノリト(
ga4461)が溜息混じりに呟いた。
「皆さん楽しそうですが、当初の目的を忘れちゃいけませんよ〜‥‥あ、鼻緒が」
いや〜な予感が過ぎったが、見なかった事にする。ちゃんと履き替えたけど。
●ヘン○イ捕獲作戦!
準備万端整えた一行は夜の帳がおりた頃、セーラー服のオッサンが出没するという公園へと移動した。襲撃の噂が広がっているのか夜の公園は人気が全く無い。人に見られる心配も特段に無いという事で、囮組みは颯爽と思い思いの場所へとちらばり、捕獲班は茂みやら何やらの影に身を潜めた。
ジィ〜とオッサンを待つこと30分。
「お嬢ちゃん、こんな時間に一人で危ないではないか。早く家に帰らんと親御さんが心配するじゃろう」
「えっと、ごめんね。事情があっ‥‥て‥‥」
初めにソレと遭遇したのは子虎。後ろから声を掛けられ振り返った先、優しそうな普通のおじ様予想は大ハズレ。筋骨隆々の角刈りオッサンが目の前に! 勿論セーラー服だぞ☆
「あ、現れたね! セーラー服着るのはいいけど、僕みたいな可愛い子が着てこそのセーラー服だよ!! 似合ってないとダメなのっ」
作戦の為、常に手に持っていた手鏡をビシッと突き出しオッサンの顔を映す。瞬間、オッサンの動きが止まった。
「大丈夫、もっと綺麗になればいいんだから。僕が教えてあげるよ」
オッサンに向けてニッコリと笑顔を作る子虎。これで時間稼ぎはバッチリだ! と思ったのだが‥‥
「うむ! わしは今日もいい男じゃっ」
キラーンと爽やかな笑顔を鏡に作り、オッサンは豪快に笑い出した。どうやら小さな鏡では足止め効果は低いらしい。
「何を言っているのか分からんが、子供にも様々にあるのじゃろうな。じゃが、あまり遅くなるではないぞ」
オッサンはニッと白い歯を見せ、子虎の頭をワシャと撫でると去って行ってしまった。案外いいオッサンなのに‥‥セーラー服じゃなければ。と、ふと思ったが、取り逃がしてしまった事を思い出し仲間に慌ててオッサン出現の合図を送る。
次に遭遇したのは電話BOX前に佇んでいた慈海。
噴水の向こう側が慌しい。オッサン、ついに現れたか! と思ったときだ。
「もし、そこの御仁。主もセーラー服の素晴らしさに目覚めた同志か?」
突然ぬっと現れたごっつい制服姿のオッサンに目が点になる。(「あれ? 向こう側じゃなかったの?」)そんな事を思っているうち両肩をガシッと掴まれ、
「うぅっ、わしは嬉しい。今までわしの考えを理解してくれる者はおらなんだが、そうかそうか。やはり分かる者はおるのじゃ〜」
「いや、別にセーラー服に目覚めたわけじゃ‥‥って、ちょ‥‥離してっ」
気がつけばヒシッと抱きつかれオッサンはウォンウォンと泣き出している。慈海は一つ大きく溜息をつき、オッサンの背中をさすってなだめ始めた。
「オジサン、落ち着いて。最近ここらで男にセーラー服着せてるのって貴方だよね? 何でそんな事するの?」
鼻をすすってオッサンが答えた。
「なんじゃ、お主はこの性能に目をつけて着ているわけではないのか。防御、抵抗共に10。なかなか魅力的なモノじゃよ。しかし‥‥」
「逃がさないよ! オッサン!! くらえ納豆長靴っ!!!!」
話しを遮るようにビュンッと風を切り飛んできたのは怪しげな糸を引く長靴‥‥
投げたのは勿論エルガ。その隣には嬢の姿も。
「危ないっ」
大きな声と共に慈海がドンッと突き飛ばされた。オッサンが庇ったのだ。的を失った長靴はベシャッと嫌な音を立てて地面に激突し茶色い豆がドロリと散乱した。
「‥‥セーラー服着たオッサンが二人で抱き合ってると目立ってしょうがないね」
一生懸命笑いを堪えているが顔が引きつっている嬢とブバッと服を脱ぎ捨てムキムキビキニ姿でポーズを決めるエルガ。
「なんじゃお主等は」
身構えるオッサン。
「あんたこそ、男を襲ってセーラー服着せてるなんてどういう了見だい」
「そうよ! 美しいバディを隠すなんて邪道よーっ!」
エルガの鍛え抜かれた腹筋が割れる。ナイス・バディ。
「あーぁ。こうなったら仕方がないな。話しは捕まえた後、かな」
突き飛ばされた慈海が立ち上がり頭を掻く。その言葉に目を丸くしたのはオッサンだった。
「何と! 同志かと思えば‥‥そうか、罠じゃったというわけじゃな」
あきらかに肩を落とし落胆した様子。
「ごめんね、おじさん。俺達UPCから頼まれたんだ」
「‥‥じゃが、志半ばで捕まるわけにはいかんっ!」
逃げ出そうと走り出すオッサンの行く手を二つの影が阻んだ。
「オッサン、すとーーっぷ! あんたがセーラー服なら俺は巫女服で勝負だー!!」
「‥‥武流様、それでは本末転倒ですわ」
どうやら囮班、拘束班、共に仲間が続々と集まって来たらしい。何とか包囲網を抜け出そうとオッサンは高く跳躍し電話BOXの上に飛び乗った。
ひらりと舞うスカート。
「見えたっ! ‥‥ピチピチビキニパンツ」
反射的に見上げてしまった武流はこの時30年分くらい後悔した。
電話BOXを利用し反対側へと降り立ったオッサン。だがこれで逃げられるほど甘くはない。
「さっきは逃げられたけど、今度は捕まえちゃうよ!」
「貴様は間違っている! 紳士道とは他人の嫌がることを進んでする事ではなーい!!」
その先には子虎と鼻息荒く紳士力オーラフルスロットルの縁、そして‥‥
「ん〜このまま大人しく捕まっちゃくれませんかね〜」
のんびりとオッサンに声を掛けるノリトが。
八方逃げ道を塞がれたオッサンはどうやら観念したらしい。UPCからの依頼となればここにいる人間はみな能力者。いかに彼が早さに自信があるといっても八人相手では勝ち目は無い。
「好きにせい、もう逃げも隠れもせんわい」
抵抗する様子も無く、言われるがままに噴水の前まで移動した。
●お説教
一息ついた一行はとりあえずオッサンを尋問する。
「あんたさぁ、何で男にセーラー服着せようなんてことやったワケ? 女装仲間が欲しいなら、あたしの知ってるサイト教えてあげようか?」
嬢の提案にオッサンは軽く首を振る。どうやら女装趣味というわけでは無いようだ。
「わしはケイン・ヴァルシュナーという。以前はセーラー服を敬遠していたが、この服の性能がショップに並んでいる物にも引けを取らんことに気付いた時、考えが変わってな」
「ですが、それが女性用であることはご存知ですわね? いい殿方が『漢の道』を踏み外すとは何て情けない! 破廉恥極まります!! 不潔です!!!」
魔諭邏は物凄い剣幕だ。
「俺、アイツの後ろに黒いモノが見えるんだけど」
「気のせいじゃないと思うよ」
目で会話する縁と慈海。そんな仲間も押される魔諭邏のお説教もどこ吹く風。
「ん? スカートが問題という事か? 何を言うか、男がスカートを履くのは別段恥ずかしい事ではないぞ。スコットランドでは男のスカートは珍しくない。‥‥要するに今男のスカートが恥ずべきとされているのは習慣の問題じゃ。着る人間が増えればそれが当たり前になるじゃろうて」
熱っぽく語るケイン。毎日受け取る支給品で心の何かが外れたらしい。
「はぁ。ちょっと、眩暈がしてきました‥‥」
オッサンの考えと更に同名だと知ったショックからノリトが額をおさえる。
「オッサン、あんたがセーラー服スキーなら、俺は巫女服スキーだ! 日本男児は巫女さんが大好きで、巫女服を他人に着せたがるほどだ。そう、あんたのように」
「なんと日本ではそうなのか。それは巫女服がよほど機能的だという事だろう。わしはそんな日本男児を否定せんよ」
武流の服装を上から下まで眺め、感心したように微笑まれてしまう。
「え、あの‥‥ありがとう?」
「ちょっと武流様! 間違った事を教えないで下さいましっ」
「ゴメンナサイ」
素直に謝った。だって勝てそうもないんだもの。
「そもそもさ、セーラー服仲間が欲しいからって無理やりはよくないでしょ。ちゃんとセーラー服のよさをわかって貰うようにしなくちゃ。でないと真のセーラー服マスターとは言わないね!」
「そうだぞ、オッサン。紳士たる者、啓蒙活動を行う事は否定しない! しかし強制は許されない! 厭くまで相手の意志を尊重し、自らの判断で選択させる。これこそが紳士の道! 否! 人の道!」
ビシッと人差し指をつき付ける子虎と縁。それにはケインは寂しそうな目で応えた。
「‥‥誰も、着てくれなかったからじゃ。わしとて手荒な真似はしたくなかったが‥‥説明しても耳を傾けてもらえず、ヘン○イだの何だと。それでついカッとなってな」
えらく反省している。この件に関しては多少の罪悪感はあったようだ。その様子にノリトが顔を上げ、腕組みをするとケインに話す。
「だからといって、無理やり着せるのはやりすぎでしたね〜」
「そうじゃな。面目ない」
どうやら傭兵達の説得で冷静さを取り戻して来たようだ。
「ん〜反省もしているようだし。ついでにセーラー服は脱がないの? 確かに動きやすくはあるけど、やっぱり下からの攻撃は‥‥ねぇ」
風に慈海のスカートの裾が舞う。いや、見えなかったけどNE!
「生憎と、わしにはこれしか無いのでな。支給されるのは毎日セーラー服ばかりなのじゃ」
この告白には驚きだ。嫌がらせとしか思えない、が彼がそれほどセーラー服運が強いということなのだろう。
「よし、じゃあ俺が御祓いしてやるよ! これでも立派に宮司資格持ってんだぜ」
わさっと取りいだしたるは大麻。ケインを正座させ、背後からバサバサと振り始める武流。
「俺の祝詞を聞けーーーぇぃ!!」
最先不安になる掛け声だが、祝詞はいたって真面目だった。
「おおっ、紳士力に勝るとも劣らぬ巫女パワー」
「あはははっ、何この光景、笑い死にしそうなんだけどっ」
その様子に縁はひたすらに関心し、嬢は涙を浮かべながら爆笑した。それもそうだろう。正座しているのはセーラー服のオッサン。御祓いしてるのは女装巨乳巫女。回りを囲んでいる一部メンバーを見ても、親子連れが通りかかったら「見ちゃいけませんっ」的なリアクションされる事は必至。でも、これも立派な任務なんです。
武流の御祓いも終わり、締めるのはやっぱりこの人。引率のおっさ‥‥じゃなかった、ノリト氏。
「彼の御祓いできっと次からは違う物が支給されますよ。ですから、こんなバカげた事はもう止めにして下さいね〜。もっとも、服装に関しては趣味というなら私は何もいいませんがね」
懐に片手を突っ込みながら返事を待つ。
「‥‥ああ。無理やり着せた事は本当に申し訳なかった。もうせぬよ。服は‥‥しゅ、趣味ではないぞ! 他のものが出れば着替えるつもりじゃ」
「そうですか」
懐から片手を外す。その表情は微笑んではいたが、ちょっと残念そうだったかもしれない。ここで拒まれたら心置きなく照明銃をぶっ放す予定だったものを。
その時、ケインの肩をポンッと叩く人物が。‥‥エルガだ。
「セーラー服ばかりが支給される。逆に考えるんだ。きっと、それで商売しろという事だったんだ。売って資金にしろ、幸いにしてソレを欲しがる奴はたくさんいる」
そう言って周囲を見渡す。見渡された方は困惑顔。別に欲しがって無いぞ!
「私も、もう悪さはせず、その服もお脱ぎになるという事でしたら‥‥」
頬に手を当てながら魔諭邏。
しばしの話し合いの結果、ケインはUPCには引き渡しはしないという事に決まった。
ケインは何度も何度も傭兵達にお礼を言い、その場を去って行った。次の日の支給品で彼は初めてジャージを貰う事になる。涙ながらにジャージを着るケイン。実はノリトがこっそりショップに頼みこんでいたというのは、LHちょっと良い話100選。
それからセーラー服のオッサン襲撃の話しはぴたっと止まった。
世界の平和はまずご近所から! だよね!