タイトル:枯れ逝く前にマスター:久米成幸

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/30 17:21

●オープニング本文


 支配地域にある寂れた村の奥に佇む茅葺の小屋の中で、脇に痩せた犬を侍らせた男は、脂ぎった顔に精一杯の卑屈な笑みを浮かべながら、無線機に向かって愛想を振り向いていた。
 彼は、人身売買に手を染めたり、都市に地雷を配置したり、古い文献を盗み出したりと、悪行の限りを人類に対して尽くしてきた親バグア派組織の長で、名を伊楊という。
 彼の胡麻摺りの相手は、陰惨残虐を極めたアジア・オセアニアの総司令官のジャッキー・ウォンであった。
 しかし、ジャッキーは伊楊の話を聞くどころか、へまばかりの伊楊はおろか伊楊の小さな組織にもその活動にも興味の欠片も抱いてはおらず、能面のような顔を無数のモニタに向けて何事かを考え続けている。
 伊楊の声は鈴虫の鳴き声に等しかった。

 けれども「実は今、マタンゴという非常に邪魔臭い組織に嫌がらせをしていまして」との伊楊の言葉に、初めてジャッキーは反応を見せた。嫌がらせという言葉に反応をしたのか、細い目を心持ち開いて、無線機に顔を向ける。
「マタンゴというのはジャッキー様のお耳に入れることもない小さな組織ではありますが、私は現在そこで重職に就いていましてね、情報が筒抜けなので今回は失敗をする恐れがないかと存じます」
 ジャッキーが声を返す前に伊楊は勝手に組織についての説明を開始したが、やはり露ほどの興味も湧かない。
 伊楊はジャッキーの心情を察したのか、唐突に口を閉ざし
「つまりはその組織を相手にするために、強力なキメラをお借りできないかと」
 ジャッキーは無表情のまま「いいでしょう」とだけ返した。


 ――貴方の大切な気持ちを危険地域に届けます、が売りであるマタンゴ郵政公社には、その広大な配達地域を僅かな配達員で担うため、各地に営業所を所持して業務の効率化を図っている。
 が、洗脳や威圧によって危険地域にある集落を統治する親バグア派の組織や、場所を問わずに殺戮を欲しいがままにするキメラの群れによって、その営業所が活動停止にまで破壊されることは少なくなかった。
 しかしせいぜい月に一度、多くても半壊が二箇所というのが常であったのに、近頃は十日も置かずに、修繕の無意味なほどにまで営業所の破壊されることが頻発し、次第にマタンゴは活動の縮小を余儀なくされていった。

「どうするのかと母に聞かれた」
 薄暗い本社の食堂で、盛田盛夫が口を開いた。母とはマタンゴの社長の木野子である。
 盛田は一介の配達員ながら血筋の関係で、重要な案件にも関わることを許される存在であった。
 こうして公然と公私混同をして平然としているのも、木野子社長が批判される原因のひとつではあったけれども、そのおかげでマタンゴ自体が潰れずに済んでいるのは事実である。
「反撃に打って出るにしても、相手の組織の実態さえ未だつかめていないですよね」
 これはぼいんだ。非能力者だが、すでに五年も危険地域を渡り歩いている剛勇の女配達員で、彼女と古川一樹(gz0173)と盛田との三人は気の置けない仲であり、盛田の相談相手でもある。
「調査については新人の井上パーマに任せてはいるが、まあじきに知れるだろう」

 ぼいんは、パーマですか、がさつな面はありますが、と呟いてから話題を変えた。
「先のことよりも目先のことです。こう営業所が潰されては、通常の配達も満足にできません」
「それは」と盛田は古川を振り向いて「ULTに頼むしかないな」
「そうですね。毎度毎度手伝ってもらうのは心苦しい限りですが、代案は浮かびません」
 この時点では、黒幕の存在はもとより、敵方の明確な目的さえ定かでない。
 できることは反撃などではなく、日々の業務をできるだけ普段どおりに続けることのみだった。
 古川は無感情に答えながら、疲弊した体を引きずるようにして立ち上がった。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
水無月 湧輝(gb4056
23歳・♂・HA
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
長門修也(gb5202
15歳・♂・FC
ソリス(gb6908
15歳・♀・PN
アーヴァス・レイン(gb6961
23歳・♂・FC
流月 翔子(gb8970
20歳・♀・SN

●リプレイ本文

 集合地点の営業所は存外に大きな岩石の散乱する入り組んだ丘に建っていた。
 そのまた営業所は塗装の剥げた古めかしい外観をしていて、その真四角な造りは瀟洒とはとてもいえない無骨なものだけれど、頑丈なのは取り柄だろう。
 能力者たちは一息つく間もなく、待機していた配達員二人と営業所に住んで管理や事務を執り行っているという老人とから説明を聞き、大きな配達用の鞄を背負って外に出た。
 渡された地図によると配達区域は広いものの、長い時間を要する以外は特に問題のありそうな場所はない。
 さっそく営業所を出た能力者たちがどれほど進んだときであろう、ヤナギ・エリューナク(gb5107)の無線が唐突に怒声を発し、続いて辰巳 空(ga4698)などの無線から騒々しい物音や爆破音、異様な叫び声が流れ出した。
「ひええ。キメラじゃ、キメラのお出ましじゃあ」

 営業所の壁は崩れ落ち、内部からは悪臭を含んだ煙が立ち昇っている。
 ふいに営業所に開いた大きな穴から飛び出してきた小さな影は待機していたおじいちゃんだ。
 真っ白だった顎鬚は鮮血に染まり、肩で息をしてはいるけれど、どうやら額を僅かに切っただけで済んだらしい。
「遅いじゃないの! もう少しで死ぬところだったんだじょ!」
 怒り狂いながら逃げていくおじいさんに翔流月 翔子(gb8970)が大きく手を振った。
「お待たせー。ここは私たちに任せてください」
「お願いしましゅよ!」叫んで瞬く間に小さくなっていくおじいさんと入れ替わるようにして戻ってきた二台の車両の運転席にはそれぞれ配達員の古川一樹(gz0173)とぼいんとの姿が見えた。
 彼らもおじいちゃんの連絡を受けて戻ってきたらしい。運転席から飛び降りた古川は
「困ったことになりました。ここから十五キロほど離れた営業所も襲われているらしいです」
 どうやらこの営業所が襲われたのは、最近頻発している営業所襲撃の一環であるらしい。
「分かれたほうが得策でしょうか」瞬時に状況を把握して提案する辰巳に「そのほうがよいような気がしますねえ」長門修也(gb5202)が同意を示した。

 本来であればこの場に全員が残ってキメラを排除するのが最善だが、別の営業所が襲われているとあっては別行動をとるしかない。けれどもこの営業所から走り出てきたキメラは五体以上に及ぶ。
 どうするかと首を捻った翔子の耳に「‥‥ん。手榴弾を使う。注意して」最上 憐 (gb0002)の声が届いた。
 すぐに意図を理解して翔子が頷く。「了解です」
 閃光手榴弾に目の眩んだキメラといえども、翔子と長門との二人だけで相手をするのは大変だと見た水無月 湧輝(gb4056)は、目を瞑って閃光手榴弾をやり過ごした後に『影撃ち』と『強弾撃』とで矢を放った。
 強化された矢は一体のキメラの骨盤を破壊し、易々と地面に姿を消した。
 弓取りの翔子が驚いたように湧輝を見遣ると
「ふむ。ここは君たちに任せるとしよう。とはいえただでいくのもなんだ、置き土産くらいは必要だろう」
 湧輝が白い歯を見せて車に乗り込んだ。


 最初に襲われた営業所をAとすると、Aからもっとも近い営業所はCになる。Cはすでに営業所としては機能しておらず資材置き場と化してはいるものの、むしろ代わりのきく営業所よりも重要度は高い。
「間に合うといいんですけど‥‥。と、いけませんね、‥‥また弱気になってます」
 助手席に座るソリス(gb6908)の台詞を聞いて、湧輝が運転席のぼいんに声をかけた。
「多少の揺れは気にするな。重要なのはスピードだからな。目的地が破壊される前に届けてくれよ、配達屋さん」
 ぼいんは力強く顎を引いたものの、前述のようにAの周囲は多くの岩石と深い森とに囲まれており、無茶をすると車が横転しかねない。が、舗装のされていない場所での運転には慣れているのか、ぼいんは小刻みにアクセルを吹かしながら「あと五分で到着してみせます」と請け負った。
 湧輝は小さく頷いて、先ほど用いた弓を超機械に持ち替えた。

 Cの倍近く時間を要するけれども、Bにもマタンゴの配達用の車両が向かっている。
 こちらは急かすもののいない代わりに最上などは後部座席に背を預けて恵方巻の封を開けている。
 助手席の辰巳の視線を受けてか、最上は恵方巻を口に放り込みながら
「‥‥ん。腹ごしらえは。必要」
 ちなみに恵方巻とは恵方を向いて喋らずに食べると幸せの訪れるといわれる縁起のよい寿司だが、最上は無言でもなければ恵方を向いてもいない。彼女の言葉通りに験担ぎのつもりは微塵もなく、純粋に腹が減っただけであろう。
 瞬く間に恵方巻を平らげた最上は運転席の古川に声をかけた。
「‥‥ん。仕事が。終わったら。なにか。食べさせてね」


 Aを手早く決壊させたキメラの集団ではあったが、能力者からすれば他愛のない雑魚にすぎなかった。とにかく脆いのである。それは湧輝の放った矢の一撃に絶命したのを見てもわかる。
 『迅雷』でキメラの集団に飛び込んだ長門は、突き出された腕を掻い潜りながらその場で身を回転させた。『円閃』である。遠心力を利用した一撃の威力は凄まじい。一弾指に二体のキメラが細切れと化した。
 ちなみに長門は年齢の割りに背の低いことを気にするという少年らしい悩みを持つけれど、その剣術の腕前は一流である。武門の生まれというから幼少のころより鍛えられたのであろうか、覚醒をして伸びた背の分、二刀を自在に操って戦う姿は殊更に雄々しく見えた。

 翔子は弓道の跡取りである。その弓の腕前は確かで狙った部位に正確に射続ける姿は弓矢八幡を彷彿とさせる。
 彼女は後方から長門の援護に徹する心持ちであったのかもしれないけれど、『影撃ち』を付与した一撃は地を這うように一直線に伸び、キメラの頭蓋骨を容易く粉砕するに至った。
 あまりに脆いキメラの群れに掃滅は短時間に済んだ。長門は乱れ桜を鞘に
「ここは片付いたか? ならば皆を追いましょうぞ」
 営業所に横付けされていた車両に向かって走り出した。


 Cの建物は懸河を越えたところにぽつりと建っている。西の早瀬を渡らねば崖に阻まれて建物には近づけないため、A同様に交通の便はないものの一応は要塞の役割を果たしているように見える。
 この営業所を襲ったキメラは人型であった。そのまた体は沼の色をしていた。のみならず饐えた臭いさえ発している。肋骨の浮き出た皮しかない胸や妊婦のように膨れた腹は餓鬼を思わせた。

 ぼいんは川の手前で車を停めた。すぐに湧輝が飛び降り、続いてソリス、ヤナギの順に地に足をつけたが、ヤナギは先の依頼で重傷を負っているため積極的に戦闘に加わることはできない。
「‥‥悪いな、お前ら。負担を増やすようなことになっちまってよ」
「気にしないでください。仕方のないことですから」
 ソリスが覚醒をしながら呟き、射程距離まで移動を始めた。
 湧輝も「接近戦は得意じゃないが‥‥、惚れた女の背中くらいは守らないとな」と勢いよく駆け出していく。
 二人を見送るヤナギの煙草を持つ左手に深紅のクロスモチーフが徐々に浮かび上がった。目つきに妖艶の色が浮かび周囲に殺気にも似た異様な空気が流れる。
 覚醒を終えたヤナギは悠々と煙草を口に銜え、二体の餓鬼に向けて弓を引いた。

 打撃に弱そうな餓鬼ではあるけれど、知覚攻撃も苦手にしている様子で、湧輝の超機械は効果が高い。
 ソリスはラブルパイルという奇妙な得物を扱っていて、これは杭を高速で前後させる武器であり、杭自体は射出されないため接近戦でしか使えないが、餓鬼の水脹れの腹を破るには事足りる。
 が、Aでのキメラと比べると餓鬼は存外に丈夫だ。腹などは急所になりうるにもかかわらず、痛みに呻くことなく長い腕の先端のさながら鉄球を思わせる拳を伸ばして反撃を試みた。
 ヤナギは後方で配達員のぼいんを護衛する形をとっていたが、キメラ二体が湧輝とソリスとの戦闘に手一杯で彼女の命が危険にさらされることはないと判断し、痛みを紛らわすように銜えていた煙草を揉み消すと
「ひとつ頑張ってみますかっと」
 そう呟いて前に出、積極的に矢を放ち始めた。

 ソリスと戦っていたキメラは分が悪いと見たのか唐突に背を見せて駆け出した。
 よく考えずともキメラの目的は営業所の破壊である。己より強大な相手にかかずらうことはない。
 だがソリスは『瞬天速』でキメラの前に移動し、突き出された長い腕を掻い潜って杭を撃ち込んだ。
 自分の移動速度とキメラの腕を突き出す速度との加わった凄まじく速い攻撃であったにもかかわらず、ソリスの動体視力や反射神経は尋常でなく、餓鬼の攻撃を瞬時に見切ったのはもちろん反撃まで加えてしまったのである。
 しかし頑丈な体を武器に拳を飛ばし続けるキメラに紙一重の戦いを挑むのは得策でない。
 あわやソリスの端整な顔を肉の塊が捉えようとした途端であった、ヤナギの矢が過たずに餓鬼の肩を貫いたため餓鬼の狙いが逸れソリスの頬を掠めるに止まった。大振りを外したことによる体勢の僅かな傾きがソリスの目を輝かせた。好機である。思わずソリスの口から言葉が洩れた。「‥‥いただきです」
 『急所突き』による杭の乱打に目を貫かれ、続いて喉元を破壊された餓鬼が衝撃に抗えず地面を抉り断末魔のうちに崖を転がり落ちていくのを見てヤナギが口角を吊り上げた。

 湧輝はキメラの攻撃を避けようとしていたが、なかなかに難しい。
「やはりそう簡単には避けられないか。まあ削りあいでは負けないが‥‥」
 彼の言葉を証明するように餓鬼の体にばかり傷が増えていく。
 その上ソリスまでが駆け寄ってきたから、餓鬼は思わず懸河を飛び越えて逃走を図ろうとしたが、跳ねた瞬間にヤナギの矢に脳天を貫かれて無様に落下してしまった。
 負傷しているとは思えないヤナギの働きに負けじと、湧輝が餓鬼に猛然と襲いかかった。


 AとCとを襲っていたキメラが排除されてからしばらくしてBの営業所に車が停まった。
「‥‥ん。見えた。空。いこう。一気に。挟み込む」
 最上の言葉を合図に最上は『瞬天速』辰巳は『瞬速縮地』で円を描くように左右からキメラに接近した。
 Bを襲撃したキメラは一体ではあるが、これこそ伊楊がバグアから借り受けたキメラであった。やはりそれなりの能力は有しているのだろう、高速で近づいてくる辰巳たちにうわばみは胡乱な目を向けただけで微動だにしない。
 いや、確かにうわばみは這い続けている。が、あまりに巨大な体ゆえ酷くおそおそとしているのである。
 
 辰巳は余裕さえ窺えるキメラの腹に『円閃』を叩き込んだ。厚い肉が衝撃を吸収したのか手応えは微妙だが、うわばみの体は大きく左右に揺れた。その揺れをさらに増そうと最上が反対側から『急所突き』を用いる。
 最上の操る巨大な鎌は確実に肉を抉ったが、うわばみは痛みを感じない風に平然と鎌首をもたげた。体の小さな最上を丸呑みできるほどの口を開いたところを見るとようやく反撃に移る気になったらしい。
 が、有能な能力者が二人もいるのだから、とうに邀撃の姿勢をとっていなければならない。時すでに遅く、最上の『急所突き』の連打によりうわばみは反撃をする前に地面にひっくり返ってしまった。

 こうなると俄然能力者の優勢である。もちろんうわばみの太い尾は不利の体勢でも威力は高いから油断は禁物だが、そのような心配は辰巳には不要であろう。反撃を警戒しながら、しかし腰の入った一撃を与え、巨木の倒れるように降ってきた尾を躱すために距離をとり、再び接近して朱鳳を鮮血に濡らす。
 攻撃し放題であるというのにうわばみを倒しきれないのは二人の力不足が原因ではなく、単にうわばみの生命力が尋常でないからだ。どちらかというと攻撃よりも防御に重点を置いたキメラなのに違いない。
 が、Aを守りきった長門と翔子とが現れては、その頑丈な体も意味はない。

 『影撃ち』により死角から次々と飛来する翔子の矢の下を、長門が『迅雷』でうわばみに駆け寄り、
「皆様。助太刀致しますぞ!」
 叫ぶや否や『刹那』に『円閃』を織り交ぜた自慢の二刀流でうわばみの体を滅多切りにし始めた。
「火炎連打の型! てやあああ」
 流れ星のごとく曇天に走る矢に華麗な二刀流、さらには辰巳の冷静で的確な攻撃に最上の怒涛の猛攻と、その中の一人を相手にするのでさえ大変というのに四人同時にかかられては、さすがのうわばみも対処の仕様がない。


 無事に仕事を終えた能力者たちは、迎えの高速移動艇のくるまでに営業所に案内された。先述のようにCは営業としてではなく食料や資材を備蓄している。そのため酒なども保管されているのだった。
 非常食を食べまくる最上の横では、ジュースの缶を手にソリスが配達員となにやら話し込んでいる。
「ただ郵便の配達をしているだけの組織が、なんでここまで狙われるんでしょうね」
「その郵便物が悪いんでしょうね。ただの手紙であってもバグアの力を盾に恐怖で人を押さえつける親バグア派などには不都合でしょうし、私たちは支援物資も運びますから、これもまた都合が悪いんだと思います」
 つまりは目障りな蝿を追い払うための作戦が営業所襲撃なのかもしれない。

 ソリスは小さく頷いて「そういえば」と話題を変えた。
「パーマさんは今もお元気でお仕事されてるんでしょうか?」
 パーマとは名前である。新人の配達員ながら能力者の適正があり、ソリスは新人研修としてマタンゴからULTに出された依頼に参加をして、その際にパーマと会話を交わしている。
「マタンゴ自体がごたごたしていますから楽ではないでしょうが、元気でやっていると聞きます。今は一連の騒動の黒幕を探っているようですが」ぼいんが説明を終えると、パーマだなんて面白い名前ですね、と翔子が微笑んだ。
「面白い名前といえばマタンゴもそうでしょう。茸人間が思い浮かびます」長門がぽつりと呟いた。

 机の反対側では湧輝がヤナギや辰巳と会話をしている。どうやら黒幕の作戦を指摘しているらしい。
「随分とピンポイントに狙ったもんだよな。相手ももう少し考えたほうがいい」
 湧輝の言葉に辰巳が効果的な作戦について話し始めた。
 ヤナギはそんな二人の会話を聞きながら紫煙を燻らせている。


 親バグア派組織のアジトで伊楊は無線機に作戦の失敗を報告していたが、ジャッキー・ウォンはやはり興味がない素振りであった。けれどもジャッキーの貸したキメラが手も足も出ずに地に塗れたことに話が及ぶと
「ほう。特殊な能力のないキメラでは相手になりませんか。もしかすると、よい遊び相手になれるかもしれませんね」
 ジャッキーの意味深長な発言やバグアに気脈を通じる伊楊の存在を考えると、能力者たちの力によりキメラの襲来を無事に凌いだマタンゴの危機は未だ去っていないのかもしれない。一寸の光陰軽んずべからずである。