タイトル:特殊部隊の檻マスター:熊五郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/13 17:24

●オープニング本文


 UPC欧州軍第33SRP連隊E中隊第6小隊――エコー6の八名は、別作戦のために駐在していた前線作戦基地近くの街で起きたキメラ騒ぎの鎮圧を命じられた。別の大きな作戦のために、基地中が絶え間ない喧噪に包まれている時期であり、動けるのは彼らしかいなかった。
 SRP――特殊偵察部隊の略称だが、それは設立当初の目的に過ぎず、特にE中隊における現状はキメラの偵察及び殲滅部隊、といったところだった。無論通常の偵察任務も行うが、そもそもこのご時世に偵察任務と言ったら宇宙人どものところと相場は決まっていた。
『目標確認。ヘイル、どう思う』
「どこからどう見てもMBT級です」
『同感だ』
 そんな背景から、対キメラ戦闘をいくつもこなしてきた彼らは、キメラを見れば概ねの脅威の程を察することができた。それを、彼らは独自に車両に例える。乗用車(Car)、装甲車(AC)、主力戦車(MBT)の三つだ。これは、彼らの兵装によってダメージを与えられるか否かの目安で、キメラの装甲の頑強さで大雑把に区分される。
 乗用車ならば単独での対応が可能。装甲車ならば数名の集中砲火をもって撃破可能。主力戦車ならば諦めろ、とこうなる。
 キメラの攻撃力などを加味しないのは、たとえ乗用車クラスのキメラだろうと、攻撃されればほぼ死ぬからだ。非能力者の部隊に過ぎないSRPにとって、攻撃方法ならばともかく、攻撃力など考察するだけ無駄だった。
 ヘイルは、五階建てビルの屋上から、地上に視線を落としていた。そこを、化け物が歩いてくる。どこからどう見てもサソリ。4トントラックみたいなデカさであることを除けば、サソリだった。
『目がおかしくなりそうだ。誰かあいつの隣にタバコの箱置いてきてくれ』
 ルイスのおしゃべりが始まった。こいつは喋れば喋るほど調子が出てくるヤツだが、ルイスが絶好調になることはない。
「頼んだぞルイス。あの槍みたいな針に貫かれたおまえで、錯覚を防ぐとしよう」
『……冷たいヤツだよおまえは』
 なぜならこうして水を差されるか。
『黙れ』
 隊長に止められるからだ。
『北チーム、準備はいいな』
 八人は大きな十字路を中心に、北四百メートルの道を挟んだビル上に一名ずつ二名、東に四百メートル行くと同じように二名、といった具合で、東西南北それぞれに配置されている。彼らは、キメラが十字路から半径百メートルを越えようとしたときに発砲する。半径百メートルの円が、エコー6が作り出した檻だった。無論、彼らの言うMBTクラスのキメラにダメージを与えることは不可能だが、半径百メートルから出さないことなら、可能だった。
「いつでも」
 二区画先で地獄絵図を作り出したサソリは、悠々と歩いている。ヘイルは三百メートル先のサソリの顔面を照準し、じっと息を凝らした。屋上には縁があり、おまけに地上を狙わなければならない。そのため、姿勢は二脚を縁に立ててのニーリングだった。
 第1小隊の連中が持って行ったせいで、E中隊自慢の重装弾狙撃銃は使えない。運用開始前のものを、中隊長がテストという名目で譲り受けてきたため、E中隊百名余りに八挺しか無い代物だ。そのため、今日の装備は実に有名なM82対物狙撃銃。今まではこれでキメラを倒してきたのだから、まったく問題はないのだが、より強力なものが配備された今は、気がかりには違いなかった。
『始めろ』
 トリガーを引く。Cal.50を撃ち出す轟音が二発鳴り響き、衝撃が肩を貫いた。スコープの中では、サソリが衝撃を受けてもんどり打っている。ダメージは無くとも、五十口径弾二発の衝撃は、それなりの効果をあげた。
 二秒後にもう一発ずつ、ヘイルとイアンはトリガーを引いた。
 痛くはないが、この方角は面倒。そう判断したのか、サソリはその脚でアスファルトを削りながら、ゆっくりと旋回した。
 効果はある。ヘイルは無表情に思った。あとはこれを繰り返せばいい。あの忌々しいキメラを倒せる連中がここに到着するまで。自分たちは、この半径百メートルを死守すればいい。
『プランDは避けたな。上出来だ。あとは守るぞ』
 ちなみにプランDとは、全員が囮になってキメラを引きつけること。
 ――笑えねえよ。
 ヘイルはぼやいて、スコープを覗いた。

●参加者一覧

井筒 珠美(ga0090
28歳・♀・JG
ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
風間 静磨(gb0740
15歳・♂・EP
ヴィンセント・ライザス(gb2625
20歳・♂・ER
五條 朱鳥(gb2964
19歳・♀・DG
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

●高速艇
 八人は機内で現場の航空写真と地図を穴が開くほどに見つめ、その詳細を記憶した。特に、小さな路地などの、キメラの裏をかくのに必要な経路を重点的に頭に叩き込んだ。
「戦況は変わらん。相変わらず食い止めているが、それ以上でも以下でもない。だがあのクソったれのワーグマンは優秀だ。諸君の要望には可能な手段で必ず応えるだろう」
 機内で状況説明を行っていたハンク・ネルソン大尉が無表情に言い放つ。やがて、高速艇はその高度を下げていった。
「到着だ。幸運を祈る」
 ハッチが解放される。


●現着
 八人は檻から西に五十メートルほどのところに降りると、すぐさま物陰に身を隠した。
『ワーグマン大尉だ。早速だが仕事に就いてもらう』
 八人の無線機が、ワーグマンの通信を拾う。風間 静磨(gb0740)のものはハンクから借りた、溶けたり削れたりしている使い古した代物だったが、正常に機能するようだ。
「ここからではキメラの姿が見えないが、現状はどうなっている?」
 ヴィンセント・ライザス(gb2625)が周囲を窺いながら言う。
『十字路から南に四十メートルの位置で停止している』
「動きを止めているなら好都合ですね」
「今のうちに、配置につこう」
 榊 刑部(ga7524)に頷いた井筒 珠美(ga0090)が提案する。
 八人は覚醒すると、それぞれ決められていた通りに移動を始めた。
『忌々しいハンクから聞いているだろうが、ヤツの尻尾はまるで槍だ。長さは目測で十メートル。気をつけろ』
 ファファル(ga0729)は近場のビル内に入り込むと、一気に階段を駆け上がり、扉をぶち抜いて屋上へ上がり、キメラの近くまで移動する。
 キメラを見下ろしたファファルは、とりあえず紫煙を吐き出した。
『機内でちらっと聞いたんだが、あんた方の分類でいうと、MBT、とか言うんだったか?』
 寿 源次(ga3427)が苦笑いしながら言う。大尉はため息を吐き『その通りだ』と返す。
「‥‥成る程‥‥確かにMBTらしいな」
 ファファルは煙草をもみ消すと、スナイパーライフルを構えた。黒く輝く甲殻は到底刃が通るように思えず、鋏はアスファルトをバターのように削るだろう。そして何よりも、太く長く異様な威圧感を持つ尻尾は、人に恐怖以外の何物も与えないように思えた。
「まあいい‥‥仕事をやるだけだ」


●攻撃開始
 他の七人は、地上で展開していた。源次が練成弱体を掛けるのが、行動開始の合図となる。各員は物陰に潜みながら、それぞれの反応で、キメラを見つめていた。
「大きいサソリですね‥‥」
「よくこんなデカブツ止められてたな‥‥」
 リリィ・スノー(gb2996) と五條 朱鳥(gb2964)が呆然とその巨体を見上げる。
「刃に返しが付いているぞあの尻尾」
「悪趣味ィ」
 珠美と静磨があきれたように言う。
「毒を打ち込む用途ではなく、ひたすら貫くための代物か」
 ヴィンセントが冷たく笑った。それに、刑部が頷く。
「薙ぎ払いなら堪えられるかもしれませんが、貫かれたとなると‥‥」
 ぞっとしない話だ。直径にして五十センチの尾で貫かれれば、ひとたまりもない。
「気をつけよう。準備はいいか」
 源次が飛び出す態勢を取る。皆が頷くと、道路に飛び出し、キメラに練成弱体を掛けた。突然の乱入者に気付いたキメラが、尾を揺らしながら源次目掛けて歩き出す。その顔面に、ファファルの撃った銃弾が叩き込まれる。キメラにとっては生まれて初めてのダメージだった。痛みにすくみ、動きを止めたキメラ目掛けて、十字砲火が浴びせかけられる。
「いけそうだ、が」
 鋭覚狙撃によって、珠美はキメラの関節部に弾丸を集中させていた。効果はある。しかし、甲殻に当たった弾丸は、威力を殺されていた。
「足狙った弾も弾きやがる!」
 朱鳥が忌々しげに吐き捨てた。
 十字路方向の道路から射撃しているのは、珠美、朱鳥、リリィと、練成強化に力を注ぐ源次。
 路地からの射撃はヴィンセントと静磨。すぐ隣のビル上からファファル。ヴィンセントの背後では、刑部が斬り掛かるタイミングを計っていた。
「流石に固いな‥‥でも‥‥ッ!」
 貫通弾を装填し、フォルトゥナとS−01の二段構えで射撃する静磨。効果は薄いが、着実に傷を負わせていく。
 身を守るように硬直していたキメラがゆっくりと動き始め、尻尾が大きく振り上げられる。狙いはヴィンセント達。
「退がろう」
 ヴィンセントはいち早く察すると、刑部、静磨を連れて奥に引っ込む。次の瞬間、ヴィンセントと入れ違うように、キメラの槍がアスファルトに大穴を開けていた。
「これは、痛いかも」
 静磨が背後を振り返って苦笑いする。キメラは苛立つように尻尾を振り回し、ビルに叩き付けた。鉄筋ごと柱を砕いた威力を目の当たりにすると、さすがに肝が冷える。
「尻尾の素早さが尋常じゃない」
 刑部が無線機に向かって言う。
『見ていまし‥‥きます』
 リリィが言う。キメラはリリィ達四人に標的を変えたらしい。ヴィンセント達は次のポイントまで、路地を全速力で駆けていた。
 別のポイントから三人が現れたとき、通りに展開していたチームは大きく後退していた。キメラは珠美達を追いかけるのに必死で、こちらには気付いていない。
「榊です。いきます」
 刑部が無線機に向かって言い、外の射撃が止まったのを確認すると、路地から飛び出した。すかさず源次の練成強化が、得物の攻撃力を上げる。
 キメラまでは十メートルと無い。刑部は一瞬でキメラに肉薄した。豪破斬撃を発動し尻尾に斬り付けようとするが、
「後ろに飛べ」
 というファファルの声により、すぐさま飛び退く。尻尾は刑部を掠め、落雷のような速度でアスファルトに穴を開けた。
「ここだ」
 あわやという状況だが、刑部は古武術特有の足運びによって体勢を失っていなかった。尻尾が引き抜かれるよりも早く、蛍火を一閃する。
「‥‥切断は無理ですか」
 尾が再び振り上げられる。刑部はすぐさま態勢を整えると、全力で地面を蹴り、路地に逃れた。キメラはゆっくりと向きを変えると、刑部が消えた路地を睨んでいた。
「どこ見てやがんだ?」
 その声は、間近から聞こえた。ずる、と音がして、キメラから槍が引き抜かれる。朱鳥が、よそ見を始めたキメラに近付き、一撃を加えたのだった。
「蠍のくせに、逆に刺される気分はどうだ?」
 装甲の薄い腹部から、どす黒い血が噴き出す。キメラは苦し紛れに尻尾を振り上げる。その尾目掛けて、ヴィンセント、珠美、ファファルが射撃する。静磨とリリィは、脚部関節を撃ち抜いた。朱鳥はその隙に射程外に逃れると、大きく息を吐いた。
「いい一撃でした」
 リリィに言われ、朱鳥は少し照れた。

 
●反撃
 不意にリリィの眼が、大きく見開かれる。爆発音のようなものの直後、全員が路地に退避した。キメラは突如、何かが吹っ切れたかのような、機敏な動きを見せた。
「尻尾が、伸びた」
 リリィと同じ路地に飛び込んだ源次が頷く。
『おまけに脚部関節の甲殻が大きく開いたように見えたが』
 珠美が言った。三人の目は正しい。キメラは、それまで関節部さえ甲殻で覆っていた。のろのろと動いていたのは可動域が極端に狭かったためだ。だが窮地に追い込まれ、キメラはその在り方を変えた。関節部を解放し、また蛇腹状になっていたらしい尾を伸ばしたのだ。
『全員無事か? 一度態勢を立て直そう』
 ファファルの息が上がっていた。直前に巻き上がった煙は、キメラの尻尾によって、ファファルが立っていた建物が倒壊したときのものだった。
「傷はどうか? ライザスさん、あなたもだ」
 源次が尋ねる。
『無茶な回避はしたが、傷はない』
 ヴィンセントの息もまた荒い。彼が居たのは、倒壊した建物の脇の路地だった。
『こちらも平気だ。背筋に冷たい物は走ったが、すぐ隣に逃げたからな』
「ならよかった。傷を負った人はいないか?」
『あー、軽く貰っちゃいました。回避前に自身障壁張ったから、浅いけど』
 静磨の声だった。
「すぐ向かう。念のためじっとしていてくれ」
『了解』
『近付いてきている。移動しよう』
 珠美の声を受けて、源次とリリィは路地の奥へ移動する。キメラの足音が近付いてきていた。北へ向けて歩いているようだった。
『‥‥ッてー‥‥どうします?」
 静磨が尋ねる。
『南で待ち伏せ。エコー6におびき寄せてもらう、というのはどうです?』
「賛成です」
 刑部の提案にリリィが乗る。
『あたしもそれで構わない。っつーより、待ち伏せでもして一気に決めないとヤバいだろ、あんな動きができるんじゃ』
 と、朱鳥。
『やりにくくはなったが、幸い関節が丸見えだ。向こうもこちらも、短期決戦を決め込むというわけだな』
『ではそうしよう』
 向かいの路地で身を潜めている珠美、朱鳥に目配せして、源次達も移動を開始した。


●勝敗は一瞬
『エコー6北班、奴さんの顔面を引っぱたいてやってくれ!』
 了解、とだけ応えて、ヘイルははるかに速度を増したキメラを、照準した。北から撃って、南に退避させればいい。能力者達は迅速に移動し、待機している。
 源次、ファファルが同じビルの上。向かいのビル上にヴィンセント。リリィ、珠美は向かい合った路地。ビルを挟んでまた向かい合った路地に、朱鳥、刑部の近接組と、その掩護に回る静磨。
 射撃組はその全ての弾丸を、尻尾、及び脚部の破壊に費やす。ビル上の射撃チームが尻尾を。路地の射撃チームが脚部関節を、といった具合だ。そしてトドメに、近接チーム二名の渾身の一撃。
 作戦自体は先ほどと変わっていないが、能力者達には余裕があるようだった。素早く、広くなった攻撃は確かに脅威だが、アレで手品は出きったという確信があった。
「目標の接近を確認」
『そちらに行くかもしれんが、任せろ』
 ヘイルは息を止めた。
「北班、射撃」
 二つ、銃声が響き渡る。
「ほら見ろ」
 食らったキメラは怒り心頭だ。顔を真っ赤にして、猛然とこちらに向かってくる。
『南班、射撃』
 そこに、遅れて銃声が四度鳴り響いた。南からのものだ。さらに二度続けて聞こえてくる。キメラはもっと顔を赤くして、反転した。罠だとも知らずに、南へ一直線。
 ため息を吐きながら、ヘイルはその後ろ姿を見送った。
『百メートル‥‥七十‥‥射撃開始』
 ファファルの合図と同時に、銃口が一斉に火を噴いた。
 まず足が二本飛んだ。大きく前のめりに突っ伏したキメラに、更に攻撃が加えられる。足が更に二本飛んだ。もう立てない。悟ったのか、キメラは尻尾を振り回した。ビルをなぎ倒すが、来るとわかっていれば、連中にとっては縄跳びのようなものらしい。ヴィンセントは簡単に隣のビルに飛び移って回避した。
 そして、尻尾が落ちた。
 体液を吹き上げながら、キメラが絶叫する。動けなければ、残った鋏も使えない。
 ここぞとばかりに、近接班二名が飛び出していく。文字通り虫の息の蠍キメラは、朱鳥に深々と貫かれた後、刑部の渾身の一閃によって、その脅威にピリオドを打たれた。ピクリとも動かない。
 拍手でもしたい気分だった。ビルが幾棟か倒壊してしまってはいるが、戦闘自体は完璧だった。
『目標沈黙。とんでもないもん見ちまった』
 ルイスがぼやく。
「まったくだ」
『静かにしろ。確認を取るぞ。目標周辺に集合。確認後は速やかに撤収だ』
「了解」
 ヘイルは射撃体勢を解き、屋上をあとにした。


●解散
 無残なキメラの死骸の元では、能力者達も集合していた。一足早く着いていたルイスは、早速リリィに興味を持ったらしい。
「訓練とか、一緒にどう?」
 ナンパしてやがる。ヘイルはその頭を思い切り殴りつける。リリィは目を丸くしていた。
「曹長! ちょっと。何するんだ」
「その口、要らんと見える」
 ルイスは大きく肩を落として、引き下がっていく。
「おいおいルイス。捻くれヘイルにやられっぱなしで悔しかねえのか?」
「自分が既婚者だからっていい気になんなこのやろー!」
 遠くから叫ぶルイスを一睨み。懐から煙草を取り出し、一本をくわえる。が、火がない。基地に忘れてきたのか、とため息を吐くと、不意に人が前に立つ。ファファルだった。
「苦労しそうだな」
 と、紫煙を吐きながら火を差し出す。ありがたく頂戴して、ヘイルは首を振った。
「隊長もそれなりにイロモノでね。そんなものとは無縁の男だあれは」
 キメラの殲滅報告を行うワーグマン大尉を見ながら言う。怒鳴っているところを見ると、相手はハンク・ネルソンだろう。
「なるほど」
 フッと微かに笑うと、ファファルは手を挙げて去っていく。
「アンタはなんでこの依頼を?」
 じっと立ち尽くしているヴィンセントに尋ねる。
「母が昔特殊部隊にいた。部隊名は忘れたが、他人事とは思えなくてな」
「うちにいたって可能性もあるな。アンタ俺たちと同郷だろ。うちの隊も元は英国陸軍だ。今隊長と無線でやり合ってるネルソン大尉もうちの出身でね」
 ヴィンセントは、高速艇で一緒だったハンクを思い出したのか「ああ」と頷く。
「食い扶持なくしたらうちに来たらいい。歓迎するぜ」
 考えておこうなどと言って、ヴィンセントもその場をあとにした。
「ヘイル。集合だ」
 無線を切って、隊長が言う。向かうと、そこには源次、刑部の二人がいた。
「支援感謝。貴方達が食い止めてくれなければ、この勝利は無かった」
「ええ、エコー6の方々の支援攻撃がなければ、倒すことはより困難だったと思います」
 元々人に感謝されるようなところには出ない部隊だ。こういう風に言われると照れくさいが、悪い気はしない。あの戦闘を見せつけられたあとでは「まさか」という気分でもあるが。
「こちらこそ、間に合って貰わなければ死んでいたところだ。我々はこれで失礼する。また、何かあったらよろしく頼む」
 隊長は珍しく敬礼などをして踵を返す。ヘイル達もそれに続いた。ルイスはリリィに手を振っていたが、当の本人は、キメラが美味そうだったとぼやく静磨を、幽霊でも見たかのような目で見つめていた。
「ありえねえ!」
「同感だ。さすがにコレは食えないだろう」
「ですよね」
 静磨は、朱鳥、珠美、リリィの三人に全力で否定され、意気消沈していた。
「疲れは無い、か」
 隊長が言う。ヘイルはもう一度能力者達に振り返り、苦笑した。
「俺たちロートル親父はさっさと戻って乾杯、と」
 隊長が髭面を歪めてニタァと笑う。
「つまみはサソリだな」