タイトル:VA XMPR1−Sマスター:熊五郎

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 16 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/10 22:24

●オープニング本文



 VA社、と俗に呼ばれる企業がある。正式にはVirman Armaments。北欧に本社を置く比較的新しい兵器屋で、軍や警察へ銃器を採用してもらうことによってこの激動の時代をどうにか生き残ろうとしている企業だ。
 ヴィルマン兵器の名通りにKV産業への意欲こそ見せるも、意欲だけで先立つものが無く断念。ほぼ非能力者向けの小火器によって利益をあげている。
 VAの最近の大きなプロジェクトと言えば、SRPに実地テストの名目で貸し出されているVA XMPR1の開発だった。装弾数5発。有効射程2000mのアンチマテリアルライフル。最大の特徴である25mmの弾丸は成形炸裂弾をはじめとして様々な弾薬を装填可能であること。全長などがこれまでのライフルよりも短く、1000mm程度に抑えられているため携帯性も向上と、SRPの評価はなかなかのものだった。重装弾狙撃銃――ペイロードライフル――と呼ばれるこの銃は、アンチマテリアルライフルの常識を覆し、VAの未来を担う銃になる――はずだった。
「知っての通り、VA XMPR1はウチでの実地評価を終え、調整後Xナンバーが外れる予定だ」
 英国の特殊部隊SRPのE中隊を預かるハロルド・リーガン中佐が、デスク上の無骨なライフルを睨みながら言う。従来のものよりもずんぐりとした外見。巨大なマズルブレーキ。図太いマガジンにバレル。全てが冗談のようである。
 だが、中佐に相対するハンク・ネルソン大尉の視線は、そのVA XMPR1の隣に置かれた、より異様な姿を持つライフルに釘付けだった。
「これ見よがしに置いているが‥‥SES搭載型か」
「その通り。XMPR1はウチでは相当数発注したんだがな、軍に制式採用とはいかなかったらしい。これはお前等の怠慢だ、とこんなものを押しつけられちまったよ。面白いんで引き受けたがな」
 促され、ハンクはやたらと分厚くなったXMPR1似のライフルを両手で抱え上げる。
「なんだ、これは」
「XMPR1−Sと言うらしい。重いだろう。当然能力者向けだがそれでも重い。覚醒してみろ」
 言われた通り、ハンクは覚醒し、現役時代の感覚と照らし合わせてみるが――
「使い物にならん」
 と、一蹴するのだった。
「重量80ってとこか‥‥しかもなんだこのでかさは。XMPR1でせっかく小型化したのに何故1500mmクラスに戻っているんだ」
「ちなみに射程は120m」
 ハンクはデスクの中佐を睨み下ろす。
「使い道はあるかもしれないが、能力者の端くれの俺でも、こんなものニーリングでだってとても撃てやしない。当然プローンすることになるが、射程120mか。リスキーだな」
 SES兵器の難点は、有効射程が非常に短くなることだ。ほとんどの銃器が、対バグアの有効射程100mを切っている。その点で言えば、100m以上の有効射程は魅力なのかもしれない。が、
「ついでに、撃つごとに力を吸われるとかなんとか」
「力?」
 ハンクは珍しく素っ頓狂な声をあげた。意味がわからないと。
「よくわからんが、吸われるんだってよ」
「‥‥XMPR1は前線の兵達の間でも評判の良い銃だった。何故こうなる」
「新しい企業だ。SESの技術が圧倒的に不足しているんだろう。何せ、SES兵器第一弾がこれだぞ。もう少しおとなしいものから始めればいいものを、失敗すれば会社が傾きかねん。そこで、お前に頼みがある。俺からではなく、VA社からの頼みだが」


「あ、ネルソン大尉。今日ですよね、例のあれ」
 すれ違ったアニー・シリング少尉が、敬礼と一緒に何か言ってくる。答礼しつつ、ハンクは大きくため息を吐いた。
「そうだ少尉。俺の代わりに出てくれないか」
「お断りします。仕事がありますし、あの銃関連はエコーの仕事ですから」
 胸に抱えた書類の束を見せびらかすようにして、アニーは素っ気なく言う。それでは、と踵を返したアニーを見送って、ハンクはもう一度溜息。
 あんなものを傭兵達に試射してもらわなければならない。体験会だ。ありえん。とハンクは思う。体験会とは良い印象を与えるためのものだ。それは無理だと、ハンクは勝手に評価試験に変更した。
「連携を前提とした運用では確かに凄まじい威力を誇るかもしれないが‥‥」
 試射したハンクの体感では、これまでの遠距離SES兵装に比べれば威力は桁違い。射程は上々。練度の高い傭兵が密な連携と共に使えば効果は計り知れない。だが魅力の攻撃力と射程も、大量のマイナス要素によって帳消しだ。とにかく重い。ひたすら重い。伏せて撃ったほうがいいから伏せるのと、伏せなければ撃つこともできないのとではまるで違う。能力者がその行動を大きく阻害されるレベル、と言えば伝わるだろうか。
 更に、最大の難点があった。
 中佐が言っていた「力を吸われる」などというまるで妖刀、魔剣かと思うような表現。ハンクが試射で連射していると、突然弾丸から力が消えたのだ。覚醒も途絶え、はて、と首を捻るハンクはようやく思い出す。一発撃つ毎の違和感は、スキルを発動したときによく似ていたのだと。
 高火力、長射程。全長1580mm、25mm弾使用という大口径、デカブツ好きの心をくすぐるサイズ。その代わりに使用する能力者に多大なマイナスを強いる尖りに尖った性能。
 25mmをキメラ相手にぶっ放したいという奇特な傭兵のための武器になることは明白である。
「文句の山を見れば、VAも考え直すだろう」
 とは言いつつも、変わり者揃いの能力者達がどういう反応を示すかは未知数だ。
 ちなみにこれは試作品のため、量産時には改良も改悪も考えられる。とにかく、良いものにするなら今しか無い。現状はとにかく尖っている。これでいい、と言う傭兵もいるだろう。そうでない者もいるだろう。尖っている部分を磨けば使いやすくはなるかもしれない。しかしその結果、完成しXの外れたMPR1−Sは、凡百のSES搭載武器と成り果てているかもしれない。
 今回傭兵を招待したのは、英国はヘリフォードにひっそりと存在するSRP特殊訓練施設だった。SRPとしては場を貸すだけ。あとは傭兵が独自に、好き勝手に触ってもらっていい、というのが今回のテストだ。シューティングレンジは屋内、屋外共に最長射程を考慮して配置してある。そこで黙々と試射に励むもよし、空砲を装填、赤外線送受信機を取り付けた銃を使い、傭兵同士実戦さながらのテストを行うのも良いだろう。飽きたら終了時間まで紅茶を飲みながら談笑していたって構わない。それなりの葉は用意してあるのだ。
 あとはどれほど乗ってくる傭兵がいるか、ということになるのだが。
「さて、では始めるか」
 ハンクは傭兵が集っている(はずの)部屋の前で溜息を一つ、いつもの無表情に戻ると、静かに扉を開いた。

●参加者一覧

/ 叢雲(ga2494) / 戌亥 ユキ(ga3014) / クラーク・エアハルト(ga4961) / ラシード・アル・ラハル(ga6190) / 綾野 断真(ga6621) / ソード(ga6675) / クロスフィールド(ga7029) / シェスチ(ga7729) / レティ・クリムゾン(ga8679) / 神宮寺 真理亜(gb1962) / フェイス(gb2501) / ヴィンセント・ライザス(gb2625) / エリザ(gb3560) / アンジェラ・D.S.(gb3967) / ルノア・アラバスター(gb5133) / 長谷川京一(gb5804

●リプレイ本文

●うろちょろ
 天候は生憎の曇り。時折雲の切れ間から太陽が覗くが、強い風も相まって肌寒い陽気だった。
 滞りなく終了したブリーフィング後、ハンクは参加者に事前アンケートと称して書かせた用紙を片手に、煙草を吹かしていた。参加者は既にテストを開始している。
「こんなこともあろうかと、だ」
 くわえ煙草でもごもご言うハンクの傍らには、空き箱がいくつも転がっている。傭兵達はペイント弾をいくつも持って参加してきていたが、まさか参加してもらっている身で弾薬を消費させるわけにもいかない。VA社に掛け合って、弾は山ほど用意してもらっていた。
「拝見しようか」
 ぺら、とめくった用紙の一枚目。名前は叢雲(ga2494)。ブリーフィング後にわざわざハンクに挨拶に来た傭兵だった。素晴らしい銃がどうのこうの、と言っていたが、果たして皮肉なのか純粋にそう思っているのか、なかなか掴めない表情をしていた。
 一通り読んでから、本人のもとへ向かう。
 叢雲は屋外レンジで黙々と射撃に勤しんでいた。両サイドでは、アンジェラ・ディック(gb3967)とルノア・アラバスター(gb5133)も同様にターゲットに照準している。ユキは服が汚れるのを嫌ってか、クッションを使用しており、やや姿勢が高い。
「風が強いというのに、わざわざこちらか」
「だからこそ、だと思いますが」
 微かに会釈をした叢雲が想像通りの返答をくれる。その隣で、ルノアがトリガーを引いた。衝撃と、腹に響く重低音に小さな体を震わせながらも、狙いは正確だった。土を山ほど盛ってこさえたターゲットの中心部がこんもりと盛り上がる。
 その周辺では木くずが散乱し、鉄板などが大きな穴を開けられていた。メトロニウム合金を用意してほしい、と叢雲には言われていたのだが、手頃に撃ち抜けるメトロニウム合金製の板が見つからず、我慢をしてもらっている。
「この風で、もっと、反れるかと、思って、いましたが」
「戌亥も命中率を気にしていたようだが、SESの妙だな。120m圏内で固定目標への集弾率は悪くない」
 びく、とルノアが体を震わせて振り返る。かなり集中している様子だった。
「あ、お久しぶり、です」
「久しぶりだな。その隣のものと撃ち比べてどうだ」
 ルノアはうーんと唸りながら、横たわらせた自前のアンチマテリアルライフルを撫でる。
「こっちは、結構、いじって、ますけど、威力は、同じくらい、だと思います」
「ルノアさんのアンチマテリアルライフルは射程が70m。こちらは倍近い射程で、しかもノーマルでカスタムされたそれと同程度の威力を誇る。これだけ聞くと実に素晴らしいですが」
「1マガジンで練力半分ほどいったわね」
 スコープを覗きながら呟いた叢雲に被せるようにして、アンジェラがぼやいた。
「それ、です、ね。‥‥え?」
 ルノアが目をぱちくりさせる。アンジェラが突如立ち上がり、スキップをしだしたかと思うと、なんとそのままターゲット目掛けてトリガーを引いたのだ。当然、当たらない。
「ええと、なんでしょう。スキップ状態で当てられるか、ですか?」
 さすがの叢雲も唖然としているのを隠しきれない。
「そう」
 と、今度は立ち止まってスコープを覗く。が、重さのために腕が震える、というよりは揺れていた。とてもでは無いが狙うことなどできない。
「やっぱりだめね」
 ひとしきり確認すると、アンジェラは大人しく寝そべって試射を続けた。


 屋内では、ラシード・アル・ラハル(ga6190)、クロスフィールド(ga7029)、フェイス(gb2501)、長谷川京一(gb5804)が各々レンジに入っていた。ターゲット方面には、銃の性質上壁はない。が、風は吹き込まないような作りになっている。射撃ブースには仕切りがあり、無心に練習するにはもってこいの場所だった。
 次々に轟音が響く中に現れたハンクは、一人黙々と分解作業を行っているクロスフィールドの手元を眺めていた。その丁度目の前のブースでは、京一が零点規正を行っていた。当然ハンク達が120mで規正してはいたが、ズレがあったのかもしれない。誰だ、あの銃を担当したのは。ルイスか。お調子者で怠け者のルイスの野郎か。ぶっ殺す。などと思いながら、ハンクはじっと二人の作業を見つめている。
 京一は規正を終えると、銃を担いで立ち上がる。どっこらせ、などと言いながら。
「どこに行くんだ?」
「うおっと、なんだ、大尉か。いやあ、車上射撃をやりたいって言ってるのがいるもんで、ドライバーにね」
「そうか。貴重なデータを頼む」
 任せろ! と自信たっぷりに頷いた京一を見送り、ハンクの視線は何度目かの分解作業を始めたクロスフィールドに向けられた。
「工程が多いだろう」
「非常に面倒。とはいえ、これの非SESをここでは採用しているんでしょう。特殊部隊で採用されるようなものを作るだけはある、気はしますけどね。パーツ数は多いですが、作り自体はシンプルだ」
 クロスフィールドは組み立て直した銃に弾薬入りのマガジンを装填すると、次々にコッキングレバーを引いていく。排出された弾を受け止め、再びマガジンに詰め込んで、コッキングレバーを引く。ジャム率のテストのようだった。
 数分後、繰り返し繰り返しテストを行っていたクロスフィールドの手が止まった。
「感想は?」
「一先ず安心。ところで」
 それはよかった、と一言残して隣のブースへ移動しようとした背中に声がかかる。
「汚したりしても?」
「構わん」
 クロスフィールドは一度頷くと立ち上がり、ブースから出ていった。


「次〜♪」
 戌亥 ユキ(ga3014)の軽やかな声が、場違いに響いた。何事かとハンクが視線を向けた先では、ユキがフリスビーを投げていた。直後に銃声が鳴り響き、フリスビーが木っ端微塵になる。
「命中!」
 よく見れば、ユキが投げた円盤を、シェスチ(ga7729)が撃ち落としているようだった。天井に穴でも開けられては困るが、そこは二人とも心得たもので、フリスビーを砕いた弾丸は遙か彼方へ飛んでいく。
「また奇抜なことをしているな」
「外、風が強くてこれじゃ飛ばないので‥‥」
「感想はどうだ?」
「わかってたけど‥‥あまり近くで頭上を飛ばれたらお手上げです」
「なるほど。ところで、戌亥は撃たなくて良いのか」
 自身の銃はブースに置き去り状態のユキの様子に、思わず尋ねる。
「私はもう、練力ほとんど使っちゃったから。スキルとかを試したせいだけど、しっかり使えるんだね」
「使えないと、問題じゃないかな‥‥」
 シェスチが苦笑する。
「部屋を用意してある。疲れたらそちらで休んでくれ。そこの、犬のクッションも一緒にな」
「はい。了解♪」
 ビシ、と敬礼をしてみせたユキは、再びフリスビーの束を手に取って
「次〜」
 まだまだ休むつもりは無さそうだった。


「や、ネルソン大尉」
「フェイスか。どんな具合だ?」
 隣のブースでは、ハンクとは外見年齢35歳仲間のフェイスが試射を行っていた。
「面白い銃ですねぇ。ただし、練力消費は少々いただけませんが。どうにかなりませんか、これは」
「要望が多ければ改善されるかもしれんが、皆イロモノが好みのようでな」
 ひらひらと、アンケートを見せる。フェイスは苦笑して、小さく息を吐いた。
「なるほど。ま、俺もそれで射程が落ちるようならこのままで構いませんけどね」
 ところで、とフェイスが改まる。
「あちら側には何があるんです?」
 フェイスが指さしたのは、ターゲットの遙か彼方。2km先にある斜面だった。
「あの斜面までは人が入れないようになっている。狙撃用のターゲットを置いて、射撃訓練をするためだな。隣の屋外レンジは、その用途でも使われる」
「ここから撃っても?」
「予定は入っていないから構わんが」
 言いながら、ハンクはブースに取り付けられたスイッチを押す。レッドランプが灯り、ターゲットが倒れる。
「では」
 言って、フェイスは本体右側に備え付けられた突起を押し込む。それで、SESによる増幅効果は見込めなくなった。隊員にでも借りたのか、高倍率望遠スコープをXMPR1−Sに取り付け、覗き込む。
「ま、試させてください」
 何か言いたげなハンクの視線に気付いて苦笑したフェイスがトリガーを引く。轟音と共に吐き出された弾丸の行く末を見つめて、フェイスが唸った。
「駄目ですね」
 弾丸は狙ったところとはかけ離れた位置に命中していた。
「弾丸も本体も120m以内で最大の効果を発揮するようになっているからな。おまけに練力まで借りて。SESを切ると一気に不安定になる」
「なかなか、思うようにはいきませんね」
 煙草を吸ってきます、と残して出て行ったフェイスを見送り、ハンクは次のブースに移る。そこでは――
「デモンズフィスト、とか‥‥」
 ラシードが悩んでいた。
「なんだって?」
「あ‥‥大尉。練力が怪しくなってきたから‥‥ニックネームとかどうかな? って‥‥」
「ああ、提案してきた者は結構いたぞ。俺には無い感覚だな。モデルナンバーじゃいけないのか」
「うーん、愛着が沸くかな‥‥ニックネームがあると。それにほら、魔銃? そんなかんじだし‥‥」
「なるほど。提案はしてみよう」
「ところで‥‥これ、思ったよりも消費が少ない‥‥? 鋭角狙撃と同じくらい‥‥なのかな」
 脇に置いた銃をあちこちいじりながら、ラシードが尋ねる。
「そんなところだろう。それ以上では運用できないと思うんだが、まだ余裕があるか?」
「10以上行くのかな‥‥って思ってたから‥‥」
「新米スナイパーには持てない代物になるな‥‥」
 ハンクが苦笑しながら言うが、ラシードはきょとんとして、
「こんなの‥‥新米は使わないと思う‥‥」
 もっともなことを言うのだった。


 ここはSRPの訓練施設。となれば、まるでアスレチックかと見間違えるような代物がある。低く張り巡らされた網。短い間隔で設けられたハードル。1mの高さに作られた細いブリッジ。巨大な壁。その他諸々。そこを、レティ・クリムゾン(ga8679) とヴィンセント・ライザス(gb2625)が駆け抜けていた。背中に、ストラップをつけたXMPR1−Sを担いで。
 レティは小柄な体躯を活かしてスルスルと抜けていくが、ヴィンセントはやや苦戦しているようだった。185センチの長身はハンディキャップだ。特殊部隊に小柄な者が抜擢される理由も、この辺りにある。
「非覚醒状態にしては、なかなかのタイムだ」
 手元の時計でタイムを計っていたハンクは、戻ってきた二人にスポーツドリンクを手渡して言う。
「非覚醒での運用に、どれほど支障があるのか試そうと思ったのだが‥‥俺もまだまだ鍛えねばな」
 ヴィンセントは荒く息を吐きながら、ドリンクを一気に飲み干す。
「いい勉強になった。覚醒時は装備品を絞れば余裕があるけれど、非覚醒時に激しい動きは難しそうかな」
 レティも肩で息をしている。
「覚醒時も、矢張り動きが鈍るな。許容できる範囲だとは思うが。あとは実戦形式で試してみるしかないか」
「そういえば、そろそろ時間かな?」
「その連絡にきたんだ。準備ができたらしい」



●車上射撃
 ハンクがレティとヴィンセントの元へ向かう少し前、実戦形式のテストを行う演習場で、京一が愛車のエンジンを吹かしていた。幌と後部シートを取り払い、風通しのよくなったジーザリオのキャビンでは、綾野 断真(ga6621)が寝そべり、後方へ向けられたXMPR1−Sのストックを肩に押しつけている。
 見渡す限りの草原のあちこちに、廃車やドラム缶などがところ狭しと配置してあり、おまけに凹凸が酷い。揺らさずに走らせることはまず困難だが、断真はその方がテストのし甲斐があると、乗り気だった。
「それじゃ、準備はいい?」
 両手に山ほどフリスビーを持ったシェスチが、助手席に頭を突っ込んで尋ねる。演習場の辺りでは風があまり無いということで、先ほど室内で行っていたフリスビー撃ちを、外でやるために持ってきたものだった。今回は、更に車内からの射撃を行う。
「構いません」
「んじゃ、転がすぜ〜」
 断真の返答に大きく頷いた京一は、ギアを繋いでアクセルを踏み込んだ。
 走り出したジーザリオは悪路に吸い付くようにして走るが、寝そべっている断真を襲う衝撃はかなりのものだった。
「五秒後にコーナー。曲がっている途中に趣味の悪い人形が見えるらしい。そいつが最初の目標だ」
「了解です」
 設定したコースの最初のコーナーに差し掛かる。断真はKVでの機動に比べたら欠伸の出るような横Gに耐えつつ、左目で車外を、右目でスコープを睨む。
「来るぞ」
 断真は応えず、ぐっと息を止め、ヴェルサ式バイポッドの高い可動性を十分に利用してエイミング。トリガーを引き絞った。
「こりゃひでぇ‥‥キメラ型はなかったのか?」
 不細工なマネキンの頭部が粉微塵に吹き飛んだのを見て、京一が顔を顰める。
「リロード。射撃による車への影響はどうです?」
「なし。絶好調! 七秒後、クレー改めフリスビー」
 京一が、フリスビーを持ったシェスチの姿を捉える。断真はストックの上部を左手で抑え、銃口を上に向ける。
「いつでも」


「さ‥‥て‥‥とっ!」
 ジーザリオが眼前を通過する直前、シェスチは覚醒し、矢継ぎ早にフリスビーを投げる。枚数は5枚。低空、地上5m、地上15mと投げ分けられた円盤が、ジーザリオを追いかけて飛ぶ。
 連続した発砲音は、ジーザリオのエンジン音さえ一瞬かき消すほどだった。独特の重低音と高音が混じり合った音は、当然フリスビーなどに向けられていいものではない。
 まず低空の円盤2枚中1枚が弾け、5mを飛ぶ円盤も粉々になった。シェスチが見たいのはここからだ。車との距離は100mに開こうとしている。断真からフリスビーまでは101m。角度はおよそ8度。この距離でこの高度のものを狙えるのならば、飛行キメラと戦う前衛能力者の掩護も、効果的に行えるはずだ。
 もう一度発砲音が響き、フリスビーが砕け散った。
 2枚が力を失って地面に落ちる。結果は5枚中3枚にヒット。放った弾丸は4発なので、上々の結果だ。シェスチは最後の1枚を拾い上げ、ジーザリオを見送る。
「なるほど‥‥悪くないかも」
 XMPR1−Sに標準搭載されているバイポッドは俗にヴェルサ式と呼ばれるもので、銃の可動範囲を非常に広く持つという特徴がある。敵と120m以内で伏せなければならない悪条件下で、少しでも優位に立つための採用だろう。


「やっと出番ですわ」
「そうだな」
 向かってくるジーザリオを待ち構える2体の威容があった。AU−KVバハムートを装着した神宮寺 真理亜(gb1962)と、エリザ(gb3560)だ。銃を受け取ってすぐにバハムートに跨って演習場へ向かった二人は、AU−KVによるXMPR1−Sの運用方法を探っていた。
 結果わかったのは、AU−KVであろうとも伏せの必要はあるということ。原因は、規格外の大きさを誇るマズルブレーキだった。長い銃身の先に、巨大なマズルブレーキがついており、更に強度を保つために強固な補強を施されているため銃口部が非常に重く、重量バランスがすこぶる悪い。通常の能力者でも、立って撃つこと自体は可能だが、ブレが大きく狙いをつけることは不可能に等しい。そしてそれはAU−KVでも同じだった。
「今回は動体目標への攻撃が目的のようですから、打ち合わせ通りにとにかく動き回る、ということでよろしいですわね?」
「ああ。竜の翼でかき回してやるとしよう」
 二体のAU−KVは廃車の影から踊り出すと、脚部をスパークさせながら、急速度でジザーリオへと接近。そのまま後方へ躍り出て、ペイント弾を装填したXMPR1−Sを構える断真と最大射程で相対する。こちらを狙う断真の視線が、いやに鋭い。
「ちゃんと、ペイント弾に切り替えてますわよね‥‥?」
「実弾を受けるテストも、それはそれで有効ではないか?」
 断真がトリガーを引く直前に、二人は全力で左右に散った。狙われたのはエリザだった。右足に衝撃が走り、ベチャ、と赤色の塗料がこびりつく。
「食らったな」
「‥‥なんだか、実弾のほうが良かった気もしますわね」
 急停止、急発進を繰り返しながら、真理亜が苦笑する。
「的役をすると言ってしまったんだ。この後の対戦で、鬱憤は晴らすとしよう」

 以上の車上射撃によって、XMPR1−Sの命中は、可もなく不可もなく。使用者の実力がダイレクトに発揮されるものと判明した。


●サバイバルゲーム
『試射チームが、クリムゾン、ライザス、ルノア、長谷川。仮想敵チームはクラーク・エアハルト(ga4961)、ソード(ga6675)、神宮寺、ルードヴィッヒ。配置についたか?』
 相変わらずの曇天模様の中、ハンクの声が演習場に響く。
 ハンクと、模擬戦に参加しない能力者は演習場を一望できる監視塔に登っていた。叢雲がビデオカメラを構えている他、皆興味津々の様子だった。
『5分1ラウンドを攻めと守りに分けて行う。オフェンスがディフェンスラインまで到達したら勝ちだ。まずは試射チームが防衛。仮想敵チームは攻めてくれ。相対距離は80m。ラウンドが進む毎に距離は短くなる。20m刻みでな。被弾したら一時退場。スタート地点で20秒数えてから再出撃となる。ちなみに仮想敵チームの装備は自由だ。では、始めてくれ』
 相対距離は80m。廃車とドラム缶、木材。遮蔽物だらけの草原に、コールと同時に銃声が響いた。
「いただき、です」
『ルードヴィッヒ、下がれ』
 先ほどの車上射撃で染まったものを落としたばかりのバハムートが真紅に染まる。横から回り込むべく移動を始めたエリザを、ルノアの一撃が貫いていた。
「‥‥わたくし今日いいとこ無しですの?」
 渋々スタート地点へ戻り、いち、にいと数え始めるエリザを横目に、クラーク、ソード、真理亜はそれぞれ手近な遮蔽物に身を隠し、苦笑いしていた。
「攻めようがない。恐らく、こちらのスタート地点を狙える位置に陣取っているはずです」
 ソードが溜息混じりに言う。
「障害物がもう少し密集していれば。思ったよりもまばらで、なかなか動けませんね。このまま膠着状態ではこっちの負け‥‥っと」
 クラークが廃車の影から顔を出したところに、ペイント弾が飛んでくる。
「仕方ない。このラウンドは向こうの癖を見るのに使うとしよう」
「ですわね‥‥」

 結局、第一ラウンド前半は試射チームの勝利になった。仮想敵チームは食らうのを覚悟で何度か飛び出しては、その度に撃ち抜かれる、ということを繰り返しただけだった。
「第一ラウンド後半は仮想敵チームの勝利。最終的にも仮想敵チームの勝利になりますね、これは」
 カメラを片手にじっと思案していた叢雲が言う。
「エリザ殿があの大きな斧を持っているのが決め手よね」
 と、アンジェラが同意する。
『長谷川さん、そっちは危ない』
 レティの声が聞こえた瞬間、銃声が一発。ソードのアンチマテリアルライフルが、京一を赤く染めた。
「長谷川、アウトだ」
『や〜ら〜れ〜た〜って、これ持って攻めるなんて無茶だ』
「大尉も人が悪いですね。ディフェンス、オフェンスに別れただけのルールですら、攻めに出ると弱い試射チームに勝ち目はほとんどない」
 煙草をくゆらせながら、フェイスは攻防の様子を睨んでいる。
「あるとしても、敵チームの何人かを同時に倒して、二十秒の間に駆け抜けるっていう作戦くらいだろう」
 想像通りの展開を繰り広げる模擬戦から視線を外し、クロスフィールドは葉巻を取り出した。
「ラウンドごとに対面距離が短くなるっていうのがトドメ? 最終的に20mって、前衛の能力者が最も得意な距離だよね。踏み出せば手が届くけど、下がることもできる」
 わんこクッションを抱きながらユキ。
「‥‥40mもくせ者、かな。スナイパーと前衛が入り乱れる‥‥そういう距離‥‥だよね」
「その距離で伏せるなら、たとえば市街戦だな、建物の屋上などに退避してからでないと駄目だろう」
「あの試作銃が効果を発揮できる距離は最初の80mしか無かったということですね」
 口々に意見をかわしていると、いつの間にか第一ラウンド後半も終了していた。前半と同じように、試射チームがほぼ完封される形で。
 続く二ラウンドもほぼ同様の展開。そして第三ラウンドに、ついに仮想敵チームがオフェンス時の初勝利を収める。クラークの投げた借り物の発煙手榴弾が起点となり、掩護射撃を受けたエリザが一気に突っ込み二人を排除。その後エリザは倒されたが、ソードがレティの隙をついたところを、再びAU−KVの機動性を活かして飛び込むことで、ディフェンスラインを突破した。防衛側は懐に飛び込まれると、最早対処のしようが無かった。
「そこまで。勝負ありだな」
 ハンクが試合を打ち切った。


●テストを終えて
 半日がかりの評価試験を終え、再びブリーフィングルームに集められた能力者達は、活発な意見交換を行っているようだった。練力消費が気になる者。重さが気になる者。もっと重くして良いから威力あげろーだのと、十人十色の反応だった。
「とにかく、さっきので嫌というほどに弱点は思い知らされた」
 ティーカップを傾けながら呟くレティには、大した疲れも無いようだった。
「うむ。ころころと移動して行動を無駄にするよりは、一所に留まって掩護を行う、というスタイルが基本になりそうである」
「動き回る、依頼、や、長期戦は駄目、かもです。後半は、かなり練力、苦しかった、です」
 ヴィンセントは熱っぽく語り、ルノアは眠そうに目を擦る。
「遠距離戦では心強いと感じました」
「動けませんでしたからね」
 顔なじみのアニーが執務中と聞いて引き返してきたクラークと、シャワールームから戻ったソードが話題に加わったところで、ハンクがブリーフィングルームに戻ってきた。
「全員の報告書は預かった。ざっと見たところでは、多少の仕様変更はあるにしても、このままの路線で行くことになるだろう。諸君の希望が通るよう、あとは俺がなんとかする‥‥のか‥‥。プレゼンの得意な傭兵が知り合いに居たら是非紹介してくれ。さておき、本日は協力していただいて感謝する。また、機会があれば協力をお願いしたいと思う。では、解散」
 踵を返そうとしたハンクが、ぴた、と足を止める。
「腹が減っていたら、SRP連隊執務室までくるといい。各種飲み物、食い物。英国式でよければ振る舞わせてもらうぞ。では今度こそ解散」