タイトル:晴れのち雨マスター:熊五郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/17 22:58

●オープニング本文


 最初は虫。次に鼠、猫、犬、牛、そして人。
 ありがちな人生は、ありがちな成長を経て、ありがちな完成を見た。
「‥‥あー、痛いの? どこが痛い?」
 この爪で皮を剥ぎ、肉を割き、指先から順番に切り落としてやる快感。
 逃げ惑うヒトを追いかけ、追いつき、追い抜いて、もうどうやったって逃げられないと悟った瞬間のあの表情を見たとき、ソレは理解した。虫や犬猫じゃダメだった。何故かって、ソレが人間だから。犬や猫が泣き叫び喚いても、ソレの心には響かなかった。だから、同種である必要があった。
 言わば、求めた形なのだ。誰かより頭が良くなくていいし、誰かより強くなくたって、弁が立たなく立って良い。ソレは、ただ、人を殺して遊びたいだけ。この爪がもっと鋭かったら。この足がもっと速かったら。そう願ったのは、より楽しく人を殺すため。
 自分が特別であるという意識などないし、特別である必要もない。ただ、そう在るためにこう成る必要があったので、そういう存在になっただけ。
「ごめんね、痛いよね、ごめんね、死にたくない? 助けてあげようか?」
 バグアとか、能力者とか、地球が大変だあーだこーだ。ソレには無関係でどうだっていいことだ。人より優れていなくて良い。その代わりに、誰にも邪魔をされたくない。そうやって追い続けているうちに、どんどん強くなったし、頭も回るようになった。そうやって自分をいじくりまわしていたら、気が付けば完成していた。
「なんちゃって♪」
「く、そ‥‥裏ぎりも――!」
 断末魔がそんなくだらない言葉だったので、思わず言い終わる前に力を込めてしまった。
 握りつぶしたコクピットが桃色に染まって、強化人間レインは寂しそうに微笑んだ。周囲に、おもちゃの機影はもう無い。
「はー、終わっちゃった」
 KVの残骸は五つ。ねぶってねぶって遊んでいたつもりだったのに、三十分足らずで終わってしまった。
「もう少し、粘ってくれないとボク暇なんだけどなあ」
 最近与えられたゴーレムは、確かに見たこともない、経験したこともない世界をレインに与えてくれた。でもあんまり面白くないのだ。別に、不甲斐ないUPC軍のKVのせいじゃない。この手で切り刻む感触が欲しいだけ。
 だから、本番はこれからなのだ。
「さってと、どこから食べようかな〜」
 レインは目を輝かせてゴーレムから飛び降りると、燃え盛るほんの小さな集落を見つめた。少なくとも、生のおもちゃが20個くらいある。
「ふふ、楽しみだな‥‥ん?」
 舌なめずりをした瞬間、レインは振り向き、遙か上空を睨んだ。
「‥‥邪魔者‥‥」
 歌うようだった声色が一気にトーンを落とす。特注のゴーレムに乗り込んだレインは、目を閉じ、周囲に隠していた七機のゴーレムに迎撃態勢を取らせる。
「傭兵かな。まあいいや。ボクの邪魔するとどうなるか、教えてあげる」

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
フィオナ・シュトリエ(gb0790
19歳・♀・GD
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD

●リプレイ本文

●憤り
 降り立った八機の巨人は、陽光を反射、或いは吸収し、鈍い輝きを見せていた。飛行時には行えない関節部の動作確認。姿勢制御チェックやら何やら。それらを速やか――数秒以内――に行う。背後には僅か一キロで集落。まごついていたら自分達諸共薙ぎ払われてもおかしくない。急ぎ各種チェックを行う間に、七人は不思議な音を聞いた。擬音にするなら、ギリ、とかそんな感じの音。なんとなく、それが何かは見当がついていたが。
 移動中に見せられた通信記録は酷いものだった。人を殺すのが楽しくて楽しくて仕方のない、頭のネジをどこかに忘れてきた手合い特有の、自分本位で、捕らえどころのない口調。断末魔を聞いて笑い、呪いの言葉を聞いて泣いたふり。心底不愉快な存在は、サイコパスと一言で片付ける気にはなれない怒りを、傭兵達に植え付けていた。
「斯様な敵をこれ以上暴れさせる訳にはいきませんねぇ。移動しますかぁ」
 ヨネモトタケシ(gb0843)の言葉を合図に、八人は機体を走らせる。隊列を組み、濛々と砂煙を上げて疾駆するナイトフォーゲルは美しいが、にじみ出す憤りの陽炎が、色も形もまるで違う八機を歪に見せる。
「賭けをしよう」
 平坦な声で、レティ・クリムゾン(ga8679)が言った。
「二人が敵エースを私達がゴーレムを片付けるより早く倒せるかどうか。そちらが勝てば、手作りのピザでも進呈させていただくよ」
 如何かな、とレティ。
「私は構いません。どうしますか?」
「面白い。受けよう」
 微笑さえ携えながら、穏やかなのは叢雲(ga2494)。振られた榊兵衛(ga0388)は不敵に笑む。
「ベットはもちろん、倒せる、でいきますよ」
「これは負けられない理由が一つ増えたな」
「では、そちらが負けたときの品については、適当に考えておいてくれると嬉しい」
「ええ、わかりました。そちらがピザなら、私はザッハトルテで如何ですかね」
 レティとは別の意味で平坦な調子で叢雲が言う。キラ、とフィオナ・シュトリエ(gb0790)の目が輝いた。
「話がまとまったところで、ちょうど見えてきたみたいね」
 智久 百合歌(ga4980)のにっこりと微笑みを浮かべているかのような声色がインカム越しに響く。前方にも砂塵が見えてきている。この調子なら接触は集落から二キロといったところだろう。気をつけて戦えば集落への被害は小さくて済むが、引き離すに越したことはない。
「少し、押す必要があるな」
「集落が近いと、気を使いながら戦う事になっちゃうからねぇ」
 兵衛に頷いたフィオナは雷電にスナイパーライフルRを握らせると、HUDを注視し射程を窺う。最大射程から、一発をお見舞いするつもりだった。
 情報では通常のゴーレムが七機に、強化されたエース機が一機。エースには二機を割くため、残り六機でゴーレム七機の相手をせねばならない。まともにぶち当たれば、相当のダメージを受けるだろう。現に、既にKVが何機も落とされている。油断はならない。
「三、二、一――」
 フィオナはスティックを握る手に力がこもるのを感じる。腰を抜かせ。内心で呟いて、
「――トルテー!」
 引き金を絞った。


●エリーゼ
「傭兵、能力者、強い?」
 獲物が八匹。レインは舌なめずりをして、震える体を押し止めようと、体を掻き抱いた。二十歳の成熟した女の体はぐにゃりと柔らかげに歪む。対照的に、輝く瞳と表情は子供のようだ。言うならクリスマス前夜、両親からのプレゼントに心待ちにしている少年。眠れない、興奮で火照った体を抱きしめながら、羊を一匹一匹数えるかのよう。
『トルテー!』
 筒抜けの無線を傍受しているレインは、咄嗟に特製ゴーレム――エリーゼ――を翻らせる。周囲のゴーレムとは根本から違うような、細身で丸みのあるデザイン。両腕の先についた巨大な爪をだらしなく垂らし、ふわりと宙を舞う。眼下を、弾丸が空気を切り裂いて通り過ぎていく。背後のゴーレムに着弾したKV専用ライフル弾を見つめ、レインは笑う。
「ボク、楽しみにしてたんだ」
 視界の端で、百合歌のワイバーンがスナイパーライフルのトリガーを引いたのが見えた。着地と同時に今度は左へ跳躍。再び、先ほどと同じゴーレムに着弾。ゴーレムがバランスを崩す。レインは目を満月みたいにまん丸に。そして哄笑。
「あっはははは! 楽しみにしてたんだああ!!」
 腕をぶら下げたエリーゼが加速する。他のゴーレムもそれに付き従う。八機と八機はあっという間に接触する。きらきらわくわくしているレインの前に、
『‥‥なるほど、情状酌量の余地もない奴が相手らしいな』
 巨大な槍を携えた雷電が立ちふさがる。
『戦うならば、せめて尊敬できる勇敵と戦ってみたいものだが、今回は即時殲滅だな』
 想定より素早く飛び込んできたエリーゼを見、飛び出してきた兵衛だった。だがそんなことどうでもいい。レインは哄笑のボルテージをもう一つ上げると、嬉々として雷電へ爪を突き立てに行く。そこに、青白い閃光が降り注いだ。レインをしてヤバいと思わせるほどの一撃。
『サシの勝負は、認めません』
 レインの額に、生まれて初めて冷や汗が滲んだ。


●作戦通り
「‥‥うまく分断できたみたいね」
 紅 アリカ(ga8708)はハイディフェンダーを油断無く構え、取り巻きのゴーレムの一撃をひらりと避けた。六人の一斉攻撃によって、ゴーレム七機は足止めされている。エース機も二名が抑え、こちらへは戻れない。理想の展開だった。あとはゴーレム七機を微塵に砕いてやればいい。ただ、それはそれでなかなか難しい。
 次の獲物へと手を伸ばそうとしたアリカを掠めるようにして、輝く速射弾が飛ぶ。連続して弾着音が響くと、ゴーレムはたまらずアリカに狙いを付けていた刃を収め、弾けるように飛び上がった。
「‥‥ありがとうアセットさん」
「油断も隙もない! 後ろは任せて」
 振り返れば、アセット・アナスタシア(gb0694)のシュテルンがレーザーガトリング砲を構えて仁王立ち。義妹の勇姿に思わず口端を吊り上げる。背後は任せられる。判断し、アリカは機体を走らせる。ハイディフェンダーを上手に構え、アセットの掩護を借りながらの袈裟斬り。
「‥‥ま、一撃とはいかないか」
 大きく後ずさったゴーレムに向け、挑発的に刃を向ける。
 と、アセットの背後から飛び出してきたダークグリーンのアヌビスが、機刀「白銀」を煌めかせ、別の一体へ斬り掛かる。野太い腕でそれを受け止めたゴーレムを見るやすかさず蹴りを放ち、距離を取る。
「いやはや、賭けがあるのでは、手は抜けませんなぁ」
 大地を揺らしながら着地したタケシが、ふうと息を吐きながら言う。
「私が勝手にやったことなのだから、気にせずいつも通りで構わないのに」
「気合いが入る、ということですよぉ」
 なるほど、と頷いたレティは平静そのもの。要らぬ心配をしたか、とタケシは苦笑する。
 そんな四人から僅かに距離を置いて、フィオナと百合歌がゴーレムを相手に大立ち回りを演じていた。
 半月刀で執拗に敵に食らいつく雷電を、廃熱が生む陽炎が追う。地響きと雷鳴のようなエンジン音が入り交じるなか、ゴーレムの片割れが乱入せんと距離を詰めるが、突如迸った光線によって阻害される。動きを止めたゴーレムは、邪魔をした百合歌機を恨めしげに睨む。
「いくらでも邪魔してあげるわ。此処から先へは進ませない」
 冷たい声色で言い、光線を次々とゴーレムの頭部に命中させていく。
「うまいね」
 半月刀を振り抜き、ゴーレムの装甲を切り裂いたフィオナの調子も上々だ。
「いえいえ。でも、少し皆と離れすぎたわね。牽制しつつ戻りましょう」
「了解」
 半月刀からガトリングへ持ち替えたフィオナは、言われた通りゴーレムの動きを制するように掃射し、少しずつ下がっていく。
 六機が揃うと、一瞬双方の攻撃が止んだ。お互いに敵の弱い部分を探る。ほんの一瞬の視線の交差のあと、
「それね」
 百合歌の声で、アセット、レティがトリガーを引く。集中した火線に耐えかね、また周囲の六機が散った瞬間、アリカ、タケシ、フィオナが飛び込んでいく。
「援護射撃する! 当たらないようにね‥‥!」
「了解。『フレキシブル・モーション』発動‥‥この動きを見切れますかなぁ?」
 アリカ、フィオナは途中で折れ、反転し飛びかかってくるゴーレムに刃を突き付ける。タケシは白銀を下段に構え、腰部ブースターの出力を上げ加速。ゴーレムに接近すると、渾身の斬り上げ。掩護射撃によるダメージの蓄積部をざっくりと切り裂かれ、一体目のゴーレムが沈黙した。
「次」
 冷静に、レティは場を見回していた。


●想定外
 喜びの震えが、緊張によるそれに変わるまでに、時間は必要なかった。
「具合でも悪いのですか? 先ほどから、笑い声が聞こえませんが」
 言葉はレインには意味をなさない。都合のいい部分しか聞こえないし、聞こうとしない。だがそれでも不快感はあった。叢雲の挑発は、恐ろしく頭に来る。だが何かを言い返すことも、そちらに駆けていって切り裂いてやることもできない。しつこく振り回される槍が、レインに逃げ場を与えない。レインはエリーゼにひたすら逃げさせていた。攻撃に転じる暇がない。
 何も、レインだけが苦戦しているわけではない。兵衛、叢雲も、この頭の飛んだ女一人に苦戦させられている。目の前にいるのにするすると攻撃を避けられる兵衛のストレスは耐え難いものだろう。動き続けるためにろくに照準を絞れない叢雲にしてもそうだ。
 だが、二人はレインを捉えつつある。
 楽しくない。面白くない。
 これじゃあいけない。
 全てはレインの前に無力であるべきなのだから。
「ボク、が‥‥」
 ぽつん、と呟いて、レインは目を見開いた。思考回路が切り替わる。逃げなければ。死ぬわけにはいかない。レインは殺し続けなければ。
「‥‥ふふ。もういいや」
 オープンチャンネルの回線越しに漏れる笑い声。
 それを聞いて兵衛は何かを悟る。
「逃がさん」
 渾身の突きが、とうとうエリーゼを捉えた。倒れるエリーゼにチェーンファングを巻き付け、叢雲に合図。確認するが早いか、叢雲機はブースト全開。レインの真上に跳躍し、一刺しにしてくれると杭を構える。着地と同時に炸薬が杭を打ち出し、細い流線型のゴーレムの胴体を貫いた。続けざまに機針を繰り出そうとした瞬間、
「あー、穴みっけ」
 エリーゼの腕がチェーンを破り、押さえ込む忠勝をその爪で貫く。
「この‥‥」
 そのまま忠勝を引き倒し、叢雲の視界からゴーレムを隠すようにする。叢雲は諦めて下がり、再びレーザーライフルを構える。
「やーっと穴あいた。疲れた。面白くない」
 兵衛は倒れる瞬間に槍をゴーレムの足に突き立てていた。地中まで突き刺さった槍は、そうそうは抜けない。だがエリーゼによる拘束も、そう簡単に抜けられるものではない。
「これはまた、面倒なことになっちまったな」
 自嘲気味に言う兵衛の忠勝は、ゴーレムの上でスラスターライフルを構えた。


●逃走
 辺りには三体のゴーレムの残骸。残る四体のうち一体に、ハイディフェンダーが突き刺さる。
「気を引き締めていこう。ここでダメージを受けるとよくない」
 アリカがゴーレムから武器を引き抜くのを見て、レティが言う。彼女のディアブロは肩部に大きな損傷を負っていた。百合歌、アセットの機体もダメージは大きい。途中、ゴーレムの作戦変更によって後衛が集中的に狙われた。前衛、後衛を入れ替え対応したため、二体を撃破したが、引き替えに全機がダメージを負う。
「っ! 何かおかしい!」
 ゴーレム達の動きが変化したのは、兵衛がエリーゼを捕らえたのと同時だった。
 いち早く察したアセットがガトリング掃射。ゴーレム三体は光弾を受けながら、六機を迂回。エース機を捕らえた二機の方へ全速力で抜けんとする。
「‥‥させない」
 近接兵装の機体も射撃兵装へと持ち替え、三体のゴーレムに一斉掃射。ゴーレムは射線に折り重なるような一列縦隊。六人の渾身の砲火も、後方の一体に集中するばかり。回避する素振りも、やり返してくる素振りもなく、一直線にレインの下へ。
「強化人間を逃がす気?」
「逃がすかー!」
 スナイパーライフルでゴーレムを貫きながら百合歌とフィオナ。ようやく最後尾の一体が耐えきれずに沈黙するも、残る二体は既に兵衛に接近。
「叢雲さん!」
 タケシが叫び、叢雲が振り返る。迫るゴーレムを見、状況を確認した叢雲は前列のゴーレムにレーザーライフルを連射する。直撃を受けたゴーレムは進路を変更。叢雲目掛けて一直線に飛んだ。その隙の縦隊の真ん中にいたゴーレムが兵衛に突撃。押さえつけた状態のエリーゼに、スラスターライフルで弾丸の雨を食らわせていた兵衛は、咄嗟に機盾でゴーレムのタックルを防ぐ。しかし機体は楔になっていた槍と共に大きく吹き飛ばされる。
「この辺で、失礼させていただきますよ。傭兵の皆様方」
 低く抑えた声で言ったレインは、すかさず大破寸前のエリーゼを起こし、逃走。
「なんちゃってーー♪ バイバイ」
 負け惜しみのように叫ぶ。
 六機の掩護で二体のゴーレムを瞬く間に破壊した八人は、全ての力を逃走に費やしたレインに追いすがろうとするが、それはUPCの早期警戒機からの入電で中止された。


●救えたから
「取り逃がしたのは、こちらの不手際だ。賭けは私の負け、ということで」
 八人は無傷だった集落で、一泊することになった。レインが呼んだのか、周辺空域に多数のHWが確認されたためだ。現在UPCの空戦部隊と、傭兵による掃討作戦が展開されている。損傷した機体で作戦に加わるわけにもいかず、どうしたものかと途方に暮れていたところに、集落に受け入れの用意があることを教えられ、今に至る。
「連携をしくじった時点で、こちらの勝ちは無いかと思いましたし、ここは引き分けで如何です?」
 叢雲の提案に、レティが「む」と唸る。
「言い訳をするわけじゃないが、対峙したときから、逃げも考慮に入れている動きだった。イカレてるだけかと思いきや、だな」
「引き際の大胆さだけは評価できる、というところでしょぉなぁ」
 兵衛とタケシはテーブルに出された暖かいお茶をすすりながらこぼす。
 アセットとアリカは別の卓で村人と談笑し、百合歌は村の子供の輪の中でにこやかに話を聞かせていた。
「引き分けだと、もしかしてトルテ無い?」
 ひょっこり現れたフィオナがお預けを食らった犬のような目をしている。
「引き分けですから、お互いに出しましょうか。楽しみにしていた人もいるようですし」
 叢雲はフッと微笑を浮かべた。
「そうだな。帰ったら振る舞わせてほしい。この村に、傷一つ付かなかったことを祝して、ね」