●オープニング本文

★注意
　この依頼は【危険】フラグ付きです。（ネタ的な意味で）


　夏休みも間近なカンパネラ学園。
　本校舎の生徒会執行部に呼び出された遠藤　春香（gz0342）は、革張りのソファにきまり悪そうに腰掛け、きょろきょろと室内を見回していた。
　彼女も一応、生徒会の一員なのだが所属は「その他大勢」的ポジションの事務部、しかも下っ端の雑用係。
　最上位の執行部など、もはや住む世界が違うのだ。
　と、その背中で扉が音を立てて開いた。
「待たせたな」
　入ってきたのは生徒会副会長、ティグレス・カーレッジ。春香とはいつぞやの大規模以来の顔見知りだ。
　本来なら春香のような一般生徒とは接点すらない程の優等生なのだが、春香にとっては『仲の良い先輩』的位置づけでしかない。
「こんにちはぁ、ティグレス先輩」
　向かいのソファに腰を下ろした上級生に、少女はぺこりと頭を下げる。
「うむ。今日君に来てもらったのは他でもない。‥‥生徒会事務部に、学園のプール掃除をお願いしたいんだ。非常に危険な任務であり、心苦しいのだが‥‥」
　何故か、ティグレスの表情は冴えない。いや、苦虫を噛み潰したような『苦渋の決断』的顔といっても過言ではない。
「プール掃除？　なんだそんなことかぁ♪　オッケーオッケー、お安いご用ですよぅ！　暑いし水遊び気分でできるし、楽しそ‥‥」
「遠藤、今回のプール掃除は、去年までとは違うんだ」
「‥‥え？」
　きゃらきゃらと浮かれていた春香も、ティグレスの態度と物言いに、さすがにただ事ではないと悟る。
　そこで副会長はついとソファから立ち上がった。
「百聞は一見に如かずだ。見に行くぞ」

　件のプールは、特殊施設エリアの中ほどにあった。満水時は水深１・５ｍ、２５ｍ×７コースからなる正式な競泳用プールである。
　もっとも現在は掃除に備え、あらかた水は抜かれていた。そしてその底を見た春香は、叫び声を上げていた。
「ちょ、なにこれえええええ！！！」
　彼女が慄くのも無理はなかった。何しろプールの中は水の代わりに、うねうねと蠢く触手で満たされていたのだから！
　触手は人間の指程度の太さで、長さはざっと２ｍぐらいはあるだろうか。無駄に細やかな動きで、くねくねうねうねしている。
「無理無理無理無理絶対無理！！！」
「大丈夫だ遠藤。触手じゃない、草原だと思えばいいんだ」
　踵を返し立ち去ろうとする春香の腕を、ティグレスががっしりと掴む。
「や、明らかにキメラじゃないですかぁ！！」
　なるほど春香の指摘通り、草原（比喩的表現）の根元には、直径２ｍ程の円盤型の根っこがついていた。
　触手草原の正体は、植物キメラの群体であるようだが、だがしかし。
「っていうか何でプールが、こんなことになっちゃったんですかぁ」
「‥‥科学部が実験キメラの排水を、プールに捨てたんだ。どうもその排水に子株の欠片が混じっていて、それがここ数日の高温と日光、富栄養化したプールの残り水を栄養に、爆発的な成長を遂げたらしい‥‥」
「だ、だったら科学部に退治してもらいましょうよぉ！」
「彼らは今、反省文提出と一緒に課したペナルティで、グリーンランドで鮭を数える仕事に赴いている‥‥」
「ぐ‥‥」
　春香は黙り込んだ。これ以上ティグレスにごねても、埒はあかないのは明らかだ。
「幸い、たいして強度のあるキメラではない‥‥見ていろ」
　ティグレスはプールサイド倉庫に走り、バトルモップを手に戻ってきた。
　柄の端をつかみ、モップを触手にむけて何度か強く振り回す。
「あ、ちぎれた！」
　触手はバトルモップに絡みつきはするも、ぶちぶちとちぎれて底に散る。
　柄についた白っぽい液体はてらてら光って、これまた気色悪い。
「なるほど‥‥プールサイドからそうやってモップで退治するんですね。それならボクでも何とか‥‥」
「いや、残念だが」
　ティグレスは申し訳なさそうに、触手の隙間から見え隠れする根っこを指さした。
「下の本体を潰さない限り、触手は延々と再生するようだ」
　彼の言葉を裏付けるが如く、先程ちぎれた触手の断面から、新たな触手が早速生えてきている。
「つまり遠藤には、プールの底に降りてもらわねばならん」
「えええええええ」
「ついでに説明しておくと、触手は先端から消化液を分泌する‥‥ただちに人体に影響のあるレベルではないが、衣服などは溶かされるかもしれん‥‥」
　これはアレだ、モップの柄についた白っぽい液体が、それに該当するようだ。
「そ、そんな仕事を女の子に依頼するなんて、先輩サイテーっ！」
「ご、誤解だ。本来なら僕が担当したいが、あいにく別の依頼で‥‥もちろん君一人でやれとは言わない、正式な『依頼』として、ＵＰＣ本部を通して構わないから」
　涙目の春香をなだめる生徒会副会長のポケットで、携帯電話が着信を告げるメロディを鳴らした。
「はい、ティグレス・カーレッジです‥‥了解しました、すぐに現地に向かいます‥‥！」
　一瞬にして仕事モードに入ったティグレスは、後輩の肩をぽんと叩く。
「では遠藤、あとは頼んだよ。‥‥人数分のバトルモップは準備しておいた。大丈夫、君なら出来る」
「ちょ、先輩待ってよおおおおお！！！」
　あとには春香の悲痛な叫び声が、夏空にこだまするのであった。
　──頑張れ。超頑張れ。

●参加者一覧

●リプレイ本文

　今回の依頼は戦闘依頼とは言え「触手プール」である。
　読者諸兄がこの報告書に「悪しき植物キメラとのガチバトル」など期待していないことは、記録係だって理解している。
　ここで求められているのは
「えろくた‥‥エロしくたの‥‥」
　ジリオン・Ｌ・Ｃ（gc1321）　の一言に集約されるだろう。

　望むところだァアア！！


●
「さあ、美雲ちゃんイくでェっ♪」
　制服でもじもじする諌山美雲（gb5758）の手を、競泳用水着一丁の相沢　仁奈（ga0099）が握った。
　プールサイドを走り、華麗にジャンプ！
　さわやかな水飛沫‥‥の代わりに、粘液が湿っぽい接触音を立てる。
　文字通り飛び込んできた獲物２体に、キメラたちは動きを止めたが、それは　一瞬。
「キたでえ！」
　すぐさま捕食のために魔手をくねらせはじめた！
「くっ、こ、こうなったら、暴れるだけ暴れるのみっ！！」
　さっそくスカートを捲ろうと頑張る触手を踏みつけ、美雲が覚悟を決めた。
「とぅりゃああっっ！！」
　己に気合を入れ、バトルモップを大上段に振り回す。触れた触手はちぎれ、プール底に落ちた。
「やったぁ♪　‥‥あっ！？」
　しかし断面には新たな先端が生えはじめている！
「服が‥‥！」
　さらに、飛び散った粘液は美雲の制服の表面を溶かしているではないか！
「あぁん、何かネバネバするぅっ！」
【スカートを溶かす、そしてその下のチェック柄の装備も無きものにする。　がんばる（仮プレ）】
　キメラは、実に積極的なチームプレイ──役割分担に打って出た。すなわち　バトルモップを振り回す腕を捉える触手、
「ま‥‥まだいける！　まだ‥‥大丈夫っ」
　そして美雲の戦意喪失を狙う‥‥具体的には制服の胸元をホールドする触手（美味しい、いや不届き千万であるゲフンゲフン）、
　さらに太ももに取り付き、チェック柄を撃破せんと奮闘する小隊といった具合に。
　美雲は１９歳。人妻とはいえ、まだまだ幼さを残したお年ごろである。
「これさえいなくなればっ‥‥ちょ、ちょっとお！」
　何とか抜けだそうともがくが、蹴った足先に何故か捕食口があったりと、ドジっ娘スキルが発動してしまうのだから始末に悪い。
「やあん‥‥美雲ちゃん、ごめんなっ‥‥うちが‥‥ノープランやったせいでッ‥‥♪」
　少し離れたところで別の触手と闘う（？）仁奈が、苦悶する美雲を振り返った。
　彼女は競泳用水着１枚に素手であるから、状況は美雲よりはるかに悪い。
　否、楽しんでいるのだから、良いのか？
「あっ‥‥そないにされたら、うち‥‥！」
　仁奈の水着は既にほとんど溶け落ち、無数の触手が迫力のＦカップに「そーれ、ハッスル！　ハッスル！」していた。
　狡猾なことに蔵倫を慮ってか、胸の先端はしっかり隠すあたりが憎たらしい。覆いながらもあはんうふん♪なお仕事（具体的には書けないので察して下さい）は忘れないものだから、仁奈はたまったものではなかった。
「あかん‥‥あかんて‥‥そこはあか‥‥！」
　唯一残るだいじな部分の布も、そう長くは持たなさそうだ。ちょ、もうやめて！　水着のＨＰはゼロ（に近い）よ！
「ひゃうんっ！？」
　おーっとここで首筋の触手が金髪をかき分け、顎を伝って仁奈の口に潜り込んだァァー！
　１本、２本、さらに３本目ーーッ！　それぞれ動く！　好き勝手に動く！
「んっ‥‥んんっ‥‥」
　と、このままでは蔵倫を振りきってしまいそうなので、カメラをジリオンに移すことにする。
　傍らでまじめに触手退治をしていたジリオンであったが、ついに女性陣の痴た‥‥もとい、窮地に気づいてしまった。
「ぬあーなんということだー！　なかまがだいぴんちだー　勇者アーイズ！」
「や、やらしい目でこっち見たら、ぶっ殺しま‥‥」
「今俺様が今代わってもら‥‥じゃなかった、助けてやるぞ！！」
　顔を真赤にして喚く美雲にうざやかに微笑み、超機械「扇嵐」を起動。
「勇者！　ウィーンド！　魔王の手先ども、吹き飛ぶがいいー！！」
　が、日頃の行いゆえかはたまた初期不良か、起こるべく竜巻はそよ風にしかならなかった。
「く、くそっ、運命の女神よ！　俺様に力をー！」
　焦る、ジリオン。忍び寄る、反撃の触手。
「うおぉ！？」
（女性陣担当と比べると）明らかにやる気なさげなうねうねが腰に絡みついたのだ。粘液がズボンを溶かす！　下着を露にする！
「ひ、卑怯だぞ魔物め‥‥ひぉっ！？」
　触手がジリオンの主兵装に伸びた。「扇嵐」ではなく伸縮自在の漢の剣に狙いを定める。
　嗚呼、切っ先を狙い柄を握り‥‥って、このあたりの報告は誰得なので割愛。
　そうこうしている間に不調だった超機械のスイッチがようやく入った！
「うおぉ！　きた、きた！　俺様復活！！」
　勇者はマントを無駄に翻し、発生した竜巻で女性陣に纏わり付く触手を切り裂いてゆく。
　助けだされた２人はここぞとばかりに、本体に乙女桜と拳を奮ったのであった。
　そうそう、大体片付いたところで
「はふぅ、身体の火照りが収まらんわぁ‥‥♪」
「ありがとう、ジリオンさん！　‥‥って、危ないっ！？」
「ぬおぉぉ！？　俺様、貞操の危機！？」
　美雲が勇者を粘液だまりに突き飛ばしたことを付け加えておく（生き残りの触手から庇うためだったらしいよ！）。


●
　プールサイドの対面に回りこんだリズィー・ヴェクサー（gc6599）とエレシア・ハートネス（gc3040）は、祝部　陽依（gc7152）とキメラをはさみ込む形で掃討に取り組んでいた。
　それぞれ衣服の下に水着を着こみ、防御はバッチリ。
「ん‥‥結構いっぱい居るみたいだね‥‥」
　けしからん魔乳を誇るエレシアが超機械「ミスティックＴ」を奮って前衛をつとめ、
「メリッサ！　いくのにゃー！」
　刈り残しはリズィーが、超機械「ビスクドール」の放つ電磁波で片付けてゆく。
「せーのッ、せぃッ！」
　反対側からは陽依がモップを元気よく振り回し、これまたいい掃除具合。
　ぶちぶちと千切れ散りゆく触手共に、少女たちは顔をほころばせた。
「ん〜、数は多いけど弱いから楽勝かな？」
　そ　ん　な　は　ず　は　な　い！
　楽勝モードを覆さんと、リズィーに数本の触手どもが迫る！
　得物をハニービーに持ち替えようとした間隙をついて、細い両腕を捕まえたのだ。
「あっ、メリッサがっ」
「リズィー‥‥！」
　最前線で刈り取り作業をしていたエレシアが相棒の窮地を救おうと慌てて振り向いた。
　が、獲物の動揺と攻撃の手が緩んだ「チャンス」を触手どもは逃さなかった。
「‥‥っ！？」
　まずは１本が、エレシアの膝下に絡みつき、ぐいと持ち上げた。足を掬われたエレシアは、守ろうとした少女を押し倒す格好で、プール底に倒れこんでしまう。
　ずちゃああっ！　底に溜まっていた粘液が水音を上げた。
　しぶきが瞬く間にふたりの衣服と、その下の水着を溶かしてゆく。
「ん‥‥リズィー‥‥ごめん‥‥大丈夫‥‥？」
　すぐさま身を起こそうとするエレシアだったが、リズィーの肌が露になりつつあるのに気づき、一瞬怯んだ。
　さらに自分も衣服が既にボロボロで、水着も侵食されつつある身であることを悟る。
　年若き乙女に、そんなの気合で乗り切って立て！　というのは、酷な話だろう。
「エレシアっ‥‥苦しいよぅっ」
　けしからん乳の隙間に顔が埋まり、酸欠に陥りかけたリズィーが小さく呻く。ふたりの胸と胸の間に潜り込んだ触手も苦しかったのか、空気を求めるように動き始めた。
「えっ‥‥あ、ああっ？」
　うねうね、さわさわ。勿論エレシアとて、他人ごとではいられなかった。
「この‥‥リズィー‥‥から、離れ‥‥くっ」
　エレシアはとっさに離れかけるも、腰が砕けて叶わない。
「やあんっ」
　リズィーの上にくずおれる度にふたりの胸がぶつかりあい、キメラの体組織と分泌液を巻き込んでしまう。
　美少女おっぱいサンド（特盛）に産直触手、とれたて粘液ディップ添えとでも評するほかない、ひどいカオスだ。
「やだぁ‥‥くすぐった‥‥いっ」
　とりわけ、裸足で掃除に挑んだリズィーは、文字通り頭の先から足の指の間まで美味しくなめ尽くされていた。
　胸元もお腹も太ももも、言わずもがなだ。
　断続的に触手の先端から、粘液が勢い良く吐き出される。
　鼻先で炸裂したそれに、少女は呆と呻く。
「ぐすっ‥‥ボク、穢されちゃった‥‥よぅ」
「こっ、こらあ！　ふたりから離れろおっ！？」
　おっぱいサンド（特盛）‥‥もといエレシアとリズィーの窮地に、陽依が大声で喚いた。
　かくいう彼女も別の触手たちに両手両足を捕まえられ、大の字で拘束されている身だ。
　ぶっちゃけ他人を心配している状況ではないのだが、正義感ゆえ黙っていられなかったのだろう。
「な、何よっ」
　煩い、と言わんばかりに、フリーの触手が頭をもたげた。しゅるしゅると太ももを伝い、脇腹をくすぐる。
「はにゃへっ、てばっ‥そこつつくなぁっ！？」
　のけぞった背と首筋にも、新たな脅威が迫った。さわさわ、ねっとり。それぞれ意思在るかのように動く。
「ひぅっ‥！？　変な所入んないでっ！」
　弱点である耳に潜りこまれ、ついには懇願する。そしてその願いは──！
「うおー、じゃあくなるばけものども、ゆるさないぞー！　勇者アーイズ！！　
　ふたたび俺様に不見逃の力を！」
　美雲、仁奈と一緒にキメラ本体を退治していたジリオンが聞き届けた。なぜか探査の目も発動したが、そこはまぁ、おいておく。
　しかし彼が「とーぅ！」するより早く──！


●
　乙女３人組より、触手を隔てること数十メートル。
「わあ〜、プールの底が見えてきましたね！」
　須佐　武流（ga1461）、ユーリー・カワカミ（gb8612）の二人と組み、順調に触手の伐採を進める遠藤　春香（gz0342）がいた。
　手には武流が貸してくれたタイガーファングと超機械「扇嵐」、目の前には触手から守ってくれるユーリの背中。
（ひどい依頼だと思ったけど、悪くないかも♪）
　年上男性２人による「女の子」扱いにゴキゲンなのはナイショだ。
　今までの依頼でこんな大事にしてもらえたことがあっただろうか。いや、ない（反語）。
「油断するなよ、ほら足元」
　あぶなっかしい手つきと足取りでナイフを振るう春香の数倍の速度で、武流はざくざくと触手を片付けてゆく。
（ったく、なんで俺はここにいるんだ？　‥‥ってゆーかカンパネラはロクなヤツがいないのかっ？）
　恋人と同じ学園生である少女に哀れを感じての参戦だったが、触手の気持ち悪さうざったさは、彼の想像を超えていた。
　なにしろ粘液まみれの先端は
「わーセンパイっ、彼女サン専用主兵装がピンチですっ！？」
　武流の水着をさわさわし、その下のナニを掴もうとしていたのだから！
「‥‥この触手め‥‥」
　想定外のセクハラ（？）と後輩の物言いに頭痛を感じつつも、ペネストレイターがミスティックＴを振るう！
「離れろ！」
　隙間から覗く本体をいち早く見つけ、蹴りを見舞うことも忘れない。もとより脆弱な本体は、スコルの威力の前にあっけなく沈んだ。
「さあ、地獄を楽しみな‥‥！」
　なーんてな、と付け加え、次なる標的は斜め前方の本体。
　数秒の後プール底に崩れたキメラの隙間から、視界が開けた！
「くっ‥‥なんということだ！」
　バトルモップと刀で触手を刈り取っていたユーリが、目の前の光景に呻く。そう、彼が見たものは。
「た、助けてえっ」
「あ‥‥いやぁっ‥‥見な‥‥」
　触手に大の字に拘束された陽依と、プール底で二人まとめて絡めとられ藻掻くエレシア＆リズィーの姿だったのだ。
「うおぉぉぉ！？」
　わかりやすく、実にわかりやすく独日クォーターが顔を赤らめる。
　女性に免疫のない青年にとって、目の前の光景は（触手の隙間越しとはいえ）あまりにも刺激的すぎた。
「ユーリセンパイ大丈夫ですかっ！？　鼻血がっ！？」
「‥‥だ、大丈夫‥‥！」
　鼻と口を手で覆い、ユーリは平静を装う。
　そうこうしている間にも空気を読まない触手が足やら腿やらを撫で回すのもダメージだ。
（‥‥くっ‥‥ど、どうにも‥‥やりづらい‥‥）
　しかし彼女たちから目を離せない‥‥もといピンチなのも、まぎれもない事実。
（ええい、落ち着け‥平常心、平常心‥）
　何とか自分に言い聞かせ刀を握りしめ、武流に視線を移す。
「あ、あのような危険物にこれ以上、好き勝手させるわけには行かん。‥‥行くぞ！」
「ああ」
「はいっ！」
「あ、遠藤殿はいいから」
　戦力外（足手まといとも言う）のドラグーンをプールサイドに上げた後、二人は乙女の救出に身を翻した！
　や、失敬。二人じゃなかった。
「と──う！」
　勇者も颯爽と（？）飛び込んできたし、
「さあ、そろそろ片付けてしまおか♪」
「この、セクハラ触手めっ！！」
　仁奈も美雲も、駆けつけてきた。
「よーしっ触手さえ解ければこっちのもんッ！　あんまり調子に、乗らないでよッ！」
「うぅ‥‥よくもえれしーとボクをめちゃめちゃにしてくれたよぅ‥‥」
「ん‥‥リズィーの分も‥‥お返しは、きっちりさせて貰いましょう‥‥」
　触手の拘束から解き放たれた乙女３人も、怒りと復讐の目を生き残りキメラ数体に向ける。
「えろくた‥エロしくたの‥じゃない、覚悟しろ、魔王の手先よ！」
　台無し感漂う朱鷺の声ではあったが、まあそれはソレ。
　触手があらかたなくなった植物キメラなど、もはや能力者の敵ではなく──。

「わぁ、触手がみんな動かなくなっちゃったー！　すごーい！！　あとはお掃除だけですねっ♪　ブラシブラシっと♪」
　プールサイドで春香は飛び跳ねて喜び、ブラシを取りに倉庫へと急ぐのであった。
　なかなかに人使いの荒い娘である。


●
　それから２時間後。
　触手プールは安全で清潔なプールにと生まれ変わり、歓声を夕方の学園に響かせていた。
「ぷはっ、気持ちいーっ」
「んー‥‥ふぅ、きもち〜のよ‥‥ね、えれしー？」
　陽依とリズィー、そしてエリシアは水の感触を全身で楽しみ、
「いっそ触手プールのままでも、ウチはよかったんやけどなあ‥‥」
　火照った身体を冷やす仁奈は、少しばかり残念そうだ。
　プールの端では、武流が春香に水泳のレクチャー中。
「さ、遠藤。一番プールってことで、飛び込もうぜ？」
　そして木陰のデッキチェアでは、鼻血を噴出したユーリがぐったりと横たわっていた。女性陣の姿を至近距離で直視した彼は
「‥‥落ち着け‥‥私が悪かった‥‥他意はなかったんだ‥‥いや本当に‥‥！」
　まどろみの中で良心の呵責に苛まされていたとか、いなかったとか。
　そして飛び込み台に片足をかけたジリオンは、西日に向かって荒ぶる勇者のポーズをとっていた。
「俺様の勇者街道は始まったばかり！　ときめきながら待ってろよ！　運命の女神よォォ！」
「ジリオンさん、今日の記憶は消去して下さいね？」
　顔は微笑みつつも目は怒ってる美雲の声が、勇者に聞こえていたかどうかは、定かではない？