タイトル:【BV】再利用【共鳴】マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/04 19:58

●オープニング本文


 凍てつく大地、グリーンランド。
 北部に位置する「ホワイトバレイ」で、大規模戦闘が繰り広げられたことは、強靱なる傭兵諸兄にとって、未だ記憶に新しい出来事ではないだろうか。
 人類は少なくない犠牲を払いながらも、相応の戦果を掌中に収めることが出来た。
 それは重力制御装置の確保であったり、バグア軍の氷上基地の破壊であったりだ。
 だが、今回諸兄にお話するのは、それらよりは見劣りする、小さな戦果に関することである‥‥。

 諸兄は大規模戦闘の終盤に、軍がホワイトバレイで捕獲したバグアの戦闘員をご存じだろうか。
 自らを「ハーモニウム」という組織の一員と名乗った「それ」は猫耳と尻尾がある以外はどこにでもいそうな子どもであり、現在もゴットホープ基地にて拘留されている。
 量産タイプとはいえ最新鋭機「スノーストーム」の操縦桿を握っていた「それ」に、ゴッドホープの科学者は、淡い期待を抱いた。
 人類の知りえぬテクノロジーを紐解くきっかけを、知っているのではないだろうかと。
 それは好奇心か探求心か、はたまた出世欲か。
 科学者達はオーソドックスな催眠誘導を用いて、「それ」の頭の中を覗いた。
そして失望と同時に、極めてどうでもいい情報を得た。‥‥すなわち子どもの名前がノアということ、「ハーモニウム」の構成員‥‥ノアの友人の名前を数名分、そしてスノーストームのテクノロジーは極めて頑強なブラックボックスに収められているということを。
 いや実のところは、ノア‥‥否、ハーモニウム特有の特徴をも得たのだが、テクノロジー解明の足しにはならぬと判断した科学者たちが、興味を持つ情報ではなかった。

「バグアにしては変わったメンタリティを持つ個体といえるだろう。組織への忠誠が殆ど見られない代わりに、仲間への依存が強く出ている。多くの強化人間に仕込まれている、自死のプログラムも組み込まれていない。‥‥いやむしろ、これは強化人間というよりは」
「うむ、群生を刷りこまれたキメラに近い」

 科学者は興味なさげに続けた。
 上手く懐柔するなり尋問するなりすれば、催眠誘導以上の情報が引き出せるかもしれない。
 例えば「ハーモニウム」の詳細な組織構成であるとか、パイロット目線で見たスノーストームのあれこれであるとか。
 ひょっとしたらチューレ基地の内部情報‥‥保有戦力なども得られるかもしれない。
 だがそれはカウンセラー、ないしは刑吏の仕事だ。
 あるいは暇な傭兵か学生にでも、任せておけばいい。


 そんなわけで。
 ホワイトバレイで捕獲された「ハーモニウム」は、今日もゴットホープ最下層の独房の床に座り込んで、高い天窓ごしの空を見上げている。
「‥‥みんなやられてないかな‥‥アストレアさんは大丈夫そうだけど‥‥フィディエルは‥‥ウィルカのフォロー次第かなぁ‥‥」
 ノアは知らなかった。
「‥‥Ag‥‥ノア、もうここに居るのやだ‥‥ごはんは悪くないけど‥‥でもやだ‥‥」
 己の見上げる空が実は仲間とは繋がっていない、地下にくりぬかれた洞窟の天井だということを。
「でもきっと、みんなは来たらダメなんだ‥‥がんばる。ノアがんばる、ニンゲンには負けない」
 動きを妨げる枷が、外からの光を受けて鈍く光った。

●参加者一覧

西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
小野塚・美鈴(ga9125
12歳・♀・DG
葬儀屋(gb1766
25歳・♂・ST
嘉雅土(gb2174
21歳・♂・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD

●リプレイ本文


 ゴットホープ最下層、特別監視域。
 遅い春の陽射しも、穴ぐらの奥までは届かない。青白い蛍光灯が天井で光るだけだ。
 隔絶された世界の真ん中に伸びるリノリウムの廊下。
 冷えた床に、複数の足音が響く。

 8人の能力者を引率する宮本遙は、突き当りの鉄格子の前で歩を停めた。
「連絡を入れておいた8名です」
「ああ、対『ハーモニウム』の能力者ね」
 警備員は教師に会釈し、手渡されたIDカードをリーダに通す。
「西村・千佳(ga4714)、風代 律子(ga7966)、小野塚・美鈴(ga9125)、葬儀屋(gb1766)、嘉雅土(gb2174)、アレックス(gb3735)、愛梨(gb5765)、ナンナ・オンスロート(gb5838)。以上で相違ないか?」
 名を呼ばれた8人は頷き、目視した宮本が口を開く。
「保安の関係上、直接接触するのは一度に3名まで、残りは隣のモニタルームで待機。期間は3日間。新たな情報入手を期待しているわ」


**

★1日目
「にゃ?」
 独房の寝床でまどろんでいたノアは、近づく足音で跳ね起きた。
 警戒を露わにする収容者に構うことなく、扉の前で3つの足音が止まり
「‥‥何も喋らないし協力しないって決めたんだから‥‥」
 軋音とともに、房の扉が開く。
「帰れ! 話すことなんかッ‥‥!?」
 入るなり、敵意を露わにするノアに抱きついてきたのは
「猫さんゲットにゃ〜♪ 今日は逃げれないから、じーっくりと‥‥遊べるにゃね♪」
 別の猫、もとい千佳だ。ひらりと身を翻し、今度は両手を掴んで微笑む。
「まずは自己紹介からにゃ♪ 僕は西村 千佳にゃ♪ よろしくにゃー。で、君の名は?」
「ニンゲンになんか、ノアは名乗らない!」
「ノアちゃんにゃね」
「しまったッ! てかさわるなっ!」
 名乗ってしまって逆ギレする頭の弱いバグア。
「こんにちは、ノアちゃん」
「お久しぶりだね〜お元気してた〜?」
 後から入ってきた律子と美鈴の笑みにも、表情を強ばらせたままだ。
「ノアを笑いにきたのか! でなきゃゴーモンしにきたのか!」
 しかしそんなもの言いにも、2人はまるで頓着しない。
「今日は皆、貴女とお友達になりに来たのよ。気を楽にしてね」
「別にノア君を敵だなんて思ってないよ、私たちの敵はバグアって言う組織だもん」
「トモダチ?」
 ぽかんと口をあけるノアの足下で、千佳がジュースとお菓子を並べる。
「さ、座るにゃ。時間まで一杯お話もしようなのにゃー♪ ね、お友達のことや君の事教えてにゃー♪」
 甘い匂いに、猫の鼻先が動く。
「モ、モノなんかにノアはつられないからな!」

 とはいえ甘いものの効果は抜群で。
「ショーギ? 相手してやる」
 律子が鞄から取り出したポーダブル将棋に、ノアはあっさり食いついた。
「ふふ、こうやって駒を並べて、相手の『王』を取れば勝ち。駒によって動き方が違うから、頭を使わないと勝てないわよ」
 駒を扱う律子の手元を、興味深げに見つめる。
「動きが違う‥‥? Agがユキムシがトクイで、ノアは運転がトクイとか、そういうの?」
「んー、ちょっと違うけど、まぁそんな感じなのだ」
「よし! じゃあこれがノア! これはAg! そんでもってこれとこれはフィーとウィルカ‥‥この『歩』ってやつはキメラ!」
 身近なところに置き換えて納得したようだ。見よう見まねで駒を並べてゆく。
「リツコ『王』ってのは?」
「『上司』だと思えばいいわ。ノアちゃんが守らなきゃいけない人、ね」
「うーん、蓮人は命令するけど別に守りたくない‥‥ハーモニウムの皆がいれば幸せ」
 兵隊としては不適格な意識を持つ子どもに、律子と美鈴は顔を見合わせた。千佳がすかさず、助け舟を出す。
「にゅ、皆で食べるケーキってことにするにゃ♪」
「ん、それならいい!」
 ‥‥かくして人類VSバグア(+美鈴がサポート)の、対局が始まった。

 律子の根気よい指導が実を結んだ3局目。
「ノア君、この駒はこことここに動かせるよ。これで王手なのだー」
 美鈴の手伝いも功を奏し、ノアは対局を有利に進めていた。
「あら大変。こっちに逃げてこれを頂いて、と」
 真剣な顔つきのノアに微笑みながら、律子がノアの駒を摘んだ。戦局は終盤。勝負には影響しない捨て駒を。
 が。
「だめ!」
 バグアの顔色が変わった。
「Agを返せ!」
 身を乗り出した猫が、律子から駒を毟り取る。
「ノアちゃん、これはゲームよ」
「ゲームでもいなくなるのは嫌!」
 過剰な仲間意識に裏打ちされた目を向ける猫を、千佳が優しく宥めた。
「疲れたにゃ? お歌でも歌うにゃ〜」

 独房に千佳が奏でる楽器の音色が響く。
 膨れていたノアも、律子が将棋を片付けたのを確かめると、美鈴も交えてぽつぽつ言葉を交わすようになった。
「ねえ、ノア君といつも一緒にいた子とか、他にどんな御友達がいるの〜? どんな人たちか知りたいのだ〜」 
「ノア、Agだいすき。フィーもウィルカもQもすき」
「ノアちゃんは、その大好きな皆と、戦うのが楽しい?」
 猫は考え
「楽しくない‥‥でも」
 頭を振った。
「でもシゴトはやらなきゃ。ハーモニウムでしか、生きていけないんだもの」
 いま一度露呈する、バグアが持つとされる意識とは異なる答え。
 戸惑いつつ、律子が諭した。
「ノアちゃん。貴女が真にやりたい事、望んでいる事。それを見つける事が大切だと私は思うけどな」
 再び沈黙。ややあって
「リツコ」
 ノアは立ち上がり3人から離れ
「ノアもう話せない。リツコの言う事は考えちゃだめな事。わがまま考えれば、ハイキされる。皆も危なくなる」
 抑揚のない声で、別れを告げた。
「‥‥じゃ今日はここまでにゃ♪ でも、また遊びにくるにゃ♪」
 千佳の「再会」の約束にも、笑い返さない。だが
「ノアちゃん! それは自分が決める事。例え創造主でもノアちゃんの意思を強制する事は出来ないはずよ」
「だめなんだ。さよなら」
 目に涙の膜が張っているのは、隠さなかった。



★2日目
 モニタルームを出たGBHの2人は、廊下を歩いていた。
「隊長、銃は?」
「預けてきた」
 一歩先行くアレックスは両手に食べ物を、ナンナはふわふわくっしょんを小脇に抱え、空いた手で報告書を繰っている。
「丸腰は危険です。それにその荷物、隊長は敵に対して甘‥‥」
「今までの報告書見て、未だ危険だと思うか? ナンナだって人の事は言えないと思うが」
「私の好意は全て同情です。捕虜で危害を加えようもないから、優しくするだけです」
 若き隊長は肩を竦め
「それでもいいさ。‥‥着いた」
 独房の扉前で足を止めた。

「あれっくす?」
 房の主は警戒を露わにし、2人の来訪者を見つめた。
「よ」
 それでも「顔見知り」からレーションとマシュマロとココアを手渡され、緊張が緩んだようだ。膨らんだ尻尾がみるみる本来の太さに戻る。
「昨日リツコ達が来た」
「そか。呑み助からも言伝を頼まれてるぜ。『済まなかった、こちらも仲間を助けるの必死だった』って‥‥っておい?」
 頷きながら「差し入れ」を房の隅に積み上げる猫。
「何してんだ?」
「皆へのお土産。ここをダッソーした時に‥‥って、あ、いや、何でもないっ」
 口を押さえて頭を振るノアを見て、ナンナが僅かに笑む。
「レーションはともかく、マシュマロとココアは日持ちがしないから食べましょ、ね」

 蛍光灯で照らされた房の中。2人と1匹は床に座り、もそもそとマシュマロを摘む。
 視線は時折交錯するが、楽しい雰囲気は生まれない。それでも
「あれっくす。なにしにきた?」
 差し入れの恩を感じたのか、マシュマロをあらかた食べて間が持たなくなったからか。虜囚が会話のボールを投げた。
「ノア、情報は喋らないぞ」
 最後の一つを口に放り込み、アレックスが答える。
「難しい話は苦手だろうから、簡単に言うと。トモダチにならねェか?」
「トモダチ?」
「本当に俺達とはトモダチになれない、仲間はハーモニウムだけと思ってるならそれでいい。お前が何も感じないのなら」
「何も感じない?」
 黒猫は目を見開く。ココアを飲み干した炎帝は言葉を継いだ。
「この間、ウィルカとフィディエルに会ったぜ」
 変わる、顔色。
「フィーとウィルカに何したんだ! まさか殺したり‥‥」
 掴みかからんばかりの猫に、アレックスは温かい笑みを浮かべた。
「特に大怪我したとかは無いさ。向こうが俺達の仲間を傷付けて連れ去ろうとした。だから俺達は連中と戦った。怒るなよ、お前だって今、仲間を案じたろ? 同じ事。俺たちは同じ心を持っている」
「‥‥こころ」
「そう。ノア、あなたの『友達を守りたい』という気持ちと同じ。ノアが仲間を想うように、私もアレックスや隊のメンバーを家族のように想い守りたいと想っているの」
 ナンナもアレックスの横顔を見つめながら呟く。ノアを諭すのではなく、秘めたる想いを外へ出さぬと己に言い聞かせるように。
「‥‥きもち」
「そう。だからお前が、望むなら。お前が俺達とトモダチになってくれたら、ハーモニウムの連中はトモダチの仲間だ。俺達がやってるのは戦争だけど、トモダチの仲間の命は取らない」
 どうだ?
 金の瞳がノアを覗き込んだ。
 しばし、沈黙。
 数十秒の後、虜囚が選んだのは
「ノア、二人とトモダチになると辛くなる」
 拒絶だった。
「ノア達戦えないと用なし。ニンゲンとトモダチになっても、メイレイがあれば戦わなきゃいけない。でないとハイキされる」
「‥‥廃棄?」
「あれっくすの言うことわかる。けど、ニンゲンかハーモニウム、トモダチ選ぶの嫌。敵の方が楽」
 初日同様、バグアが告げたのは別れ。
「そしてそれは、二人も同じ」
 視線は、誰からともなく解け
 アリガト。
 短い音が喉奥から漏れた。



★3日目
 独房のノアと対峙した葬儀屋、嘉雅土、愛梨は「拒絶」を感じていた。
「もうおまえたちの仲間にトモダチにはなれないと伝えた。話すことない、帰れ」
 疎んで避けるのではなく、関わることを怖れる目が3人を見据えている。
(トモダチにはなれないですって? こっちから願い下げよ。人の姿をして、子どものナリなんかしてるけど、コイツはバグア、人類の敵なのよ)
 愛梨の眉が、不愉快そうに跳ね上がる。
「ま、そんな固いコトいうな」
 表情を強張らせている少女の肩を叩き、嘉雅土がノアに声をかけた。
「名前は? 俺は嘉雅土」
「‥‥」
「じゃあ、野良な」
 黙リ込む猫に構わず、左手を差し出す。
「しつれいな! ノア!」
 ぱちんと払った手指を纏めて掴んで
「そうこなきゃ。名前は大事だ。ヨロシク、ノア」
 口の端を上げ
「で、話すことはないんだっけ? じゃフットサルやろうぜ」
「は?」
 そのまま運動場へ走った。

 屋内運動場は、2人がボールの取り合いをするには十分な広さだった。
「なぁ、どこに棲んでんの? 毎日楽しい? それともつまんね?」
「ノ、ノアからボール取ったら教えてやるっ、って、ちょ、ずるいっ」
 足の長さの差がそのまま戦力差になり、ノアはボールをキープするのも一苦労だ。
「今度俺、遊びにいってイイ?」
 あっさりボールを奪った嘉雅土は、笑いながらドリブルで走る。
「いいわけないっ!」
「つれないナァ、シュート!」
 蹴ったボールは、壁際で佇む葬儀屋めがけて飛び
「‥‥ナイス、シュート」
 その胸に飛び込んだ。


 嘉雅土と葬儀屋が昼食を取りに出かけた隙に、愛梨はそっとノアに耳打ちした。
「だいぶ参ってきてるみたいね。‥‥仲間が恋しいんでしょ? あたしが力になってあげる」
 魅惑的な囁きに、ノアの耳と尻尾が跳ねた。
「ほんと?」
「ええ、こっそり逃がしてあげてもいいわよ。ただ、あんたの協力が必要になってくるわ。‥‥ハーモニウムとあんた達の基地のことを教えて頂戴」
「うん、ノア教えてあげる! キンキューヒナンだから蓮人も許してくれると思うし!」
 愛梨は瞑目した。胸に去来する黒雲を無理やり飲み込んで。
(バグアは人類の今後のために、利用するべきものよ)
メモを取りだし、横に座る。だがノアが持っていたのは。
「基地にはスノーストームがたくさんいる! ノアたちはメイレイが出たら、乗っていいことになってるんだ。ん、えらいやつはね、蓮人って言うの。えばりんぼで、紅いふぁーむらいどに乗ってるよ。‥‥あとはわかんない。だってノアは、Agと基地の近くのバスに住んでるから。用がある時しか行かないし。そんなぐらい。‥‥ね、これでいい? 逃がしてくれる?」
 そう、耳打ちされたのは、殆ど無価値な情報に過ぎなかった。
「そのうちね‥‥」
 陥れる価値もない。事実を目の当りにした愛梨は力なく項垂れた。残るは胸の黒雲、良心の呵責。
「よ、メシ持ってきたぜ」
 救うように嘉雅土が、レーションを運んできた。


 食事を終えた葬儀屋は、ノアと並んで座って、黒飴を頬張っていた。
「そういえば、こうしてお話しするのは初めてですね、私はそうですね、恥ずかしながら名乗る名前は当の昔になくしてしまいましたので通称でよければ、葬儀屋とでもおよびくださいな」
「そーぎや。あめ、おいしい」
「よかった。ボール遊びは 楽しかったですか? それとも、楽しくなかったですか? 」
「ノア、子猫じゃないからガキの遊びはキライ。でも悪くなかった」
 ぼそぼそ喋る子どもを慈しむように眺め、男は頷く。
「皆、いい方たちばかりでしょう。 ‥‥そして若い人ばかり。‥‥私が彼らくらいのときは、今の年になる頃は平和に過ごしているものだとばかり思っておりました、しかし現実は、今なお戦争の真っ只中で、そして貴方達のような子達まで戦争にかりだされている始末‥‥と、こういう話をしてもしょうがないですね」
「ノアは戦争がないと、作って貰えなかった。戦争にはカンシャしなきゃ」
 飴をなめながらの呟きに、嘉雅土がツッコミを入れる。
「おまえたちはキメラか? それとも強化人間か?」
「ノアとAgは、工場生まれのセーブツヘイキ。他の皆が何処から来たかは知らない。でも関係ない。仲間」
「‥‥」
 嘉雅土はノアの横顔を眺めた。無機質な肌が、蛍光灯に白く照らされている。
「ノア、おまえはどこで何したい? 想像だよ。考えるのはタダだ」
 考えてはいけない。そう律子を拒絶した姿を、彼はモニタ越しに見ていた。
 だがあえて問う。おそらくは短い命しか持たぬ子どもに。
「わかんないけど」
 ノアは俯き
「今みたいに、ひとりは嫌」
 ぽつり、答えた。


 **

 数日後。
 提出された報告書を眺め、宮本遙はため息をついていた。
 「結局、ハーモニウムの意識が他のバグアと異なるという事、強化人間やキメラの混成部隊である事ぐらいしか確定しなかったわけね。所詮捨て駒のようだったから、期待は低かったけれど」
 しかし彼女は悟っていた。
 バグアにあるまじき情緒の結びつきが、ハーモニウム‥‥グリーンランドの戦力を削ぐ武器になると。

「まったく、嫌な時代の嫌な『兵器』ね」