タイトル:【BV】笠原・錯乱マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/15 23:00

●オープニング本文



 能力者の学び舎、カンパネラ学園。グリーンランド・ゴッドホープ基地は、その管轄下に置かれた地下都市だった。
 北の果ての軍事基地と、そこで学ぶ傍ら武器をとる子どもたち。それは一見ミスマッチに、見えなくもない。
 しかし問いを投げたなら、彼らは笑って答えるだろう。
「ん、だって僕らの掌には、エミタが埋まっていますから」

**
 ゴッドホープ基地の一角にしつらえた、教員詰所。平たく言えば、職員室。
「ああ、よく来たわね。座って頂戴」
 学園講師、宮本 遥(gz0305)は訪れた人影にソファを薦めた。自分も向かいに腰を下し、ラフに足を組む。
「さっそく本題に入るわ。何、たいしたことじゃないのよ。ちょっとしたネズミ取りをお願いしたいだけ」
 口の端を上げて宛然と微笑み、机の上にばさりと書類を広げた。左上に写真、その横にパーソナルデータ、下半分は授業の出欠記録。
 なんということはない、在校生全員に作られている生徒台帳である。
 幼い顔立ちの写真の横に、氏名が記されていた。笠原 陸人(gz0290)。

「先月実験場破壊任務に参加したあと、基地周辺の護衛任務に参加した生徒よ。まぁたいして出来の良い子じゃないんだけど、それにしても護 衛任務後、明らかに様子がおかしいの。そう例えば」
「例えば?」
「授業に集中し、やたら真面目にメモを取ってるのよ。以前はしょっちゅう居眠りしたりメカメロンパン齧ったりしてたんだけど、まるで人が 変わったように。放課後もまとわりついてきて、基地の警備状況や人員配置について詳しく聞きたがるし」
 遥はそこでふぅと息をつき、言葉を切った。ブリーフケースから別の書類を取り出し、台帳の横に広げる。
「少し気になることがあるの」
 それは、件の護衛任務参加者のリストだった。名前の横に×がついている生徒が数人。今話題にのぼっている生徒は、△印だ。
「この生徒たちは、件の警備任務の際、半日ほど帰還が遅れたの。そしてこの子たちに限って、帰還任務以降、不審な挙動が報告されているってわけ」
「‥‥学園としては、それをどう認識しているんですか」
「どうもこうも。×印の子からは既に軽度の洗脳が確認されている以上、ねえ。1ヶ月ほどリハビリさせれば解けるレベルなんだけど」
「バグアも手の込んだことしてくれるわ。とにかくひとりずつしらみ潰しに捕まえるしか、解明はできないってワケ」

 一瞬、沈黙が流れる。
 気まずさを破るように、女子生徒が入ってきた。
 遥の傍に走りより耳打ちすると、そっとメモを手渡す。
「AU−KVが無断の離脱行動? 識別番号と乗員は特定出来ているの?」
「‥‥そう、そう、わかった。すぐに『保護者』をさしむけるわ」

 女子生徒が一礼して出ていったのを確かめた遥は、正面に向き直った。
「ナイスタイミング。件の生徒が飛び出したようよ。こんな天気に。明らかに正気の沙汰ではないわね、夜は荒れるわよ」
 なるほど、窓の外は雪花が散っていた。外気温を示す温度計は、マイナス10℃を指している。
「あなたは笠原と面識があるの? ない?‥‥まぁそれは、どっちでもいいわ。」
「悪いんだけど、迎えにいってやってくれない? 風邪をひくといけないし、それに‥‥」
 遥は声を潜め、女子生徒の持ってきたメモを広げる。
「どうもここの機密を、持ち出しているようなの。これは離脱時にもみ合いになって、落としたものらしいわ」

−−−−−−−
・2/1の昼食 カレー・温泉卵・ラッシー・サラダ
・男子宿泊棟の外鍵の番号 5963
・女子大浴場で採用されているシャンプーの銘柄 ‥‥と推測
・2010・2 南の海岸
−−−−−−−

「幸い、極めてどうでもいい情報だけど、もっと重要なものを持っている危険性もある」
「離脱時にね、『イカナキャ』と言っていたんだって。誰かに呼ばれているのよ」


**
 同じ頃。ゴッドホープ基地から南へ約50km。
「くしゅん!」
 頭からすっぽりと防寒具を着込んだノアは、凍てつく海に背を向けてして望遠鏡をのぞいていた。
 小柄な身体が佇むのは何もない海岸線。レンズを向けるのは北、ゴッドホープ基地の方角である。
「ねえAg、ホントにくるのかな」
 防寒具からはみ出た黒い尻尾は、寒そうに縮こまって内股にまきついていた。
「ああ来るさ、他の連中もちゃんと来ただろ? あと一人分、メモを回収してイエスペリ先生に届ければ美味いもんいっぱい食えるぜ!」
 同じく防寒具を着込んだAgは、頭の上に出た耳を寒空の下に晒していた。
 スタッドレス・タイヤを履かせた旧型のオートバイにまたがり、ハンドルにもたれてずっと耳を、済ませている。
「ノアね、マシュマロの入ったココアが飲みたいの。あとね、オイルサーディンとマッシュポテト」
「いいんじゃねそれぐらいリクエストしても。なんだっけシュールストレミングは駄目だって言ってたが」
 そこまで喋って、口を噤んだ。
「何か、走ってきたぜ?」

●参加者一覧

西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
小野塚・美鈴(ga9125
12歳・♀・DG
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
プリセラ・ヴァステル(gb3835
12歳・♀・HD
五十嵐 八九十(gb7911
26歳・♂・PN

●リプレイ本文


◆笠原 陸人(gz0290)のみたもの

 いつからだろう。頭の中で声がするようになったのは。
 低くて甘くてゾクゾクする声。もっともあまりイイコトは、言わなかった。
「あそこを覗きに行け。先生に質問をしろ。全部メモに取れ。ちぎれ」
 だけど逆らおうとは思えなくて。
 言われたとおりにして。
 その日2枚目のメモをポケットに入れて――。

『リク、全部持っておいで』

 声が兄と同じ呼び方で、僕を呼んだ。
 頭が痛い。
 言いつけどおりメモを持っていけば楽になれる、そんな気がした。
 行かないと。行ってこれを渡さないと。
 だから駐機場に走って、AU−KVを起動させたんだ。
「カサハラ、ダメダ!」
 誰かが何か叫んでいた気がする。
 詳しくは覚えていないけど、メモを1枚落としたことは覚えている。あと2枚あるから大丈夫と思ったことも。
「行くよ、リンドヴルム!」
 僕は愛機を急発進させて、ゲートを突破した。雪花が散る中、自分の意志だと疑いもせずに。
 グリーンランドの空気は、冷たいを通り越して痛い。手と足の感覚がなくなって暫くした頃、海が見えてきたっけ。
 日が落ちかけた海は黒々としていた。地面が真っ白に凍りついているから、尚更そう見えたのかも知れない。
 海を背に人影が、二つ待っていてくれた。
 大きな影と、僕より少し小さな影。
 頭の上で三角形の耳を動かす彼らが何なのか、僕は知らない。
「よぉ、よく来た」
 リンドヴルムから下りた僕に、大きな影が手を伸ばした。
 低い声は頭の中に響くそれとは違ったけど、彼にポケットの中身を渡せばいいんだって、疑いもせず思えた。
「お届け物‥‥」
 まず1枚。
「サンキュ」
 ん、もう一枚あったはず。地下通路について調べたメモも、渡しちゃわなきゃ。
 ポケットを検めたそのとき。
「見つけた! 笠原くんにゃ!」
 名前を呼ばれた気がして、僕は振り返った。
「‥‥?」
 ジーザリオが、停まってた。
「笠原君‥‥」
 金髪に青いバンダナの男の人がハンドルを握ってて、後ろに金髪猫耳の女の子と、黒髪のお姉さんが座ってる。
 その横には2台のAU−KV。1台は炎模様で、僕と同じぐらいの年の男子が跨ってる。
 赤い長い髪に、緑の目が、呆れたようにこっちを見ていた。
「笠原‥‥たく、何やってんだ‥‥」
 もう1台は白兎みたいなバハムートで、可愛い女の子の2人乗りだ。
「うにゅ! 陸人くんは、絶対に取り戻すのー!」
 前に座っている女の子が叫んだ。燃えるみたいに赤い髪と真っ白な目が、とてもキレイ。
「‥‥?」
 雪の中で、僕は口をあけて立ちつくしていたと思う。
 不思議で仕方なかったんだ。
 この人たちが、僕の名前を知っていることと、そして
「‥‥ねえ、どうして僕のこと、知ってるの?」
 訊いた途端、悲しそうな顔をしたことが。
「どうして、だと? こっちを見ろ笠原陸人! 五十嵐 八九十(gb7911)だ!」
 ジーザリオのハンドルを握っていた男の人が、運転席から飛び出して大声で喚く。
 右手に大きな爪、靴にも小さな爪。左目の下に青い模様が浮いていた。‥‥覚醒している、この人。
「イガラシ、ヤクト?」
 覚えがあるようなないような、音の羅列。
 勝てる自信は、正直持てなかったけど。けど。邪魔させるわけには、いかない。
「誰!?」
 僕はイアリスのグリップを握って、抜いた。
 間合いを計る。‥‥よし!
「馬鹿弟がッ!」
 踏み込んだ瞬間、ヤクトの姿が消えた。剣先にも手応えはない。‥‥瞬天速!?
「今だ、千佳(西村・千佳(ga4714))さんッ!」
「笠原くん!」
 ヤクトの声とは別方向‥‥背後で女の子の声がした。否、声だけじゃない。
「な!?」
 何か柔らかいものが肩に当たって、突き飛ばされたんだ。
「ッ!」
 これはアレだ、獣突ってやつじゃないだろうか。
 気がついた時には既に、僕は氷の上につっ伏していたんだけど。
 ロッドを手に、猫耳おねえさん‥‥チカ? がこちらを見下ろしている。
「笠原くん、ちょっと痛いかもしれないけど我慢してにゃ!」
「え?」
 否も応もなかった。
 勢いよく振り下ろされたロッドが、鼻先を掠めて氷にめり込む。
「わぁああッ!」
 仰向けに転がって、何とか横に飛んだ。ピ、ピンチかも知れない。だって
「やむを得ませんね、少々手荒だが教育的指導をさせて貰うぞッ!」
 相手はチカだけじゃなくて、ヤクトもいるんだから。
 てか、教育的指導って何? 僕はメモを渡しに来ただけなのに。
「関係ないだろ!」
「黙れ!」
 何故か怒鳴られた。
「これ以上仲間を失うなんて事は!」
 繰り出された爪が、頬っぺたを掠めた。痛い。
 足がもつれた。つんのめる。チカが、跳んだ。
「今にゃ! マジカル♪ スマーッシュ!」
 高いところで、声が聞こえる。頭の後ろに、何か落ちてきた。
「――!」
 轟音。視界が白く飛んだ。ヤクトが塗りつぶされていく。
 違う。「チカ」じゃない。「ヤクト」じゃない。
「‥‥千佳、さん」
 そうだ、このひとは。
「‥‥八九十、兄」
 このひとたちは。



◆ノアのみたもの

 メモを持ってきたどらぐーんが、氷の上に倒れるのが目の端にひっかかった。
 仲間が2人駆け寄って、抱き上げているのも見える。
「使えねーガキだなぁ」
 Agが舌を打つ音が頭の上で聞こえた。
「ん、メモひとつもらったんでしょ? もういいじゃん、かえろ? ‥‥って、あれ?」
 ヘンな気配がこっちを見ている、気がした。
 ノア、そういうのにビンカン。
 見ると、気絶したどらぐーんを運んで行った残りの4人がこっちを見ているじゃないか。
「な、なに?」
 しかもしかも、燃えるみたいに赤い髪のオトコと、黒い髪のオンナが歩いて来るじゃないか!
「そ、それ以上、来たらだめ!」
 尻尾がぶあっと膨らむのがわかった。怖いんじゃないぞ! ムシャブルイだ!
「見た所、お前等が強化人間か」
 オトコは、ノアたちから2mぐらい離れて足を止めて口を開いた。
 炎模様のバイクは置きっぱなしで、手に武器も持っていない。
 すぐ戦うつもりってのでは、ないみたいだけど‥‥。
「キョーカニンゲン?」
「俺はアレックス(gb3735)、こっちは風代 律子(ga7966)。一つ取引をしねぇか?」
 あれっくすは、背負っていたかばんを下ろし、中から何かを取り出した。
 甘い、甘いニオイ。鼻がヒクヒクしちゃう!
「わあ!」
 チョコだ! ビスケットのお皿に入ったやつに、丸くかためたやつに、四角いケーキも!
「美味いと評判のレーションやチョコをたんまり持ってきた。あったかい紅茶やココア、マシュマロなんかもあるぜ」
「大人しく陸人君を返してくれるなら、このお菓子を貴方達に上げるわ」
 リツコはにっこり笑った。あれっくすは、ノアの目の前でひとつ齧り、手にとって差しだしてくれた。
 へえ、人間にもいいやついるんだ!
「Ag、リツコとあれっくすが美味しいのくれるって!」
 振り返るとAgは、ユキムシを噛み潰したような顔をしている。
「バカかお前は」
 ‥‥嬉しく、ないのかな。
「ノア、プライドがないのか? 俺達は『カガクギジュツのスイを集めて生み出されたセントウヘイキ』なんだぞ? 人間と取引なんだぁちゃんちゃらおかしくって‥」
「‥‥?」
 Agは時々、難しいことを言う。ノアより旧い型のくせに、ノアより賢い。腹立つ。
「うるさいなあ! ぷらいどでお腹ふくれたり、温かくなったりしないもんっ」
 もういい。Agなんか知らない。ノア、ひとりで美味しいもん食べる。
「よぉし、話がわかるな」
 あれっくすがざっはとるてを手に乗せてくれた。リツコがカップに注いでくれているのは、紅いお茶だ。
「ノアを誑かすな!」
 背中でAgが叫んだ。
 タブラカスが何のことかはわからないけど、白くてフワフワの、ノアたちを守る虫が周りに集まってきた。
「誑かす? とんだご挨拶だな」
 あれっくすの笑みが消えた。
「NOってんなら‥‥悪いが、痛い目を見て貰うぜ」
 背中に沸き立った、金色の炎が。
「あら、悪い子ね。ウフフ」
 リツコは笑ってくれてるけど、右の目がぼんやりと、赤い。
 知ってる。これ、能力者の覚醒ってやつだ。
「ユキムシなのだ!」
 あれっくすとリツコの後ろにいたオンナ2人の様子も変わった。
 かんぱねらの制服を着た方が、金の目でAgを睨んでいる。覚醒してる。背中に白い羽がキラキラのフワッフワ。
「うにゅ!」
 白いろぼっとを装着したオンナは、黒い武器を構えた。あれっくすのとは少し違う赤い髪に白い瞳だ。
 いけない! 本気だ。
「Ag!」
 叫んでたのと、2人が手の中の武器をAgのユキムシに向けたのは、ほぼ同時だった。
 来た! 何が?
 鼻を灼く火薬のニオイ、耳に不愉快なエネルギー弾のビリビリが! それはすぐに収まったけれど
「‥‥ノア、戻れ」
 ユキムシたちは黒い染みみたいに、白い地面に落ちちゃった。
 ああ、Agのいうとおりだ。
 人間とはトモダチになれないんだ。
「戻らないよ! こいつら、Agに武器をむけた!」
 貰ったばかりのざっはとるてを投げ返して、Agから2人を引き離すためにダッシュした。
「許さないぞ!」
 胸の奥がちくちくするのなんか、気のせいだ。



◆Agのみたもの

 俺から距離をおいて、ノアが人間たちと一戦交え始めた。
 巨大なランスを地面に突き立てて凄むアレックスとやらは、敵ながら相当腕が利くように見受けられた。
「これでも、ゴーレムの腕くらいならへし折れる威力だからな。当たったらタダじゃすまねーから、気を付けろよ」
「あ、当たったら、だろ? 当たんないもんっ!」
 ノアは強がってるが、尻尾の落ち着きのなさから見るに、ビビってる。
「ノアちゃん、お仕置きしちゃうわよ、ウフフ」
 律子とかいう女にもひらひら動き回られ、遊ばれてる体たらくだ。
 あーまったく。
「アンタらは、俺とユキムシが相手だ。お手柔らかに頼むぜ?」
 ‥‥目の前の傭兵を片付けなきゃ、話になんねーわな。

 目の前の傭兵――美鈴とプリセラに遭うのは、3度目と記憶している。
「さあ、キメラさんの相手は私たちなのだ!」
 毎度忌々しい銃で俺のユキムシを薙ぎ払う美鈴と
「美鈴ちゃん、いっくよぉ〜〜!」
 これまた鬱陶しいキカイでエネルギー弾をまき散らす、赤い髪のプリセラ。
 こいつらが腹立たしいほどにコンビネーションがいいときているワケでして。
 そしてそれは今回も、変わらなかった。
「君達の事は、よ〜く覚えてるのーっ! 纏めて消えるの!」
 AU−KVの機動力を使ったプリセラが、俺のユキムシどもを引っ剥がすようにうろちょろしたかと思えば
「プリセラさん、頼んだのだ!」
 がっつり背中合わせにくっついた「美鈴」が弾幕をまき散らして撃ち落す。
 ヘタな鉄砲数打ちゃ、じゃねえ。明らかに狙って、数が減らされてる。
 糞、そうこうしている間に最初のユキムシが、殆ど潰れて無くなっちまった。
 ‥‥呼べるのは、あと1度だ。
「美鈴ちゃん、数が減ったの! 一気に決めちゃうよ〜!」
 肩越しに「相棒」を振り返るプリセラと、こくんと頷く美鈴。
 苛々した。
 悔しい。俺らがヒトに、負けるなんて。
 俺は、俺たちは、強く作られてるのに。強くないと居る意味が無いのに。
「‥‥何それ、友情とか、そーいうヤツか? ‥‥自分さえよければいいイキモノが!」
 だから、力を全部使って、周囲のムシを全て、呼んで
「いなくなれ! この地から!」
 叫んで、飛ばした。
 
「大きな猫さんに小さな猫さんが要るように、私たちも皆、お互いに大事に思ってるのだ!」
 美鈴がプリセラを守るように前に出た。
 細っこい腕に抱えた機銃が、音を立てて弾をまき散らす。その隙間から
「うにゅ! 美鈴ちゃんは、親友なの! 陸人君も千佳ちゃんも皆も、仲間なの!」
 黒いエネルギー弾が放たれ、ムシを呑み込んで潰してゆく。
 瞬く間になくなる。武器が、チカラが。
 駄目だ。終わっ、た。

 「Ag! 逃げろ!」
 ノアの叫び声で俺は我に返った。
 見ると律子に襟首をとっ捕まえられた相棒が、泣きそうな顔をこっちに向けている。
「ふふ、お尻ペンペンしなきゃね♪」
 こっちを案じてる、場合かよ。思ったが、口には出さない。
「俺達の負けだ。メモは返す」
 両手を上げて見せると、美鈴とプリセラは武器を下げてくれた。
 アレックスが背伸びをして、指の間に挟んだメモを引っこ抜いてゆく。
「俺らが離れたら、そこのレーション、持ってけ。腹減ってんだろ。‥‥あんまりこっちにちょっかいかけんじゃねえぞ」
 ランスを背負った「敵」の声に、頷くことはできなかった。
 俺達はハーモニウムだ。そうもいかねえんだよ。



◆宮本 遥(gz0305)のみたもの

 陽も暮れた頃、駐機場にジーザリオと2台のAU−KVが帰ってきた。
「お疲れ様」
「うに、ほんと疲れたのにゃ」
 迎えに出た私を見て、笑顔を作ってくれたのは聴講生の西村。
 彼女の膝の上には飛び出して言ったバカ、もとい笠原の頭がのっかっている。
 意識はなさそうだけど、顔色は良い。外套で包んで保温してくれたのが功を奏したようだ。
「メモも回収してきたぜ」
 炎模様のミカエルに跨ったアレックスが紙切れを取り出して、投げて寄越す。
 どうせまた学食のメニューか何かだろうと思ったら、地下通路の調査状況なんかが詳細に記されていた。
 ‥‥どこから嗅ぎつけたんだか。とにかく回収してくれて一安心ね。
「有難う。報酬支払いは事務方で手続きをして頂戴。シャワーも優先枠を押さえてあるわ」
 そこへタイミングよく、医療班がやってきた。
 ジーザリオの扉を開け、昏睡している笠原を手際よく押してきたストレッチャーに乗せる。
 バイタルチェックの後、手首に枷を嵌める様に
「うにゅ‥‥」
 プリセラ・ヴァステル(gb3835)と小野塚・美鈴(ga9125)が顔を強張らせた。
「仕方ないでしょ。洗脳レベルが確認できるまでは、警戒を解くわけにはいかないの」
「笠原さん、ご愁傷様なのだ‥‥」
「縁起でもないこと言わないで。しばらく保護観察とリハビリが終われば復学するわ。皆も今日は宿舎に戻りなさい」
 お嬢さん達はいまひとつ納得していなさそうだけど、こればっかりは仕方が無い。
 カンパネラは軍組織だし、私も学生も聴講生も、もちろん笠原も、軍の歯車のひとつに過ぎないのだから。
「さ、閉めるわよ」

 6人を返した私は、何気なく覗いたジーザリオの後部座席に、布のかたまりを見つけていた。
「あら」
 誰? 軍用の外套を、置いていったのは。
「あ、それ、俺のです」
 慌てて戻ってきた五十嵐の顔をしっかり見たのは、その時が初めてだったように思う。
「現役の傭兵にも忘れっぽいのがいるのね、以後気をつけるように」
「はは、すみません」
 生徒に接するのと変わらない対応にも飄々と笑んでいる様に、少し興味が湧いた。

 あとで図書館にアクセスしてみようかしら。
 覚えていて、気が向いたら、ね。