タイトル:殲滅共鳴!? 腹減り猫マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/02 15:58

●オープニング本文


 氷の大地、グリーンランド。
 北極点からわずか1500Kmしか離れていない極寒の地に「チューレ基地」は在った。

 そのチューレ基地から、南に数10キロ離れた海岸線の集落跡。
 バグア襲来前は、チューレに軍属を持つ兵士達が暮らす宿営地だったそこは、みる影もなく朽ち果てていた。
 崩れかけた金網の向こうに、やはりボロボロになった民家がいくつか残っている。
 道ばたで停っているのは、朽ちて走れなくなったバスだ。
 窓にはまった硝子はいずれもひび割れ、タイヤは裂け、ホイールもいくつか欠けている。
 煤けたフロントガラス越しに見えるハンドルは歪み、計器類は赤錆と埃で覆いつくさていた。
 かつては大勢の人々を乗せて、宿営地と基地を往復していたのだろう。
 車体の横っ腹に描かれた文字‥‥意匠化された「USAF」「Thule」のロゴ‥‥だけは、何とか読み取ることができた。


 ***
 久しぶりに晴れ渡った空のキャンパスを、白い飛行機雲がまっすぐに横切ってゆく。
「‥‥Ag、おなかすいた」
「おー」
 動かなくなったバスの運転席で日向ぼっこをしていた少年は、名を呼ぶ声に首と目の玉を動かした。
 黒い目と髪と、頭の上に突き出す耳、それに細い手足に長い尻尾を持った子どもが、斜め後ろのシートの上で膝を抱えて視線を寄越している。

「ねね、ヒトは、もうすぐ『くりすます』ってのをやるんだって。すっごいゴチソーを、食うらしいよ! ハルペニュン先生がずっと前に言ってた!」
「へぇ、ご馳走って?」
「んー、良く知らないけど『ちきん』とか『けーき』とかだって。ノアはきっとアザラシ料理のことだと思うんだ!」

 そうか、こいつはクリスマスはおろか、チキンとケーキを知らなかったけか。Agはやや相棒に対して、不憫を感じた。
「悪くないな」
「だろ?」
 運転席の下に腕を伸ばし、古びた地図を引っ張り出す。ノアはシートから立ち上がると、Agが指差す箇所をのぞき込んだ。
「‥‥じゃあ、このへんの村に、『買出し』にいこうぜ。足はあるか?」
「うんっ、ノアね、『ロッソ改』は整備しておいたし、『スノーフレイク号』もスタンバらせとけるよ!」
「上等。ロッソで行こう」

 10分後。朽ちたバスの影で、かかりの悪そうなエンジンの悲鳴と、薄黒い煙がもこもこと上がった。
「しゅっぱーつ!」
 幌の千切れたジーザリオが、スタッドレス・タイヤを鳴らして勢いよく飛び出す。
 ハンドルを握るのは大きなキャスケットを被ったノア。周囲の様子を抜け目なく伺うのは、助手席に収まったAgだ。
「ノア、ユキグモが来るニオイと、風の音がする。さっさと行って、帰ってこよう」
「ん、ヒトがごはんのジャマしたら、殺しちゃっていい?」
 銀髪の少年は、鼻先と頭の上に飛び出た耳を動かす。
「‥‥いや、たいして美味くないからやめとけ。向こうが血ィ流すつもりなら、別だがな」
 空気が冷たいせいか自慢の尻尾が膨らんでしまい、座っているのが少し難儀だった。


 ***
 人類側のグリーンランド拠点、ヌーク基地に緊急の救援要請が入ったのは、短い冬の陽が沈もうとしている頃合だった。
「バグア軍の襲撃!? 詳しく状況を教えてください!」
 発信元は競合地域に位置する、小さな集落だ。
 特にめぼしい資源もなければ軍事的価値もない、強いていうなら小規模の食料備蓄基地としての機能は有していたが、バグアが積極的に狙う意図は、全く読めない。
 しかし無線の向こうで叫んでいる住人には、そんなことは関係なかった。
 意図があろうとなかろうと、実際に今襲撃を受けているんだ! さあ早く軍を寄こせ、人類の敵をどうにかしろ!
 そう言わんばかりに、ガンガン喚く。
「‥‥え、敵は2匹? 猫? ユキムシ? ちょっと落ち着いて‥‥!」
 オペレータはヘッドフォン・マイクを外ししばし瞑目した。どうやら軍事行動ではなさそうだ。
 野良キメラか、そうでなければ暇な強化人間の悪戯か。少なくとも正規軍を出す案件ではない。
「わかりました。至急、腕利きを派遣します」
 ヒトコトつぶやいて、回線を閉じた。よっこいしょと電話の受話器を取り、外線をプッシュする。

「あーもしもし、カンパネラ学園ですか? 職員室の宮本 遥(gz0305)先生をお願いします」

 こんなものは、カンパネラの子どもでだって、用が足りるだろうよ。

●参加者一覧

西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
小野塚・美鈴(ga9125
12歳・♀・DG
プリセラ・ヴァステル(gb3835
12歳・♀・HD
山下・美千子(gb7775
15歳・♀・AA
トロ(gb8170
15歳・♀・GP
黒瀬 レオ(gb9668
20歳・♂・AA
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
風間 千草(gc0114
19歳・♀・JG

●リプレイ本文


 チューレより南へ数百km。人類とバグアの競合地域付近。
 白の地平は、今日も吹雪いていた。
 
 
 
 **
 傭兵が赴いた村近辺の視界は、およそ前方3mしかなかった。
 村の入口から少し離れた建物は、吹雪の彼方に滲んでいる。
「寒いにゃ」
 西村・千佳(ga4714)は震えながらダウンジャケットのフードをかぶり直した。
 いかに能力者といえど人の子。ラスト・ホープの気候に慣れた者には、さぞかし寒い筈である。
 しかし山下・美千子(gb7775)は平気なようだ。
「グリーンランドに来たの初めてだけど、涼しくっていい所だね」
 ダッフルコートにモコモコブーツ姿の15歳は、楽しげに口を開いた。明らかに「極寒」を満喫している様子だ。
「す、涼しい? バグアへの敵意で身体が暖まることもないぐらい、くそ寒いのである」
 一方、鼻をすすりながら軍用歩兵外套の襟を立てるのは、美紅・ラング(gb9880)。
 バグアに対して執拗な敵意を抱く少女にとっても、グリーンランドの寒さは堪えるようだ。
「‥‥早く済ませてしまおう。依頼人はどこだろうか」
 紅髪に纏わり付く雪を払いながら、風間 千草(gc0114)が呟いた。
 と、そこへ
「誰か来た?」
 黒瀬 レオ(gb9668)が顔を上げ、前方に青い目を向ける。
 なるほど、彼の言うとおり。吹雪の向こうから太った男が、よたよたと歩いて来たではないか。
「やっと傭兵が来た! 早く食料庫に取り付いたバグアを追っ払ってくれ!」
 どうやら彼が依頼人‥‥村長らしい。
「場所? この丘を下ったところだ!」
 男は偉そうに北を指さした。勾配になっているのはわかるが、先は全く見えない。
「タイヤの跡があるにゃ」
 千佳が轍(わだち)を目ざとく見つけた。村長は頷き、傍の小屋を示す。
「ボロ車で乗り付けやがったんだ。お前達はKVに乗って来なかったのか?
 なら、そこにしまってあるソリで滑っていくといい」
 冬道具が収納された小屋に、木製のソリはあった。ブレーキ付の本格派だ。
 傭兵達は3つのソリに、2人ずつ分乗した。
 ドラグーンのプリセラ・ヴァステル(gb3835)は愛機バハムートで駆け下りる手段を選ぶ。
 後部シートには小野塚・美鈴(ga9125)が座った。
「ありがとなのだ。村の人達には、危ないから食料庫に近づかないでと言ってほしいのだ」
「いくアル!」
 トロ(gb8170)が叫び、3台のソリとバハムートが、一斉に雪を蹴る。
「気をつけろ! 奴ら変な虫を使うぞ!」
 風の音と一緒に、村長の声は後方へ流れて消えた。



 **
 吹雪を突っ切り先頭を行くのは、速度を絞ったバハムート。数mあけて3台のソリが続く。
 暫しの滑降ののち
「あれじゃないかな」
 レオが指差す先に、煉瓦造りの建物が姿を表した。扉は細く開いておリ
「車もある」
 壁際にはジーザリオが放置されている。
「食べ物泥棒め‥‥僕の前に出てきてみろ、ギタギタのボコボコのメタメタに‥‥!」
 食を極める悪食娘、トロがギリリと奥歯を噛んだ。
 人様の食べ物を盗むなど、彼女は決して許さない。倫理ではなく美学として。
「人間だろうとバグアだろうと、正統な手段以外で食料をかすめ取る輩はやっつけるのである。
 であるが、はっくしょん」
 トロの後ろに乗る美紅も、可愛いくしゃみとともに同意を示した。龍滅銃「ジークフリード」を検め、視線を前に向ける。
「雪にヘンなのが、混じって来たのだ!」
 バハムートの後ろに座る美鈴が振り返り、皆に注意を促した。
 背中に白い翼と魔法陣が浮かび、髪と目の色が変わり始めている。彼女のAIは既に、戦闘の気配を感じていた。
 悪意を持って纏わりつこうとする雪花、否、雪虫に対して。
「来たにゃ!」
「こんなのにくっつかれたら‥‥泣くでしょ‥‥」
 弱気になりつつも、レオの指が小銃「シエルクライン」のトリガーを引いた。
 掃射音と共に射出された弾幕が、近寄る虫群を潰す。
「うにゅっ! 雪兎モードにチェンジなの!」
 プリセラがバハムートを一旦停め、美鈴を千佳と千草のソリに預けた。
 すぐさまAU−KVを人型に切り替え、竜の翼を発動。
 脚部に走る、錬力のスパーク。携えるは慣れた得物、超機械「ブラックホール」。
「うにゅにゅ〜、そこ退けそこ退け、兎が通る〜なのっ!」
 切り込みの声とともにエネルギー弾を乱射。雪虫たちが散り、一筋の活路と成った。
 3台のソリが、後に続く。
「突撃である!」



 **
 所変わって食料庫の中。穀類の袋を積み上げた一角で、小さな影が動いた。
「‥‥粉物ばっかりで、すぐ食べられるモノはないなぁ」
 黒い尻尾を動かしながら、不機嫌そうに呟くのはノア。地下の氷室に通じる穴を覗き、相棒を呼ぶ。
「Ag、何かあったー?」
「おー、肉だ肉」
 ややあって銀髪の大型猫が、のそりと這い上がってきた。手には凍った骨付き肉を携えている。
「ねね、これ『ちきん』?」
「どうだかな。解凍して喰ってからのお楽しみ」
「じゃあ急いで帰ろ! 今日は『ぱーてぃ』だねっ。ノア、エンジン暖めてくるっ」
 外へと走りかけたノアを、Agが捕まえた。
「待て。客が来たみたいだ」



 **
 食料庫の周辺には防御の布陣か。
 濃密な雪虫‥‥脆弱なキメラとはいえ数は膨大、しかも弱毒性‥‥が舞っていた。
「厄介だね。打ち合わせが必要だ」
 千草の提案に則り、8人は雪山の陰にソリと身を隠し、小声で意見を交わす。
「車があるってことは、まだ中にいるにゃ。保存食なんかより美味しいものを見せれば、出てこないかにゃ?」
 千佳が鞄から、新鮮なイチゴとみかん、それに餅を取り出した。
「なるほどエサでおびき出してから、おっぱらうのであるな。くしゅん!」
 くしゃみといっしょに頷きながら、美紅もレーションと板チョコを置く。
「美紅は食料庫の屋根から、泥棒猫が出てきたところを狙い打つのである。車まで追い詰めれば、分が悪いと諦めて帰るのである」
「‥‥トロちゃんはどうするにゃ?」
「どうする? きまってるアル!」
 問われたチャイナ娘はブチ切れ状態だ。食べ物の恨みは恐ろしい。
「食糧泥棒! メシの女神であるこの僕が許さない! 大人しくねぐらヘ帰りやがれバーロー!」
 得物を握り締め、戦意充填100%である。
「じゃあ私は、売れ残りのクリスマスケーキを提供するね。雪虫は任せといて」
 長さ4mの虫取り網の調整を行いながら、三千子がにやりと笑った。
「うにゅ‥‥人の物を盗っちゃう悪い子達には、お仕置きなの」
 バハムートを装着したプリセラが、決意も新たにヘルメットを被る。
「食料貯蔵庫の中身は、私が守るのだー! プリセラさんの援護も、私の仕事だから頑張るのだー!」
 横で拳銃「黒猫」を携えた美鈴も、真剣な面持ちで頷いた。
 高まる、緊張。張り詰める、空気。
 ‥‥ぎゅぅうぅぅ〜っ。
「う‥‥僕も、お腹すいてきた‥‥かも」
「エサ」として用意された食料を眺めていたレオのお腹が、正直な音で雰囲気を和ませる。
「ふふ、早く終わらせてしまおう。行くよ!」
 恥ずかしそうに俯くレオに、千草が笑ってみせた。次いで食料庫に、鋭い視線を送る。
 戦闘開始前の、独特の高揚感。
 その中で千佳は珍しくため息をつき
「僕はできれば、平和的にすませたいにゃ‥‥お友達は、無理かにゃ?」
 おびき出すための「エサ」を、クロスで包んだ。



 **
 食料庫の扉の影。
「Ag、ごちそうが来たっ」
 ノアは鼻と耳をひくつかせて、外の様子を伺っていた。
「おう?」
 骨付き肉と穀類の袋を抱えたAgを捕まえ、まっすぐ指し示す。
「コチコチの『ちきん』なんか、メじゃないよ、ほら!」
 ノアの指先‥‥「雪虫幕」の向こう側‥‥には確かに「ごちそう」があった。
 雪上に広げられたクロスの上は果物や菓子、食事の皿などでみっちり、満員御礼だ。
「あからさまに怪しくないか?」
「大丈夫だよ! ねぇ、食べに行こ」
 ノアは既に待ちきれない様子で尻尾を揺らし、Agの顔と「ごちそう」を交互に眺める。
「何か言ってるけど、いいよね?」
 脇に立つ人影が何か叫んでいるのも、目に入らないようだ。

「食べるものならこっちにもあるにゃよ。食べないにゃー?」
「こらっ、そこの欠食児童! 村の人の迷惑になるからおとなしく帰りなさい。行きつけのケーキ屋さんで貰った売れ残りのケーキあげるから!」

 ノアより若干頭のつくりが良いAgは、叫ぶ人影を眺めつつ考え込んだ。
(アイツら、何者だ?)
「‥‥g」
 舌で唇の周りを舐めつつ、骨付き肉と穀類の袋を床に置く。
(気配と匂いの数からして、来客は2人じゃ済まない‥‥)
「‥‥g」
 戦うにしても、逃げるにしても、作戦が必要だ。
(ヒトが怖いわけじゃねえが、油断は禁物だ)
 間違っても相手の見え透いたエサになど釣られては‥‥
「Ag!」
 そう、釣られてはいけないのに。
「ノア、食べに行ってくる!」
「ちょ、待」
 Agが止める間もなく、頭の足りない相棒が「ごちそう」めがけて飛び出した!



**
「む、1匹か。まだ仲間がいるかもしれないのである」
 食料庫の屋根の上でジークフリードを構える美紅が、のこのこと出てきたノアの「足元」に狙いを定めた。
 雪虫達は敵味方を見分ける能力は持っているらしく、ノアには纏わり付かない。おかげで視界はクリアだ。
「まずは軽く行くのである」
 紅髪の少女の額に、第三の目を思わせる発光体が浮き上がる。
「ていッ!」
 発砲音とともに、ノアの足スレスレで雪が弾けた。
「にゃッ!?」
 外れたのではない、あえて外した。
 だが温情は一度きり。次は「足」を狙いながら、警告を発する。
「失せるのである、泥棒が!」
「どろぼう? 『まだ』何も盗ってない!」
 全く悪びれない猫に、トロの堪忍袋の緒が音を立ててキレた。覚醒、そして瞬天速。一気に間を詰める。
「くぉらああああ!」
 全身に薄緑の虎模様が現れ、目は猫のそれへと変貌している。右目が帯びる光は、鋭い銀色だ。
「やぁやぁ我こそは横浜中華街の眠れる虎、偽チャイナと悪食の申し子、地上最狂のミス中華、トロ・ムラサキ!」
 研ぎ澄まされたアーミーナイフが、ノアの頬を掠めた。ストラスの爪先は、尻尾の毛をぱらりと散らす。
「いだいいだいっ」
「メシに代わってお仕置きよ!」
 急所突きを狙うトロの三の手を、かろうじて避けるノア。雪上を転がってトロから離れ、起き上がりざま悪態をつく。
「けち!」
「そんなに甘くないよ、この泥棒猫め!」
 少し離れた雪山の陰から、千草の声が響いた。
 SMG「スコール」の弾幕が、ノアを追い立てるように彼の足元でばらばらと弾ける。
「ちょ、あぶにゃいじゃないかっ!」
 ノアは喚きながらも、ジーザリオ目指して駆けた。勿論傭兵に「誘導」されているのだが、それを知る由もない。
 しかしあと数mのところで
「にゃぶ?」
 新雪に足をとられ、すっ転んだ。
 誰が悪いわけでもない、自損事故的な光景。
 が。
 
「俺の連れに何しやがる!」
 食料庫から何かを勘違いした、2匹目の猫が飛び出してきた。



**
 美紅と千草が銃口を向けるより早く、Agの手が傭兵達にかざされる。
「集まれ、虫ども!」
 号令とともに漂っていた雪虫が渦を巻き
「行け!」
 主の腕の動きに合わせて群れを作り、雪山の陰に居る6人めがけて舞った!
「あーもー、うっとうしいなぁ」 
 まず対峙したのは、全長4mの虫取り網を構えた三千子。はるか頭上で網が風を孕み、大きく膨らむ。
 脆弱な雪虫どもの大半は、網や竿が触れただけでぷちりと潰れ、。雪上に音もなく落ちた。
「よわっ! 虫とはいえ、キメラでしょ!」
 呆れつつも網の中に生き残った雪虫を、棍棒で叩き潰すダークファイター。
「支援するよ!」
 千草の射撃も的確に、群れを散らしてゆく。
 少しずつ、だが確実に数を減らす雪虫。戦いは近接戦に移りつつあった。
「蝋状の物質を分泌して纏っているなら‥‥炎は、効くかな?」
 レオがシエルクラインを収め、黒刀「炎舞」を抜いた。
 双眸は深紅、頬には黒炎の模様。持ち主の覚醒に合わせ、黒い刀も炎を纏う。
「いくぞ、炎舞!」
 叫びとともに、炎が虫の群れを焦がした。
「焼き尽くせ!」
 立ち上る炎が群れに飛び火し、瞬く間に広がってゆく‥‥!

 雪虫の大群が三千子達と戦っている間に、プリセラと美鈴は食料貯蔵庫を奪還していた。
「もうここには近づかせないのだ!」
 閉ざした扉の前で「黒猫」を構え、凛と宣言する美鈴。
「君達は1度見たよっ! こっちに来ちゃ駄目〜!」
 雪原にどっしりと陣取り、ブラックホールで小群を散らすのがプリセラだ。
「糞、骨付き肉が!」
 雪虫を操っていたAgは、美鈴とプリセラを振り返った。暫く様子を眺めたあと
「ち、ロシアで遭った傭兵か‥‥雪辱と行きたいところだが」
 舌打ちしつつ、けしかけた雪虫の群れに目を移した。「吹雪」だったのが、今や「小雪」に近い。
「エライ勢いで減ってるしよぉ」
 さらに屋根の上には美紅、「ごちそう」の脇にはマジシャンズ・ロッドを構えた千佳。
「連敗だな、こりゃ」
 Agの判断は素早かった。
 すなわち頭を低くして、全力で駆けた。
 「逃がさないよ!」
 千草の掃射を何とかかわし、ジーザリオめがけて。
 雪に埋まっている相棒の襟首を掴んで引っ張り出し、ぽいと助手席に放り込む。
「ノア、撤収だ」
「え!? あの倉庫の中身もごちそうも、何も貰ってにゃいのにっ?」
「引き際ってもんが大事なんだよ。‥‥行け!」
 短い仲間割れの後、ボロ車が黒煙を噴いた。苦しげな排気音とともに、タイヤが雪を掻き、蹴る。。
「待てええい!」
「追い払うだけでいいにゃ」
 暴れたりなさそうなトロを千佳が制し
「これをくれてやるから、さっさと行ってしまえなのである!」
 美紅がクロスに包んだ「何か」を、ジーザリオの後部座席めがけて、思い切り投げつけた。

「うにゅぅ‥‥終わった、の?」
 緊張の糸が切れたのか、プリセラがその場に一瞬崩れ落ちる。
 真っ白雪兎だったバハムートは、雪虫の飛沫や泥で真っ黒だ。
「プリセラさん、大丈夫なのだ?」
「うにゅ〜皆ぁ、お疲れ様なの〜♪」 
 駆け寄った美鈴と仲間に笑顔を向けながらも、ドラグーンは予想していた。
 帰還後の愛機の手入れは、ハンパなく大変であろうと。



 **
 食料庫と周辺の片付けを終えた8人は、迎えの高速艇を、村長の家で待つこととなった。
 暖炉に火が入れられた室内は、ほどよく暖かい。
「んぐぐ、あいつら、今度会ったら‥‥!」
「まぁ、被害はなかったんだし、平和的にいきましょ?」
 特製肉まんを自棄食いするトロを、レオがやんわり宥める。
 窓際に陣取った千佳は、ひとり外を眺めていた。
 自分に似た姿‥‥しかし異質な2人組‥‥に思いを巡らせながら。
「あの子達、また、会えるかにゃー?」


 チューレより南へ数百km。人類とバグアの競合地域付近。
 白の地平に降る雪が止む気配は、一向になかった。