●リプレイ本文
誰かの為に?
誰の為に?
大切な人の為に?
なら、そうしてやる‥‥
●それぞれの思惑
「紹介が遅れたな、私はノア、イサミ ノアだ。 よろしくな、副隊長補佐殿」
伊佐美 希明(
ga0214)は橘へ軽快に遅ればせながらの挨拶を交わした。現在一同は難民救出及びルーカスとリオンの確保、保護の為綿密な打ち合わせをしている。が、あまり進んでいる様ではなかった。一番の理由はおそらく、テロリストの目的や動機が見えてこないからだろう。
「皆さんが思っていること、わかります。 この状態での外部への依頼、不自然極まりない、ですよね?」
逃げ場のない場所での無意味な篭城、身代金を要求するわけでもない、誰がみても不自然に思うだろう。そして、そのクライアントの真意も解らない今、傭兵の彼らが橘や『方舟』を少なからず疑いの目で見るのはなんら不思議なことではなかった。勿論、橘も重々承知である。
「‥‥正直、私も同じ考えです。 身内の不始末、しかもこのような事態、本来なら私達自身の手で内々に事を運ぶべき‥‥」
一同は静かに橘の言葉に耳を傾けている。
「団長の考えは判り兼ねますが、能力者が出てきた時点で一介の旅商人の私達の手に負えるものではなくなったのは事実です。 囚われている人達がいる、今はその事実だけで十分だと私は思っています」
信じて貰えなくてもいい。
疑われていてもいい。
難民を助けたい、リオンを助けたい、ルーカスから裏切りの真意を聞きたい。橘はその一心で深々と頭を下げた。
「どうか、力を貸して頂きたい」
「OK。 オーナーはアンタだ。 それがオーダーなら応えるぜ」
希明は粋な笑みを浮かべて軽く橘の背中を叩きながら、橘の不安を拭うかのように答えた。
「‥‥いいだろう」
御影 朔夜(
ga0240)も短くそれに応えた。全てを全て、信じるわけではない。信頼が培う物であれば、初対面でそれを求められても無理というもの。だが、それは培う努力をしない、という意味でもない。彼にとってはただそれだけのことだった。
「俺もそれで異論はない」
「私達は私達の仕事をこなすだけです」
サルファ(
ga9419)とメビウス イグゼクス(
gb3858)も同様に答えた。
「では、最終確認をします」
橘は今しがた纏めた作戦案の最終確認に入った。
「難民保護とテロリスト排除はA班、リオンとルーカスの探索及び私の護衛にはB班を」
「はい、難民は任せてください‥‥」
御沙霧 茉静(
gb4448)は静かながらも、その瞳には難民を助けるという強い意志が宿っていた。
「哨戒部隊からの連絡によると、テロリストに見知った顔はないことから、恐らくルーカスによる雇われだと思われます。 早急に彼を確保できれば、早めに押さえることはできるでしょう。 よろしくお願いします」
橘は再度、頭を下げた。
そんな中、離れた処で銃器の手入れをしている一人の少女、サウ゛ィーネ=シュルツ(
ga7445)である。彼女はライフルのメンテナンスを行いながら考えにふけっていた。
(「何か裏があるな‥‥油断はできない」)
持ち前の『何故』を反芻する心を携え、メンバーの中でも人一倍警戒を張り詰めていた。不足の事態に備える、彼女のポリシーでもある。
今回の目的は難民保護、ルーカスとリオンの確保。テロリストの殺生は控える形で一同は意見を纏め、各々の準備に取り掛かった。
「難民を苦しめるテロリストには極上の苦痛を与えてやるぜ」
エルガ・グラハム(
ga4953)の不穏な台詞を残して‥‥。
A班(テロリスト対応・難民保護)
御沙霧 茉静
エルガ・グラハム
サウ゛ィーネ=シュルツ
アズメリア・カンス(
ga8233)
B班(リオン・ルーカス探索 橘護衛)
御影 朔夜
サルファ
伊佐美 希明
A→B班
メビウス イグゼクス
●守る側と‥‥?
「あれのようね‥‥」
軍用双眼鏡で状況を確認していたアズメリアは事前に調達しておいた周辺地形図を広げ確認をとった。哨戒部隊は撤退したあとである。
「私を始めA班はB班との時間差で周辺の岩場に身を隠してギリギリまで接近するわ。 サルファさん、突撃の先陣は任せたわ」
「了解だ」
サルファは大きな盾を構えてそれに応えた。
「橘さん、なるべく俺から離れないように、後ろにいてくださいね」
「えぇ、頼りにさせてもらいます」
橘は改めて能力者を頼もしく思っていた。自分は能力者ではないし、彼らの足手まといになることは必至。だが、自分も自分のできることに最善を尽くすことが今の彼女にできる仕事だと、しっかりと受け止めていた。
「‥‥おかしいな」
サヴィーネはぽつりと呟いた。
「あぁ‥‥不自然だ」
それに呼応するかのように朔夜も続く。
「テロリストにしては‥‥陣形が守りに偏り過ぎている。 まるで人質を守っているかのように見て取れるな」
「そりゃ自分達の最後の命綱だからな、守って当然だろう。 私達のやることに変わりはないと思うぜ?」
エルガは意気揚々と志気を高めながら、皆を鼓舞した。そうなのだ、今更動きを変えること等できない。ならやることをやるだけ。それに最善を尽くすだけだ。
「では、いきましょう‥‥!」
茉静の掛け声と供に一同は野を駆ける風となった。
「‥‥! 敵襲!!」
見張り役のテロリストが先陣を切るB班を捉えたのを合図に戦闘は開始せられた。
能力者の群れは覚醒を解放し、サルファの盾後ろに一列となって疾風と化していた。さすがにそのスピードにはついてこれないので、橘は希明の腕の中に抱きかかえられている。
「能力者だ‥‥! くそ、構わねぇ、撃ちまくれ!!」
叫びと共に遅い来る無数の弾丸。だがそれが一同に一つとして届く事はなかった。
「不壊の障壁の二つ名――舐めるなよ‥‥?」
器用に盾を操り、弾丸全てを地に叩きつける。その間僅か10秒。だがそれだけあれば十分だった。
「止めさせてもらうわよ」
その隙を突いて近場まで接近していたアズメリアと茉静が速攻をかけ、走行車両の一台に密集していた敵へ突撃する。敵は一般テロリスト七人。茉静はお構いなく車両へと肉薄する。
「撃て!!」
突っ込んで来た能力者は二人、これで怯むならテロリスト等やっていられないと言わんばかりに鉛を打ち込む。
「悪いが、それは阻止させてもらおう」
風船膨らむ風上の方角。
ポツリと独り言の様に呟いてサヴィーネはトリガーを引いた。敵の射程距離ギリギリの岩場から銃身を覗かせて。そこより放たれた銃弾は的確に敵の武器を破壊していく。このままいけばサヴィーネ一人で無力化も余裕だと思われたその時。
「――!」
サヴィーネのこめかみ真横の岩盤が抉られた、狙撃だ!
「く、崖上だ!」
「スナイパーがいるのはそちらさんだけじゃないぜ?」
敵の能力者の一人スナイパーである。崖上に鎮座し、的確に傭兵一同に牽制を加えていく。
「‥‥で?それがどうした」
その呟きは敵のスナイパーのすぐ耳元から聞こえた、いや、聞こえていたのかすら怪しい。
エルガはスナイパーの延髄に一撃を加え、そのまま抱え上げ崖の上から投げ飛ばした!
「テロリスト風情が、粋がってんじゃねぇ!!」
崖上から奇襲をかけたエルガはそのまま崖を飛び降り7人のテロリストの前に舞い降りた。地面に叩きつけられもんどり打ったスナイパーはそのまま沈黙。能力者でなければ即死だった。そう、能力者でなければ――
「うらぁっ!!!」
密集した敵を分断させる為、エルガは真音獣斬を放った。思惑通りテロリストの群れは左右に散り散りとなり、分断は成功。が――目標を無くした一撃は歩みを止めることはなかった。すぐ後ろに鎮座していた走行車両に炸裂、逃げ遅れたテロリスト二名を巻き込むエルガの一撃。まともに巻き込まれたテロリスト一名は高々と空中へと投げ出され地面へ強くその体を打ち付けた。そしてもう一名は衝撃でひっくり返った車両の下敷きとなり、声を上げることなく絶命した。投げ出されたテロリストも、その血溜まりが生死をこれ以上ない程に物語っていた。
「大儀名分を得て悪党を痛めつけるのは楽しいな」
「――!」
茉静は血相を変えて一目散に車両へと駆け寄る。メビウスはそちらを茉静に任せ急いで残敵の無力化にかかる。
その時、難を逃れたテロリストの一名が車両へと駆け出した。それを危険と受け取ったエルガはすぐさま屠りに動く。が、
「‥‥おやめなさい」
「これ以上は撃ってでも止めせさてもらう」
アズメリアと、いつのまにか合流したサヴィーネがそれぞれエルガへ至近距離から獲物を向ける。敵は殺さない、そのように決めたはずだ、と言わんばかりの視線を彼女へ向けて。
「‥‥今のは敵が人質を盾に取りにいったように見えたぜ?」
「そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない。 それに貴様が先の一撃を加えてなければ起こらなかったことだ」
サヴィーネは淡々と呟いた。
「それも、そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない、と思うがな」
エルガはそう言って、オーケー降参だ、と言わんばかりに両腕を上げた。その間にメビウスは迅速に残的の無力化に成功、茉静は車両の中から難民達を救出していた。幸い怪我をしているものは少なく、している者も軽傷で済んだ。そして朗報がもう一つ。
茉静は車両から顔を出して不穏な空気に光を灯した。
「リオンさん、確保しました!」
●求める答えは
「リオンさん、確保しました!」
B班は茉静からの無線連絡で安堵の吐息を漏らした。が、橘は必死に憤怒の感情を抑えていた。2名敵を死亡させ、リオンと難民に被害が出た。彼女が怒りを自制できているだけでも御の字だ。
「気持ちはわかりますが、今は俺の後ろに」
サルファは前方を見据えつつ橘に優しい声をかける。彼女に冷静さを取り戻させるにはそれで十分だった。
「‥‥すまない」
橘はサルファの背中に感謝の意添えた。そしてそのサルファが見つめるのは車両前に陣取る二人の能力者と三人の一般テロリスト。井出立ちから恐らくファイターとダークファイターであろう。
「伊佐美、三人は任せた、能力者は纏めて引き受けよう」
朔夜は敵能力者二人の前へと歩みを進め希明へと投げかけた。ゆっくり頷いて希明も自分の敵の前へと歩を進める。A班の騒動が功を奏したのか、テロリストの志気はかなり落ちていた、こちらはそう手間もかからずに終わるだろうと希明は確信した。が、まだルーカスの姿は見当たらない、油断はできない。
「今から私達は貴様等をテロリストとして対処する訳だが――何か、言うことはあるか?」
能力者達はすぐさま自分達が相手にしようとしている敵がどれほどの化け物なのか悟った。レベルが違う――敢えて言うなら能力者としての格。くぐってきた修羅場の数、経験、実力、その全てがオーラとなって彼らを襲っていた。だが引き返す道もなく、彼らは朔夜の問いに答えるわけもなく、無言で攻撃をしかけてきた。
「ふむ――そうか」
覚醒。
そして先ほどの冷静とはかけ離れた狂気を纏って黒い稲妻と化した。
朔夜の手に握られているのは銃器。風貌からもスナイパーであることは明らか。なら接近戦に持ち込めば勝機はある、そう踏んだのがそもそもの間違いだった。
彼らの思惑とは裏腹に、戦闘開始と同時に突っ込んで来たのである。
――、一瞬
ほんの一瞬の出来事であった。何が起きたのか、橘にはまったくといっていいほど判らなかった。気付いたら、腕や足から血を流し地面に這い蹲る敵の姿が目に映っていた。
「――悪評高き狼」
橘が朔夜の二つ名を呟くのは必然と言えたであろう。その圧倒的な強さの前で。
ルーカスが岩場から橘目掛けて刃を振り下ろしたのはその時である。
テロリストを沈静化させた希明は間髪いれずに駆けた、が間に合わない!
「そうはさせませんけどね!」
その凶刃を防いだのはメビウスの大剣! 暗殺を懸念していた彼は急いでこちらへと駆けつけていたのだ。その隙を突いて橘がルーカスの鳩尾に振り向き様に肘鉄を打ち込んだ。奇襲に失敗したルーカスは脱力と共に刃を自分の喉元へと――到達することはなかった。サルファが後ろから取り押さえ、持ってきていたバンダナを猿轡とし、手錠で両腕を封じたのである。
「ふぅ‥‥敵無力化、ルーカス確保」
安堵の報告が無線を流れた。
リオンと橘を前にルーカスは結局その口を開くことは無かった。
テロリストは雇われ。
ルーカス主犯の計画だった。が、依然として動機は不明。拷問の脅しを前にしても、ルーカスは頑なに口を開こうとはしなかった。リオンも、口止めをされていたのか、何も語ろうとはしない。ただ、その瞳はずっとルーカスを見据えたままだった。
テロリストは連行、ルーカスは『方舟』へと一時身柄を移し、翌日テロリストとして軍へ引き渡す手筈となった。
去り際、彼は一言だけ橘にこう言った
「人間とバグア、どっちがひどいんだろうな‥‥」
橘は何も言えず、彼の背を見送った。
彼は何故裏切ったのか。
何故話してくれないのか。
橘含め、一同はみな組織絡みだと目星はついていたが、憶測の域を出ず、どうすることもできなかった。
とりあえずは、依頼は成功である。
●暗雲
ULT本部でルーカスが死亡したとの報せを受けたのは翌日のことであった。
同時にリオンが失踪。
ルーカスの死因は状況からみて自殺だそうだが、まだ確証は得られていない。
だがリオンの置手紙で『許さない』と書いてあったことから、何かしらの事件であることは確かなのかもしれないが、今回の依頼には抵触していない。一同は報告を受け、本部を後にした――そこで待っていた現実を突きつけられて。
「人殺し!!」
その叫びと共に少女と少年は彼ら目掛けて石を投げつけた、涙を流しながら。
テロリストとはいえ、家族までもがテロリストであるとは限らない。人が一人死ねば、必ずどこかで誰かが涙を流す。それを受け止める覚悟がなければ、それをしてはならないのだ。
投げつけられた石を見つめるエルガの瞳にその覚悟があったのかどうかは、彼女のみが知ることだった。
●ULT本部から伝達
今回の依頼は成功ではありますが、一部行動により作戦方針とは大きく外れ、作戦に著しい不連立を発生させ、更に能力者及び傭兵としての品位を著しく損なった為、該当者を減給処分とします。
ULTに届けられた訴えは悲痛であり、今後このようなことが起こらないよう、努めて頂きたい所存でございます。
以下該当者――
エルガ・グラハム
減給 10万C