タイトル:プロジェクト無駄遣い1マスター:香月ショウコ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/11 23:17

●オープニング本文


「なあ」
「はい?」
「寿司が、食いたいと思わんか」
「はあ。最近食べてないですからね。食べに行きます?」
 それはラストホープ内、ULT本部のある部屋。上司と部下の会話。
 部下がどこからか『ラストホープ食べ歩きマップ』なるものを用意して、寿司屋を探し始める。地球上各国の人々が集まっているこの島内には、様々な国の様々な料理のお店が存在している。
「あ、ここが手頃ですね。スピニング寿司。お寿司のお皿がくるくる回るそうですよ」
「ちっがーうっ!!!」
 ドタン、と椅子を跳ね飛ばして立ち上がる上司。彼は部下の手からマップを取り上げると、そこに掲載されている寿司店を一つひとつ見て‥‥

 ビリビリっと破り捨てる。

「あああっ! 何するんですかっ!」
「ダメだ、こんな店しか載せていない食べ歩きマップなど認めんぞ! 俺は本場の江戸前寿司が食いたいんだっ!!」
 今度デートに使う店に印つけといたのに、とマップの破片を漁り始める部下を、上司は脇の下に腕を突っ込んで抱えるように立ち上がらせると、顔を近づけて言った。
「おい。本場の江戸前寿司を食うには、どうしたらいいと思う?」
「そ、そりゃあ、江戸に行けばいいんじゃないですか?」
「ダメだ。東京は今やバグアの支配下。そんなところに行くだけでも大変だし、そもそも寿司屋が壊滅しているに違いない」
「なら、スピニング寿司で」
「おい。本物の能力者に必要なものは何だと思う?」
「いきなり話が変わりましたね。実力‥‥経験かな? 平和を愛する気持ち?」
「正しいようで違ーう。正解はな、心・技・体を高いレベルでバランスよく習得していることだ。熱いハートがなければいけない、針の穴をも通す器用さがなければいけない、健康で頑丈な身体がなければいけない」
「はあ。それで、江戸前寿司と一体何の関係が?」
 ここにきてようやく上司は部下を離すと、ふふん、分からんかと優越したような笑みを浮かべ。
「ここに、能力者・心技体向上プロジェクトを設立する! 本プロジェクトの第一段階として、まずは『体』! 丈夫な身体は美味しい食事から! 江戸前寿司を用意しろ、能力者!」
「んなムチャな!!」
「もちろん東京突撃がムチャなことは承知している。だから、各人の工夫と努力と覚醒によるパワーによって、「これが江戸前寿司だ、文句あるか!?」という説得力ある寿司を作ってもらう」
「そして?」
「俺が食う」
「んなバカな」
「バカも何も、食わなければその能力者の『体』のレベルが分からんだろう。その出来によって順位を出し、それに応じたポイントをつける。続けて行う『心』『技』の競技においても同様にし、最終的に『心技体No1』の称号を贈るものとするっ!!」
「な、何という能力者の力の無駄遣い‥‥」
「さあ、早速依頼を出してきたまえ。人数は‥‥君に任せよう」

「誰も来ないですよ、こんな仕事‥‥そもそも仕事じゃなくてお遊びじゃないですか」
 相手が一応上司であることをギリギリのところで思い出し、そう言いたいのを我慢した部下は適当な返事をして退室。オペレーターのリネーア氏のところへ向かうのだった。
「‥‥犠牲は少ない方が良いだろうけど、集める人数少なかったら怒られるんだろうなぁ」
 依頼の内容については潔くそのまま記入し、人数の欄をどうするか、部下は30分ほど迷ったのだった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
空間 明衣(ga0220
27歳・♀・AA
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
ソフィア スターリナ(ga1670
16歳・♀・ST
二階堂 審(ga2237
23歳・♂・ST
ヴァルター・ネヴァン(ga2634
20歳・♂・FT
マートル・ヴァンテージ(ga3812
42歳・♀・FT

●リプレイ本文

●とある事件
 集合場所への集合時間10分前。会場となる部屋の前で上司と部下に出会ったマートル・ヴァンテージ(ga3812)は、部下からプロジェクト発足の経緯をひっそりと聞くと豪快に笑う。
「全く呆れた職権濫用だね‥‥気に入った、家に来てあたしの愛犬ブリジッタちゃんを撫で撫でしていいぞ!」
 その一言に上司は喜び、愛犬の可愛さを共有出来るかとマートルも喜びかけたところで。
「じゃ、行って来る」
 それじゃあとどことも知れぬマートルの自宅へ行く気満々で、部下に書類数枚を押し付け走り出す。
「そこ、オッサン! 行くなら寿司食ってから行きなって!」

●江戸前ファイト、スタート!
「よく来たな能力者の諸君、歓迎するぞ」
 集められた能力者達に上司が歓迎の言葉を言いつつ、ペコペコ名刺を配ってまわる。
「え、上司氏はこれが名前なのかねェー? 役職は課長ー?」
「いや、俺の名前は上司 課長(かみつかさ おおなが)というのだ」
「なんとまー、馬鹿馬鹿しくも興味深いお名前だねェー」
 獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)が目を丸くする。
「それでは、江戸前ファイト‥‥れでぃごぉ」
 部下(部下 平(へした たいら))が力の抜けた号令でエアガンの空砲を放ち競技スタート。
「まずは寿司飯からだね。俺の隠されし特技『実は料理出来る』を駆使して、最高の寿司飯を完成させる」
 二階堂 審(ga2237)が研ぎ終えてから30分以上経過した米に昆布の出汁を加えて炊いた物をドカンと出す。炊飯時間とかその辺は都合上省略。
「さあご飯は炊き上がった。ここに酢と砂糖」
「これでおざりますな」
「塩」
「ああ、これだ」
「この日本酒も忘れないでね」
「すまないな」
「はいリンゴ酢」
「「「「帰れ」」」」
 ソフィア スターリナ(ga1670)がリンゴ酢を入れようとした瞬間に一同覚醒、ひとまず彼女を叩きのめす。折角の皆の努力の結晶がリンゴの侵略を受けずに済んだことに安堵の溜め息、審は早速ご飯をかき混ぜようとして‥‥やっと違和感に気付く。
「君ら、何他人の助手なんてやってるんだ?!」
「まあまあ審殿、そんなにカッカしなくたっていいじゃない。どうせ寿司飯作りまでは工程一緒なんだから、まとめて作りましょうよ」
 空間 明衣(ga0220)が日本酒を片付け団扇を構えそう言うと、酢と砂糖を片付けるヴァルター・ネヴァン(ga2634)、塩を次の使用者に渡す白鐘剣一郎(ga0184)も次々に賛同する。縄で雁字搦めに捕らえられたソフィアを突っついて遊ぶ獄門も、スシってどんな食いもんだっけというマートルも、寿司飯を作っている気配は無く完全人任せの気配。一人、鯨井起太(ga0984)だけが黙々と、剣一郎から受け取った塩を片手にご飯をいじっている。
「まあ、いいんだけどさ‥‥寿司飯より先は一人でやらせろよ?」

 ・ ・ ・

 シュトゥルム・ウント・ドランク。別に覆面も被ってなけりゃ回ってもいないが、室内は暴風に包まれていた。
「こんなこともあろうかと強化しておいた」
 覚醒し、練成強化したしゃもじでご飯をかき回す審に、同じく覚醒して豪力発現、めちゃめちゃ扇ぐ明衣とヴァルター。強力な風が断続的に吹き込み、寿司飯に空気を含ませるためにさっくりかき混ぜられる米の粒が空中でバラけてまるで本格炒飯。
 寿司飯チームから一時離脱した剣一郎は、自分で集めてきた寿司ネタを丁寧に切っている。他の面々と違い彼だけ多様なネタを揃えた、その下準備だ。剣一郎の隣ではマートルが奇声をあげながら包丁をまな板に叩きつけ、マグロを断罪している。
 剣一郎が持ち込んだネタは、コハダ・イカ・カツオ。当初の予定では高速艇で日本国は岩手県、美味しい海産物の採れる三陸海岸、大船渡漁港あたりまで行って何でも揃える予定だったが、高速艇乗り場に現れた上司が無言で彼を引き止め、首を横に振ったのだった。よってラスト・ホープ内で食材を揃えることになり、近海の海産物数点を入手。高かった。
 マートルがたたっ斬るマグロは、剣一郎が市場で見つけ買っていたもの。自ら船を操り海に出ようとして船を貸してもらえず、途方に暮れていたところを発見されての温情だった。しかし対価は取られている。高いんだもん。
 まあとにかく、二人の下準備が整ったあたりで響き渡るシャウト。
「出来たぞ君達! ボクの完全新作オリジナル寿司! 誰のものより先に食べて、ノックアウトされるといいさ!」
 起太がお皿に乗せた寿司を上司の目の前までずずずいっと持って来る。それを見た彼以外が驚きの眼差しを起太へ。
「あまりの素晴らしさに腰が抜けたかい? 皆が伝統の味を求めるのは分かる、しかし新たな世界への探究心が無ければ伝統もやがて腐ってぐちょぐちょ。それじゃあいけないんだ! 職人は常に高みを目指すべし、江戸前を超えようという志を持つべし! 牢獄の中の平穏な寿司より、嵐の海をどこまでも泳いでいける寿司をボクは選んだ!!」
「あれって、おにぎ」
「良い子は黙って生暖かく見守ってやるのが親切ってものだねェー」
「作り方を聞きたいかい? そーだろう! ご飯はシンプルに塩だけで味を引き出し、タネは飯の中というびっくり箱。タネは魚介という常識を打ち破り梅の干物! そして海苔巻きを超えた海苔巻き、一週ぐるり豪快に海苔巻き巻きだ! さあ食べたまえ!」
「待った!」
 起太の皿を片手で制止する上司。それが張り手となって仰け反る起太。
「待ちたまえ‥‥君は、その芸術的で革新的な寿司を、私だけに食べさせようと言うのかね。それは皆に対して残酷というものだ。まずはそれを人数分用意して、それから披露といこうじゃないか。それに、その寿司はまだ熱々だ。冷めても美味しい、そこまで極めてこそのネオ江戸前ではないかね?」
「‥‥ふ、ふふふ、さすがだよお客さん。いいだろう、ボクに不可能は無い。冷めても美味しいネオ江戸前寿司、全員分用意してやろうじゃないか!」
 だだだっと調理テーブルに戻る起太。それを見送ってから。
「皆、夜食の準備は彼に任せよう」

●やっと試食
「これが俺流江戸前寿司だ。さぁ食べてみてくれ」
 剣一郎が仮設寿司屋カウンターの席に座る上司と部下に出すのは、まずは二貫一組のイカ。同時になんと手作りのガリまで添えてある徹底ぶり。
「おお、厚さは均一ですね」
「これでも刃物の扱いは慣れているからな。普段は相手が違うがね」
 部下が料理人でもないのにと感心すると、剣一郎はそう笑ってみせる。上司は寿司を摘まむと様々な角度から見て、そして一口。
「‥‥‥‥」
 目を閉じて黙々と食べる上司。部下は一貫食べて「美味しい!」と言っているのに、彼は無言。続いて二貫目を食べ、そして。
「あーっ、それ僕のっ!」
 無言で三貫目も食べ、次は? と目で促す。剣一郎はニヤリと笑い、続いてコハダ、カツオのタタキ、玉子焼き。
「手加減せずに、自分で食べたいと思える物を作ったつもりだ。どうかな?」
「うむ、美味かった」
 重々しく頷く上司。コイツ何者っていうか何様だと部下は思ったが口には出さない。

 ・ ・ ・

 巻すの上にラップを敷いて寿司飯、海苔の順に乗せる。そこに巻きやすいサイズに切ったマグロを乗せ、通常通りに巻く。現れるのは通常の巻き方とは寿司飯と海苔の位置が違う、『ウラ巻き』の巻寿司。
 それをまな板の上に置き、愛用の刀を構えた明衣が、瞬時、覚醒! 気合を入れた数撃を振り下ろす! あっという間に食べやすいサイズにカットされた巻寿司一丁あがり。
 寿司を乗せた木の台を出すのと一緒に、明衣は世界地図を上司と部下の前に出す。何事かと思えば、開かれた地図には日本からまっすぐに南へ線が引かれていた。
「江戸前とは江戸の前、つまり南で取れる魚だ。私の用意したマグロは江戸の南、太平洋で獲れたものだ。文句無しの立派な江戸前だ。ウラ巻きにしたのは、寿司に少し変化をつけるためだ」
 素晴らしい拡大解釈。明らかに屁理屈だが。
 やはり部下は美味しい美味しいと食べ、上司は無言で食べる。今回は部下が警戒していたためにハゲタカ作戦は失敗。上司は俯いてあがりを飲むに留まった。

 ・ ・ ・

 獄門が用意したのは日本で旬の鯖。メタを分析し上司(44)に対し最適と思われる寿司を選択、〆鯖だ。
「ネタは最高のチョイス、しかして江戸前の醍醐味素手でのシャリ握り、匠の技がちょっとした難関なんだよねェー。だが能力者として覚醒し、その絶妙な手先を持ってすれば‥‥ほらきたー! 科学の総統、ここに爆誕んんんー!」
 ピッキーンとアホ毛がイナズマ形態へトランス! 左手にネタを持ち、右手にシャリを。右斜め上方に掲げた右手を手首でくるりと捻り。
「鯖と寿司飯、お前らなんか握ってやるー! ジーク! ジークぅ‥‥はいる!」
 ビリビリバリバリ、イナズマヘアーが揺れる! ユナイトした両手が開かれると、顔を覗かせる寿司!
「外はしっかり、中はふんわり‥‥これぞ江戸前にゲルマン的敢闘精神を叩き込んだ一品! 名付けて『鉄の乙女〜締めるのはサバだけ〜』! 寿司、喰いねェー!!」
 カウンター越しに寿司を出せず客席に回りこんで出された〆鯖。それを見て、部下一言。
「総統だけに、相当美味しそうな握りですぬぇ!?」
 目にも留まらぬスピードで没収される部下の寿司。行き先は上司の口内という異次元。
「ああああぁ‥‥」

 ・ ・ ・

「ちょっと腹ごなしに散歩してくる」
 上司が席を外して5分。部下を始め皆の目の前では凄惨な光景が。
 縄から解放されたソフィアは、遅れを取り戻そうとここに来る前に見たうろ覚えのレシピを元に急いで製作開始。急いでるせいでうろ覚えの材料に加え調味料も適当量。
 リンゴ酢に砂糖と塩。完成したドレッシングに小麦粉を投入し、混ぜ、捏ねる。一口大に丸められるそれはきっとシャリに似せた饅頭だ。しかし丸めるのはいいけどそんな握るな、何の恨みがあるんだ。
 オーブンで焼かれたシャリ饅頭は海苔で巻かれ、キャビアが乗せられる。贅沢なことだが、食材の無駄遣いという気がしないでもない。上からは山葵の代わりとマスタードが。
「‥‥さ、さあ出来たわよ。食べなさい!」
 未だ帰って来ない上司に代わり、部下の前に出されるそれ。
「あの、イクラ巻って言ってましたよね?」
「『チョールナヤ・イクラー巻』よ。日本語に直せば『キャビア巻』になるかしら?」
 間違ってないけど、高級食材だけど、すっげぇ嬉しくない。涙も出ないほど悲しい。
「いや、まあ、食べてみますよ‥‥」
 一口。広がるキャビアの味と、海苔とリンゴの風味。そして口に入って来るパサパサした変なもの。
「やあ、ただいま帰ったぞ。‥‥なんだ、先に俺の分まで食べてしまったのか。後で感想聞かせろよ? それ基準にするから」
 噛むに噛めない、飲むに飲めない何かを口に残したままの部下の目の訴えは、上司には華麗にスルーされる。

 ・ ・ ・

「これが俺の江戸前寿司だ。自宅で充分に練習はしてきた。握りの加減にミスは無いはずだ」
 審が、完成させた寿司を出す。ネタは寿司飯提供の対価として明衣からかっぱらったマグロをヅケにして用意した。醤油と味醂を混ぜたものに短時間だけ漬けて、味がしつこくなり過ぎないように留意した。
 シャリの握りは覚醒状態での集中力と頭の冴えを全て動員した。持って食べればその形は崩れず、しかし口に入れれば固すぎず柔らかすぎず、ふんわり絶妙である。
「ふむ‥‥」
 剣一郎の時以来、初めて口を開いた上司。未だソフィアの寿司を飲み込めない部下の分もしっかり食べて、ご馳走様。

 ・ ・ ・

 塩もみ、大根での叩きと、しっかり下ごしらえをされた蛸を片手に、ヴァルターは寿司飯を手頃なサイズ握り、集中、覚醒! 豪・力・発・現!!
「ふんっ!!」
 おおっと出ました石塔返し! その筋では有名な技だそうだが、残念ながら上司は知らない。ただ筋肉質ではあるが細身のヴァルターにはちと似合わない握り方だということだけ知っている。
「これで完成におざります。さあ」
 上司の目の前に出来上がった寿司を出し、そして部下には‥‥来ない。
「あれ? 僕の分は?」
「部下様には、上司様より特別注文がおざりました。こちらを」
 出されたのは剣一郎のコハダの使わなかった部分から頂いた皮を巻いたおから。ヴァルターの知識によると、こういう『お金の無い人用』の寿司も昔はあったのだという。
「ちょっ、ずるいですよ自分だけちゃんとした蛸を‥‥」
「うん、美味い美味い」
 部下の主張を打ち消すように、わざとかぶせて感想を言う上司。追及しても無駄かと部下は諦めて金欠者用に手を出し‥‥
「あ、美味しい」
「何だとっ!?」

 ・ ・ ・

 不揃いのマグロ達。彼らが寝かされているのは寿司飯の上。それも、ホールケーキのように固められた寿司飯の。一見散らし寿司や押し寿司のようにも見えるそれを、マートルは等分に切っていく。マグロを切っていた時の適当さはどこへやら。完成した一人前のそれは、まるでマグロのショートケーキや〜。
「起太の、常識に囚われちゃいけないってとこには共感出来てね。あたしも常識に反逆して、新たなる形に挑戦したんだ。ちゃんと食い易いように配慮もしてあるだろ?」
 配慮も何も、これはまず寿司なのか?
「‥‥‥‥」
 上司はいつものように無言で食べ‥‥途中首を傾げる。ケーキでいう桃やパインの辺りに何か。
「これは‥‥ガリ?」
「綺麗だろ。彩りまで考えてこそ、最高の職人じゃないか?」

 ・ ・ ・

●無駄遣いの結果
「審査結果を発表する。‥‥まず1位白鐘! 2位二階堂! ついでに次点も発表しておくと空間!」
 とりあえず、約3名は入賞絶望視につきこんなものか。
「今回の審査基準は、主にネタの選び方と集め方だ。江戸前寿司とは、東京湾などで獲れた新鮮な魚を自分の目で選んで確保し、新鮮なうちに捌き握ったもの。輸送技術が進歩したとはいえ、ネタを遠隔地から取って来た者はポイントを低くした。ここで、日本からの輸入物を選んだ獄門が競り負けた。そしてヴァルター、君の選んだ蛸は少し旬が過ぎて、身が固くなり始めていたな。叩いて柔らかくしても、誤魔化しきれない部分もある。それが少しだけマイナスだった。剣一郎と審の優劣を分けたのもやはり旬だな。コハダは最高の時期だ。二人とも自分のネタは自分の目で選んできただけに、判断は迷ったがね。明衣のは、美味かったが、太平洋は江戸前という主張が蛇足だったかな」
 意外にまともで普通な裁定に部下はびっくり。
「なるほどねェー、そういう『江戸前』だったんだねェー」
 獄門も納得する『江戸前寿司』。寿司職人の心意気を問うていた『江戸前』の定義。
「さあ皆の衆、ボクの寿司を食いたまえー!」
 職人に心意気があっても寿司になれなかった悲運の梅おにぎりに、一同合掌。
 いただきまーす。