●リプレイ本文
●それはまるで窮屈なネットカフェでまったり寛いでいるような一時で
「暇だなー」
香坂・光(
ga8414)が呟くと、聞きつけた暁・N・リトヴァク(
ga6931)が応えた。
『開場から上映までの待ち時間なんてこんなもんじゃないかな。不親切なことにパンフレットも何も用意されてないし』
いつ、どこからやってくるか分からないバグア勢に対し、ここ最終防衛ラインでは通信の常時オンという対策を立てていた。一応、各部隊からは偵察機も出されているが、万が一のため。ヘルメットワームなどのジャミングを逆手に取ったものだ。
そんなわけで、別に返答を期待したわけではなく呟いた光に暁が返したというわけで。
「上映? ああ、ハリウッドだね」
『うん。今回これでハリウッドを無事に取り返して、バグアを撃退したら。いつか、『今日はバグアからの独立記念日だー』なんて映画も作られるかもね』
「きっと、私達の役をやるのはエキストラさんだね。イケメン俳優はジェームズさんとかの役に振られるんだ」
(「今日は結婚記念日だー、なんて」)
偵察を担う機動班のうち、今は休憩中の光と暁の会話を聞いて妄想膨らますのは空閑 ハバキ(
ga5172)。そんな記念日を作りたい相手はバグアでもブライトン博士でもなくて、隣を飛んでいるなつき(
ga5710)。2機は通信の限界距離を維持しつつ、機動班としての偵察任務を遂行中。遂行中なのだが、ハバキの頭の中では2人チャペルからたくさんの祝福を受けながら退場中。物事は妄想しているうちが華とも言いますが、果てさて。
一方、ちらちらと視線を動かしながら機を飛ばしているなつき。ハバキと違って非常に素晴らしい勤務態度である。
(「私らしくもない‥‥自分で考えて、決めて。行動する‥‥なんて」)
さっきからちらちらと視線を向ける先はハバキのK−111。これまでの自分には無かった自分の思考や行動に、その変化をもたらした相手が自分の内側で占めている部分の大きさを知る。つーか結局、たいして集中してねーんじゃんこの2人。
「俺達の後ろではたくさんの仲間達が戦ってるんだぞ!!」
とでも後ろで真面目に防衛ラインを構築しているブレイズ・カーディナル(
ga1851)が2人が戻ってきたら喝を入れるかどうかは分からないが、作戦の指揮官などはきっと一喝を期待しているだろう。
「なかなか来ないな、敵さん。さすがはエースの集められた精鋭部隊ってとこか、頑張ってんな」
作戦前に頭への糖分補給用として支給されたチョコチップクッキーなど頬張りつつ、ブレイズが言う。こちら維持班、どこからも敵襲の知らせ無くとても平和です。先の機動班、暁も、クッキーを食べ終えて、こちらも支給されたコーヒーを飲んでいる。支給品は気の利いたもので、戦闘中にトイレに行きたくならないようカフェインレスである。
こんなまったり空気では、地球の平和など守れるはずもない! 地球はついにバグアによって占領され、人類の未来は閉ざされたのであった‥‥
The End
なんてことにはなったりしない。たとえ手持ち無沙汰でも、集中力を切らさないヒロイン達が地球にはいるのだ。
周辺の部隊からの定時連絡を聞きながら、前方に広がる青い空を見渡す三塚綾南(
gb2633)。傷つく人々を少しでも減らそうという強い意思を持つ彼女の集中は滅多なことでは揺らがない。いや、別に他の、例えば不純な動機による参戦者にも集中の途切れない人はいるんだろうけど。
その下、地上にて敵を待ち受けるのは、ビームコーティングアクスとシールドを持って仁王立ちのアンジェリカ。純白に乗せられた薄紫が映える『リラ』搭乗者のシエラ(
ga3258)も、配置についてから1時間、そこで凛として佇んでいる。
佐倉霧月(
ga6645)もまた、警戒を解かない1人。他の仲間達もしっかりきっちりちゃんと警戒はしているのだろうが、まあパッと見では彼の方が頑張っているように見えるというかなんというか。あ、でも爪噛み出した。クッキーに手が伸びるのも時間の問題か。
少しして、維持班の面々の視界に動く点が見えた。同時に、光と暁の機が空へ向かう。ハバキとなつきが休憩のために戻ってきて、維持班の空中待機組も交代する。ブレイズが言ったとおり、最前線の部隊が頑張りまくり、このまま何もなく作戦が終了すれば最高なのだが。
それほど、戦場というものは甘くない。
●最終防衛線、突破さる!?
『こちら第8班、現在周‥‥に異常‥‥し、続け‥‥‥‥』
即座に、休憩のために地上にあったKVの全機がブースターに点火した。定時連絡がノイズに潰され完全に聞き取れなくなる頃には、ハバキとなつきは空上の点となっていたし、綾南ら維持班は武器のスタンバイを確認しつつ、周辺の異変を探る。
第8班からの通信が全く途絶えて2秒とちょっと。
『暁より6班へ。ヘルメットワーム5。5・6・14班の担当域に各々2・2・1入る』
暁からの通信。そして、隣の5班が戦闘に突入した。KV6機に対しヘルメットワーム2機。戦力的には、危なげは無い。
同時期、遠方にM−12帯電粒子加速砲と思われる閃光が見えた。暁からの通信によればあちらへ向かったのは1機だが、肉眼にもレーダー等にも見え辛い小型の飛行キメラが向かっている可能性も推測出来た。
そして、6班にも。
プロトン砲をひらりとかわし、敵と最初に接触したなつきは機体を加速させる。ソードウィングでの一撃に合わせて、ハバキのスナイパーラーフルや光の高分子レーザーが放たれ、2機の敵機を引き離す。
「‥‥っ、浅い」
なつきのソードウィングによる一撃は確かに命中したが、フォースフィールドを破る手応えが殆ど。本体へ入ったダメージは少ないだろう。掠られた敵機はすぐに体勢を立て直すと、なつきから離れていこうとして。
「ざんねーん!」
続く光が再びソードウィングでの一撃をぶちかます。今度こそこれは避けられず、空中で爆裂四散する敵機。
一方で、もう1機。
『ねこっ! そっちへ抜けた! 気をつけろ、そいつ戦る気ない!!』
スナイパーライフルでの射撃を行っていたハバキが叫ぶ。敵機はプロトン砲を1発ハバキへ向けて放っただけで、それからはこちらを全く相手にせずロサンゼルス方面へまっすぐ加速した。
「こっちを倒して通るんじゃなくて、無理やり押し通るっていうのか‥‥」
レーザーを連射しながら、暁が呟く。それらは敵機に何発か命中するものの、逃げに徹するこの相手への致命傷にはなっていない。ついに、迎撃の形から追撃の形への移行を余儀なくされる。
『それでも、突破なんて許さねえぜっ!』
逃げるヘルメットワームにその進行方向から浴びせられる横殴りの弾丸の雨。維持班4機から放たれる集中豪雨は、いかに回避に集中していようとどうにか出来るものではない。ことに、単機では。
「飛んで火に入る何とやら、ってね」
ガトリング砲の回転が止まり、敵機が地に落ちていくのを見下ろしながら、綾南が言い捨てた。
一瞬にして緊張感高まった一帯。5機の敵機襲来後に生まれた静けさの中で。
『先行隊からの今のところの最後の情報が、小型ヘルメットワームやキメラの集団との戦闘中、だったけど‥‥』
先行隊から時折連絡のため戻ってくるKVからの通信で、非常に大まかだがハバキは戦況を掴んでいた。かなり大規模に敵はやってきたようだったが、特に苦戦しているようには感じられなかった。何機かは墜とされ、何機かは補給に戻ってきたが、突破されそうだとか全滅しそうだとかいう話は聞いていない。
『作戦を変えてきた、ということではないでしょうか』
シエラが、状況を推理する。
『これまでは、敵部隊は自分達の進路を塞ぐ先行隊を撃破しようと戦っていた。しかし思った以上に戦果は上がらず、被害は増える。ならばと正面から戦うのはやめて、一斉に突破しようと』
『さっきの5機は、敵の作戦変更に先行隊が対応するまでの間に、不意をついて抜けてきたってことですか』
そうです、と霧月にシエラが答える。
『敵が逃げに集中し始めて、でも今は先行隊が抑え切ってる。まったく、たいしたもんだぜ。出番も見せ場もあったもんじゃねえな』
ブレイズがやれやれとそう言って、出番無いに越したことはないけどと最後に付け足した。
『でも楽観はしていられないですね。次々やってくる敵に対して、先行隊は一度退かないと補給が出来ませんから、序盤の戦いと、避けに集中されて外れ弾が多くなっているだろう今を考えると、実質的に、先行隊の戦力は落ちてきているはず‥‥』
その暁の言葉を裏付けるように。直後に、周辺部隊との交信の半数以上がノイズに掻き消された。
たちまちに辺りは本格的な戦場と化した。空ではブレイズが自分を突破した相手へ向けミサイルポッドを撒き散らしてその足を止めると、ハバキがライフルで撃ち落とす。地上ではシエラがバルカン砲をばら撒きながら、アクスをさながら芝刈り機のように振るって小型キメラを追い散らす。
「より取り見取り‥‥うーん、こんなに嬉しくないバイキングって無いなぁ‥‥」
光のKVは今は6班の担当空域内にはなく、援軍要請の照明弾が上がった7班の空域にて、ソードウィングを煌めかせている。
状況はゆっくりと悪化していた。始めは充分持ちこたえられていた。しかし、ある1班が耐え切れず照明弾を打ち上げると、そこから崩壊が始まった。
味方を助けるために仲間を送り出した班では、たちまち迎撃の手が足りなくなった。そしてそこからも照明弾が上がれば、また隣の班が同じ道を辿っていく‥‥最終防衛ラインはさながら、10人11脚の真ん中の1人が転んでしまったように、連続的連鎖的に崩れていった。
だが辛うじて、まだ敵の突破を許してはいない。補給をしている暇の無い苦しい戦いだが、班同士互いに支えあいながらひたすら、粘る。
「あー、この‥‥っ!」
旋回中に翼に被弾したハバキの機体が、墜落はしないものの段々と高度を下げていく。幸いライフルは無事だ。このまま高度を下げ、変形して着地すれば、後方からの援護射撃にて戦闘続行が出来る。
その後方。ハバキ機に迫るヘルメットワームを、なつきがソードウィングで叩き斬った。なつき自身の機体も限界が近付いてきていた。そろそろ全武装を撃ち切って、後ろへ下がることを考えなければ。しかし。
敵機を墜とした直後のなつきの機体に、中型のキメラが取り付いた。バランスを崩され、落下していく機体。
『なつきっ!!』
ハバキが叫ぶが、自機での援護は間に合わない。変形、着地して銃を構えた時には、炎と黒煙、残骸だけを見ることになる。
瞬間、なつきの機体のバランスが回復した。キメラは体液だけを残してどこかへ消え、なつきは空へは戻らず一旦着地することを選ぶ。変形して着地すると、すかさずシエラがシールドを構えてフォローに入った。地上では現在、シエラの他に射撃武器を使いきった暁が降り、ストライクファングでキメラを叩き潰している。
「まったく、2・3発撃つのにこんな緊張させられるなんてね」
ガトリング砲を他の敵に振り向けながら、綾南が呟く。狙いが少し外れれば、キメラでなくなつきの機に穴を開けていた。
限界が近付いてきた。敵の数は明らかに減り、既に今健在な味方の数よりも少ない。だが問題は武装だ。KVの本体だけ立っていてもヘルメットワームは倒せない。
「何が何でも、ここは抜かせねぇ!」
6班においても、気を吐いているのはブレイズと霧月くらいのものだった。綾南はホーミングミサイル2発を残して戦う術を失っていたし、シエラも後退する味方を庇いながらキメラを潰すことに忙殺されている。機動班も光を除き後退し、光も、限界値を突破し始めた5班がヘルメットワームを2機後ろへ逃したのを受けて援軍に駆り出され、うち1機を撃墜するため虎の子のM−12まで使用してしまった。
そこへ、さらに。
『新たな機影、多数!』
味方から告げられたその連絡に、誰もが一瞬絶望を感じた。
しかし、続く声によって絶望は希望へと変わる。
『先行部隊です! 先行部隊、敵機との交戦を開始! ジョエル中佐より命令、無理をせず一時後退し、体勢を立て直せとのことです!』
そこからは、戦いと呼べるレベルの戦いにならなかった。
戻ってきた先行隊も大きく消耗しており、到着と同時にそのまま戦線から後退する機も多かったが、それも気にならないほど敵の残存勢力も少なくなっていた。さらにはハバキやなつき、暁と、後退していたメンバーが補給を追え後方からの援護に加わった。防衛線を構築していた各班は、1機のヘルメットワームを後ろへ逃したものの他にミスは無く、ラインを維持しきったばかりか敵の殲滅まで達成した。
ハリウッド奪還を行うための強固な盾となるべきこの任務、ひとまずは成功である。
あとは、他の仲間達の成功と無事を祈るのみ。