タイトル:劇団を作ろ、そのいち!マスター:香月ショウコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/16 02:42

●オープニング本文


「やあ部下クン、久しぶりだねぇ」
「げ」
 ここ最近普通の仕事にありつけていたULT職員部下 平(へした たいら)は、自分にいつも妙なお仕事(遊びだろう)を運んで来る上司 課長(かみつかさ おおなが)の襲来を心から呪った。
「早速だが、君に出してきてもらいたい依頼がある。これだ」
「いつもいつも突然ですね。自分で行ったらいいのに‥‥今度は何を無駄遣いするんですか?」
 渡された紙を見てみる部下。と、そこにはでかでかと『劇団員募集しちゃいます!!』の文字。
「えーと?」
「私は目覚めた。今の時代無駄遣いはダメだ。これからは創造の時代だ!」
「この前のプロジェクト全否定ですか。で、創造だからお芝居ですか? 団員募集はいいですけど、何やるんですこれ?」
「それを考えるんだ。メンバー集めて劇団を作ったら、いつどこでどんな芝居をやるか、一から考える。全て手作りの芝居は、きっと見る者を虜にする」
「どれだけ時間がかかりますかねー。慣れない人がやると独り善がりにもなりがちですし。演劇やってたことあるんで分かりますけど、結構難しいんですよ」
「大丈夫だ。そこは必要なぶん君が指導すればいい」


 沈黙。


「あの、1つお尋ねしますが」
「何かな?」
「ULTとは何の略でしょう?」
「未知生物対策組織だ」
「なら、業務の範囲にお芝居の指導は含まれないのでは?」
「いや。人間ほど謎に満ち溢れた生物はいない。どういう点がとかは列挙するにキリがないから省略するが、このプロジェクトを実行し、未知なる生物・人間を芝居というツールを用いて分析することで、それが今後の対バグアに活かされることが期待される。これは立派な業務なのだよ!」

 ・ ・ ・

 結局、押し切られた。
「でも、仕事があるんで初顔合わせには行けないですよ?」
「大丈夫だ。最初だけ特別講師を呼んである。先生、先生ー!」
 上司が手を叩いて呼ぶと、ひょっこり顔を出すのは能力者、クララ・アディントン。
「彼女に、このプロジェクトについての初期説明だけをお願いしてある」
「芝居に関しては?」
「勿論、素人だ。プロジェクトの進め方についての質問以外はしても無駄さ」
「質問しても彼女も分からない、と」
「いや、尋ねてもスルーする」

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
愛紗・ブランネル(ga1001
13歳・♀・GP
七瀬 蜜子(ga3911
16歳・♀・SN
西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
比企岩十郎(ga4886
30歳・♂・BM
阿木 慧斗(ga7542
14歳・♂・ST
結城加依理(ga9556
22歳・♂・SN
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF

●リプレイ本文

 集合時刻5分前。最初の集合場所である大会議室Cには6人が集まっていた。
 まず、説明だけ終わらせたら帰ろうとしていたクララ・アディントンと彼女を引き止めた七瀬 蜜子(ga3911)、蜜子の影にクララが隠れて出てこない原因人物鋼 蒼志(ga0165)。演技の経験者である西村・千佳(ga4714)と阿木 慧斗(ga7542)は既に軽い準備運動を始めている。千佳は歌を歌って喉と口まわりを慣らし、慧斗は柔軟と筋トレで筋肉と関節を慣らす。方法は違えど、どちらも暖機という目的は同じ。そして、つい今まで少し部屋を出ていた愛紗・ブランネル(ga1001)は、大きめの折りたたみ式椅子を持って戻ってきた。
「間に合った間に合った。もう皆揃ってますね?」
 時間ぎりぎりになって滑り込みセーフの部下 平がやってきて、総勢7名。
「7名じゃないよ、8名だよ」
 おっと失礼しました。ロッキングチェアに踏ん反り返る舞台監督はっちーも加えまして、総勢8名で状況開始。

●何よりまず基本から
 全員簡単な柔軟は終わっているということで、部下は一工夫入れた柔軟を提案した。準備体操や長座体前屈などは1人で出来るものだから、今度は2人で行うもの。
「実は、一般的に知られる柔軟って、コツを掴んでいないと効果があまり無いんです。伸ばしたい部分を伸ばしたら、そのままの姿勢でゆっくり10〜20カウント。そしてゆっくり時間をかけて戻す。伸ばしきった状態が一瞬だけだったり、伸ばした後一気に姿勢を戻したりする人もいますが、それだと逆に固くなってしまうこともあるんですよ」
 ということで、2人ずつ向き合って座り、足を左右に開く。そのままお互いに相手の手を掴める距離まで近付き、両手を掴み。
「片方の人は、自分の腕はピンと伸ばしたままでゆっくり引っ張ってあげてください。くれぐれもゆっくり、無理せずにですよ」
 ぐーっと伸びる両脚の筋。ここで普段から柔軟をやっている慧斗などはすっとある程度のところまで前に倒れるが。
「なるほど。俺は腹が固くなりそうですよ」
 腕を伸ばしたまま後ろに上体を反らしている形の蒼志は、微妙な角度で停止中。両手は慧斗に力を加えないという制約を課されているので、上体を支えるのはほぼ腹筋のみ。姿勢の維持が辛くなったら、相方に予告した上で同時にゆっくりと戻ってくださいな。
「あの‥‥クララさんが、柔軟体操に入ることが出来ないんですが‥‥」
 クララと組んでいる蜜子から戸惑いの声。クララ、上体を前に倒すどころか蜜子の手も掴めない。固ぇコイツ。
「ありゃりゃー。それじゃ僕も手伝うにゃー」
「あ、西村さん、押してあげる時は肩甲骨より少し下の辺りを押してあげてくださいね」
「大丈夫、分かってるにゃ」
 自分の柔軟が終わった千佳がクララの背中を押しに行き、コンビ解消された愛紗は同じくクララとのコンビを解消した蜜子とコンビ再結成で柔軟再開。って脚の長さ合わねー。


「発声練習は、現役の人に教えてもらった方がいいですかね」
 部下の言葉に慧斗がちょっと微妙な顔。千佳は問題ないにゃと自信ありげな表情だが。
「僕ひと通り教わっただけなんで、自分でやるならともかく、教える側になると多分簡単なものになっちゃいますよ」
「なら、基礎編応用編に分けるってのはどうです? それなら、基礎をみっちりやりたい初心者と、発展的なこともやりたい中級者と、両方の需要を満たせますし。まあ、最初は皆で基礎も応用もさらっと体験してみるのが面白いと思いますが」
 という蒼志の言葉で内容決定。まずは慧斗先生による基礎編を皆で受講。
「それじゃ、まず皆さん立ったままあーってやってみてください」
「「「あーーーーー」」」
「次に、仰向けに寝てみてください。全身から力を抜いて、リラックスした状態でまた、あー」
「「「あーーーーー」」」
「多分、寝てやった方が喉が楽だったと思います。これは、寝転がってる時は自然に腹式呼吸、腹式発声になってるからなんです。舞台上では常に声を張ってセリフ喋るけど、普通に喉で声を出してるとすぐに喉が潰れます。それを防ぐために、喉に負担が少ない腹式の発声を立っていても出来るように練習するんです」
 ということで、皆で常時腹式への転換訓練。千佳は問題なくすぐにクリアし、次に蒼志がクリアする。千佳はこれまで練習してきたからだろうけど、蒼志はきっと腹黒いからすぐマスター出来たのだろう。
「腹式と腹黒に何か関係があるんですか」
 いやほら、声色使い分けて世の中渡ってそうだし。声のコントロールはお手の物でしょ? 蜜子とかクララとか、裏の無さそうな子達は少し時間かかってるし。
「こじつけですね」
 ともかくも、何度か立ったり転がったりしながら全員がクリアに至った。クリアに必要なのは、喉発声と複式発声の違いを認識すること。その違いが何なのかぼんやりとでも分かれば、そこから一気に上達出来る。ちなみにクリアまでに一番時間がかかったのは、終盤になって腹にはっちープレスを喰らったクララである。何かの準備をして戻ってきた部課が椅子に躓き、はっちーの肘打ちが見事に炸裂したのだった。
 その他、相方と向かい合って右の掌を合わせ、お互いに相手を押しながら声を出す練習も行った。慣れないうちは腹式での発声で大きい声量をコントロールするのが難しいのだが、この練習を続けることで、声のコントロールに腹筋を自在に使えるようになってくる。


「さーて、続きまして千佳先生の授業だにゃー」
 主に声を出すことがメインの慧斗編から、言葉のコントロールの千佳編へ。行うのは『滑舌』という、パソコンには一発変換してもらえない、聞きやすい言葉を話すための練習。
「あえいうえおあお」
 とか、
「あいうえおいうえおあうえおあい‥‥」
 といった基本的なものを、ざーっと流していく千佳。ポイントは、流すといっても重点は外さないところ。
「口の横の開きを特に意識するにゃ。僕達日本人は口は縦には開くけど横に開く癖がにゃいから、言葉を聞き取りにくいんだにゃ」
「あの、口が開かないと声がこもって聞き辛いのはわかるんですけど、横には開かないからっていうのはどういうことなんです‥‥か?」
 至極尤もな質問を蜜子が発する。
「言葉は、耳だけじゃなく目でも聞くんだにゃ。言葉の中で聞き取れなかった音を、人間は目で見た相手の口の開き方で補うにゃ。対面より電話の方が相手の声を聞き取り辛いのは、電波状態だけが原因ではにゃいにゃ」
 なるほど、と一同納得。そこで、ふとしたことに気付いた蒼志。
「愛紗さんは不明なのでノーカウントとした場合、ここにいるのはクララさん以外は日本人なんですね。ほとんど皆同じポイントに気をつけて練習すればいいから手間が無くていい。‥‥ところで俺らは何ぐぉ」
 はっちーぱんち。
「え、映画でもないのにぬいぐるみが独りでに攻撃!?」
「はっちーは重要ポイントはしっかり弁えてるんだよっ」


 さておいて。
「滑舌の練習は、早口言葉も含めて早くなくていいにゃ。早く言うことより、一語一音をはっきり丁寧に言うことが大事なんだにゃ。‥‥ということで、ちょっと駆け足だけど早口言葉にいくにゃー」
 言って、軽く手を二度叩く千佳。すると部下がやってきて、さっきはっちー椅子にぶつかりつつ持ってきた紙をささっと配る。
「オリジナル早口言葉にゃ。慣れるまではゆっくり、3回1セットで言ってみるにゃー」

レベル1『クララくらくらクラゲにクラッシュ』

レベル2『八月二十日にはっちーハッスル』

レベル3『三つ子の蜜子の密航密告』

「‥‥蜜子、三つ子?」
「違います‥‥よ」

●休憩時間
「元々芝居の世界が好きだったんです、だから、他の方々の力も借りつつ更なる度胸をつけたくて、この募集に参加したんです、よ」
 休憩時間中の雑談に、部下が「何故こんな正体不明の依頼を受けたのか」と尋ねたところに、蜜子が自作のサンドイッチなどを皆に配りながらそう答えた。
「僕は劇団の立ち上げから関われるってことがすごく楽しそうだって思えたから。仕事は映画とかラジオドラマとか何本か出たけど、まだ芸能人の経歴としては数が少ないから。ここで改めて基礎も身に着けたいし、撮影と勝手が違う舞台演劇は何か新しいきっかけにもなりそうだし」
「僕は活動のメインがアイドルだからにゃー。世間一般の見方じゃ芝居なんか出来ないだろうって思われてるっぽいにゃ。だから演技力を磨いて、歌って踊って演技も出来るマルチアイドル、西村・千佳を一般に認知させるために頑張るにゃよ」
 慧斗、千佳の輝かしいお話を聞いて、萎縮してしまう蜜子。演技力は、声の仕事に憧れていた時期があったとはいえ素人に毛が生えた程度。経験のある人を手本に上を目指そうと思っていたが、どこまで着いていけるか。
「まあ、俺は演技はそれなりの一般人ですから、本職の方々には敵いませんが‥‥こういったプロジェクトに参加してお金をもらうと決めたからには、そんなこと言ってられません。現実には敵わないとしても、妥協せずに、真剣に同列以上を目指したいと思いますよ。‥‥ま、でもしっかり目一杯楽しみつつ、ですね」
「そうだよっ、楽しんでない人を見ても、お客さんは楽しいって思わないもん。ね、はっちー?」
 蒼志の言葉に賛同する愛紗。しかしはっちーは頷いてくれない。わざわざ答えるまでもないだろうということか。
「楽しいと言えば、顔合わせの時にも少し出ましたが、劇団の方向性は『楽しく見れるもの』でほぼ決まりですかね?」
 蒼志の伺いに皆頷く。親子・家族が全員楽しめるもの。今のこの時代に一服の清涼剤となれるもの。
「そうなると、劇団名は皆が覚えやすい名前が良いと思うにゃー」
「そうですね。覚えやすくて通りのいい‥‥LHF(Love&Heart Factory)‥‥みたいな?」
「LHFいいかもっ。愛紗は略して『LH』になるものがいいいかなって思うよっ。ぱんだ興業とかぱんだ本舗とか‥‥」
 え?
「この時代で希望が持てるもの、という方向で考えると、ディパーチャーなんてのもありかと思いますよ。出発、という意味ですね」
 様々な案が出ては消えていく。どうにも簡単にはまとまりそうにないので。
「劇団名は出たものを候補として残しておいて、後で決めるのはどうですか? 劇団名なんて、実際は公演が決まって宣伝を始める時に決まっていればいいんですし」
 という部下のアドバイスにて、一旦保留となった。

●進めコンビニ治療団!
 今回の練習の締めに行うのはエチュード、即興劇である。本当に大まかな設定しか与えられずアドリブで劇を進めるので、慣れていない者には難易度が高めだがアドリブの練習になり、また思わぬ名(迷?)ゼリフ、新展開も起こったりしてなかなか楽しい。
 持ち寄った設定をテーマに、2班に分かれてやってみる。病院での医者・看護士・患者の診察室での会話や、コンビニの店長・万引き客・一般客のドタバタなど。展開が一区切りついたり進められなくなったり、水掛け論になって収拾がつかなくなったりする度に部下が進行を止め、役柄をローリング&シャッフルする。部下イチオシは女性看護士蒼志と女性患者慧斗の悪ノリ口論である。
「それじゃあ皆さん慣れてきたようなので、ちょっと状況を変えてみましょうか」
 と部下の一言で。


「えっ? 何よ、勝手に鞄の中に入ってきたんだよ」
「そんなはずないですよ。ちゃんと見てたんですから」
「あたし知らない‥‥!」
 コンビニ店員慧斗が問い詰めているのは客蜜子。慧斗は蜜子が万引きした瞬間を目撃し、店を出ようとしたところを捕まえたのだが。
「おっほん、何があったのかね?」
 すると奥から出てくるぱんだ店長(CV:愛紗)。2人を見るとすぐに状況を察し。
「デートかね」
「「違います」」
 大体この辺まではさっきまでのエチュードコンビ二編と同じ。しかし。
「どうやらこのコンビニ困ってるみたいにゃ、先生!」
「ではオペを始めましょうか。‥‥ドリル」
 巨大ドリルで自動ドアを粉砕して入ってくる医者蒼志と、何故か猫耳のナース千佳。割れたガラスのドアは千佳が何かの魔法をかけて直したようだ。
「な、何ですかあなた達は!?」
 面々の中では一番まともっぽい慧斗が尋ねると。
「我ら、人呼んでコンビニ治療団!!」
「病んだ社会秩序をコンビニ浄化で治療するにゃ!」
 決めポーズ。
「間に合ってます」
 お決まりゼリフ。
「あのさー、あたし急いでるんだけど行っていい?」
 どさくさに紛れて。ダメです。
「「どうぞ(にゃ)」」
「何でですか!! 浄化するんじゃないんですか!?」
「我らが浄化するのはコンビニ側です。事件が起こるのは何が原因か。カメラなどハード面か、店員意識などソフト面か。たちまち解明即座に治療いたしますよ。ではとりあえず、ドリル」
「はいにゃ」
「何に使うんですか」
「まず、店長の目に防犯カメラを仕込みます」
 ぱんだビーム!!
「ふっふっふー、わしにメスを入れようなど百年早いわ!」
 店長の目から放たれたらしいビームが治療団を直撃。ぶっ飛ぶ蒼志と、彼を盾にして無傷の千佳。


「と、いうところで一旦止めてみましょうか」
 手を叩いて場を止める部下。
「突然振ったネタなのに、皆さんかなり対応出来ていたと思います。ただ、少しやり取りがワンパターンになってしまったのがちょっと惜しいところです。例えば、店員と客のやり取りに治療団が絡んできたまでは良かったのですが、そこから万引き客の影が薄くなってしまいました。これだと、舞台上でおろおろし続けてもらうよりは、一度勝手にでも理由をつけてでもはけてもらって、後で別の展開を持ってこさせるほうがうまく回りそうな気もします。まあ、そこはこれから芝居の基本的な展開に慣れていけば、大丈夫になっていくと思います。‥‥さて、そろそろ時間も時間ですし、練習は切り上げましょうか。次回に向けての話なんですが‥‥‥‥」


          【劇団を作ろ 続く】