タイトル:蒼く輝く竜マスター:香月ショウコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 2 人
リプレイ完成日時:
2008/02/23 00:12

●オープニング本文


 大規模作戦がもう目前となり、関係各所が慌しく動く中。
 ラスト・ホープには非常に焦っているクララ・アディントンがいた。

「‥‥ドラゴン」

 クララが危惧しているのは、彼女の追っている父親の仇『ドラゴン・オブ・ストレイタブルー』が、五大湖解放戦の作戦の一環として討伐されてしまわないかというものだ。
 五大湖解放戦の作戦領域と『ドラゴン・オブ・ストレイタブルー』のいる地域はかなり離れている。しかしUPC軍が、ドラゴンによって作戦行動を行う部隊の側面、或いは後方から襲撃を受け足並みを乱される可能性を考え、後顧の憂いを絶つために討伐隊を用意することだって充分考えられる。

 そして、クララの危惧は、彼女の予測とは違った形で現実のものとなる。

●第1次ドラゴン討伐依頼
「なあ、あのドラゴンの討伐依頼、ようやく出たらしいな」
「お前情報遅いな。とっくに討伐隊は現地に向かったよ」
「え? マジで? いつ?」
「ついさっき。KVの使用許可が下りてるから、今度こそ勝ってくるだろ」
「そうか、やっとか‥‥そういえば、何で今回は許可出たんだ? 後ろのバグアはいいのか?」
「別によくはないんだが、ドラゴンがバグアの前線より突出して前に出てきたんだよ。今回の行軍にバグアが気付いて、それへの牽制のためにドラゴンを突っ込ませてきたってのが俺の個人的見解だな」
「なるほど。今度の作戦はスピードが命だからな。派手で強力なあのドラゴンが突っ込んできたら、一部の部隊は足止めされる。それが狙いってことか。‥‥でも、何で俺達の作戦の内容をバグアが知ってるんだ?」
「俺が言ったのはあくまで仮定の話だ。こうなんじゃないかって予想。もしかしたら、単にドラゴンが気まぐれだっただけかも知れないぞ」
「気まぐれねぇ。だから、数が増えたり小さくなったりするのか」
「ん? 何だそれは。増えたり小さくなったりしたのか?」
「お? お前これは聞いてなかったんだな? あのドラゴン、どうやら5体増えて6体になったらしい。サイズも15mから5mに。飛んだり引っ掻いたり電気吹いたりは同じらしいけどな」
「分裂か‥‥もしくは繁殖か‥‥」
「あとは、バグアの気まぐれで量産型が出てきたか、な?」

 ・ ・ ・

 そして現地。ドラゴン討伐隊ある時の会話。
「おいお前達、差し入れが来たぞ」
「え? 差し入れ?」
「さっき可愛い娘が、これ食べてドラゴン退治頑張ってくださいって」
 男が皆に示して見せるのは巨大な重箱。他のメンバーも喜んで。
「へー、中身は何? お、昆布。日本食かー」
「巻いてるのは‥‥鱈?」
「鱈の昆布巻きか。じゃあこれで景気付けて、ガツンとやってやろうぜ!」
「「「おー!!」」」
 皆の食事中。彼らの愛機に近づく影、約1名。

●第2次ドラゴン討伐依頼
「なあ、あのドラゴンの討伐隊、帰ってきたらしいな」
「ああ。全機体ことごとく関節に異常が見つかったらしい。普通に飛ぶことは出来ても戦闘となると不安があるから、一度キャンセルになったみたいだ」
「しかし、全部が全部一度に不具合なんてなあ。まるで誰かがわざと壊したみたいじゃないか」
「滅多なことを言うものじゃないぞ。仲間内で警戒しあった状態で向かう仕事なんて、よほど神経が太くないとやってられん」
「じゃあ、外部班?」
「分からんが。だがお前のような考え方をする奴も結構いるみたいだ。警戒して第2次討伐隊は人気が無くなってる」
「ふぅん。今いるのは‥‥クララ・アディントン? 聞かない名前だな。新入り?」

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
フォーカス・レミントン(ga2414
42歳・♂・SN
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
楓華(ga4514
23歳・♀・SN

●リプレイ本文

●深読みし過ぎは骨折るだけ?
 薄々、皆感付いてはいた。第1次討伐隊のKVに一撃ぶち込んだのはクララだと。だから彼女を見張っておけば被害は出ない(もしかしたら討伐隊に加われたことで満足して事件起こす気を無くしているかもしれないし)のだろうが、それでも外への体裁のため、対策はとっておく。
 明星 那由他(ga4081)は第1次討伐隊のKVを整備した面々に、被害を受けた部位とその程度、道具があれば応急でも直せるかを尋ね、幾つかの修理用工具を自分のKVに載せた。おっさん(フォーカス・レミントン(ga2414))はクララを第1次のメンバーに会わせないよう出撃前の格納庫に押し込んで、『謎の故障』に関する話を聞きに向かった。全ては、全段階における無用のトラブルを避けるため。
「F−15みたいな機体と違って、KVは未知の部分が多いから、いつ故障してもおかしくないだろう」
 そうだね、K(クララの)V(ヴぉうりょく)は未知の部分だらけだ、確かに。


 格納庫では、第2次討伐隊の残りのメンバーが出撃に当たっての相談を行っていた。不審人物対策に緋室 神音(ga3576)と楓華(ga4514)、如月・由梨(ga1805)が見張りの順番と方針を話し合い、鋼 蒼志(ga0165)はクララが任務中乗ることになる愛機を紹介。
「この青い機体『Bicorn』が俺の相棒です。‥‥かっこいいですよねぇ。KVは浪漫ですよね」
「びこーん?」
「何だか、ああいうのを見てると、微笑ましくてクララさんが犯人とは思えなくなってきますよね。囮に使った料理のチョイスも日本人ぽいですし」
 蒼志から逃げ回るクララを見ながら、平坂 桃香(ga1831)が呟く。それに、崎森 玲於奈(ga2010)も頷いて。
「組織の内部に裏切者が紛れ込んでいる可能性も考えなければね。内部事情もしっかり把握出来るよう努めないと」
「そうですね。妨害工作とも別に、何かが動いているような気がします。今回のドラゴンの動きは不自然です。あれほど目立ち、UPCに警戒させるようなやり方は普通しないと思うんです」


「皆、行ってらっしゃい! クララちゃん、店長さんも草葉の陰から見守ってるよ!」
「いつの間に天に召されたんだ俺は‥‥」
 何とか出撃に間に合った見送り組ハルカと七瀬 蜜子、コンビニ『サンシャイン』店長が激励の言葉を贈る。
「どうか気をつけて。S眼鏡さんのこと、気絶させちゃダメです、よ」
 ついに蜜子にまで言われるようになったかと蒼志が自嘲し、クララは親友の言葉に渋々頷く。
「ところでクララさん、これ、お守りに貰ってくださいませんか?」
 蜜子が差し出すイヤリングを、クララは手で制し。
「今貰ったらSメガネの運転失敗爆裂大事故に巻き込まれて無くす。だから成功のご褒美で貰う」
「俺は事故りません」
 反論をよそにとっとこバイパーに乗ってしまうクララ。それを契機に、他の皆も自分の愛機へ向かう。大きく手を振るハルカ、そして心配そうな蜜子。大丈夫、イヤリングはちゃんと渡せるさ。今回は様々な裏事情につき難しいけど。


 そして、移動の間のあれやこれやは全部すっ飛ばして、戦場へ向かう前の補給に立ち寄った基地にて。
「クララさん‥‥精密機器で叩いていいのは、ブラウン管テレビだけなんですよ。それも斜め45度から限定です」
「そう、だからあえて叩いた」
 那由他の忠告をさらっと流すクララ。ここは基地内の休憩所。蒼志とおっさんも加わって、クララを囲む会(別名:包囲網)が開催されている。KV不調を引き起こす不審人物の報もあって、能力者達のKVは常時必ず何人かがいる格納庫に入れられており(第1次のKVは外に置かされていた)、また今回の参加メンバーの紅五点のうち3人もがKVまわりの警戒についているため、クララによる破壊工作の心配は無いのだが、念には念を、だ。
「何はともあれ、中で暴れたりしないでくださいね? 戦場では何が原因で死に直結するか分かりませんので。笑って済む事なら笑って済ませますが、そうじゃない場合は俺も上に言いますので。そうなった場合、クララさんの進退がどうなるかも分かりますね?」
「分かってる。明日の朝日は拝めないから覚悟しろ」
「どこでそんな言葉を覚えたんだ‥‥だがクララさん、宿舎は男女別だ。鋼さんを襲うのは相当な難易度だし、もし見つかったら変な噂も立つぞ」
 そんな皆の活動の裏で、桃香は一人不審人物を探していた最中、銃を突き付けられた。
「すまないね、いきなり。色々と物騒なものだから」
「いえいえ、私こそお手数かけました」
 と、桃香はジョエルという中佐と笑い話。基地にいる軍人にとって、見知らぬ人物が基地を歩き回っていたらそりゃ怪しい。第1次に差し入れを持っていったのも可愛い女性だというし?
 ともあれ、この日は何も異変は起きなかった。クララが犯人で決まりか、真犯人は既に別所にいるか、どちらかだろう。
 翌朝、ドラゴンスレイヤー部隊『Sieg』『Fried』は出撃した。

●青い空貫く雷光
 作戦空域に入ってすぐ、反応があった。大きな飛来物。それらはすぐに、目視が可能な距離まで近づいてくる。
 その、直前。エミタによって高められた動体視力が光を捉える。
 噂にあった、竜の雷撃。それをやや前方の4機『Sieg』は2機ずつに隊列を割って回避し、後ろの『Fried』4機は少し高度を上げて避ける。雷撃の軌跡を辿るように、通過していく6体のドラゴンの群れ。
 ニアミス。その瞬間、那由他のS−01が放ったレーザーが、1体の竜の翼を焼く。小さな破れが大きな速度低下となって、群れの編隊飛行から脱落する1体。
 5体の竜が各々に旋回し、『Fried』の後ろを追う。竜達の飛行速度はKVに及ばないとはいえ、文字通り光のように飛んでくる雷撃が、実質的な両者の距離を縮めている。
 ただ1体遅れている竜には、旋回して戻ってきた『Sieg』が二方向から攻撃を仕掛けた。蒼志の『Bicorn』がガトリング砲を牽制代わりに放って離脱すると、すぐさま後ろについていた玲於奈がH12ミサイルポッドを放射、爆裂。黒煙の向こう、まだ落ちぬ竜に、由梨と桃香がミサイルを追加し、黒焦げとなった肉塊を地に叩き落す。
 『Fried』の背後から一直線に向かってくる雷撃。それを即座に座標をずらして回避するが、5本の雷光のうち一つが楓華の機を掠める。爆発も炎上もないが、酷い衝撃が楓華を襲う。
『『楓狐』、無事か?』
「大丈夫です。揺れただけで、機体に問題は起きていません」
 旋回した舞台が竜の側面を突き、レーザー砲の一斉射。命中した部位の鱗を飛ばし肉を焼き、細い煙を漂わせる。
 さらに、竜の後方から近づいた『Sieg』隊からホーミングミサイルとスナイパーライフルの弾丸が飛んできて、竜達の尻を叩く。2体の竜が飛行する力を失って地面へ落ちていき、そして再び『Sieg』と『Fried』は始めの隊列へと戻る。異なるのは唯一、竜達の飛んでいる向きだけ。出来るだけ無駄弾を撃たないよう加減しながら、後ろに張り付いて攻め立てる。
 『Bicorn』から提案が入り、『Sieg』の4機は可能な限り接敵して射撃体勢に。そして、あるだけのミサイルを群れ全体に向け発射する。そうしてさらに1体を地に落としてから、『Sieg』は下降していく。ここから彼らは地上戦へ。彼らの真上から雷撃を放とうとする竜達には『Fried』が銃撃を加え、動きを制限する。空中戦はKV4機対手負いの竜2体。さっさと片付けて、地上の援護に向かいたいところだ。

●蒼く輝く竜
 『Iris』のレーザー砲が、回避行動に移ろうとする2体の竜に向けて放たれる。連続して放つレーザーは、しかし半数以上が竜の周りを通過していく。神音機を援護する那由他機が放つレーザー砲も同様だ。2体上下に重なるようにして飛ぶ竜に、光の筋は当たらない。
 いや。
『『FOX』、これより対象への攻撃に移る』
『『楓狐』援護に入ります。牽制感謝です』
 おっさんと楓華が、スナイパーライフルのトリガーを引く。と、弾丸はレーザー砲での攻撃によって行動を制限されていた2体の竜に直撃する。同時に、今までわざとレーザー砲を直撃させずにいた神音と那由他も狙いを定めなおし、攻撃を1体に集中させる。
 羽を破られゆっくりと落ちていく1体の竜を那由他がミサイルに追わせて撃墜すると、空中戦決着へのカウントダウンが始まった。


 地上へ向けて降下した『Sieg』隊は、程なく3体の竜を確認した。黒焦げの1体目の死骸付近にそれに続けて落とした2体が。それとはやや離れた所に、『Sieg』の残りミサイルを叩き込んだ時に落ちた死に掛けの1体が。
 死に掛けの方に向かう蒼志機に、桃香が援護の要・不要を問う。が、元々の作戦上で空中から『Sieg』の援護を行う『Fried』がすぐに駆けつけられるだろうこともあり、蒼志は断った。どうせ相手は死に体、油断しているわけじゃないが負けることは無い。寧ろ、怖いのは半端に手負いの向こう2体だ。
「こうしてじっくり見てみるとやっぱり小さいな。‥‥クララさん、あれが仇に見えるか?」
「違う」
「確かか?」
「父さんの家よりは大きかった。これは、KVより小さい」
「ふと思ったんだが、実家何階建てだ?」
「4。今は壊れて地下室しかない」
「‥‥とりあえず、じゃあ手加減とかは要らないよな? いくぞ!」


 地上へ降り立った蒼志以外の『Sieg』隊は、羽を傷つけられたことで満足な飛行能力を失った竜に止めを刺すため接近する。と、そこにやはり放たれる電撃。空中にいた時ほどに距離は無いため由梨の『Lily』が回避しきれず左腕に喰らう。駆動に微妙な遅れが感じられた。
「『Lily』被害は軽微。戦闘に支障はありませんから、終わらせてしまいましょう」
 由梨の報告に、『Lily』へ向けて雷撃を撃たせないよう走り回りながら射撃し竜の気を引いていた桃香と玲於奈が歩を緩め命中精度を上げる。由梨のバルカン、玲於奈のレーザー砲がざくざくと竜達から生命を削り取り、桃香のライフルが穴を穿ち魂を削る。
 それでも竜は反撃を試みる。2体ともそれぞれが別の対象目掛け雷撃を放とうと口を開く。
「そう何度も同じものは喰らいません!」
 その口の中を狙い、桃香のライフル弾が炸裂する。大量の血液を撒き散らしながら竜が長い首と頭を振り回して悶え、接近する玲於奈機にまさに雷を放とうとしていたもう1体に激突する。明後日の方向に飛んでいく光。
「竜だろうと何だろうと、渇望の王は等しくその剣で貴様の首を刈り取ると知れ‥‥!」
 すぐさま、玲於奈はぶつかられた方の竜の首にディフェンダーを叩き込む。嫌な音がして赤が弾け、吹っ飛ぶ首。もう1体の戦意を失くしぐったりしている竜には、由梨が念のためにソードウィングで止めを刺す。
「終わりましたか、良いタイミングで戻れました」
 ところどころに血だまりが広がるそこへ、地面と同様機体を斑に赤く染めた蒼志がやって来る。得物のドリルからは今もまだ血が滴り。
「無事こちらは終わりましたね。クララさん、このドラゴンは仇のドラゴンでしたか?」
「無事じゃないですよ。3倍速にならないのに青い機体が赤くなっちゃって。‥‥ドラゴンは違ったみたいですね、後ろでしょげてますよ」
 由梨の問いに、蒼志が代わって答える。
 瞬間。辺りを蒼い光が一瞬だけ照らす。続いて、爆音。
「何だ‥‥!?」
 玲於奈が見上げると、空には巨大な黒煙が立ちこめていた。そして、その中から地上へ向かってくる4機のKV。
「『Fried』、何があったんですか? 皆無事ですか?」
 桃香が尋ねると、すぐに神音から全機問題無いと帰って来る。
『自爆したんだよ、あれは。巻き込まれずに済んだのはラッキーだった』
 おっさんの話す爆発の原因に、竜にそこそこ接近したことのあった者達は冷や汗一筋。

●謎の空白時間
 その後、一行は今回戦った竜達の正体を暴くための資料として、竜の死骸のほんの一部を回収した。那由他は、この竜達のDNAが同一ならば元のドラゴンが分裂したか、そのクローンである可能性を、異なっていればバグアが新たに配置した別個のものである可能性を示唆したが、その調査には長い時間がかかるようだった。まだ結果は出ていない。その調査研究に必要だということで、竜の鱗を剥がして持ち帰った神音は残念ながらそれを没収された。
 さて、ここでもう一つ、この時に起こった突発的な事件を報告しておく。死骸の回収中、機体を降りたクララが行方不明となった。依頼の期間や様々な補給事情から捜索に長い時間を割くことは出来ず、一行は一度基地へと戻ったが、そこでKVの補給と簡単な整備を受けている間に、クララはふらりと戻ってきた。
 誰もが心配したとか時間が無かったとか色々言ったが、クララは平然とした顔で「バイトしてた」と言うに留まり。
 結局、真相は分からず仕舞い。ラスト・ホープへと帰還することとなった。

 ・ ・ ・

「クララ・アディントンと言ったね」
「おっさん誰?」
「君が仇と追うドラゴン・オブ・ストレイタブルー。その居場所の情報‥‥そして、あれを倒す力。手に入れたくはないかな?」
「欲しい」
「なら、私と一緒に来るといい」
「仕事中にいなくなると怒られる。ここでくれ」
「大丈夫だ。すぐに済む。そうしたら、基地までは送り届けよう」

 ・ ・ ・

 真相は闇の中。