タイトル:【Nobody Knows】遭遇戦マスター:香月ショウコ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/26 11:21

●オープニング本文


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<報告1・捜索隊A>
 ジャングルへの侵入直後から、キメラとの交戦多数。撃破しつつ進行するが、捜索開始2日目の正午前にメンバー内に重傷者が出たため、後退する。捜索中・後退中共に、捜索対象やその痕跡を発見することは出来ず。
 また、後退開始直後の13時頃には、マナウス方面へ向かう小型ヘルメットワームを2機確認した。


<報告2・捜索隊B>
 深沢 真代からの情報を元に、捜索対象が取ったと思われる移動ルートをトレースしつつ捜索。キメラとの遭遇は何度かあったものの、全て回避または即時撃破。
 捜索開始2日目の午前10時頃、当時の対象らの緊急集合ポイントに到達。付近の調査開始後、何者かにより仕掛けられた照明弾のトラップにかかる。直後、正体・意図不明の狙撃を受ける。狙撃者の発見出来ず。構成員の負傷(軽傷)と、光と音に呼び寄せられたキメラの続出により後退。


<報告3・捜索隊C>
 深沢 真代の情報に無い場所を中心に、未捜索のエリアを最も効率良く減らしていけるよう進路を取る。途中キメラとの遭遇戦も複数回あったが、問題無く殲滅。
 捜索開始2日目早朝に、バグア勢の奇襲を受ける。捜索隊Cは総長の提示連絡へ向かうことを断念し、これに応戦。キメラの第一波を退けたが、味方の損耗が非常に大きく撤退を決定。敵の追撃を振り切り、ジャングルを脱出した。
 奇襲を仕掛けてきたキメラの一団は統率が取れており、キメラの群れの後ろに時々姿の見えた人間(親バグアか?)が指揮を執っていたと思われる。またこの人間の人相は、捜索対象達とは異なっていた。

●誰も知らぬ遭難者
「さて、前衛が少々不足してるこの状態で、どうやって切り抜けてやるか‥‥」
「ロバートさん、敵の包囲網は後方がやや薄いです。向こうに一度突っ切るのはどうでしょう?」
「ここまで来ておいて、引き返すのは勿体無い気もしますけどね」
 左側面から飛びついてきた小型のワニのようなキメラをロバートは一歩後退して回避し、目の前を通過するそいつの尻尾を掴んで地面に叩きつける。それに、加島 翔平が銃弾を一発叩き込む。
「勿体無いって言ってもな、加島。ここまで来なけりゃそもそも包囲はされなかったわけでな。トラップに照明弾を使ったあたりから、嫌な予感はしてたんだ」
「ロバート、過ぎたことはいいだろう。重要なのは今とこれから」
 阿我 一太がロバート・エイリーにそう釘を刺す。ロバートは「まーそうだが」とだけ呟いて、視線と意識を敵へ向け直す。
「でも、照明弾と銃声でキメラが集まったおかげで、あの人達は無事に戻ったんですよね? 私達がまだ生きてること、伝わったかもしれないです。そしたらラッキーですよ」
 照明弾トラップと、撤退した能力者の一団を尾行すること。その2つを提案したことでキメラに包囲され、翔平はロバートから非難を受けていた(他にも、口には出さずとも文句のある者はいるだろう)わけだが、それを高橋 アミイが何とか庇う。
「戻れば、R−01があります。ちょっとまともに動くかは分からないですけど‥‥本格的な救助が来たら、その時に動かして少し暴れれば、すぐに発見してもらえると思います」
「あのポンコツはさすがにもう戦えねぇだろ。アンネリーゼも足がそんなだしな」
「固定砲台になるだけなら、どうにでも動かせるさ」
 アレクセイ・エリツィンの悲観論にアンネリーゼ・エッフェンベルクはそう答えるが、しかしその答えもマイナス思考だ。確かに、ろくな武装が残っておらず、装甲が穴だらけで、電気系統がいつ接触不良を起こすか不明で、風防が吹っ飛んでいて、何歩か歩くと転ぶようなズタボロのKVには、希望は持てない。
「とにかくだ。何を議論するにも、時間と場所が必要だな。邪魔者はどかさねーと」
 ロバートのその言葉が、結論。

 ・ ・ ・

 彼ら行方不明だった部隊は、自分達を捜索に来た能力者達を敵と誤認して狙撃後、将兵の提案によって尾行していた。それは相手の行動に対して生じた疑問を解決するためだったのだが、果たして、能力者達がUPCブラジル軍の勢力エリアへまっすぐ向かっていることが分かったところで、彼らが味方の勢力だったことを知った。
 救助が来たことを知った皆は喜んだが、しかしトラップとして仕掛けていた照明弾や狙撃中などの銃声を聞きつけた周辺のキメラがこぞって集結。尾行していたメンバーが本体と合流し、ブラジル軍勢力エリアの方面への移動を検討し始めたところを包囲した。


 と、そんな状況を露知らぬベースキャンプでは、続く捜索の方針が決定されていた。と言っても、方針にそれほど大きな変更は無く、これまでに得られた情報を元にしてさらに捜索範囲を広げるというだけなのだが。
 ただし、1つ留意しなければならないことがある。原因は不明だが、ジャングル内の一部の地域において大量のキメラが活動を活発化させているらしいという情報が舞い込んだのだ。情報の精度については微妙だが、事実であれば大規模攻勢の予兆の可能性もある。捜索を行う能力者達には、『もしも余裕があれば』キメラの動向の調査と、遭遇したキメラの可能な限りの排除も、併せて依頼された。現状のまま真正面からの総力戦となった場合は、この地域のブラジル軍では太刀打ちが出来ないため、互いの戦力差を出来るだけ小さくしておきたいという狙いがある。

●参加者一覧

ジーラ(ga0077
16歳・♀・JG
アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
OZ(ga4015
28歳・♂・JG

●リプレイ本文

●合同作戦
 事前のミーティングには、3隊の全員が参加していた。
「真代からの情報によれば、遭難者達はKVを所持しているらしい。その隠されている場所、我々を狙撃する際にいたと推測される地点、我々が狙撃された場所を繋ぐと、一本の線が出来上がる。狙撃者が遭難者だったと仮定するならば、この直線エリアの付近に潜伏している可能性が高い」
 煉条トヲイ(ga0236)が話しているのは、遭難者達がいる場所の予測。狙撃者が遭難者である確証は無く、また人間を狙ってきたならバグア勢と考えるのが自然だが、旧C班が遭遇した人間と遭難者達が一戦交えており、遭難者達がトヲイ達を敵と誤認した可能性も捨てきれない。
 霞澄 セラフィエル(ga0495)が続ける。
「放たれた弾丸の威力から考えると、狙撃者が使用した武器がSES搭載のものであることは間違いありません。ということは、狙撃者が能力者‥‥即ち遭難者達だと考えるのは難しいことではありません。他に有力な手がかりが無く、またキメラの活動も活発化していることから、私達は3班合同で行動することを提案します」
 心の内で、アグレアーブル(ga0095)も頷く。例え遭難者達の居場所の目星がついていなかったとしても、現在の状況下で分散して捜索するのは危険だ。その考えは1次捜索で怪我人を出したA班のメンバーも同じようで、彼らはすぐに同意した。新C班はといえば、ジャングル内の状況に詳しいわけではないために判断材料に乏しく決めあぐねていたが、最終的には慣れない土地で単独行動よりは合同での行動の方が良いだろうと同意に至った。
 そして進行ルートの相談。と言っても目的地が決まっている以上候補に上がるルートは多くなく、まずはまっすぐB班が狙撃された地点を目指し、そこから真代の言っていたKVの隠されている地点へ向かってみることとなった。


 遭難者達を発見し、保護した場合、キメラの殲滅は不要であるためにそのままベースキャンプまで後退することになる。その際にキメラの群れを足止めするためのトラップとしてエミール・ゲイジ(ga0181)達は地雷などを申請していたが、在庫切れとの連絡を頂いた。おそらくは基地に地雷はある。だが、基地の防衛の際に使用するため出し惜しみをしているのが真実だろう。仕方が無いので、漸 王零(ga2930)と共に弾薬を加工し、簡単な地雷を現地で作る準備をしておく。あまり数多くを持っていけないが、うまくそれらを使用して、無事に帰って来たいところだ。
 また遠隔操作式の爆弾を申請していたOZ(ga4015)も、無いと言われた。後にA班のサイエンティストから聞いた話では、1次捜索の際モーションセンサー式の爆弾は貰えたという。その時も在庫が厳しいから2個までとケチ臭いことを言われたらしいが。ちなみにその2個は、A班撤退時に使用済み。まあでも、エミールや王零が作っている地雷を幾つか借りられれば、万が一KVを回収出来ず敵の手に渡りそうな場合に爆破するというOZの目的は達成できる。密林でデカい花火を打ち上げて、熱と痛みに歪むキメラの表情が目に浮かぶようだ。
「ゾクゾクするぜ‥‥あぁ、たまらねぇ」
 そんな状況を楽しむOZとは逆に、不安を募らせるのはジーラ(ga0077)と葵 コハル(ga3897)。ジーラは遭難者達が今何を思い身を潜めているのか、もしくは戦っているのかを思い、コハルは再度の接近によってまた狙撃されるなど、ややこしいことにならないかを考え。
 そしてまた、何となくコハルには、出発前の現段階から嫌な予感が感じられていた。

●包囲網突破準備
 1次捜索の際に狙撃を受けた地点までは、それほどの苦労も無く到達出来そうだった。あと数分も歩けば到着する。キメラとの遭遇はまだ無い。
 しかし、当然ながら気は緩めない。アグレアーブルを先頭に、警戒を怠らずに進軍する3隊。最初の目的地に近づくほど、肌を刺すような敵意という気配も近づいてくる。
 瞬間。
 がさり、と大きな音を立てて茂みが揺れ、中から大顎を持った巨大なワニが飛び出してくる。アグレアーブルの右腕を食い千切ろうとした大顎は、しかし空気だけ噛み千切る。横に飛んで回避したアグレアーブルは体勢を崩すが、即座にエミールが両手の銃をワニに構え発砲。衝撃と痛みにひっくり返ったワニ、その腹目掛けてジーラのアサルトライフルが火を噴く。皮が弾け血飛沫が舞い、口の隙間から力無く長い舌が垂れる。
 直後、樹上から蝙蝠のようなキメラが2体降ってきた。こちらにはA班の3人が集中砲火を浴びせて地面に叩き落した後、剣や槍を持つメンバーが1体ずつ確実に止めをさしていく。
「やっぱこの辺は敵さんの巣の中になっちまってるみたいだな。面白ぇ」
 OZの言うとおり、響いた銃声にキメラのものと思われる鳴き声があちこちから聞こえ出す。急ぎその場を離れ、目的地へ向かう。
「じゃ、俺達はこの辺から」
 狙撃された地点を目の前にした深い茂みの中で、エミールが短く告げ、ジーラと共に気配を消しながら偵察に出る。茂みの向こうの開けた一帯。そのさらに向こうには、大猿が両手で足りないほどうろついている。木の上には先ほど遭遇した蝙蝠のようなやつもいて、密度が明らかに異常だ。偵察組はそのキメラ達の向こうには何があるのかを調べ、それが遭難者達だった場合、捜索隊本体が突撃するのに効果的な地点を探し出すのが役目だ。
 残る本隊は2人を送り出した後、茂みの中で息を潜めて待つ。もしも目前のキメラ達が騒ぎ始めたら、それは偵察失敗を示す。その場合はすぐ突撃して2人を助け出せるよう、覚悟を決めておく。
 少しして。本隊の頭上を2機のヘルメットワームが通過した。

 ・ ・ ・

 奥へ進むと、時々小さく銃声が聞こえるようになった。この先に遭難者達がいること、キメラと戦闘中であることは明白だ。
 よって、2人の第一目標は敵の布陣の薄い地点を探すことに移った。可能ならば全体の配置まで調べてしまいたいが、危険を伴う上に時間もかかる。第一目標の達成を目指す間に調べられるだけ調べておくのが限界だろう。他に指揮官探しというのもあるが、これはより危険を孕む。おまけ程度に考えるのが吉だろう。
 周囲に敵の気配がほとんど感じられずとも、注意に注意を重ねて潜行する。少し後、遭難者達を取り囲むキメラの包囲網でとりわけ層の薄い場所を発見した。が、しかし。
 2m程度離れた茂みから、ジーラがエミールに視線で合図を送る。彼女が目で示す方向へ移動すると、そこには大量のキメラの群れ。
(「これだと、あっちも拙いかな?」)
(「分からない」)
 視線と表情で会話する。距離的には数分。先ほどの薄い地点に突撃したとして、ここのキメラ達は自分達の退路を絶つだろうか。
 奇襲が成功し、遭難者達も救助に気付いてこちらに抵抗せずにスムーズについて来れば、戦闘は回避出来る。そのあたりに関しては賭けになる。
 だが、これ以上別の場所を探すのは時間的に難しい。より奥へ向かって、結果的に突破が容易な地点を見つけたとしても、本隊がそこに行くまでに勘付かれる危険もある。本隊の位置と敵の数を考えれば、多少の不安要素には目を瞑らなければ。
(「戻ろう」)
 結論は出た。急ぎ戻ろうと踵を返したところで、上空に影。見ると、2機のヘルメットワームが頭上を通過し、あろうことか目の前のキメラの群れの中心に着陸したのだ。
(「‥‥!」)
 危険だ。見つからないように注意しつつも、早くこの場を離れなければ。2人で、いや生身であれを相手には出来ない。
 が、一瞬留まってしまう。ヘルメットワームから何者かが降りてきたからだ。エミールとジーラの瞳に映ったそいつは、一見したところ人間‥‥白人の男だった。
(「こいつがC班殺しの‥‥?」)
 考えるのは後だ。親バグア、もしくは洗脳された人間が敵の中にいることは分かった。それを踏まえて、突撃作戦に修正を加えてもらえばいい。


 音も気配も無く本隊の元へと戻る2人。その2人の消えた方向を、ヘルメットワームから降りた男は一瞥して。
 口元に笑みを浮かべた。

●撤退戦
「敵の方が圧倒的多数‥‥長期戦は厳禁だ。短期決戦で行くぞ!」
 照明銃の光が空に輝くのと同時に、24人の能力者は突撃を開始した。事前の役割分担を少し変更し、B班の突撃、開いた突破口にA班が突入して敵を分断し、敵を逆に包囲殲滅する位置へ動く。C班は周囲に漏らした敵を排除し、余力はAB班の援護にまわす。
 敵の殲滅は素早く行われた。大猿の左胸を王零の刀が貫き、霞澄の放った弾頭矢が別の大猿の脳天を爆裂四散させると、もう遭難者達が発する戦闘音はすぐ目の前だった。
 作戦通りの進行。しかし、コハルはその肌に、より強まった嫌な予感を感じていた。
 すぐに、遭難者達の音が途切れた。同時に草を踏む移動音が聞こえ、直後、捜索隊と遭難者達は出会った。人数は12人。そのすぐ後ろから、片足を失った女性と彼女を支える男が現れ、人数は揃った。
「深沢さんから事情を聞いて、助けに来ました。帰りましょう」
 アグレアーブルが、用意していた言葉を口にする。と同時に、霞澄と2人で彼らの様子を観察する。バグアは死人に乗り移るとか、そんな噂。真代の名前を出した時の反応で、確かめようと思っていた。
 すると、遭難者達の中に柔らかい空気が流れた。やっぱりとか、無事だったかとか。それだけを見れば、間違いなく彼らは彼らだろう。
「以前はすいませんでした。狙撃は俺の提案でやったことです」
 真代と同年代くらいの青年が、そう謝る。そこにもう一人の男がやって来て。
「申し訳ないですが、これまでの経緯とか狙撃の件についてとか、そのあたりは後にしましょう。こちらも深沢さんのことが気になりますが、我慢します。今は急ぎ‥‥でしょう?」
 阿我と名乗った男が、霞澄や青年にそう言って周囲を見渡す。確かに今は急ぎだ。敵の増援が来ないうちに逃げなければ。
 しかし次の瞬間。A班のグラップラーの男が頭部に光線を浴びて倒れた。瞬時に警戒モードを強め、振り返った先には。
 数え切れないほどのキメラの群れと、その先頭に立つ人間がいた。
「お前が指揮官か? 何故、バグアに味方する‥‥!?」
 トヲイが誰何すると、男は浮かべていた薄い笑みを疑問の形に変えて。
「味方? ああ、味方か。そーか、そういやそうか。楽しいだろ、こっちの方が。弱い者の最期の足掻きってのは、興味深い」
 なあ? と言って光線銃をトヲイの足元に撃つ男。トヲイは一歩下がってそれを避け。
「この素早い動き‥‥ボク達の偵察がバレてたのかな」
「気にするな。お前らが動く前から全部見てた。全部お見通しだ」
 ジーラがエミールに聞くのを、男がそう言う。
「まあそんなわけだからさ。足掻いてみてくれ」
 男の一言と共に、無数のキメラが殺到する。キメラ単体なら問題はないが、こうも数が多く、際限が見えないと。戦力差が逆転した絶体絶命の状況。そこに。
 爆音と共に十以上のキメラが吹き飛ぶ。能力者達の振り返った視線の先には、アンネリーゼが起動させ、ディフェンダーをブン投げた後の姿勢のR−01がいた。


 R−01の作った隙を利用して、敵の包囲の一角を突き抜ける一同。しかし配置されたキメラの数は半端ではなく、突破したかと思えばまた次の層にぶつかる。まっすぐ突っ切って逃げられれば、最初の包囲に配置されていた多くのキメラを相手にしなくて済む。だが、層の1つ1つに時間を稼がれる間に、後方のキメラはどんどん近づいてくる。
「私が残る! お前達は全力で包囲を突破して逃げ切れ!」
 R−01がバランスを崩しそうになりながらも転回し、アンネリーゼが叫ぶ。確かにそれが最善だ。立ち止まれば物量に潰される。全員で突っ込んでもすぐに追いつかれて潰される。ならば、戦闘力はあっても最も足の遅いR−01をここに残して追っ手を迎撃させ、その間に機動力の上がった残りの全戦力で一点突破。
 しかし。皆で帰らなければ意味が無い。霞澄をはじめとして、皆がそう思っている。だが既に、ここまででA班に2人、C班に1人欠員が出ている。皆で帰るために全滅するか、多数が帰還するために少数を犠牲にするか。

 いや、それでも、最後まで足掻く。

 R−01は単独では追っ手から逃げ切れない。となれば、アンネリーゼを降ろして連れて行く役目の者が必要になる。負傷者を一部含む主力部隊を先行させ、可能な限り早く包囲に穴を穿つ。その間残りの面々はR−01と共に後退しつつ、追っ手を牽制。退却路が確保され次第、R−01を打ち捨てアンネリーゼを救出して撤退する。これが今導き出せる最良と思われた。
 ジーラが選ぶルートをトヲイと王零を始め、A班の5人やC班の5人が切り拓く。討ち漏らしはアグレアーブルと遭難者のロバートなどが素早く始末する。ロバートを含め、他の遭難者のうち7人が先行部隊にはいる。彼らは負傷者を中心に、早期脱出のためにこちらに加わっている。
 一方残った部隊は射撃を中心とした牽制を行っていたが、すぐに瓦解した。元々まともな動作の期待されていなかったR−01が、すぐに駆動系に異常をきたして膝をついたためだ。追っ手はこの機会を待っていたかのように急激に距離を詰め、集中的に攻撃を仕掛けてきた。途中、遠くから狙いもなく放たれた光線の射線上からコハルを突き飛ばして、C班の男が脱落した。霞澄やOZが弾頭矢や強弾撃での反撃を行ったが、光線が飛んでくる頻度は変わらない。エミールや、翔平ら遭難者達のうち負傷の少ない6人がキメラを片端から始末していくも、後から後からキメラは湧いてくる。
「下がれ! これ以上は無理だ!」
 アンネリーゼが叫ぶ。現状、前線は後退させながらでなければ維持出来ない。しかしR−01は動かず、アンネリーゼは歩けない。
 先行部隊が戻ってこない。
 既にR−01は敵の群れに飲み込まれようとしている。
 助けに行くのは自殺行為。
 このまま踏み止まることも戦力的に不可能。
 もう選べない。
 撤退しかない。
 もしくは、死。

 ・ ・ ・

 ベースキャンプに辿り着くのは容易だった。R−01を切り捨て、部隊が合流して撤退を始めるのと同時に、敵の追撃は急激に弱まった。状況を見ると、逃がしてもらったという認識が正しいだろう。
 A・C班各々に欠員2名。連れ帰ることが出来た遭難者は先行部隊にいた7名。他は、アンネリーゼの救助のために残ったのではと推測された。
 ベースキャンプからは、遠く密林の上空へ立ち上る黒煙が見えた。R−01が爆発した煙だと思われる。

 残る遭難者は、阿我 一太、エリック・アクス、高橋 アミイ、加島 翔平、アレクセイ・エリツィン、パティ・エメット。