●リプレイ本文
天が呼ぶ! 地が呼ぶ! その人の名は
突如として現れた怪獣の如き巨体のキメラ!
恐怖に慄く力無き民衆!!
果たして、彼らの希望の光、ヒーローは恐るべき熊型怪獣‥‥もとい、キメラを倒す事が出来るのかっ! がんばれヒーロー! 負けるなヒーロー!!
「俺達が来たからにはもう大丈夫、君達のヒーローと協力して、そのキメラを打ち倒してくるよ」
ヘルメットを小脇に抱えた青年は、白い歯をキラリと光らせ笑った。
避難所で不安げにしていた少年少女は問う、お兄ちゃんはだれ? と。
「俺か? 俺は――」
●差し伸べられる手
平時であれば、住民の憩いの場となっている筈の公園は、2階建ての屋根をゆうに越える巨大な熊型のキメラによって半壊していた。ジャングルジムが無残にひしゃげ、ブランコも片側の支柱が無くなっている。
『彼』は、高々と名乗りを上げるとマントを翻し、愛用の剣を片手に果敢に強敵へ挑みかった。
しかし、剛毛が衝撃を吸収するのか『彼』の剣撃は殆ど無効化される。
「くっ、なんと言う事だっ! しかし、我輩は倒れる訳には‥‥」
戦いを始めて5分が経過して、怪獣‥‥キメラは一向に倒れる気配を見せず、ただ一人立ち向かう『彼』の方は無数の傷が刻まれていく。
仮面に隠された顔も疲労の色が濃いのだろう。
ふら付く『彼』の身体を、熊の前爪から繰り出された衝撃波が襲った。
「ぐぁっっ‥‥!!」
堪えきれずに吹き飛ばされ、土にまみれる。
エミタの適合があると聞いて、真の力が手にしたと思った。恩ある街が襲われたと聞きこの手で街を救えと、天が与えた使命だと確信した。
――なのに、このざまはなんだっ!
痛みを堪え立ち上がろうとしたその時――目の前に熊の足が見えた。
「しまっっ‥‥!!」
来るべき衝撃を備え、思わず身を硬くし目を閉じる。
しかし、彼が想像するような事は何一つ起こらなかった。何故なら――
「助太刀に来た‥‥」
熊の足を止める様に、『彼』の前に割り込んだ影は不機嫌そうに彼を振り返り確認する。
「貴様が『パンプキン・オブ・ジャスティス』‥‥か?」
その顔には何故か南瓜のお面が付けられている。声の不機嫌さと相まって、なんと言うか物凄く不本意そうだ。
熊型怪獣は構わず、お面をつけた影ごとなぎ払おうとする!
しかし、その動きを遮るようにバイクのドリフト音が鳴り響く。
躍り出たのは二つのしなやかな影。
キラリと光るライダーヘルメットを脱ぐと、その下には――南瓜のお面。
「トリック・オア・トリート!」
運転していた人物は両腕を揃えぐるりと廻し、掛け声と共に変身――もとい、エミタを覚醒させ、バイクであったものを身につける。
後ろに乗っていた人物も、手に持つ扇を開き流れるような優美な動作で口元(お面に隠れてるけど)を隠す。
「私はジャック・オー・ランターン! 降参しなきゃ殴っちゃうぞっ!」
「フジヤマ、ハラキリ、和の心。パンプキン・オブ・GEISHA参上じゃ!」
びしりとポーズが決まった。
「な‥‥、貴殿等は? それにそのマスク」
戸惑うパンプキン(とキメラ)は、体の痛みも忘れ彼等を見る。
更に、彼を救うべく立ち上がった影があった。
ターンッ! とキメラの背後より銃声が響くと、草むらからロングコートを羽織り頭にはやはり、南瓜のお面(ベレー帽まで載っている)。
雄雄しく颯爽と現れた彼は、高らかに宣言する。
「もう大丈夫! このMr.SOGEKIが来たからには安心、大船に乗ったつもりでいるのだ!」
あぁ、何故だろう。大海原がバックに見えるようでもあり、八千人の部下が居ると言いそうでもある。何故か。
更に更に、パンプキンに手は差し伸べられる。
「悪を斬るたび眼鏡がキラリと光る!」
黒縁逆ナイロール眼鏡を、すちゃりと装着(無論、南瓜のお面の上からだ)する。
「正義のパンプキン・オブ・MEGANE、ただ今参上!」
ちなみに、眼鏡以外は普通の格好で、なんというか、その、目立つ。
「貴殿等、もしや」
「もしや、カボチャさんを助ける為にやってきた正義の助っ人ですよ」
凛とした声は高い位置から聞えた。
それもその筈、パンプキンのすぐ隣にあった滑り台の上にいつの間にか小さな影が立っていたのだ。
とうっとばかりに、滑り台を降り傷ついたパンプキンに『練成治療』を施そうと駆け寄る。
「視界塞がる、邪魔!」
やはり被っていた南瓜お面を頭の横にずらす。お面の下からは、思いの外幼い少女の顔が現れた。
「この力‥‥やはり、貴殿等はUPCの」
「正義の心に、正体なんて関係ないぜ!」
ゴゥンっと、公園の柵を赤いバイクが飛び越える。
「手を貸すぜ、パンプキン・オブ・ジャスティス」
飛び降り様に、被っていた南瓜お面を天高く放り投げると一同が何故か仮面を目で追い、正体が見られないのもお約束。
「行くぞ烈火、武装変!」
エミタの覚醒と共にバイクが眩しく光り、現れたるは真紅のヨロイ。
「学園特風カンパリオン、風紀の乱れにただ今見参! 熊型キメラ、お前の存在は校則違反だ、よって俺達が裁く!!」
ずびしっとにインサージェントを構える姿も凛々しく爽やか。
画して、僕らの平和は彼等に託されたのだったっ。
「おや? 一人足りぬのではないかの?」
「えっと、遅刻だそうです。やっぱり寝坊かもしれません」
果たして、彼等は悪の大怪獣(誇張表現)を打ち倒し、平和な街を取り戻せるのかっ!
●正義のマスク
時間はしばし遡る。
手渡されたお面を見つめ、西島 百白(
ga2123)は大いに悩んでいた。
仲間を横目で見る。
「ご近所ヒーロー、愉快ではないかえ。わしは大好きじゃぞ、斯様なノリは♪」
「カボチャさんがヒーローとして成長できるかを見届けたいですね」
しゃもじをひらりと優雅に操る妙齢の美女、秘色(
ga8202)と、ピンクのワンピースに白衣という絶妙なバランスの羽衣・パフェリカ・新井(
gb1850)が楽しそうに南瓜のお面のゴムを調節している。
「‥‥」
更に、百白は周りをみる。
「お久しぶりです! 学園での痴話騒ぎ以来ですね、やっぱりヒーローだから参加ですか?」
「あぁ、同じヒーローとして危機に駆けつけるのもまた、風紀委員の使命だと思うからね」
どこまで本気かは不明だが、はきはきと爽やかに夏目 リョウ(
gb2267)は斑鳩・南雲(
gb2816)に答える。
始まる前からクライマックスな気配がするのはきっと気のせい。
「‥‥」
隣に目を移す。
「えっと、これ‥‥被らなきゃ、ダメ‥‥? 夢を守る為‥‥だけど、少し恥ずかしい‥‥かな‥」
「ふぅむ‥‥いいデザインをしていますね。ワタシは好きですよ、こういうの」
幡多野 克(
ga0444)は割と自分と同じ感覚みたいだと百白は思ったが、一緒に居るナナヤ・オスター(
ga8771)とノリノリで名乗りを相談している所を見ると――
「‥‥やっぱり、被らなければ駄目か‥」
面倒な依頼だと思いながらも、断らない辺りやっぱり人の良さが見られるのだけどそれを指摘するのは、隠れた優しさに水を差すというものなのだろう。多分。
深々とため息をつき、南瓜仮面を被る百白の背後で紅月・焔(
gb1386)がうつらうつらと船をこいでいる。
気がついた羽衣が大丈夫ですか? と声をかけた。
「ね‥‥眠い」
前日に何があったかは知らないが、焔は余程眠いらしく作戦ギリギリまで仮眠を取る事になり、その間に避難所で話を聞いたりする事になった。
「ちと心配じゃのう、大丈夫かえ?」
秘色が柳眉を寄せ呟く。
「大丈夫ですよ! ヒーロー! それは夢! それは希望! 浪漫ですしっ!」
根拠は解からないが、なんか大丈夫な気がしてくる、ヒーローって偉大だ。
ヒーローを助ける依頼を受ける位なんだから、きっとその人もヒーロー。
「学園特風カンパリオン出動! 待ってろよ、パンプキン・オブ・ジャスティス!!」
●ヒーローの戦い
最初に止めた謎の影――百白!
ジャック・オー・ランターン――南雲!
パンプキン・オブ・GEISHA――秘色!
Mr.SOGEKI――ナナヤ!
パンプキン・オブ・MEGANE――克!
カボチャさんを見届け隊――羽衣!
学園特風カンパリオン――リョウ!
そして‥‥
「正義の味方・カボチャモドキ!!」
こそこそと、配置に着いた カボチャモドキ――焔が、びしりとポーズを取る。ね、寝癖なんて付いてないンだからっ。
「‥ヒーローは遅れてやってくるのさ‥‥寝坊したんじゃ‥‥無いよ?」
「焔さん! 逆効果ですっ」
「そっとして置いてあげるのが、優しさというものじゃよ」
あわわと、指摘する南雲に、秘色がなんともいえない、慈しみの目で肩をそっと抑える。
泣かない、だって正義の味方だもん。
各々、何かが違うヒーロー達。まぁ、そもそも掩護するべき対象が南瓜怪人なヒーローだし、ねぇ?
そんなツッコミがどこかであったかどうかはわからないが、
今こそ、全てのヒーローが揃った!
「つまりはっ、貴殿らは我を救うべく現れた魂の仲間、ソウルヒーローと言う事かっ!」
「あぁ! 街の平和と!」
「子供達の笑顔のため!」
熱い熱いノリでパンプキンに、リョウとナナヤが応える。
「うむ! やはり見事華麗に倒してこそというものよの」
「愛と正義の熱血ですねっ」
女の子からも、熱いエールが飛ぶ。
「我は、我は、一人で先走り情けないのである!」
パンプキンは、その黄金のカボチャマスクの下で泣いていたのかもしれない。
「‥‥いいから、早く倒す‥ぞ」
成り行きを黙って聞いていた百白の言葉に、些か怒気が含まれてるのはナゼダロウ。むしろ、殺気?
ともかく、漸く戦いが始まったのであった。
名乗りが終わるまで、キメラが律儀に待っているのもお約束。
突っ込んではいけない不思議な空気が流れていたに違いないのだっ!!
巨体のキメラは探すのに苦労のない分、ズシンと動くだけで、脅威的な破壊力を発揮する。
動きは機敏ではないとはいえ、油断は出来ない。
「掩護攻撃はまかせてください、‥‥じゃなかった任せてくれたまえ!」
ナナヤが中距離から『強弾撃』『鋭覚狙撃』を同時に発動させて熊の左腕を狙う。
陣形は、キメラを包囲するような展開陣形。
「お花乱れ撃ちっ!」
秘色のアサルトライフルが赤い血華を散らす如く、キメラを抉る。
「ふむ、童に『お花』は難しかったかのう?」
クスリと笑う姿も雅に、粋に。
焔も掩護と包囲を兼ねて、後方からクルメタルP−38の弾丸をばら撒く。
銃撃の掩護を受けて、一気に距離を摘めるのは前衛。
側面からS−01で頭部を狙い、更に月詠に持ち替えて足を狙うのは克だ。
「‥‥」
何やら貯め込んでる鬱積をぶつける様に、百白もそれに続く。
『紅蓮衝撃』を纏った斬撃赤い軌跡を描けば、克の刻んだ傷に交差する痕を刻む。
リョウは烈火の力を得て、インサージェントの紅刃を振るい確実にキメラの体力を削る。
戦いを見て、パンプキンは己の未熟さに震えていた。
能力を手に入れて、いい気になって‥‥危うく愛する街の被害を拡大しかねなかった。
見学を促した羽衣は優しく諭す。
「目が良い事が大事。小さな事も見落とさないようにすれば対処できますよ」
そして、我侭かもと前置きをしてから、
「カボチャさんが夢の護り手になってくだされば嬉しいです」
そう言って、微笑んだ。
自分も新米と殆ど変わらないと言う彼女だが、パンプキンは彼女に傷を癒され、心を‥‥癒されたのかもしれない。
「我‥も、戦うとしよう」
未熟な腕前、それでも彼は護られるではなく、護る道を選んだモノなのだ。
それを、――思い出した。
「よし、当たりました、じゃなくて命中したか! あ、ジャスティスさん、動けますか」
「問題ない、‥‥貴殿等には手間を取らせた」
「あと一息だ、このMr.SOGEKIについてくるのだ」
ナナヤは、なりきってにやりと不敵に笑う。
キメラが大きく動き地面が大きく揺れる。衝撃波を繰り出すも、傭兵達にさしたるダメージを与える事無くただ動作後の隙を見せるだけとなった。
その隙を待っていたのだ。
ナナオが持てる全スキルを開放して放つ、必殺の一撃。それは、常人の目に映る事すら困難な神速の死角射撃。
「フン、SSS(スーパー・スナイピング・シュート)を会得できない限り、君に勝ち目などない!」
「‥‥」
百白も無言で、しかし苛烈に畳み掛ける。
「これをかわせるか、真・眼鏡炎激斬!」
克の眼鏡な一太刀が、剛毛ごと太い腕を切り落とす。
更に、秘色がスコーピオンを手放し蛍火を片手にキメラの眼下に迫る。
踏み込む足は、覚醒し驚異的なジャンプ力を生み秘色をキメラの上体迄運び、舞う斬撃を披露する。
「必殺・パンプキン真空舞扇! ――何処がパンプキンかはつっこむべからずっ!」
ぐらりと揺れる巨体へ、南雲も拳を、振り上げる。
「愛と! 正義の! 熱血カボチャパ〜〜〜〜ンツ!!」
焔の掩護もあり、もはやあと一撃入れれば止めになるだろう。
「今だ、共に―」
リョウが――『学園特風カンパリオン』が促す。
言葉は要らない、魂で理解し合う。
「我は、‥‥我が名はパンプキン・オブ・ジェスティス! 正義のカボチャなりっ!!」
翔け、舞い、全ての期待を受けて、正義を――示す!
「今こそ必殺の‥‥デットエンドパンプキーーーーーンッ!」
「くらえっ‥‥カンパリオンファイナルクラーーッシュッ!」
●明日の為に
「じゃあ、俺達は行くことにするよ、これからもこの街の平和は任せたぜ!」
覚醒を解除したリョウが、爽やかに微笑み手を差し出す。
「うむ、我も傭兵となった身だ。きっと共に戦う事もあるだろう」
今度は自分が手助け出来るように、と。がしりと硬い握手を交わしあう。
最初に見た時より、幾分頼もしく見えるのは期待からの贔屓目だろうか?
羽衣は、そう想いながら微笑むのだ。
「このお面、貰う事できませんかね?」
思いの他気に入った、ナナヤの言葉を聞いた秘色が、街の人に確認するとお礼に是非と言ってくれた。
「ふふ、わしもこれでヒーローの一員と言う事かの♪」
笑いつつも、パンプキンである若者に年長者らしくあまり街の者に心配を掛けるなと釘も刺す。
克も頷き、
「これからは‥1人で、キメラに向かうような‥‥こと。したら‥‥ダメ‥‥」
過信は禁物なのだ。仲間がいてこそ戦えるのだから、と。 先輩としてのアドバイスを贈るのだった。
「よりもよってあそこで台詞を噛むなんて‥‥」
ちょっぴり南雲はブルーだったが、それもきっと青春。
「ヒーローのおにーちゃん、おねーちゃん! 怪獣をやっつけてくれて、ありがとう」
子供達が、笑顔でやってくる。
この笑顔を護る為、彼等はまた戦うのだろう。
有り難う、ヒーロー。
頑張れ、ヒーロー。
平和を勝ち取る、その日まで。