タイトル:争いを招く声マスター:コトノハ凛

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/05 23:03

●オープニング本文


●招き啼く声
 それは、村の古くからの言い伝え。
 村をまとめる長老よりも歳のいった大婆様が、小さい頃に教えてくれた言い伝え。
 
 気味の悪い、恐ろしい、その姿。
 虚ろな瞳をした人の顔。
 その首の下に繋がるのは、逞しい雄鶏のそれなのだ。
 そして、それはそれは不気味な声で啼くという。

――いいかい? よくお聞き。その鳥を見たら‥‥。


 夕闇が迫る中、少年達は蒼白な顔で山道を駆け下りた。
 見えたのだ、木々の切れ間からその、姿を。
 聞えるのだ、背後からその、声が。

 そして、少年達は必至の思いで村に辿りつく。
 余りに『静か過ぎる』彼等の村に。

●要請
「今回は、急を要するお仕事です」
 3時を廻ったティータイム、生真面目なオペレーターが、直ぐに現場に行ける方にお願いしたいと続けた。
「山の麓の小さな村が現場です。昼過ぎに襲撃を受けたそうです、逃げられた人が居たお陰で直ぐに発覚したのですが」
 そう、つい先程の話ですと、オペレーターは眼鏡を指で直した。

「最初に鳥型のキメラが現れて、襲ってくるでもなく村の前で『啼いて』いたそうなのです。余りに不気味な声で誰も暫く動けなかったとか。それから直ぐに、狼のような獣型のキメラが複数現れて、村を襲ったそうです。正確な数は確認できていません」
 最低でも3匹、動きが早かった事と氷のブレスのようなもの吐いていたという事だ。

 これだけなら、何も急ぐ必要は無い。
 オペレーターも小さく頷く。
「この村小さくてですね、学校が無いんです。それで、山を越えて学校に通っているそうなんですがもう下校してしまったそうなんです」
 このままでは、キメラしか居ない村へ帰って来る事になる。
 だけど、急げば間に合うかもしれない。
「不幸中の幸い‥‥と言えるのか解りませんが、折角助かった幼い命です。出来れば助けてあげたい、お願い‥‥出来ませんか?」

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
蓮角(ga9810
21歳・♂・AA
ロック・スティル(ga9875
34歳・♂・EP
山崎・恵太郎(gb1902
20歳・♂・HD
文月(gb2039
16歳・♀・DG
水枷 冬花(gb2360
16歳・♀・GP

●リプレイ本文

●赤い空を切り裂いて
 最低限の用意を済ませ、この緊急の依頼を請け負ったのは8名の傭兵達。
 作戦は、移動艇の中で行われた。
「子供達‥‥絶対に助けましょう!」
 強い決意で言う蓮角(ga9810)に柊・理(ga8731)も強く頷く。
 楽しい学校からの、楽しい帰り道、日常を壊された少年達への心情を思い遣ってか、青白く大人しい印象の顔に強い決心を滲ませていた。
「フケイと狼、両方を退治しなければならんとは厄介だな」
 その前方の席で、長身のロック・スティル(ga9875)が村周辺の地図を確認しながら状況を整理していた。
「何匹居るかは不明だが、一刻も早く子供達の安全を確保しなくてはな」
 同じく長身の煉条・トヲイ(ga0236)も作戦を思案し端整な顔をしかめた。現場となる山間部の村はそれとなく、彼の故郷を思わせたのかもしれない。
 地図に記された細い山道、その先にある小さな村。
「少年達が心配ね‥‥」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)は細くしなやかな指を滑らせて、少年達が通るであろう経路を確認する。上空からの航空写真があって助かった。
 
 耳栓を用意したいと言う要望にUPCが人数分の耳栓を貸してくれた。
 耳栓の具合をチェックしていた文月(gb2039)は高速移動艇から見える空に気が付く。
 もう、空がこんなに赤い――。
 赤い瞳が映すのも、赤。
 強い意志が滲む赤と比べて、あの赤は今にも燃え尽きようとするような赤に見える。
 ただの、感傷かもしれないが‥‥。
 隣でやはり、窓の外を見ていた山崎・恵太郎(gb1902)もその様子に頷く。
 これ以上キメラによる犠牲者を出すわけにもいかない――‥‥。
 普段は明るい彼も、村の惨状を思い少しでも速く着かないかと視界の先を見つめて。

 彼等が高速移動艇で村の近くまで来た時、既に西の空が茜色に染まっていた。
 
●待つ誰かの為に
 村の付近まで来て、傭兵達は速やかな事態解決の為に3つの事を同時進行する策に出た。
 移動しながら水枷・冬花(gb2360)が無線機を操作し、常に受信状態になるようにセットする。用意周到な仕草は、かつての家業からの経験だろうか。
 しかし、特に子供を保護する班との連携を速やかに取るなら有効な手といえた。
 蓮角も同様に無線機を受信状態にする。
 戦闘中にも、操作する事無く知れるのだから。その数瞬が明暗を分ける事もあるのだ。
「キメラはお願いします。その代わり、坊や達はボク達が見つけます!」
「えぇ、じっくり捜索して下さい。狼に邪魔はさせませんから」
 捜索を担当する理の言葉に、蓮角が頷く。
 余り時間をかけられない。
 それは、村の入り口に来た時点で聞こえた、余りに異質な鳴き声らしきものを聞いた時にいよいよ確信に変わった。

 既に少年達は帰ってきてしまっているのだろう時間だ。
 探すのなら村の中からがいいだろう、狼に見つかる可能性は高いかもしれない。
「本当に一刻を争いますね。 急ぎましょう」
 あちらこちらの物陰に、惨状を見て文月が気持ち歩を早める。
 人であったもの、その原型を留めないほどの殺戮。
 少年達は、既にこれを見てしまったのだろうか。恐怖と絶望の中、何処かに隠れているのだろうか‥‥?
 それとも――‥‥。

 気を飲まれそうになったのか、ふとロックが同じエキスパートの理に聞いた。
「俺達は皆の役に立てると思うか?」
「勿論です! その為に、来たんですから」
 力強く返ってきた言葉に、あぁその通りだと頷き返し、エミタを活性化させる。
 青白いオーラに包まれながら、手早く『探査の目』で周囲を見渡す。罠や狼の影等は見えない。
 理の方も同様だったようだ。

 絶対に、助ける。傭兵達は駆け出した。

●対、狼
 真っ先に遭遇したのは、狼だった。
 『フケイ』と思われる影は無い。
 しかし、白い狼達の向こうから啼き声が聞こえる。恐らくは物陰居るだけなのだろう。
 先に行くには、狼が邪魔だ。
 右前方に2匹、左に1匹――
 ロックが合図を送る。トヲイが頷き、次の瞬間、狼の脇を駆け抜ける。
 狼達もそれに気が付き、追いかけようとする――が、

 ガゥンッ!ガゥンッ!

 弾丸が弾け、狼達の足元を遮る。
 左手の甲に赤い六花を宿した蒼髪の少女―六花が、ひたりと狼に銃口を向ける。
 彼女の左右を護るかのように、二人の対照的な剣士がそれぞれ抜刀した。
「さ、俺達と遊んでもらいましょうか?」
 愛用の刀を順手と逆手にそれぞれ構えた蓮角。その髪がさらりと肩口まで伸びたかと思うと墨が抜け落ちたように見事な白髪となった。
 対するロックも、髪がざわりと伸び広がりあたかも獅子の鬣のような姿になっていた。構えるは大剣、フランベルジュ。
「狼ごときが、かつてマフィア達に『ロード・レオン』と恐れられた俺に勝てると思うな!」
 咆哮の如き裂帛に、キメラである狼達は冷たきブレスをもって応える。
 
 ――少年達を保護するまで、狼はひきつける。
 それを為すべく、3人は目立つように戦い始めるのだった。

●啼く声が招くモノ
 建物の影から現れたのは、
 報告にあったものより、想像していたものより、生理的な嫌悪を促す姿をしていた。
 人では在り得ないものに、人の頭が乗っている。
 それは余りにも異質な姿。

 ――さしずめ、モデルは中国の西方『鹿台之山』に棲んで居るとされる、伝説の鳥『不奎』と言った所か?
 不奎が現れると、戦争が起こると言われているが‥‥全く、不吉な事この上無いな。
 そう思い、トヲイが顔をしかめたその時、地の底から響くようなその声が、醜悪極まりないそのキメラの口から響く。

 ――ヒぃぃぃぉぉおおおぉォォォおおおお‥‥

 村人は、何をする訳でもなく啼いていたと言っていたが――
 違う。
 この声は、惧れと敵意を煽る声。
 ――村人が動けなくなるわけだ。
 耳栓などの対策を取ってなお、一瞬くらりと自分の意思とは関係の無い勘気が湧き上がりそうになる。
 更に、あの呼び声に応えてなのか、元々多く居たのか、その場にはフケイの他に2匹の狼キメラが居た。
 3匹以上居る場合を想定していて正解だった。
 どちらにしても、ここにキメラを惹き付けられるのなら僥倖だ。何故なら、それだけで子供達を護る事に繋がるに違いないのだから‥‥。

 フケイの担当を申し出たのは、トヲイ、ケイ、文月の3名。
 既に全員覚醒し、臨戦態勢をとっている。
 リンドヴルムを装着した文月が二人をフォローできる位置に素早く移動する。例え、素養が特出していなくても、ドラグーンにはドラグーンにしか出来ない事もきっとあるはず。
 例えばそれは、この装甲による防御力。
 がちりと、狼の攻撃をその身で受け止める。
「させませんよっ!」

「さぁ、上手に踊って頂戴…」
 狼を退け、出来た射線を生かして銃撃が、怪鶏の喉元を狙う。
 げげぐっと、奇妙な悲鳴が漏れフケイが痛みにもがく。
 その様子を見て、優雅で正確な射撃をしたケイが加虐な笑みを唇に浮かべる。
 ――鉛の飴玉のお味はいかが? 
 
●潜む、影
 他班と最初に分かれていた捜索班――理と恵太郎の二人は、帰ってきてしまっているだろう少年達を探す。
 人の鼓動、少年達の恐怖、そんなものを察知するようにエミタを活性化させた。

 そう、大きくない村だ。
 隠れる所など多くは無い。小さな子供達にとっての、安全な隠れる場所。壊れていない民家の中だろうか。
 それとも、何処か『秘密基地』があってそこに隠れたりはしてないだろうか。
 『捜査の目』を使った理が、丁寧にモノ音を拾っていく。
「どこかに隠れてくれてばいいんだけれど‥‥」
 その隣で、恵太郎が狼等の不意打ちを警戒する。
 フケイのものと思われる、啼き声が耳に付く。焦燥を煽る声を振り払う。遠くにいても、この効力‥‥。キメラと対峙してる筈の仲間が気に掛かったが、だからこそキメラ達よりも、速く、早く、少年達を保護しなければ――

 カラン‥‥カラン‥‥

「! 今のは‥‥」
 捉えた音は、遠くから聞える音とは違っていた。何かが転がる音。
 周囲を改めて探すが、既に日は落ちよう時刻は影も多く解りにくい。
 と、その時草木の様子に目が留まった。家の直ぐ脇、何故かぽかりと空いているスペース。
 戸板は嵌めてあり、地下へと続く階段が現れる。
 理と恵太郎は、頷きあい、慎重に階段を下りて行った。

 地下貯蔵庫のようなものだろうか。
 ――と、理は闇の奥で身じろぐ気配を感じとった。
「ひっ! く、くるなっ」
 その声にほっとする。あぁ、無事だった。
 暗闇に浮かぶ小さな影が3つ。一人が後ろの二人を守るように手を広げている。
「よく頑張ったね、もう大丈夫だよ」
 優しく理が声をかけると、少年達はボロボロと泣き崩れた。
 彼らは、助かったのだ。

●剣爛刀華
 蓮角達はやや離れた場所で今だ狼と戦っていた。
 報告にあった氷のブレスと、思いの外に素早い事が厄介だったのだ。
 だが、何よりも厄介だったのはあの声。
 距離があると言うのに、敵意を顕にしたあの声は心を掻き乱し手元を狂わせる。
 幸い、自制を越える程のものではなかったが‥‥。
「俺の誇りにかけて、仲間をお前らの餌食にはさせん!」
 何度目かのブレスをロックが、振り払う。仲間に降りかかる分もその巨体で引き受け、幾分かダメージが蓄積していた。
「チッ!ブレスは思ったより厄介だな‥‥!」
 蓮角が鬱陶しげに呟く。
 が、その時――

 『出発地点から4時の方向で少年達を発見です! 無事、保護しました』
 ――無線機からの、理の報告が入った。
 後顧の憂いは断った。あとは、この忌まわしいキメラどもを一刻も早くこの村から消滅させるだけだ。
「やっと、本気でやれるわね」
 そう、言ったが先か、動いたのが先か。
 限界を超える速さを引き出した冬花が、蓮角をも越え狼キメラの側頭部をほぼ零距離で捉える。
 躊躇いも無く引かれる引き金。
 瞬きする間に2度、否3度引かれていた。
 さしもの、キメラもその衝撃を受け止めきれずに、吹き飛び地に伏せる。
「いつもはこんな手荒い事はしないんだけど、焦らす方が悪いのよ」
 バラリと、空の薬莢が散らばるその只中で、何の感情もない声音が響いた。

 残るは、2匹。
「これは、俺達も負けてられねぇな。さぁ、『ロード・レオン』の牙、たっぷり味わって貰うぜぇ」
 渾身の力で、フランベルジュを振るう。
 切っ先が弧を描き、狼の胴を捕らえると、ズドンと重みのある衝撃を与える。
 両手剣、刃渡りが1.4メートルもあるがゆえの攻撃力。
「まだまだ、いくぜっ!」
 引いて、突くような一撃、更に打ち下ろす破岩の一撃。
 追い討ちをかける様に、蓮角の刃が閃く。
 ロックのフランベルジュと対照的な細い緩やかな曲線の片刃が、力強く細やかに軌跡を描く。
 一閃、二閃、そして紅蓮を纏ったような烈火の斬撃。
 二人の剣技による、息のあった波状攻撃にそのキメラも倒れ伏す。
「さあて、逝く覚悟は出来たかよ?」
 刀の切っ先を残る一匹に向け、不敵ににやりと笑う。
 ロック、冬花も同様に最後の一体に向き直る。
 
 村に残る敵を排除するべく、駆け出すのはその数秒後の事である。

●断末魔の声
 同じ頃、フケイを相手にしていた3人も、邪魔な狼2匹を始末した所だった。
 フケイの啼き声は、耳栓をしてなお心を掻き乱してくる。
 それでも、何もしていなかったらこんな程度じゃ済まなかっただろう。対策は確かに役に立ったのだ。
 用心のし過ぎだとは思うのですが、念には念を‥‥。
 そう文月が言ったのは、出発前。
 ――本当に、用心を怠らなくて正解だった。
 片刃の直刀を油断なく構え、いつでもケイをフォローできる位置を気をつけるように動く。
「守ってくれる狼さんは、居なくなったわね? さぁ、どうするのかしら」
 くすくすと、歌うようにケイが笑う。
 その挑発的な様子を理解したかのように、ばさりと飛ぶ事は出来ない翼を広げフケイが襲い掛かる。
 だが、一呼吸ほどのその刹那――
 トヲイには、その一呼吸で十分だった。
 フケイとの距離は、日頃から鍛錬を惜しまないトヲイにとって無いにも同じ。
 一気に踏み込み、低く体を沈めると、硬く鋭い爪をその羽毛を散らすように下段から切り裂く。
「悪いが、お前一羽に余り時間は掛けられん――」
 赤い光がトヲイとその爪を包み込む。
 光の軌跡が見えるかのうような斬撃。
 更に、合間を縫うようにケイの正確な射撃が飛ぶ。
 勝負所と読んだ文月の掩護攻撃が見事に決まり、フケイの脚の動きが鈍る。
 足掻く蹴爪の威力も格段に下がり、難なく刃で受け止める。

 ――ヒぃぃぃぉぉおおおぉォォォおおおお‥‥
 フケイの啼き声も、もはや悲鳴にしか聞えない。
「――これで、さよならだっ‥‥!!」
 駄目押しとばかりに、トヲイの錬を惜しまない猛攻の前に、フケイはついに動きを止めた。

 耳栓を外した3人は、漸く少年達の保護と狼班の無事を知るのだった。
 惨劇に見舞われた、山間の小さな村はやっと静寂を取り戻した。
 それはフケイの招いた『争い』という、災禍が終わった証といえるのかもしれない。

●また何か来たら、駆けつけるから
 全員が合流し、少年達を見た時、戦いを担当した者たちも一同にほっとした顔をした。
 少年達を避難先へ届ける道すがら、出来るだけ気を砕いていた。
 理と恵太郎にくっ付いたままで、怯えてはいるが、健気にも顔をあげている少年達に、ケイは優しく微笑んで歌を謡う。
 少しでも心に安らぎを‥‥。
 文月も少年の一人と手を繋いで歩く。

 その後ろで、
「何とか‥‥なりましたね。」
 蓮角の言葉に、トヲイは頷く。
 それでも、心中は穏やかとはいいがたかった。
「キメラを倒しても、亡くなった村人達が生き返る訳では無い‥‥。
 子供達のこれからを思うと‥‥」
 無力さをどうしても、感じずには居られない。
 トヲイは、メンバーの中で一番経験豊富な傭兵だ。だからこそ、そう思うのかもしれない。
 蓮角は、トヲイの言葉に頷き、
「出来る事を、しませんか?」
 はっと顔をあげるトヲイ。
 蓮角は笑って、メンバーに声をかけるのだ。ある提案をもって。

 翌朝、任務自体は、終了したが少しでも村の復興を手伝いたいと申し出た蓮角の意見に、反対するものは居なかった。
 せめて一日でも早く、平穏な生活を思い出せるように‥‥。