●リプレイ本文
●幸運の女神
あぁ、なんだって。もうすぐ補給物資が届くってその日に、奴さんらは攻めて来るのか。
だから言ったんだ、完璧じゃなくていいからとっとと物資を送ってくれって。
全く、前線の気持ちを全然判って無い。完璧な物資が届いたって、俺等がぶっ壊れたら意味が無いじゃないか。
ドォォォオン‥‥!
「くそったれっ! 輸送機への連絡はついたのか! あれまでノコノコやってきて落とされたら、俺等の面目が立ちやしねぇぞっ」
爆風に煽られながらも、必至に重火器でキューブ・ワームを牽制する、東アジアUPC所属の兵士は悪態をつく。
管制は辛うじて生きているが、攻撃に耐えているというだけであの四角い物体の妨害電波が殆どその機能を失わせている。この基地が落ちるのも時間の問題だろう。
残った兵士が、先に逝った兵士へ詫びを告げようとしたその時。
『‥‥基地の皆さ〜ん。お荷物と爽やかな戦力お届けに来ました〜。受け取ってくださいなっ。
さぁて皆頑張ってねっ! GOGO♪』
独特の間合いの淡々とした抑揚で通信をしてきた声が、彼等には幸運の女神の声にも聞えた。
秘匿通信を切ったヴァシュカ(
ga7064)は、アンジェリカのコックピットの中でクスリと笑う。真剣な事ほど、心に余裕を‥‥そんな心情なのかもしれない。
「‥‥さてさて、ボクらが護衛しますから、秀さんはゆっくりでお願いしますよ〜」
『スピードを落とすのも近くで旋回するのもいいが、あまり長時間は持たないぞ。帰りの分の燃料を考えた場合20分程度で、引き返すか降りるか選択しなきゃならん』
引き返す場合は当然、基地は放棄で作戦も失敗。降りる場合は、下を降下出来る状況に出来なきゃ無理な相談だ。
『大丈夫です。20分もあれば、我らは敵を撃ち砕かん♪ ‥‥ですよっ』
輸送機の機長で護衛対象の秀に、モスクア防衛軍の歌を交えて応えたのは、ヴァシュカと同じく輸送機の直掩機で、ウーフーに乗るルーシー・クリムゾン(
gb1439)だ。
『そろそろ、 ――電子戦開始します‥‥、ECM、ECCM起動‥‥』
機内のモニターが一斉に周囲の情報を収集しはじめる。同時に敵への妨害情報も発する。
目には見えない攻撃が、彼等の戦闘の口火となったのだった。
●先制攻撃の一閃
直掩の2機を残し、真直ぐ基地へと向かった傭兵達。その数6機。
ブーストの軌跡を空に描いて、あっという間に戦闘空域に突入する。
と、同時にルーシーからデータリンクが繋がる。
更に、
「何時までも貴様等の掌の上で人間が踊っているばかりと思うな! ハイ・アンチジャミングシステム、展開!」
威龍(
ga3859)の乗るウーフーが強化型ジャミング中和装置を展開させた。
キューブ・ワームが居る戦場において、仇敵とも言えるウーフー2機が前衛、後衛の広範囲でその性能を遺憾なく見せ付ける。
「ここを陥とさせる訳にはいかないぜ。招かれざる客はとっとと退出願おうか!」
そして、威龍の強化型ジャミング中和装置が展開したのを合図に他の5機が一斉に動き出す。
「‥‥ん。弾幕。展開開始。近寄らせない」
威龍のロケット弾ランチャーを射出した煙を切り裂いて、最上・憐(
gb0002)のナイチンゲールが基地とキューブ・ワームの間に割り込むと、突撃仕様ガドリング砲が火を噴く。
弾幕の言葉に相応しく、ランチャーとガトリング弾を受け直ぐ側にいたキューブ・ワームが弾ける。
やや後方から青いディアブロが、ライフルを撃つ。
連射はできないが、それを補う正確な射撃が出来るそれは、僅かに雷を帯びていた。
「下でがんばっている人たちの為にも、負けられませんからね」
そう言ったソード(
ga6675)はいつもよりも鋭くなった瞳で、ライフルの装填を操作する。
「あぁ、ここが踏ん張り所だな」
対して、手数で勝負のヘビーガトリング砲を唸らせたのは砕牙・九郎(
ga7366)が乗る雷電。
局地戦空挺KVのコンセプトに恥じない大火力は、反応の遅れたキューブ・ワームを沈める。
同時に、低空に位置取りをしたナイトフォーゲルが2機、弾幕と狙撃を行う。
R−01に乗るのはユウ・エメルスン(
ga7691) ガトリングがキューブ・ワームに吸い込まれる。
その横で黒崎・美珠姫(
gb2962)がS−01を操り、スナイパーライフルで同じ敵を狙い確実に落としていく。
「基地が潰れるのは嫌だからな」
「戦力としては貧弱でも、できる限り努力をするよ」
バラバラと、空の薬莢が地に落ちた頃、新たな局面を迎える事となる。
●歴戦粉塵
ジャミング中和装置が展開してから先制の一斉射撃で5機のキューブ・ワームが地に落ちた。
これで数は、7機。
だが、ここからはヘルメット・ワームが動いてくる。
なので、先制攻撃を済ませた彼等は、隊を更に二つに分ける作戦を取った。
すなわち、キューブ・ワームを落とす班と、ヘルメット・ワームを押さえる班の二つに分けて、基地に掛かる負担を速やかに排除するという作戦だ。
戦場に割り込んできた存在に、気が付いたヘルメット・ワームは当然傭兵の排除に動き出した。
狙うは当然、アンチジャミングをしている機体。
だが――行く手を、ヘビーガトリングの弾幕が塞ぐ。
「この先は通行止めだぜ?」
九郎の雷電の容赦ない攻撃に、2機のヘルメット・ワームがそちらを向き、残った2機が脇を抜けようと動きを見せた。
その瞬間、雷電に攻撃を受けたヘルメット・ワームに更に被弾の爆炎が上がる。
「貴方達の相手は俺達ですよ。2機だからって侮って挑めば痛い目を見ますからね」
澄んだブルーにカラーリングされた機体、ソードの対空砲が鈍く輝く。
狙いは、外さない。
『アグレッシブ・フォース』の能力を活かして対空砲に更なる力が加わった攻撃がもう一撃命中する。
しかし、強敵の出現に、小型のヘルメット・ワームだけではなく後衛に控えていた中型のヘルメット・ワームも動き出す。
重力制御で動く機体は、人の予想を裏切る動きをする。
多少の攻撃では、歴戦の機体はどうなる事も無いが―‥‥。
格下といえど、突破に専念する敵を食い止めるのは困難だ。
ディアブロをかすめる様に、中型のヘルメット・ワームからの光線が宙に掻き消えた。
気を取られた一瞬の隙をついて、小型の2機がすり抜けて行く。
2機で食い止める以上、多少の被害も覚悟しなければいけないようだ。
●繋いだもの
「……ん。迅速に。確実に。撃破する」
可愛い声とは裏腹に、憐のナイチンゲールは確実にキューブ・ワームにバルカンを叩き込んでいっていた。
突破してきた小型に反撃するよりも、キューブ・ワームを出来る限り早く撃破する。
担当する4機は、中々減らない敵機と増えた敵機に焦りすぎず、着実に火線を集中させて落とす作戦を取っていた。
しかし回避に優れる機体はともかく、数人の機体には被弾が目立ち始めていた。
それは、接近戦を主軸に戦っていたユウの機体にも言える事だった。
「しつこいな」
ガトリングで四角い機影を薙ぐ。
「これで、10機目っ」
美珠姫が、トドメとばかりにライフルで打ち抜く。
残り、キューブが2機。そして、
しかし、美珠姫の機体の損傷もそれなりだった。まだ、戦う分には支障は無いが。
「とっとと、落とさせてもらうぜ!」
そう言い、威龍はキューブ・ワームからの攻撃に備えた時、ウーフーの計器が第3者の動きを察知する。
ガゥンッッ!!
計器が示したもの、それは。
『何故逃げなかった! だが掩護感謝するっ! 助かったぜ。空飛ぶナタデココなら、ここの装備でもまだ手伝える!』
ジャミングの影響なのか、ノイズ混じりの通信は自分達の真下、UPCの基地からの掩護攻撃。
「これは百人力だ」
威龍は思わず不敵に笑い、ウーフーの情報連結を基地管制とも試みる。
「ユウ、美珠姫、下と協力して残りの『ナタデココ』を頼む。憐、ヘルメット・ワームを押さえるぞ」
程なくして、『ナタデココ』なキューブが落ち、ジャミングから開放された4機が、ヘルメット・ワームを落とすのに、殆ど時間は掛からなかった。
●決着
ヘルメット・ワームも、既に2機が落ちていた。
何れも小型のものではあったのだが。
「これで、残りは指揮艦だけですね」
ソードの言葉に九郎が頷く。
残りは1機、このままソードと二人で押し切れるか?
そう考えた時、中型のヘルメット・ワームがくるりと転身する。
「! 逃げるきかっ」
「そちらには行かせません」
それを許す2機でも、2人でもない。
即座に超伝導アクチュエータを起動させた九郎のホーミングミサイルG−02が全弾続けざまに命中し、機体がぐらついた所へソードが上空を取って一気に降下、翼そのものを刃とする攻撃が命中した後、
指揮艦である中型のヘルメット・ワームは地へと落ちていった。
本当はもう少し楽に減らせたかもしれないのだが、撃墜時に基地の上に落とさないように誘導しながら戦うのは、思った以上に厄介なものだった。
だが、その九郎の細やかな配慮の甲斐あってかヘルメット・ワームの落下による被害は出さずに済んでいた。
一息ついた2人に、キューブ・ワームを担当していた班から通信が入った。
『‥‥ん。敵機全部撃破完了。直ぐ。援護に行く』
「こちらも、終わりましたよ」
ジャミングの消えた空域をゆっくり旋回して8機が合流するのだった。
●1505―天候、曇りのち晴れ
全機、撃墜することなく――そして基地も、所々壊れた所もあるが無事偵察機を出せる程度の被害で済んだ。
基地で荷降ろしをしながら、やっと休憩を取る事が出来た傭兵達に、輸送機の機長の秀が上機嫌で笑う。
「お前さんらのお陰で輸送機も無傷、有り難うよ。帰ったら何でも飯奢ってやるぜぇ」
「‥‥荷受、無事かんりょ〜ですね。でも、活躍があんまり出来なかったですね」
むむっと、冗談を言うヴァシュカに、ルーシーがほんのり微笑んだ。
「いやいや、俺にとってはお嬢ちゃんらは、女神みたいに大活躍だったぜ?」
と、その言葉に反応したのは、側で簡単な機体整備をしてくれていた基地の兵士だった。
「あっ、幸運の女神!」
「‥‥はい?」
「俺達、アンタの声に救われたんだよっ」
「希望を届けてくれて有り難うよっ」
詰め寄られるヴァシュカを呆然と見ていたルーシーが、ふと空を見上げるといつの間にか、雲が晴れ青空が広がっていた。
「‥‥ん。お腹空いた。凄く空いた」
ルーシーが振り返ると、憐がションボリした顔で同じく空を見上げていた。
だから、何気なく教えたのだ。
「秀さんが、ご飯を御馳走してくれるそうよ」
基地で補給を受けた後、帰りの護衛に付くのだが、終始秀が悪寒を覚えていたのはまた別の話。
補給物資と必要な機材を無事手に入れた駐屯地から、後日中国の南西へ向かって偵察機が無事飛んだと言う。
幸運の女神のジンクスと共に。