●リプレイ本文
「ULT傭兵の未名月璃々ですー。皆さんが戦闘するんで、一般人は避難して下さい」
未名月 璃々(
gb9751)がヘッドセットマイクで近隣住民へ呼びかける。
香港の裏路地にバグアが現れたという情報は、ULTを通して傭兵達へ伝えられていた。
相手が如何なる存在であれど、バグアには違いない。
璃々は近隣住民へ避難を呼びかけているのだが‥‥。
「おいっ、変わったバグアが現れるらしいぞ」
「あ、あの変な事ばっかりするバグアだろ?」
「みんなも呼んで見物しようぜ!」
璃々の呼びかけも虚しく、近隣住民は集まりつつあった。
普通、バグアが現れると聞けばさっさと避難を開始するのだが、香港を中心に無害な強化人間が現れて楽しませてくれるという噂が駆け巡っていた。
このため、周辺地域から人々が集まり、ビール片手に見物を始める者も現れた。
「ええぃ、どうなっているのだ? 一般人は避難しろと言っている!」
ルーガ・バルハザード(
gc8043)も一般人への避難を促していた。
だが、璃々同様に一般人を集める結果となってしまっている。
「エルレーン、お前も一般人の避難を手伝え‥‥」
ルーガはエルレーン(
gc8086)に向かって振り返った。
しかし、エルレーンは何かをブツブツと呟いている。
「かれーまにあさん」
「なに?」
「え? またかれーまにあさんが悪さをしにきたんだ!
やったあ! ‥‥じ、じゃなくて! おしおきしなきゃ‥‥うふふふふ」
エルレーンが何かに取り憑かれたかのような笑い声を上げる。
明らかに、いつものエルレーンではない。
(エルレーン‥‥一体何が?」
ルーガは、悪い予感を抱いていた。
何も起こらなければ良いのだが‥‥。
●
「ふふふ、餌に掛かって傭兵達が集まったっちゃね‥‥。
『もう勘弁して下さい』って、一生賭けて言わせてみせるっちゃ」
今日のタッチーナ・バルデス三世(gz0470) は、香港の狭い裏路地で高笑いを響かせる。
どういう訳か虎柄のビキニと紙オムツを着用。さらに緑のロングヘアに角まで生やしてのご登場だ。
「違うっちゃ! 朕はタッチーナ麾下特別強襲部隊『リベンジャーズ』のアムだっちゃ!」
タッチーナ‥‥否、アムがこのようなところへ現れたのには訳がある。
絶対に犯してはならない禁忌。
それは紳士でありながら、紙オムツを穢す事。
前回、タッチーナは傭兵の攻撃が原因で、自慢の紙オムツを漏らして自ら穢してしまった。
「嘆き悲しみ、怒りに狂ったタッチーナ様は、復讐すべく朕を派遣したってぇ訳だっちゃ。朕が出動したからには、世界を炎の海へ落として中火でコトコト煮込んで‥‥」
「星空さいくり〜んぐ♪」
狭い路地を自転車で走ってきたのは雁久良 霧依(
gc7839)。
アムの背後から自転車で走り寄り、そのまま一気に弾き飛ばした。
吹き飛ばされたアムは、勢いに乗って顔面からビルの壁へ激突。後頭部にはしっかりタイヤの跡が刻まれている。
「くっ」
ゆっくりと起き上がるアム。
強化人間の割に戦闘力は皆無。小学生にカツアゲされかねない程の弱さなのだが、回復力だけは超一流。今の額がぱっくり割れていたはずなのに、数秒後には頭髪だけが無残な頭に元通りだ。
「はぁい♪ タッチーナちゃんお久しぶり♪
お漏らし癖は治ったかなぁ?」
「ぐばばばばっ!
一番触れてはいけない傷を穿り返し、さらに天然粗塩を揉み込んで下味を付ける気だっちゃね? そうはいかな‥‥」
「なんっつーかさぁ、もっと色々考えるべきだろ。これ」
タッチーナを追い詰めるように、龍深城・我斬(
ga8283)が菖蒲を片手に現れた。
狭い裏路地で待ち受ければ、傭兵の方が人数的にも多いのだから包囲されるのは当たり前だ。
「‥‥お前、各方面からお叱りとか受けても知らんぞ。大人の事情って奴を少しは考えろよ」
我斬は思い切り深いため息をついた。
「ねぇ。今日はちょっとギャラリーが多いんじゃない?」
霧依は、周囲を見回した。
気付けば裏路地の出入り口やビルの上から、見物客がこちらの様子を窺っている。
「おい、始まるみたいだぞ」
「急げ! 良い場所を押さえるんだ!」
お祭り好きの近隣住民は、戦闘開始を待ち望んでいる。
霧依も我斬も、状況が飲み込めないようだ。
「なんだ? まさか、こいつらもマグロ狙いなのか?
今日はマグロの数も少ねぇってぇのに‥‥」
「アムちゃんだっけ? 今日も漏らしたら大変ねぇ。
みんなに漏らしたのを目撃されちゃうんじゃない?」
マグロの残量を気にする我斬と、アムを挑発し続ける霧依。
近隣住民が居ても余裕は変わらないようだ。
一方、アムの方は‥‥。
「おおっ! 朕の魅力でギャラリーがレアポップ。
ここで傭兵達を打ち負かせれば、朕の株もストップ高だっちゃ!」
馬鹿は前向きなだけ始末が悪い。
●
一般人の避難誘導に当たっていた傭兵達も、戦闘へ合流。
アムとマグロを路地の中へと追い込んでいた。
「‥‥今回は、さらに余計な物を付けているな。あれは防具、か?」
烈火を握り締めたルーガは、ズブロフで酔わせたマグロの虎柄ビキニを引き千切る。
今回のマグロは、アムに合わせて虎柄のビキニを着用している。
何故そのような格好なのかは分からない。
だが、そんな事情はお構いなしに、ルーガは倒れ込んだマグロの腕へ烈火の刃をそっと当てる。
「おい、斬るなら部位を間違えるなよ! 今日は俺が調理するんだからよ」
ズブロフをマグロに飲ませながら、我斬はルーガに注意を促す。
アルティメットまな板とSES中華鍋を持参してきた我斬は、マグロを倒した後の食事に期待を抱いていた。今までもタッチーナが引き連れていたマグロ料理を堪能してきた。
今回も例外なくマグロを食す気全開1000%です。
「今日は頭を使って‥‥いや、二匹いるんだから、もう一匹は頬肉の方で‥‥」
既に調理方針を脳裏に巡らせる我斬。
一方、ルーガは足下のマグロへ視線を送る。
相手を見くびれば、戦場で死が迫ってくる。
如何なる弱者であっても、敵であるならば容赦してはならない。
何より、全力を尽す事こそ――刃を交わした相手に対しての礼儀。
(だが、敵があまりにも弱すぎる‥‥罠でもあるというのか?)
周囲を警戒しながら、ルーガはマグロの腕を斬り落とす。
溢れ出す鮮血に臆する事なく、再び烈火を振るい続ける。
騎士道を歩み続ける騎士として。
●
ルーガが騎士道を極めようとしている最中、変態道をマスターしたバグアへ突撃取材する存在が一人。
璃々とアムのインタビューである。
「特別強襲部隊『リベンジャーズ』という組織は、どんなものでしょうか?」
「復讐を請け負う復讐代行人だっちゃ。指定の相手へ復讐する事で進化を遂げる急成長ベンチャー企業だっちゃ」
「バルデス三世さんとの熱愛が噂されている、アムさんですね。想いの程は?」
「ラストホーム3個分。象が踏んでも壊れないっちゃ」
「バルデス三世さんへの愛を語って下さい」
「紳士の中の紳士‥‥出てこいやっ!」
会話すら成り立っていないようだが、璃々にとっては変態バグアとの会話も貴重なコレクション。
きっとオークションへ出品すれば、変態金持ち辺りに落札される事違いない。
「ところで‥‥バルデス三世さん程の紳士が失禁されたとの事ですが、事実でしょうか?」
「なにぃ!?
それが‥‥が、がせなんだにゃー‥‥いや、だっちゃ!
UPC軍の情報攪乱工作が市民の間で浸透しているっちゃ。騙されてはダメだっちゃ」
明らかに狼狽えるアム。
こいつの中だけでは機密事項なのだろうが、既に傭兵達には報告書を通して知れ渡っている。
「ぶっちゃけ、事実です」
璃々は、地面に倒れ込んだタッチーナの写真を突きつけた。
そこには紙オムツから染み出した水分が!
「ぎにゃー! その証拠を渡すっちゃ!」
璃々へ掴み掛かろうとするアム。
しかし、逆上したアムを璃々は巧みに避けるのだった。
「くぅ! こうなったら攻撃開始だっちゃ!」
アムはどこからともなく水鉄砲を取り出すと、傭兵達の股間目掛けて連射を開始した。
「ぬわっはっは! こいつで傭兵達の股間を濡らせば、『あれ? 傭兵なのに漏らしちゃったの?』と衆人環視の目にも留まろうってもんだっちゃ」
得意げに語るアム。
どうやら、こいつが復讐の内容という訳だ。
しかし‥‥。
「いやぁん‥‥霧依おちっこ漏らしちゃった‥‥とでも、思った?
私達は傭兵よ。新兵が戦場で恐怖の余り失禁するなんてよくある事。恥ずかしいなんて思わないわよ、おバカなアムちゃん♪」
霧依は股間を濡らされても堂々としている。
もっとも、色っぽい上に濡れて艶めかしいアムの姿を見て、見守っていた男性市民達の視線は釘付けになっているのだが。
「うん。何となくだけど、今回は盾を持ってきた‥‥ってか、俺の盾汚れたじゃねぇかコラ!」
「へぶぅ!」
我斬はアムの顔面へシールドアタックを敢行。
水鉄砲を破壊しながら、アムは無様に地面を転げ回る。水鉄砲による攻撃は、これ以上できない。
「だから、お前さんは余計な事を考えないで、ただひたすらにマグロキメラ作っていれば良いの。他の余計な事しようとすっから恥かくんだぞ、モラシーナ」
「モラシーナって誰の事だっちゃ!
‥‥水鉄砲も壊れてしまったので、こうなれば奥の手だっちゃ!」
背中に手を回したアムは、一気にビキニを外す。
宙を泳ぐビキニのあった場所は、アムの胸部が露わとなっている。
「ぬわっはっはっ!
封印されていた朕の魅力を解放したっちゃ! これで周囲の男達は獣と化して朕の下僕と成り下がる。
さぁ、獣達よ! 傭兵達をギャフンと言わせるっちゃ!」
バシっと傭兵を指差すアム。
だが、観衆である一般市民を含めて、誰一人動こうとしない。
「あれ? もう動いてもよかですよ?
猫まっしぐらって感じで‥‥」
「よく分からぬが、虎柄のビキニを外しただけでは誰も動かぬのではないか?」
眼前で起こっている状況を理解できていないルーガが、真面目なツッコミを入れてくる。
馬鹿のトップブリーダーであるアムにとってはビキニを外したこと自体は大事件なのだが、周囲の人間にはただビキニを外しただけ。人を魅了できると考えていたのは、目の前の馬鹿一匹だけという訳だ。
「な、なんて事だっちゃ‥‥」
愕然とするアム。
そして、ここから毎度恒例『おしおきタイム』が発動する。
「全部脱がしてあげるわ!」
霧依は後方からアムをタックル。
四つん這いの状態から紙オムツをズラした後、超機械「ブラックホール」をアムの明日ホールへあてがった。
「拡張工事開始よ!」
尻に向かってエネルギー弾を超連射。
至近距離からの連打はボムの無敵時間があろうとも回避不可能。もっとも、そんな物があったとしても、回避前に括約筋がコンガリ焼き上がる事間違いなしだ。
「ぎにゃー! ケツが‥‥朕のケツが‥‥あふぅ‥‥」
怪しい吐息を漏らし始めるアム。
いつものMなスイッチがONなっているようだ。
そこへ――。
「あは‥‥今日はオシャレしているんだね、かれーまにあさん!
うふふ、シブカジで決めるなんてなまいきだねぇ! おしおきだよぅ!」
定まらぬ視線に、いまいち謎の単語を発するエルレーンがアムへ急接近。
「あはは! ほらほらぁ、かみなりおにさんなんでしょうおぉ!」
金切り声にも似た叫びを上げるエルレーンは、アムのロングヘアに手をかけて引っ張り始める。
「ぎゃー! こ、これを取ってはダメだっちゃ! 朕の正体が周囲に露見。近所の奥様から井戸端会議の議題にされてしまうっちゃ!」
頭を押さえて必死に抵抗するアム。
だが、トランス状態のエルレーンは、この程度では止められない。
「でんげきだしてみろぉ! やってみなよぉぉ!」
何故電撃の拘るのかは不明だが、エルレーンは容赦なくケツを蹴り続ける。
その度にアムが熱のこもった吐息を漏らす。明らかに頬は紅潮している。
「な‥‥え、エルレーン! 落ち着け!」
呆気に取られていたルーガが、エルレーンの暴走を止めに掛かる。
普段はほんわかした彼女からは想像もできないトランス状態だ。
「あはははは! 見てよルーガぁ! 純度100%、混じりっ気無しのへんたいだよ!
きもちわるいから、私がおしおきしてあげるんだよ! かれーまにあさんは、世界中の誰よりも、私のことを愛しているからぁぁ!
蹴りのスピードは、さらに増加。
そして、この惨状を見てルーガの脳裏にある言葉が浮かぶ。
(この強化人間か‥‥この強化人間が、私のエルレーンを狂わせたのか!)
むしろ、やられているのはアムなのだが、あながち間違っていないルーガの思考。
責任転嫁とも取れる怒りは、烈火へ伝わっていく。
「汚らわしきバグアめ! 塵に帰れっ!」
強引にエルレーンを引き剥がしたルーガは、アムの尻に烈火を突き刺した。
「ぎぇぇぇぇ! ‥‥だっちゃ」
鍔近くまで突き刺された烈火が引き抜かれる頃、アムは口から泡を吹いて昏倒していた。
●
「いいか、エルレーン。いくら敵であっても、礼儀は払わねばならん。
それにお前は奴に囚われかけている」
戦闘後、ルーガはエルレーンに説教を行っていた。
将来を心配したルーガの説教は長く、エルレーンは正座して相づちを打つ事しかできない。この説教は簡単に終わらないだろう。。
一方、我斬は悲鳴を上げていた。
「あぁぁ! もうマグロがないのか!」
調理具を持ち込んで作ったマグロ料理。カブト煮をメインにしてマグロ丼を作成――したまでは良かったのだが。
「はぁ〜い。マグロ料理ならここにあるわよ〜」
霧依が近隣の市民へマグロ料理を振る舞っていた。
だが、想定以上に市民が訪れていた事もあり、気付けば我斬が食べる分がギリギリ残っている程度。当初の予想通り、マグロ量の少なさが問題だった。
「‥‥くぅ、あいつめ。変な格好するぐらいなら、もっとマグロを連れてこいってぇんだ!」
更なるマグロの登場を強く願う我斬だった。
●
「おにょれ、傭兵め‥‥」
傷だらけになりながら、地下へ続く梯子を下りるアム。
マグロ料理が振る舞われている隙に復活。黒光りするGのように四つん這いになって逃走、近くのマンホールへ飛び込んだという訳だ。
「この次は必ず復讐を‥‥あっ!」
ぶつぶつと恨み言を繰り返していたアムだったが、足を滑らせて梯子の下へ落下。
そして、運の悪い事にこのマンホールは下水へ直結していた。
「ぎゃー! 溺れるーっ!
‥‥傭兵め‥‥人を、排泄物扱いしやがって‥‥ふんっ!
‥‥って、朕は人じゃなく‥‥強化人間‥‥がぼぼ!」
下水に押し流され、地下道を彷徨うアム。
復讐できる日は永遠に訪れない事は間違いない。