●リプレイ本文
ある街角で勃発した――バグアと人類の戦い。
数ある戦いはあれど、この戦いは戦史に残ることはない。
だが、人々の心の中に刻まれる事になるだろう。
純度100パーセント。
混じりっ気のない、熱い戦いをする−−馬鹿の中の馬鹿。
出てこいやっ! ‥‥と語ってはみても、馬鹿の高品質は変わらない。
虚しさしか残らない今回の戦いを、そーっと覗いて見てみよう。
「控えろ、下郎っ! 私は名族であるぞっ!」
UPCアジア軍広州軍区曽徳鎮戦闘大隊の曽徳鎮中尉は、愛用の踏み台『ガイア』の上でふんぞり返った。
本人は名族と称しているが、名族の証拠は一つもなし。無能な上にプライドは人一倍高い。
UPC軍を代表する馬鹿である。
そして――。
「朕はシャイニング番長なんだにゃー。カリスマは辛いにゃー」
曽に相対するは、タッチーナ・バルデス三世(gz0470)。
カリスマ性を持って人心を掌握するという作戦らしく、シャイニング番長を自称して学ランを着たマグロ型キメラと共にプノンペンへ参上していた。
「閣下、貴方ほどの人物が直接手を下すには値しない相手です。
後方でどっしり構え、私達の戦いをご覧になっていて下さい」
雁久良 霧依(
gc7839)は、気を遣って曽に話しかけた。
曽は『閣下』と呼ばなければ反応もしてくれない勘違い軍人。曽に勝手な事をされても困るため、霧依は下手に出て曽の動きを封じるために動き出した。
だが、馬鹿を煽てる時はもっと派手に持ち上げた方が良い。
なにせ、曽も屈指の馬鹿だから。
「否。名族たる私が前線で指揮を執らなければ、全軍の士気にも影響する。
私がここで踏ん張らねば、名族の名折れである!」
全軍といっても、曽徳鎮戦闘大隊は曽一人。
軍の士気など落ちようはずもないのだが、曽の頭の中では数万の大軍が自分の後に控えているようだ。
「たっちーなめっ! またしょーこりもなく悪さを‥‥ん? 何か変なのがおるのう」
タッチーナを叩く為にやってきたのは、正木・らいむ(
gb6252)。
だが、タッチーナの前にちょび髭生やした変な親父が居る事に気付いた。
「貴様っ! 名族であるこの私を変な奴だと!?
‥‥お前は相手にしてやらんっ! ふんだっ!」
「なんなのじゃ? ‥‥あ、その服は見た事があるのう」
らいむは曽が着ている服がUPC軍の軍服である事に気付いた。
まさか、こんなおかしな軍人が世の中に存在しているとは思ってもみなかった。
「もしや、そなた実は味方かの‥‥?」
「ふんだ、漢王室から名前を連ねる我が名族を知らぬのか!?
ええぃ、田舎者め!」
「あう‥‥間違ってごめんなさいなのじゃ‥‥」
「私は曽徳鎮戦闘大隊を預かる曽徳鎮中尉である! 私の事は閣下と呼ぶように」
戦闘大隊。
その言葉を聞いた段階でらいむの顔色は一変。
面白い物を見つけた時のような笑顔を浮かべる。
「それは‥‥かっこいい名前なのじゃ! のうのう、わらわもせんとー大隊に入れてたも!」
「。我が栄光ある戦闘大隊へ入隊を希望するのだな?
良かろう。私の為にその辣腕を奮うが良い。だが、その前に私が戦闘の手本を見せてやる。名族は兵士達の規範とならねばならんのだ」
突如部下が増えた事で、機嫌が良くなる曽。
もっとも、踏み台の上で威張るだけで格好良さの欠片もないのだが‥‥。
「大人は、威張ってばかりなんだにゃー。
だから、朕達は盗んだバイクで走り出す――こんな感じでにゃー!」
タッチーナは、曽に殴りかかった。
ぺちん。
貧弱なタッチーナの一撃は、曽の頬に炸裂。明らかに近所の高校生の方が攻撃力は上だ。
正直、宇宙で命を戦う戦士達に申し訳ない‥‥。
そんな軽過ぎる攻撃だが、曽には精神的ダメージを受けたようだ。
「高貴なる私の頬を殴るとは‥‥。
許さん! 私の超必殺技を見舞ってくれよう」
激昂する曽。
それに対して、さらにタッチーナは調子に乗る。
軽いステップで、道路の真ん中へ踊り出た。
「にゃーっはっはっ!
超必殺技とやらを是非ご馳走して欲しいもんだにゃー!」
馬鹿は何処までもハシャぐ。
そして、調子に乗った馬鹿にはそろそろ天罰が下る。
「にゃ!?」
小さな地響きに気付いて横を向くタッチーナ。
そこには間近へ迫ったトラックが――!
「ぎにゃー!」
トラックに跳ね飛ばされ、タッチーナの体は空を飛ぶ。
ああ、タッチーナ‥‥刻が、見える。
――ガシャーン!
派手な破壊音と共に、タッチーナは手羽先屋台に顔面ダイブ。フライヤーに頭から突っ込んで、カラッとこんがりキツネ色。
「‥‥くぅ〜、まさか超必殺技がトラック召還とは!
危うく、朕の顔面がメンチと一緒に特売にされるところだったにゃー」
顔面を素揚げにされながらも、生還するタッチーナ。
残念な頭脳と引き換えに手に入れた超回復が無ければ、馬鹿の唐揚げがプノンペンで売られるところであった。
「え? ‥‥どうだ! これが名族の超必殺技であるっ!」
二人の共通点。
それは、馬鹿な上に単純な事である。
「うふ。かれーまにあさん、こんなところに居たんだ。
あなたのために‥‥うふ、うふふふふ」
二人のやり取りを見守っていたエルレーン(
gc8086)。
怪しい笑顔が、タッチーナの運命を暗示している‥‥。
●
「マグロ型キメラ達、倒しますぅ。そして、美味しく頂くですぅ」
電波増幅を使用した超機械「ビクスドール」でマグロ型キメラを攻撃するレガシー・ドリーム(
gc6514)。
タッチーナの指示なのか、マグロ型キメラは学ランを着ている。
しかし、強さに関しては貧弱この上ないマグロ型キメラ。酒を飲ませて倒しておけば、極上のマグロがいただけるのだから、レガシーの期待度はうなぎ登りだ。
「ふふ、選り取り見取り‥‥」
霧依も後方から超機械「ヘスペリデス」でマグロ型キメラに攻撃を仕掛けていた。
レガシー同様、戦闘後のマグロ料理を期待して酒を飲ませてから倒し続けていた。プノンペンも往来だけあって、屋台は周辺に多数ある。マグロを持ち込んで料理してもらえば、最高の一時を過ごすことができるだろう。
――だが。
そんな最高の一時を知らないのか、マグロ型キメラをそっちのけで暗躍する者達も存在していた。
「HAHAHA!
満を持してカムバーックなのデース!」
自称銀幕の世界から惜しまれつつ傭兵に復帰した大スター、マイケル=アンジェルズ(
gb1978)は、鶏のモモ焼き屋の前でサムズアップ。
果てしなく思い込みの強い、超絶ポジティブ思考野郎‥‥つまり、タッチーナや曽と同じ香りを纏っているマイケル。無意識のうちに同類の臭いを嗅ぎ分けてやって来たのか。
「その姿、ベリーナイスデース! 番長ルックが流行ですか?」
「うむ。その上、紙オムツとブラジャーを装備して紳士ぶりも併せ持つ、史上最強のシャイニング番長だにゃー。BL好きの腐女子達が、無限のカップリングを想像するに違いねぇにゃー」
「BL‥‥フジョーシ‥‥? ナルホード、ビーティフルレディ」
タッチーナ相手に言葉の大暴投を繰り広げるマイケル。
さらには曽が本当に漢王室から繋がる名家だという言い分も信じてしまう始末。マイケルの登場は事態を一層混乱させたようだ。
「汝らとは気が合うデース。鶏レッグ照り焼きで一杯やりまセーンか?」
マイケルは何を思ったのか、二人を食事に誘った。
傍らではマグロと傭兵が戦闘を繰り広げているのだが‥‥。
「ほう。この名族に馳走してくれるのか?
ならば、私の昼食へ同席する事を許可してやろう。ぶわっはっは」
「構わねぇにゃー。この変態軍人よりも多くモモ焼きを平らげてやるにゃー」
「なにぃ!? 変態バグアには負けんぞ!」
戦闘中にも関わらず、鶏のモモ肉を競って食べ始める馬鹿二匹。
馬鹿は、いつでも自由である。
「こりゃ、閣下!
せんとー大隊とやらを放ってモモ肉を食べている場合ではないぞ!」
迅雷からマグロ方キメラの頭部に向けて二連撃を叩き込んだらいむは、戦闘を無視してモモ肉へ食らい付く曽に声をかける。
「‥‥むしゃむしゃ‥‥これは‥‥名族の‥‥誇りをかけた‥‥戦いなのだ。
‥‥邪魔‥‥むしゃむしゃ‥‥するで‥‥ない‥‥」
「‥‥もぐもぐ‥‥にゃにが‥‥名族だ‥‥にゃー。
‥‥朕が‥‥マグロの‥‥もぐもぐ‥‥誇りを‥‥教えてやる‥‥にゃー」
口の周りを油だらけにして貪り食い続けるタッチーナと曽。
双方ともプライドを賭けて戦っているようだが、端から見ていれば醜い馬鹿の意地の張り合いだ。
「ところで、バルデス三世さん。第二ボタンの意味を知っていますか?」
モモ焼きを貪るタッチーナを、未名月 璃々(
gb9751)は撮影し続けていた。
変態キメラコレクターとして名を馳せる璃々にとって、タッチーナは極上の取材対象。マグロ型キメラを放置して、タッチーナの写真を撮り続けている。
「無論にゃー。第二ボタンは一秒間に十六連射してみたり、長押しして走ったりと大活躍だにゃー。定規を使って連射すれば、世界記録更新だにゃー」
取材でご満悦なのか、モモ肉から口を離して取材を受けるタッチーナ。
それに対して曽はエラくご不満だ。
「貴様! 名族を放ってそんな奴を取材するとは何事だ!
この私を取材せんか!」
しかし、璃々は曽をあっさり無視した。
璃々の興味対象はあくまでも変態キメラ。曽のような単なる馬鹿な軍人は、まったく興味を抱かない。
「番長という硬派でワイルドな中にも、少しだけキュートが混じれば女性の心を鷲掴みです。それで、戦いに敵は必要ですが、番長の宿敵は?」
「無論、自分自身だにゃー。自分を高スペックに生んだ神に消費者センターを通してクレームを入れたいぐらいだにゃー」
「攻撃されるなら、前と後、どちらが好みですか?」
「可能なら、上上下下左右左右と順番にコマンド入力してぇにゃー」
タッチーナの意味不明なコメントを書き留める璃々。
こいつの言い分を書き留めるだけ無駄な行為だと思うのだが‥‥。
「‥‥さっさと、マグロを倒しちゃおうっと」
曽とタッチーナを一瞥したレガシーは、馬鹿二人を見なかった事にしてマグロ退治へ集中する事にした。
●
貧弱さではバグア随一のマグロ型キメラ。
レガシー、霧依、らいむ達が一気に殲滅してマグロ肉を周囲の屋台に焼かせ始めた頃。
馬鹿二人の鶏のモモ焼き大食い大会に動きがあったようだ。
「‥‥うぇっぷ‥‥この私が‥‥敗北‥‥など」
曽の口からダム放水警報のようなやべぇ音が漏れ始めていた。
既に何十本もモモ焼きばかりを食べているのだから、気持ち悪さも相まって顔面は蒼白だ。
「閣下、これではうまいマグロは食べられないのう」
「ふふ‥‥これで‥‥マグロの‥‥プライドも‥‥守れた‥‥にゃー」
らいむが曽を心配する横で、タッチーナは華麗に勝利宣言――する予定だったのだが、既にタッチーナの顔面も蒼白。
できれば、口からプロトン砲を吐き出す前に撤退したい。
しかし、胃袋で寿司詰めとなっているモモ肉がタッチーナの行動力を奪う。
「うう‥‥動くと腹の中のモモ焼きと、再会しそうだにゃー」
「あははは!! ばんちょう、待ってよばんちょう!」
この機会に乗じてエルレーンはタッチーナを強襲。
ぎらぎら輝く魔剣「デビルズT」を振り回してタッチーナへ斬りかかる。
「きゃー!」
モモ焼きで動きが取れないタッチーナの学ランを、デビルズTで切り裂いていく。
宙に舞う学ランの切れ端。気付けば自称番長だった設定は吹き飛んで、エルレーンに乱暴されるいつものタッチーナの姿がそこにあった。
「ほら、見てぇ‥‥うふふ、かれーまにあさんは、こぉゆぅの好きかと思って、買ってきたのぉ‥‥似合う? ‥‥ねぇ、似合う?」
エルレーンは素早くハイヒールに履き替え、ヒールの部分で地面に転がるタッチーナのキック! キック! ケツをキック!
「ぎにゃー! ヒールが朕のケツに食い込むにゃー!」
ヒールが深く尻に突き刺さり、辺りは一面血塗れになっている。
それでもエルレーンはキックを続けている。
「きれいな尻をしているでしょ? ウソみたいでしょ? 切れ痔なのよ、それで‥‥。
あはははははははは」
トランス状態に入ったエルレーン。
変態度合いが当社比三倍に匹敵した事を察知した璃々は、エルレーンと一緒にタッチーナを撮影。その状況が更なる混乱を招き入れる。
「ふーん、不良のような格好をしてみんなを困らせるなんて‥‥。
タッチーナ君、問題行動にはきっちり指導してあげないといけないわね」
状況を見守っていた霧依にも火が付いたのか、番長を指導する熱血教師のノリで接近。
タッチーナのブラジャーを掴み、頬に数発のビンタ。
さらに指導と称して紙オムツを一気に引き下ろした。
「いやー! やめてー!」
完全にセクハラなのだが、相手がタッチーナだとそういう雰囲気がまったくない。実際、こいつのヌードなんて需要がないのだから、当然な話だ。
「前回は超機械が小型だったからいけなかったのね。
先生――心を鬼にするわ‥‥」
霧依は手袋を装着。さらに超機械「フラン」を装備した手刀をタッチーナの尻に突き刺した。
そして、直腸内で電磁波を発動させる。
「びゃゃゃぁぁぁぁ! ‥‥‥‥あっふん‥‥」
腹の中で電磁波が荒れ狂い悲鳴を上げるタッチーナ。
同時に時折吐き出されるため息にも似たあえぎ声が気色悪い。
その後、霧依はタッチーナが快感の上に昇天するまで電磁波を放ち続けた。
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「OH!
あのツナが放っていた流行のフレグランスがありまセーン!」
マイケルは近所の屋台が焼いたマグロの塊に衝撃を受けていた。
先程まで、マグロ型キメラが放っていた酸っぱい臭いは、巷で流行しているフレグランスだと本気で信じていた。だが、自分の前に出てきたマグロは、酸っぱい臭いが消え失せて、極上のマグロ焙り焼きとして登場していた。
「‥‥本当、変なキメラだよね」
屋台に酔ったマグロ型キメラの肉塊を持ち込んで焼かせたレガシー。
酔っ払った状態で倒せば、臭みもない最高のマグロが食べられるのだから不思議なキメラである。既に近所の住人もマグロの美味さに気付いて、付近はモモ焼きとマグロが次々と焼かれている。
「しかし‥‥せんとー大隊とは何じゃったのか。
わらわは、分からんぞ?」
らいむは、首を傾げていた。
結局、曽はモモ焼きを食べ過ぎて病院へかつぎ込まれてしまった。曽徳鎮戦闘大隊は、最後まで部隊らしい行動を一切せずに終わってしまった。
タッチーナも霧依の攻撃でしばらくは気絶していたのだが、傭兵達が気付いた時には逃走。腹にみっちり詰まったモモ焼きと共に行方を眩ましたようだ。
「うふふ、今度はどんな風に尻を蹴ってあげようかしら‥‥」
既に次はどのような形で尻を蹴ってやろうか算段を始めるエルレーンであった。