●リプレイ本文
「大葉、回避行動はお前に任せた!」
「‥‥了解」
土橋 桜士郎(gz0474)は航海士の大場へ指示を出した。
自分の愛車を三度廃車にする程荒々しい運転をを見せる大場だが、巡洋艦の航行は信用に値する。このオニキリマルも、大場の操船で何度も窮地を切り抜けて来たのだ。
「それから、蛙っ!
バグアに砲術家の意地、見せてやれっ!」
土橋は、大葉に続いて蛙という渾名で呼ばれた砲術長へ、無線で怒鳴りつける。
蛙もまた、このオニキリマルを支える重要人物の一人。緊急事態における現場判断を蛙に一任する場合もある。
もっとも――過度な自信が玉に瑕なのだが。
「わかっとるっ!
なんなら、KV乗りの連中は休憩してもらっても構わねぇんだぜ」
「その意気だ。頼んだぞ」
通信機越しからでもブリッジ中に響く蛙の声から逃れるように、土橋は通信を切った。
戦いは、既に始まっている。
月面基地建設用資材を運搬する輸送艦を守りながら、封鎖衛星「ポセイドン」への増援部隊を撃退しなければならない。
単なる輸送で終わらないことは予想していたが――戦いの結果は傭兵とスカイフォクス隊の奮戦次第だ。
「頼むぜ。こんなところで死ぬ訳にはいかねぇんだからよ」
土橋は、モニターを見上げた。
今もバグアを止めるために奮戦する傭兵とスカイフォクス隊の勇姿を見守るために。
●
「船はやらせねぇぞ!!」
砕牙 九郎(
ga7366)のスターライトが飛行形態で宇宙という大海原を突き進む。
目指す先は輸送艦を狙うムカデのような姿の宇宙キメラ。回避運動を繰り返しながら、キメラへと肉薄する。
「そらよっ!」
射程距離にキメラを捉えたスターライトは、【SP】アサルトライフルの弾丸を叩き込む。
すれ違い様に浴びせかけられた弾丸は、キメラにダメージを与えて行く手を阻む。
「猟犬のように‥‥追い立てましょう」
BEATRICE(
gc6758)はミサイルキャリアの複合式ミサイル誘導システムIIを使用。
射程距離を伸ばして、キメラと小型ヘルメットワームに照準を合わせる。
特に小型ヘルメットワームの攻撃態勢を崩す事ができれば、輸送艦を複数の小型ヘルメットワームが襲撃する可能性を減らす事ができる。
BEATRICEは狙いを定め――【SP】ミサイルポッドを発射。
次々と飛来するミサイルは、的確に敵陣を襲撃。キメラにダメージを与えると共に、小型ヘルメットワームの編隊を崩す事に成功する。
「招かれざるお客はんには、早々にお帰り頂かなあきまへんな」
禄存で情報管制に努めていた月見里 由香里(
gc6651)は、BEATRICEのミサイル攻撃で出来たチャンスを見逃さない。
蓮華の結界輪で収集した情報をオニキリマルへ転送。
支援攻撃を要請して、一気に敵を追い込むつもりだ。
「頼みますぇ、オニキリマルはん!」
送信される情報は、オニキリマルのブリッジを経由して、砲術長である蛙の元へ届けられる。
「来た来た来たぁ!
予定通りお嬢ちゃんから観測情報をゲットっ! これなら目を瞑っていても当てられるってもんだ!」
情報到着と同時にテンションが上がる蛙。
オニキリマルの砲塔が情報を元に旋回。目標地点に向けて砲身が上下へと動く。
「オニキルマルの斬れ味、その身でたっぷりと味わえってんだ!」
蛙の叫びと共に、オニキリマルの主砲火を噴いた。
放たれた砲撃は、月見里の送信した座標通りの位置で炸裂。
小型ヘルメットワームを巻き込んで爆発が巻き起こる。
さらに、爆炎から逃れようと移動を開始しようとする数機の小型ヘルメットワームを砕牙が追撃する。
「そっちへ逃げていいのかい?」
再びスターライトから放たれる【SP】アサルトライフルの弾丸。
小型ヘルメットワームの機体に風穴を開き、確実にトドメを刺していく。
敵を輸送艦へ近づかせない。
傭兵達の目標は、達成に向けて大きく動き出していた。
●
小型ヘルメットワームとキメラを狙うのは、砕牙達だけではなかった。
「今回も150秒で終わらせますっ!」
赤宮 リア(
ga9958)は、熾天姫 (Rote Seraphim)と共に飛行形態でキメラを後方から追撃していた。
宇宙用KVと異なり、熾天姫は宇宙用フレームを搭載した通常のKVだ。そのため、宇宙での活動時間は宇宙用KVと比較しても短い。しかし、赤宮はその限られた時間で全力を出してキメラを追い込んでいた。
「一気に片付けますよ! 3×3(サザン)・インフェルノ!!」
数匹のキメラを追い込んだ赤宮は、SESエンハンサーを機動した状態のまま、GP−7ミサイルポッドを発射。
放たれたミサイルが、雨の如くキメラの体へ突き刺さる。
複数の爆発がキメラの体を包み込み、確実にダメージを与えていく。
「まだ、墜ちないならっ!」
ミサイルの攻撃を受けて辛うじて生き残るキメラを目視した赤宮は、再びキメラに向かって旋回。
【SP】レーザーライフルML−3Sで確実に敵を仕留めていく。
この戦いで無駄な戦いは一切存在しない。
150秒という限られた時間で、赤宮はすべてを出し切るつもりだ。
「破軍星を背にして戦えば、必ず勝つ。古くからの占い通りですといいですね」
ミルヒ(
gc7084)の【白】は、【SP】アサルトライフルを手に小型ヘルメットワームを追い込んでいた。
開幕でミルヒが敢行したK−02小型ホーミングミサイルの連射は小型ヘルメットワームとキメラを攪乱。敵を牽制する意味でも重要な初手であったと言えるだろう。
付け加えれば、今回の戦いに参加している者は傭兵だけではない。
破軍星と行動を共にしていたスカイフォックス隊も、今回の戦闘へ参加していた。
「雑魚の掃討か。まあ、準備運動にはなるな」
ミルヒの傍らを飛行するように、S−02「Liberty」を駆るサジが自信たっぷりに笑っている。
筋肉質の壮年という雰囲気だが、年齢は38歳。スカイフォックス隊では年長者らしい。
今回もミルヒと一緒に敵機牽制と足止めの役を担ってくれたようだ。
「‥‥ところで、破軍性の土橋さん‥‥どんな人?」
「ん? どんなと言われてもなぁ」
ミルヒはオニキリマル艦長の土橋という男が気になっていた。
聞けば普段は寝てばかり。仕事は部下に丸投げしてさぼる事ばかり考えているという。
ミルヒの率直な感想は『なんだか変な人』なのだが‥‥。
「見掛けに騙されない方がいい。ああ見えて幾度もの修羅場を潜っているらしい」
そう声をかけてきたのはスカイフォックス隊のウィロー。
赤毛のオールバックが特徴的な青年だ。
ミルヒはウィローの言葉に疑問を投げかけた。
「そうなんですか?」
「ああ、遊撃部隊なんて言われているが、要は呈の良い何でも屋だ。十分な補給も受けられないまま、戦闘させられる事も多いはずだ」
UPC軍は宇宙という新たなる舞台へ戦場を移しているが、巡洋艦不足は認める他ない。現在、メガコーポレーションで建設中だが、間に合っていないのが実情。そのため、破軍星のような遊撃部隊が何度も転戦させられるのは、半ば予想できた事態だ。
「あの人が‥‥」
ミルヒはそう呟いた後、黙り込んだ。
今頃、オニキリマルのブリッジで機敏に指示を出しているのだろうか。
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「えっくしっ!」
オニキリマルのブリッジで、土橋は大きなクシャミをした。
「くそ。誰か、噂してやがるな?」
「ブリッジ」
夢守 ルキア(
gb9436)は、デュスノミアで逃げ回る小型ヘルメットワームを追撃しながら呼びかけた。
既に傭兵達の活躍で小型ヘルメットワームと宇宙キメラはかなり数を減らしている。
残るは指揮官機なのだが――。
「なんだ?」
「敵指揮官だが、私はハロン湾で目撃しているかもしれないよ」
夢守の脳裏に蘇っていたのは、ハロン湾付近のUPC軍基地を襲撃したバグアの一団だった。
その一団を率いていた男こそ、ダークミストと名乗る指揮官だった。
その際、ダークミストは敵対する傭兵に対して『殺すには惜しい』と表していた。好戦的な相手でバグアらしい敵だったが、そのバグアが再び傭兵の前に立ちはだかった事になる。
「ルキア、そいつはヤバイのか?」
「詳しくは分からない。ただ、宇宙キメラや小型ヘルメットワームは私達の力を見る手駒と考えている可能性はあるよ」
夢守の言葉を聞いて、土橋は舌打ちした。
夢守の推測通りなら、敵指揮官機と交戦しているズウィーク・デラード(gz0011)達の行動について一報がない事も察しがつく。
土橋は数秒の間思案した後、情報統制を担う月見里へ声をかける。
「由香里、聞こえるか?」
「事情は聞いてましたえ。指揮官機を対応している皆さんも、難儀されてるようですわ」
「敵指揮官がいる宙域に一番近いのは誰だ?」
「ええと‥‥ミルヒはんと砕牙はんです」
「二人に入電。周辺の敵を掃討した段階で、敵指揮官機攻撃支援要請。
‥‥可能な限り早く、な」
●
夢守が予想した通り、ダークミストは戦闘そのものを楽しんでいた。
傭兵達の能力が、自らの予想を遙かに超える存在だった事を喜びながら。
「ふははは。やるではないか、人間っ!」
漆黒のカスタムティターンは、アンジェリナ・ルヴァン(
ga6940)のヴァレイリリィと対峙。
ヴァレイリリィの機剣「レーヴァテイン」とカスタムティターンの専用サーベルが眼前で交差し、お互いの距離が極限まで接近する。
「戦闘中に笑いとは‥‥随分余裕だな、ダークミスト」
アンジェリナは、レーヴァテインを僅かに動かしながらダークミストの死角を生み出す。
そして、その死角を突いて【SP】機剣「ライチャス」で突きを繰り出した。
しかし、ダークミストはブーストを使って後退。突きから逃れるかのように、ヴァレイリリィとの間に距離を置いた。
「それで、逃れられたつもり?」
離れたティターンを鷹代 由稀(
ga1601)のセファー・ラジエルが中距離から【SP】レーザーライフルML−3Sで攻撃を仕掛ける。
近距離のアンジェリナ、中近距離を鷹代が交互に攻撃する形でティターンを足止めしている。この狙いは的中、ダークミストをこの宙域に釘付けにしている間に他の傭兵が小型ヘルメットワームや宇宙キメラを掃討する事ができた。
「時間稼ぎだけ‥‥で、済ますつもりは無いわ。出来ればこいつも落としちゃいたいところなんだけど‥‥」
「落とす? この俺を?
本当に‥‥人間は愉快、だ」
鷹代のレーザーライフルを回避したダークミストは、再びブースト。
機動力に特化した漆黒のティターンは、一気に鷹代へと接近する。
「‥‥くっ、今度はこっちって訳?」
「させないっ!」
ティターンとセファー・ラジエルの間に、ヴァレイリリィを滑り込ませるアンジェリナ。
再び、ダークミストとアンジェリナは邂逅する。
「立ちはだかるか。ならば、斬る」
「フル‥‥インパクト!」
ヴァレイリリィはレーヴァテインを手にブースト。
間合いを見計らい、レーヴァテインの一撃を放つ。
だが、アンジェリナは再度ブーストを使って、無理矢理レーヴァテインの軌道を変えた。
「むっ!」
突如軌道を変えた切っ先が、ティターンの胸部を傷つける。
ダークミストとの戦いで、アンジェリナが与えた大きな一撃。
この一撃が、ダークミストに更なる歓喜を与える。
「見事だ、人間。
答えろ。貴様の強さの秘密はなんだ?
能力者に何らかの力が備わっているというのか?」
「それは‥‥『信念』だろ?」
デラードのリヴァティーが飛行形態で【SP】ガトリング砲を放つ。
「信念?」
ダークミストは弾丸から逃れるべく、ティターンのブーストでその場から大きく移動する。
「何者にも曲げない心の強さって奴さ。
心が負けなければ、何度でも強敵に挑める‥‥ってね」
信念。
人類達は、心の強さで何度も窮地を脱してきた。
心が折れなければ、再び立ち上がる事ができる。
ダークミストは、『信念』という言葉が気に入ったようだ。
「ならば、次の戦いでその信念とやらを斬り捨ててやろう」
その一言を残して、漆黒のティターンはブーストで宙域を離脱。
ミルヒと砕牙が到着した頃には、再び沈黙が支配する宇宙空間へと戻っていた。
●
「くぅ、うまいっ!」
戦いの後、デラードはいつものようにビールを飲み干した。
傭兵と破軍星の健闘で、バグアの増援を阻止する事に成功。
月面基地建設用資材も、無事目的地へと到着した。
情報によれば、既に基地の基礎工事は完了。間もなく本格的な工事が開始される予定だ。
「‥‥艦長は?」
戦いではミサイルの大盤振る舞いを見せていたBEATRICEは、ブリッジに土橋の姿が見当たらない事に気付いた。
「そういえば、いらっしゃいませんね」
赤宮も思い返してみるが、ブリッジに来た時点で土橋の姿を見た記憶がない。
ブリッジに艦長が不在。しかも、先程までバグアが襲来していたのだ。被害状況の調査は部下がやってくれているようだが‥‥。
「あの艦長‥‥仕事を部下に丸投げして、何処かで昼寝をしているそうだよ」
夢守は、聞いた情報を仲間に教えながらため息をついた。
戦いでは各方面に指示を出す艦長だったが、戦いが終わった途端にいつもの面倒くさがりに戻ってしまったようだ。
「ま、いいんじゃないかな?
戦いになればきっと戻ってくるんだし」
ビールを飲むデラードは、土橋の行動を気にかける様子もない。
最早、オニキリマルではいつもの光景となっているのだろう。
「本当に‥‥変な人」
ミルヒは、ぽつりと呟いた。
●
宇宙でも快進撃を続けるUPC軍。
しかし――次なる戦いは間近にまで迫っている。
「‥‥予測される進行ルートは、やはりここか」
ダークミストが乗るティターンのモニタには、破軍星が護衛していた輸送艦の予測進行ルートが示されていた。
ルートはポセイドンの脇を通過しながら、月に向かって進んでいる。
「人類が月で何かを建設中‥‥そう見る方が自然だな」
そう呟くダークミストの顔には笑みが浮かぶ。
再び、かの傭兵達と戦うことができる。
彼らの信念に触れる事ができる。
ダークミストの心は躍る。
再び――強者との戦いを、夢見て。