タイトル:【OMG】予兆マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/19 10:17

●オープニング本文


「ボロ雑巾、顔を出すなっ!」
 ブラウ・バーフィールド(gz0376)軍曹の怒声が新兵に向けられた。
 ボロ雑巾と呼ばれた新兵は、体を一瞬震わせてその場で硬直。その数秒後には、倉庫外で数発の銃声が反響する。
(連中、ここの基地の情報を何処で嗅ぎつけたんだ?)
 軍曹は奥歯を噛み締めた。
 新兵訓練の為、ハロン湾近くのUPC軍基地を訪れていた。いつものように新兵にUPC軍人のイロハを叩き込んでいたのだが、突如バグアが急襲。デリー及びオセアニアへ戦力を振り分けていた関係から基地の防御は手薄となっていた。
 軍曹は一抹の不安を抱えながら応戦するも――撤退を繰り返してこの倉庫へ籠城するまでに追い込まれていた。
「奴らの狙いはこの物資だろうな」
 軍曹は振り返る。
 そこには倉庫で搬出を待つコンテナが存在していた。
 月面基地建設のために必要な物資であり、後日マスドライバーで宇宙へ上げられる予定の物資だ。
 何故、敵がこの基地に物資がある事を嗅ぎつけたのかは分からない。
 唯一確かな事は、救援が無ければ全滅する事が確定しているという事だろうか。
「万事休す、か」
 軍曹の額に冷や汗が浮かび上がる。


「呆気ない」
 現在の状況をダークミストは、そう語った。
 漆黒に身を固め、左目を大きな眼帯で隠す男。
 低音の声が、聞く者の恐怖を駆り立てる。
(罠ではなさそうだが‥‥この警備の手薄さはなんだ?) 
 情報通りこの基地に何らの重要物資があるのだろうが、UPCの防衛戦力が少なすぎる。物資が如何様なものなのかは分からないが、下された命令である以上遂行しない訳にはいかない。
 しかし、そうだとしてもダークミスト自らが赴く必要性をまったく感じない。
 これならバグア兵だけでも問題なかったのではないか。
「上から期待‥‥否、違うだろうな」
 実験派に所属するダークミストは、他の派閥から疎まれている事は知っている。
 だが、ダークミストにとって下らない勢力争いに興味はない。
 欲しているのは純粋で、混じりっ気のない、力と力のぶつかり合い。
 その想いとは裏腹に、この戦いで求める物は存在しないようだ。
「この下らない戦いを早々に終わらせる。これ以上は無意味だ」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
滝沢タキトゥス(gc4659
23歳・♂・GD
田村庇昌志(gc7411
20歳・♂・HG

●リプレイ本文

 月面基地建設。
 対バグア戦の舞台が宇宙へと移りつつある状況において、この計画は重要な位置づけにある。現在、人類側の拠点はカンパネラが中心となっているが、別拠点を建設する事で戦力の分散。多方向からのバグア攻略を可能にする。
 そのために必要な建設資材は、中国・太原のマスドライバーを使って資源を打ち上げる手筈となっている。

 ――しかし。
 敵基地建設を黙って見守る程、バグア側も甘くはなかった。
「状況を報告しろっ!」
 ブラウ・バーフィールド(gz0376)軍曹は、ウォルフドックへ牽制射撃を加えながら新兵を怒鳴りつけた。
 ベトナムのハロン湾付近にあるUPC軍基地をバグアが襲撃。
 軍曹達は生き残った者で撤退を続け、現在立て籠もっている倉庫へ辿り着いたのだ。
「負傷者四名。敵はキメラを前面へ出して攻撃を継続。我が方の弾薬も残り僅かとなってきました」
 銃声に負けない声を張り上げる新兵。
 怪我人も多く、現在キメラと交戦している新兵も経験という意味では心許ない。
「敵の目標は、このコンテナか‥‥」
 軍曹は背後にあったコンテナに視線を送った。
 倉庫には巨大な鉄の箱が並べられているが、このコンテナの中身は月面基地建設用の資材である。この物資をマスドライバーで打ち上げて月面へ持って行く予定だったのだが、バグアはマスドライバーで打ち上げる前に物資の破壊を目論んでいたようだ。
 月面基地は、UPCにとって絶対に必要。
 ここで物資を破壊されて計画を遅延させる訳にはいかない。
「くっ、こうなれば一気に指揮官を狙う他ないのか‥‥」
 軍曹は、手にしていたアサルトライフルを握り締める。
 正直、無謀極まりない作戦だ。
 それでも、軍曹は――覚悟を決める。
「よしっ、今から俺が‥‥」
「けっひゃっひゃっ、単独で指揮官に挑むつもりかね〜?」
 軍曹の背後から颯爽と現れたのは、ドクター・ウェスト(ga0241)。
 事態を察知したUPC軍が傭兵を派遣してくれたようだ。
「おおっ、救援か!」
「怪我人はこっち? 私に任せてくれてOKだよ」
 夢守 ルキア(gb9436)は、負傷した怪我人の治療を始める。
 傷付いている兵士の体を起こし、練成治療と救急セットで傷を癒す。
 苦痛に歪む兵士を気遣いながら、夢守は慣れた手つきで包帯を巻いていく。
「これで良し。応急処置だけど、命に別状はないはずだよ」
「すまない、感謝する」
 頭を下げる軍曹。
 それに対してウェストは、余裕の態度で答える。
「けっひゃっひゃっ、今は礼よりも敵の撃退が先だよ〜」
「その通りや! さっさと敵を基地から追い出んとな。
 ちゃんと弾は‥‥うん、入っとる」
 アサルトライフルのマガジンをチェックしていた田村庇昌志(gc7411)は、手早くマガジンをセットする。
 こうしている間にもウォルフドックは倉庫の周囲を徘徊。隙を見て倉庫へ飛び込むチャンスを待っている。外への警戒を怠る訳にはいかないようだ。
「敵は‥‥指揮官とバグア兵、それにキメラですか」
 バグア側の戦力を冷静に分析するのはハミル・ジャウザール(gb4773)。
 厄介なのは、遠距離からアサルトライフルで銃撃するバグア兵だろうか。ハミルはエネルギーガンで応戦しながら、バグア兵へ近づくタイミングを窺っている。
「軍曹、またお会いしましたね! まあ、あなたが覚えていればの話ですが‥‥」
 滝沢タキトゥス(gc4659)は、軍曹の顔を見かけて近寄った。
 その滝沢の挨拶を耳にした夢守は、二人の顔を見比べながら問いかける。
「あら? タキ君はブラウ君と知り合いなの?」
「ええ。以前、依頼でご一緒させていただきました」
 滝沢と軍曹は、中国や千葉の依頼で同じ敵と戦った事がある。
 そして、再び軍曹と同じ敵と戦う機会が巡ってきたという訳だ。
「それにしても、あなたがいるところは新人さんが大体いますね‥‥何かと大変そうで」
「当然だ。俺の仕事はゴミクズ以下の新兵を一人前にする事だ」
 軍曹は外に居る敵の様子を窺いながら、毒づいた。
 毎回新人を守りながらの戦闘で苦労が絶えないのは事実である。その度に傭兵に依頼を出しているからこそ、滝沢と軍曹は顔を合わせる事ができる訳なのだが‥‥。
「なら、さっさと終わらせよう。新人育成を再開出来るように」
 終夜・無月(ga3084)は聖剣「デュランダル」を握り締め、倉庫から飛び出す。
 敵指揮官が居る場所を目指して。


「増援か‥‥」
 バグア側の指揮官、ダークミストは傭兵の存在に気付いていた。
 あと少し時間をかければ倉庫の中にあったコンテナを潰す事ができた――否、自ら倉庫へ突撃していれば、もう指令は終わっていたはずだ。
 だが、ダークミストはそうしなかった。

 上官に取り入って戦場をかき回すだけの上水流(gz0418)は、正直好きなれない。
 だが、それでも上水流の指示でこの基地へ襲撃をかけたのは、敵の中で自分を楽しませてくれる相手がいると思ったからだ。

 バグアの中には、戦争なしでは生きている実感が持てない者がいる。
 そう、戦いがなければ自分は死んでいるも同じ。
 戦いこそが、すべて。

(早く来い。誰でもいい、俺を楽しませてみろ)
 ダークミストは、腰にあったレイピアに手をかける。
 そして――鞘から抜き放ち、傭兵の到着を待ち望んでいた。


「うぉぉぉぉ!」
 田村の雄叫びと共に、アサルトライフルの銃弾がウォルフドックへ突き刺さる。
 飛び掛かろうとしていたウォルフドックの顔面に、出来上がった多数の銃創。脳が破壊されて生命活動が停止した事は誰の目にも明らかだ。
「いけるっ‥‥けど、気ぃ緩めたら‥‥」
 そう言い掛けた田村に、別のウォルフドックが走り寄っていた。
 ウォルフドックは二匹で行動する事を基本としている。それは、倒した一匹の近くにもう一匹が存在している事を示していた。
 田村は走り寄るウォルフドックへ銃口を向ける。
 しかし、素早い動きのウォルフドックは、田村が引き金を引くよりも早く飛び掛かった。
「させんっ!」
 田村の背後から、軍曹がアサルトライフルを掃射。
 残る一匹は、銃弾を受けてそのまま地面へ倒れ込んだ。
「助かった」
「何をしている! キメラはまだ来るぞ!
 立て。そして、構えろ! その銃はお前の女だ。優しく、そして大胆に扱え」
 軍曹の怒声が田村へ向けられる。
 普段は傭兵に怒声を飛ばす事のない軍曹だったが、非常事態で気を配る余裕がないようだ。
「分かった。もっと、敵を倒したる」
「その調子だ。犬が俺達に勝てない事を教えてやれ」
 近寄るウォルフドックをエネルギーガンで撃退する滝沢。
 的確に敵を狙い撃ち、ダメージを与えていく。倉庫の壁に身を隠しながら応戦する新兵でも、ダメージを与えておけばウォルフキメラを仕留める事も可能だ。
「今日も好調のようだな」
「これはどうも。煽てても何もでませんよ」
「煽てるつもりはない。素直な感想を口にしたまでだ」
 軍曹という人物は、他人を褒めて人を育てるタイプではない。
 怒りを持って当人の能力を引き出すタイプだ。
 軍曹を憎んでもいい。その分、新兵は更なる力を引き出すはずだ。
「ふふっ」
「ん? 何がおかしい?」
 憮然とする軍曹。
 滝沢は軍曹の考え方に、奇妙な優しさを感じ取っていた。
 力を引き出す理由は、新兵が前線で生き残る為だから。生き残って欲しいという願いの為に憎まれ役を買って出る。軍曹の不器用さを物語っている。
「いえ、失礼。戦闘中に笑みは禁物ですね」
 謝罪する滝沢。
 気を引き締めてキメラと対峙しなければ。
 そう考えた矢先、前方にいた夢守が声を上げた。
「タキ君! こっちに人手を回して!
 このままだとまずい事になるよ!」


「攻撃の隙が、ありませんね‥‥」
 ハミルは放置されていた車の影に隠れて反撃の機会を待ち続けていた。
 バグア兵2人を抑えるべくエネルギーガンで反撃しながら懐へ飛び込むチャンスを窺っているが、前と左の二方向からアサルトライフルの攻撃を受けている状況だ。下手に飛び出せば、的になる事は間違いない。
 夢守から練成強化を受けているものの、隙が無ければ前に進む事もできない。
「ハミル君、前へ行って!」
 後方に居た夢守は、バグア兵2人に向けて照明銃を発射。
 バグア兵の目が一瞬だけ眩む。
「行きます!」
 ハミルは銃撃が止んだと同時に、前方に居るバグア兵に向かって走り出す。
 だが、バグアの目が眩んだのは一瞬だけ。
 すぐに視界を取り戻したバグア兵。再び、ハミルの頭に狙いを定める。
「今です!」
 銃声と同時に、バグア兵の側面へ回り込むハミル。
 そして、バグア兵が振り返るよりも早く、クロックギアソードを振り下ろした。

 ――ズバッ!

 クロックギアソードの刃は、バグア兵の胸部に傷を作った。
 しかし、バグア兵に致命傷を与えるまでには至っていない。
「攻撃可能な距離までくれば、何とか‥‥」
 負傷したバグア兵と間合いを詰めるハミル。
 しかし、残るバグア兵がハミルの存在に気付いた。
「‥‥‥‥!」
 ハミルの頭部を狙ってアサルトライフルの照準を合わる。ここから狙い撃てば、ハミルに致命傷を与える事ができる。
 だが、バグア兵もまた、重要な事も一つ忘れていた。
「悪いね、私って貧弱だし。こーするしかないワケ」
 そこへ隠密潜行でバグア兵に接近していた夢守が背後を強襲。超機械「カルブンクルス」の一撃はバグア兵に命中。バグア兵の体は前方に向かって投げ出される。
「でも、これだけじゃ倒せないんだよね。分かってる」
「助けに来たでっ!」
 夢守の声を受けて田村、滝沢の2名が救援に駆けつける。
 これで4対2。形勢は、逆転はしたと言えるだろう。


「我輩をただの科学者と思ったら大間違いだ〜」
 電波増強で知覚を上昇させたウェストは、ダークミストへエネルギーガンを放つ。
 ダークミストは、体を捻ってエネルギーがの攻撃を躱した。
 対峙する二人。
 不敵な笑みを浮かべるウェスト。
 それに対し、ダークミストはレイピアを構えて攻撃の隙を探している。
「俺に挑むか。ならば、失望させるなよ!」
「さあ、力を見せたまえ〜。ソレは君を倒す鍵となる〜!」
 ウェストは再びエネルギーガンを連射する。
 しかし、ダークミストは躱す事無くウェストへ前進。レイピアの間合いまで接近し、突きが放たれる。
「けっひゃっひゃっ、言ったはずだがね。我輩をただの科学者と思うな、と〜」
 ウェストは隠し持っていた機械剣αを構えて軌道を逸らした。
 二人は鍔迫り合いの状態となり、双方の間合いは極限まで接近する。
「ふん。人間の中にも、骨のある奴はいるようだ」
「君の力は、これだけではあるまい? 秘められた力を解き放つのだ〜!」
 機械剣αを通して伝わるダークミストの力。
 だが、ウェストには分かる。
 この男が隠し持っている力はこの程度ではないはずだ。まだ秘められた能力があるはずだ。
 その秘密を探る事こそ、ウェストにとって勝利への一歩となる。
「そこだ」
 鍔迫り合いの状況から、終夜が側面から攻撃を仕掛ける。
 聖剣「デュランダル」を手にダークミストへ斬りかかる。
「ちっ、次のお客か!」
「けっひゃっ!?」
 ダークミストはウェストに蹴りを放ち、間合いを開ける。
 回避が間に合わないと判断、終夜の一撃を正面からレイピアで受け止めた。
「指揮官相手に二人で挑むか‥‥」
「これも戦争だ。良い悪いの問題じゃない」
 終夜はデュランダルへ渾身の力を込める。
 ダークミストの体を突き押し、強引に後退させる。
「だろうな。それは俺も同意見だ」
 次の瞬間、終夜に衝撃が走る。
 ダークミストの体を中心に放たれた強い衝撃は、終夜の体を後方へ吹き飛ばした。
 ウェストの予想通り、ダークミストは力を隠し持っていたようだ。
「けっひゃっひゃっ、これが隠された力〜。でも、もっと隠しているのではないかね〜」
「ふん、科学者とは変わった生き物だ。
 それに、傭兵という連中には興味惹かれる。‥‥このような場所で殺すには惜しい、か」
 ダークミストは、突如踵を返して走り出した。
 明らかな敵前逃亡。
 だが、その堂々とした態度は、単なる逃走とは思えない。
「待て!」
 終夜も追跡を開始する。
 終夜の足ならば、ダークミストへ追いつく事も簡単だろう。
 ――しかし。
「ガウッ!」
 終夜の後方からウォルフドックが飛び掛かる。
、主を逃がすべく2匹のウォルフドックが攻撃を仕掛けてきたようだ。
「けっひゃっひゃっ、主を守る為に捨て身の攻撃かね〜」
 ウェストも加勢してウォルフドック排除を開始する。
 しかし、ウォルフドックを排除する頃には、ダークミストは完全に行方を眩ませていた。


 傭兵の活躍により、倉庫のコンテナは無事守りきる事ができた。
 コンテナが無事であれば、月面基地建設も予定通り進められる。
「でも、何処で月面基地の物資があると情報が漏れたのかな?」
 夢守は、軍曹へ問いかける。
 そもそも、ここに物資がある事を知ってバグアが攻撃を仕掛けてきた。つまり、バグアが知らなければ攻撃そのものがなかったはずなのだ。
「分からん。だが、中国にはまだまだ親バグアの者が居る。そこから漏れたと考えるのが筋だろうな」
 軍曹の言う通り、中国内部には未だにバグアへ協力する者が存在する。
 彼らから情報を得た、という事は十分に考えられる事だ。
「けっひゃっひゃっ、あの指揮官は要注意だね〜。きっとまた現れるよ〜」
 ウェストは、ダークミストが再び攻撃を仕掛けてくるだろうと予想していた。
 それがいつかは分からないが、必ず現れる。
 科学者としての勘が、そう断言している。
「今回の一件を軍も重く見ている。計画を急ぐつもりだろう」
 既にコンテナはUPC軍によって別の基地への輸送が決定している。
 情報が漏れている以上、バグアがいつ攻撃を仕掛けてくるのか分からない。
 物資の輸送計画から再検討が必要だろう。
「厄介な相手に見初められたみたいですね」
 滝沢は、思わず大きなため息をついた。