タイトル:【QA】SF隊、宇宙へマスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/16 12:48

●オープニング本文


 果てなく続く――星の海。
 人類にとって未開の場所は、あまりにも広大。
 今まで地球を舞台に繰り広げられていた戦いは、本当に小さな戦いであったと思えてしまう。
 しかし。
 戦闘の規模に関係なく、人は戦い、そして――死んでいく。

「‥‥KVで宇宙を駆ける。きっと最高の気分なんだろうな」
 ジョッキに注がれたビールを飲み干してから、ズウィーク・デラード(gz0011)はぽつりと呟いた。

 酒の肴にしていた無数の星々。
 あの星々に包まれ、KVで宇宙を駆け抜ける。
 それは、一体どんな気分なのだろう。

 全方位が星々に囲まれるなんて、どんなプラネタリウムでも体感する事はできない。
 何より、自分が人類未開拓の地へ足を踏み入れる気分は如何なるものか‥‥。

 様々な感情が入り交じり、自然とデラードの顔は綻んでいく。
 そんなその想いの中から出たのが、先程の一言だ。
「無断でKVを出撃させれば、格納庫磨きじゃ済まない‥‥」
 スカイフォックス隊の智久が心配そうな顔をしている。
 デラードがこういう時には、何かが起こりそうな前触れ。出来るならば厄介事は回避したい。普段は寡黙だが、不安を心に抱えているからこそ、その重い口を開く。
「勝手じゃないさ。
 確か、月方面への偵察任務があっただろう。それに名乗りを挙げればいい」
 デラードは空になったジョッキを握りながら、窓から星達を見つめている。
 その心中は宇宙に浪漫を求める少年のように、期待に満ちあふれている。

 ――スカイフォックス隊の宇宙デビュー。
 それはデラードの何気ない一言から、始まった。 

●参加者一覧

秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
鳳(gb3210
19歳・♂・HD
ティームドラ(gc4522
95歳・♂・DF
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

 母なる地球を離れ、未開の地へ足を踏み入れる人類。
 その地が如何に過酷であろうと――空に燦然と輝いていた赤い星がある限り、人類は宇宙へ上がらなければならない。

 自らの命を。
 愛する者の命を。
 生まれてくる命を。
 愛する者の命を。
 バグアの魔の手から護る為に。

「‥‥以上が、今回の偵察に関する概要だ。
 何か質問は?」
 輸送艦で秋月 祐介(ga6378)による偵察依頼説明が行われていた。
 本来、UPC軍で依頼説明などを行うべきなのかもしれないが、スカイフォックス隊隊長のズウィーク・デラード(gz0011)は間もなく訪れる宇宙空間飛行に胸を躍らせていてそれどころではない。
 そこで臨時に秋月が代理で説明を行っているという状況だ。
「さすが教授だ。説明役が板に付いているな」
 秋月を『教授』と称したのは夜十字・信人(ga8235)。
 本人が気に入っているのかは謎だが、夜十字曰く悪友的呼称らしい。
「‥‥それで、『夜十字さん』。質問は?」
「特にない。
 今回は偵察依頼だ。詳細は教授に任せる」
 夜十字は、椅子の背もたれに体を預けて寄りかかった。
 秋月の偵察案は、母艦である輸送艦を中心に部隊を三班へ別ける。
 右翼、左翼、中央から月宙域を偵察。スカイフォックス隊は各班に一機ずつ随伴。残りの部隊は輸送艦を護衛する形となる。
「初めて来る宇宙だからかな。なんか嬉しくなっちゃうよ。
 でも、補給タイミングを計らないとまずいよね」
 任務を前に、依神 隼瀬(gb2747)は喜びを隠せない。
 だが、依神が懸念する通り、補給のタイミングは重要である。
 傭兵の中には地上用KVに宇宙用フレームを装備して出撃している者もいる。この場合、練力の消費は宇宙用KVと比較しても消費が激しい。練力切れて宇宙空間を彷徨いたくなければ、早めに補給艦へ戻らなければならない。
「それだけやない。上も下も無いさかい‥‥方角を見失わんようにせんとな」
 ノリ良く話すのは、鳳(gb3210)だ。
 傭兵の中には、初めての宇宙空間を体験する者もいる。バグアとの戦いが本格化する前に、宇宙空間での飛行感覚を掴んでおく必要があるだろう。
「気になるポイントでございますが‥‥やはり、あのデブリ帯でしょうか」
 宇宙であっても家令としての身嗜みを守るのは、ティームドラ(gc4522)。
 月宙域において気になるポイントは、このデブリ帯だろう。
 耐用年数が経過して機能停止した人工衛星や衛星打ち上げに利用された後に廃棄されたロケット。それらを形成していたパーツなどが宇宙空間を漂う宙域である。
「星の海‥‥ですか‥‥。
 少々‥‥ロングボウには不向きな場所ですね‥‥」
 ミサイルを偏愛するBEATRICE(gc6758)は、二度目の宇宙飛行である。
 今回も宇宙空間をロングボウで出撃する予定だ。
「不安そうですね、その顔」
 デラードが、BEATRICEに話しかけてきた。
 BEATRICEもデラードの噂は聞いている。戦闘能力やKVの操縦力はずば抜けているものの、酒と女好きで揉め事を良く起こす。
 その噂のためか、BEATRICEは一瞬眉をひそめる。
「いや‥‥不安はありませんが‥‥」
「怖がらなくても大丈夫ですよ。
 あなたと一緒に偵察できませんが、何かあれば俺がそちらへ駆けつけますから」
 軽口を叩くデラード。
 スカイフォックス隊隊員の気苦労を、BEATRICEは何となく垣間見てしまった。
「名にし負うスカイフォックス隊の皆さんと同じ戦場を飛べるとか、光栄な事やね。
 どこまで皆さんのお力になれるか、分からへんけど、精一杯努めさせていただきますわ」
 BEATRICEと共に偵察任務に就く月見里 由香里(gc6651)は、意気込んでいた。
 大きな功績を残してきたスカイフォックス隊。
 彼らと一緒に今回の依頼を遂行できるのだから、由香里の肩にも力が入る。
「俺は、君と一緒に宇宙を飛べる事の方が光栄だけどね」
 デラードは由香里にも声を掛ける。
 変わり身の早さは流石、というべきか。
(また始まったか‥‥)
 デラードの様子を見守っていたユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は、思わずため息をついた。
「まったく。スカイフォックス隊が宇宙進出したと思ったが、デラードは相変わらずだな」
 そういうユーリなのだが、デラードの行動を何処か憎めない。
 あの言葉も女性を気遣うだけのものであり、本気の恋愛感情は感じられない。
 それは、デラードなりの処世術なのかもしれない。
「‥‥はぁ。悪いが、隊長を乗機まで連れていくお手伝いをしてくれないか?」
 スカイフォックス隊の智久も、ユーリに負けない程、大きなため息を吐いた。


「去年の今頃は北京解放が終わった頃か。‥‥今や宇宙とは、随分遠くに来たもんだ」
 輸送艦左翼の偵察を行う夜十字は、Hyperionの操縦席で感慨深げだ。
 東アジアのバグア拠点である北京を奪還してから僅か一年。
 人類側の優勢はバグアに占領されていた地域を奪還。今や宇宙空間にまで人類は足を踏み入れた。
 だが、ここで終わる訳にはいかない。
 バグアという脅威を取り除いてこそ、初めて平穏な世界を手に入れたと言えるだろう。
「本格的にSFの世界だな。では、前衛として先行する。先に行くぞ、教授」
「了解。
 ‥‥Program『Gr3.0』起動、データリンク確認‥‥。さて、新しい機体でどこまで出来るか‥‥」
 秋月は電子魔術師で幻龍とリンク、情報を感覚的に把握。さらに蓮華の結果論で敵位置把握に努めていた。
 敵の遭遇に対して早期情報展開が行えるのか――それは秋月の情報解析及び情報展開に懸かっている。
「ユーリさん、そちらの機体に問題は?」
「ああ、大丈夫だ。今のところは、な」
 秋月の前を先行するユーリは、後方へ視線を送る。
 ユーリのディースは、ナイトフォーゲルR-01改。
 つまり地上用KVに宇宙用フレームを装備した機体である。ユーリにとって今回の偵察における最大の障壁は、この練力残量との戦いとなるだろう。
「バックアップは任せて貰おう。
 いざとなれば、夜十字さんと‥‥あの人に頑張ってもらおう」
 この偵察任務を誰よりも楽しみにしていた人物。
 そして――おそらく、この新しい空の旅を満喫してからビールを飲むであろう人物。
「デラード軍曹」
「はい。何かありました?」
 スカイフォックス隊隊長にして、今回の偵察で左翼班に参加したデラード。
 そんなデラードに声をかけたのは、ある事を伝えるためだった。
「この偵察が終わってから、少々お聞きしたい事があります」
 

 地球とは異なる空間。
 上も下も、すべてが星の海。
 漆黒と星の輝きだけが存在する世界。
 宇宙空間――このリヴァティーの外では、生身で存在する事も許されない過酷な場所。
 ここがデラードにとって、新たな空。
 この空を自由に舞う金色の狐は、独特の感覚を味わいながら自由気ままに飛び続ける。 この自由が時間を満喫したい。
 デラードの手に、自然と力が入る。
「‥‥これが、宇宙か」
 偵察が終わったら、この感覚を思い出しながらビールを飲もう。
 喉を潤しながらこの自由な空を再び舞える日を待ちわびるとしよう。


「当てて見せる!」
 BEATRICEは、右翼偵察で遭遇した宇宙キメラへミサイルを放つ。
 右翼班が偵察早々に遭遇した宇宙キメラは、まるでムカデのような形状を持ち、体をうねらせながら宇宙空間を移動。
 月見里が蓮華の結界輪で調べた結果、この宇宙キメラは単独行動している事が判明。おそらく、この月宙域に迷い込んだのだろう。
 放たれたミサイルのうち数発が、宇宙キメラの体に炸裂する。
 全弾が的中しない事はBEATRICEも理解している。だからこそ、続けてスナイパーライフルによる波状攻撃を加えていく。
「こっちも行くよ!」
 依神は「天鳥」高分子レーザーガンで宇宙キメラの頭部を攻撃。
 極力、この宙域で確実に宇宙キメラを仕留めなければならない。もし、逃がすような事があれば仲間を引き連れて戻ってくる可能性がある。
「偵察早々に敵と遭遇なんて、まんがわるいと思うたけど‥‥やるんやったら、とことんやりましょか」
 月見里も、可能であれば余計な戦闘は回避したいと考えていた。
 敵の殲滅を二の次にした上で、偵察を続けるのが任務として正解である。だが、輸送艦から程近い宙域で遭遇した以上、放置すれば輸送艦へ攻撃を仕掛けるかもしれない。スカイフォックス隊三機が護衛している事も理解していたが、ダメージを与えておくだけでも悪くはないはずだ。
「智久さん、敵が上へ逃げますえ」
「こっちに来るのか。本当は後衛なんだけどな、俺」
 愚痴を吐きながらも、二尾の狐のエンブレムを持つリヴァティーが宇宙キメラを上空から強襲。宇宙キメラの頭部に対してスナイパーライフルを至近距離から発射。
 頭部を貫かれた宇宙キメラは、そのまま力を失い宇宙空間を漂っている。
「‥‥倒したようだな」
 BEATRICEの声が、ミサイルキャリアの操縦席に響く。
 宇宙キメラを倒す事に成功した傭兵達。
 だが、ここで厄介な事実に気付く。
「ああ! さっきの戦闘で結構練力使っちゃってる!」
 依神が悲鳴にも似た声を上げた。
 敵自体はそれ程脅威ではなかった。だが、依神が乗機は地上KV。戦っている間に偵察で消費すべき練力が失われている事に気付いた。
「こちらはまだ‥‥大丈夫だ‥‥。だが、可能であれば‥‥補給させて欲しい」
 BEATRICEも地上KV。
 依神よりも練力に余裕はあるが、これから偵察をするとなれば、練力切れの危険も伴う。一度補給艦へ戻った方が無難だろう。
「もう、お二人とも‥‥。しゃーない、輸送艦へ戻りましょ。
 智久さん、すんませんが‥‥」
「大丈夫。これぐらい厄介事にも入らない‥‥隊長のおかげで」
 智久は、寂しそうに呟いた。


 順調に進む偵察。
 月宙域には部隊と呼べるバグアは、ほとんど存在していない。右翼班が迷い込んだ宇宙キメラを排除しているが、それ以降バグアとの交戦はない。
 だが――何事にも例外は存在する。
「データはちゃんと送信されとる?」
 中央班の鳳が、各機へ通信を入れる。
 哮天の複合ESM「ロータス・クイーン」で収集した情報を各機へ送信。敵情報を共有しているのだが、こうしている間にもデブリ帯に潜むプロトン砲が中央班の三機に標準を合わせている。
「‥‥くっ、数が多すぎるか」
 銀狐のエンブレムを持つリヴァティーに乗った、スカイフォックス隊のアーサー。
 モニターへ映し出される情報に、思わず舌打ちをした
 中央班が偵察を担ったデブリ帯には想定以上の戦力があった。正確には、バグアが放置した無人攻撃砲台が、接近したKVをプロトン砲で狙撃しているだけに過ぎない。それでも中央班の戦力に対して無人攻撃砲台の数が多い。少なくとも三機だけでここに存在する無人攻撃砲台を始末するためには時間がかかる。
「何時ものようにとはいけませんな、早々に切り上げませんと」
 輝3号の照準最適化機能を使用してミサイルポッドで弾幕を張るティームドラ。
 今回の偵察で月宙域にデブリ帯に無人攻撃砲台が相当数設置されている事が分かっただけでも収穫だ。周囲にバグア部隊が存在しない以上、無人攻撃砲台の排除は今行う必要はない。帰還して情報を持ち帰る事が今回の任務である。
「せやけど‥‥帰還するのも、ちょいときついで‥‥」
 今も哮天の「ロータス・クイーン」が無人攻撃砲台の設置場所をモニターへ示し続けている。十字砲火を食らえば、KVも無傷では済まない。
「ここで宇宙の塵となる訳には参りません。脱出路を形成致しましょう」
「ちょい待ち! 10時方向から接近する飛行物体ありや!」
 哮天のレーダーに表示された4つの飛行物体。
 10時方向、つまり中央班から見て左方向から飛来する物体。
 鳳は、その物体の正体を直感的に気付いていた。
「待たせたな。
 各機へ敵位置情報を展開。中央班の脱出路を形成して撤退する」
 左翼班の秋月がデブリ帯に滑り込んできた。
 左翼で敵を確認する事はできなかったが、帰還途中にデブリ帯でバグアらしき反応をキャッチ。中央班の危機を察して駆けつけてくれたのだ。
「練力は厳しく、敵掃討は難しい。だが、脱出支援なら可能だ。
 機体ダメージが激しい者は先に撤退しろ」
「迎撃兵器か。‥‥攻め込む側には嫌な相手だ。
 だが、借りは返させて貰う」
 ユーリと夜十字の機体に送られた敵位置情報。無人攻撃砲台、それも設置数が想像以上に多い。
 それでも、必ず脱出路を形成、維持しなければならない。
 必ず――全員無事に帰還するためにも。
「さぁて、軽く一暴れと行きましょうか」
 金色の狐は、デブリ帯の中を自由に舞い始めた。


「え? 何の為に戦っているのかって?」
 偵察任務終了後、秋月はデラードにそう問いかけていた。
「‥‥ビールの為、じゃダメだよね?」
 屈託のない笑顔を浮かべるデラードは、手にしていたジョッキに口を付ける。
「ええ。自分は真面目な質問をさせていただいております」
「うーん、そういう事を考える機会は少なかったからなぁ」
 頭を悩ますデラード。
 考えてみれば、突如現れた人類の敵――バグアと戦う日々が延々と繰り返されている。軍人の中にはその日々を生きる事に必死であった者も居るだろう。
 英雄と呼ばれるようになってはいるが、当人からすれば必死に生きた結果という事も考えられる。
「うーん、何かなぁ‥‥」
 ――暫しの沈黙。
 そして、デラードはゆっくりと口を開く。
「でも、やっぱりビール‥‥かなぁ」
「ビールですか」
「そう。
 全部終わったら、戦いを忘れて楽しくビールが飲めるといいね。
 それも、桜の下で大事な人と花見をしながら、膝枕をしてもらいたい‥‥なんてね」
 デラードは『ビール』の為だと言った。
 だが、秋月には何となく、それが照れ隠しである事が分かった。
 酒というのは、酒の種類や肴だけではなく、飲む環境が重要である。
 一人で孤独に飲む者や、大勢の人間と飲む者。
 いずれにしても酒や肴以外の雰囲気が、酒の味を左右する。今のデラードの話を聞く限り、デラードにとってその雰囲気とは――。
「ありがとうございます」
 秋月は、踵を返した。
 デラードもまた、誰かを守る為に戦う英雄。それが分かっただけでも十分な収穫だろう。