タイトル:死神の玩具マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/23 19:15

●オープニング本文


 蒸し暑い空気が肌に纏わり付き、不快感を倍増させる。
 カンボジアの密林地帯を抜けて少しでも空気が軽くなるかと期待したものの、その期待はあっさり裏切られた。枯れ木に囲まれたこの付近でも、水気を思い切り吸い込んだ空気が頭からどっしりとのし掛かった。
「・・・・やだねぇ。ツキが落ちれば人生も落ち目だ」
 傭兵のラリー・デントンは、細い枯れ木に体を預けながら呟いた。
 タイでの依頼を完遂するためにラリーはセスナ機に搭乗した。そのままカンボジアからタイへ抜けるはずが、マシントラブルで不時着。唯一生き残ったラリーは、壊れたセスナの機体を離れて人間の居住区を目指す事となった。
「どれだけ歩いても車一台通りゃしねぇ。教会へミサにでも行っているのかねぇ」
 ラリーは懐から取り出したタバコにそっと灯を点す。
 飛行機の不時着も今回が初めてじゃない。簡単だと思って受けた依頼は、必ずと言っていいほど何らかのトラブルに見舞われる。傭兵仲間からは「死神に玩具扱いされている」と揶揄されている。
「ついてないねぇ」
 ラリーは立ち上る煙を追いかけるように空を見上げた。
 
 ついてない。

 これがラリーの口癖だった。
 すべてを自身のツキの無さが招いた事である。そう自分に言い聞かせる事で様々なものを諦めさせる。それがラリーなりの世渡りなのだ。
「ん?」
 何かの気配を察して視線を地上へ引き戻すラリー。
 もしかすると付近の住民がここを通りかかるのかもしれない。そうであれば何とか近くの街まで行って車両を手に入れる事ができる。この不快な空気と疲労感が襲う地獄から逃れられるならば、どんなに足蹴にされたって見逃す気はない。
 しかし、死神は――ラリーをもう少し弄ぶつもりのようだ。
「ギィィーー!」
 ラリーの視界に飛び込んできたのは、2匹の巨大な芋虫。
 太めの丸太程ある体を引き摺りながら、ラリーに向かってゆっくり歩み寄ってくる。表皮は通常の芋虫と異なり、金属のような鈍い輝きを放っている。芋虫の大きさから考えればラリーを頭から囓る事も可能だろう。
「ほらな、やっぱりこういう展開か。だが、この程度なら余裕だな」
 幸いにも芋虫の移動速度は遅い。巨体を引き摺るだけあって、人間の徒歩程度のスピードで移動するのが限界のようだ。これなら走って逃げる事もできる。
 死神の嫌がらせもこの程度か。どうやら死神のネタ切れようだ。是非そのまま長考へ突入してこの状況から脱出させて欲しい。
「悪いが、俺はここで失礼・・・・」
 ラリーは言いかけた言葉を飲み込んだ。
 ラリーの視界に入ったのは一枚の赤い看板。ドクロが描かれており、その下には「危険! 地雷あり!」と書き込まれていた。
 つまり、ラリーの周囲には地雷が埋められているのだ。誤って地雷を踏んだ瞬間、ラリーの足はダメージを負う。殺傷能力自体は低いかもしれないが、目前に巨大な芋虫が迫っているのだ。逃げ損ねて芋虫に食われる確立は格段に跳ね上がるだろう。
 ラリーは持ち上げた右足を元々あった場所へ戻し、再び枯れ木へ寄りかかった。
「本当・・・・ついてねぇ・・・・」

●参加者一覧

夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
エティシャ・ズィーゲン(gc3727
15歳・♀・ER
不破 炬烏介(gc4206
18歳・♂・AA
ツバサ・ハフリベ(gc4461
14歳・♂・FC
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
安原 小鳥(gc4826
21歳・♀・ER

●リプレイ本文

●救援
「うーん、どうしたものかねぇ」
 困った表情のラリー・デントンは頭を掻きながら、一人呟く。
 墜落したセスナから逃げ出して街へ向かって彷徨い歩く事、数時間。
 その結果――迷い込んだ地雷原。
 そして、ラリーをゆっくりとしたスピードで追いかける芋虫型キメラ「ナックルヘッド」。
 何故、このような事になってしまったのだろうか。
 それは偏にラリーが「死神の玩具」と呼ばれる程、不運だからという理由に尽きる。
「やれやれ、地雷原を強行突破するしかないか」
「俺にはこの世の中で、どうしても許せんものが三つある」
 ラリーの言葉を遮りながら現れたのは、夜十字・信人(ga8235)。
「一つ目は鍵のかかっていない小型トランク。二つ目は‥‥」
 大口径ガトリング砲を肩に担いで現れた夜十字は、ラリーの足下付近の地面に視線を落とす。
「地面に埋まった地雷、だっ」
 大口径ガトリング砲を構え、地面に向かって斉射する。
 撃ち出された弾丸は、地面を抉りながら隠された地雷を探し当てる。
 ――ドンッ!
 砂煙と共に小規模の爆発が起こる。
 どうやら、弾丸は地雷に命中。夜十字地雷を爆発させて安全なルートを確保するつもりのようだ。
「‥‥で。三つ目は何でしょうか?」
 夜十字に鋭いツッコミを入れる緋本 かざね(gc4670)。
 夜十字自身が世の中で許せないものが三つあると称していたのだから、当然三つ目は存在するはずだ。
「‥‥」
 沈黙を護る夜十字。
「もしかして、考えてなかったという事でしょうか?」
 かざねは思わず鼻で笑った。
 夜十字は一見クールな人物だが、口を開けば迷言が飛び出すタイプのようだ。
「あれ‥‥ガ‥‥『死神ノ玩具』‥‥運命、の‥‥澱み。に‥‥沈む、者、か‥‥」
 不破 炬烏介(gc4206)はラリーをじっと見据える。
 『ソラノコエ』という予言が聞こえると称してそれに従って行動をしている不破だが、同じように運命に翻弄される者としてラリーに親近感を持ち始めているようだ。
「救援か。良いタイミングで現れる辺り、ヒーローの皆さんってところかい?」
 危機的状況から光明を感じ取ったラリー。
 同じ傭兵たちが助けてくれるとあれば、この場を脱す事ができるかもしれない。 
「キメラの居る地雷原に遭難か。噂に違わぬトラブルっぷりだ」
「いやはや‥‥ラリーさん、災難ですねぇ」
 気怠そうな瞳のエティシャ・ズィーゲン(gc3727)とエクリプス・アルフ(gc2636)。
 実際、このような不運に見舞われる者は少ないだろう。
 『死神の玩具』と揶揄される事も十分頷ける。おそらく、今回の話もラリーの残してきた伝説に笑い話として新たなる1ページを加わる事になる。アルフはラリーに対して哀愁の念を抱いてはいるが、地雷原とキメラの組み合わせは苦笑いを禁じ得ない。
「救出‥‥ですが‥‥地雷原は‥‥厄介です。ケイさん‥‥無理は‥‥禁物です」
 おっとりした口調で話すのは安原 小鳥(gc4826)。
 どうやら別任務で負傷している那月 ケイ(gc4469)を気遣っているようだ。
 事実、那月は負傷中のためいつも通りの力を発揮する事は難しいだろう。
「やれるだけやるさ。無理はしないよ」
 小鳥に微笑み返す那月。
 正直、キメラとの直接戦闘は厳しいだろうが、遠距離から仲間を支援する事は可能なはずだ。
「さて‥‥始めようか。救出作戦を」
 ツバサ・ハフリベ(gc4461)の言葉に、各々が武器を握りしめる。
 救出すべき目標を見据えながら。


●救出
 今回の任務はあくまでもラリーの救出である。
 芋虫型キメラ「ナックルヘッド」を倒す必要はない。だが、地雷原という場所から考えてもナックルヘッドは邪魔者以外何者でもない。
 そこで傭兵達は部隊を二つに分ける事とした。
「来い。さっくり揚げてフィッシュ&チップスの材料にしてくれる」
 独特な言い回しで夜十字はナックルヘッドを仁王咆哮で挑発する。
 鋭い眼光と威圧感を感じ取ったナックルヘッドは2体とも夜十字の方へと歩み寄る。
「そうだ。そっちに行け、芋虫。お前達が動き回れば‥‥」
 アンチシペイターライフルのスコープからナックルヘッドの動きを見つめる那月。
 大木のような巨体で地雷原を動き回れば、期待通りの未来が訪れるはずだ。
「ギュっ!!」
 ナックルヘッド近くで体を小規模な爆発。瞬間、ナックルヘッドは痛みを感じて蛇が鎌首を持ち上げるかのように体を引き起こす。外皮は固い殻に覆われているようだが、顔や腹は覆われていない。ナックルヘッドでも地雷を踏めばダメージを受ける事になる。
「ありがとうよ!」
 那月はナックルヘッドが通り過ぎた後にペイント弾を撃ち込んでいく。
 ナックルヘッドが通過できたという事は、地雷は存在していなかったという事だ。この位置ならばラリーも地雷を踏む事なく脱出する事が可能だ。
「ラリー様‥‥」
 迅雷と使って小鳥はラリーの元へ移動する。
 那月のペイント弾が目印となり、安心して迅雷を使う事ができる。
「すまねぇな」
「いえ‥‥それより‥‥お怪我は?」
「ああ、こっちはジャングルを歩き通しで疲労困憊だ。すぐに柔らかいベットを用意してくれ」
 軽口を叩くラリー。
 多少怪我を負っているものの、余裕があるところを見れば致命傷はなさそうだ。
「やぁ、なかなか悪運も強いじゃないか」
 エティシャはラリーに対して練成治療を使った。
 超機械によって活性化された細胞はラリーの怪我を修復していく。
「ツキはないが悪運は強い、か。確かにな。
 それより、煙草を一本くれないか? さっきからヤニを我慢してたんだ」
 ラリーの願いを受け、エティシャは懐から高級煙草を取り出した。
「あいにく禁煙中でね。煙草は減らないんだ」
 差し出された煙草を手にしたラリーはそっと口に咥える。
 エティシャはジッポライターを取り出し、煙草の先に火をつける。
 立ち上る煙。
 ラリーは生み出された煙草の煙を肺一杯に吸い込んだ。
「悪いな、禁煙中なのに目の前で吸っちまって」
「いや、構わないよ」
 そう言いながらもエティシャの目は恨めしそうに煙草を見つめている。
 ふっ、と鼻で笑ったラリーは吸っていた煙草をエティシャに向かって差し出した。
「ほら、無理は良くないぜ?」
 ラリーは顎をしゃくって受け取るように促す。
 禁煙中のエティシャにとって、悪魔の囁きにも感じられる誘惑。
 思わず生唾を飲み込んでしまう。
「い、いえ。結構です。私にはこれがあるので」
 そう言ってエティシャは取り出した野菜スティックに齧り付く。
 口が寂しい時はこれを嗜むのが一番だ。
 エティシャは自分に必死でそう言い聞かせる。
「そうか。そりゃ、残念だ」
 再び煙草を咥えたラリーは、すっと立ち上がる。
「それじゃあ、お勤めと行きますか」
「え? ‥‥お勤めって‥‥何ですの?」
 疑問符を浮かべる小鳥。
「ここまで死神にバカにされたんだ。一発ぐらいキメラに八つ当たりしても罰は当らないだろう?」

●殲滅
「させません、よっ!」
 ナックルヘッドの噛みつき攻撃をエンジェルシールドで防ぐエクリプス。
 盾に衝撃が伝わり、後方へと体を飛ばされそうになる。しかし、盾の効果でダメージは一切受けていない。攻撃力もそれ程大きくはない相手だけに安心して盾を構える事ができる。
「安らかに眠れ‥‥ってね!」
 エクリプスが持つ盾の背後から、ツバサが顔面に向かってシュバルツクローを叩き込む。胴体を貫く事は難しかったが、盾に向かって噛みつき攻撃を繰り返すナックルヘッドの顔面にストレートを打ち込む事はあまりにも簡単な作業だった。
 おまけにシュバルツクローは非物理攻撃を与える武器。
 固い殻に覆われていても、知覚ダメージには関係がない。
「ギュッ!!」
 突然のダメージに驚くナックルヘッド。
 長い胴体を引き起こし、腹をこちらに向けて悶えている。
 ツバサもこれでナックルヘッドが倒せるとは思っていない。抜刀・瞬で素早く小銃「フォーリングスター」へ持ち替えたツバサは、ナックルヘッドへ向かって引き金を引く。
 
 ――ドンドンッ!
 乾いた音が周囲に響き渡り、ナックルヘッドの体に数カ所の風穴を開ける。あまり経験した事のない痛みがナックルヘッドの体を貫き、苦痛に悶えさせる。
「痛いかい? そういう時は横になるといいよ」
 ツバサは持ち上がっていた胴体に向かって蹴りを放つ。
 蹴りは見事に命中、ナックルヘッドの体を後方へと投げ出す事に成功する。
 蹴り自体のダメージを期待したものではない。むしろ、重要なのはナックルヘッドが背中から地面に倒れ込んだという事が重要なのだ。
「ギュ、ギュギュギュー!」
 背中から倒れ込んだナックルヘッド。
 芋虫であるため短い手足を持っているが、同時に固い外皮をも持っているために自分で体を回転させる事ができない。このため、一度引っ繰り返ると自分で起き上がる事は困難を極めるようだ。
「虫なんか‥‥虫なんか‥‥絶滅すればいいんです!」
 疾風を使った上で機械剣「フェアリーテール」をナックルヘッドに突き立てるかざね。 力強く突き立てられた薄桃色のレーザーは容赦無くナックルヘッドを貫く。必死で抵抗を試みるも、立ち上がる事すらできないナックルヘッドにその術はなかった。徐々に体の自由が効かなくなり、気付けばその手足もまったく動かなくなった。
「一匹仕留めましたわね。あとは‥‥」
 かざねは周囲を見回した。
 残るナックルヘッドは1体。
 あの遅いスピードならば、そう遠くへ逃げる事はできないはずだ。
「くそっ!」
 那月の怒声が木霊する。
 負傷中の那月に目を付けたナックルヘッドは、ゆっくりと那月へ近づいていく。
 逃げる事も可能だが、敵を目の前にしてノコノコ退散なんて冗談じゃない。
 弾を込め直してアンチシペイターライフルをナックルヘッドへ差し向けようとする。
 だが、遅いスピードでの移動にも関わらず、弾込めよりも早くナックルヘッドはすぐ側までやってきていた。
「ギューー!」
 ナックルヘッドは長い体を持ち上げて、那月の頭に向かって噛みつこうとする。
 ――しかし。
「あらよっと!」
 鈍い金属音が周囲へと響き渡り、ナックルヘッドの攻撃は那月へ振り降ろされる前に阻まれた。見れば、ラリーがエルガードを手にナックルヘッドの前へ立ちはだかっている。「さっさと起きな、兄ちゃん。込め直した弾に自信があるんだろう?」
「分かってる。そっちこそ、壁役をちゃんとやってくれよ!」
 那月はナックルヘッドの顔面向かって貫通弾を撃ち込んだ
 柔らかい顔面から固い外皮に向かって放たれた弾丸は、ナックルヘッドの体を削り取りながら直進。ナックルヘッドに激しい痛みを与えていく。
 苦痛に身を震わせるナックルヘッド。
 だが、ナックルヘッドの悲劇はこれに留まらない。
「‥‥ソラが言う‥‥『魔神ノ一撃‥‥最後ニ放テ。穢レヲ‥‥破砕セヨ』‥‥殺す‥‥殺してやる‥‥」
 指を鳴らしながら近づく不破。
 ソラからの予言で眼前にいるナックルヘッドの殲滅を決意したようだ。
 既に豪破斬撃を使用しており、攻撃力は上昇されている。
「ふんっ!」
 ツバサ同様、不破はナックルヘッドへ蹴りを加える。
 唯一違う事は、ツバサとは攻撃力が圧倒的に違う事だ。派手に地面へと頭を打ち付けたナックルヘッドはもう一匹と同じように起き上がる事ができなくなった。
 不破はナックルヘッドの側まで近づくと、那月の放った貫通弾が抉った場所にサブノックを振り降ろす。
「オラッ、痛がれよ、オラッ‥‥っ。みっともなく‥‥死ねヨ‥‥」
 何発も打ち下ろす度、ナックルヘッドは悲鳴を上げる。だが、留まる所を知らない連打に反抗する術を持っていない。
「虐鬼王拳‥‥」
 不破はそっと呟く。
 今までで一番強烈な一撃がナックルヘッドの顔面に向かって振り降ろされる。
 まさに巨大な貫通弾と化したかのような一撃は、ナックルヘッドの致命傷となったようだ。微動だにしなくなったナックルヘッドの前で、不破は肩で息を切らせながら黙って見つめ続けていた。

●爆発
 危機を回避したラリーは、胡座をかいて空を見上げる不破を見つけた。
「なんだ? 何か面白いものでもあったか?」
「‥‥運命、の‥‥光河」
「あん?」
 ラリーは思わず聞き返した。
「澱み、ニ‥‥沈ム‥‥者。『ウンメイ』‥‥とは、何‥‥だ?」
「は?」
 唐突な質問に声が上擦るラリー。
 普段、このような質問を受ける事はない。助けてくれた不破の質問を無碍に断る事もできず、ラリーは必死で頭を捻る。
「運命ってぇのは‥‥神様がくれた機会だな」
「機会‥‥か?」
「ああ。お前と俺がこうして出会ったのも神様の巡り合わせって奴だ。お前と俺が出会えば、面白くなるんじゃないかって神様が思いつきで出会わせたんだ。これも運命の出会いって奴かもしれねぇぞ?」
 運命が時に残酷である事もラリーは知っていた。
 それを面白いと思って神様が仕組んだのであれば、きっとその神様は死神に違いない。
「‥‥そ、ウカ‥‥」
 そっと呟く不破。
「という事は、ラリーと俺も運命の出会いという訳か?」
 話を聞いていた夜十字はラリーの側まで近寄って肩を叩いた。
「まあ、そうなるな。もっとも、これが今生の別れになるかもしれん」
 意地悪するように笑顔を浮かべるラリー。
 この後、近くの街まで行って分かれる予定なのだが、ラリーは再び出会える気がすると感じていた。
 その笑顔の意味を察した夜十字は、敢えてラリーの話に合わせてみる事にした。
「そうだな。二度と会う事はないだろうな」
「ちっ」
 そう言いながら、夜十字の体を肩で付き押すラリー。
 夜十字はその力に流されるかの如く一歩下がった。
「ん?」
 夜十字の足の裏に違和感を感じる。
 岩とは違う固い何か。
 先程まで地雷原で戦ってきた事を考えれば、その正体は察しがつく。
「夜十字様、ここはまだ地雷が‥‥」
 地雷の存在を付近の住民から聞いたかざねは、夜十字へ知らせに走り寄ってきた。
 だが、そのタイミングはあまりにも遅すぎた。
 
 ――どんっ!

 花火よりも低い爆発音が響き、地面は大きく抉れる。
 巻き上がる砂煙の向こうから現れたのは、赤いアフロとなった夜十字と金髪のアフロとなったラリーの姿があった。口からはうっすらと黒い煙を吐き出している。
「おい、大丈夫か?」
 ラリーは自分の死神が夜十字を巻き込んだと思ったのだろう。
 悪いと感じてそっと話しかける。
「‥‥平気だ。それにラリーの運命には間違いなく死神がいる事はよく分かった。それも悪趣味な死神が、な」
 やせ我慢で痛みに耐える夜十字は、ラリーの心配を吹き飛ばすかのように言い放った。