タイトル:【WF】旋律に乗ってマスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/26 21:13

●オープニング本文


 一年に一度。
 恋人達の関係はより深く、美しく、神秘的なものへと変わる。
 『恋』という魔法が彩る、素敵な時間。
 その時間を大切な人と過ごす事が、恋人達にとって何もより得難い時間でもある。

「班長、せっかくの晴れ舞台。みんなに思い切り演奏させてやりてぇんです」
 鳴島成一は、いつも以上に気合いが入っていた。
 UK3整備の合間に練習するトランペット。このトランペットを大勢の観客に披露出来る日が近いのだから、無理もないだろう。
「そうだね。僕も自然と気合いが入ってしまうよ」
 UK3整備班長の広瀬健太郎は、爽やかな笑顔を見せる。
 鳴島も広瀬も、UK3内のオーケストラに所属していた。
 元々は演奏好きの整備員だけが所属する小さなサークルだったのだが、戦闘続きのUK3で戦闘を忘れる時間を欲した者達が参加。
 最初は下手であったかもしれないが、徐々に練習を重ね、気付けばサークルは『UK3ソルティウインドオーケストラ』と名乗るまでに至ったのだ。 
「しかし‥‥時期も良かった。クリスマスでコンサートを開くというアイディア――全員で演奏する機会も与えていただけて一石二鳥。さすが、班長です」
「そんな事で頭を下げなくてもいいよ、鳴島。
 僕達の演奏で、観客の皆さんが楽しい一時を過ごす事の方が大事だからね」
 謙遜する広瀬。
 二人が所属するオーケストラ主催クリスマスコンサート。
 クリスマスを愛する人と過ごしたいというカップル向けに開催するという広瀬のアイディアに、鳴島は改めて広瀬の心意気に感動していた。
「なかなか出来る事じゃありません。
 ‥‥それより、誰かを待っているんですか?」
「ああ。
 前に話した知り合いのピアニストにコンサートの話をしたんだ。そうしたら、是非参加させて欲しいと言って来たんだ」
 オーケストラにもピアニストは数名在籍している。
 しかし、広瀬の知り合いはピアニストとしてもかなりの腕前であるらしい。鳴島も実際に会った訳ではないが、広瀬がピアニストに対する熱い語りを聞いた時点でゲスト参加の反対をする気も失せていた。
「もうすぐ到着するはずなんだが‥‥」
「僕をお探しかい、広瀬」
 潮風にブロンドの髪を揺らしながらジョシュ・オーガスタス(gz0427)が現れた。
 その姿を見かけた広瀬は、思わず顔を綻ばせる。
「ジョシュ。よく来てくれたね」
「今のご時世、こんな機会は滅多にないからね。何処だろうと駆けつけさせてもらうよ」
 再会を喜ぶ二人。
 その間を申し訳なさそうに鳴島が口を挟む
「班長、すいません。この男が‥‥」
「そう。ULTオペレーターのジョシュ・オーガスタスだ。彼のピアノは最高だよ」
「広瀬が僕を褒めるとは、少々むず痒いよ。
 それより、練習時間が惜しいんだ。アンサンブルを中心に練習させて欲しい」
 ジョシュという来訪者がオーケストラの中に新しい風を吹き込んでくれる。
 そう感じた鳴島は、コンサート成功の予感を抱き始めていた。

●参加者一覧

メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
夏 炎西(ga4178
30歳・♂・EL
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER

●リプレイ本文

 私――メアリー・エッセンバル(ga0194)は、危機的状況だった。

 改めて二人でこのような機会を得てしまうと、どうすれば良いのか分からない。
(失敗しないかな‥‥もしかして、それで嫌われたりなんかしたら‥‥)
 自問自答が自分を更なる深みに追いやっていく。
 でも、このままではダメ。
 私は、頭を振ってネガティブな意識を吹き飛ばす。
(やっぱり相談してみようかな‥‥)
 自分一人で悩み続ける事を止め、相談相手が居るであろう場所へ向かおう。
 あの人ならきっと良いアドヴァイスをしてくれるはずだから。


「‥‥以上が、コンサートの進行スケジュールだ」
 UK3整備兵にして『UK3ソルティウインドオーケストラ』の鳴島成一が発した低音ボイスが室内へ響き渡る。
 クリスマスのカップルに向けたコンサートを開催する事で、多くの人々に有意義な時間を過ごして欲しい。
 その想いから生まれた今回の企画を鳴島は、是が非でも成功させたい、と考えていた。
 今回の成功が、今後のオーケストラ活動に大きな影響を与えるという予感があるのだろう。
「質問、よろしいでしょうか?」
「ああ」
 鳴島に問いかけるのは、終夜・無月(ga3084)。
 手にした進行スケジュールについて確認したい事項があるようだ。
「スケジュール上では、『弦楽四重奏』や『ジャズ演奏』が記載されています。これはどういう事でしょうか?」
「多くの人達に楽しんで貰うための配慮‥‥そう考えていただければ結構ですよ」
 UK3整備班班長の広瀬健太郎は、常に変わらぬ微笑みを讃えている。
 広瀬の話によれば、最初にクリスマスらしいジャズ演奏を行って観客の意識を引いた上で弦楽四重奏、そしてオーケストラの演奏へ繋げたいようだ。
「欲張り、と言われては仕方ないかもしれません。
 ですが、大切なのは観客の皆さんに我々の想いを如何に伝えるのか、という事ではないでしょうか」
 広瀬が口にした想い。
 それは、演奏に参加するすべての奏者が持っている。
 それを観客へ伝え、恋人達の時間を最良の物へ昇華させる。
 クリスマスが恋人達にとって良い時間になるのかは、奏者に次第と言っても過言ではないだろう。
「承知しました。
 弦楽四重奏の方は我々傭兵メインでやってみます」
「それであれば、私も参加という事ですね」
 演奏に愛器のヴァイオリンを持参した智久 百合歌(ga4980)は、オーケストラの一人一人に挨拶を終えて戻ってきたところだ。
「そう。あと、ビオラの彼女も」
「うちですか?
 ええですよ。せっかくやから、今のうちのすべてを出させて貰います」
 終夜の言葉に、満面の笑みで月見里 由香里(gc6651)が答える。
 かつて大怪我のせいで一度は諦めた演奏者としての道。
 それが時間を経てこのような形で舞台に立てる等、予想していただろうか。
 傭兵家業の宛ら自己研鑽は怠っていない。
 その努力を、クリスマス当日に実証する機会を得たのだ。
「でも、弦楽四重奏ならばもう一人必要じゃありません?」
 百合歌は広瀬の方に視線を送る。
 弦楽四重奏であれば、四人必要だ。
 ヴァイオリン二人にビオラが一人。
 もう一人、チェロ奏者が必要なのだが‥‥。
「うちのオーケストラからチェロ奏者を一人付けさせてもらいます。
 ジャズの方は、僕と鳴島。それとジョシュが演奏させていただきます」
 広瀬は改めてジョシュ・オーガスタス(gz0427)を紹介する。
 本業はULTオペレーターだが、ピアノの腕前を以前から知っていた広瀬がクリスマスコンサートの為に呼びかけたらしい。
「皆さん、よろしく。
 ‥‥ところで、智久さん」
「菊地です。菊地百合歌」
 百合歌の本名は再婚して菊地百合歌となっていた。
 普段は傭兵として智久百合歌と名乗っているが、今日ぐらいは本名で演奏したいという事なのだろう。
「ああ、失礼。菊地さん。
 表にお客さんがいらしてますよ」
「お客さん?」
 百合歌には身に覚えがない。
 UK3に自分を訪ねてくる人物に心当たりがないのだ。
「早く行ってあげてください。
 彼女、かなり思い詰めているようでしたから‥‥」


「ねぇ、もうどーしたらいいのぉぉ!」
 私は、百合歌さんの手を握り締めた。
 パニックになっている自分を必死で落ち着かせようとするのだが、百合歌さんの前で自分の中にあった不安が表に出てきたみたいだ。
「ちょ、ちょっと待って。一体、何があったの?」
 困惑気味の百合歌さん。
 唐突に現れて泣き付かれているのだから無理もない。
「じ、実は炎西さんと百合歌さんのコンサートを聴く事になったんだけど‥‥」
 段々と声のトーンが落ちていく。
 クリスマスに炎西さんとコンサート、つまり初デートを迎える。
 当日の事を思うだけで鼓動は高鳴り、不安でいっぱいになる。
「そうなの? それはまた‥‥」
「だから、百合歌さんから人生の先ぱ‥‥じゃなかった、恋愛大先生の百合歌さんに‥‥初デートの服装についてレクチャーしてもらいたい、の」
 初デート、という単語に恥ずかしさを感じてしまう。
 自然と顔が赤くなっていくのが分かる。
 きっと、百合歌さんも気付いているはずだ。恥ずかしい‥‥。
「もう、仕方ないわね。
 服装は、シンプルにワンピースなんかどうかしら?」
「え? それって二の腕とか出ちゃうんじゃ‥‥」
 庭師として働く私の二の腕は他の女性よりも筋肉が付いている。
 普段は作業着を着ているために分かり難いが、ワンピースなどを着て二の腕を出せば太い事がはっきり分かってしまう。
「それはケープを羽織って隠せば問題ないわ。
 それから、私が当日用にパンプスを買ってあげるわ」
「パンプス? 
 そんなの履いて転んだりしないかな?」
「それは‥‥我慢するしかないわね。
 ところで、何故私に相談をしたの? 私は恋愛大先生と呼ばれる程、経験豊かではないのだけれど‥‥」
「ああ、それは結婚を二回‥‥」
 そこまで言い掛けた段階で、百合歌さんの表情が曇った事に気付いた。


 コンサート開始一時間前。
 彼――夏 炎西(ga4178)は、待ち合わせ場所で待っていてくれた。
「ご、ごめんね。待った?」
 私は軽く息を切らせている。
 遅刻しそうになって急いだのだから仕方ない。
 原因は百合歌さんからもらったパンプスだ。
 履き慣れないパンプスで何度か転びそうになりながら、必死で待ち合わせ場所へ向かったのだ。
 それでも、炎西さんは私を咎める事無く、いつもの笑顔で迎えてくれた。
 それも滅多に見られないスーツ姿。眼鏡も外して、まるで別人みたい‥‥。
「綺麗ですね‥‥植物を愛するメアリーさんらしい。
 とても良くお似合いですよ」
 今日は百合歌さんのアドヴァイス通りワンピース。
 それも、普段炎西さんが着ている服と同じ色にしてみた。
 きっと、炎西さんなら気付いてくれるはず‥‥。
 ――でも。
 炎西さんは、ただ優しい微笑みを浮かべているだけ。
 せっかく、色を合わせてきたのに。
 ワンピースの色、気付いてくれないのかなぁ。
「あっ!」
 ぼーっとしていたら、慣れないパンプスでバランスを崩した。
 地面へ倒れそうになり、無意識に顔を防ぐ私。
「‥‥あれ?」
 私は地面と衝突しておらず、体に痛みもない。
「大丈夫ですか?」
 気付けば、私は炎西さんに腕を掴まれて支えられていた。
 転びそうな私を助けてくれたみたい。
「あの、よろしければお掴まり下さい」
 炎西さんは気恥ずかしそうに腕を出してくれた。
 そんな炎西さんを可愛らしく思えた私は、自然と腕を組むことができた。


「それではコンサートをお楽しみ下さい。
 まず最初の楽曲は‥‥」
 広瀬の挨拶でコンサートは開始する。
 既にコンサートホールは満員御礼。
 多くの人がクリスマスという特別な日を送るために、訪れたのだろう。
 そんな観客を迎えるべく、『UK3ソルティウインドオーケストラ』はジャズで有名なクリスマスソングを演奏する。
(‥‥いきますよ)
 広瀬がジョシュと鳴島に目配せを送る。
 それに合わせて演奏が開始される。
「あ、この曲‥‥」
 観客も聞いた事のある楽曲である事に安心感を覚えたようだ。
 通常、コンサートと聞いた段階でクラシックと聞いて堅苦しく考えてしまう。
 しかし、コンサートは音楽を楽しむ会。気楽に考えて欲しいという広瀬の配慮として一曲目にジャズを持ってきたのだ。
 ホールに響き渡るトランペット、ピアノ、ベース、ドラム、サックスの音色。
 聞く人達は知っている楽曲である事もあり、自然と肩を揺らしてリズムを取っている。 まるで鈴を鳴らしながら、サンタクロースがUK3に現れるのを待っているかのように。
(観客の反応も上々。
 傭兵の皆さんへ舞台を繋ぐことができそうですね)
 広瀬は演奏の確かな感触を感じ取っていた。


「あ、次は百合歌さんの出番みたいだよ」
 一曲目と二曲目の合間、私はパンフレットにあった百合歌さんの名前を発見した。
 思わず炎西さんへパンフレットを差し出して見せる。
「はい。‥‥あ、えーと‥‥」
 炎西さんはパンフレットの文字を睨み付けるように一生懸命目を細めている。
「どうしたの?」
「すいません。眼鏡を外しているので小さな文字が見えないのです」
 炎西さん、眼鏡外して文字が見えないのに、私をコンサートの座席まで案内してくれたんだ。
 また一つ、炎西さんの優しさに触れる事ができた。
 その事が何よりも嬉しかった。


「では、愛の調べを‥‥」
 終夜の挨拶から始まる二曲目。
 百合歌、由香里と呼吸を合わせ、ヴァイオリンの弦をゆっくりと動かし始める。
(‥‥みんな、聞いて。うちの演奏を)
 久しぶりの晴れ舞台。
 由香里は興奮を抑えられない。
 黒を基調としたシックなドレスに身を包み、シルバーアクセサリをワンポイント。
 そして、手には愛用のビオラ。
 傭兵になってからこのようなシチュエーションを迎えられるとは思ってもいなかった。(月見里さん‥‥思った以上の腕前ですね)
 ファーストヴァイオリンを勤める百合歌は、軽く結わいた髪を揺らしながら四人の演奏をまとめ上げる。
 水色のシンプルなドレスにハイヒール姿の百合歌。
 体全体を使っての演奏は、観客にダイナミックな演奏を印象づける。
 今回の楽曲をワルツにした理由も、舞踏会をイメージしたかったからだ。
 ホールに響き渡る音色が観客達を引き込み、舞踏会場へ足を踏み入れたかのような錯覚を見せる。
(なるほど。心配は不要だったという訳か)
 セカンドヴァイオリンの終夜は、二人の演奏を耳にして安堵を覚えていた。
 何よりも不安だったのはアンサンブル。
 このメンバーに決定してから本番まであまりにも時間が少なかった。個人練習は合間を見つけてできるものの、アンサンブル練習は全員が集まらなければできない。今、チェロを弾いている演奏者もUK3では別の仕事を受け持っている。全員が集まり、集中した練習をしなければ観客を感動させる事はできない。
 だが、終夜の心配は無用だった。
 それは楽器演奏の腕前ではなく、このコンサートの成功させたいという想いが導いてくれたのかもしれない。
(‥‥やっぱうちはビオラ弾くんが、心底好きなんやな)
 由香里は、歓喜した。
 今更傭兵家業を辞めてプロになれるとは思っていない。
 でも、機会を見つけてみんなで演奏会を開く事はできるかもしれない。
 そこにビオラがあって、仲間が居ればいつでも演奏できる。
 この戦争が終わったら――すべてが終わったら、みんなに自分のビオラを聴いて欲しい。
 戦いが終わった後の楽しみが、由香里に出来た瞬間だった。


 コンサートの最後の楽曲は、ワグナーの『ジークフリート牧歌』だった。
 パンフレットによれば、ワグナーが息子さんの誕生と妻に感謝する曲。
 後で聞いた話だが、由香里がオーケストラの人達からカップルに贈る曲として強く推薦した事から採用されたようだ。。

 この『カップル』という言葉。
 それをパンフレットで見つけた時から、炎西さんの顔を見る事ができない。
 そう、今日の二人はカップルなのだ。
 改めて私は今置かれた状況思い返してしまった。

 やっぱり、デートなんだから炎西さんの顔を見ないのは失礼だよね。
 で、でも恥ずかしくて、まともに顔なんか見られない‥‥。
「今日は如何でしたか?」
 ふいに掛けられた炎西さんの声で現実に引き戻される。
「え? ‥‥あ‥‥き、今日は、あ、ありがと、う」
 慌てて返事をする私。
 きっと不審に思われたんじゃないか。
 初デートなのに、自分はちゃんとできたのだろうか。
 そもそも、顔を見る事もできずに目を背けた状態。
 これでカップルという事ができる?
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
 二人の間に沈黙が流れる。
 何か言わなければならない、と思えば思う程焦ってしまう。
 鼓動も早くなり、呼吸が乱れる。
 いつもの調子でない事は自分でもよく分かっている。
 でも――ぜ、絶対これで終わりじゃダメ!
 初デートは成功させなくちゃ。
「あ、あのっ!」
 私は思いきって炎西さんに声を掛ける。
「どうしました?」
 炎西さんは、いつもと変わらない優しい微笑みを浮かべている。
 私は最大限の勇気を振り絞って自分の願いを伝えないと‥‥。
「できれば、手を繋いで‥‥」

 ――ゴーン‥‥ゴーン‥‥。

 何処かから鐘の音が聞こえてくる。
「ああ、どうやら教会で結婚式が挙げられているようですね」
 炎西さんに言われるがままに、教会の方を見てみる。
 そこには結婚式の最中で、幸せそうな新郎新婦の姿が目に飛び込んでくる。
 ふと、その新郎新婦を自分と炎西さんに置き換えている自分が居た。
 やっぱり、炎西さんと幸せになりたい。
 二人の距離をもっと縮めたい。
「メアリーさん」
「な、なに?」
「教会で思い出しましたが‥‥西洋では教会で神に誓いを立てるのだそうです」
「誓い?」
「そうです。言ってみれば約束事です。
 だから、私も神に誓いを立てたいと思います。
 今日はクリスマスですから、神様も私達の誓いを聞いてくれます」
 誓い。
 正直、炎西さんが何を言っているのかよく分からない。
 でも、真剣な炎西さんの言葉を私は黙って聞くしかなかった。
「これから、バグアとの戦いは新たなる局面を迎えるでしょう。
 傭兵として戦う以上、危険な事もあると思います。
 
 私は、神に誓います。
 何があってもメアリーさんを守り続けます。決して死なせません。
 ――Cross my heart,Princess」
 炎西さんの言葉は、私の胸に突き刺さった。
 たぶん、この時の為に調べていてくれたのだろう。
 だって、普段の炎西さんから『Princess』なんて出てこないもの。
 でも、今日この日のために必死で調べていてくれたと思うと嬉しく思う。
「さぁ、姫様。お手をどうぞ」
 炎西さんはそっと手を出してくれた。
 さっき言い掛けた私の言葉を叶えてくれたみたいだ。
 ちょっと目に涙を溜めながら、私は炎西さんの手を握った。