タイトル:【酒泉】楔の神殿・地マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/06 22:14

●オープニング本文


 酒泉で発見されたバグアドーム「郁金香」。
 その付近で発見された発射口らしき存在は、ドームの地下にマスドライバーの存在を予感させていた。
 中国大陸で発見された新たなるマスドライバー。
 このマスドライバーを中心に、UPCとバグアの思惑が錯綜する――。

「‥‥厄介ね」
 広州軍区司令部李若思中佐は、マスドライバーに対してはっきりとそう言い放った。
 かつて衛星発射センターのあった酒泉である。中国でも宇宙開発の中心だった事を考えれば、この地にマスドライバーを建設した事は納得できる。
「もう一つのマスドライバーがそれ程問題なのか?」
 同じく広州軍区司令部陳世昌中佐相当官は、首を傾げる。
 陳は酒泉にて部下達と共に酒泉で作戦行動中ではあるが、マスドライバーの存在で部下達の士気が上がっている事を感じ取っていた。
「酒泉のマスドライバーをバグアに握られたままでは、太原のマスドライバーを使った際に迎撃されるかもしれないじゃない?
 それに酒泉を奪還したとしても、太原と距離が近すぎるのよね」
 可能なら、破壊して機能停止が望ましい。
 李は、酒泉のマスドライバーに非情なる末路を求めていた。

「こちら、追加資料になります」
 孫 陽星(gz0382)は、陳に書類を手渡す。
 かの書類には、各部隊の進軍状況や前回の戦闘における被害が記載されている。
「‥‥被害は、想定範囲内か」
「はい。
 しかし、マスドライバーですか。太原の戦いを思えば、向こうも手は抜いてくれないでしょう。
 となると、出てくるのは‥‥」
「ドレアドル」
 姿を現したのは、九頭竜 玲子(gz0415)。
 アジア近郊において、武闘派のバグアと言えばドレアドルをおいて他にはない。
 ゼオン・ジハイドという強力なバグア達の一人が、マスドライバー防衛の指揮を執る事は容易に想像ができる。
 だが、玲子には臆した気配がまったくない。
「立ち塞がる敵は倒すだけだ。キメラだろうと、ゼオン・ジハイドだろうと‥‥」

 一方、酒泉では――。
「徹底抗戦だ」
 郁金香内で、ドレアドル(gz0391)は高らかに宣言する。
 かつて部下に体を張って助けられたドレアドル。
 その弔いも兼ねたこの一戦に、一歩も退く気はなかった。
「ドレアドル様のご判断ならば、この私も喜んで力を振るいましょう」
 郭源は、恭しく頭を下げた。
 この酒泉を奪われる事は、マスドライバーを奪取されるだけではない。酒泉以西はレアメタルと原油の産地。さらにジャッキー・ウォン(gz0385)の居城でもあった中央アジア・バグア基地が存在している。
 酒泉は戦略的にも重要なポジションとなっているのだ。
「ふふ、総力戦でUPCを叩き潰せばいいんだよね?」
 モールドレは不敵な笑みを浮かべる。
 既に郁金香各所にバグアを配置。防御をがっちりと固めている。
 しかし、ドレアドルという男が、ただ守りに入るだけの男ではない。
「この地に人間を一人も残すな。見つけ次第、叩き潰せ」


「ふふ、予想通りの徹底抗戦ですか」
 郁金香から離れた場所で、上水流(gz0418)は一人でほくそ笑む。
 ドレアドルから手は借りないと明言された以上、上水流はドレアドルを支援する気はない。
 救援を断った時点で、ドレアドルは郁金香防衛に全力を尽くすつもりのようだ。
 ソルの修理が未だに終わっていない事が悔やまれるが‥‥。
「ソルが無くても圧倒的勝利を収めるつもりでしょうが――本当に、愚かな人ですね」
 上水流にとっては、ドレアドルの勝利も敗北も関係ない。
 いずれの運命でも、バグア内の勢力図に影響がない事が明確だからだ。
 状況に応じて立ち回れば、失点する事はない。
「でも、何もしないのは本星から睨まれそうですね。
 アリバイ工作程度で勝手に支援させていただきましょうか」
 上水流は、バグアドームの傍に立つある機体に視線を送る。
 モスグリーンに金のラインを引いた独特のカラーリングを持つタロス。
 太原衛星発射センターで確認されたこのタロスが――再びUPCの前に立ちはだかるのであった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
黒羽 拓海(gc7335
20歳・♂・PN
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文

「理解できましたか?」
 バグアドーム『郁金香』の中で上水流(gz0418)は、怪しく微笑みかける。
 その眼前に立つのは――坊主頭の青年バグア。
「仰る事は分かったっス」
 眉は凛々しいが、浮かべる笑顔は爽やか。
 この男こそモスグリーンに金のラインを引いた独特のカラーリングを持つタロスのパイロット――王 求児である。
「しかし‥‥ドレアドル(gz0391)様に何も言わなくていいんすかねぇ」
「構わないでしょう。この程度は現場判断の範疇です」
 上水流は諭すように語りかける。
 その言葉の一つ一つが甘く、心にゆっくりと降り注ぐ。
 しかし、その甘さの裏に罠が潜んでいる事に王は気付いていない。
「そうっスか。ボクは構わないスよ」
「これで愛しい子との逢瀬が重ねられます。
 ところで‥‥」
 上水流は一呼吸を置いて、そっと呟く。
「その口調は改めた方が良いでしょうね」


「作戦開始です。‥‥皆さん、気を付けて」
 アルヴァイム(ga5051)が傭兵達へと呼びかける。
 既に陽動部隊の行動は開始。
 郁金香の内部へ突入部隊を送り込むという重要な作戦も、予定時刻を迎えてが動き出した。

 防衛部隊を抑えながら、突入ルートを確保。
 ドームに穴を開けて突入部隊を護衛。
 突入部隊帰還まで、突入ルートを維持。
 
 語るは簡単だが、実際に行動へ移すとなると厄介な作戦だ。
 敵防衛部隊も傭兵達の動きを見て黙っているはずがない。
 だからこそ、アルヴァイムのような存在が重要となる。
 戦場全体を把握し、傭兵達の連携を調整。傭兵同士の『線の太さ』を意識しながら、戦場という空間を制圧していくのだ。
「グォォォォっ!」
 これに対して、バグア側も防衛体制に入る。
 無数のキメラが傭兵達に向かって突進。
 その後方からはゴーレム4体が迫ってくる。
「ミリハナク(gc4008)さん、お願いします」
「了解よ」
 アルヴァイムは、予定通りミリハナクへ最初の攻撃を行うように促した。
 KVである以上、キメラは相手にならない。
 しかし、今回の任務では突入部隊を護衛する事になっている。突入前にキメラで足止めされる訳にはいかない。
 そこで、広範囲に敵へダメージを与える行動が必要になる。
「警護戦力を喰い散らかす突入線は戦場の華ですわね。心から楽しみましょうね」
 ミリハナクはぎゃおちゃんからM−181大型榴弾砲を放つ。
 等間隔で放たれた榴弾は、地面で炸裂。多数のキメラを巻き込みながら爆発する。
 さらに数発はドームの壁へ直撃。派手な地響きを引き起こす。
「【字】より各機へ。グレネードを投げ込みます。
 突撃ルートを構築する部隊は、グレネード着弾後に行動を開始して下さい」
 続けてアルヴァイムの【字】がG−44グレネードランチャーを発射。
 ぎゃおちゃんの大型榴弾砲程ではないが、派手な爆発は多数のキメラにトドメを刺していく。
 この爆発に乗じて、突入ルートを構築する部隊が行動を開始する。
「行くぞ、流星皇。白鐘剣一郎、推して参る!」
 白鐘剣一郎(ga0184)の流星皇が、 機刀「獅子王」を片手に敵陣へと突き進む。
 白鐘の狙いはミリハナクと共に敵隊長機と思われる機体を抑える事。
 仮に自分たちが倒れれば、突入部隊の帰還ルートが失われる事になる。責任の重大さは身に染みて自覚しているつもりだ。
「さて、いきなりハードな戦闘だがよろしく頼むぞ‥‥帝虎」
 オーバーホール上がりの帝虎で任務に挑むのは、鹿嶋 悠(gb1333)。
 機盾「アルデバラン」を構えながらブースト。プロトン砲で迎撃を試みるゴーレムだが、光線は盾によって防御される。
 そして、肉薄。
「道を作らせてもらう!」
 帝虎はデモンズ・オブ・ラウンドを薙ぎ払う。
 強化サーベルで防御するゴーレムであったが、デモンズ・オブ・ラウンドと接触した瞬間に後方へ投げ出される。
 多少強引で力任せでも、突入部隊を築き上げていく。
 鹿嶋の後方では、黒羽 拓海(gc7335)とクローカ・ルイシコフ(gc7747)が射撃支援を開始していた。
「自由にはさせん」
 黒羽は、Hrsvelgr Angriffの試作型「スラスターライフル」でゴーレムへ牽制射撃。
 突撃した白鐘や鹿嶋に敵が殺到しないように敵の動きを阻害する事を念頭に置いた射撃だ。この足止め行為が、敵防衛戦力を確実に削り取る事に貢献している。
「こちらクローカ、支援射撃を開始します」
 クローカのСпутникも、黒羽同様PCB−01ガトリング砲で別のゴーレムを足止めしていた。
 しかし、クローカの狙いは単なる足止めではない。
 可能な限りゴーレムやタロスの注意を惹きながら微速後退。友軍の射線へとお呼びだそうとしていた。
 成功すれば、敵軍に大きなダメージを与えられるはずだが‥‥。

 一方、早くも敵指揮官機と対峙する者が居た。
「太原攻略に失敗した罰で、基地の中にも入れなかった門番さん。名乗るつもりはありますかしら?」
 ミリハナクの眼前には、モスグリーンに金のラインを引いた独特のカラーリングを持つタロスが立ちはだかっていた。
 明らかに敵指揮官機――しかも、太原攻略の際に姿を見せていた機体だ。
 適当な推測で敵指揮官を挑発して全体指揮を執らせないように試みるミリハナク。
 しかし、敵指揮官からの反応はない。
 タロスは黙したまま、専用ハルバードをミリハナクに向けて構える。


「こちら鹿嶋、防壁破壊に成功した」
 敵陣へ突撃していた鹿嶋は、帝虎のデモンズ・オブ・ラウンドでドームの壁に穴を開ける事に成功していた。
 事前にミリハナクが放っていた大型榴弾砲でダメージを与えていた箇所に攻撃を加える形になったのが幸いしたようだ。
「突入部隊の突入を開始して下さい」
 アルヴァイムが突入部隊に対して突撃開始の号令を掛ける。
 動き出す突入部隊。
 これに合わせて護衛のKVも敵陣へと向かって歩み始める。
「突入ルート確保ね‥‥こりゃ、ちっとばかし長丁場になりそうか」
 鷹代 由稀(ga1601)のジェイナスは周囲を警戒しながらドームに向かって突き進む。 通常であれば、眼前のゴーレムやタロスを蹴散らせばそれで終わる話だ。
 だが、今回は足下を彷徨くキメラにも気を配らなければならない。
「ネルちゃん、九時方向にゴーレム! 任せたわよ」
「任せてっ!」
 突入部隊へ近づいてくるゴーレムの眼前にエリアノーラ・カーゾン(ga9802)の空飛ぶ剣山号が立ちはだかる。
 強化サーベルを振り上げて飛び上がるゴーレム。
 空中から空飛ぶ剣山号目掛けて攻撃を仕掛けるつもりだろう。
 しかし、エリアノーラは慌てる事無く攻撃を機盾「ウル」で受け止める。
「悪いけど、ここで遊んでいる暇はないのよね」
 ゴーレムが着地する瞬間を狙って機盾「ウル」によるシールドアタックを敢行。
 激しい衝突と共にバランスを崩すゴーレム。
 次の瞬間、機槍「グングニル」の一撃がゴーレムの胸部を貫いた。
「やるわね、ネルちゃん。なら、私も‥‥っ!」
 鷹代も負けじとDFスナイピングシュートを発動。
 タバコを咥えながら、RA.3.2in.プラズマライフルの照準を眼前のタロスへ合わせる。
 距離を測りながら、数発撃ち込んで動きを封じる。
 今は、タロスをその場で足止めできればそれで良い。
 何故なら‥‥。
「俺が相手になろう!」
 突入部隊からタロスを引き剥がすべく、白鐘が登場。
 アルヴァイムの戦況把握と情報展開が傭兵間の連携をスムーズにしているようだ。
「先には行かせん」
 白鐘はタロス相手に鍔迫り合いへと持ち込んだ。
 突入部隊の通過まで時間を稼ぐ為だ。
「ありがとう、そいつは頼むよ」
「‥‥分かった。先を急げ」
 エリアノーラは謝辞を述べた後、突入部隊の後方を守る形で先を急いだ。
 ここで白鐘は、ある事に気付く。
 タロスを抑える為に行った鍔迫り合いで相手のタロスが普通のタロスでない事が分かったのだ。
 専用ハルバードから伝わる力は、明らかに無人機のそれと異なる。
 明らかに誰かが乗り込んでいる。
「操縦者が居るな。俺は、白鐘剣一郎。
 名を教えていただこう」
「ボクは王 求児。
 モスグリーンに金のラインを引いたタロスのパイロットだ」
「なに? どういう事だ?」
 白鐘は聞き返した。
 眼前に居る王が太原に現れたタロスのパイロットだという。
 だが、王の乗っているタロスには何の装飾も施されていない。
 それどころか、モスグリーンのタロスはミリハナクと戦闘を行っている。
 そして、明らかに誰かが乗り込んでいるのは間違いない。
「あのタロスは一体誰が乗っているのだ?」


「ふふ、なかなかやるじゃない」
 ミリハナクのぎゃおちゃんはディノファングを繰り出す。
 しかし、タロスは危機を察知して後方へ大きくバックステップ。
 ディノファングの一撃を回避する。
 ミリハナクは戦闘相手が、想像よりも遙かに強くしなやかな動きを見せている事に喜びを感じている。
 攻撃を躱す度に心の中の攻撃衝動が抑えられなくなってくる。
「誰だか知らないけど、ここで散らせるには惜しい存在ね」
 歓喜の声を上げるミリハナク。
 だが、ここで初めてモスグリーンのタロスから声が聞こえてくる。
「冷たい子。砂漠であった二人の逢瀬、あの時に何も感じなかったのですか?」
 タロスから聞こえてきた声に、ミリハナクは覚えがあった。
 しっとりとした声は、低く怪しい魅力を兼ね備える。
 甘い囁きは罠と分かっていても聞き惚れたくなる。
 脳裏に隠された記憶を紐解くミリハナク。
 記憶の中にあったその声は、砂漠の月作戦で襲撃した敵拠点クウトの陥落時で聞いたものだ。
「確か‥‥上水流だっけ?」
「逢瀬を重ねる為にこのタロスを借りた甲斐がありました。本当にあなたは――俺の期待通りの方ですね」
「期待されるような事をした記憶はないんだけど?」
「いいのです。あなたはあなたが想うままに戦場で暴れなさい。
 それが新たな不運を呼び、絶望を導くのです。
 多くの者に絶望を与えなさい。
 人類にも、そして――バグアにも」
 上水流が抱くミリハナクへの期待。
 それは戦いを通して多くの者を倒し、絶望を振りまく事であった。
 絶望の果てに命が消える瞬間が美しいと感じる上水流にとって、ミリハナクは戦場で美しい花を振りまく天使に見えるのだろうか。
「私が絶望をくれてやるわよ。バグアにだけ、ね」
「愛しい子。
 戦いの果てにあるものが絶望だけと気付いた時、あなたはどのような表情を浮かべるのでしょう。俺は、それを想うだけで‥‥」
「その気持ちが、重すぎるのよ!」
 至近距離から高分子レーザー砲「ラバグルート」を放つミリハナク。
 上水流から距離を置く為だ。
 敵にも味方にも絶望を求める上水流に、危機感を抱いた為だ。
「そんなに声を震わせて――俺に会いに来たのではないのですか?
 逢瀬の時間を求めるため、応援を要請したのですが‥‥」
 上水流の瞳には、ドームへ向かう緑色の恐竜が映っていた。


「こちらクローカ、射撃要請。目標座標を送信、カウントと同時に射撃願います」
「了解」
 クローカの誘引に乗せられたゴーレム2体。
 気付けば、クローカと黒羽双方の射線へと導かれていた。
「3‥‥2‥‥1‥‥いきますっ!」
 二機の同時攻撃を受けて倒れるゴーレム。
 これで郁金香を護衛していた部隊は、指揮官機を残して撃ち倒した事になる。
 ――しかし。
「増援を確認。レックスキャノンが2体」
 アルヴァイムが各機へ通信を入れる。
 バグアドーム、ましてマスドライバーの存在が判明している拠点である。
 バグア側が増援を準備していないはずがない、とアルヴァイムは考えていた。
「増援にはこちらで対応します。各機、突入ルートの死守をお願いします」
「チッ! ここで増援か。俺も行こう」
 アルヴァイムの後方を黒羽が追随する。
 突入ルートを守るためには、レックスキャノンを近付ける訳にはいかない。
「ネルちゃん、こっちにキメラも新手が来てるわよ!」
 別方向からは蜘蛛型キメラが多数襲来。
 鷹代とエリアノーラが蜘蛛型キメラの駆除を開始する。
「こ、この蜘蛛‥‥攻撃が当たると爆発するよ」
「自爆タイプって奴ね。可能な限り潰させてもらうしかないわね」
 増援対応に追われる傭兵達。
 突入部隊が作戦を成功するまで、このルートを守り続ける事。
 傭兵達はその目的の為に死力を尽くすのであった。


「そこだ」
 流星皇の機刀「獅子王」が、下段から斬り上げられる。
 同時に、モスグリーンのタロスは右腕が吹き飛ばされる。
「‥‥やはり、ドレアドルのようには行きませんね」
 上水流は、悔しさ交じりに呟いた。
 ドレアドルのような生粋の軍人と上水流では、能力が違い過ぎる。
 その上、流星皇との機体性能が大きくかけ離れている。
「上水流様っ!」
 危機を察して王が駆け寄ってくる。
 だが、バランスを崩して片膝を付く上水流のタロスを見逃す程、ミリハナクは甘くない。
「大好きな絶望、味合わせてあげるわ」
 ぎゃおちゃんのディノファングが上水流のタロスへ襲い掛かる。
 盾になるように王がぎゃおちゃんと対峙するが、ここで上水流は思わぬ行動に出る。
「え!?」
 上水流は王を背後からショルダータックル。
 前へ突き出される形となった王は、ぎゃおちゃんのディノファングを代わりに受ける形となる。
「な、何故っスか‥‥」
 王のタロスは既に頭部から噛み砕かれ、身動きを取れるような状況ではない。
 その様子を満足げに見守る上水流。
「私は、この戦いの勝敗がどうであっても関係ありません。ドレアドルが窮地に陥るのも一興‥‥。ドレアドル配下が痛手を受ける事は歓迎します。
 ですが、それ以上にあなたのその言葉遣い。嫌いなんですよ」
「仲間を犠牲に‥‥!」
 ミリハナクのディノファングは、タロスに深く食い込む。
 そして――爆発。
 上水流の裏切りであっさり見捨てられた王。
 同情する気はないが、同じバグアを簡単に見捨てる時点で上水流というバグアの本性が透けて見える。
「愛しい子。次の逢瀬を楽しみにしていますよ」
 上水流は、傷付いたモスグリーンのタロスで郁金香を離脱する。
 追いかける事も可能であったが、突入ルートを死守する事が本来の任務。
 上水流も追っ手に対する罠を仕掛けている事を考えて追撃は諦める事となった。

 その後。
 郁金香から突入部隊が帰還。マスドライバーの破壊に成功したようだ。
 ドレアドルと上水流を取り逃がす事になったが、作戦の成果は十分と言えるだろう。
「仲間を犠牲に、ですか‥‥」
 上水流の行動を聞いてアルヴァイムは、不安に駆られる。
 UPC軍の作戦自体は成功続きだが、今後は極東方面における幹部バグアの撃破も念頭におかなければならない。
「付け入るとすれば、派閥間の争いです。ですが、敵もそれは理解しているでしょう」
 アルヴァイムは既に次なる戦いへと思考をシフトしていた。