タイトル:【AS】米インド化計画マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/29 00:19

●オープニング本文


「ぬわっはっはっ! 復活だにゃー」
 某事件により、心と尻に大きな傷を負ったタッチーナ・バルデス三世。
 体力の回復力だけが取り柄の強化人間であるタッチーナだが、さすがに精神面ではグロッキー。
 きっと尻に走る痛みと恐怖の記憶が原因で、布団の中で体を震わせていたに違いない。
「一時はニューワールドへ旅立ち、『笑顔の眩しさ1000%! ドキドキで壊れそうな電撃新人』というキャッチコピーでデビューする事も覚悟したにゃー」
 タッチーナの中でもいろいろあったのだろう。
 しかし、今日復活したということは、またロクな事を考えていないのだろう。
「失敬な! 今日こそULTの連中に謝罪会見を開かせて記者の質問攻めにしてやるにゃー。
 マグロの皆さん!」
 タッチーナの呼び掛けに応えて現れたのは、マグロキメラ。
 酢味噌の香りを放ち、剛毛たっぷりの手足は見る物を不快にさせる。
 よく見れば、手にはマグロの背後に控える子象の鼻を携えている。
「さぁ、やっちゃってください!
 我々の恐ろしさを見つけてやるにゃー」
 タッチーナの号令で、象の鼻から黄色い液体が噴き出した。
 廃虚となった建物や道行く人に浴びせかけていく。
 黄色い液体を頭からかけられた人々から悲鳴が木霊する。
「うわっ! 何だ!?」
「これは、カレーだ!」
「目がぁ! 目がぁぁー!」
 浴びせられた人々は一瞬でパニック状態。
 さらに柄杓を持ったマグロ達が、浴びなかった部分にカレーをかけるフォローを忘れない。
「だっはっはっ!
 ミーがカレーでアメリカをインドへ改造。世界地図を混乱させて軍事行動を妨害してくれるにゃー。
 名付けて『カレーフォンデュ作戦』!」
 様々な誤りが入り組んでおり、最早芸術性を帯び始めるタッチーナ。
 だが、本人は大真面目。本気で出来ると思っているから厄介だ。
「マグロがカレーを手にした時の恐ろしさ、教えてやるにゃー」 

●参加者一覧

メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
米田一機(gb2352
22歳・♂・FT
セツナ・オオトリ(gb9539
10歳・♂・SF
ルリム・シャイコース(gc4543
18歳・♀・GP
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
エルレーン(gc8086
17歳・♀・EL

●リプレイ本文

「ナマステ。正式に言えば、ナマスカール」
 カイゼル髭にオムツを着用したタッチーナ・バルデス三世。
 タッチーナが連れてきた象型キメラが鼻からカレーを発射して、周囲をカレーだらけにしてしまったのだ。
「我が『カレーフォンデュ作戦』のおかげで、今日からここはインドだにゃー」
 どうやら、タッチーナの頭の中では『カレーを撒き散らす』=『そこはインド』という勘違いを通り越して憐れみすら感じる方程式が成り立っているようだ。
 タッチーナの馬鹿ぶりは放っておいたとしても、周囲をカレーだらけにされて良いはずがない。
「今日から挨拶はハローではない。ナマステで統一にゃー。
 マグロの皆さん、しっかり人間達に教えてやって‥‥」
「あ、タッチーナ」
 ノリノリのタッチーナを発見したのはトゥリム(gc6022)。
 何故かタッチーナの姿を見て微笑んでいるように見える。
「あっ! ソーセージ娘。また現れたにゃー。
 さては、ミーのストーカーって奴かにゃ? 持てる紳士は辛い‥‥」
「それより今日はどんな食材を持ってきているのかな?」
 タッチーナの台詞を掻き消しながら、トゥリムを一歩前へと歩み出した。
 どうやら、トゥリムの中でタッチーナは食材を運んでくるおじさんという位置づけであった。バグアの強化人間という唯一まともな肩書きすら消滅して、単なる食材運搬業へと成り下がってしまった。
 さすがのタッチーナも文句を言わずにいられない。
「ミーは黒い猫でも飛脚でもないにゃー!」
 いきり立つタッチーナ。
 その声に反応したのか、周囲の傭兵達もタッチーナの元へと集まってくる。
「あ、あわわ‥‥す、すごい、景色が黄色いよ」
 エルレーン(gc8086)は、カレー塗れの光景に驚嘆していた。
 想像以上の黄色さに驚く他なかった。
 だが、それ以上に驚かされたのはマグロ型キメラの存在であった。
「うっ。き、気持ち悪いキメラなの! いったいどういうセンスでこんなものを作っちゃうんだか‥‥」
「こらっ! マグロの皆さんを馬鹿にしてはダメにゃー!
 流行の最先端を取り入れたマグロの皆さんは、一流デザイナーの衣装も着こなしてモデル歩きも可能なのにゃー!」
 マグロ型キメラを馬鹿にされて再び叫ぶタッチーナ。
 確かにマグロにおっさんの手足を生やすという姿は、想像以上のインパクトがある。
 しかも、手足が剛毛で覆われているなら尚更だ。
「確かに話は聞いています。
 鮪と世界を守る為に凄惨な戦いを繰り広げているバグアがいる、と。
 ‥‥で、誰ですか。この変態さんは」
 リゼット・ランドルフ(ga5171)の冷たい眼差しが、タッチーナへ突き刺さる。
 どうやら、タッチーナの企みを潰してきた某集団から今までの経緯を聞いて来たらしい。
 だが、争っていた相手が目の前にいる変態チックな親父だという事を知って衝撃を受けているようだ。
「誰が変態だにゃー。
 ミーはバグアが誇る至高にして究極の紳士。変身を二回残して満を持しての登場ですよ?」
「‥‥」
 リゼットの目頭が熱くなる。
 敵ではあるものの、頭の方も可哀想な強化人間だった事が判明したのだから仕方ない。
 しかし、そんなリゼットの悲しみを吹き飛ばすかのように、あるメロディーが周囲へと響き始める。

『真実の愛を伝える為 僕らは此処にやって来た
 歪んだ愛が蔓延る バグアの生み出すこの世界

 マグロは流線型(Yah Yah) 瞳は澄んでいる(Yah Yah)
 決して手足は生えてこない 見つめる先は魚類最速(カジキには負けるけど)

 マグロは寂しがり(Yah Yah) けれどボスは居ない(Yah Yah)
 一人ぼっちだと死んでしまう それでも仲間と切磋琢磨(共食いだって余裕だけど)

 セリフ(馬鹿めっ! 貴様が食べたのはメンチカツだ。本物のマグロコロッケはこっちだ!)

 そんなマグロを僕らは愛し 真実の姿伝え続ける
 国際マグロ平和維持組織 マグロULT』
 
 明らかに場違いな音楽。
 しかし、この音楽の仕業が誰の物なのか。
 タッチーナはすぐに気付いた。
「ぬっ、出たな! mULT」
 タッチーナの呼びかけに姿を現したのはメアリー・エッセンバル(ga0194)とセツナ・オオトリ(gb9539)。
 事前に取り決めてきた決めポーズで颯爽と登場だ。
「久しぶりね、タッチーナ。
 私達mULTを倒さずして世界デビューなんて甘い夢。今日もここで断ち切ってあげるわ!」
 ビシっと勝利宣言をするメアリー。
 マグロを守り、バグアの野望を打ち砕くマグロULT隊長を名乗るメアリーに一切の敗北は許されない。
「メ、メアリー姉様‥‥さすがに二人でポーズはちょっと悲しくないですか?」
 セツナはぽつりと小声で呟いた。
 決めポーズのつもりなのだろうが、特撮ヒーローのようなポーズを取らされて少々気恥ずかしい。
 セツナを教育する者としてリゼットは黙っている訳にはいかない。
「メアリーさん。世界平和の為と聞いていたのに、毎回せっちゃんをあんな変態さんと戦わせていたのですか!?」
「タッチーナはただの変態じゃないわ。マグロを愚弄する忌むべき相手‥‥。
 あの美しい流線型を汚した時点で、解り合えない存在なのよ。mULTである以上、見逃す訳にはいかないわ」
 いつになく真面目なトーンのメアリーだが、言葉の節々から漏れ出すマグロ愛。
 今、説得しても会話のデッドボールになる事は目に見えている。
「‥‥帰ったら、せっちゃんのお兄さんにも報告しますので」
「うん。せっちゃんのmULTとしての活躍を報告してあげるといいわ」
 少々ご立腹のリゼットに対して、メアリーは爽やかな笑顔で答えている。
 やはり、先にマグロ達を片付けた方が良いようだ。
「ようやく変な歌も終わったようですね」
「タッチーナ‥‥噂通りのアレな強化人間だね」
 mULTに巻き込まれる事を回避するため、様子を窺っていた神撫(gb0167)とルリム・シャイコース(gc4543)。
 厄介事に巻き込まれるつもりはないが、怪しいキメラや変態をさっさと片付けるためにこの場へ足を運んだようだ。もっとも、ルリムの方はタッチーナの方能力に興味があるようだが‥‥。
「おにょれー! いつもいつも邪魔しくさってー!
 今日こそmULTを全裸で正座させてカレーの海へ沈めてやるにゃー。
 マグロの皆さーん!」
 タッチーナが呼びかけると、柄杓を片手にマグロ達が集まってきた。
 その奥ではカレーを吐き出す象が鼻を傭兵達へと向けている。

 戦いの火蓋が切って落とされようとしている。
 そんな中、少し離れた場所で米田一機(gb2352)が警察へ連絡を取っていた。
「あ、もしもし警察さんですか?
 なんか街中でmULTと名乗る変な人が‥‥え、同業者!?」


「なんですか、これは?」
 神撫は、大包丁「黒鷹」を片手に首を傾げる。
 柄杓を持ったマグロ型キメラを相手に戦闘しているのだが、想定以上に歯ごたえがない。力が弱いという能力的な事ではなく、戦闘能力全体が低いように感じられる。
「キメラなら戦闘力は高いと思ったのですが‥‥」
「戦闘力はいいが、なんか凄く臭いんだけど‥‥どういう事」
 米田は両手両足を斬り落としたマグロを一カ所に集めてウォッカを振りかけている。
 マグロ型キメラは戦闘力が低いのだが、近づいただけで強烈な酢味噌の香りが漂っているのだ。情報では、酔わせれば食すに値するキメラだという事でウォッカを掛けているのだが、米田自身も半信半疑だ。
 だが、この場で一人だけマグロと対峙して興奮する者が居た。
「そらーっ!」
 冷刀「鮪」を器用に扱うメアリー。
 刀身は冷たく、使い勝手も悪い。おまけに若干生臭い武器ではあるが、メアリーは的確にマグロへ一撃を叩き込んでいる。
「やれやれ、元気なのは何より‥‥」
「米田さん。後ろに気を付けて」
 ウォッカを振り掛けている米田に対して、神撫は声を掛ける。
 その叫びに反応して振り返ると、一匹のマグロが柄杓に入ったカレーを片手に近寄っていた。
 そのカレーを浴びれば、せっかくのスーツがドライクリーニング行きは免れない。
「うぉ!」
 体を捻ってカレーを間一髪で躱す米田。
 だが、その弾みで振り掛けていたウォッカは宙を舞う。
 そしてウォッカの雨が降り注ぐ先には‥‥。
「冷たっ!」
 メアリーは米田のウォッカを頭から被った。
 メアリーの体から強いアルコール臭が漂ってくる。
「大丈夫か?」
 メアリーの身を案じて、米田は駆け寄った。
「メアリーさんにお酒が入ってしまいましたか‥‥」
 メアリーよりもメアリーに酒が入った事を心配する神撫。
 笑顔を絶やさない神撫だが、その言葉は事態が厄介になった事を意味している。
「‥‥ヒック。
 私がマグロの素晴らしさを教えてあげるわ! さぁ、いらっしゃい!」
 メアリーは冷刀「鮪」を力任せに振るい始めた。
 先程とは一転、技術ではなく力――まるで冷刀「鮪」をムチのように振るい始める。
「な、なんだ!?」
「メアリーさん、お酒が入ると性格が女王様になってしまうんです」
 酒が弱いメアリーがウォッカを頭から浴びれば、酔ってしまうのは当然の結果だ。
 そして、酔ったメアリーは女王様として見境がなくなっている。
「ここがカマ‥‥脳天‥‥ほほ。ほら、次は何処を攻められたい?」
 地面に転がったマグロに対して、メアリーは部位を読み上げながら一撃を加え続けている。
 普段のmULTとはまったく違う雰囲気のメアリー。
 しかし、このままでは他の傭兵に手を出しかねない勢いだ。
「では、米田さん。メアリーさんを止めて下さい」
「え?」
 思わず振り返る米田。
 今のメアリーに近づけば、どうなるか分かったものではない。
 しかし、ウォッカをかけたのは間違いなく米田自身。
 ここは男として責任を取らなければ。
「なに? 次はあなた?
 いいわよ。どの部位から教えて欲しい?」
 冷刀「鮪」を片手に米田へゆっくり近づくメアリー。
 妖艶さを漂わせているが、バイオレンスさが圧倒的に上回っている。


「せっちゃんに近寄らないでください!」
 近づいてくるマグロを獅子牡丹で追い払うリゼット。
 今回の任務はセツナの教育上好ましくない相手ばかり。
 教育係として必死にセツナを庇う。
 しかし、当のセツナは数回の戦闘で大分逞しくなっているようだ。
「鼻からカレーが出てるって‥‥それは最早、カレー風味の鼻水だよね?」
 リゼットの傍らで、セツナは身も蓋もない事をあっさりと言ってのける。
 見れば、ライオットシールドを片手にカレーを防ぐトゥリムの姿があった。
「うーん、これカレーというより香辛料を水で溶かしただけに近いな。カレーうどんにするにはちょっと難しいな」
 跳ねるカレーを軽く味見するトゥリム。
 何せ象はカレーを直線的にしか発射しない。そのため、見切るのは簡単だ。
 おまけに一カ所にカレーを発射している間は隙だらけとなる。
「‥‥食べ物を粗末にする悪い子は、バグアでもキメラでもおしおきなの」
 エルレーンは、象の鼻を持っていたマグロのエラに日本酒を注ぎ込む。
 一瞬に酔い潰れるマグロ。
 鼻を支える者が居なくなったため、カレーは周囲に向かって激しく撒き散らされる。
「ぎゃぉぉぉん! ミーにもかかったにゃー!」
 タッチーナもカレーを頭から被った。
 香辛料のせいか、体中が痒くて仕方ない。
「そういえば‥‥お尻にダメージを受けた事があるんだってね」
 そういうなり、エルレーンはタッチーナの尻を思い切り蹴り上げた。
「にゃーーー!」
 タッチーナは以前、バラゾックという男に――な事をされた為、精神的に大きな傷を負っている。いくら超回復能力を持っていたとしても、心はナイーブ。肉体的な痛みよりも、精神的なダメージが大きい。
「ひ、酷いにゃー。尻はやめて‥‥」
 息も絶え絶えのタッチーナ。
 しかし、その傍らには静かに佇むルリム。
 手にはシザーハンズが煌めいている。
「またまた、にゃーーー!!」
 ルリムは瞬即撃でタッチーナを倒すと、尻の方へ向かって馬乗りになる。
 そして、紙オムツごと臀部をシザーハンズで突き刺していく。
「らめぇ。ミーの体が目当てで‥‥にゃー!」
 真っ赤に染まる紙オムツ。
 しかし、ルリムは左右の腕に装着したシザーハンズで執拗に臀部を攻撃。
 タッチーナが泣き叫ぼうが、一切構わず尻を攻撃し続ける。
 おまけにタッチーナの超回復で傷を回復すると同時に攻撃を続けるものだから、タッチーナにとっては無間地獄へと迷い込んだに等しかった。
「ま、マグロの皆さー‥‥」
 そう言い残して、タッチーナは気絶。
 口から泡を吹いて意識を失ってしまった。
「うわー、ルリムさん。凄い‥‥」
 思わず呟くセツナ。
 だが、心の中では喜んでいた。
 何せ、タッチーナが絡めばセツナが酷い目に会う事が多かった。本当は日頃の恨みを晴らすべく、こっそり忍んで後ろからドリルの如く剣を捻り込んでやろうと思っていたぐらいだ。
「‥‥‥‥」
 ルリムは他の傭兵達がマグロを退治、象もカレー切れで大人しくなった事を確認した上で立ち上がる。
 そして、タッチーナの頭部へ回り、顔面に向かって思い切り踵で踏みつけた。
 尻に続いて顔面からも流血するタッチーナを見下ろしながら、ルリムはそっと呟く。
「浄化完了」


「あれ、ここは?」
 メアリーが目を冷ますと、既に戦闘は終了。
 傍らには何故かボロボロの米田が座っていた。
「目が醒めたのか」
「戦闘は終わったの?」
「ああ」
 既にマグロはトゥリムによって捌かれ、特製のマグロステーキが付近住民にも振りまかれている。
 カレー臭も大分消え、辺りは香ばしいステーキの香りが充満している。
「‥‥せっちゃん達は?」
 周囲を見回すメアリーに対して、米田は居場所を指し示した。
 そこには気絶するタッチーナの口に倒したマグロと象のカレーを押し込むリゼットとセツナの姿があった。
「さぁ、美味しいカレーを召し上がれ」
 リゼットは、食べ物を無駄にさせない為に責任もってタッチーナへ食べさせるつもりのようだ。
「リゼ姉様。この変態さんのせいで、ボク毎回酷い目に‥‥」
「そう。だったら、もっと沢山食べていただきましょう」
 セツナの軽い告げ口を受け、リゼットはより大きな切り身を口の中へ押し込んだ。
 既にタッチーナの口は限界を超えている。
「そもそも変態さんは、大きな勘違いしてますわ。
 象の中からカレーが涌き出るので『カレーフォンデュ作戦』と名付けたのでしょうが、『カレーフォンデュ』は鍋に入ったカレーにパンや野菜を付けて食べる料理ですよ。あなたが表現しようとした料理は存在しませんわ。
 あ、チョコレートでしたら、チョコレートマウンテンというのがありますけど‥‥ちょっと変態さん。聞いてますか?」
 トラウマと口に詰め込まれた切り身で再び意識を失っていたタッチーナであった。