●リプレイ本文
酒泉市で発見されたバグアドームが、UPCによって『郁金香』と名付けられたのには理由がある。
バグアドーム表面に描かれた皺のような模様のおかげで、バグアドームがチューリップを逆さまにしたように見えるからだ。
だが、その花は、花弁の奥に何を隠しているのか。
郁金香は、多くの謎を抱えている。
「始めましょう」
アルヴァイム(
ga5051)の一言から、戦いの火蓋は切って落とされた。
かつて中国軍が保有していたアグレッサー部隊所有基地跡に建設されたバグア前線基地。
郁金香へ辿り着くためには、三つの前線基地を陥落させる必要がある。
既に他部隊も同様の前線基地に対して強襲を開始しているはずだ。
「発見した手前、片付もしっかりしておかなければな」
「ああ。この間の礼、全力でさせて貰わないとな」
白鐘剣一郎(
ga0184)とAnbar(
ga9009)は、それぞれの愛機で前線基地に向かって移動を開始する。
先日行われた強行偵察。
二人はこの偵察に参加して、アルヴァイムと共に郁金香をその目でしっかりと目撃している。発見した以上、傭兵として郁金香攻撃作戦へ参加する事に迷いはなかった。
「郁金香で一体何してんのかしら‥‥。
ま、どうあれ叩かなきゃなんない事だけは間違いないか」
空飛ぶ剣山号に機盾「ウル」を構えさせたまま、前進を続けるのはエリアノーラ・カーゾン(
ga9802)。
何故、盾を構えたまま前進しているのか。
それは――。
「ふぅん、まだ射程距離じゃないみたいね」
盾の隙間からプロトン砲の姿が飛び込んでくる。
前線基地には防衛戦力以外にも厄介な平気が存在している。それが対空砲であるアグリッパと3門のプロトン砲の存在だ。直進すれば、防衛戦力と正面衝突となる。敵はそれ程脅威ではないのだが、ゴーレムと斬り合いしている背後からプロトン砲で撃たれては堪らない。
また、UPC軍が進軍する上でもアグリッパを排除しておく必要がある。前線基地を攻略する際には、この二つの兵器の処遇が鍵となるだろう。
その答えを、傭兵達は戦力の二分という形で対応する。
「後衛の皆さんは、僕が攻撃させません」
新居・やすかず(
ga1891)は力強く答える。
傭兵達は前衛部隊が前線基地防衛戦力を抑えている間に、後衛部隊がプロトン砲とアグリッパを破壊。その後、防衛戦力を一気に叩く作戦だ。
そのためには、後衛部隊が遠距離攻撃を確実に成功させる必要がある。
新居は、後衛部隊が遠距離攻撃へ集中できるように立ち回るつもりだ。
「ここはまだ前哨戦。
戦力を温存する意味でも、早々にケリをつけさせていただきますよ」
KVを消耗品と考える新居は、名を持たぬKVで防衛戦力に正面から挑む。
●
「おっと!」
機盾「ウル」に衝撃が走る。
空飛ぶ剣山号を通してエリアノーラの体に振動が伝わる。
プロトン砲の射程距離に入ったらしく、盾にプロトン砲の攻撃が直撃する。
しかし、ウルのおかげで激しいダメージを受ける事はない。
「まずは固定目標への狙げ‥‥射的ね。
ネルちゃん、前に出てきている鬱陶しいのは任せたわよ」
鷹代 由稀(
ga1601)のジェイナスは、DFスナイピングシュートを起動。
試作狙撃用ライフル型コントローラーを通してプロトン砲を照準に定める。
固定砲台として防戦するプロトン砲は、言い換えれば動かない的である。敵の攻撃を前衛部隊が抑えているのであれば、『射的』という表現は的確なのかもしれない。
「‥‥ジェイナス、目標を狙い撃つ」
薔薇の名を冠した高分子レーザー砲「ラバグルート」は、集中力を高めた由稀の指示を待つ。
静寂に包まれた操縦席。
咥えたタバコの煙だけがゆっくりと白い線となって立ち上る。
そして、エリアノーラへ迫るゴーレムの影からプロトン砲が姿を現した瞬間――。
ラバグハートは、光を放つ。
「!」
エリアノーラと交戦中のゴーレムをすり抜け、交戦はプロトン砲へと突き刺さる。
激しい爆発。
確実にダメージを与えていく。
「次の狙撃ポイントへ移動。ネルちゃん、そっちは‥‥」
大丈夫? と問いかけたようとした瞬間。
機盾「ウル」をゴーレムへ激しく衝突させる空飛ぶ剣山号。ゴーレムも強化サーベルを十分に活用する事ができず、慌てて距離を取る。
ゴーレムがバックステップする間に、空飛ぶ剣山号はDC−77クロスマシンガンへと持ち替えていた。
「逃がさないわよ」
DC−77クロスマシンガンがゴーレムの至近距離から火を噴く。
激しい弾丸の雨は、ゴーレムの体を穿つ。腕で弾丸を払おうとするも、雨を防ぎきる事はできない。
「あ、前を見ていないと危ないんじゃないかしら?」
ゴーレムが腕で顔を覆った瞬間、 空飛ぶ剣山号は機槍「グングニル」で突撃を敢行。
グングニルの刃が、ゴーレムの胴体を刃を貫いた。
「ほら、言ったばかりなのに。
ところで、由稀。私の事、呼んだ?」
前衛としての任務をしっかりとこなすエリアノーラ。
その様子を見ていた由稀は、思わずため息をつく。
「‥‥問題なさそうね」
●
「邪魔なので、先に落ちてもらおう‥‥まるで悪役みたいダナ」
Queen of Nightのアステリア・スマートライフルでアグリッパを狙い撃つのは、ラサ・ジェネシス(
gc2273)。
超長距離狙撃レーザーというコンセプトで製作されたこのライフル。余裕があれば由稀のサポートを行うつもりではあるが、今は第一目標と定めたアグリッパに対する攻撃を繰り返す。
「我輩の攻撃で、落ちるのダナ」
ラサは再びアグリッパへ狙撃を実行。
弾丸が直撃したと同時に、アグリッパは爆発。
激しい炎に包まれ、防御壁の前に火柱が出来上がる。
「まずは一つ、ダナ」
リロードを行いながら、次の獲物を見据えるラサ。
後衛部隊として落とさなければならない目標は、まだまだ残っている。
「クローカより前衛へ、狙撃班目標1撃破。砲台攻撃を継続。どうぞ」
クローカ・ルイシコフ(
gc7747)は、後衛部隊の目標撃破情報を前衛部隊へと伝えていた。
防御壁前にある兵器を破壊した後、バグア側の防衛部隊を全力で叩きつぶせばいい。
「敵砲台破壊のため、ポイント移動を開始」
クローカのСпутникは、最左翼のプロトン砲を目標に定める。
廃墟に身を隠しながら、長距離砲「三昧眞火」の射程距離へと移動させる。
「三昧眞火」の射程距離は他後衛部隊の得物と比較しても射程が短い。そのため、Спутникを前に進める必要がある。
だが、ここで思わぬ敵と遭遇する事になる。
「タートルワーム」
背にしている廃墟の向こうでは、タートルワームが傭兵を捜し回っている。
おそらく、前衛部隊の誰かと戦闘している際にこちらへ逃れてきたのだろう。
だが、クローカにとっては厄介な相手。
プロトン砲を叩く為には、タートルワームという障害は排除しておきたい。
「クローカより前衛へ、狙撃ポイント付近でタートルワームと会敵。タートルワーム排除を優先する」
クローカは前衛部隊へ連絡を入れながら、武器をR−703短距離リニア砲へと持ち替える。
廃墟より顔を出せば、タートルワームへ発見される。
いや、それ以上にプロトン砲の攻撃を受ける恐れもある。
しかし、クローカの答えは、既に決まっている。
「Ублюдок! こんなところで立ち止まれるか!」
クローカは、Спутникを振り返らせタートルワームに向けてR−703短距離リニア砲を放つ。
打ち出された砲弾は、タートルワームの側面で破裂。
タートルワームの巨体が横へずれる。
だが、一撃で葬り去る事はできない。
「後衛は、僕が護ります!」
タートルワームに対して、新居のS−01HSCが接近。
クローカの通信を受けて駆けつけたようだ。
「手負いのタートルワームですね。ここで倒させていただきます」
S−01HSCは、M−SG10を片手に接近。
タートルワームが反撃に移る前に、タートルワームの足を狙って発射する。
近距離では圧倒的な火力を誇るM−SG10。タートルワームの片足を破壊し、バランスを崩す事に成功する。
「これで終わらせます」
新居はアグレッシヴ・ファング Ver.2.1を発動。
クァルテットガン「マルコキアス」がタートルワームの頭部に照準が合わされる。
――ドンっ!
チェーンガンの強烈な一撃がタートルワームの顔面を捉えて、爆ぜる。
生肉の破壊音と共に、タートルワームの巨体は地面へ沈む。
「これで一安心‥‥」
「まだだ、プロトン砲がある!」
クローカは新居に叫ぶ。
新居の背後ではプロトン砲が新居に狙いを定めている。
エネルギーの塊が新居に対して放たれる――瞬間。
爆音。
プロトン砲は、一瞬のうちに炎へ包まれる。
「これは‥‥」
「いやー、美味しいところをいただいたみたいダナ」
後方でラサが胸を張っていた。
どうやら、アステリア・スマートライフルでプロトン砲を狙撃してくれたようだ。
胸を撫で下ろすクローカ。
前衛部隊に向けて戦果を報告する。
「クローカより前衛部隊へ‥‥プロトン砲の破壊を確認」
●
傭兵とバグアの交戦は今も続いている。
この戦いで熾烈を極めるのは、前衛部隊。まさに最前線と呼ぶに相応しい戦いが黒広げられていた。
「邪魔だ!」
Anbarは、プラズマリボルバーでタートルワームへ牽制射撃をかける。
極力近接戦闘を避けたいAnbarとしては、知覚攻撃で敵装甲に突破口である穴を穿ちたいところだ。だが、KVとワームの正面衝突となった戦場では、ゴーレムなどの妨害もあって難しい。
「大丈夫でしょうか」
Anbarの傍へアルヴァイムが寄ってきた。
もっとも、アルヴァイムもゴーレムと交戦中。状況的に二対二の構図が完成していた。
「ふん、これはまだ前哨戦。目的の花を目前に、苦戦などするものか」
Anbarは叫ぶように言った。
これはまだ前線基地の攻略。ここで苦戦しているようでは、本戦で苦労する事になる。
もっとも、Anbar自身も苦戦していた訳ではないのだが、手間取っていたのは事実だ。
「それより、あんたはどうなんだ?
ゴーレムと随分遊んでいるように見えるぞ」
「このゴーレムと遭遇したのはつい先程です。
それまではこの前線基地に対する情報収集を行っていました」
アルヴァイムの脳裏には、この前線基地に関する情報が浮かんでいた。
地雷もなし。
伏兵らしき者もなし。
厄介な存在は防御壁と防衛兵器ぐらい。
防衛戦力はそれ程強い訳ではない。
何故、このような配置をしているのだろうか。
まるで、落としてくれと言っているようなものだ。
UPCは郁金香の香りに誘われたミツバチなのでは――。
「おいっ!」
Anbarはアルヴァイムを怒鳴りつけた。
瞬間、現実へと引き戻される。
意識が戻った瞬間、眼前にはゴーレムが強化サーベルを構えていた。
アルヴァイムは素早く機盾「ウル」を構えて攻撃を受け止める。
「いけません。私とした事が‥‥」
アルヴァイムは、呟いた。
これはゴーレムに攻撃の機会を与えたからではない。
この前線基地の防衛が薄いのは、二つの事が考えられる。
一つは、バグア全戦力が想定よりも少ない事だ。
だが、郁金香が存在している上に前回の強行偵察でキメラやヘルメットワームから多数の攻撃を受けている。それは少々考えにくい。
となれば、答えは残る一つとなる。
「前縁基地の防衛戦力を減らしてまで護らなければならない何かが他にある、という事でしょうか」
「なんだって?」
Anbarは、聞き返した。
アルヴァイムの独り言に思わず反応してしまった。
「いえ。この戦いが終わったらお話致します。
今は、目の前の敵に集中致しましょう」
アルヴァイムは、一時的に思い巡らせていた考えを停止した。
眼前のゴーレムを倒すために。
●
「立ち塞がるならば、打ち砕くのみ」
白鐘の流星皇は、この前線基地で唯一のタロスと対峙していた。
おそらく、指揮官機と目される機体。
古流剣術「天都神影流」の遣い手として、質実剛健を旨とする傭兵として、指揮官機へ直接対決を挑まずには居られなかった。
「‥‥動くか」
白鐘よりも先にタロスが動いた。
専用ハルバードを横から薙ぐ。
刃は、流星皇の脇腹目掛けて振り抜かれる。
「見くびられたものだな」
専用ハルバードの刃を、白鐘は練剣「オートクレール」で受け流す。
接敵する前に、牽制射撃でレーザーガン「フィロソフィー」の射撃を加えておいたが、タロスの自己修復機能において治りかけている。
タロスを屠るならば、一気に大ダメージを叩き込む必要がある。
白鐘は、意識を集中。
柄を強く握り締め、眼前のタロスをじっと見据える。
生身の時同様、すり足で間合いを詰めていく。
「!」
タロスは専用ハルバードを振り上げた。
一瞬だけ出来る、隙。
その隙を白鐘は見逃さない。
「ふんっ!」
オートクレールが下段から斬り上げられる。
強烈な一撃がタロスへ叩き込まれ、タロスの体はゆっくりと後方へ投げ出される。
そして――爆発。
タロスの体は四散した。
「クローカより前衛部隊へ、砲台の沈黙を確認。
突入開始します。前進掃討して100確保!」
後衛部隊のクローカより砲台を破壊した一報があった。
あとは、残る防衛戦力を叩くのみ。
白鐘はタロスを倒した後も、気を抜くことなく残る敵を捜索する。
「こちら白鐘、了解」
●
こうしてアグレッサー部隊所有基地跡のバグア前線基地は陥落。
防御壁もラサがシャベル片手に破壊を敢行。大騒ぎを引き起こすも、結局KVを使って倒壊させる事ができた。
任務は成功。
他の前線基地からも吉報がもたらされる中、気になる情報が舞い込んできた。
郁金香の地下にマスドライバーが配備されている。
アルヴァイムの推理は、奇しくも的中してしまったようだ。
「遅いご到着ですね」
上水流(gz0418)は、声を掛けた。
その男は上水流の進行方向と逆、つまり郁金香に向かってゆっくりと歩いている。
しかし、上水流から掛けられた言葉を無視。
口を開く事無く、黙って歩いている。
「何か言葉をいただけないのですか? 冷たい方」
「何故、貴様がここに居る?」
「郭源さんに、支援を断られました。俺の力は不要だそうです」
上水流はため息をついた。
しかし、断られる事は事前に分かっていた事。
断られた、という既成事実が上水流にとって必要。
その事は、男にも分かっている。
「その顔。俺に何か言いたい事がお有りですか?」
「俺もお前の力を借りる気はない。酒泉からさっさと消えるがいい」
男は、言葉を吐き捨てて再び歩みを進める。
上水流は、男の背中を黙って見つめ続けた。
「本当に、いけない人ですね。ドレアドル(gz0391)副司令」