タイトル:【OD】紅と砂の海でマスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/17 22:32

●オープニング本文


 砂に塗れた半島――アラビア半島。
 拠点であったリヤドが陥落、バグア勢力は一気に衰退。
 急速にバグア勢力は駆逐されていく。
 
 だが、ある事件を切っ掛けにバグア勢力に変化がもたらされる。

 アフリカ奪還作戦は、UPCの勝利。
 アフリカのバグアへ大打撃を与える事に成功したが、一部のバグアがアラビア半島へ侵入。紅海を渡った彼らは、この砂の海と化したアラビア半島に身を潜めて再起を図ろうとしていた。

「バグアは、我が艦隊を休ませぬ作戦か?」
 UPC艦隊を率いる坂本勘兵衛は、双眼鏡を目から離しながら呟いた。
 アフリカで活躍するUPC軍からの情報によれば、紅海沿岸ジェッダにバグアが集結しているらしい。砂地でタートルワームが数体確認されており、バグアの前線基地である可能性も十分に考えられる。
 UPCは、比較的近い海域で航行中だった坂本へ紅海偵察の命が下ったという訳だ。
 このような指令は5回目、バグアを追って同海域を彷徨い続けている。
「頭は失っても、手足はしぶとく動き回る。害虫‥‥否、それよりも厄介な相手だ」
 アラビア半島でバグア戦力は減少の一途を辿っているが、駆逐された訳ではない。
 未だ砂にその身を隠して、再起の機会を待ち続けている。
 UPC軍は、目撃情報を元に残存バグアの掃討。まさにイタチごっこという様相だ。
「そろそろ、決着をつけたいところだな‥‥」
「提督!」
 オペレーターの一人が、坂本に対して大声で叫ぶ。
「どうした!?」
「海中より何かが接近。味方の識別信号なし」
「今度の情報は当たりか。敵の数は?」
「接近する物体は8。いずれも艦隊へまっすぐ向かってきます」
 情報通りであれば、この近くに敵の拠点があるはずだ。
 敵からすれば、エジプトとアラビア半島で追い立てられたバグアが手に入れた安住の地。意地でも拠点を防衛したいと考えるところだろう。
 だが、UPCからすれば見逃す訳にはいかない。
「こいつはジェッダ奪還の前哨戦だ。
 各機、出撃! 敵を叩いて次の戦いへ繋げるんだ!」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
九頭龍 剛蔵(gb6650
14歳・♂・GD
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
カグヤ(gc4333
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

 英雄。
 如何なる状況でも、悪から助けてくれる存在。
 特別な能力で、誰からも愛される偶像。

 だが。
 傭兵となって特別な能力を得たとしても、英雄という存在にはなっていない。
 英雄を前に負けてくれるバグアは存在しない。

 おまけに――ここは紅海。
 太陽の光が海中を照らしている者の、人間らしき存在は見当たらない。
 それでも、傭兵は戦う以外に選択肢はない。
 この道が英雄へ通じる道と信じて。

「敵影接近、本艦へ接近。傭兵部隊との遭遇まで残り五分」
 紅海を進むUPC軍艦隊へ向かうバグアの存在を、旗艦ブリッジのオペレーターが伝えてきた。
 紅海沿岸のジェッダに敵が集結しているという情報を得たUPC軍は、ジェッダにバグアが完全集結する前に蹴散らす計画を立案。その前哨戦として、UPC艦隊をジェッダ沖へ進軍させていた。
 バグアもこのまま黙って叩かれる程、馬鹿じゃない。
 迎撃部隊を送り込んできたようだ。
「全艦船へ連絡、臨戦態勢へ移行。更に傭兵各機との通信回線を開け」
 UPC軍艦隊を率いる坂本勘兵衛は、艦隊の責任者として命令を下す。
 提督と呼ばれ親しまれてはいるものの、戦いとなれば軍人としての顔へと変貌する。乗組員の命を預かる存在は、老いて隠居する事すら許されない。
「どうした? 敵は迫っているけど‥‥」
 坂本との通信に反応した九頭龍 剛蔵(gb6650)。
 水龍の操縦席から聞こえる声に緊張感は感じられない。会敵目前でもリラックスしている証拠であろうか。
「今回は敵の数が多い。傭兵諸君も無理をしてはならんぞ」
 坂本は艦隊の乗組員同様、傭兵の身も案じていた。
 確認されているバグア勢力は、傭兵の倍。バグアと奮戦できるのは傭兵達だけではあるが、無理をして傷を負われては提督の名が廃る。
 坂本はそのような事を考えていた。
「お気遣い感謝します。でも、大丈夫ですよ」
 剛蔵は、笑顔で答える。
「そうです。カグヤはミリハナクおねーさまと一緒に頑張る。
 絶対に誰も死なせない為に、お手伝いするの」
 淡々とした口調でカグヤ(gc4333)が声を掛ける。

 たとえ戦力に差があっても、引く訳にはいかない。
 ――UPC艦隊を絶対に傷つけさせない。

 カグヤはその想いを胸に秘めていた。
「バグアは私達に任せてもらえれば大丈夫。
 ですが、提督。お願いがありますわ」
 ミリハナク(gc4008)が、艶のある声を上げる。
 声だけ聞けば、優しい聖女のような存在に思えるが。だが、一度戦いとなれば、戦場特有のオーラに身を任せて戦い続ける凶竜へと変貌する。
「なにかね?」
「各艦隊へ後退防御命令をお願いしますわ。
 敵の数が多く、艦隊を狙う敵が現れる可能性もありますの。艦隊に危機が迫った際には必ず助けに向かいますわ。ですから‥‥」
 敵の数が多いという事は、傭兵の防衛ラインを突破して艦隊を直接狙うバグアが存在する事も考えられる。
 そのため、艦隊は後退防御に徹して貰い、突破された際には可能な限り持ちこたえて貰う。
「分かった。各艦隊には命令を下そう」
「艦隊にまで辿り着かせる訳にはいかぬからな」
 榊 兵衛(ga0388)は、力強く言い放つ。
 この戦いは露払いに過ぎない。
 しかし、決して落とせない戦いでもある。
 自然と操縦桿を握る手に強い力が込められる。
「榊君、頼りにはしているが‥‥時には力を抜くことも大切だ」
 榊の言動に力みを感じたのか、坂本が諭すように言った。
 榊は既に幾度もの戦いを経験している。釈迦に説法なのかもしれないが、榊は坂本の心情をしっかりと感じ取っていた。
「お気遣い感謝する。
 リラックスするためにも、この戦いが終わったら日本酒を冷やでいただきたい」
「ふふ、分かった。肴にスルメも用意させよう」
「提督っ!
 ブリッジからゴーレムの姿を確認。来ますっ!」
 榊と坂本の会話に割り込むかのように、オペレーターが叫ぶ。
 その言葉で榊は再び戦人の顔へと瞬時に戻る。
「敵には悪いが‥‥最初から全力で排除させて貰おう。
 榊流古槍術継承者、榊兵衛――参る!」



 海中より迫るゴーレムは6体。
 さらにゴーレムに随伴するように姿を見せた水中を泳ぐ巨大ムカデ。体をくねらせながら、まっすぐこちらへと突き進んでくる。
 敵意を剥き出しの集団は、負の感情を持って間近へと迫る。
「さて、始めるとするか」
 榊の興覇が、潜水形態のままゴーレムの群れに向かって発進しようとする。
「待って。どうせ始めるなら、大きな花火を打ち上げようよ」
 剛蔵は、榊に対してそのような提案してきた。
 榊も最初から接近戦をするつもりはなく、小型魚雷ポッドを弾幕として展開する予定だった。
 だが、どうせぶち上げるなら派手な方がいい。
「なら初弾は任せるよう」
「了解。
 艦隊には行かせないぜ。こんちくしょうども」
 剛蔵は水龍から三十六式大型魚雷を放った。
 威力は低いものの、長い射的距離を持つ大型魚雷である。これを前方から迫るゴーレムの群れへ撃ち込んだのだ。自らの射程外からの攻撃にゴーレムは戸惑いを隠せない。
「!?」
 眼前まで近づいた三十六式大型魚雷を盾で慌てて防ぐゴーレム。
 水中に花開いた白い爆発。周囲の水を激しくかき回しながら、中心部のゴーレムを揺さぶっている。
「こちらも行かせてもらう」
 榊もゴーレムに対してM−042小型魚雷ポッドで弾幕を展開、ゴーレムの足止めに掛かる。
 ゴーレムは武器を片手に海の中で傭兵達の姿を追うが――眼前に見えるのは剛蔵の姿のみ。
「遅い」
 ゴーレムが弾幕で足止めを受けている間、榊はゴーレムの側面へと回り込んでいた。
 興覇の潜水形態で可能な限り接近した榊は、人型形態へと変形。水中機槍斧「ベヒモス」を片手に強襲を掛ける。
「そら!」
 榊は手にしたベヒモスで突きを繰り出した。
 ゴーレムは慌てながらも盾を構えて防御を試みる。
 盾によって直撃は回避できたものの、完全に刃を防ぎ切れない。胸部を傷つけながら、刃は左肩を貫いた。。
 さらに榊は、突き刺さるベヒモスを捻って刃を引き上げる。
 ゴーレムの左肩は派手に破壊され、支えの無くなった盾は水中へと沈んでいった。
「いただき!」
 榊が傷つけたゴーレムに向かって、剛蔵はG−37試作型水中用粒子砲「水波」を発射。
 小型の粒子砲から放たれた光線は、盾を失ったゴーレムを直撃。榊によって傷つけられた胸部を抉られたゴーレムは、力を失って海底へと沈んでいく。
 そして――爆発。
「こっちの獲物だったんだが‥‥」
「敵ならまだ居ま‥‥後ろっ!」
 剛蔵は、呟こうとしていた台詞を飲み込んだ。
 榊の背後から水中ムカデが近づいていた。
「ちっ!」
 水中ムカデはその体を使って相手を束縛する。
 普段ならそれ程怖い相手ではないが、傭兵側の方が個体数が少ない。ここで前衛の榊が捕まってしまえば艦隊へ向かうゴーレムが多くなる。
 榊は瞬時に後退、水中用ガウスガンで牽制しながら水中ムカデと距離を取る。
「確かに、敵ならまだまだ居るようだ」
 榊は気を引き締めながら、ベヒモスを再び構えた。


「ミリハナクおねーさま、九時方向から一機迫ってきますの」
 海中の戦況をおしゃかなさんから伝えるカグラ。
 おしゃかなさんの持つ水空両用撮影演算システムは、撮影した映像をリアルタイムで解析して味方への攻撃を支援するものである。
 迫る敵の存在を即時に解析、他の機体へ情報展開してくれている。
 そして、ミリハナクは――。
「そう、こちらへ向かって来ますのね‥‥」
 静かに呟くミリハナク。
 近づくゴーレムを可能な限り引き付けて七十式多連装大型魚雷を放った。
 10発の大型魚雷が、ゴーレムの体に突き刺さって爆発。水中を伝わる独特の震動に、ミリハナクは体を震わせる。
「これが水中戦‥‥。
 これで私の行動範囲が広がって、海の中に居るバグアも食い荒らせる‥‥」
 ミリハナクは、これが水中戦としては初めての依頼であった。
 地上とは異なり、風もなく静かな空間。
 陸上の戦闘にはない、独特の感覚。
 静寂と破壊が単純に繰り返されるだけの戦闘に、ミリハナクの心は躍らずに居られない。
「おねーさま、次は三時方向ですの」
 カグラが次の標的情報を送ってきた。
 同時にカグラはM−042小型魚雷ポッドを放って、ゴーレムをその位置へ留めようとしてくれている。ミリハナクの行動に合わせて支援を心がけているようだ。
「人気者は辛いわねぇ。でも‥‥ファンの期待には応えてあげないといけませんわ」
 人型形態へと変形したにょろたんは、水中用機槍「ハイヴリス」を手にゴーレムへ肉薄。
 カグラの攻撃により多少は負傷していたゴーレム。
 ミリハナクが接近した事を察知、慌ててプロトン砲を放って迎撃を試みる。
「ダメよ」
 ミリハナクは機体を右側へ捻って光線を躱す。
 光線を回避したにょろたんは、流れに身を任せるようにハイヴリスをゴーレムの胸部へと突き刺した。
「遠慮はいらないわ。だっぷりと味わいなさい。私からのプレゼントを」
 ミリハナクはハイヴリスを引き抜き、ゴーレムを蹴って引き離す。
 ゴーレムはゆっくりと海底へと沈んだ後、爆発の中に包み込まれる。
「巨体からは想像できない程、素直な反応を示す子ですわね」
 初めての水中で、戦いの実感を得るミリハナク。
 陸上とは異なる感覚も魅力的だが、にょろたんが想像よりも軽やかに動いてくれる事を単純に嬉しく感じていた。海を自由に駆け回る方がミリハナクには似合っているようだ。
「おねーさま、0時方向よりプロトン砲の砲撃ですの」
「抵抗するなんて、諦めが悪いんだから」
 ミリハナクはプロトン砲破壊よりもゴーレムとムカデ排除を優先していた。
 UPC艦隊を気遣っての作戦であるが、何よりも抵抗する相手を戦いの本能のままに滅ぼす方が魅力的でもあるからだ。
「私が教えてあげないと、ね」
 ミリハナクは、にょろたんをムカデに向かって前進させた。


「手負いのゴーレム一機、戦線を抜けてこちらへ向かってきます!」
 UPC艦隊のブリッジで悲鳴にも似たオペレーターの叫びが木霊する。
 一瞬の隙を突いたゴーレムが一機、傭兵が形成した戦線を抜けてUPC艦隊へと向かって来る。
「機雷投下っ! 傭兵達が戻るまで自艦を稼げ!」
 坂本は、後退を続ける艦隊に機雷投下の命を下す。
 この攻撃だけでゴーレムを倒すだけの威力がない事は分かっている。だが、ゴーレム進軍の邪魔をする事はできる。傭兵達がUPC軍艦隊救援まで自艦を稼げればそれでいい。
「榊君っ、そっちは戻れそう?」
 水中ムカデと対峙するミリハナクは、別方向で行動する榊へ通信を入れる。
 水中ムカデさえ居なければ、早急にUPC艦隊へと向かうのだが‥‥。
「無理だよ。彼はプロトン砲破壊に‥‥あそこからじゃ、間に合わない」
「お前の位置ならギリギリ間に合うかもしれん。行けっ!」
 榊は剛蔵に向かってUPC艦隊への救援を打診した。
 剛蔵の位置は榊が居る位置よりもUPC艦隊に近い。
 水龍を飛ばせば間に合うかもしれない。
「くっ、間に合ってくれよ」
 剛蔵は水龍を反転、UPC艦隊に向かって走り出した。
 間に合うのかは分からない。
 だが、ここで指を咥えて黙ってみている訳にもいかない。
 剛蔵が今できる最善の行動を取っていた。
(この危機的状況‥‥どうする?)
 焦る気持ちを必死に抑える剛蔵。

 危機的状況を察知した英雄が、あのゴーレムを引き留めてくれれば間に合うかもしれないのに――。

 脳裏に一瞬浮かんだ思考。
 その思考は現実となって眼前に現れる。
「ん? あれは‥‥オロチ!」
 UPC艦隊へと突き進むゴーレムの背後に、一機のオロチが追いついていた。
 あのオロチは見覚えがある。
 確か、ミリハナクと共に行動を共にしていた――。
「カグラっ!」
 ミリハナクが、にょろたんの操縦席で叫ぶ。
 先程まで自分の背後で情報管制を努めていたカグラが、単独でUPC艦隊を守る為に行動を起こしていたようだ。
「傷つけさせないですの。絶対に、誰もっ!」
 カグラは水中用ガウスガンを連射してゴーレムを背後から狙う。
 だが、カグラの存在に気付いたゴーレムは、攻撃を盾で防ぐ。
 そして、ゴーレムは転進。
 カグラのおしゃかなさんに対して、強化サーベルを横に薙ぐ。
「きゃっ!」
 激しく揺れる機体。
 衝撃のあまり、カグラは思わず声を上げる。
「カグラ!? 大丈夫?」
「オ、オロチは頑丈だから、ある程度は盾になって耐えられるの」
 カグラは敢えて強がってみせた。
 UPC軍艦隊の乗組員は迫るゴーレムに恐れ戦く者も居るだろう。 
 しかし、能力者としてこの地を訪れた傭兵が居れば、その心配は無用となる。
 傭兵の自分が怖がっては、誰がバグアを倒すというのか。
 通信を聞いている弱き者の為に、カグラは平静を装った。
「!」
 ゴーレムは強化サーベルを振り上げた。
 狙う先はカグラの操縦席――。
「させるかってぇの!」
 剛蔵はG−37試作型水中用粒子砲で牽制射撃を敢行。
 光はサーベルに直撃。サーベルの軌道を大きく逸らす事に成功した。
 そして‥‥。
「あなたに‥‥」
 カグラを攻撃されたミリハナク。
 システム・インヴィディアVer.Deを使ってにょろたんの後方に蒼い流れ星のような軌跡を描きながらゴーレムへ接近。手には水中用機槍「ハイヴリス」が携えられている。
「掛ける言葉なんて、ないわ。消えなさい」
 ゴーレムの胴体をハイヴリスが貫いた。
 避ける暇すら与えない突撃は、強い衝撃と共にゴーレムの葬り去った。
「お、おねーさま‥‥」
「カグヤ!」
 体を張ったカグヤは、自らの機体に傷を負っていた。
 しかし、その傷こそがUPC艦隊に乗る弱き者達を守った証でもある。
「辛うじてセーフ、ってところかな?」 
 剛蔵もそっと胸を撫で下ろす。
 そこへ榊からの通信が入る。
「そっちは大丈夫そうだな。こちらも最後のプロトン砲を始末したところだ」
 攻撃手段を失い、スクラップと化したプロトン砲。
 榊の前にそれが築き上げられた段階で、任務は成功。
 UPC艦隊も無傷で守りきる事ができた。
 傭兵達の奮戦が実を結んだ結果であった。

 ジェッダ争奪の前哨戦を華々しく飾ることのできた傭兵。
 だが、本当の戦いはこれから。
 ジェッダに集ったバグアを叩く作戦が始まろうとしていた。