タイトル:【AC】カリストの嘆きマスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/14 05:07

●オープニング本文


 攻勢が続くアフリカ大陸。
 UPC軍の快進撃はアフリカ暗黒大陸の奥深くまで侵攻を続けている。
 向かうところ敵なし、と思われているが、何事にもすべてが予定通りに進む保証はない。
「なんだと!?」
 デヒバトまで数キロ付近にキャンプを張ったリトルベアーは、手にしていたビールを壁へ叩き付けた。
 仲間からリトルベアーという名前で親しまれている彼は、名前通り顔は髭で覆われており、北欧のバイキングを彷彿させるような屈強な体が自慢であった。

 そんな彼に降り掛かった境遇。
 それは、リビアに向けて進軍中のUPC軍の同行していたものの、デヒバトを目前にして攻撃を中止。再編成の指示を待つように指令が発令された。おそらく、アフリカ中央部を見据えた戦闘に煽りなのだろうが‥‥。
 これからバグアと戦闘という気合いを入れるべきタイミングで肩すかしを喰らったのだ。
 前線で戦う事を生き甲斐とするリトルベアーからすれば、あまりにも酷な命令である。
「前線では能力者の存在が不可欠なんです。ですから、戦力を適材適所に‥‥」
 リトルベアーからキャットと呼ばれるUPC軍人は懸命に弁解を続ける。
 本当は、バロサ・パウエルという名前を持つ尉官なのだが、傭兵のリトルベアーはキャットと呼んで憚らない。
「何が適材適所だ。上の人間は、前線まで状況を確認しにきたというのか?
 違うだろう? 俺達は前線で体を張ってきたんだ。それはUPCだろうと、傭兵だろうと変わりはないはずだ!」
 愛用の大型ハンマー『カリスト』を、地面に叩き付けるように置くリトルベアー。
 前線へ討って出るべき、という言葉を間違っている訳ではない。敵地へと侵攻する中で、地中海沿岸であるリビア一帯を放置する事は後顧に憂いを残す事を意味する。アフリカ大陸の奥へ進むのであれば、リビアの制圧は不可欠となる。
 作戦に参加する者達の士気が下がる前に、敵拠点近くまで押し上げても罰が当たるはずはない。
「ですが、今後の戦いを見据えればここで無闇な戦闘は避けるべきです」
 キャットは自分でも言い訳がましいと思っていた。
 これだけの大規模な作戦だ。末端の前線まで十分に統制が取れるとは限らない。
 デヒバト郊外で陣取る小さな部隊からの打診が大本営まで届く保証はない。しかし、キャットも軍人。下った命令を無視する訳にはいかなかった。
「ふざけるな! 俺達は傭兵だ。
 正義も悪もねぇ! 俺達が命を張るってぇのはなぁ‥‥」
 テントの中に響き渡るリトルベアーの叫び声。
 それは全傭兵達を代表するかのような発言であった。
 
 ――しかし。

「大変だ! キメラの襲撃だ!」
 UPC軍の男が、テントへ転がり込んできた。
 どうやら、デヒバト方面からキメラの集団が小さなキャンプへ先手を打って襲撃を掛けてきたようだ。
 恐れていた事態に息を飲むキャット。
 一方、リトルベアーは満面の笑みを浮かべる。
「奴らは分かっているじゃないか。結局、俺達はこいつで答えを出すしかねぇんだ」
 出番を待ち受けていたカリストは、リトルベアーの中で鈍い光を放った。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER
ラス・ゲデヒトニス(gc5022
45歳・♂・EP
住吉(gc6879
15歳・♀・ER

●リプレイ本文

 チュニジアとリビアの国境、デヒバト。
 アフリカ奪還作戦が進行する最中、リビアへ潜伏しているバグアを叩くべく進軍を開始するUPC軍。北アフリカからバグアを一掃して地中海を奪還するためには、リビアを放置する訳にはいかない。
 だが、ここで進軍にストップがかかる。
 アフリカ大陸中央部の戦闘を見据えた再編成が行われる事になったためだ。
 リビア攻略を目前にした戦士達の心に大きな負荷がかかる。

 そんな最中――UPC軍キャンプを襲撃するキメラの一団。
 デヒバト郊外に現れたキメラを掃討するため、傭兵達は行動を開始する。

「完全に暗くなる前に片付けたいところですが‥‥難しいですよね」
 イスネグ・サエレ(gc4810)は、ジーザリオから降りて東の空を見つめていた。
 西の地平線に太陽が掛かり、間もなく闇が訪れる。
 相手はヘビ型キメラとトカゲ型キメラ、暗闇では敵の方が優位に動ける事が予想される。
 そこで、イスネグはジーザリオのライトを照らし続けていた。
 こうする事で、少しでも敵の姿を光の下へ引きずり出そうという訳だ。
「こっちも準備OKだ。車両は必要最低限だが、無いよりはましなはずだ」
 別のジーザリオから下車したのは、ラス・ゲデヒトニス(gc5022)。
 イスネグのアイディアに乗って、バロサ・パウエル少尉――通称キャット――からジーザリオを数台借りる事ができた。
 相手がキメラである以上、動き回る事も予想される。そうなればジーザリオの光ではカバーできない事も分かっている。しかし、完全な暗闇でなくなる事は傭兵達とって重要な意味を持っていた。
「キャンプに敵の侵入を阻止しないといけません。まあ、夕飯前の軽い食事と参りましょうか」
 超機械「扇嵐」を手にしている住吉(gc6879)。
 UPC軍のキャンプにキメラが入り込めば、少なからず被害が出る。それは、今後控えるリビア攻略にとって何らかの影響を及ぼすだろう。やはりベストはキャンプへの被害を一切出さずにキメラを撃退したいところだ。
「あのー」
 住吉の言葉を聞いて、ラスのジーザリオに同乗してきたキャット話しかけてきた。
「なんですか?」
「さっき、夕飯前の軽い食事と言っていませんでしたか?」
「ええ、言いましたよ。夕飯はパスタがいいですね〜」
「え!? こちらで用意するんですか?」
 キャットは、大声を上げて驚いた。
 間もなく夕暮れとなる状況下、食事を早々に用意できるのはUPC軍のキャンプぐらいだろう。しかも、砂漠という過酷な自然環境の中で、パスタという大量の水を必要とする食事を要求した時点で、キャットの胃がキリキリと痛み出す。
「ぶわっはっは。面白い娘だ」
 住吉とのやり取りを見ていたリトルベアーが、歩み寄ってきた。
 肩には愛用のハンマーである「カリスト」を乗せて近寄ってくるリトルベアーは、まさに屈強の男。さらに豪快な性格は、バイキングを彷彿とさせる。
「キャット、パスタを用意しておけ。キメラを蹴散らしたら、パスタとワインで勝利を祝うぞ」
「ええーっ!? 
 ここ、砂漠ですよ。そんな事で水を使えば‥‥」
「あん? 何か言ったか?」
 ドスの効いた声でキャットを威圧するリトルベアー。
 UPC軍、傭兵という立場を無視した二人独自の関係が出来上がっているようだ。
「‥‥いえ」
「分かったら、さっさと晩飯の準備に行け。キメラは俺達で叩き潰してやるから」
 キャットを追い立てるリトルベアー。
 暗闇の中へ走り去るキャットの後ろ姿に、中間管理職の哀愁を感じずにはいられない。
「予定ではそろそろキメラが到着する時刻か」
 終夜・無月(ga3084)は、敵が現れるとされる方角に視線を送った。
 終夜にとって今回の任務は単なるキメラ退治ではない。能力者という存在が持つ可能性を試す重要な実験を行おうとしていた。
 果たして自らの理論がどのような結果を生み出すのか。
 それはキメラとの戦いを通じて判明するだろう。
「間もなく開演――なら、そろそろ舞台の準備が必要ですわね」
 ミリハナク(gc4008)は火の付いたタバコを地面に向けて放り投げた。
 タバコが地面へ着地した瞬間、地面が激しく燃え上がる。
 キメラがヘビやトカゲである事に着目したミリハナクは、事前にズブロフを地面に巻いた後で火を付けた。敵が本能的に炎を避けると同時に、照明代わりとする事を狙ったようだ。
「炎に彩られた舞台。リビア攻略を占うには打って付けの舞台だ」
 終夜は、拳を強く握り締めた。


「どらっ!」
 リトルベアーのカリストがトカゲの顔面を捉えた。
 顔面を潰されたトカゲは、体を痙攣させながら絶命。その生命活動を完全に停止するに至った。
 UPC軍キャンプを襲撃したキメラの一団は、UPC軍キャンプへの侵入を試みる。しかし、事前に敵の登場を待ち受けていた傭兵達は、手筈通りキメラに対して迎撃を開始する。
「イスネグ、次の敵は何処だ?」
 リトルベアーの豪快な声が木霊する。
 イスネグは意識を集中させて、敵の動きをバイブレーションセンサーで掴もうとする。
「倒したトカゲの後方、ヘビが来ます」
 トカゲ自身は動きは少々素早いものの、撃たれ弱い。
 ヘビも毒を使ってこないところから、それ程苦戦する相手ではない。だが、トカゲと戦っている最中にヘビに巻き付かれる可能性もある。ヘビは今回の戦いで要注意すべき存在である。
「よし! 腕の見せ所だ」
 イスネグの声を聞いたラスは、ヘビの迎撃へ向かう。
 既にラスの前方からジーザリオのライトに鱗を晒した巨大なヘビが近づきつつあった。 ヘビはラスに狙いを定めているらしく、口から舌を覗かせながら攻撃の機会を窺っている。
「先に攻撃を仕掛けるのはこっちの方だ」
 ラスは腰に付けていたランタンをヘビの右側に向けて投げ込んだ。
 ガラスに入っているといっても、炎を内に秘めている以上は熱を持っている。その熱を感知したヘビは、本能的にランタンの方へ顔を向ける。
 その瞬間を、ラスは逃さない。
「所詮は、単なる動物だな」
 一気に間合いを詰めたラスは、械爪「ラサータ」でヘビの首元を斬りつけた。
 超圧縮レーザーが鱗を引き剥がし、肉を削ぎ落とす。
 痛みを受けて反射的に体を反らすヘビ。
「お客様、本キャンプの営業時間は終了しました。お帰りの際の勝手口はそちらで御座います〜」
 住吉が超機械「天狗ノ団扇」でヘビの周囲に激しい旋風を発生させる。
 旋風に巻き込まれたヘビは、体を左右に揺さぶられた後で砂漠の方へと弾き飛ばされていった。
「んー。思ったよりも、飛んだみたいですねぇ」
「ちっ、トドメは持って行かれたか。まあ、重要なのはキメラをぶっ倒す事だ」
 ヘビを倒しきれなかった事を悔やむラスだったが、キャンプに被害が出ない方が重要だ。
 敵は、まだまだ存在する。
「ふふ、次も私がいただいちゃいますよ。
 イスネグさん、近くに敵はいますか?」
「九時方向にトカゲがいます。既にリトルベアーさんが向かいましたよ」
 二人がヘビに集中している隙に、リトルベアーは次なるトカゲに向かって動き出していた。
 ただでさえ、豪快な男だ。放っておけば、全ての敵を倒しに動き出す可能性もある。
「ったく、あのおっさんは‥‥」
 ラスはリトルベアーの身を案じながら、その後を追いかけ始めた。


「‥‥そう、予想通りにはいかないか」
 終夜は、眼前のトカゲと睨み合いを続けていた。
 終夜の実験は、エミタは体内のSES機関単体でもキメラなら倒せるのではないかというものであった。キメラのフォースフィールドを越える事ができればダメージを与えられるのであれば、能力者の徒手空拳でもキメラを倒せるかもしれない。
 終夜はその推論を試すべく、眼前のトカゲと格闘を続けていた。
「どうやら、実験は芳しくないようね」
 ハミングバードを手にしたミリハナクが現れた。
 ミリハナクの放った炎のおかげで多くのキメラは炎を迂回。そのおかげで敵の位置を簡単に予測する事ができる。キメラを倒す最中、一匹のトカゲと格闘する終夜の姿を見つけて近寄ってきたようだ。
「ああ。多少は手傷を負わせているようだが、効果は今ひとつのようだ」
 それが、終夜が感じた率直な感想だ。
 そもそも、SES搭載武器で攻撃を行う際にはエミタAIが制御。インパクトの瞬間に最大効率を発生させるように攻撃を行っている。つまり、ダメージを与えられているものの、大ダメージを与える事は難しいようだ。
「そう。その様子だと納得したようね。
 悪いけど、そろそろケリを付けてもらえるかしら。もうすぐ陽も落ちるから」
 そう言い放ったミリハナクは、踵を返して次なる敵を求めて歩き出した。
 暗闇になれば、敵を発見しにくくなる。
 可能であれば、明るい内に敵を相当数倒しておきたいところだ。
「‥‥了解」
 終夜はそう呟くと、明鏡止水の柄に手を掛ける。
 だが、トカゲは終夜が構えを降ろしたと考えたのだろう。
 牙を剥きだして終夜に向けて飛び掛かった。

 ――ザシュッ!
 
 終夜が鞘から抜き放った刀身は、飛び掛かってきたトカゲの体を引き裂いた。
 空中にて斬り開かれたトカゲの体は、体液を撒き散らしながら無様に地面へと落ちた。
「‥‥さて、任務を終えるとするか」
 太陽は、完全に地平線の奥へと姿を消した。
 闇が支配する世界の中、終夜の明鏡止水をジーザリオのライトが静かに照らす。


「‥‥ぬおっ!」
 リトルベアーの体を、ヘビがその身を巻き付ける。
 強烈な締め付けは、リトルベアーから自由を奪う。さらに、両腕を押さえつけられているために、ヘビを攻撃する術が失われている。
「くそっ、一人で何でもやろうとするからだ」
 ラスは、リトルベアー救出に動き出す。
 一人でキメラに向かって突き進む姿は勇ましいが、慢心が油断を産んだ。
 リトルベアーはジーザリオのライトも、ミリハナクの放った炎も届かない闇へ突き進む。
 その結果、暗闇から忍び寄ってきたヘビの存在を見落としていたようだ。
「ぬぉぉぉっ‥‥」
 ヘビはリトルベアーの体を、更に締め上げた。
 既に傭兵達の活躍でトカゲは全滅。残るはリトルベアーを締め上げるヘビ一体となっている。だが、最後の最後でリトルベアーがドジを踏んだという訳だ。
「ああ、リトルベアーさん。さっき足下に気を付けるよう言ったばかりなのに‥‥」
 イスネグは困惑気味に呟いた。
 気を付けるように言ったのは、ほんの数秒前。
 だが、そもそもリトルベアーの豪快過ぎる性格を考えれば、イスネグの注意も話半分に聞いていたのだろう。
「わ、分かったから何とかしてくれ‥‥」
 こうしている間にも、ヘビは調子に乗ってリトルベアーの体を締め付ける。 
 その行為が、他の傭兵が集まってくる結果となる事も気付かずに――。
「そらよっ!」
 ラスは、リトルベアーの体を締め付けるヘビの体を駆け上って一気にジャンプ。
 リトルベアーの頭上で鎌首を上げた格好になっているヘビに視線を合わせる。
「さっさと離せ!」
 ヘビの顎を脚甲「望天吼」を蹴り上げた。
 リトルベアーを締め付けた状態となっていたヘビに回避方法はなく、ラスの蹴りが直撃。顎を蹴られたヘビは、頭から後方へと倒れ込む。同時に、リトルベアーを締め付けていたヘビの体から力が抜ける。
「よしっ、これで逃げ出せる」
 締め付けていたヘビの体を押しのけるようにして、リトルベアーは脱出する。
「美女と野獣‥‥カリストは変身前の最も美しいニンフの時の方が、見ていて楽しいですのにねぇ」
 ヘビから脱出するリトルベアーを見ながら、ミリハナクはぼそりと呟いた。
 ギリシャ神話においてアルテミスの従者として知られるニンフだが、怒りを買って熊の姿に変えられてしまったカリスト。
 リトルベアーは、まるで熊そのもの。まるで、リトルベアー自身が呪いを受けたカリストではないかと思える程だ。
「本当、残念」
 ため息混じりにそう言ったミリハナクは、ハミングバードをヘビの頭に突き立てた。


「んー。待ちに待ったパスタですわ‥‥って、あれ?」
 キメラ撃退後、パスタをリクエストしていた住吉の間に出されたのは一枚の皿。
 そこにはトマトベースの煮込みと、その脇に粒状の粉が盛られている。
「キャット様、これは何ですか?
 私はパスタを要望したのですが‥‥」
「ええ。ですから、パスタですよ。クスクスも結構美味しいですから食べてください」
 キャットの言う通り、クスクスも小麦から作られている。直径は1ミリ程であるが、クスクスもパスタの仲間である。ちなみに、一般的な麺となっているパスタはスパゲティであるが、その細さによって呼び名も変わってくる。
「ううー、何か違う気がしますが‥‥これはこれで美味しいですわ」
 スプーンでクスクスを掬い、口へと運ぶ。
 トマトの煮込みもスパイスが効いて食欲をそそる。おそらく、茹でる水を節約できるように、キャットはクスクスを選んだのだろう。
「キャットの奴め、揚げ足を取るような真似をしおって」
 ぶつぶつと文句を言いながら、リトルベアーはクスクスを口へ運ぶ。
 文句を言いながらもしっかり食べる辺りが現金である。
「そう言うな。あれでもUPC軍の中では悪い軍人じゃない。
 勝利には傭兵と軍の両方が必要だ。そいつを忘れるとバグアには負けるだろうな」
 ラスは敢えて語尾を強調した。
 リトルベアーは、リビア攻略の際に軍のあり方を批判していた。だが、対バグア戦では傭兵とUPC軍の双方が必要である。片方が欠けても勝利はできない。だからこそ、お互いはいがみ合う訳にはいかない。
 ラスの言おうとしていた事を理解したリトルベアー。
「‥‥分かった、分かった。
 待つ事も任務という訳。仕方ない、今はこいつを食べて待つとするか」