●リプレイ本文
「軍曹、作戦通りに攻撃を開始する」
秋月 愁矢(
gc1971)はOwl−Earを通して、後方より援護射撃を行うブラウ・バーフィールド(gz0376)軍曹へ声をかける。
旧習志野駐屯地にて気付かれたバグア基地は、正面入り口の門以外に進入経路は存在しない。入り口には二つの機銃を備え付けられており、侵入者を拒む事が容易に予想できる。このため、UPC軍は突入部隊を編成。本隊は入り口付近のバグア兵へ援護射撃を加えながら突入部隊を支援する手筈となっている。
「突入部隊、無理はするな。危険であれば躊躇無く撤退しろ」
「なにせ、習志野奪還を熱望される方もいますから‥‥」
古河 甚五郎(
ga6412)は、軍曹の危惧に対してため息をついた。
今回作戦に参加した傭兵達の中には、習志野という場所に対して思い入れのある者も居るようだ。
甚五郎は、自分傍に居る緑川安則(
ga4773)へ視線を送る。
「街に待った時が来たのだ。
多くの英霊と戦友の死が無駄死にでなかった事を証明するために。
習志野空挺の意地を見せるために!
バグアよ! 私は帰ってきたぞ!」
元習志野空挺部隊だった緑川にとって、この地がバグアに奪われたままである状況を見過ごす事はできなかった。この習志野を奪還する事で、悲願を達成するつもりのようだ。
「いくぞ!」
緑川は獣の皮膚を使って、体を獣人化。龍の鱗が皮膚を覆う事でバグア兵の弾丸を弾くつもりだ。
イアリスを握り締めて、緑川はバグア習志野基地へと突貫する。
「前衛、秋月愁矢。前に出る」
プロテクトシールドを手にした秋月も、習志野基地へ向かって前線する。
既にバグア兵のアサルトライフルがプロテクトシールドへ直撃。派手な金属音が響き渡っているが、蒼き壁と化した秋月の前進を止める事はできない。
「前衛を支援する。火力を前面へ集中させろ」
脇の茂みからブローンポジションで援護射撃を行うのは、井筒 珠美(
ga0090)。
珠美も元陸上自衛隊出身ではあるが、生憎と普通科。習志野との繋がりは薄いが、任務である以上は手を抜くつもりはない。
今回の作戦は、前衛部隊を機銃へ到達させる事が第一歩となる。後方からの援護射撃を行い、何としてもあの機銃を黙らせなければならない。
「撃て! 但し、仲間を背中からは撃つなよ」
珠美の言葉を受けて、UPC軍兵士もアサルトライフルで応戦を開始。習志野基地前は、弾丸が飛び交う戦場へと変貌した。
「習志野は空挺の聖地なんでね‥‥返してもらおうか!」
壁となっていた秋月の背後から、堺・清四郎(
gb3564)が飛び出した。
狙うは、機銃を操作するバグア兵。獅子牡丹を鞘から抜き放ち、必殺の間合いまで走り抜ける。
――だが。
「!」
清四郎の動きを読んだバグア兵がアサルトライフルを片手に立ちはだかる。
ここでバグア兵を切り伏せる事は可能だが、後方から機銃の攻撃を受ける事は避けられない。
そこへ無線機を通して、狐月 銀子(
gb2552)から声が掛けられる。
「そのまま走り抜けろ!」
重傷の体を引き摺りながらの作戦参加となった銀子。手にしているエネルギーキャノンの照準は、習志野基地前面を捉えている。
「吹き飛べっ!」
エネルギーキャノンの引き金を引いた銀子。
放たれたエネルギーの塊が、バグア近くで炸裂。清四郎の前へ立ちはだかっていたバグア兵も、地面に転がっている。
「‥‥‥‥」
ルリム・シャイコース(
gc4543)は、前方の銃座に向かって閃光手榴弾を投げ込んだ。
放たれる閃光。
一瞬のホワイトアウト。バグア兵も突然の閃光で視界を失う。
「くらえっ!」
堺は、飛び上がると同時に銃座の傍に居たバグア兵に、獅子牡丹を振り下ろす。
袈裟斬りで斬り開かれたバグア兵の体から、大量の体液が噴き出す。
「‥‥‥‥」
ルリムは、地面に転がったバグア兵の首にシザーハンズを突き立てる。
バグア兵はエネルギーキャノンと閃光手榴弾の影響で浮き足立っている。
「‥‥やれやれ。なら、突入開始といきますかねぇ」
瞬速縮地で接近し、バグア兵を獣突で弾き飛ばしていた甚五郎。
習志野駐屯地内部を目指して動き出す。
基地の中についての情報は皆無に等しい。
バグア指揮官を発見して撃破する事が出来るか、否か。
それは突入部隊の奮戦にかかっている。
●
「なんだ、ここ?」
テト・シュタイナー(
gb5138)は、奇妙な光景に首を傾げた。
そこには木造家屋が建ち並び、細い路地には電柱らしき物が立っている。今まで誰かがが住んでいたかのような風景が、そこにあった。。
「建物の中に入ったのに、街があるよ」
澄野・歌奏(
gc7584)も何が起こっているのか理解できない、という様子だ。
「凝った迷路だ‥‥待ち伏せや罠でもありそうなんですが‥‥」
ライフルを片手に滝沢タキトゥス(
gc4659)は周囲を警戒する。
先程、家の中をチェックしてみたが、ブラウン管テレビは室内アンテナ。だが、通電していないらしく、灯りと言えば電柱の上で光る小さな外灯だけだ。
「ここに敵の指揮官はいる。一軒一軒虱潰しに捜していくのか?」
シクル・ハーツ(
gc1986)は、現実的な提案を行う。
今、傭兵達に課せられた任務は、この街の何処かに居るバグア指揮官を倒す事だ。
「‥‥それしかない」
警視庁警備部第四機動隊の松田速雄は、静かに呟いた。
敵が動きを見せない以上、こちらから動く他ないだろう。
「大した趣味だ。さっさと終わらせて焼き肉でも食いたいもんだ」
湊 雪乃(
gc0029)は、大きくため息をついた。
基地内部へ潜入した後で、隠れんぼが始まるとは思ってもいなかった。
「そうだな。戦力を別けて敵指揮官を捜索しよう」
拳銃「ヘイズ」にサプレッサーを取り付けながら、珠美は傭兵達へ提案を行う。
傭兵達を3班に分ける。それぞれ中央、左、右のルートに分かれて指揮官を捜索するというものだ。
「そうだな、それが手っ取り早そうだ。くそっ、面倒取らせやがって」
テトは気持ちを切り替えて、敵指揮官捜索に全力を挙げる事にした。
●
「うわー、本当にお家だよ。これ」
右ルートを進む澄野。
小銃「NL−014」を手に家屋の内部を警戒しているが、今のところ人の気配はない。
「シクルちゃん、バグアの指揮官ってどんな人かな?」
「‥‥分からない」
シクルは、ぽつりと呟いた。
習志野基地内部は謎な事があまりにも多すぎる。現段階で集まった情報は皆無に等しい。
「世間話は警戒が緩くなる。周囲に気を配った方がいい」
「はーい」
シクルに諭された澄野は、再び周囲へ目を向ける。
薄暗い闇の中で徐々に目が慣れてきたらしく、置かれている物が分かるようになってきた。
丸いちゃぶ台。
木製の茶箪笥。
台所にある金色のやかん。
今、これらを使っているものは少数だろう。
「ん? あれは‥‥」
澄野は、闇の中で目を凝らした。
隣の家屋に見えるのは、白衣を着た男が立っている。
「あなた、誰?」
澄野は少し大きめな声で男に話しかける。
男は澄野の言葉に、思わず笑みがこぼれた。
「人の家に来て、誰と聞きますか。傭兵は変わっていますね」
「歌奏! そいつは敵だ!」
男の存在に気付いた秋月は、プロテクトシールドを構えながら澄野の前に立った。
傍らに居たルリムも、静かに覚醒する。
闇の中でも分かる怪しい佇まいは、明らかに人間のものではない。
「指揮官、とは正確には違いますね。
私はDr.エリア。この習志野基地の技術責任者です」
「どちらでも同じ事。バグアである以上、倒します」
シクルはDr.エリアを見据えた。
たった一人で四人を相手にしようとしているのか。
――シュッ!
ルリムは瞬天速でDr.エリアとの間合いを詰める。
肉薄するルリム。
しかし、Dr.エリアにシザーハンズの刃は届かない。
「!?」
「失礼。あなた達と遊びたいと、ジェネレーションXが聞かないんですよ。
」
Dr.エリアの背後から現れたのは麻袋を被った大男。右手は大剣となっており、シザーハンズは右手の刃に遮られていたようだ。
「がっ!」
右手の大剣を力任せに振るうジェネレーションX。
ルリムは後退して間合いを取るが、大剣を振り上げながら追いかけてくる。
「退け」
振り下ろそうとした隙を狙ってシクルはジェネレーションXの顔面に弾頭矢を叩き込む。
炸裂した火薬は麻袋を燃やしながら、ジェネレーションXに悲鳴を上げさせる。
「ギャァァァ!」
「さすがですね。傭兵の皆さん。その調子で遊んであげてください。
――『彼ら』と」
Dr.エリアの言葉に呼び出されたかのように、前後の路地を挟む二体のジェネレーションX。どうやら、Dr.エリアの罠にかかってしまったようだ。
「‥‥こいつは厄介だな」
ソードブレイカーの柄が汗ばんでいる事に、秋月は気付いた。
●
一方、左ルートを進んでいた面々も、敵の襲撃を受けていた。
「包囲させるな!」
珠美のSMG「スコール」が、銃声と共に弾丸をばらまく。
ジェネレーションXは右腕の大剣で弾丸をたたき落としているが、動きが鈍く数発の弾丸が体へ突き刺さる。
しかし、痛みを感じていないのか。珠美に向かって走り寄ってくる。
「これなら、どうだ」
再びスコールの引き金を引く珠美。
ジェネレーションXは先程と同じように右腕の大剣で弾を叩き落とそうとするが、数発の弾丸が跳弾。ジェネレーションXの顔面へと突き刺さる。
「グァ!」
この一撃に足を止めたジェネレーションX。
銃弾を受けた箇所を左手で押さえつけている。
「俺からのプレゼントだ。ありがたく受け取れ!」
滝沢のライフルが、ジェネレーションXへ向けられる。
放たれた銃弾は、ジェネレーションXの手を貫く。珠美の弾丸を奥へと押し込む一撃が、頭部を破壊。思考停止したジェネレーションXは、その場へと倒れ込んだ。
「袋被って前が見えるかよく分からない奴だけど、面倒な奴には変わりないか」
左ルートの面々は既に数体ジェネレーションXを倒しているが、指揮官らしき者は見つかっていない。
「そちらも終わったか」
獅子牡丹を鞘に収めながら、清四郎が戻ってきた。
甚五郎と共に背後に現れたジェネレーションXを始末する事に成功したようだ。
「こう邪魔が入ってばかりでは他班へ合流する事も難しい。仲間が危険にならなければ良いが‥‥」
「うーん、堺さんの予感。的中みたいですねぇ」
無線機に耳を傾けていた甚五郎。
無線機から聞こえるのは、銀子の声。
その声は、珠美達への救援要請だった。
「敵指揮官を発見。各班、中央ルートへ集合して!」
●
「土足で上がり込むたぁ、傭兵はマナーがなってねぇな」
バグア習志野基地指揮官の松戸昏一郎は、そう言いながらガトリング砲の放った。
数秒前まで雪乃が立っていた木製の壁は、弾丸によって穴だらけとなっている。
「人の物を奪っておいて、その発言はないんじゃないか?」
着地する雪乃。
周囲はジェネレーションXに囲まれ、眼前はアロハシャツにカンカン帽を被った松戸がガトリング砲を構えている。
おまけに――。
「流石に、無理があるかな‥‥」
重傷の銀子が、悔しさ混じりに呟いた。
緑川が銀子を守る形で護衛しているが、もし緑川が居なければ銀子の傷はさらに広がっていたかもしれない。
怪我人を守る形での指揮官遭遇は、傭兵達にとっても危険な状況に他ならなかった。
「司令官殿とお見受けする。悪いが、習志野は第一空挺団の誇りなんでな。返してもらおうか?」
緑川は松戸に向かって、敢えて強気の発言をした。
会話で長引かせる事で、他の傭兵が合流する時間を稼ぐ事が出来ると考えたからだ。
「それより、俺が何でここにこの街を作ったか分かるか?」
「想像もつかないな」
「だろうねぇ。
‥‥俺は、今まで勝った事がねぇ。バグアの中でも最下層の存在だ」
松戸は、ガトリング砲を構えながら語り出した。
戦闘で勝つ事に価値を見いだすバグアにとって、松戸は異質な存在。そのため、松戸は習志野へ左遷。東京があれば、習志野はバグアにとってそれ程重要な拠点じゃない。
松戸は言葉を続ける。
「ある日、消えていく存在としてこの街並みが描かれた本を手に入れた。
新しい街に駆逐されていく古い街。俺ぁ、この街から勝利を重ねて上の連中を見返してみせる」
敗者は敗者としてプライドを持っている。
傭兵達に勝利を収める事で、最下層のバグアが上層部を見直したい。この街を作る事で決意表明としたかったようだ。
「だからなんだ、負け犬!」
ジェネレーションXの大剣をスウェーで躱しながら、背後の回り込む雪乃。
膝裏を魔刀「鵺」で斬りつけ、派手な出血を促す。
バランスを崩すように片膝をつくジェネレーションX。
頭部の位置が低くなった瞬間を見越して、雪乃は飛び上がる。
「この街は負け犬の街じゃねぇ!
大切な物はちゃんと受け継がれていたんだ!」
空中で体を回転させながら、雪乃は左足に装着した機械脚甲「スコル」を叩き込む。
ブースターによって加速が付いた回し蹴りは、ジェネレーションXを松戸の方へと吹き飛ばした。
「ちっ」
ガトリング砲を抱えながら、バックステップする松戸。
その隙をテトは見逃さない。
「角刈りのおっさん、今だ!」
「了解」
着地を狙って松田のガトリング砲が火を噴いた。
さらにテトがエネルギーキャノンMK−IIを放った。
打ち出される弾丸は、松戸の元へと飛び込んでいく。
――しかし。
「!!」
二人の攻撃は、割り込んできた数体のジェネレーションXによって遮られた。
見れば、ジェネレーションXの小脇にDr.エリアの姿があった。
「松戸、ここは撤退しよう」
「そうだな。失う物がない敗者の俺達にとって、逃げる事はなんでもねぇ」
顔を見合わせた二人。
軽く頷いた後、Dr.エリアは手にしていた杖を空へ掲げて大きく回した。
それを受けて周囲から集まってくるジェネレーションX達。
「くそっ、昭和風味のホラー野郎が団体でやって来やがった!」
テトもエネルギーキャノンで応戦しているが、周囲から集まってくるジェネレーションXの処理に追われる始末だ。これでは松戸達を追いかける事もできない。
「おい、第一空挺師団の奴」
松戸は、緑川へ話しかける。
雑踏と叫び声の中、松戸の声だけがはっきりと緑川の耳に飛び込んできた。
「習志野はお前達にくれてやる。
だが、油断しねぇ事だ。すべてを失った敗者は、何をするかわからねぇぞ」
その後、他班も合流。
ジェネレーションXを無事排除する事に成功した。
だが、指揮官の松戸とDr.エリアは逃走。習志野を奪還したものの、バグア指揮官は房総半島方面へ逃げた事が確認されている。
指揮官は取り逃がしたものの、千葉奪還に向けて人類は大きく動き出す事になる。