●リプレイ本文
傭兵稼業は、これで終わりだと思っていた。
元々、命を賭けて何かのために戦うような人間じゃない。
目的の為に戦い続けてきただけだ。
その目的が達成された時、傭兵から足を洗う時だ。
朧気ながら、そんな風に考えていた。
そして――。
キーオ・タイテム(gz0408)を倒すという目標を果たした。
これで、傭兵として終わる事ができる。
もう、無理な戦いをする必要はないんだ。
だが、運命は皮肉なものだ。
あれ程嫌気が差した戦場に、未だその身を晒している。
ゼカリア改に騎乗し、アラビア半島のバグア拠点『クウト』へと進軍している。
自分が戦いを望むのか。
それとも、戦いが自分を望むのか。
心の奥で餓えている獣でもいるのだろうか。
不安と焦燥に耐えながら、ラリー・デントン(gz0383)は戦列の中に身を置いていた。
●
「寒いっ!」
館山 西土朗(
gb8573)がイビルアイズの操縦席で叫んだ。
付近は一面砂漠。眼前には砂嵐が渦巻いているとはいえ、太陽に熱せられた空気は今も深いに感じさせる。寒さを感じる要素は皆無なのだが‥‥。
「‥‥‥‥」
「おいっ、ラリー。そこは『何処が寒いんだ』と返してくれるところじゃないのか?」
返答のないラリーに対して館山は呟く。
なにせ、さっきからラリーは上の空。何を話しかけても、返答に心がこもっていないのだ。
「‥‥ああ、悪ぃ」
「ラリー、発泡酒の飲み過ぎたか。
やはり、飲むなら麦芽ホップ100%のビールだよなぁ」
館山のその言葉に対しても、ラリーは沈黙を守った。
実際、ラリーはここへ来るまでに発泡酒を何本も飲んでいた。いくらビールを腹に流し込んでもまったく酔えない、というラリーの言葉が脳裏に蘇る。
「おい、ラリー。しっかりしろ」
ラリーの様子を案じたユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)が話しかける。
「ユーリか。心配かけたか」
「今から向かう場所は、アラビア半島でも重要拠点と目される場所だ。
敵は相応の反撃を仕掛けてくるだろう。ぼーっとしていると、死ぬぞ」
ユーリは、語気を強めた。
キーオという指揮官を失ったバグア軍ではあったが、未だバグアの残存兵力は油断できない。キーオという目標を失って頼りない雰囲気のラリーが戦場へ赴く事に不安を隠せない。
「しゃきっとしろ、ラリー。
こんな情けないのに負けたのかって、キーオの奴‥‥がっかりするぞ」
ユーリの口からキーオの名前が出た瞬間、ラリーは身を震わせる。
フラッシュバックする――思い出。
倒れたキーオに向けたアサルトライフルの銃口。
そのアサルトライフルの引き金を引いたラリー。
それは、かつての上官との決別を意味していた。
空気でラリーの動揺を察したのか、夜十字・信人(
ga8235)が声を掛けた。
「ラリー、お前‥‥」
「‥‥‥‥」
しばしの、沈黙。
重圧と不安がラリーの心を締め付け、キーオの意志が入り交じった空気が肩にのし掛かる。
戦う覚悟もない人間が、ここに居て良いのだろうか。
ここにキーオが居れば、何と言っただろうか。
ラリーの脳裏に様々な思惑が渦巻く。
――しかし。
「‥‥お前、ちゃんとKV持ってたんだな」
「は?」
「お前、借金だらけな上に依頼料は全部酒に消えていただろう。KVを持てるだけの金があるとは思ってなかった」
夜十字の言葉に、ラリーは操縦席のシートから滑り落ちそうになった。
確かに夜十字の言う通り、貯金がない上に借金だらけだ。それでも、KVだけはしっかりと確保していた。
「よっちー、今それを言うのか」
「ん? 何かおかしな事を言ったか?」
「‥‥いや、何でもない。俺が悪かった」
ラリーのため息を聞いた夜十字は、ほんの少し安堵した。
ラリーが大変な時、傍に居られなかった事を悔やんでいた夜十字。だが、当のラリーは迷いながらも多くの人に支えられているようだ。
夜十字のおかげで空気が一変した為か、ラリーに明るさが戻ってきたようだ。
「先の戦いは、貴方の終着点ではない。新たな分岐です」
重傷の体に鎮痛剤を摂取しながら参加しているのは終夜・無月(
ga3084)。
思い悩むラリーを前に、言葉を掛けずには居られなかったのだ。
「一度決めて歩きだしたのだから‥‥後は方向を定めるだけですよ。
時に迷うかもしれませんが、それは定めるべき方向を迷っているのです。
結局、人は歩き続けるしかないんです」
目標を失い、迷うラリー。
その姿を見ていた終夜は、この戦いに参加せずには居られなかった。
ラリーが、戦い続けてもいい。
もしくは、傭兵を辞めてもいい。
重傷を負って満身創痍のみであっても、一度関わりを持ったからには最後まで付き合う。
それが終夜が自らに課した責務であった。
「あー、周りに心配掛けまくっちまったか。らしくねぇな」
「ゆっくり調子を取り戻して‥‥と言いたいところですが、戦場はもう間もなくですよ」
「え?」
思わずモニターへ視線を送るラリー。
終夜の言葉で事態に気付いたラリーの眼前には、砂嵐が渦巻いている。
覚悟も中途半端なラリーは、今から命を掛けた戦いをしなければならない。
「ツイてねぇ‥‥。いや、ツイてねぇのはいつもの事か」
ラリーは、再び大きなため息をついた。
●
それは本能的に発せられた一言だ。
「‥‥気にくわないわね」
砂嵐の中を進むミリハナク(
gc4008)は、呟いた。
今までの戦場と違う何かを、ミリハナクは感じ取っていた。
敵の気配や罠といったものじゃない。砂嵐に隠れた敵であれば、叩き潰せば良いだけだ。
しかし、今感じ取った感覚はそんなものじゃない。
戦場独特の気配とは異なる――何か。
(何かしら、これ?)
それが一体、何なのか。
ミリハナクにも分からない。だが、無性に神経を逆撫でられる感覚を覚える。アラビア半島を強行偵察した際には、そんな感覚はなかったのだが‥‥。
「先を進めば分かるのでしょうけど‥‥不快ね」
ミリハナクからすれば、この不快感を敵にぶつければ良いのだが‥‥。
原因不明の中に苛立ちを隠せないようだ。
●
「いけない子。ここまで来てしまうとは‥‥」
間近に迫るUPC軍を前に、上水流(gz0418)は一人心を躍らせていた。
クウトと呼ばれた砂の城を取り囲むように進軍するUPC軍。
それに迎え撃つバグア。
巨大な風に舞上げられた砂は、倒れた戦士達の上へと降り注ぐ。
そしていずれ、その亡骸は砂の海へと沈んでいく。
「ですが、実に素晴らしい。
敵も味方も、夢破れて絶望の深淵へ落ちていく。この流れは誰にも止められません」
上水流はUPC軍の到着を歓迎するかのように、両手を広げる。
砂漠の月作戦発動以後、アラビア半島は大規模な戦闘が繰り返されていた。敵も味方も関係なく、砂の地にてその身を晒す。激化する戦闘の中、ただ一人だけ上水流だけが歓喜の渦中に居た。
絶望の果てに死を迎える者達は、上水流にとって喜びの対象でしかない。
「さぁ、この戦いでも絶望の輝きを見せてください。
そして、この戦いの最後を飾る為――俺も手を貸しましょう。
今から、楽しみですよ。皆さんはどんな顔を浮かべるのか」
上水流は、踵を返す。
アラビア半島に、新たなるうねりを巻き起こすために。
●
リヤドに構築されたバグア拠点「クウト」。
砂を固めたかのような形状の城は、アラビア半島のバグア勢力にとって重要拠点として君臨。
付近には砂嵐が発生、空からの攻撃は難しい事が強行偵察で確認されている。
つまり、戦闘は陸上に限定される事になる。
如何にクウトへ接近できるのかが、この戦いの大きな鍵となるだろう。
「視界が悪くとも、密着してしまえば!」
立花 零次(
gc6227)の夜桜は、眼前に迫るゴーレムに向かって走り出す。
クウト城壁から放たれるプロトン砲を機盾「ウル」で防ぎながら、接近。三機編成のゴーレムに向かって肉薄する。
夜桜の右腕には、機刀「咲耶」が握られている。
「そらっ!」
夜桜は、ゴーレムに向かって突きを繰り出した。
必殺の間合いから少しばかり遠い気もするが、敵の出方を見るためには間違った選択をしていない。切っ先は、空気を切り裂きながらゴーレムをへと向かう。
しかし、敵の攻撃を黙って見守る程、ゴーレムも馬鹿じゃない。
――ガキンっ!
吹き荒ぶ空気の波に紛れて、響き渡る金属音。
夜桜の突きは、特殊強化サーベルによって阻まれたようだ。
その攻撃の隙を突く形で、右からもう一体のゴーレムが強襲。ブーストで空中に飛び上がり、夜桜に向かって特殊強化サーベルを振り下ろそうとする。
「邪魔なのじゃ!」
美具・ザム・ツバイ(
gc0857)は、スカラムーシュ・オメガのショルダー・レーザーキャノンで空中のゴーレムを狙い撃つ。
突如発生したレーザーキャノンの攻撃を受けたゴーレムは、予定の軌道から大きく外れて砂の地面へと叩き付けられる。
「ありがとうございます」
「感謝は後じゃ。
しかし、白蟻のようじゃな。倒しても城からうじゃうじゃ湧いてきおるわ」
立花の夜桜と背中合わせになる形で、スカラムーシュ・オメガを立たせる美具。
先程からクウトに向かって突撃を敢行しているが、ゴーレムが減っているという実感がない。おそらく、城にはまだまだ兵力を残しているのだろう。
「だが、数が多い事にも一つだけ良い事がある。あれだけいれば、手柄の取り合いにだけはならないという事じゃよ」
戦場の中でも自然体に振る舞う美具。
それは、王者の貫禄をも感じさせる堂々とした振る舞い。
立花も心強さを感じずには居られない。
「そうですね。これだけ居れば、敵は倒し放題ですね」
機盾「ウル」をSAMURAIソードに持ち替える夜桜。
二刀流となった夜桜は、ゴーレムをなぎ倒してクウトに向かって突き進む。
危険に対する覚悟を感じさせるには十分な出で立ちだ。
「ふふ、頼もしいのじゃ。それなら‥‥」
「あっと、ちょっとすいません」
スカラムーシュ・オメガの傍らからフェンリルを滑り込ませる住吉(
gc6879)。
美具のレーザーキャノンを受けたゴーレムに対して、CA−04Sチェーンガンで狙い撃ち。
体勢を立て直し切れていない瞬間を狙っての攻撃は、ゴーレムを始末するには最適であった。
「住吉殿、美具の言葉を遮るとは酷いのじゃ」
「ああ、すいません。
倒せる敵を確実に倒していかないと、練力切れになりそうな気がしまして‥‥」
住吉は慌てて謝罪する。
確かにゴーレム相手ならば、傭兵達も遅れは取らないだろう。
だが、これだけの数をすべて相手にする事は難しい。長期戦になれば練力が切れてKVが動かなくなる。そうなる前にすべてを終わらせる必要があるのだ。
「確かにそうじゃな。だったら、答えは一つじゃ」
スカラムーシュ・オメガを再び走らせる美具。
向かう先は、クウト。
彼の地を早急に攻め落とせば、勝利は確実となるはずだ。
「シンプルな答えですね。
でも、俺はそういう答え‥‥好きですよ」
美具の後を追うようにして夜桜を進ませる立花。
斬りかかるゴーレムをなぎ倒しながら、クウトへと確実に近づいていく。
●
クウト前に群がる敵戦力において、厄介な代物が二つある。
砂に隠れたアースクエイクとクウトの城壁に設けられたプロトン砲である。
プロトン砲そのものは対して脅威ではないのだが、ゴーレムに囲まれている最中にプロトン砲で攻撃される事は非常に厄介だ。迂闊に隙を見せれば狙い撃ちにされる可能性もある。
傭兵達の中には、このプロトン砲を片付ける事を最優先にした者も居る。
「コールサイン『Dame Angel』。敵城壁の砲門破壊を開始する」
アンジェラ・D.S.(
gb3967)は、スナイパーライフルD−02の照準で目標を捕らえていた。
前衛の部隊がゴーレムに対して突撃を仕掛けている。
その間を縫うような形でプロトン砲を後方から狙撃。砂嵐という悪条件下、肉眼で目標を捕らえる事は不可能に近い。だが、スカルメールの計器はクウト城門のプロトン砲を確実に捉えている。
(‥‥風は九時方向から。このため、弾丸は右へ逸れる‥‥)
アンジェラは風速を読みながら、経験で誤差を修正する。
プロトン砲の狙撃を同じ場所から行えるチャンスは、そう多くない。
狙撃を繰り返していれば、敵がこの位置を知る事になるだろう。ゴーレムがこれだけ多ければ、前衛を迂回して攻撃を仕掛ける者が居てもおかしくはない。
「‥‥逝け」
アンジェラは、引き金を引いた。
打ち出される弾丸。
左からの風に煽られ、弧を描きながらプロトン砲の砲身へ突き刺さる。
プロトン砲は発射直前だったらしく、クウト城壁から派手な爆発が起こる。
「命中を確認。次の目標に向けて移動を開始する」
アンジェラはスナイパーライフルに次弾を装填しながら、スカルメールを予定地点へと移動させる。
「狙撃はやっぱり格好いいねぇ。こっちも敵砲台への攻撃を開始しますか」
井出 一真(
ga6977)は、蒼翼号をクウトに向かって走らせる。
KV好きが高じて整備士になったKV好きである井出。今回も砂嵐の中という特殊環境に合わせて蒼翼号を整備してきている。
「さて、行きますか。
アクチュエーター、精密モード。スコープ‥‥良し」
蒼翼号のD−013ロングレンジライフルが城壁のプロトン砲を捕捉する。
射程にプロトン砲を収めても、心配な点がある。
それは、この砂嵐だ。
アンジェラは確実に命中させるために、いつもより目標近くに布陣。狙撃後、すぐにその場所を移動していた。つまり、遠距離から狙撃するにはそれなりの熟練した能力が必要となる。
この蒼翼号は、アンジェラよりも遠い位置からの狙撃を敢行しようとしている。
果たして、命中させる事ができるのだろうか。
「‥‥今です」
蒼翼号のロングレンジライフルから弾丸が発射される。
嵐を突き進む弾丸。
プロトン砲に向かって走り続ける。
しかし、偶然空中へ飛び上がったゴーレムを直撃。ゴーレムを討ち果たしたものの、弾丸の軌道は大きく逸れる。
「風以外の要素も馬鹿にならないな。誤差修正、次弾装填‥‥」
井出は敵と味方の交戦地域を計算に入れながら、弾道を計算し始める。
KV好きにとっては堪らない、愛機との対話。
次こそは巧くやってくれよ、と呼びかける瞬間。世界は愛機と井出の二人きりになる。
だが、ここは戦場。計算が終わるまで待ってくれるとは限らない。
「井出さん、前方からゴーレムです!」
井出と同じくクウト城壁のプロトン砲を狙っていた諌山美雲(
gb5758)は、井出へ呼びかけた。
瞬時に、井出を現実へと引き戻した。
「‥‥ちっ。編成からはぐれたゴーレムか」
蒼翼号をバックステップさせる井出。
計算を邪魔された事に苛立ちを隠せない。
誤差修正も完了、あとはプロトン砲を狙い撃つだけだったのだが‥‥。
「井出さん、構わずプロトン砲を狙ってください!
そのゴーレムはこちらで!」
諫山はスナイパーライフルSG−01の目標をプロトン砲から井出の眼前に立つゴーレムへと切り替えた。
一撃で倒せるかは分からないが、井出の狙撃を支援する事は可能だ。
「井出さんの邪魔をしないでください!」
諫山はゴーレムを狙い撃った。
ゴーレムに直撃した弾丸は、ゴーレムの体を後方へと吹き飛ばす。
井出の眼前は大きく広がる。
「ありがたい!」
蒼翼号は再びロングレンジライフルを放った。
弾丸はゴーレムを避けるように飛び、クウト城壁のプロトン砲へ到達。
アンジェラの狙撃に続いて、再び派手な爆発が巻き起こる。
前衛達への支援攻撃は確実に成功しているようだ。
●
「敵の城を陥落させるためにも、門番達を排除しなくてはならないな。
よかろう。俺と忠勝が、全力で排除させてもらおう」
試作型「スラスターライフル」を撃ちながら、ゴーレムとの間合いを詰めるのは、榊 兵衛(
ga0388)の忠勝。
倒しても倒しても、現れるゴーレムの群れ。
ならば、忠勝の武をもってゴーレムを排除すればいい。
試作型「スラスターライフル」の一撃が、ゴーレムの特殊強化サーベルを弾き飛ばす。
空中で回転しながら、地面へと突き刺さるサーベル。
ゴーレムの眼前には、機槍「千鳥十文字」に持ち替えた忠勝が迫っていた。
「せいっ!」
横へ振るわれる機槍「千鳥十文字」。
刃はゴーレムの体を貫き、ゴーレムを戦闘不能へと追い込む。
同時に、榊は計器で次なる目標を見定めて愛機忠勝へと指示を促す。
「やれやれ、これは傍観している訳にはいかないかな」
UNKNOWN(
ga4276)も、ゴーレムに向かって攻撃を開始する。
機盾「ウル」を手に敵の攻撃を防ぎながら接近。
ゴーレムも危機感を感じて特殊強化サーベルで迎撃を試みる。
「ふっ、慌てるな」
振り下ろされるサーベルを、UNKNOWNは盾で受け止めずに一歩下がった。
サーベルの軌道上に邪魔する者はなく、剣はそのまま通過。砂の上に刃が突き刺さる。
この隙に乗じて、UNKNOWNは手にしていた盾をゴーレムに押し当てる。
強い衝撃と共に、ゴーレムは大きくバランスを崩した。
「言ったろう、慌てるなって」
UNKNOWNは、再びゴーレムへ肉薄。
すれ違うように機体を動かしながら、ソードウィングがゴーレムの首を斬り落とす。
さらに振り向き様にナックル・フットコートβの一撃を胸部へ叩き込んだ。
ヨロヨロと体のバランスを崩して後ろへ倒れ込むゴーレム。
「UNKNOWNさん!」
倒したゴーレムの傍に居たUNKNOWNに対して井出の蒼翼号が近づいてきた。
どうやら、城壁のプロトン砲破壊が完了したようだ。
「‥‥どうやら、終わったようだな」
「ええ。あとはクウト周辺のゴーレムだけですね」
クウトのプロトン砲が破壊された事は、敵の遠距離攻撃に対する懸念が減ったという事。ならば、眼前の敵を倒し続ければいい。
「まあ、派手に行こう、か」
UNKNOWNは蒼翼号と共に、ゴーレムの群れへ突貫を開始した。
●
「振動確認! アースクエイクが来るぞ!」
夜十字のFrankensteinがアースクエイクの存在をキャッチしたようだ。
砂嵐の中、視界が悪い状態では索敵能力の高いKVは役に立つ。そういう意味では、夜十字のFrankensteinは十二分に働いていると言えるだろう。
「あのミミズか。で、何処に居るんだよ。よっちー」
ラリーは、夜十字に問いかけた。
戦闘前までやる気を失っていたラリーだったが、戦闘が開始した後ではいつものように働いているようだ。
「‥‥‥‥お前。キーオを倒しても、やっぱり死神が憑いたままだな」
「は?」
夜十字の一言に、ラリーは首を傾げた。
だが、その言葉の意味を、ラリーは数秒後に把握した。
「くそっ、ツイてねぇ!」
「各機、アースクエイクはラリーの居た地点。おそらく、ラリーのゼカリアが狙われている」
夜十字が各機へ通信を入れる。
ラリーもゼカリア改を全速で後退させているが、機動力に難があるKVだ。
ゴーレムを相手にしていた各機もラリーの護衛へと動き出す。
「本当にツイていない奴だな。わっはっは」
地面に倒れたゴーレムに機槌「明けの明星」を振り下ろしながら、館山は豪快に笑う。
必死な形相のラリーは、思わず館山を怒鳴りつける。
「笑い事じゃねぇ!」
「ああ、すまん。安心しろ、仲間は絶対に死なせん!」
イビルアイズを旋回させ、ラリーの元へと向かう館山。
仲間を死なせず、自分も死なずというモットーを護る為にも、ラリーの窮地は必ず救って見せる。
「アルヴァイム、ラリーを助けてくれ」
「‥‥了解しました」
夜十字の護衛をしていたアルヴァイム(
ga5051)は、【字】をラリーの元へ急行させる。
夜十字の護衛を行いながら、アースクエイクの登場も待っていたアルヴァイムだ。目標の登場とあれば、行かない訳にはいかない。
「くそっ。ツイてないのは相変わらずかよ。
どうせなら、もっと強い奴のところへ行けってんだ!」
僚機が支援へ向かう中、ラリーのゼカリア改は移動を続けていた。
その最中、一瞬だけ眼前の砂が盛り上がったと感じ取ったラリー。
(来るっ!)
ラリーは、ゼカリア改の車体をカーブさせて別方向へと転進させる。
次の瞬間――。
「出やがったな!」
悪天候の視界の中でも、巨大な体が肉眼でもはっきりと見える。
アースクエイク。
このクウトにおいて厄介者とされていた存在の一つだ。
「当てますっ!」
アルヴァイムは、電磁加速砲「ブリューナク」をアースクエイクの口に照準を合わせる。
アースクエイクの体は比較的硬い。
だが、口の中ならば攻撃は十分通用する。
アルヴァイムは照準をアースクエイクの口に狙いを定め、一気にブリューナクを放つ。
電磁加速された弾丸は強烈な振動を与えながらアースクエイクの口へ飛び込んでいく。「ギャア!」
砂嵐の中、獣のような叫び声が響き渡る。
「来た‥‥来た、来たねぇ! デカブツ!」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)の【ストライダー】が滑り込んでくる。
アースクエイク登場の一報を聞いた宗太郎は、目標地点へ急行。狙い定めていた目標に対して歓喜にも似た声を上げる。
「どうした、デカブツ!」
眼前に迫ったストライダーに対して、アースクエイクは強化型ブレードで攻撃を試みる。
だが、宗太郎は巧みにその攻撃を躱す。
「ロートルの電子戦機に当てる事もできないのか? なら‥‥」
攻撃を回避した瞬間、G−44グレネードランチャーを雨を口の中へ放り込む。
爆発するアースクエイクの口。
痛みに悶えているが、宗太郎の攻撃はさらに追撃をかける。
「ウイング展開! ブースト前回! 貫けえぇ!」
ブーストして勢いを増した機槍「ロンゴミニアト」がアースクエイクの体を貫く。
堅いはずの体に作り上げられた大穴。
アースクエイクのダメージは相当大きいようだ。
「各機へ。アースクエイクへ火力集中願います」
終夜は白皇 月牙極式からレーザーガトリング砲を発射しながら、各機へ火力集中を促した。
宗太郎が作り出した機会を逃す訳にはいかない。
「了解」
ユーリも【ディース】のGPSh−30mm重機関砲でアースクエイクを攻撃。
浴びせかけられる弾丸は確実に、アースクエイクの体力を削り取っている。
「ラリー、サボるなよ。‥‥遠距離攻撃なら、お前向きだ」
「そうだ。ここで撃たなければ、今日の酒も発泡酒だな」
ユーリと館山に促される形で、ラリーは徹甲散弾の照準を瀕死のアースクエイクに合わせた。
「サボってねぇって。こっちもそれなりに必死なんだよ」
「うん、ラリーも働いているか。感心感心」
ラリーの言い訳も聞かないうちに、夜十字は言葉を差し挟む。
その言葉にラリーは雄叫びのような声を上げる。
「よっちー! これが終わったら後で何か奢らせるからな!」
徹甲散弾は発射され、アースクエイクを直撃。
散らばった弾は、アースクエイクの体を貫き、長く大きな体を砂の上へと横たえた。
●
「舗装工事の総仕上げだ、気合い入れていくぞ!」
堺・清四郎(
gb3564)の剣虎は、ゴーレムを斬り続けていた。
無数とも思われるゴーレムの数を物ともせず、ただひたすらに機刀「建御雷」と機体内蔵『雪村』を振るい続ける姿は剣虎というよりも剣鬼に近い。
「邪魔だ、俺の道を塞ぐな!」
剣虎はゴーレムの斬撃を躱しながら、機体内蔵『雪村』を振り下ろす。
機体内蔵『雪村』はゴーレムの体を切り裂き、また一体葬り去る。修羅道を突き進む侍の如く、新たなるゴーレムを見据えて剣を握る。
ただ、本当の剣鬼と異なる事は、堺に仲間が存在していた事だ。
「3機編成で襲ってきても、相手がゴーレムじゃあな!」
須佐 武流(
ga1461)のシラヌイ改は、ゴーレムの背後に回り込んでゴーレムの腕を掴んだ。
そして、残りのゴーレムに向かって開始する。
ゴーレムがプロトン砲を発射しても、須佐が盾としているゴーレムの体に当たるばかりでダメージは一切与えられない。
「止められるものなら、俺を止めてみろ!」
攻撃間合いへ入った事を見定めた須佐は、盾としていたゴーレムを地面へ投げ捨てる。
エナジーウィングとソードウィングを装備したシラヌイ改は、右側に居たゴーレムへエナジーウィングの一撃を浴びせかける。
さらに体を旋回、残るゴーレムへソードウィングの一撃を叩き込んだ。
ゆっくりと倒れゆくゴーレム。
須佐は呼吸を整えながら、次なる目標を捜した。
「善戦しているようだな。もう息切れか?」
「抜かせ。俺の方がゴーレムを多く倒しているぜ」
堺と須佐は背中合わせに立つ。
もう相当数のゴーレムを倒しているはずだが、周囲には未だゴーレムの気配を感じる。 練力にまだ余裕はあるものの、このままの状態が続けば非常に危険だ。
おまけにこの忌々しい――砂嵐。
せめてこの砂嵐がなければ、戦況も違うのだが‥‥。
二人がそう考えた瞬間、砂漠の海に奇跡が起こる。
「!?」
「砂嵐が‥‥消えた!」
先程まで吹き荒んでいた砂嵐が、突然掻き消すように消えてしまった。
気付けば、太陽が照りつける元の砂漠へと戻り、周囲には数体のゴーレムが肉眼で確認できる。
「‥‥よかった。まだ敵は残っていたか」
黒羽 拓海(
gc7335)のHresvelgrが滑り込むように現れた。
クウト付近のバグア戦力掃討作戦に参加していた黒羽は、遅れる形でこの地へ到着したようだ。
「おい、この嵐が止まったのはお前のおかげか?」
須佐は黒羽へ問いかける。
「いや。おそらく、別作戦の連中だろう。予定よりも砂嵐停止に遅れたようだが、な」
黒羽によれば、砂嵐を発生させていた装置を破壊する作戦が同時遂行していた。
予定よりも遅延していたようだが、どうにか発生装置を破壊する事ができたようだ。
「さて、遅れを取り戻させてもらおうとするか!」
快晴へと変わった砂漠を、Hresvelgrが走る。
LRM−1マシンガンを片手にゴーレムへ接近。
打ち出される弾丸を特殊強化サーベルを盾にして防ぐゴーレム。
それに対して、黒羽は一定距離まで近づいた後、機刀「雪影」へ持ち替えた。
「そらよ!」
サーベルの隙を突く形で、機刀「雪影」を振り下ろすHresvelgr。
一刀の下に斬り伏せられ、地面へ転がるゴーレム。
それを蹴り飛ばしながら、次のゴーレムに向かってマシンガンで攻撃を開始する。
「おらおら! これで終わりじゃねぇだろうな!」
黒羽は、ゴーレムに向かって次々と突撃を開始。
先程まで、別の作戦に参加したとは思えない程の働きぶりだ。
「こちらも負けられないな」
剣虎は、再び走り始める。
砂嵐のせいで分かり難かったが、付近には倒されたゴーレムばかりが地面に転がっている。立っているゴーレムも数える程、これならば三人で一掃する事は難しい事じゃない。
遅れる訳にはいかないと、須佐も再び始動する。
「祭りの最後だ。こっちも気合い入れていくぞ!」
●
「‥‥なるほど。この不快の根源は君なんだ」
クウト付近で、ぎゃおちゃんの中に居たミリハナクはそう呟いた。
敵指揮官機を捜して戦場を本当していたミリハナク。
敵指揮官機を発見できなかった代わりに、謎の人物からの通信を受信していた。
「不快の根源とは、酷い言い方ですね」
「こっちは私を満足させてくれる人が居なくて辟易しているの。君がこの戦場に出て相手しれくれる?」
ミリハナクが苛つくのも無理はない。
敵指揮官が発見できない上、煮え切らない態度の人物が通信してきているのだ。
フラストレーションが溜まってもおかしくはないだろう。
「ふふ。あなたを見ていると、あの忌々しいドレアドルを思い出します」
「どういう意味よ?」
「戦いを追い求める様が同じです。
ドレアドルもウォン様を脅かしかねない相手。能力者同様、消えていただきたい存在です」
相手はどうやらバグアらしい。
しかも、ドレアドルを敵視しているようだ。バグア内部も一枚岩ではない事は知っていたが、ここまで敵意を露わにする存在は珍しい。
だが、今のミリハナクにとってはどうでも良い話だ。
「そんな話、私には関係ないわ。
君が指揮官なら、さっさと出てきたら?」
「指揮官? 私が?
‥‥ふふ、あなたは愉快な人ですね」
声の主は、突然笑いだした。
「何がおかしいの?」
「クウト付近のゴーレムはこの戦いに彩りを添えるだけの存在ではありませんよ。
時間を稼ぐという重要な役目があったんです。俺がクウトから脱出する準備をするだけの時間を、ね」
声の主は余裕たっぷりに話す。
つまり、ミリハナクが指揮官だと思って話していた相手は、この地でUPC軍と戦う気はなかったのだ。自分が逃げるためだけの時間を稼ぐために、ゴーレムとアースクエイクに時間を稼がせていたという訳だ。
「この期に及んで、逃げるとは‥‥大したバグアね」
「戦いは、眼前の敵を倒すだけではいけません。
戦うべき時は、自分で選びます。お嬢さん」
「ミリハナク。私の名前は、ミリハナク。
せっかくだから、君の名前を聞いておきたいのだけど?」
ミリハナクは声の主の名前を欲した。
戦い続ければ、必ず再び再会する事になる。
そう直感したからこそ、相手の名前を聞いておきたかったのだ。
「上水流、俺は上水流だ」
その言葉が発せられた瞬間、クウトに火の手が上がる。
砂にまみれた城は、爆炎に包まれて崩れていく。
崩れゆくクウトを見つめるミリハナク。
そんなミリハナクに、上水流は最後にこのような言葉を残した。
「そうそう、あの戦車に乗った方に伝言願います。
あなたの上官だったキーオは、多少役に立った駒だった。私自らスカウトした価値はあった、と」
こうしてアラビア半島を舞台にした砂漠の月作戦は、一旦終了した。
敵拠点クウトを陥落、リヤドを取り戻した。
だが、何処か腑に落ちない。
それは多くの血が流れすぎたのか。
それとも――。