タイトル:教官護衛任務マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/30 17:48

●オープニング本文


「准尉! 准尉は居るか?」
「教官!」
 UPC軍基地の自室に突如現れた闖入者を前に立ち上がって敬礼する。
 眼前に居る軍人は新兵教育を行う教練指導官であり、准尉もかつては世話になっていたバーフィールド軍曹である。そのためか、士官となった今でも教官に頭が上がらない。
「貴様、忘れたのかっ! 返事をする前と後には『Sir』を付けろ!」
「Sir Yes、Sir」
「声が小さいっ! 事務仕事ばかりで、軍人の魂を落とした?」
 バーフィールドが准尉の部屋中に響き渡る程の大声を上げる。
 准尉はこの声よりも大きな声を出さなければならない。
「Sir Yes、Sir!!」
「新兵が一番最初に教わる事も忘れたと見えるな。再教育が必要ならば、いつでも『肥溜め』で歓迎するぞ」
 准尉は新兵時代の過去を思い出して、思わず唾をごくりと飲み込んだ。
 バーフィールドはUPC軍内部でも、厳しくかつ公平な教育で知られている。彼の教え子は軍部内で数多く存在しているが、誰もがその厳しさに今でも震え上がっている。
「俺の教育を受けた軍人は、死と勝利を糧とする最強の生命体となっているはずだ。
 しかし、俺の目の前には軍人としての誇りを失い、ぬくぬくと生を貪るナメクジが居るぞ」
「Sir No、Sir」
「そんな貴様にもったいない任務をくれてやる。
 今から俺はこの基地を離れ、数キロ離れた新兵教育施設でお前の仲間である地球上際弱の生命体であるウジ虫たちを教育せねばならん。貴様にはこの俺の護衛任務を与えてやる。どうだ、喜びで噎び泣きそうか?」
 バーフィールドは一方的に捲し立てた。
 要するに新兵教育のために別の基地へ行く必要があり、その護衛を申し出ているのだ。基地までの道中はUPC軍が制圧に成功しているため、比較的バグアの影響は少ない。だが、未だにキメラが活動しているケースもあり、付近住民からの被害報告が後を絶たない。特に蔓を持つ植物系キメラや猫型キメラといった存在報告が多いようだ。
「Sir 我が部隊は‥‥」
 准尉はバーフィールドに声をかけようとして無理矢理言葉を飲み込んだ。
 実はこの基地に駐屯する部隊はUPC軍からの応援要請に応じて最低限の防衛戦力のみ残されている状態である。もし、この護衛する部隊を出せないなどと言い出せば、再び怒号が響き渡るのは間違いない。
「俺の聞き間違えか? 足の爪の垢如きが俺に口答えをしたのか?」
「Sir No、Sir」
「もう一度だけ聞いてやる。この俺をウジ虫たちが待つ基地まで護衛しろ」
「Sir Yes、Sir!」
 准尉は半ば自暴自棄となって叫んだ。
 下手に逆らえば本当に新兵と一緒に訓練させられる事になりかねない。護衛部隊をどうするのかは後で考えるよう。今はバーフィールドが納得するまで腹の底から声を張り上げるしかない。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
サヴィーネ=シュルツ(ga7445
17歳・♀・JG
ミルファリア・クラウソナス(gb4229
21歳・♀・PN
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
麻姫・B・九道(gc4661
21歳・♀・FT

●リプレイ本文

●排除
 叢雲(ga2494)は、複合兵装「罪人の十字架」の引き金を引く。
 乾いた音と共に打ち出される20発もの弾丸が、瀕死状態の猫型キメラへ襲い掛かる。弾丸は猫型キメラの体を貫通し、体液を体外へと放出させる。
 同時にぎゃっ、という声と共に猫型キメラは地面へ倒れ込んだ。
「‥‥こちらは排除完了です」
 「罪人の十字架」の銃身を空に向ける叢雲。
 叢雲の眼前に生存している猫型キメラは視認できない。護衛対象の車両に近寄っていく猫型キメラも確認できない事から、新たに相手にしなければならない相手は居ないようだ。
「九道さん、援護が如何ですか?」
 叢雲は、一緒に行動していた九道 麻姫(gc4661)に向かって声をかけた。
 炎のオーラを纏い、炎剣「ゼフォン」と「閻魔」を振るう麻姫。覚醒して攻撃的な性格となっているため、紅蓮衝撃を発動させて容赦無く猫型キメラを追い詰めている。
「調子こいてんじゃねぇぞ、こらぁ!」
 ゼフォンと閻魔が織りなす舞に、猫型キメラは身を護る術を心得ていない。刃を避ける暇すら与えず、その体に二本の刃が引き裂いていく。
「ふぎゃっ!!」
 怒りと絶望が入り交じった声を上げる猫型キメラ。
 次の瞬間、三つに分けられたその体を後方へ投げ出していた。
「‥‥支援は不要のようですね」
「当たり前だ。この程度で苦戦する程、俺は非力じゃねぇ」
 叢雲の問いに答えながら、麻姫は咥えたタバコに火をつけた。
 立ち上る煙が火によって生まれ、戦いの最中に一時に静寂が訪れる。
「しかし、あの軍曹に護衛はいらねぇだろ。あの軍曹一人でも大丈夫じゃねぇのか?」
 護衛対象の居ない場所で麻姫は悪態をつく。
 今回の任務は教育指導官バーフィールド軍曹を目的地まで護衛する事。だが、当の軍曹は、UPC軍内でも知られる軍人。一人でキメラの大軍にも打ち勝てるのではないかと錯覚させる程である。
 麻姫の言葉を耳にして、叢雲は思わず微笑んだ。
「ふふ、そうかもしれません。ですがこれは‥‥」
「任務、だろ? 分かってるさ。
 引き受けた以上、しっかり護らせてもらう。そんで、報酬をたっぷりといただくとするか」
 傭兵として課せられた責任はしっかり果たす。そして、もらうべき報酬はしっかりいただく。護衛対象が護って欲しいというのだから、従って護る。それが傭兵としてあるべき姿である。
 麻姫は懐よりトランシーバーを取り出して後続部隊へ通信を入れる。
「こちら先行部隊。進行方向のキメラを排除したぜ」


 先行部隊が猫型キメラと戦闘を行っている頃。
 護衛車両後方でも戦闘が発生していた。
「話になりませんわ。出直して‥‥欲しかったけど、もう無理だったわね。失礼」
 迅雷で猫型キメラへ接近したミルファリア・クラウソナス(gb4229) 。クラウ・ソラスの鋭刃を猫型キメラの顔面へ突き立てた。猫型キメラの瞳孔が収縮した刹那、脱力。クラウ・ソラスの刀身に猫型キメラはぶらりとぶる下がる。
「でも、あなたはクラウ・ソラスの錆にすらなりませんでしたわ‥‥」
 胸部のペンタクルを揺らすかのように、手早く猫型キメラの死骸をクラウ・ソラスから引き抜く。
 そして、ミルファリアは次の獲物を探し始める。猫型キメラはまだ存在していたはずだ。護衛車両へ攻撃させる訳にはいかない。早く猫型キメラを発見して足止めしなければ‥‥。
「シャーっ!!」
 足下に視線を落としたミルファリア。倒した猫型キメラの傍らには、もう一匹の猫型キメラがミルファリアを威嚇している。どうやら、先程クラウ・ソラスから死骸を外している間に近づいていたようだ。
 猫型キメラは長細い瞳孔をさらに細め、鋭い刃を見せつけている。
 ここから飛びかかれば、ミルファリアの刃を受けるよりも先に手傷を負わせられるかもしれない。
 ――しかし。
「猫!‥‥当たるか!?」
 ジーザリオから顔を出したシクル・ハーツ(gc1986)は、長弓「桜姫」で猫型キメラを射貫いた。衝撃と共に後方へ吹き飛ばされる猫型キメラ。必死に立ち上がろうと、矢が突き刺さったまま藻掻いている。
 その間にジーザリオは猫型キメラの側まで近寄り、停車する。
 車窓から伸びるのはケイ・リヒャルト(ga0598) の腕。手には小銃「ルナ」が握られている。
「ふふっ‥‥鉛の飴玉は如何?」
 ルナから発射された弾丸は、猫型キメラの目玉を吹き飛ばした。
 びくっ、と一瞬痙攣した猫型キメラ。そのまま肉塊へと存在価値を変えて地面へ体を投げ出した。
「もしかして、ピンチだったりしたの?」
「まさか。この程度はピンチは言わないわ」
 ケイの言葉に、ミルファリアは笑いもせずに答えた。
 実際にはピンチであるはずがない。猫型キメラは確実に仕留め、護衛車両に傷をつけてもいない。単にケイが茶化してみただけだ。もっとも、それを見透かしてミルファリアも素っ気ない態度を取った訳だが‥‥。
「付近のキメラは‥‥掃討したようだ」
 二人に割ってはいる形でシクルは呟く。
 さらに言葉を続ける。
「急ごう。出発した基地も攻撃される可能性があったのだ。なるべくこの任務を早く終わらせた方がいい」
 シクルは、可能であれば出発した基地の防衛を行おうとしていた。
 任務外の行動は傭兵にとって犯すべきではないのだが、バグア軍が襲撃するかもしれないのだ。人類として見過ごす訳にはいかない。
 その意志にケイが同調する。
「そうね。任務を終わらせるには早い方がいいわ」
 ケイはジーザリオの座席からトランシーバーを掴んだ。
「護衛車両に迫った猫型キメラは退治したわよ」

●絆
 傭兵たちの仕事ぶりは見事を言えた。
 進行方向に怪しい存在を確認すれば、先行班や車両護衛班が確認。現れた猫型キメラを手早く退治し、護衛車両を少しでも前進させる。トランシーバー経由のやり取りではあるが、その状況は護衛車両に居る者達へ逐次知らされている。
 だが、護衛車両の内部は会話らしいものはない。
 重苦しい沈黙が支配する空間が渦巻いていた。
「あの‥‥バーフィールド軍曹。ご気分は如何ですか?」
 沈黙に耐えきれなくなった石動 小夜子(ga0121)。
 勇気を振り絞って話しかけてみたが、軍曹は沈黙を保っている。
 基地を出発する直前、自らの護衛はUPC軍ではなく傭兵である事に怒り心頭していた。自らの護衛は栄光あるUPC軍であるべきであり、何処の馬の骨とも分からない傭兵に護られるというのは、UPC軍部内における軍曹の扱いが失墜した事を示していると大騒ぎしていた。
 しかし、実際に傭兵たちの活躍を目の当たりにする度に、怒りが沈黙へと置き換わっていった。
 先程からまったく行われない会話。
 軍曹の教え子ではないために堅苦しい挨拶は行わなくても良いのだが、この空気だけはどうにもならない。
 何か失礼があったのだろうか。石動は恐怖心を抑えながら、再度声を掛けてみる。
「あ、あの軍曹‥‥」
「軍人は死ぬために存在する」
 石動の言葉を遮るように、軍曹は話し出した。
「だが、同時にUPC軍が永遠であれば、軍を支える軍人の魂も永遠である。俺は教え子にそう教えてきた。何故か分かるか?」
「あ、えーと‥‥」
 突然の質問に焦る石動。
 今まで巫女として生活を送ってきた石動にとって、軍曹のような人種は異質といえた。だからこそ、軍曹が行った質問の意図が理解できないでいた。
「運転手、君はどう思う?」
 軍曹は、護衛車両を運転していたムーグ・リード(gc0402)に質問相手を切り替えた。
「私、ハ‥‥誰か、ニ、戦い方、ヲ、教わっタ事、ナイ‥‥DEATH。ダカラ、ヨく‥‥ワカラない」
 眼前のフロントガラスから視線を外すことなく、ムーグは言葉を選びながらゆっくりと喋る。
 軍曹は傭兵である事に怒り心頭だったが、教官としての軍曹を尊敬の眼差しで見つめていた。空路ではなく、わざわざキメラが現れる陸路を選んで護衛させたのは、UPC軍ならばこの程度できるはずだと信じたからだ。だからこそ、傭兵に護衛を任せた事に怒ったと考えていた。その尊敬の念は、事前調査と称してキメラが現れるポイントを調べて他の傭兵へ伝えている点でも垣間見る事ができる。
 だが、ムーグは軍曹の答えを持ち合わせていなかった。
 その答えを出したのは、軍曹の対角線に座っていたサヴィーネ=シュルツ(ga7445)だった。
「仲間意識‥‥でしょうか」
「正確には『絆』だ。UPC軍を支えるのは一人の卓越した能力ではない。組織として、仲間としての『絆』が大きな意味を果たす。だからこそ、俺は教え子たちに『お前たちは人ではない。犬だ』をと叩き込んできた」
 絆。
 それが軍曹の教導哲学であり、すべてでもある。たった一人での戦いはあまりにも過酷である。しかし、仲間が居れば過酷な戦場を生き抜けるかもしれない。
 帰属意識が強く、群れで生きる犬であって欲しい。おそらくそのような事を考えているのだろう。
 軍曹は、サヴィーネをじっと見つめた。
「お前‥‥軍人経験は?」
「あります。ウィーン州軍旗下ウィーン憲兵大隊所属でした」
「何故軍を辞めた?」
「負傷‥‥いえ、死にそびれました。死にそびれた狙撃手が、生き恥を曝している‥‥そのようなところです」
 サヴィーネ機甲義肢「特甲」に視線を落とした。
 既に自らが生まれ持った四肢を失ったサヴィーネではあるが、決して答えるのが辛い訳ではない。軍人として生きる事、任務の中で死ぬ事が許されなかった軍人の不幸を一人で噛みしめていた。
「傷痍軍人になり損ねたか」
「はい」
「他の傭兵も皆、お前のような軍人だったのか?」
「あ、いえ。違います。能力者として戦い始めた方も多いと思います」
 軍人同士の会話に石動が声を差し挟んだ。
 皆がサヴィーネのように軍人出身ではない。出自は人それぞれ。唯一の共通点はバグア軍との対峙を選んだという事だろうか。
「ならばもう一つ聞きたい。
 出自も違う、傭兵という立場のお前たちが‥‥何故ここまで連携が可能なのだ? 全員が同じ部隊として戦った訳ではないのだろう?」
 軍曹はその場に同席した全員へ問いかけた。
 しかし、その回答を軍曹はすぐに得る事ができなかった。
 何故なら‥‥。

 ――ドドドドドっ!!!
 軍曹の言葉をかき消さんばかりに響き渡る銃声。
 ムーグは助手席に寝かせていた番天印を運転席の窓から発射していた。弾丸が緑色の線に向かって発射され、線を交代させている。
「スイマセン‥‥敵‥‥DEATH」
 ムーグの言葉を聞いた瞬間、サヴィーネと石動は身構える。
 次の瞬間、護衛車両に置かれた無線機を通して麻姫の声が木霊する。
「護衛車両側面、植物型キメラを確認した! そこから車両を移動させろっ!」

●撃破
「軍曹、良い機会です。軍曹を護る傭兵を手腕をお目に掛けて見せます」
 サヴィーネはアンチマテリアルライフルを伏射で構え、スコープ越しに植物型キメラを捕捉する。既に叢雲と麻姫、ミルファリアが最前線で蔦を引き裂き、護衛車両に攻撃を仕掛ける余裕を奪っているようだ。
 つまり、サヴィーネの狙撃を阻む者は何もない。
 標準を植物型キメラの口となっている花へ合わせる。サヴィーネは息を吐きながら置き、そして‥‥指先に力を込める。
 ――バシュ!
 響き渡る音と共に、花びらが散る。刃のように鋭い雄しべが砕かれ、痛みに苦しむ植物型キメラの叫びが護衛車両側まで聞こえてくる。
「他愛もない」
「さ、サヴィーネさんっ! 攻撃がきますっ!!」
 手負いの植物型キメラは、再び護衛車両のメンバーへ襲撃をかける。
 石動は小銃「S−01」で蔦を蹴散らそうとするが、思いの外蔦の動きは速くて小銃で狙うのは難しい。やはり接近戦の方が望ましいのだろうか。
 そう考えた石動は蝉時雨に手を掛けた瞬間‥‥。
「あら‥‥貴方も遊んで欲しいの?」
 植物型キメラと護衛車両の間にジーザリオが割り込んだ。ケイとシクルが乗り込んだジーザリオは護衛車両を護るために走り込んできたのだ。
「させるか!」
 素早くジーザリオから降りたシクルは、迅雷で護衛車両のあった地点から植物型キメラの居た地点まで一気に詰め寄る。そして、冷気をまとったシクルは風鳥を植物型キメラへと振り降ろした。
 思わぬ位置から知覚ダメージを受ける植物型キメラ。護衛車両まで伸ばしていた蔦を本体側まで引き寄せざるを得なかった。
「やるじゃねぇか、シクル。だったら、こっちも負けられねぇ!」
 麻姫は、炎剣「ゼフォン」のみに持ち替えて豪破斬撃を使った。体の芯から沸き起こる力がゼフォンへと流れ込む。その力を植物型キメラへ放出するように、ゼフォンを上段から振り降ろした。
「ギシャーーー!!!」
 ゼフォンの刃が体を貫き、植物とも思えぬ叫び声が周囲に木霊する。蔦もその活動を終えて、地面へぼとりと落ちた。水分を失った植物の如く、その体が枯れて落ち葉のように風にそよぎ始める。
 植物型キメラの呆気ない最後は、こうして訪れた。

●回答
 そして。
 軍曹は傭兵たちの活躍により、UPC軍基地まで護衛が完了した。護衛車両に傷らしきものはなく、軍曹の評価も上々のようだ。
「今日は傭兵にも良い人材が居る事を知った。
 どうだ? 俺の元で正式なUPC軍人――いや、猟犬として再出発せんか? お前たちがその気なら、いつでも肥溜めで歓迎するぞ」
 ご機嫌な軍曹は、運転手のムーグに話しかけた。
 本人は冗談交じりなのかもしれないが、そのご機嫌ぶりを見れば本当にUPC軍人にしかねない勢いだ。
「‥‥‥‥」
「‥‥沈黙か。寡黙な運転手だ。まあ、いい。お前たちには感謝している」
「あ‥‥軍曹‥‥。サッキ、の、答え‥‥」
「なんだ?」
 護衛車両を出ようとしていた軍曹は、ムーグの呼びかけに足を止めた。
「傭兵、ニモ、絆‥‥アリマス。
 ばぐあヲ、倒しタイ。人類ヲ、護り‥‥タイ。ソウイウ、想い‥‥傭兵、ミンナ‥‥持ッテル」
 ムーグは脳裏に浮かんだ想いを必死に言語化していた。
 傭兵は自由奔放に見えて、何の規律もない。それは正しい。だが、傭兵でも軍人でも人類を護るという想いは変わらない。その想いの強さが今回の護衛成功に繋がっている。傭兵同士でも絆は存在する。ムーグはそう主張したいのだ。
 その想いを察したのだろう、軍曹は満足そうに頷いた。
「そうか‥‥もしかするとお前たちとは再び会えるかもしれん。そんな気がしてならんのだ」
 その言葉を残して軍曹は、護衛車両を離れた。
 彼の行く先には、新たに鍛えられる新兵たちが直立不動で待ち続けている。緊張と不安が入り交じる彼らの表情は強張っている。彼らが絆で結ばれるかは、軍曹と新兵の頑張り次第だ。
 軍曹は、彼らに対していつものように怒声を浴びせかける。
「お前たちは人間じゃない、史上最低の生物! ウジ虫以下だ!」