●リプレイ本文
鬼軍曹として知られるブラウ・バーフィールド(gz0376)だったが、今回ばかりは心を痛めている。
UPC軍支援という形を取っているものの、傭兵達に危険な武装偵察をさせる事になったためだ。八王子蟻塚へと向かうバグア増援を可能な限り叩く。後方でUPC軍本隊が残存兵力を殲滅する事になってはいるものの、撤退のタイミングを失えば傭兵であっても危険な作戦だ。
本来ならば、UPC軍が兵力を割いて本作戦を実施するべきだ。
だが、慢性的な能力者不足がそれを許さない。
傭兵は、依頼という形で危険な作戦に放り込まれる。それでも、生へ執着しながら傭兵たちは生還する。次の依頼を遂行するために‥‥。
「俺は『頑張れ』という言葉を掛ける事はできん。その一言で現場責任を放棄した気分になるからだ。
だから――傭兵たちよ。UPC軍勝利のために、尽力してくれ」
既に配置が完了した各機へ軍曹は振り絞るように、呟いた。
●
「目標を捕捉した。これより攻撃を開始する。なお、この作戦は時間稼ぎだ。撃墜されたら、みんなの迷惑になるからな」
雷火龍の操縦席から緑川安則(
ga4773)が声を掛ける。
熊谷市から南下するバグア勢力を確認した緑川は、バグア増援の進行速度が気になっていた。先の情報によれば、敵は急造部隊。手負いの兵力を抱えながら八王子へ向かっている。おまけにタートルワームまで抱えての行軍だ。想定時間よりも遅く到着している事から、各方面の作戦開始が遅延する事も考えられる。
(松田巡査長、焦れて前に出なければいいが‥‥)
「攻撃、開始しますっ!」
緑川の思考を遮るように、ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)のディースが動き出す。
増援の一団が僚機の潜む箇所を通過したタイミングで、一団の前に飛び出した。
眼前に迫るはタートルワーム。しかし、ユーリは臆する事無く操縦席で獲物を見定めている。
(‥‥焦っては駄目‥‥十分引き付けてから‥‥)
照準をタートルワームへと合わせる。これだけの巨体だ、外す方が難しい事は理解している。だが、初弾は牽制の意味合いが強い。牽制弾とするならば、他の敵にも分かる形でヒットさせなければならない。
「‥‥ここですっ!」
ディースは、強化型ショルダーキャノンの砲火を浴びせかける。
ショルダーキャノンは、走り寄るタートルトルワームに直撃。悲鳴のような声が付近に木霊する。その叫び声は、ユーリの登場を他の増援部隊に知らせるには十分な効果があった。
「抜刀! 白兵戦開始!」
一団の後方より緑川が襲撃。ハイ・ディフェンダーで、後方に居たタロスへ斬りかかる。タロスも専用ハルバードで攻撃を受け止め、ハイ・ディフェンダーの刃を受け止める。 一団を挟撃する事に成功した傭兵達は、一気に戦力を集中させる。
「よ、よしっ‥‥い、いくぞっ!」
ユーリの砲撃を戦闘開始の合図として、傭兵達も一斉に増援の一団に襲撃を掛ける。
ドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)のドラペニ MKIIが右翼よりスナイパーライフルRでRex-Canonを狙う。
狙撃という行為は、狙撃手に想像以上の精神的負担が掛かる。それはヤフーリヴァ自身が一番よく分かっている。ましてや、今回は他の傭兵たちと連動して動いているのだ。何らかのミスが他の傭兵へ負担として回る可能性が高い。
(落ち着いていけば、外す事なんて‥‥)
自分に強く言い聞かせるヤフーリヴァ。
心を強く持って、引き金に力を込める。
――ドンっ!
引き金を引くと同時に、スナイパーライフルRから強い反動が伝わる。
反動と引き替えに発射された弾丸は、Rex-Canonに直撃した。その上体を思い切り反らさせる。
(ま、まだです。これで仕留める)
何処から攻撃されたかも理解していないRex-Canon。
しかし、未だにスナイパーライフルRの照準に捉えられている事を知らない。
ヤフーリヴァは再び――引き金を引いた。
「野郎ども、勝ち残って英雄になるでありますよぅ」
道路脇の建物を遮蔽物として陣取り、美空・火馬莉(
gc6653)のシュバルツ・ヘクサがラインの黄金攻撃を仕掛ける。
「!?」
完全に油断していたタートルワームに美空の一撃が襲い掛かる。
四方から傭兵達が挟撃するという作戦は想像以上に効果を発揮しているようだ。実際、襲撃された増援部隊は混乱を極め、反撃に出る事もままならない状態があった。だからこそ、攻められる時に攻めなければならない。それを美空は肌で実感していた。
「もう一発でありますぅ!」
美空は、先程攻撃したタートルワームに追撃を与える。
元から手負いであったタートルワームは、この一撃で体を支えきれずに大地にその身を転がした。
しかし、これで終わりではない。
美空は次の目標に照準を合わせる。
「‥‥くっ、さすがに」
ゴーレムの斬撃をユーリは回避運動で躱す。
進行方向をユーリが塞いでいる事から、敵の火力はユーリへと集中する。必死に回避運動を繰り返すユーリ。仲間からの援護射撃がなければ‥‥そう考えるだけでユーリの背筋に冷たい物が流れ落ちる。
「そ、そこはさせませんっ!」
ヤフーリヴァはCSP-1ガトリング砲をユーリの方角へ向けて放つ。
足下に居たキメラを屠りながら、タロスの攻撃を牽制。後退させる事に成功する。
「敵は混乱を極めているものの、やはり戦力比は埋まらないか」
「大丈夫っ!
皆の命、美空が預かるのでありますよぅ」
ヤフーリヴァの弱気を吹き飛ばすかのように、美空はラインの黄金で再びタートルワームを狙い撃つ。
対空戦力を少しでも削っておきたい。
事前に決定していた方針に従って、美空は果敢にも敵を攻め立てる。
タイミングさえ間違わなければ、無事撤退できるはずだ。
強い信念が美空の背中を押し続けていた。
●
同時刻、狭山湖北東付近。
既に所沢方面を経由するバグア増援と激突した傭兵たち。手負いだったタートルワームやRex-Canonを数体屠り、獅子奮迅の戦いを見せつけている。
「こっからが本番だよっ!」
山下・美千子(
gb7775)は元気よく叫んだ。
機盾「ウル」を片手にゴーレムと肉薄するマックス。火之迦具鎚の一撃が、直撃したゴーレムの体を吹き飛ばした。前線に立って戦っている美千子だったが、周囲にも気を配り囲まれない事を意識して戦い続けている。
「武装や機体強化は他の方々と天と地の差がありますが、機動力では負けませんよ!」
ヘルヘブン750を駆る宮明 梨彩(
gb0377)は、高速二輪モードで滑り込んでくる。
美千子に吹き飛ばされたゴーレムが立ち上がる前に、ライト・ディフェンダーでゴーレムの胸部を貫いた。味方がダメージを与えた敵に追い打ちを掛ける形で確実に仕留めていく。それが、高速二輪モードで戦い続ける梨彩の選んだ戦闘方法だった。
「阿呆が‥‥そこに居るのが悪い」
黒椿の不破 霞(
gb8820)は、手傷により身動きの取れなくなったタートルワームの影に隠れた。
身動きの取れなくなった巨体は、そのまま遮蔽物へと早変わりする。格闘攻撃を主体とする霞の考えた戦闘方法だ。先程まで近くに居たRex-Canonも必死で黒椿の姿を捜しているものの、タートルワームの巨体が邪魔で黒椿を捉える事ができない。
「ギャオっ!」
痺れを切らしたのか、Rex-Canonはタートルワームに向かって砲撃。
タートルワームへ至近距離で放たれた一撃は、タートルワームにトドメを刺すには十分な攻撃力であった。
(‥‥ここだっ!)
霞は、この一瞬を逃さなかった。
今だRex-Canonが砲撃の反動を残して、体が後方へ引っ張られている隙を突いて動き出す。黒椿の手に握られた練機刀「白桜舞」は、タートルワームの傍らより現れてRex-Canonの喉元を捉える。
「‥‥グォ!?」
一瞬の出来事に、状況を把握できないRex-Canon。
そのまま体から力が抜け落ちるように、その場へと倒れ込んだ。
「そして――。
残られると厄介なんでな‥‥首を置いていってもらうぞ‥‥」
メインカメラが赤色に変化した黒椿。
タートルワームを盾にしながらも、敵の位置を調べ上げる霞。レーダーが捉えた次なる目標は――タロス。
敵の増援として何としても戦力を削りたい。そのためには敵の中でも大きな戦力を保持する相手を屠っておく必要がある。
(残り練力も少ない。‥‥だがっ!)
白桜舞の刃は傍らに居たタロスへと向けられる。
タロスも専用ハルバードで対抗。
正面から衝突する黒椿とタロス。
意地と意地、刃と刃が擦れ合い、周囲に派手な金属音を響かせる。
「奇襲も成功、想定よりも多くのバグアを殲滅‥‥」
天空橋 雅(
gc0864)は暴姫『アクヒメ』の中で冷静に状況を分析する。連携が取れない急造部隊だった事も幸いしていたが、倒せる敵を確実に倒していくという方針は間違っていなかった。特に、銃器による援護射撃や機動を中心とした攻撃はバグア部隊を混乱へ陥れる事に成功したのは大きいだろう。
だが、傭兵たちの限界も確実に近づいていた。
「みんなの練力も限界が近い‥‥頃合いか」
暴姫のシステムテンペスタする天空橋。
M-MG60から雨のような弾丸が放たれて、増援の一団を一歩ずつ退かせる。
「なに!?」
美千子は、天空橋へ無線を入れる。
今も眼前の敵と戦っている最中、大量の弾丸が後方で放たれたのだ。状況に何らかの異変が発生したと考えるのが自然。
考えられる事は、たった一つだけだ。
「今だ、撤退を!」
「‥‥これ以上は危険か。了解した」
肉薄していたタロスと距離を置いた黒椿。仕留めるためにここで奮戦する事も可能だが、無理をしたせいで部隊が全滅させられては意味がない。生ある撤退が、次のチャンスを生む事を、霞は理解している。
霞は部隊を確実に撤退のために、スモーク・ディスチャージャーを発射。周囲に煙幕の壁を生み出した。この煙幕は部隊に対して撤退支援で利用している事は周知している。この煙幕に紛れて撤退すれば、全員無事に撤退できるはずだ。
この時点で、霞も――否、天空橋も美千子も全員が撤退行動に入っている。
そう、信じていた。
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撤退する傭兵。
これで――全員が無事に撤退できたはずだったのだ。
「軍曹、手筈通り所沢へ撤収のエスコートを要請する」
「分かった。すぐに指示を出そう」
軍曹へ通信を入れる天空橋。あとはKV小隊が撤退までの時間を稼いでくれる。
一息つく天空橋。
だが、美千子はある事に気付く。
「あれ? 宮明君は?」
撤退する傭兵達の中に、梨彩の姿がないのだ。
言われて気付く天空橋。何故、ここに四人揃っていないのだろうか。
確実に全員で帰還する。出撃前にそう約束していたはずなのに。
「まさか、後退に失敗したのか?」
霞の疑問に、天空橋は答える事ができなかった。
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「ごめんなさい、皆さん」
バグアの増援をたった一人で前にして、梨彩は呟いた。
自分には、ここで撤退するという選択肢はなかった。嘘をついてでも、ボロボロになってでも戦いたかった。
後悔するのは、仲間達の約束を守る事ができなかった事だろう。
「でも、私は最期まで戦います!」
再びヘルヘブン750を機動させる梨彩。
たった一人の死闘が、今始まる。
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「所沢で重傷者‥‥」
エレクトラの操縦席で瑞浪 時雨(
ga5130)は、報告を受けてそう呟いた。
後から到着したKV小隊によって梨彩は救出されたらしく、命に別状はないらしい。だが、KV小隊が到着するまでたった一人で奮戦していたようだが‥‥。
「松田、一気に仕掛ける」
「‥‥了解」
八王子へ向かう増援に対して、松田のロングボウが上空から新型複合式ミサイル誘導システムを発動。一気に降り注ぐミサイルの雨に、タートルワームは叫び声を上げている。
「このタイミング‥‥相手が混乱している隙に一気に決める‥‥」
悲鳴が上がる敵の一団に向けて、エレクトラはブースト空戦スタビライザーを発動。強烈なGが時雨の体を襲う。
(‥‥くっ‥‥しかし、ここで一気に叩かなければっ!)
体に掛かる負担に耐えながら、時雨はモニターに目を落とす。
既にスタビライザーを発動している。その移動速度は通常とは段違い。だからこそ、松田が行った攻撃に対して間髪入れずに、追撃を加える事ができる。
「消えろっ!」
距離とタイミング。
双方の限界を察した時雨は、GP-7ミサイルポッドのスイッチを入れた。
瞬間、エレクトラから放たれる無数の熱線。ミサイルポッドは定められた目標に向けて一斉に走り出す。
「グォォォ!!」
ミサイルの直撃を受けて叫び声を上げるタートルワーム。
その巨体でミサイルを躱す事が難しい上、松田のミサイルまで受けているのだ。時雨のミサイルポッドまで躱すのは不可能だ。地面に倒れ、起き上がろうと必死に藻掻いている。
それだけではない。
上空から繰り返される攻撃の上に、統制も取れていない敵増援部隊。混乱を極めるまでは想定通りだ。
この攻撃が、地上で機会を待つ傭兵達の行動開始の合図となる。
「よし、今だ!」
雷電の綿貫 衛司(
ga0056)は、空戦班の攻撃を確認した後でスモーク・ディスチャージャーを発射。付近に煙幕広がり、視界を白く覆い尽くす。
機会を見て感じた綿貫は、SAMURAIソードを抜刀突撃。煙幕で混乱するタートルワームを一気に斬り伏せた。
「この作戦に勝利も敗北もない‥‥八王子の解放が早まれば、それがこの作戦の勝利だ」
アンジェリナ・ルヴァン(
ga6940)も、煙幕の中でレイズ RepairIを走らせる。機剣「レーヴァテイン」の一撃は、Rex-Canonを葬り去る。
可能な限り敵を倒す。だが、僚機や敵戦力に気を配らなければならない。所沢での重傷者の存在が、アンジェリナにそれを嫌でも思い知らせる。
「私のエレクトラは駆逐KV‥‥その言葉の意味、身をもって思い知らせてあげる‥‥!」
アンジェリナの横を駆け抜ける形で、時雨のエレクトラがGP-7ミサイルポッドを再び放つ。
煙幕を巻き上げながら、駆け抜けるエレクトラ。
的確に敵の居場所へ攻撃を仕掛けられるのは空からの攻撃だからか。仲間の支援を行いながら、再び大空へと舞い上がる。
「重傷者の情報‥‥これが吉と出来るか、否か‥‥」
ア・シルバー・オヴ・スネークの錦織・長郎(
ga8268)は、操縦席で独り言を呟く。
重傷者の情報は、この場に居る傭兵達に強く意識されている。つまり、僚機をいつも以上に気にして戦っている。もし、危険な者が居ればそれを救いに行くだろう。また、撤退についてもいつもより早く撤退する事も考えられる。
「まあ、僕はやる事をやるだけなんですがね」
錦織は煙幕の中で蠢くキメラの一団に向けて、G-44グレネードランチャーを放った。
キメラからすれば何処から攻撃されているのかもわからず困惑している状況。
避ける術などない。キメラは呆気なく弾け飛んだ。
肉塊と化したキメラを踏みつぶしながら、タロスは傭兵達の位置を把握。対抗するために攻撃を仕掛ける。
「!?」
煙幕の切れ目から淡紅色の光線が飛んでくる。その光線の存在を察知したアンジェリナは、機体を翻して回避。そのまま、手にしていたRA.2.7in.プラズマライフルでタロスに攻撃を仕掛ける。
「私に挑む、か。ならば、応えよう。この戦いの先に真の強さがあると信じて‥‥」
体が反射的に動いてタロスへ一撃を叩き込んだアンジェリナ。
己が強さを求めて流離う戦士は、剣を片手に次なる相手へと突き進む。
プラズマライフルが直撃したタロスは、上体が後方へ引っ張られただで倒すには至っていない。
「私に強さを示してみろっ!」
レーヴァテインを握ったレイズ RepairIは、機動しようとするタロスへ一気に近づいていった――。
●
八王子蟻塚へ向かった増援は、傭兵の活躍により戦力を大幅に削る事ができた。
重傷者が出た事は残念であったが、他の部隊は撤退に成功。また、梨彩の奮戦が所沢と北関東増援合流を阻止。八王子方面で待っていたUPC軍の掃討もスムーズに行えたようだ。
想定以上に厳しい戦いではあったが、偵察の成功には軍曹も安堵したようだ。
あとは、八王子解放の一報を待つだけなのだが‥‥。
「立川の旨い焼き肉屋で一緒に食事する予定でしたが‥‥残念ですね」
錦織は、松田を誘って缶ビールで乾杯していた。
当初の予定では、近くの焼き肉屋で舌鼓を打つ予定だったが、住人が居ない以上焼き肉屋も閉店している。しかし、東京都へ再び足を踏み入れる事が出来た祝いをしたい。その事が今回のささやかな酒宴へと繋がった。
「‥‥‥‥」
松田は相変わらず沈黙している。
だが、心なしか上機嫌のようにも思える。やはり、立川という場所へ戻る事ができたからなのだろうか。
「しかし、今日の酒宴は非常に興味深い。
警視庁第四機動隊に、市ヶ谷と習志野のお客さんですからねぇ」
今回の酒宴を聞きつけた綿貫と緑川も参加していた。
警視庁と自衛隊。バグア襲撃前ならば、このような酒宴が開催される事自体が珍しい事だ。
「しかし、松田さんはさっきから一言も話してくれません。しがらみを気にしているのでしょうか」
綿貫は隣に居た緑川へ問いかけた。
警視庁と自衛隊という違いはあるが、同じ公務員。確かにかつては双方に思惑があった事は知っている。しかし、傭兵として轡をならべた以上はしがらみを越えて接して欲しい。
綿貫はそう考えているのだが、当の松田は一言も口を聞こうとしないのだ。
「さあ?
俺は習志野空挺師団を再建するという目標がある。おそらく、松田巡査長にも同じ想いがあるんじゃないか?」
緑川は肩を竦めて見せる。
現在、東京において警視庁も自衛隊も機能していない。この状況から再建する事は並大抵の努力では難しい。
だが、緑川はその難題に着手するつもりなのだ。
そして、同様に松田もこれに着手する。
そう考えていたのだが――。
「‥‥違う」
缶ビールを飲み干しながら、松田が呟いた。
どうやら、二人の会話を聞いていたらしい。
「違うのか? 松田巡査長は第四機動隊を再建するんじゃないのか?」
緑川の問いに、沈黙で返す松田。
そこへ錦織が話しかけてきた。
「緑川君、綿貫君。
僕も松田君との付き合いは長い訳じゃありませんが、松田君の言いたい事が少しだけ分かります。松田君は、傭兵になった今でも第四機動隊の人間なのです」
つまり、第四機動隊を再建するのは松田自身ではないと考えているようだ。
松田は警視庁第四機動隊に科せられた東京都の治安維持に動いている。治安が戻れば、警視庁は再度機能を再開。おそらく第四機動隊も再建される。しかし、松田は第四機動隊に所属する隊員に過ぎない。再建は警視庁警備部長を含む上層部の仕事と考えているのだろう。
「‥‥だからこそ、自衛隊へのしがらみも健在なのかもしれません」
錦織の言葉に綿貫は、そうですか、と残念そうに呟く。
松田も否定をせずにビールを飲んでいるところをみれば、錦織の考えも間違ってはいないようだ。
「皆さん、戦いは終わった訳ではありません。
関東の多くは未だバグアの手中にあります。取り戻さなければ、再建は夢に終わります。我々が成すべき事は、山のように積み残されている事を忘れないでください」
錦織は、空を見上げた。
空は、平穏だった頃と何も変わらず青く澄み切っている。
「だから、我々は取り戻さなければなりません。
習志野も、市ヶ谷も、桜田門も――永田町も、ね」