タイトル:【極北】故郷を守る者マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/05 17:48

●オープニング本文


 ベーリング海を北上中のUK3内に響くは、ある男性の怒号であった。
「半端な真似ぇ、やってんじゃねぇ!」
 低く渋い男の声。
 一時の間を置いた後、鳴島成一の拳が整備員の頭に振り下ろされる。
「痛ぇ!」
 渾身の力で振るわれた拳に悶絶する整備員。
 頭を抱えてしゃがみ込む整備員に対して、成一は容赦なく罵声を浴びせかける。
「馬鹿野郎! てめぇがやった手抜きは、てめぇのだけの問題じゃねぇ!
 このUK3に乗っているすべての人間に迷惑をかける事になるんだ。
 俺達は、みんなの命を預かっている事を忘れるなっ!」
 UK3は目下、整備班によって大規模修理が行われていた。
 北京解放戦、竜宮攻城作戦、北極圏制圧作戦へ駆り出され、幾度もの攻撃を受けてきた。特に左右側面のダメージは深刻であり、早急な対処が必要とされている。本来であれば修理ドックへ入れて時間を掛けて修理するべきなのだろうが、バグアとの戦いがそれを許してはくれない。
 そうした過酷な状況の中、整備班は航行中に修理を施してUK3を維持し続けている。
「すいません‥‥」
 鳴島の怒りを理解した整備員が謝罪する。
「謝るぐらいなら最初からちゃんとやれ」
 語気を強めながら、鳴島は踵を返す。
 整備員には似つかないその大きな体は、かつて軍人だった頃の面影を残す。ある作戦で重傷を負ってからは整備員としてUK3を裏で支え続けている。
「鳴島」
「あ、広瀬班長」
 鳴島は整備班長の広瀬健太郎に頭を下げる。
 まだ二十代の若き整備班長。細い指、さわやかな笑顔からはそれを感じさせない。
 重傷を負ってUK3を降りようとしていた鳴島を、整備員として引き留めたのは広瀬だった。それ以来、鳴島は広瀬に頭が上がらない。
「あまり整備員を怒鳴ってはいけないよ」
「しかし、班長。俺達の手抜きは前線で戦う奴らの寿命を縮めます。俺達は帰る場所を守るために頑張ってます」
 言葉を選びながら、鳴島は反論する。
 UK3には多くの者が乗船している。住居――否、故郷と考えている者も居るだろう。バグアとの度重なる戦いの中、その故郷を整備員達は守り続けている。
「鳴島の言いたい事は十分理解しているよ」
「だったら‥‥」
「でも、みんながやる気を失ってはいけない。連日の修理作業で頑張っているなら尚更だよ」
 優しく諭すように広瀬は言った。
 交代で修理作業を行ってはいるものの、作業スケジュールに遅延が発生し始めている。人手不足もさる事ながら、度重なるUK3の激闘が深刻なダメージが予想以上だった事が原因だ。
「分かりました、班長」
「うん。
 ‥‥ところで。この修理が終わったら、練習に付き合ってくれるかい?」
「トランペットですね。喜んで付き合わせていただきます」
 広瀬の誘いに、鳴島は不器用な笑顔で応える。
 広瀬と鳴島は整備の仕事の合間にトランペットを嗜んでいた。毎日、整備作業ばかりでは精神的にも負担が大きい。そこで広瀬は趣味としてトランペットを始めたのだが、気づけば鳴島も始めていたという訳だ。
「ありがとう、鳴島‥‥」
 感謝を述べる広瀬。
 だが、その言葉の続きをアラーム音が打ち消した。
「3時方向よりバグアと思しき飛行物体が接近。KVは発進準備、迎撃態勢に入って下さい」
 緊急発進を告げるアナウンス。
 それを耳にした鳴島は奥歯を噛み締めた。
「‥‥くそっ、こんな時に」
 いつものUK3ならば海中へ逃れるのだが、今は大規模修理を行っている最中。海中で逃れる事もままならない。KVによる迎撃で、バグアを撃退する他術はない。
「鳴島、ここは任せる。僕はKV発進準備の支援へ行く」
「分かりました、班長」
 駆け出す広瀬を見送る鳴島。
 現場を任された以上、その大きな責任がプレッシャーとなって襲いかかる。
 しかし、負ける訳にはいかない。
 緊急発進する戦士達の帰る場所を守るために。

●参加者一覧

乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
ナナヤ・オスター(ga8771
20歳・♂・JG
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
シン・サギヤ(gb7742
22歳・♂・EL
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
ジュナス・フォリッド(gc5583
19歳・♂・SF
アルテミス(gc6467
17歳・♂・JG
ユーリー・ミリオン(gc6691
14歳・♀・HA
マーシャ(gc6874
18歳・♀・HG
住吉(gc6879
15歳・♀・ER

●リプレイ本文

「頼みましたよ、皆さん‥‥」
 UK3整備班長の広瀬健太郎は、UK3を飛び立つKVを見守っていた。
 ベーリング海にて修復中のUK3をバグアが襲撃。潜行するまで30分という時間を、10機のKVで稼がなければならない。
 敵戦力は数だけみれば倍以上。
 気を抜けばUK3への攻撃を許す事になる。万が一、大きな被害が発生するようであれば、今後の戦闘にも影響を与えるに違いない。
 すべては、勇敢なる空の戦士達に掛かっている。

「UK3の修理が済むまで敵を近付けさせる訳にはいきませんからね。全力で防がせていただきます」
 愛機バロールのコックピットにて乾 幸香(ga8460)は力強く意気込みを語る。
 今回の任務において、唯一の電子戦装備を持つバロール。眼前より迫り来る小型ヘルメットワームの群れを見据えている。
「選り取り見取り‥‥なんて、言っている余裕はなさそうですね、ははは」
「余裕だな。こっちは元戦車兵なのに、空戦やらされているんだ。余裕なんかあるかよ」
 ナナヤ・オスター(ga8771)の言葉に、シン・サギヤ(gb7742)は軽口を叩く。
 だが、ナナヤは責任の重さをしっかり感じ取っていた。人類側にとってUK3は決して落とされてはならない。この一戦が明日へ繋がると信じながら、ノスフェラトゥの操縦桿を握りしめる。
「で、では‥‥景気づけに‥‥こちらから、仕掛けませんか?」
 覚醒して好戦的になっているのはマーシャ(gc6874)。
 その言葉にフローラ・シュトリエ(gb6204)が素早く反応した。
「つまり、ミサイルパーティって奴だよね? 乗った!」
「派手に〜、開幕を飾ろうという訳ですね〜。了解〜‥‥」
 ノーヴィ・ロジーナの住吉(gc6879)も同調。
 やる気がない雰囲気を醸しだしているが、明日のご飯のためにもこの依頼を失敗させる訳にはいかない。
「そうと決まれば各機一斉攻撃の準備だ」
 秋月 愁矢(gc1971)が仲間へ声を掛ける。
 テスタロッサからホーミングミサイルFI−04の発射準備に入る。
「皆さん、群れの真ん中を狙って下さい」
 幸香が目標の指示を出す。
 既に目標とすべき位置をレーダーで捉え、K−02小型ホーミングミサイルの発射タイミングを待っている。
 折角のパーティ、やるならば徹底的にやるべきだ。
 所詮相手は無人機であるヘルメットワーム。
 容赦する必要はまったくない。
「ボクは準備OK。守るために撃ーつ、UK3は絶対守るからね」
「こちらはいつでも発射可能だ。指示を請う」
 アルテミスと(gc6467)ジュナス・フォリッド(gc5583)も準備完了。
 既にヘルメットワームは間近まで近づいている。
 自らの爆風に巻き込まれないようにするためには、ギリギリの発射タイミングだ。
「では、皆さん。いきますよ‥‥5秒前、4、3、2、1‥‥」
 秒読みを開始したユーリー・ミリオン(gc6691)。
 パーティの準備は完全に整った。
 あとは、開始の花火を打ち上げるだけ――。
「レッツ、パーリィ!!!」
 ユーリーの叫びと共に、各機から発射されるミサイルの熱線。
 GP−02Sミサイルポッド、H−044短距離用AAM、UK−10AAEM。
 各機から放たれたミサイルはヘルメットワームの群れの中へと突き進む。

 そして――爆発。

 数機のヘルメットワームを巻き込みながら、ミサイルは青空の上で大輪の花を咲かせる。
 ミサイル攻撃を受けてヘルメットワームもプロトン砲で迎撃を開始。
「ここからは一方通行だ。
 ‥‥悪いが落とさせてもらう」
 ジュナスはファースト・トリガーを大きく旋回させながら、再びヘルメットワームへと肉薄。3.2cm高分子レーザー砲を叩き込むために。



 各KVは事前に役割を取り決めていた。

 率先して迎撃を行う、オフェンス班。
 UK3防衛を優先とする、ディフェンス班。
 戦況に応じて遊撃任務を行う、遊撃班。
 
 各班は最低でも2機編成で任務を遂行している。つまり、この戦いは各機の連携が非常に重要な要素になると言えるだろう。
「一歩ずつ経験を経て、着実に頑張ってみるです」
 ユーリーのグリフォンが、別機体に気を取られていたヘルメットワームを側面から強襲。
 それに気付いたヘルメットワームが旋回を開始するが、既にCSP−1ガトリング砲は今にも火を噴かんとしていた。
「これでどうです?」
 勢いよく回転を始めるガトリング砲。
 撃ち出された弾丸は、ヘルメットワームを直撃。数カ所に風穴を作り上げたものの、墜落させるまでには至らない。
 そこへファースト・トリガーが滑り込んでくる。
「逃がさない」
 ジュナスはRA.1.25in.レーザーカノンを撃った。
 3本の光線はヘルメットワームを背後から貫き、空中で爆発させた。
「助かりました、ジュナス」
「安心するのはまだ早い。敵はまだ残っている‥‥」
 ユーリーに言葉を返しながら、ジュナスは操縦桿を大きく傾ける。
 ユーリーと共に次なる獲物を狙うために。

「ナナヤさん、9時方向に敵機!」
「うわっとと!」
 幸香が叫んだ直後、ナナヤのノスフェラトゥに収束フェザー砲が命中。直撃を避ける事はできたが、機体は大きく揺れ動く。
「よりにもよって整備士泣かせであるこのノスフェラトゥになんて事を‥‥」
 撃ってきた手負いのヘルメットワームを視認しながら、ナナヤは帰還した後の事を考えていた。
 ノスフェラトゥは各国工業規格が混在、劣悪な整備性はメカニックジェノサイダーと呼ばれている。UK3の整備士には強面で知られる鳴島成一が居る。あのドスの効いた低音で説教されるのはゴメンだ。
「ナナヤさん、今からのわたしの機体が敵カメムシに対して殺中剤を散布します!
 害虫が怯んでいる隙に全力で叩いて下さい」
「え? 殺虫剤?」
 ナナヤが聞き返している間に、幸香は対バグアロックオンキャンセラーを発動する。
 周囲にいたヘルメットワームは、重力波の微弱な乱れに巻き込まれる。
「はは、これはチャンスって奴ですね」
 ノスフェラトゥの焔刃「鳳」に陽炎を生じる。
 放熱板を兼ねたブレードは、熱を発しながらヘルメットワームを引き裂いた。
 コックピットの中にまで響く金属音。そこに出来上がった大きな傷。
 小型ヘルメットワームにとっては致命的ともいえる損傷。その結果、ヘルメットワームは重力に引かれながら四散した。
「殺虫剤、感謝しますよ」
「他のカメムシも数匹巻き込みました。叩くなら今です」
 幸香はバロールのコックピットからノスフェラトゥに向かって視線を送る。
 何処まで敵を落とせるのか。
 傭兵達の戦いは、続いている。



 ――UK3。
「10分掛かるだと!? 馬鹿野郎! あと5分で終わらせろ!」
 UK3の修理現場は修羅場と化していた。
 陣頭指揮を執る鳴島成一は、いつにも増しで語気を荒げる。
 傭兵達が作ってくれたこの時間、決して無駄にしてはいけない。
 その気持ちから、鳴島は他の整備士に対して罵声を飛ばし続ける。
「俺達ぁ、上空の奴らに報いるためにも頑張らなきゃならねぇ。修理を速効で終わらせるんだ!」
「こっちはどうだい、鳴島」
「広瀬班長」
 背後から歩み寄ってきた広瀬の存在に気付いた鳴島は頭を下げる。
 広瀬は上空で戦っていたKVの整備を行っていた。
「修理は予定より少し遅れていますが‥‥俺が何とかします」
「頼んだよ、鳴島。僕は上空で戦っている彼らを迎え入れる準備をしなければならないんだ」
 整備班長とは思えない優しい言葉が緊張の糸を緩めようとする。
 だが、今は命を賭ける者達のためにも気を抜いてはいけない。
「班長、上空の奴らぁ大丈夫でしょうか‥‥」
「その心配は無用だよ。
 彼らは必死に頑張っているんだ。仮にKVが傷ついたならば、僕達が直せばいい。彼らが再び戦える状態にする事も僕達の仕事だよ」
 広瀬は再び空を見上げる。
 ここから肉眼ではよく見えないが、傭兵達は今も戦い続けている。
 多くの者達の想いを乗せて戦う傭兵達を、広瀬は尊敬していた。
 そして、その戦いを裏で支える整備士という職業を、広瀬は誰よりも胸を張って誇っていた。
「鳴島、僕は彼らが帰ってきたら僕達のトランペットで迎えてやりたいよ」



「おっと!」
 ユーリーの隙を突く形で、ヘルメットワームが脇をすり抜けていく。
 オフェンス班が奮戦してはいるが、すべてを4機で抑える事は難しい。
 上手の手から水が漏れるように、抜け出たヘルメットワームがUK3へ向かってくる。「住吉、そちらへ行きました。お願いします」
「はいはーい。まったく、給料分働くバグアの方もご苦労様なところですね〜」
「だ、駄目ですよ。もっと頑張らないと〜」
 気怠そうな住吉をマーシャが鼓舞している。
 そう言いながらも、マーシャは住吉がしっかり任務を遂行している事に気付いていた。飛来する敵は2人で確実に撃ち落とし、UK3へ近付けていないのが良い例だろう。
「来ましたよ‥‥それっ!」
 正面から20mmガトリング砲を発射するマーシャ。
 しかし、距離を置きすぎたためか躱されてしまう。
 逆にヘルメットワームはプロトン砲を撃ち込んでくる。
「わわっ!」
 慌てて操縦桿を横へ倒すマーシャ。
 プロトン砲はマーシャが居た場所を通過して、明後日の方向へ消えていく。
「はい、これお返しね〜」
 ヘルメットワームの逃げ道を待ち伏せていた住吉。
 レーダーで捕捉した上で、MM−20ミサイルポッド発射する。
 撃ち出された10発のミサイルは、ヘルメットワームの上部へ命中。
 一瞬にして爆炎に包まれる。
「凄い。わ、私も‥‥」
 住吉へ続けとばかりに、マーシャは小型ミサイル「身外身」のボタンを押した。
 サルの絵が描かれた無数のミサイルが、雨のように降り注ぐ。
 爆発が消えた後には、ヘルメットワームの存在は消え失せていた。
「ふぅ、危なかった‥‥」
「マーシャ様、力が入りすぎです。もっと楽にやった方がいいですよ」
 住吉はいつものように気怠そうに、そして――優しく声を掛けた。

「ディフェンス班、迎撃を頼む」
 ジュナスからの通信がアルテミスへもたらされる。
 バグアの増援が現れだした事から、最前線はさらに混乱となっていた。
 時折手負いのヘルメットワークがオフェンス班を躱す事が、明らかに増え始めていた。「ちっ、来やがったか‥‥」
 夜鳴鶯のコックピットで、シンは舌打ちをした。
 元戦車兵である自分に空戦が出来るのだろうか。
 実際には能力者である時点で一般人よりも数段出来るはずなのだが、戦車乗りを自負するシンには自信が持てなかった。
「やってみるしかないか」
 シンは向かってくるヘルメットワームに照準を合わせる。
 そして、ゆっくりと90mm連装機関砲のボタンへ手を掛ける。
(ここは車中だ‥‥耳を澄ませばキャタピラの音が聞こえるだろう?
 それに、砂埃とむせ返るような暑さ。間違いないだろう。
 いつもの光景だ‥‥焦る事はないんだ‥‥)
 シンは自分に言い聞かせる。
 いつものようにやればいいんだ。
 そして――指に力を込める。

 2本の銃身から撃ち出される銃弾。
 宙を突き進む弾丸は、ヘルメットワームの体を穿った。
 だが、この攻撃だけで撃ち落とす事はできない。
「クソ、やっぱり俺は戦車兵だ。
 アルテミス、頼んだ」
「はーい。うまく当たるといーなー」
 上空から飛来する形でアルテミスの薔薇様が急接近。
 レーザーガン「フィロソフィー」 の銃身に光が生まれる。
「あったれーーー!!」
 アルテミスは叫んだ。
 刹那、レーザーガンから放たれた光はヘルメットワームの体に巨大な風穴を作り上げた。
 爆発。
 ヘルメットワームの残骸は、ベーリング海へと落ちていく。
「やるもんだな」
「シンさんもだよ。
 それよりボク、シンさんみたいな男らしい人。大好きだよ」
「え? あ、ああ‥‥」
 突然のアルテミスの告白に困惑するシン。
 それに対してコックピットから微笑み掛けるアルテミス。
 やや引っかかる物がありながら、シンは空の戦士として戦いを再開する。

 ヘルメットワームは確実に減っているのだが、増援は後からやってくる。
 だが、間もなく刻限である。
 UK3への帰還を念頭に置きながら、各機は残り時間を気にしていた。
「こいつめっ!!」
 フローラのSchneeから撃ち出されたRA.2.7in.プラズマライフルが、ヘルメットワームを爆発させる。
 遊撃班として縦横無尽に動き回っているためか、残弾が残り少なくなりつつある。
 敵の数も時間も確実に減っている。
 あとは何処まで愛機が持つか‥‥。
「あっ!」
 時間を気にするあまり、フローラは一機撃ち漏らしてしまった。
 慌てて共に遊撃班として戦う秋月へ話しかける。
「秋月さん、そっちに行ったよ!」
「了解だ」
 秋月は太陽を背にして急降下。
 撃ち漏らしたヘルメットワームへ接近する。
「今だっ!」
 秋月のテスタロッサが空中で変形。人型形態へと変わる。
 スカイセイバーが持つエアロダンサーで人が飛行が可能なおかげだ。
 人型へと変形したテスタロッサの手には機刀「建御雷」が握りしめられている。
「貴様のような物は‥‥存在するべきじゃない」
 テスタロッサの建御雷は刃紋に描かれた雷の如く振り下ろされる。
 真っ二つへと引き裂かれたヘルメットワーム。
 空中へ落下しながら、二つの爆発が生まれる。
「そら!」
 再び飛行形態へと戻ったスカイセイバーは次なる獲物を求め、その場を飛び立った。



「皆さんのおかげです。ありがとう」
 海中を進むUK3の中で、広瀬は傭兵達に頭を下げた。
 傭兵達の活躍で、UK3には被害はなかった。
 KVはダメージを負っているものについては、整備班が修理に取りかかっている最中だ。
「感謝するのはこちらです。
 整備員の皆さんの頑張りが、この結果を生んだのです」
 ユーリーは広瀬に感謝の言葉を述べた。
 今回の依頼は傭兵と整備兵の双方が命を賭けた結果に他ならない。
 双方は謙遜しあっているが、その結果は紛れもなく事実だ。
「なら、感謝ついでにお願いがあるんだ」
「ふふ、なんでしょう?」
 椅子に腰掛けてコーヒーを口にしていたシンの願いに、広瀬は微笑みかける。
「あんたのトランペット、聴かせてくれないか?
 戦いが終わった後は、ゆっくりしたいんだ」
 心を落ち着かせたいというシン。
 その言葉に広瀬の表情はより一層明るくなる。
「僕達のトランペットで良ければ、お聞かせします。
 鳴島、いいかい?」
「班長が良ければ、俺は構いません」
 そう呟いた鳴島は、傍らにあった金色のトランペットを取り出した。
 そして、広瀬と共にタイミングを合わせてトランペットを吹き始める。
「わぁ、楽しそうなリズム」
 トランペットが奏でる音楽に、思わず踊り出したくなるフローラ。
 リズミカルな音楽が、何とも心地よい。
「アイ・ガット・リズム‥‥ガシューウィンか。
 うん、悪くない」
 軽くリズムに乗りながら、シンはコーヒーをゴクリと飲み込んだ。