タイトル:【竜宮LP】漢たちの挽歌マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/12 23:05

●オープニング本文


 それは、人間が地球上に誕生した頃から地上に蔓延っていた。
 意識空間が拡大し、他の存在を意識し始めた頃より生まれし感情。

 誘惑。
 渇望。
 欲求。
 そして――獲得。

 人は、自身が持ち得ない物を欲さずには居られない。
 人は、欲していた物を手に入れても新たな持ち得ない物を見つける。

 端から見れば愚かな行為だったとしても、それこそ『人が人らしく生きていく』事の証に他ならないのだ‥‥。


 あんな気色の悪い奴が何故そのような事をするのかは分からない。
 ただ、自分の身に危険が及んでいる事は本能的に理解している。
 そう、あいつの好きにさせてはいけない。
「く、来るな!」
 UPC軍人がアサルトライフルを膝射。
 乾いた銃声が辺りに響き渡り、道路やビル壁に弾痕を作り出していく。
 そんな中、向けられた敵意を察知したあいつは、咄嗟に停車していた自動車の陰へと身を隠した。
 撃ち出された弾丸は、自動車へ突き刺さる。
 窓ガラスは破壊され、欠片が地面へと撒き散らされる。残念ながら弾丸はあいつの体に到達する事ができず、傷一つ負わせる事ができない。
 悔しさを顔に滲ませるUPC軍人。
 カートリッジが空になる頃には、火薬の香りが辺りを支配する。

 一時の沈黙。
 そして次の瞬間、巨大な音が木霊する。

 ――ドガッ!

 突然の衝撃音と共に、車が吹き飛んだ。
 アサルトライフルの弾丸をはじき飛ばしながら、猛スピードでUPC軍人へ迫る。
「うわっ!」
 予想外の出来事であった事に加え、膝を立てた体勢であった事から車を避ける事ができない。
 激しく――衝突。
 車のボンネットに乗り上げながら、UPC軍人は地面へと叩き付けられる。
「うう‥‥」
 UPC軍人は地面に這いつくばって、うめき声を上げた。
 体中が、痛い。
 呼吸の苦しさから肋骨が折れているかもしれない。
 恨めしそうに衝突した車を見れば、車の側面に出来上がった衝撃の跡。その中心には拳らしき痕跡が残されている。あいつが車を殴ったのだろうが、一撃で車を吹き飛ばした怪力は人間業とは考えられない。
 薄れゆく意識の中、あいつはゆっくりとこちらへ向かってくる。
 何がそんなに面白いのか、ずっと笑顔を絶やさない。
 琥珀色の肌でパンツ一枚、額には『金』の文字が入った異様な出で立ちから単なる変質者と考えていたが、UPC軍人は外見で完全に騙された事になる。
 倒れ込んでいる軍人をあいつは抱え上げると後方にあった檻の中へ放り込む。
 まるで軍人を集荷する荷物であるかのように。


「また誘拐事件ですか」
 広州軍区司令部付事務補佐官ドゥンガバル・クリシュナ少尉は、部下からの報告を受けてそう呟いた。
 昨今、広州沿岸部を中心に発生している誘拐事件。一般市民から警官、果てはUPC軍人までもが誘拐されているのだが、奇妙な事に男性ばかりが誘拐されている。女性に関してはまったく誘拐されたという情報が入ってこないのだ。
「男性ばかりを誘拐しているというのは、一体どういう事なのでしょうか」
「北京解放作戦の攪乱が目的かもしれませんが、非常に奇妙な事件です。ですが、誘拐と思われる者の風貌。目撃情報から先日青島で目撃された者と一致します」
 クリシュナは指で机をトントンと叩き出す。
 クリシュナが思案する際の悪い癖なのだが、本人は直す気はあまりないようだ。
「おそらく、男性でなければならない理由が何処かにあるはずです。我々の知らない間で何かが進行している‥‥それだけは間違いないでしょう」
「それでは早急に調査隊を組織して‥‥」
「いえ、現在北京解放作戦が遂行中です。下手に戦力を裂くことは有事の際に対応できなくなる可能性があります。軍を動かすためにはもう少し情報を入手する必要があるでしょう」
 現在、北京解放作戦でUPC軍はバグア軍に戦いを挑んでいる。悲願とも言うべき北京解放を前に後方で軍を動かすためには、あまりにも情報が不足している。事態に対処すべきなのは間違いないが、今はまだ部隊を動かして対応するタイミングではない。
 クリシュナはそう考えているようだ。
「少尉、如何致しましょうか」
 部下はクリシュナに判断を仰いだ。
 既にUPC軍人までもが連れ去られており、これ以上の被害は広州軍区全体の士気低下を招く可能性がある。早急な対応を求められているが、UPC軍を動かす訳にはいかない。 今回の救出作戦はUPC軍に所属しておらず、事態を調査する能力を保持する者が必要である。
 そして、その答えは――奇しくもクリシュナの部下である某軍人と同じ回答に辿り着く。
「ULTへ連絡。
 今回一件を傭兵へ依頼します。もたらされた情報を元に対応を検討します」

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
黒瀬 レオ(gb9668
20歳・♂・AA
吹雪 蒼牙(gc0781
18歳・♂・FC
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
輪島 貞夫(gc3137
25歳・♂・CA
フェンリス・ウールヴ(gc4838
15歳・♂・ST
イオグ=ソトト(gc4997
14歳・♂・HG
倖石 春香(gc6319
28歳・♀・SF

●リプレイ本文

●連行
 怪事件。
 そう表現して差し障りはないだろう。
 広州沿岸部を中心に、男性ばかりを何処かへと強引に連れ去ってしまう。
 一体、何が目的で何処へ連れ去るのかは誰にも分からない。

 しかし、事件は現場で起きている。
 ブーメランパンツ一枚で筋肉質の男によって‥‥。

「見過ごす事はできませんね。鍛え抜かれた筋肉が悪に染まる事を」
 筋肉系執事を自称する輪島 貞夫(gc3137)は、呆気なく事件の犯人を発見する事ができた。何故なら犯人は、巨大な檻を引っ張りながら香港の中環で白昼堂々誘拐事件を起こしていたからだ。
「私の筋肉とどちらが上か、勝負しに参りました」
 執事と称しながらも、貞夫の姿は犯人と同じくブーメランパンツ一枚。
 執事とは思えない鍛え抜かれた体は、サイドチェストによって体の厚みが強調される。「待てぇい!」
 犯人と貞夫に割って入ったのは、イオグ=ソトト(gc4997)。
 イオグは徐に着用していた学ランを脱ぎ捨て、貞夫同様見事な筋肉を披露する。
 キラリと光る尼、脈動する力こぶ、そして爽やかすぎる笑顔。
 いずれも犯人と外見が被っている事を気にしている。
 しかし、伝説の人『超兄貴』に強い憧れ――否、愛に近い感情を抱くイオグは、偽物などに負ける訳にはいかない。
 アドミナブル・アンド・サイにより腹筋と脚が強調しつつ、イオグは犯人を筋肉美で挑発する。
「‥‥やれやれ。ゆっくり珈琲の時間を楽しむ事もできない、か」
 犯人を待っていたかのように、UNKNOWN(ga4276)はオープンカフェで珈琲を楽しんでいた。
「本当は観光‥‥ではなく、周辺調査をする予定だったが、様々な場所で追い出されてしまったのは予想外だった」
「それはUNKNOWNのせいだろう」
 秋月 愁矢(gc1971)はUNKNOWNの傍らでふて腐れていた。
 香港に詳しいUNKNOWNと共に周辺調査と称して観光を行う予定だったが、UNKNOWNは黒のボルサリーノ、スカーレットのネクタイ、黒皮靴に黒手袋、V字の黒ビキニパンツを着用していた。細身ながら筋肉質である事を披露してダンディズムを強調しているようだが、観光地をこの姿で登場すれば警戒されるのは当然。おまけに誘拐事件の犯人がブーメランパンツ一枚なのだから、行く先々で煙たがられてしまったようだ。
「観光は、今度ゆっくり付き合ってやる。ここからは傭兵としての時間だ」
「ああ、分かってる」
 UNKNOWNと愁矢は椅子から立ち上がると、犯人に向かって歩き出した。
 これで四対一。
 誘拐犯人は取り押さえられて事件は解決、するかのように思われた。
「‥‥うぐっ!」
 笑顔を絶やさない誘拐犯人は、イオグの腹に拳をめり込ませた。
 崩れ落ちるイオグ。
 その姿を見ることなく、今度は貞夫の側頭部に蹴りを見舞う。
「ゆ、油断しました‥‥」
 同じく倒れ込む貞夫。
 誘拐犯人は、傭兵たちが男性であった事から四人全員を誘拐するつもりのようだ。
 ゆっくりとUNKNOWNと愁矢へ向かって歩み寄ってくる。
「思ったより素早いな」
 愁矢は冷静に犯人の動きを分析した。
 筋肉質である事からパワーだけの存在だと思っていたが、鍛え抜かれた脚力はそのスピードの原動力となっていたようだ。
「厄介な相手か‥‥なら、打ち合わせ通りに」
 UNKNOWNの視線を理解した愁矢は、大きく頷くと誘拐犯人に向かって走り出した。
 予定通り、犯人に捕縛されるために。

●追跡
「犯人が欲張りで助かりましたね」
 吹雪 蒼牙(gc0781)は『ライザー』と名付けられたジーザリオを運転しながら、犯人を追跡していた。
 犯人と対峙した筋肉バカ‥‥いや、傭兵たちは囮役である。
 連れ去られた男性たちは一体、何処へ連れて行かれているのか。
 それを知るのは誘拐犯人のみ。
 ならば、わざと捕まってその絡繰りを調べる必要がある。
 そう考えた傭兵たちは、囮役が捕縛されるのを待った上で別班が犯人を追跡するという作戦を立てていた。
「男性ばかりとは奇妙じゃのう。しかし、お陰でわしは楽ができそうじゃ」
 マイペースな倖石 春香(gc6319)は、作戦に参加した誰よりも余裕があった。
 今回の事件、何故か女性はまったく狙われない。
 男性ばかりが狙われ、攫われる。
 つまり、春香は生まれながらにして今回の任務は安心できる立場にあった。
「女性が攫われているなら問題だけど、男だけって‥‥フェンはどう思う?」
 蒼牙に質問されたのは、助手席に座るフェンリス・ウールヴ(gc4838)。
「‥‥肉体的な実験が、目的かもしれない」
 ぽつりと呟くフェンリス。
 そう言いながらも、犯人の姿を目視で捉え続けている。ここで見失えば、囮役として捕まった傭兵たちの身に危険が及ぶ事になる。
 絶対に見失う事はできない。
「しかし‥‥マジであの格好かよ‥‥パネェ」
 ライザーの傍らで黒瀬 レオ(gb9668)がSE−445Rを走らせる。
 ライザーよりも小回りが効くバイクならば、香港の裏路地に入られても追跡は可能。そう考えた黒瀬は愛車のSE−445Rを走らせているが、情報通り男を連れ去る犯人の風貌が異様である事に驚きを隠せずに居た。
「あの風貌も男を攫う理由に関係するとしたら‥‥」
 蒼牙はある妄想をする。
 服を向かれてローション塗れにされた男性たち。
 そこに現れた誘拐犯人は、手近な一人を捕まえて‥‥。
 そう考えた瞬間、蒼牙の背筋に虫が這ったような感覚が襲う。
「何を‥‥考えている?」
「い、いや何でもない」
 フェンリスの問いかけを受け、現実に引き戻される蒼牙。
 もし、自分の身にそのような事が起こったら。
 そう考えただけでも恐ろしさに背筋が凍る。
「おや、どうやら犯人は港へ入っていくようじゃな」
 春香の声で、ライザーはその足を止める。
「港か。船で連れ去った人たちを何処かへ運ぶつもりかな?」
 黒瀬は犯人の思惑を推理する。
 港に来たならば、やはり何処かへ運んでいると考えるのが自然だ。未だ誘拐目的は分からないが、囮役の傭兵たちが船に乗せられて運ばれたりすれば合流は難しくなる。
「‥‥絶対、逃がさないよ」
 黒瀬はSE−445Rのアクセルを振り絞った。

●情報
 一方、囮役となったビキニパンツ3兄弟こと、UNKNOWN、貞夫、イオグ。
 そして、一緒に捕らわれている愁矢。
 捕らわれた彼らは一つの檻の中に入れられ、誘拐犯人によって港の倉庫まで運ばれてきた。倉庫には同じような檻が幾つも並んでおり、その中には誘拐されたと思われる男性たちが入れられていた。
「よくここまで集めましたね」
 周囲を見回しながら、貞夫は呟いた。
 視界に入るだけでも檻の数は数十。中に入れられた男性の人数を考えると百名以上が捕らわれていた事になる。
「これだけの男性を捕まえて、何をする気なんだ?」
 イオグも必死に理由を考えてはいるが、未だ納得するよう回答は浮かんでこない。
「うーん、UNKNOWNはどう思う?」
 愁矢は参考までにUNKNOWNの考えを聞いてみた。
 愁矢もイオグ同様必死に考えてはいるが、一向にその回答は見つからない。
 あまりにも情報が少なすぎる事が原因なのだが‥‥。
「思い悩むは人間の証。今はあらゆる可能性を想定しておく事が、優れた傭兵の条件だ」
 ビキニパンツを着用してはいるものの、UNKNOWNはダンディズムを失う事はなかった。むしろ、余裕を持って状況を分析しているようにも見える。
「おい、あんたたちも捕まったのか?」
 ふと、横の檻から声がかけられた。
 見れば、UPC軍の制服を着た男が小声で話しかけてきた。
 貞夫は執事として丁寧な応対をする。
「ええ。正確には事件究明のために、わざと捕らわれた傭兵です」
「傭兵か。ここから逃げ出せる事ができるなら、早く立ち去るんだ。船で運ばれたら、ここへ戻ってくる事は難しくなる」
「どういう事だ?」
 イオグは制服の男を問いただした。
「俺は見たんだ。檻に入れられた男たちは、ビッグフィッシュに乗せられた。これはバグアの仕業だ」
「バグア‥‥」
 UNKNOWNは、制服の男の言葉を繰り返した。
 今までのバグアならば、洗脳やヨリシロとするにしても優秀な者を選んでいた。一般人を連れ去る事はなかった。連れ去っても能力としては不十分だからだ。バグアの仕業だという予測はしていたが、これ程大規模に一般人を連れ去る必要性は見えてこない。
「バグアの仕業だという事は分かった。だが、早く立ち去るとはどういう意味だ?」
 今度は愁矢が聞き返した。
 船で何処かへ連れ去るのならば、UPC軍が察知できるはず。KVで追跡してアジトを突き止める事ができるはずだ。制服の男がそこまで焦る必要はない。
「ビッグフィッシュは空じゃない。海の中へ消えていったんだ。下手に海へ攫われれば、いくら能力者でも生身じゃ海の中はやばいだろう?」
 どうやら、バグアは男性を海の中へ連れ去っていたようだ。
 輸送するだけならば、空を使って輸送した方が早い。わざわざ輸送に手間がかかる海を選ぶという事は‥‥。
「目的地の先は海の中、という事になりますね。
 もっとも、UPC軍の目を欺くつもりで海を航行している可能性もありますが‥‥」
「いずれにしても囮役はここまでだ。海の中へ連れて行かれれば、別班が追跡する事はできない」
 UNKNOWNはボルサリーノを被り直した。
 海の中へ連れて行かれた場合、囮役の四名で事件の真相を調査する事になる。仮に目的地がバグアの基地だった場合、四人の戦力で基地一つを潰さなければならないかもしれない。ましてや、海の中で敵の拠点を潰したとしても陸まで戻る術を持っていない。
 これ以上の調査はあまりにも危険。
 敵が海の中で拠点を構えている可能性があると分かっただけでも大きな収穫だろう。
「なら‥‥もう遠慮はいらんな」
 イオグは檻を両手で握りしめた。
 太い腕に力が込められ、両頬に白色の十字架紋様が浮かぶ上がる。
「兄貴ぃぃぃぃぃいいい!!!」
 叫びと同時に引きちぎられる檻。
 飴細工のように拉げた檻はその役目を果たす事ができず、囮役の四人を表へ解放する。 檻から出る四人。
 まずは、檻に入れられた者たちを解放しなければならない。檻を壊して人質を救出する必要がある。だが、事態はそこまで好転しないようだ。
「!?」
 誘拐犯人は、異変に気づいて倉庫へとやって来たようだ。
「お早い到着だ。本当、関心するぜ」
 檻から出た愁矢は、別班の四人に無線機で戦闘開始する旨を連絡していた。
 間もなく別班の四人もここへ合流するだろう。

 そして、この場が倉庫から一変する。
 最高の筋肉を持つ者が誰なのかを決める、マッスルバトルアリーナに。

●筋肉の宴
「さぁ、早く!」
 愁矢は壊した檻の中から男性たちを、外へ出るよう促した。
 自由を得た男性たちは慌ててこの場から逃走を開始。それでも壊すべき檻はまだ残されている。
「キリがないですね」
 忍刀「颯颯」で檻を壊す蒼牙。
 人が通れる程の隙間を作り出して、次々と人々を解放する。
「それでも‥‥やらないと‥‥」
 愁矢、蒼牙と同じように小銃「S−01」で檻の鍵を壊すフェンリス。
 可能な限り、捕らわれた人々を解放しなければならない。バグアが人々を何に利用するつもりなのかは分からないが、バグアの好きにさせて良いはずがないからだ。

 誘拐犯人は三人を止めたいのだろうが、それを他の傭兵たちが食い止めている。
「偽りの筋肉を纏いし者に、負ける訳がないわ!
 筋肉が繰り出す弾丸をとくと味わえ!」
 イオグは強弾撃で強化した弾丸をアサルトライフルから撃ち出した。
 だが、誘拐犯人は弾丸を擦らせながらも、体に似合わず素早い動きで弾丸を躱す。
 その行く手には貞夫。
「何処へ行かれるのです? その筋肉は見かけ倒しではないのでしょう」
 貞夫は両手を上げるように構える。
 筋肉を愛する者としてレスリングで誘拐犯人へ挑むつもりのようだ。
 それに応じるように、構えた手を己の手を合わせて力比べをしようとした瞬間。
「必殺メガネ光線っ!」
 貞夫はメガネのフレームに手を添える。
 メガネから放たれたレーザーは誘拐犯人の顔面を至近距離で捉えた。
「私のメガネは超機械です」
 至近距離のレーザーに目が眩む誘拐犯人。
 その足取りはふらついている。
「ふっ、ダンディズムが足りんな」
 UNKNOWNが背後から近寄る。
 それを察した誘拐犯人は振り向き様に、UNKNOWNを殴りかかった。
 誘拐犯人の拳を見切って躱すUNKNOWN。
「おっと、そんな拳じゃ当たらんよ。攻撃するなら‥‥こうだっ!」
 UNKNOWNは小型超機械αを使った。
 誘拐犯人の周囲を強力な電磁波が包み、ダメージを与える。
 だが、誘拐犯人の筋肉も伊達ではない。
 ダメージを与えているようだが、まだ動けるようだ。
「わしに仇為す愚か者に制裁を――」
 春香は誘拐犯人に練成弱体をかけた。
 如何に筋肉が優れていようとも、しばらくの間は弱るはずだ。
「よし、この阿呆にお前さんの力を見せてやるのじゃ!」
 春香の作ったチャンスに、黒瀬が駆け寄る。
 その手には燃えるような刀身を持つ紅炎が握られている。
「消えろ、変態!」
 黒瀬は紅炎を誘拐犯人に向かって振り下ろした。
 自慢の筋肉は紅炎の刀身を弾き返す事無く受け入れる。
 刃が筋肉を切り裂きながら、肩から大胸筋付近まで突き進む。
 溢れ出す血。
 辺りは既に血の海と化し、誘拐犯人の体を地面へ崩れ落ちる。
「攫われた人達、何処へ行ったのか教えてくれる?」
 誘拐犯人に息がある事に気づいた黒瀬は、紅炎を誘拐犯人の首元へ突きつけた。
 口から血を流しながらも、張り付いた笑顔を崩さない。
 この男が何者で、何を考えているのかは分からない。
「‥‥‥‥」
 男を見つめる黒瀬。
 誘拐犯人は何も喋らない。
 だが、誘拐犯人の張り付いた笑顔が変わったような気がした。
 余裕の笑みなのか、それとも‥‥。
「危ねぇ!」
 直感的に危険を感じ取ったUNKNOWN。
 黒瀬に飛びつき、巻き込むように二人で倒れ込む。

 ――ドンッ!

 地響きと共に爆音が倉庫の中で木霊する。
 誘拐犯人は自爆を敢行。あわよくば倒した黒瀬を巻き込もうとしたようだが、それを果たす事はなかった。
 おそらく、証拠を残さないための自爆だったのだろう。

 こうして、傭兵たちのおかげで連れ去られた男性たちは奪還できた。
 だが、先に攫われた男性たちは未だ何処かで捕らわれたままである。
 この戦いが単なる序章に過ぎない事を、傭兵たちは既に察していた。