タイトル:囚われの強化人間マスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/19 22:13

●オープニング本文


 山岳地帯の多く雲南省付近で多発する少女誘拐事件。
 少数民族の間において発生している6歳から12歳の少女が誘拐され、両親を悲しみのどん底にたたき起こしている最中――。
 事件の首謀者は密かにほくそ笑むのだった。

「アハーハー! ご主人様の登場ですよ。皆の者、見事わしを褒めちぎってみせい」
 雲南省の山をくり抜かれて作られた洞窟の奧で、一人の男が高笑いを上げていた。
 立派すぎるカイゼル髭、あばら骨は浮き出て上半身だけのビキニ。年齢は三十台前半で初老を迎える前なのだが、下半身だけは紙おむつを完全装備。オフィス街の一流企業におけば三秒でつまみ出される完全無欠の変態が、そこで仁王立ちしていた。
 保健所に回収されてもおかしくないテンションのこの男、実は自称「バグアの最終秘密兵器」を称する強化人間。たった一人で人類制圧を目論む永遠の挑戦者、その名も――タッチーナ・バルデス三世という。
「ぶわっはっは! これだけ女児を集めれば、人類繁栄を阻止したも同然! 最早、人類は我が手に落ちたにゃー」
 タッチーナの眼前では、十人を越える女児が各々玩具で遊び、雑誌を読みふける光景が広がっている。
 周辺の村から女児をさらって人類繁栄を阻止、という時点で強化されたポイントが大きく間違っている気がするが、本人はいたって真面目。本気で人類がこれで滅ぶと思っているのだから、強化人間の選手層が伺える。
「くくく、憂い奴よのう。どれ、近う寄れ。わしと夜の学習塾を開始しよう。レッスン1は何かにゃー?」
 タッチーナは眼前に居た少女の顎を右手で掴んで引き上げる。
 まだ若く、肌に張りが感じられる少女。若さに溢れる少女の顔だったが、タッチーナの顔を見た瞬間に、般若の如く一気に歪み始める。
「‥‥てめぇ、勝手に人の顔に触るんじゃねぇよ!」
「ぶべぇ!」
 少女の右腕から繰り出されたストレートが、タッチーナの眉間にクリーンヒット。
 次の瞬間、タッチーナの体は吹き飛ばされて背後にあった洞窟の壁へ後頭部を強打。まるでカンフー映画のようにオーバーアクションで吹き飛ばされるタッチーナだが、少女のパンチ一つで吹き飛ぶ辺り、強化人間である事に疑いすら持ち始めてしまう。
「‥‥ふ、ふふふ。
 あんた‥‥本物だよ。間違いねぇ。わしに着いてくれば間違いなく世界を狙える。その右腕でわしと一緒に世界を狙うんだにゃー」
 鼻血を押さえながら立ち上がるタッチーナ。
 言っている事は意味不明だが、オーバーアクションに割りにダメージは少なそうだ。
「次にあたしの顔に触れたらパンチじゃすまさねぇからな!
 それより、さっさと新しいお菓子持ってこいよ」
 唾を吐き捨てる少女。
 どうやら、強化人間でありながらタッチーナは少女のパンチ一つで吹き飛ぶ程の弱さらしい。
「は、はいー」
 命令口調に逆らえないタッチーナは急いで洞窟の外へと走り去っていく。
 これだけ弱い強化人間ならば親元へ自力で戻れば良いのではないか、と思うのかもしれない。なにせ、山岳地帯で世間を知らず、親の仕事を手伝う純朴な少女に何もしなくても食事やお菓子が勝手に出てくる生活が与えられればどうなるかは自明の理。既に少女達は今の仕事に甘えきっていた。
 タッチーナも命じるままにお菓子や食事を持参。さらに囚われている場所も常に暖炉で暖めてくれる上、寝床も一人一人に部屋を完備してくれる持てなし方をしているため、誰も不便で辛い親元に戻る気はないようだ。

 そんな状況とはつゆ知らず、真実を知らない村人は今でも必死で娘達を探し求めている。
 事件調査のため、ULTへ傭兵出動の打診はあったのだが‥‥。

●参加者一覧

周太郎(gb5584
23歳・♂・PN
正木・らいむ(gb6252
12歳・♀・FC
布野 橘(gb8011
19歳・♂・GP
セリム=リンドブルグ(gc1371
17歳・♀・HG
ラスティーナ・シャノン(gc2775
24歳・♀・FC
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD
アーニャ・ブライトマン(gc4704
20歳・♀・FC
黒木 敬介(gc5024
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

●ファーストコンタクト
「エブリバディ! 
 今日から朕の側室としてやってきた腐女子の登場だにゃー。皆の者、三つ指揃えてお出迎えにゃー」
 強化人間タッチーナ・バルデス三世に連れられて根城としてやってきたのは正木・らいむ(gb6252)。
 タッチーナは、カイゼル髭を生やしながらも紙おむつとビキニを装備。それを紳士の嗜みと称する明らかなる変態である。その変態に連れられてアジトとする洞窟へやってきたのは攫われたからではない。
 付近の村で誘拐されたという少女たちの行き先を聞き込んでいる際、偶然出会ったタッチーナから『朕のマイハウスに来ないかにゃー? 朕のフランクフルト‥‥は言い過ぎた。ソーセージを馳走するにゃー』と言われたからだ。
 らいむにはソーセージが何だか理解していないが、物をくれるというのだから断る理由もない。
「で? ソーセージとやらは何処にあるのじゃ? 我に早う寄越せ」
 物がもらえるとあって大騒ぎのライム。
 一瞬焦りを隠せないタッチーナだが、その頬は何故か微妙に赤くなっている
「他の子も見ているというのに、ここで欲しがるなんて。チミ、大胆だにゃー」
 そう言いながら紙おむつに手をかけるタッチーナ。
 周囲に10人の少女が居るからだろうか、鼻息は徐々に荒くなっていく。
 これから起こるであろう事件に、タッチーナは胸と股間をいっぱいに膨らませている。
「ねぇ、それよりさー」
 紙おむつが下げられようとした瞬間、部屋に居た少女の一人がタッチーナに話しかけた。
「今、朕は止ん事無き事情により取り込み中なんにゃー。この子に朕のソーセージを馳走せねばならないにゃー」
「さっさと洗濯物を取り込んできてよ」
「え? それは後でも‥‥」
「あんっ!?」
 タッチーナが言いかけた瞬間、少女の声は一気に怒気を含んだ。
 先程まで比較的優しい雰囲気をだったのが、タッチーナの言葉で一変。少女の顔面は歪み、鋭い眼光をタッチーナに突き立てる。
「は、はいっ!」
 変化した空気を早々に察知したタッチーナは機敏な動きで洗濯物を取り込むために駆け出していった。
「君もここへ来たのなら、楽にすれば?」
 近くに居た少女が話しかけてきた。
「おぬしら、親が心配していたが帰らなくて良いのか?」
「いいの。帰りたくないから」
 少女はあっけらかんと答えた。
 話によれば、家に帰っても毎日山の中で家の手伝いだけで終わってしまう。都会では綺麗に着飾った同年代の少女たちが楽しく毎日を送っているというのに、自分たちは山の中で水を汲んだり薪を割ったりしている。このまま家の手伝いだけで一生が終わってしまうのは真っ平だと考えているという。
「あいつが居れば、食事や洗濯、掃除まで何でもやってくれるから便利なのよね」
 そう言いながら、少女は手にしていた線の細い男性同士が裸で絡み合う同人誌に視線を落とした。
 どうやら、タッチーナが周りの事をすべて行っているために快適な生活を送れているようだ。つまり、タッチーナが居なければこの生活は簡単に崩壊する事を意味している。
「サジョーのローカクじゃな」
 難しい漢字は苦手ながらも、的確な言葉をらいむは呟いた。

●希望の使者
「‥‥という事らしい。アジトの場所も大凡掴めた。後は突入だけだな」
 布野 橘(gb8011)は無線機を握りしめる。
 らいむは洞窟に入る前、無線機のスイッチを入れていた。このため、無線機からの音声で洞窟の場所はある程度絞り込めていた。洞窟内部の音声は途切れ途切れで分かり難い部分もあったが、少女たちが戻らない理由も見えてきた。
「未来への不安が原因だろうか」
 新たなる情報を元に思いを巡らすイレイズ・バークライド(gc4038)。
 イレイズは娘の親たちから特徴や性格を聞き込みしていた。話を聞く限りでは辛い事もだっただろうが、そればかりではないはず。急に同年代の他人に興味を抱き始めた事が疑問である。
「あの頃の女の子は微妙なの。雑誌か何かから得た知識だけで話しているのでしょうけど」
 少女たちの境遇を乗り越えてきたと思われるアーニャ・ブライトマン(gc4704)が、経験者として語った。
 綺麗になりたいと思うのは少女としては当たり前の事。
 ましてそれが雲南省の山から遠く離れた都会であれば、夢を抱くのは自然の流れだろう。問題はどうやってその幻想から現実へ引き戻すのか‥‥。
「なーに、『こいつ』があればお嬢さんたちも俺の虜さ」
 橘は懐からチョコレートボンボンを取り出した。
 これを使って少女たちを釣ろうというのだ。
「どうだ、ラスティ。一つどうだ?」
「結構です。使用人たる者、仕事中にアルコール等もっての他です」
 ラスティーナ・シャノン(gc2775)は丁重に断りを入れる。
 シャノンは任務中でも使用人としての立場を貫くつもりのようだ。もっとも、任務中に酒を飲んでしまうのは傭兵としての品位が疑われるのだから当然といえる。
「布野さん、ボンボンは駄目だ」
 周太郎(gb5584)は橘からチョコレートボンボンを奪い取った。
「あ、俺の切り札が!」
「相手は未成年だ。いくらお菓子でも、子供に与えて良いものじゃない。これは俺が預かる。いいな?」
 一方的に没収する周太郎。
 さすがにアルコールを子供たちに配るのは好まれる行為ではない。そう考えた周太郎の計らいだが、橘の秘策は思わぬ形で敗れ去る事となった。
「まずは、強化人間の撃退が先でしょうか」
「そうだ。その後で女の子たちをゆっくり説得するべきだな」
 セリム=リンドブルグ(gc1371)の呟きに黒木 敬介(gc5024)が答える。
 すべての元凶は強化人間のタッチーナであり、説得行為を行えば必ず絡んでくるだろう。そのため、先に強化人間を倒して説得に集中しようというのが傭兵たちの概ねの方針となる。
「そうと決まればさっさと行こうぜ。
 未来に絶望した子供たちに、希望を持っていってやらないとな」
 黒木は軽く伸びをしながら、アジトである洞窟に向かって歩き出した。

●戦闘開始?
「き、貴様ら!?」
 洗濯籠に少女たちの下着を抱えた紙おむつを着用したタッチーナは、傭兵と遭遇した。
「者共、出会え! 出会え‥‥って、ここに居るのは朕だけでした」
「‥‥たとえ変態でもお客様はお客様。私が全力を持ってお持て成しさせていただきます」
 シャノンは迅雷を使ってタッチーナの側まで一気に近づく。
 すれ違いざまにシャノンの手にしたショーテルは刃を横へ走らせる。
 空気と共に切られたタッチーナの体は、刃によって引き裂かれて血を吹き出した。
「痛っ! めっちゃ痛っ!」
 その場に倒れ込むタッチーナ。
 その風貌から攻撃を受けたようには見えないが、間違いなくダメージは受けているはずだ。
「お嬢ちゃん! 朕を助けて。緊急オペを要求する」
 タッチーナはしゃがみ込んだまま、近くに居たアーニャへ話しかける。
「ちょっ! こっち見るな!」
 アーニャは顔を背けた。
 正直、外見が生理的に受け付けない。見ただけで背筋に青虫を這わされた感覚が走る。
「おおぅ、良い反応を見せるね。朕と一緒にちょっとブレークしない?」
「こっち来るなっ!」
 タッチーナが近寄った瞬間、反射的にアーニャの右ストレートが繰り出される。
 拳はタッチーナの頬を捉えて撃ち抜く。
「ぎょべぇ!」
「な、何よこいつ! よわっ!」
 アーニャは思わず叫んだ。
 正直、アーニャの腕力はそれ程強い訳ではない。
 それであってもタッチーナは簡単に吹き飛んでしまう。
 だが――タッチーナの能力はここから発揮される。
「ふふふ、照れるな照れるな。おなごの恥じらいから繰り出される一撃は堪らないにゃー」
 後頭部を押さえながら立ち上がるタッチーナ。
 見れば、シャノンに斬られたはずの傷もいつの間にか無くなっている。
「くっ、能力か!」
 イレイズは脚甲「カプリコーン」を付けたまま、駆け出す。
 そして、素早く側面へと回り込み後頭部へ回し蹴りを炸裂させる。
「ぶべぇぇぇぇ!」
 イレイズに蹴られ、再び吹き飛ばされるタッチーナ。
 顔面からスライディングした状態で吹き飛ばされる
「こ、これで‥‥」
 息を切らせるイレイズ。
「乙女の恥じらいを満喫している時に蹴り入れないでくれる!」
 タッチーナは鼻血を流しているものの、むくりと起き上がってきた。タッチーナの超回復は油断できないもののようだ。
 しかし、体は超回復しても身につけているものはそうではなかった。
「朕の一張羅が!?」
 悲鳴にも似た声を上げるタッチーナ。
 見れば、度重なる攻撃のため、履いていた紙おむつが崩壊している。
「キャァァァ!」
 アーニャが悲鳴を上げる。
「これはお嬢さんに申し訳ない。何か履く物を‥‥」
 そういって周囲を見回すタッチーナ。
 そこにあるのは先程回収していた洗濯籠。
「致し方ない。応急処置だにゃー」
 洗濯籠から少女のパンツを一枚引ったくると、慌ててそれを履き始める。小さなパンツは無理矢理伸ばされる。
「おい‥‥パンツから何か出てるぞ」
 呆れながら黒木がタッチーナにパンツの惨状を指摘する。
「これは朕のおいなりさんだ」
 食い込むパンツの感触を満喫し始めているかのようにもじもじしている。超回復に加えてMっ毛があるようだ。
「ボクはキミみたいなのが一番苦手なんだっ!」
 セリムは小銃「ブラッディローズ」を構えて引き金を引く。
 強烈な一撃となった弾丸は、タッチーナの体を後方へ吹き飛ばす。
 撃った後で息を切らせるセリム。
 アーニャ同様、セリムもタッチーナが生理的に受け付けないらしい。
「周太郎、アレやろうぜ」
「トドメか」
 周太郎と橘は脚甲を装備して壁を強く蹴って高く飛ぶ。
 重力の力を得て落下、吹き飛んだ後に起き上がろうとするタッチーナに向かって更なる攻撃が追加される。
「これで最後だ! ダァブルッライトニングストライクァアっ!」
 周太郎と橘から放たれた蹴りはタッチーナの胸部に当たった。
 さらに後方へと飛ばされるタッチーナ。
「こ、これぐらいで朕は‥‥」
 今までの傾向からこの蹴りのダメージだけで倒すことは難しいだろう。
 だが、少女たちの説得する時間を稼ぐには十分なトドメになった。
「あれ?」
 タッチーナの後方にはもう地面が存在していなかった。
 何度も吹き飛ばされたタッチーナは、いつの間にやら崖側まで追いやられていたようだ。
 バランスを崩すタッチーナ。
「ひ、ひえぇぇ!」
 滑落。
 まさにその言葉通り、崖を滑り落ちていく。
 いくらタッチーナでも、この洞窟へ戻ってくるには山を登らなければならない。
「早く、少女たちを説得してしまう」
 周太郎は洞窟に向かって歩き始める。

●帰還
「ほら、来たじゃろう? ここの生活はサジョーのロウカクなんじゃ」
 傭兵たちが洞窟へ足を踏み入れ、らいむとの合流に成功した。
 らいむの背後にはタッチーナに連れてこられたと思われる少女たちが10人程集まっていた。一様に顔は暗く、がっくりとうなだれている。どうやら、外でタッチーナと関わっている間にも正木が説得を続けていたようだ。
「ねぇ、あいつはもう居なくなっちゃったの?」
「はい。お嬢様方には申し訳ありませんが、今頃は崖下で倒れている事でしょう」
 シャノンは幼い少女相手でも使用人としての立場を崩さない。
 ここで叱り飛ばす事もできるだろうか、少なくとも出会ったすぐに行うべき事ではない。
「だから言ったであろう? この快適な生活を提供していたバグアはやっつけた故、もう誰もお菓子を持っては来ぬぞ」
 らいむは少女たちにタッチーナが倒される事をずっと言い続けていたのだろう。そして、それはこの生活の終焉を指し示す事を意味している。少女たちも夢から目覚める時間が訪れた事を理解し始めているようだ。
「ねぇ、この中から一枚選んでくれる?」
 青ざめる少女の前にセリムはタロットカードを並べて見せる。
 促されて思いのカードを選ぶ少女
「簡単な占いみたいなものだけど‥‥遠くない未来で良くない事が起こる。崩れた塔の逆一と死神の正位置、災難と自信喪失ね。他人の意見を代弁する訳じゃないけれど、キミの意志さえあれば‥‥キミを大切に思っている人たちもきっと助けてくれるんじゃないかな」
 セリムは占いという形で少女たちの将来を占った。
 正直、占わなくてもこのまま少女たちが将来的に良い事が起こらないのは明らかだ。だが、占いという形を利用する事でより少女たちに実感させる事ができる。大切にしてくれる人の側にいれば、タロットも星の正位置と世界の正位置を指し示してくれるはずだ。
「あなたたちも分かっているのでしょう?
 バグアの仕業だから、長くは続かない生活だった事を」
 落ち込む少女たちに黒木がゆっくりと語り出す。
「何故、僕らがここに来たか分かる? 僕たちは依頼でここに来たんだ。
 でも、その依頼のお金は誰が出してくれたと思う? 君たちの家族が出したんだ。君たち家族にとって決して安くはないお金で僕らは呼ばれた。大切な君たちに返ってきて欲しいからじゃないかな」
 なるべく優しく、笑顔で話しかける黒木。
 普段ぶっきらぼうな口調なのだが、少女たちを真剣に説得しようという証なのだろう。
「こんな生活が欲しいのは分かる。誰もがそう思うから汗水垂らして働いて、自分が無理でも子供だけは楽になって欲しい。だから学校にも行かせようとする。
 でも、努力しないで手に入れたものは決して自分のものにならない。
 ここに僕らがきたように、必ず失われる」
 少女たちには心配してくれる人がたくさんいる。
 死に別れる事も多い戦争の中、それが一番の贅沢である事。
 それを黒木は少女たちに理解して欲しい事なのだ。
「一緒に戻ろう。家族が心配してるから」
 黒木の言葉に少女たちは頷くしかなかった。
 都会に憧れる気持ちも分かるが、焦る必要はない。家族とゆっくり話して夢を追いかければ良いのだから。
「さぁ、そうと決まったらさっさと戻ろう。あの馬鹿に会うのは二度とごめんだ」
 安堵に包まれる中、アーニャは洞窟から出るよう皆へ促した。
「そうだな。でも、これで一件落着と思うと一安心だ」
 安心した周太郎は懐からお菓子を取り出す。
 そして、口の中へ三個ほど放り込んだ。
「あ、周太郎様。それは‥‥」
 シャノンが慌てて止めようとする。
 しかし、周太郎は口の中のお菓子を歯でかみ砕く。
 中からしみ出てくるのは砂糖が混ぜられたブランデー。
「そうだ‥‥確かこれ‥‥酒‥‥」
 酒が苦手な周太郎。
 視界が揺れ、三半規管が麻痺する。
 グルグルと目が回り、体から力が抜けていく。
「周太郎様! 周太郎様!」
 駆け寄ったシャノンへ体を預ける周太郎。

 こうして救出された少女と共に、周太郎はシャノンに背負われて下山したのだった。