タイトル:【聖夜】恋愛泥棒マスター:近藤豊

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/02 17:19

●オープニング本文


 諸君は、憶えているだろうか。

 愛を育むカップルの前に現れ、ムーディな雰囲気をマグロ型キメラ達とぶち壊したリア充の敵を――。

 タッチーナ直属恋人破壊工作部隊『カップルハンター3G』。

 前回、傭兵たちにブラジャーと紙オムツを剥がされ、股間の上でロカビリーを踊られたタッチーナ・バルデス三世。
 だが、馬鹿の辞書に反省の二文字は存在しない。
 懲りる事なく、クリスマス中にカップルを壊滅すべく行動開始する。


「君の温もりが、俺の凍てついた心を溶かしていく。
 君に出会えたから、変わる事ができたんだ。だから、言わせて欲しい。
 ――ありがとう」
 クリスマスのイルミネーションが光り輝く香港の街並みを背景に、和彦は傍らを歩く女性に囁いた。
 甘い低音で発せられた声は、女性の心にそっと染み込んでいく。和彦の顔は端正な顔立ちであり、腐女子なイベントに登場すればやべぇカップリング認定される事は間違いない。
 照れを隠せず、和彦と顔を合わせられない女性。
 しかし、ふいに歩みを止めた。
「どうしたの?」
「あ、あれ‥‥なに?」
 女性が指差す先に居るのは、ブラジャーに紙オムツを装備したタッチーナ・バルデス三世。
 黒にレースの入ったブラジャーを装備してアダルティな香りを醸し出したと豪語するタッチーナだが、今日は少々様子が違う。
「頭に‥‥カメラ?」
 和彦は、呆気に取られた。
 タッチーナは段ボールで自作したテレビカメラの被り物を装着、手足を触手のように動かして奇怪な動きを続けていた。
 相手の練力でも吸収するつもりなのだろうか。
「あ、朕は『恋愛泥棒』だにゃー。
 カップル達が放出するラヴいシーンを盗み撮りする為に被っているだにゃー。こいつで撮影した動画を町中に放映してカップルを辱めて悶絶させるにゃー」
 恋愛泥棒。
 例によって馬鹿な作戦を思い付いたのだろうが、和彦に取っては効果的だ。タッチーナの顔面カメラは録画できないだろうが、その背後ではマグロ型キメラ達がビデオカメラで和彦達を撮り続けている。
 このままでは、和彦が先程口にした恥ずかしい台詞が町中に広まってしまう。
「や、やめろ!」
「朕に命令とは‥‥。
 言葉を慎みたまえ。君は恋愛泥棒の前にいるんだにゃー。
 マグロの皆さん、恋愛泥棒の恐ろしさを教えてあげるんだにゃー」
 和彦へ詰め寄るマグロ型キメラ。

●参加者一覧

/ 白虎(ga9191) / クレミア・ストレイカー(gb7450) / 鎌苅 冬馬(gc4368) / ティームドラ(gc4522) / 村雨 紫狼(gc7632) / ルーガ・バルハザード(gc8043) / エルレーン(gc8086) / 御名方 理奈(gc8915) / エイルアード・ギーベリ(gc8960

●リプレイ本文

 新しい年が、間近に迫る香港。
 世間はクリスマス一色となり、カップルがイチャつく桃色ムードも散見される。
 恋人達が甘い時間を過ごしている中、独り身の者は冷遇される嫉妬タイム。
 嫉妬と怒りの炎が荒れ狂うロンリーウルフ達――彼らが黙って恋人達に幸せな時間を過ごさせる訳がない。

 そんな最中、今年も馬鹿が立ち上がる。
 存在だけでクリスマスムードを一蹴できる戦闘力(出オチ)を有する強化人間――。

「にゃっはー!
 ついに朕の時代が到来だにゃー! このまま全軍微速前進。恋人破壊光線を全方位放射だにゃー」
 恋人もいないのに一人でテンションが高いのは、タッチーナ・バルデス三世(gz0470)。 全軍と称しているものの、背後にいるのはビデオカメラを持ったマグロ型キメラが10体。毛むくじゃらなおっさんの手足がぷるんぷるん動くだけで、恋人達の幸せムードは虚空の彼方へ消え去ってしまう。
「さて、早速作戦開始だにゃー。
 こいつでやべぇシーンを撮影しまくり、バグアピューリッツァー賞をゲットするにゃー」
 そう言いながら、タッチーナが被ったのは大きなテレビカメラ型の覆面。
 タッチーナ曰く、恋人の口説き文句を撮影して町中へ放映。恋人達を恥ずかしさで悶絶させる作戦なのだ。既にバグアの地球侵略とかけ離れた作戦なのだが、当のタッチーナはこれで人類を攻撃しているつもりらしい。
「それでは皆の衆。それぞれに散って恋人達を冥界へ送り込んでやるにゃー」
「いやー、頑張っているねぇ」
 恋人達襲撃を始めるタッチーナの前に姿を現したのは、しっと団総帥の白虎(ga9191)だ。
「あ、お前は去年朕を騙した傭兵だにゃー!
 今年も朕を騙してお前の口座に金を振り込ませるつもりだにゃー? そうはいかねぇにゃー」
 実は白虎とタッチーナは前回のクリスマスで接触している。
 当時、タッチーナは『カップルハンター3G』としてカップルをハントして持っていたラブいグッズを剥ぎ取るという単なる強盗行為を行っていた。その際、白虎が行動を共にしていたのだが、途中で裏切ってタッチーナを罠に嵌めて撃退していたのだ。
 馬鹿の割に余計な事は、しっかり覚えているようだ。
「去年はすまんかった。僕にも傭兵としての立場があったんだ。
 でも、今年はひと味違う。僕の怒りも有頂天という気分で心を入れ替えたんだ。
 言ってみれば、去年が白虎なら今年はスーパー白虎2って感じ。トラスト・ミー」
 やや胡散臭さを放つ白虎のセリフだが、単純馬鹿のタッチーナにはストライク。
 あっさりと白虎を信じたようだ。
「うーん、なら仕方ねぇにゃー。
 それでは、クリスマス気分で浮かれて我が世の春を謳歌する恋人達にがっかりな時間をプレゼントしてやるんだにゃー」
 拳を天に突き上げて、決意を現すタッチーナ。
 こうして、馬鹿としっと団が結束して対恋人包囲網を形成するために動き出すのであった。


「本当、時と場所を選ばずここまでやるのもどうかと思うけどね‥‥」
 隠密潜行で身を隠して白虎を見守っているのは、クレミア・ストレイカー(gb7450)。
 タッチーナという変態の魔の手から白虎を守る為に隠れて警備を行っているのだが、付近のベンチでは恋人達が遠慮無くイチャイチャしている。酷いカップルに至っては、既に派手な口づけを見せつけて道行くロンリーウルフ達の殺意を駆り立てている。
「この際、カップルは放っておきましょ。‥‥あの変態には指一本触れさせないわ」
 クレミアは、超長距離狙撃を使って拳銃「ヘリオドール」の照準器に意識を集中する。
 狙うはタッチーナの紙オムツ。
 本来なら、こんな『つまらない物』の究極みたいなもんを狙撃したくはない。
 だが、白虎をタッチーナから護る為ならば、致し方ない。
 ゆっくりと息を吐き出しながら、タッチーナの尻に狙いを定める。
(‥‥‥‥止まった‥‥今っ!)
 クレミアの指に力が込められる。
 周囲に響き渡る銃声と共に、弾丸は発射された。
 次の瞬間、タッチーナの紙オムツに大きな穴が開いた。
「殺ったか‥‥っ!?」
 クレミアには手応えがあった。
 弾丸は確実に尻の中央部、菊の門に叩き込んだはずだ。
 しかし、相手はバグアの中でも屈指のド変態だった。
「にゃー!? 急に尻が快感を放ったと思ったら、朕の一張羅に穴が!
 あばばばば! マグロの皆さん! 朕を早く囲んで着替えの準備を!」
 バグアの科学力で超回復能力を保持するタッチーナにとって、尻への狙撃は座薬を入れられるようなもの。ダメージとしては紙オムツに穴を空ける事で動きを止められただけであった。
「駄目だったみたいね。
 こうなったら、様子を窺って近づくチャンスを待ちましょう」
 クレミアは再び物陰で待ち続ける事にした。


「うふふふふふふ。
 今日も何かしようとしているのね、かれーまにあさん」
 クレミアとは別の方角からタッチーナの尻に熱視線を送り続けるのは、エルレーン(gc8086)。
 何故、馬鹿の尻に拘り続けるのか。
 それはエルレーンにしか分からない。
 仮にエルレーンにスパイ衛星を与えれば一日中タッチーナの尻を見続けていそうな勢いだ。
「今日はバラエティー番組から学んだムエタイのキックをお尻にお見舞いしてあげるの〜。今までのような音だけのキックとはひと味違うんだからね」
 エルレーンは、年末付近に放送されるバラエティー番組の中から蹴りの新たなる可能性を追求していた。その中で気付いたのは、蹴る側にも相手のリアクションを引き出す技術が必要だという事。
 そこでエルレーンは、タッチーナがリアクションできるように音だけの蹴りではないムエタイのミドルキックをネットで検索。さらにムエタイ漫画を読みながら、必死で自主練習をしてきたのだ。
「うふふふふ、今日のキックは特別なんだからね〜。
 ばばーん! タッチーナ、アウトーって感じで蹴るんだから」
「‥‥‥‥‥‥」
 怪しい妄想を思い浮かべるエルレーンの傍らで、ルーガ・バルハザード(gc8043)は一人殺気を放ち続けていた。
「何かあったんですか?」
 怪訝そうな顔つきでルーガの顔を覗き込むエルレーン。
 現実に引き戻されてルーガは、慌ててエルレーンに返答する。
「な、何でもない。気にするな」
 ――気にするな。
 ルーガは、エルレーンにそう言った。
 だが、心は乱れきっていた。
 先日、誕生日を迎えて29歳。今まで傭兵として戦いに明け暮れていた毎日。
 べ、別にアベックが羨ましいとか、結婚の二文字が肩にのし掛かってたりしないんだからね!
 ‥‥と、必死で自問自答を繰り返すうちに、周囲へ殺気が漏れ出していたようだ。

(そうだ、今は強化人間退治が大事なのだ。集中しなければ)
 乱れる心を必死でコントロールしようとするルーガであった。


「今宵の香港は綺麗だな。
 しかし、何故ここで警備の仕事を任されたのやら‥‥」
 鎌苅 冬馬(gc4368)は、ショッピングセンターの警備を行っていた。
 情報によればキメラが現れるという聞きつけて警備の仕事を受けたのだが、クリスマスシーズンらしく周囲はイチャつくカップルでいっぱい。
 反面、自分の傍らに居るのは可愛い女性ではなく‥‥。
「恋愛泥棒と称する者達を探せばよろしいのですね?
 承知致しました」
 ティームドラ(gc4522)は資料に目を落としながら、礼儀正しく受け答えしている。
 タキシードに身を包みダンディーな雰囲気を放つティームドラは、時折女性の客から噂話をされている。おそらく、女性達はティームドラがホテルの最上階で一緒にディナーを夢見ているのだろう。
「そういえば、先程から私を見ている女性客が多い気がします。
 何故でしょうか?」
「そりゃ、このショッピングセンターでタキシードを着たダンディーな叔父様は目立つだろう?」
「なるほど。あくまでも、物珍しいという事ですか。
 他人の興味を惹く程、私は目立っていると自覚がありません。
 やはり、早々に恋愛泥棒を撃退してこの場を立ち去るとしましょう」
 微妙に噛み合わない会話を行う二人。
 冬馬は、思わず大きくため息をついた。
「仕方ない。任された仕事は最後までやらねば、な」
「きゃーー!」
 冬馬が言い終わると同時に、ショッピングセンターへ響き渡る悲鳴。
 問題の強化人間が行動を開始したと見て間違いない。
 二人は顔を見合わせて頷いてみせる。

 あとは――打ち合わせ通りに動けばいい。
 冬馬とティームドラは、その場を別れて対強化人間に動き出す。


(リンスちゃんとクリスマスデートだ♪ 楽しいなぁ‥‥くふふっ♪)
 御名方 理奈(gc8915)は、エイルアード・ギーベリ(gc8960)と共にクリスマスムード一色のショッピングセンターを二人で歩いた。
 赤と白のコントラストで彩られた店内。
 サンタのコスチュームをした店員や煌びやかな飾り付けが、世界を二人だけの幸せな時間へ導いてくれる。
 そして――二人きりになろうと考えた理奈とギーベリは、中庭のベンチで並んで腰掛ける。外は雪が降るほどの寒さであったが、そっと寄り添えばお互いの体温で心まで温かくなる。
「よく似合っているよ、それ♪」
 理奈はギーベリが身を包んだゴシックワンピースとゴシックブーツに視線を向ける。
 ギーベリは常時覚醒しており、人格はリンスガルドへ入れ替わっている。
 性別は男性だが、ゴシックなコーディネート。さらに人格も入れ替わっている。
 それでも、恋人のギーベリと待ちに待ったデートだ。人目も憚らず、二人でゆっくりと愛する時間を過ごすと決めているのだ。
「理奈‥‥汝は寒くないのか?」
「え? あたしは大丈夫‥‥あ、またパンツ掃き忘れちゃった。てへ♪」
 寒空の下で舌を出して戯けてみせる理奈。
 このクソ寒い中、パンツの履き忘れを天然で押し切ろうとする理奈はただ者じゃない。
 やっている事はタッチーナに通じている気がするが、愛というフィルタで見れば理奈は何をやっても愛おしい。
 リンスガルドは、僅かばかりの沈黙の後――理奈を抱きしめた。
「ふえぇ?」
「理奈‥‥愛しておるぞ。たとえ、何があろうと‥‥妾は汝と永久に離れはせぬ。
 汝は‥‥妾のもの‥‥うん?」
 不意に気配を感じたリンスガルド。
 気付けば周囲に立ちこめる酢味噌の香り。
 明らかに先程とは雰囲気がおかしい。
 振り返ってみれば、マグロ型キメラが鼻息を荒げながら至近距離でビデオカメラを手にしている。
「汝等、何をしておるのじゃ!」
「リンスちゃん。これカメラじゃない?
 もしかして、あたし達を撮影してくれるんじゃなかな♪」
 既にキメラが現れているにも関わらず、理奈は放置する気満々だ。
 周囲はカップルの悲鳴が木霊しているが、大事なデートを優先するつもりのようだ。
「ふむ。理奈は妾と撮影される事を望むか。
 妾も嬉しい。
 我等の愛が、世界中の人々に伝わっていく様での‥‥。
 ちょうど良いわ! 我等の姿を全世界へ放送するがよい!」
 リンスガルドは再び理奈の方へ向き直り、唇をそっと向ける。
 理奈の方も口づけを待つため、瞳を閉じてリンスガルドの唇が近づくのを待っている。
 二人の距離は吐息が掛かる程、接近している。
 しかし、そう簡単に恋愛が出来る程、現実は甘くない。
「それっ!」
 理奈とリンスガルドの間に雪玉が投げ込まれる。
 突如現れた冷気が、二人の間を引き裂いた。
「だ、誰じゃ! 雪玉を投げるのは!」
「ふふふ。ボクに誰かを訪ねるとは‥‥。
 ラブい雰囲気はすべて撃滅! カップル撲滅、しっと団総帥とはボクの事だ!」
 理奈とリンスガルドに雪玉を投げ入れたのは、白虎の仕業だった。
 ちなみに、周囲で悲鳴を上げているカップル達はマグロ型キメラの活躍だけではなく、白虎が入れ知恵した雪玉や落とし穴の粛正で被害が拡大していた。この効果はかなり大きく、ラブラブカップル達は悲鳴と怒号で大騒ぎだ。
「ボクの前でイチャつくカップルには、もれなく雪玉のプレゼントだ」
「ほう。理奈と妾の邪魔をするとは‥‥」
「リンスくん!」
 白虎の前に立ちはだかろうとするリンスガルド。
 しかし、理奈が慌ててリンスガルドを引き留める。
 次の瞬間、撮影していたはずのマグロ型キメラが吹っ飛んできたのだ。
「なんだ?」
「そーれ、どーん」
「ひいいいい!? ルーガ、やめてぇルーガ!」
 そこには師匠のルーガを引き留めようとするエルレーンが半泣き状態で縋り付いていた。
 見れば、ルーガから異様な殺気を放ち、仁王のような形相でリンスガルドに対峙していた。
「すまないな。マグロ型キメラを退治していたのだが、手が滑ってしまったようだ。
 すべては悪魔の強化人間たっちーな・ばるですさんせいのせいなのだ」
 明らかに後半は棒読みのルーガ。
 どうやらルーガはマグロ型キメラの尻尾を掴んで振り回した後、リンスガルドに向かって投げつけたようだ。
 どうやら29歳になった妙齢のルーガは、嫉妬を司るヴァルキュリヤとして覚醒しつつあるのかもしれない。
「だ、ダメだよぉ、ルーガ! 暴れちゃだめっ!」
 普段なら、タッチーナへ蹴りを叩き込みに行ってトランス状態になるエルレーンだったが、暴走したルーガを止められる様子もない。
「我等が愛の障害となる度胸は褒めてやろう。
 しかし、この程度で我等が愛は‥‥」
「あ、またマグロ型キメラがそっちに!」
 維持でも理奈と恋愛したいリンスガルドと、マグロ型キメラをぶつけてそれを強引に妨害しようとするルーガ。
 既に先程までのラブラブな雰囲気は失われ、怪獣大決戦の様相を呈している。
「ふふ。まずここまではOKだね。
 後は、あの変態さんを対処するとしようかな」
 阿鼻叫喚のショッピングモールを前に満足そうな笑みを浮かべる白虎は、次なる行動へ出るため、その場を後にした。


「‥‥よぉー、兄弟。またイカれた事をしてやがんなー」
 大騒ぎとなっていたショッピングモールの中でカメラの被り物を被って奇怪なダンスを踊るタッチーナの前に現れたのは、村雨 紫狼(gc7632)だ。
 腕を触手のように動かす変態に自然に接近できる辺り、村雨もタッチーナの接し方を心得ているようだ。
「何奴?
 朕の同志となりたいならば、バッタの強化人間となって恥ずかしいベルトで変身しておくんなまし」
「何言ってんだ、お前。
 ま、そんなこんなで死なないよなぁ」
「え? 毎回死んでますが?」
「そうなのか?」
「コイン100枚集めて朕が一人漏れなくプレゼントにゃー。
 返品は一切受け入れられません。あんだーすたん?」
 相変わらず意味不明な言葉ばかり繰り返すタッチーナ。
 村雨もまともな会話が出来るとは思っていなかったが、タッチーナに向かって言っておきたい言葉があった。
「俺、お前の無駄に前向きな生き様は嫌いじゃないぜ。俺も励まされる事もある。
 それだけは喧嘩の前に言っておくぜ」
「ふふ。感謝されるのは悪い気がしねぇが、マグロの指揮下に入れば死すら超越する神になれるにゃー。
 さぁ、お前も神になるにゃー」
 神に成れたとしても、それがタッチーナと同格扱いになるならば願い下げだ。
「神ねぇ。
 その神様ってぇのは、カメラの被り物でもしてるのか?」
「違うにゃー。
 このカメラでカップル達のラヴいシーンを撮影して町中に放映してやるんだにゃー。
 男達は自らが放った恥ずかしいセリフを前に悶絶。数万の髭面天使に捕縛され天へ召される予定だにゃー」
「撮影って‥‥。お前、その被り物の中にテープ入っているのか?」
「え?」
 テープという言葉に反応するタッチーナ。
 おそらく、テープの存在を知らなかったようだ。
「て、テープは入っているにゃー。
 ちゃんとこれを作る時にスーパーで買って貼り合わせる時に使っているにゃー」
「お前、それはガムテープだろ。
 どっちにしても盗撮は犯罪だ。おまけに、クソ恥ずかしいセリフを聞かされるのは重罪だ!」
 タッチーナが撮影した内容を町中へ流されたりすれば、聞かされる方も堪らない。
 何より、村雨は戦後処理を優先して10歳の嫁とイチャつく事もできない。
 半ば、タッチーナへの堪った鬱憤をぶつけにやってきたようなものだ。
「おら! 覚悟しろ! No More タッチーナだ!」
 怒りに任せてタッチーナへ迫る村雨。
 しかし、ここで異変が起きる。
「見つけたっ!」
 タッチーナを捜索していた冬馬は、その姿を発見したと同時に迅雷を発動。
 タッチーナへ一気に詰め寄ったかと思えば、タッチーナの腕を掴んで放り飛ばした。
「にゃ!?」
 何が起こっているのか分からないうちに投げ飛ばされるタッチーナ。
 地面へ頭から落下してカメラの被り物は崩壊。付近に赤い鮮血が流れ出す。
「なんだ?」
「まだまだ!」
 再び迅雷を発動してタッチーナへ近づき、遠くへ投げ飛ばす冬馬。
 どうやら、タッチーナをカップルから引き離すため、迅雷を繰り返して投げ飛ばしているようだ。
 呆気に取られている村雨だったが、気付けばタッチーナは冬馬によって遠くへと連れ去られてしまう。
「あっ! あ、待ちやがれ!
 そいつは俺がぶっ飛ばすんだ!」
 村雨は慌てて冬馬が連れて行った方向に向かって走り出した。


「あの変態、何処に?」
 冬馬が連れ去った事で、クレミアもタッチーナの行方を見失っていた。
 慌てて後を追いかけようとしたが、行方を阻むのは酢味噌の香りを放つマグロ型キメラ。
「まったく、この忙しい時に!」
 意を決したクレミアは、小銃「S−02」で制圧射撃を発動。
 扇状に弾丸を放ち、集まるマグロ型キメラに牽制を仕掛ける。キメラの中でも最弱という評価も出てくるマグロ型キメラを相手にしているため、面白い様にヒットする。しかし、今は白虎が変態にちょっかいを出されるのではないかと不安でいっぱいだった。
「うお、なんだ!?」
 そこへ現れたのは村雨。
 焦るクレミアは村雨へ助勢を促した。
「ちょうどいい! こいつらにトドメを!」
 見れば、マグロ型キメラは制圧射撃で手傷を負っているものの、倒し切れてはいないようだ。ここでクレミアに後を任せて先にいける程、村雨は冷たい人間ではない。
 タッチーナを殴りたい衝動を抑えながら、村雨は天照を鞘から抜いた。
「‥‥ちっ、今はお前らで我慢してやる。
 その気色の悪い図体を三枚に下ろしてやるよ」
 天照を握り締め、村雨はマグロ型キメラが横たわる地点へ飛び掛かった。


 冬馬がタッチーナへ連れて来られた場所は、既に避難が完了した中庭の一角。
 そこでは、ティームドラが業炎を装着して待ち望んでいた。
「‥‥到着しましたか」
「お待たせ。見つけるのに手間取っちまってよ」
「いえ、問題はありません。
 ここで終わらせれば良いのですから」
 そう言いながら、ティームドラは覚醒。
 タッチーナを威圧するようにゆっくりと近づいていく。
「‥‥あ、あれ?
 なんか今までと違ってマジな傭兵が登場じゃね? 朕、もしかしてオラオラですか?
 つーか、この人、朕と紳士キャラが被っているんだにゃー」
「速やかな退場が望ましい無様な相手ですな」
 出落ちネタキャラ相手にも一切手を抜く気配のないティームドラは、左フックを仕掛ける。
 戦闘にはからっきしのタッチーナに左フックを避ける術があるはずもない。
「ぶべっ!」
 今にも内部破裂しそうな悲鳴をあげるタッチーナをよそに、ティームドラは流し斬りでサイドへ回り込み、脇腹に強烈な一撃を加える。
 さらに顔面に対して両断剣を使用して正面から打撃の連打を浴びせかける。
「ぎゃー!
 久しぶりに尻以外への強襲にゃー!! やべぇ、シリアス展開は朕の存在価値を低下させるにゃー!」
「逃がしません」
 フットワークで逃げ道を塞いだティームドラは、スマッシュを使って強烈なアッパーカットを叩き込んだ。
 軽い体重のタッチーナは、宙を舞って後頭部を地面へ打ち付ける。
「これで少しは懲りた事でしょう」
「うぐぐ。唐突なマジキャラ登場で、朕は引き出しのタイムマシンから異空間へ送り出されたかと思ったにゃー。
 しかし、この快感‥‥じゃなかった、痛みは本物じゃから確かに現実のようだにゃー」
 超回復を持つタッチーナでも、ティームドラの攻撃は確かに効いている。
 即時回復している事から痛みはしっかり与えられている。問題は、タッチーナ自身はその痛みを快感と感じている完全無欠のド変態という点だろう。
「挨拶が遅れたな、強化人間」
 大剣を携えて寝転がるタッチーナを前にする冬馬。
「げー! 第一部で完だと思っていたら、すぐさま第二部開始ですか!?」
「初めまして‥‥さようなら」
「え? 挨拶がそのまま別れに直結じゃとー!」
 これから加えられる攻撃に震えるタッチーナ。
 ちなみに冬馬はタッチーナ相手の多くの言葉を不要と感じて一気に省いている。
 本来は、『初めまして。自己紹介が必要か? 仕方ない‥‥。俺は鎌苅冬馬、能力者だ。初めて会うが、お前の噂は嫌な位、聞いている。早々で悪いが‥‥此処から消えて貰おう。素敵な聖夜を過ごしたいのでな。‥‥少し長くなったな。今度こそ、さようなら』という内容だった。
 初めて会った直後に変態全開のタッチーナを見えれば、多くの語りたくなくなる。
 冬馬が言葉を省いたのも、当然かもしれない。
「タッチーナ、こっち! 早くっ!」
「‥‥ん!? そなたはしっとの大将! 了解にゃー!」
 ふいに白虎が姿を現し、タッチーナを呼びかける。
 白虎の登場に一瞬驚いた冬馬の隙を突いて、素早く逃げ出すタッチーナ。
「待てっ!」
「待てと言って待つ奴はおらんにゃー!
 で、しっとの。何処まで逃げるにゃー」
「んー、確かその辺だったと思う」
「え? その辺って‥‥」
 走り続けるタッチーナだったが、突如地面に穴が開く。
 踏みしめる地面を失ったタッチーナは、重力に引かれて穴の中へ落下していく。
「にゃ!? なんだ、これ!」
「去年と全く同じパターンで引っかかるとは、本当に馬鹿だな。
 心を入れ替えたと言っていたが、すまん。ありゃウソだった。
 というか、流石にお前等と組むとかないから。いくらしっと団でも」
 白虎は他の傭兵と事前に裏で連絡を取り合っていたのだ。そもそも、この落とし穴もカップル粛正用と称してタッチーナとマグロ型キメラに掘らせていたものだが、自分の掘っていた穴の場所を忘れる辺りが馬鹿の究極体らしいエピソードだろう。
「ぎにゃー! また朕を騙したのかにゃー!
 孔明の罠がここで炸裂させるとは‥‥火計炸裂で朕の陣は被害甚大ですぞ!
 許せねぇにゃー! 今からここを這い上がって朕がお仕置きしてやるにゃー!」
 怒り狂うタッチーナ。
 しかし、甲高い声で怒られても怒り具合はまったく伝わってこない。
 白虎自身も何処吹く風。あっさりと受け流している。
「ふーん。やってみれば?」
「くぅ〜。見ておれにゃー!」
 せっせと登り始めるタッチーナ。
 さすがに一度掘って登った穴だけあり、登る事はそう苦ではなさそうだ。
 もっとも、既に息も絶え絶えで白虎にお仕置きなんてできるようには見えないのだが‥‥。
「ぜぇ、ぜぇ‥‥。
 ようやく登り切ったにゃー。では、裏切りの仕返しを‥‥」
「今度こそ‥‥さようなら」
 登り切ったタッチーナを待っていたのは、大剣「ブロッケン」を構えて待ちわびていた冬馬の姿だった。
 落とし穴から這い上がる時間があれば、冬馬が追いつけるのは当たり前。
 むしろ、さっきまで冬馬に攻撃されかけていた事を忘れているタッチーナの頭がイカれているのだろう。

 ――数秒後。
 タッチーナの悲鳴がショッピングセンターに響き渡った。


「くぅ〜! かれーまにあさんのお尻を蹴れなかったです〜」
 戦いの後、タッチーナの尻を蹴れなかったエルレーンは残念がっていた。
 今回、ルーガを止める事に必死でタッチーナの尻を蹴っている暇はなかったのだ。
 情報によればUPC軍へタッチーナを引き渡す際、隙をついてタッチーナは逃走。このため、タッチーナの尻にムエタイ風の蹴りを叩き込むのは次の機会となってしまった。
「今度こそ、かれーまにあさんをアウトにしてみせるです!」
 決意を新たにするエルレーン。
 
 その闘争に間もなく終止符が打たれようとしている事を――エルレーンはまだ知る由もなかった。