タイトル:【火星】手を取り合ってマスター:近藤豊

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/12/11 20:08

●オープニング本文


 UPC軍による『火星移住計画』の初期段階は、二つの計画で成り立っている。

 惑星間航行の為に推進力として利用される大型レーザー砲を建設する『ネフライト計画』。
 火星への物資を送る為に利用されるマスドライバーを建設する『ジェダイト計画』。

 この計画は、バグア以外の異星人が地球襲撃を未然に防ぐ目的で火星に新たなる軍事基地を設置する事だ。
 だが、火星移住計画を実行へ移す前に、行っておくべき重要な案件があった。
 UPC軍は、早速その重要な案件について着手する事になったのだが――。
「任せとけっ! この大平真弘現場大責任者様が、バシって決めてやっからよ!」
 月面基地『崑崙』の現場監督である大平真弘(gz0494)は、一人で意気込んでいた。
 火星移住計画を実行するに辺り、UPC軍もバグアの存在を無視する事はできなかった。現在、本星のバグアはエアマーニェの1の主導の下、小惑星帯へ移動していた。
 本来であれば人類側が統一政府を樹立した後で正式に外交関係となる予定であり、それまではバグア側も距離を置く形を取っていた。
 しかし、人類側が火星へ行くのであれば、バグア側にも声を掛けておいた方が良い。
 その交渉担当に大平が選ばれたという訳だ。
 ちなみに、大平になった理由は『単に崑崙スタッフの人手不足だから』である。
 無駄に自信家な上にお調子者の大平が交渉役に任じられる時点で、人材不足は深刻なのかもしれない。
「心配すんな。ちょーっとバグアの幹部に通信して、『横を通してもらう』って言えばいいんだろ? 簡単じゃねぇか」
 大平は、教えられたチャンネルに合わせて通信の準備を開始する。
 自信に満ちた大平は、鼻歌交じりで相手が出るのを待つ。
 大平が待つ相手は――かつて戦闘した『あのバグアの幹部』なのだが‥‥。


 一方、小惑星帯。
 バグア戦艦のブリッジで、通信を知らせるアラームが鳴り響く。戦争終結直後程ではないが、今でも民間施設などから不意に会話を求められることがある。総意としての交渉は人類の統一を待って行う意思を示してはいたが、それ以外の会話については高位のエアマーニェが持ち回りで相手をする、というのがエアマーニェ達の対応らしい。
「人間からの通信‥‥、月からですか。一体何でしょうか」
 エアマーニェの8は人類からの通信を受信するべく、通信機へ手を伸ばした。

●参加者一覧

瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
嘉雅土(gb2174
21歳・♂・HD
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

 かつて敵として死闘を繰り広げた相手−−バグア。
 一時は人類を絶滅させる勢いで戦争を仕掛けていた。
 だが、バグア本星崩壊後――バグア幹部は小惑星帯へ拠点を移して人類と一定の距離を保っていた。
 それでも、完全に交流を断った訳ではない。
 数日に一度、人類側からの通信がバグア側へ入る。

「はい」
 エアマーニェの8は、いつものように通信を受けた。
 機械的で抑揚のない口調。
 感情に乏しいバクアらしい応対といったところか。
 それに対して通信をもたらした相手は――その対応と真逆のタイプであった。
「おう、出たな?
 俺様が崑崙の守護者、大平真弘現場監督様だ!
 今から俺様が大事な事を伝えてやっから、耳の穴かっぽじって聞きやがれ!」
 開口一番、大上段のポジションから自己紹介を始めた大平真弘(gz0494)。
 今回、月面基地『崑崙』から小惑星帯のバグアに対して重要な案件を説明するために通信を行ったのだが、大平の対応は明らかに常識を逸脱している。
「貴方の立場と、要求を確認しました。続けなさい、人間」
「大平さん、駄目ですよぉ〜。そんな、言い方では‥‥」
 古河 甚五郎(ga6412)は、エアマーニェの8が返答する最中に慌てて大平を止めに入った。
 相手はバグア幹部である。もし、話を拗らせれば、再び戦争へ突入しかねない。
「こういうのは最初が肝心。一発ガツーンっって入れてやりゃいいんだよ」
「いいですか、大平さん。
 相手は貴方と等しく、故郷を護りたいと願う女性なんですよぉ」
「だって相手はバグア‥‥」
「女性です! 女性といったら相手は女性なんです!」
 大平が不満を漏らす前に、話を遮った古河。
 誰が大平を渉外担当に据えたのかは不明だが、人材不足を理由にも交渉事に不的確な事は確かだ。
「まあ、慌てるなよ。真弘っち」
 ふて腐れる大平の傍らに、村雨 紫狼(gc7632)が立った。
 肩にそっと手を置いて、元気づけようとしているようだ。
「大体、今回の交渉は真弘っちが大将だろ?
 細かい事は俺達に任せてドンっと後ろで構えとけ」
「大将‥‥」
 単純思考の大平にとって、大将というキャッチーな言葉は大平の心を見事に捉えたようだ。
「そうだよなぁ。
 よしっ! この大将がお前達を後ろから見守ってやっからよ。まずは自由にやってみろ!」
 大物気分でふんぞり返る大平。
 そんな大平をよそに、天野 天魔(gc4365)は通信機の前に立っていた。
「御無礼をお許し下さい」
 天野は、大平の無礼を真っ先に詫びた。
 相手を認めた上で交渉が行われるべきところで、高圧的な態度で通信を始めた大平のやり方は問題がある。
 その無礼を真っ先に詫びた上で、天野はそのまま言葉を続ける。
「本来であれば直接お会いすべきなのですが、崑崙からの通信で失礼させていただきます」
「重要な要件ですか」
 大平の対応を敢えて触れず、天野の口にした言葉を繰り返すエアマーニェの8。
 どうやら、大平の挨拶をエアマーニェの8はそれ程気にしていないようだ。
「ええ。バグアにとってはあまり良い話ではないかもしれませんが‥‥」
 天野の横から割って入る形で、瓜生 巴(ga5119)は声を掛けた。
 UPC軍が決定した計画を、これからバグアへ説明しなければならない。
 瓜生はこの説明次第ではバグア側の態度が硬化する可能性を危惧していた。
「人類の恥ずかしい面を見せる――その事を俺達自身が自覚している事は分かって欲しい」
 嘉雅土(gb2174)は、力強く言った。
 嘉雅土も瓜生同様、UPC軍の計画を危惧している。
 だからといって、傭兵の身分でUPC軍の計画を潰す真似はできない。
 それならば、バグアと人類双方が良好の関係を保つ努力をすればいい。
「‥‥分かりました。具体的な話を伺いましょう」
 少々の沈黙の後、エアマーニェの8は本題を要求する。
 平穏無事に交渉が済めば良いのだが‥‥。


「火星移民計画、ですか」
 傭兵達からの計画の概略を受けたエアマーニェの8は、複雑な心境を抱いているようだ。
 UPC軍が立案した火星移住計画は、火星に軍事基地を建設して侵略異星人に対して備える為の計画である。火星を橋頭堡として敵の侵攻を食い止め、地球圏の安全性を維持する。バグアとの戦いに対してUPC軍が出した答えが、この計画である。
 本計画のスタートは軍事基地であるが、状況によっては火星へ入植する事も検討しているという情報も傭兵は敢えて付け加えた。
「ここからはあくまでも私個人の意見を述べさせてもらいます」
 瓜生は、『個人の意見』という言葉を出して自らの意見で補足する。
 敢えて今回の計画で都合の悪い点を傭兵側から提示する事で、エアマーニェの8が計画そのものを最初から危険視しないように配慮した為だ。
「この計画は移住、植民、橋頭堡といった別の意味を持つ複数の語彙で語られています。
 移住と移民は『居住圏の拡大』という同じ意味がありますが、橋頭堡は『軍事用語』です」
 用語の解釈を丁寧に説明する瓜生。
 国によって良く使われる語彙の解釈からエアマーニェの8について説明する必要がある。仮にエアマーニェの8が気付いていたとしても、瓜生の口から説明する事が重要なのだ。
「UPC軍はこの橋頭堡という言葉を使いながら早期に敵の襲来を迎撃すると語っています。ですが、外宇宙からの訪問者にとって、距離的・空間的に地球防衛を目的に火星基地という位置は意味がありません。
 そして、橋頭堡とは、侵略時に敵地を作る仮設基地のような意味で、この単語を選んだ者は意識的・無意識的に、この計画を現バグア圏を敵として想定している可能性があります。
 人類にも、停戦に不満を持つ勢力が居る事は隠すまでもありません」
 火星基地がそのまま対バグア戦の前線基地となる。
 瓜生はその可能性を強く感じていた。
 そして、その考えは他の者も同様だった。
「俺も火星基地が対バグアで利用される可能性があると思う。
 世代が変われば、意識も変わる。今はバグアと手を結ぼうって考えていても、後世で交渉が拗れて再び戦争って可能性も考えられる」
 嘉雅土は火星基地が対異星人ではなく、対地球という形で利用される未来も予測していた。
 戦争を繰り返してきた人類にとって将来的に戦争が起こらない保証はない。
 人類は、人類の中に新たなる敵を見いだすかもしれない。
「人類の中に停戦を快く思わない者達がいる。
 ですが、これが我々の現状なのです。状況を理解した賢者、状況を理解せず気分で動く愚者、過去と憎悪に囚われた復讐者など、統一がならぬ今、様々な者がいます。
 今回の計画も、停戦を快く思わない者が仕掛けた罠かもしれません。
 ですが、そうさせない努力が出来るのも人類自身です」
 天野はバグア同様、人類も一つにまとまる事が難しいと説明する。
 嘉雅土の言う通り、将来何が起こるか分からない。
 だが、危険を回避させられるのも、人類自身なのだ。
「この計画は対バグアで利用される可能性もありますが、そうならないようにあなた方が最大限の努力をするという事でしょうか」
 傭兵達の言葉に耳を傾けていたエアマーニェの8は、そう呟く。
 停戦を快く思わない人間がいる事をエアマーニェの8は、知識として知っていた。
「対バグア戦継続を望む勢力が有力とは言い切れません。
 この計画は初期段階で、全体のビジョンの不鮮明さが用語のブレに現れています。
 現段階で言える事は、提案を拒まれると緊張が高まるという事です。
 緊張を高めない為にこちらの主張を認めろというのは図々しいので、そちらからも図々しい要求をすれば良いと思いますよ。それが政治です」
 瓜生は、この計画はまだ初期段階である事を説明した。
 問題があるなら、その部分を修正していけばいいのだ。
 最初から却下するのではなく、交渉を重ねてより良い案を採用する。
 それがバグア、人類双方にとって良好な関係を保つ事に繋がるだろう。
「大平さん‥‥さっきのセリフですよ」
「おう」
 隙を窺い、大平へ事前に話していたセリフを話すように合図する古河。
 それを受けて、大平は通信機の前へ出る。
「俺ぁ、この崑崙を護らなくちゃならねぇ。お前だって、護るもんがあるだろう。
 大切なのは、護るもんの為に協力できる事は協力すりゃいいって事だ。
 お互い、もっと相手を信じてりゃいいんじゃねぇか?」
「分かりました。事前に問題点が判明しているのであれば、解決できると信じます。火星移民計画をバグアは見守る事とします」
 エアマーニェの8は、火星移民計画について即答を避ける事とした。
 人類側が統一政府を樹立し、対バグアの方向を和平で固める事が出来たならば協力する事となった。また、人類が小惑星帯宙域にて事故や遭難が発生した場合も、バグア側は救援を行う事もこの場で約束された。


「火星移民計画については方向が決まりましたが‥‥お互いの陣営で事件が起これば、ブライトン以上の迷走になるかもしれません。
 パニクって自滅‥‥は、避けるべきですからねぇ」
 エアマーニェの8の言葉に耳を傾けながら、古河は大きく頷く。
 そして、さらに言葉を続ける。
「で、早速なんですがね。ちょっと提案があるんですよぉ」
 古河は、事前に用意していた資料を広げる。
 そこには軍のお題目も杞憂や絵空事ではない事を挙げた上で、一部の勢力が暴走する自体は避けるべき。そこで意志疎通の不備による疑心暗鬼、不慮の事故等から発展する行き違い、過激派の暴走等をお互いで牽制するために中立地帯を作る内容が記されていた。
「相互監視、という言い方はあまり好きじゃないんですがねぇ。平和な形でお互いが理解し合うには、交渉だけでは不十分です。中立地帯で同じ空間を共有するってぇ事も大事なんじゃないですかねぇ」
 古河は、バグアも人類も新体制は不安定な状況と推測する。
 おそらく、主流派を快く思わない派閥が形成されて主流派と対峙していく事になる。この中立地帯は、そんな中でも良好な関係を継続的に堅持できると古河は考えている。
「私にはよく分かりませんが、貴方達が良いのであれば‥‥」
「いや、ちょっと待て。そいつはちょっとやべぇぞ」
 エアマーニェの8の言葉を遮る形で大平が割って入った。
 今まで戦争を行っていた相手同士が中立地帯で生活を始めたとすれば、当初はお互いを警戒して本格的な交流を持つ事は難しい。中立地帯の中で如何に良好な関係を形成していくのかが最初の課題になるだろう。
 さらに中立地帯でのルールを策定する必要がある。
 異星人同士が中立地帯で生きる事は、想像以上に困難が付きまとうようだ。
「では、人間と正式な窓口ができた際には議題として挙げる事としましょう」
「俺からも良いか?」
 古河に次いで提案を持ちかけたのは天野だ。
 態度を改めて、あくまでも個人的な提案としてエアマーニェの8へ説明し始める。
「こちらと貿易を行わないか?
 つまり、こちらはヨリシロとしての人間を、そちらは知識か戦力を提供する取引だ」
 提供する人間から合意を得た上で死後の保証も確約。その上でバグア側へヨリシロとして提供。見返りとしてバグア側から知識や技術、戦力を受け取るというものだ。
「賛成したグループ同士での取引になるだろうが、どうだろう?
 そちらも安定してヨリシロを手に入れられるのであれば、他の幹部も説得しやすかろう?」
「‥‥こちらの意見としては構いません。人類が総意として受け入れる物であるなら
ば、ヨリシロを得るために我々が対価を払うという関係は望ましいともいえます。
 ですが、カルサイトの件で、その行為は人間の間で禁忌とされている物だと我々は
認識しました」
 天野の提案に対して、エアマーニェの8は率直な意見を述べる。
 仮に当人が了承していたとしても、この貿易が人類の間で問題視される事を懸念し
ていた。天野が呼びかければ人は集まるだろうが、反対する者もいるだろう。
 バグアも、今は人類と事を荒立てたくはない。それ故に、統一組織との交渉を条件
に掲げているのだ。
「あ、あの‥‥」
 次に口を開いたのは村雨だった。
「あなたも何か提案が?」
「い、いや、俺のは提案って訳じゃないんだ。
 ただ、約束したかったんだ」
「約束?」
「俺は、この戦いの中で多くのバグアに出会った。
 あいつらが何千年生きたのかは知らねぇが、あいつらは必死に生きようとしてたんだ。
 だから、かな。
 倒してきたバグアに憎しみはないんだ。むしろ奇妙な友情を感じるよ」
 村雨は、今まで倒してきたバグアを思い返してきた。
 村雨が人類の為に戦ってきたように、バグアもバグアという種を護るために戦ってきた。立場が違っていただけで、目指した方向は同じだったのかもしれない。
「善悪は抜きにして‥‥あいつらの声明にだけは敬意を払う。
 そして、俺は約束する。彼らから受け継いだものを抱えて、さらに『先』へ進めるんだ」
「倒れた同胞に敬意を払っていただいた事に感謝します。
 これから人間とバグアの間で、何ができるのかは分かりません。ですが、可能な限り協力する事をお約束しましょう」
 村雨に謝意を述べながら、今後の協力を約束するエアマーニェの8。
 相手の感情を読み取る事が得意ではないエアマーニェの8は、村雨の言う想いを理解しきっているのかは分からない。だが、バグアの立場を考えてくれているという事実は間違いなく伝わっている。

 相手を想う気持ち。
 これを忘れない限り、過ちは二度と起こらないだろう。


「最後に、贈り物があるんです」
 エアマーニェの8との通信が終わる間際、嘉雅土がそう切り出した。
「贈り物?」
「はい。あなたに名前を贈りたいんです」
 バグアは個体名に固執する事はない。
 だからこそ、数字で呼び合っている。
 嘉雅土は、その数字で呼び合う事に寂しさを感じていた。
「人間は相手を呼ぶ時に、相手を思いやります。
 相手の名前を聞くだけで、相手の存在を思い浮かべます。
 あなたに良い名前を贈れば、きっと今後も交渉する際に良好な関係を築けるでしょう」
「名前? んーなもん、『ハチ』とかでいいんじゃねぇのか?」
「‥‥大平さん、ちょっとこちらへ来ていただけませんかねぇ。大事なお話がありまして」
 嘉雅土の提案に茶々を入れた大平は、古河に連れられて通信機の前から引き剥がされる。
 嘉雅土は、気を取り直してエアマーニェの8に与えたい名前を口にした。
「『アウイン』という名はどうでしょう」
 アウイン。
 ラピスラズリを形成する藍方石の事だ。
 あのカルサイトもラピスラズリの構成物。
 嘉雅土は、エアマーニェの8をカルサイトと重ね合わせていた。
 
 しばしの沈黙の後、エアマーニェの8は口を開く。
「分かりました。
 私の名前はアウインです。それで呼んで下さい」