タイトル:夜陰廃墟マスター:九重陸

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/10 10:44

●オープニング本文


 先日、傭兵達によって機密文書を持った偵察部隊員の救出が行われた無人の町で、再び陰謀が蠢き始めていた。
 件の事件では隊員の救出と機密文書の確保が優先された為、まだ町には数体のキメラが残っていると報告を受けたUPC北方軍は、新たに偵察隊を派遣して動静を探る。
 確かに町には数匹の狼型キメラの残存が確認され、その中の一体にはボス格と思われる大型のものもいた‥‥ここまでは事前情報と傭兵達からの報告通り。
 キメラ達は町の中心付近を徘徊する他は目立った活動をしていなかったが、偵察を開始して数週間目経過した日に事件が起こった。
 町に一台の輸送車が入ってゆく。キメラに襲われる事無く町の中心まで向かった車両からは、武装した者達が3名と一般人と思われる人間が2名降りてくる。
 武装した者達は、キメラに護衛されながら現れた町側の人物‥‥研究者と思しき男に一般人を引き渡す。様子から判断すると、一般人はどこかから連れて来られた実験台と言ったところだろうか。
 受け渡しが終わると武装した者達は早々に輸送車で町を後にしたが、残された一般人2名は拘束されて建物の中へと連れてゆかれた。

「輸送車は親バグア派のものだと判明。町にいたのはその研究者と思われます」
 偵察隊より傭兵達に緊急出動要請があった。輸送車に関しては偵察隊の数名が追っているので問題は無いが、隊の護衛として同行していた傭兵がひとり、一般人救出の為に町へ潜入していると報される。
 緊急で送られてきた通信だが、既に傭兵が町へ入ってから1時間は経過している。これから即座に出発したとしても‥‥時間的にはぎりぎりだろう。

「急ぎ目的地へと向かい、単独作戦行動に出ている傭兵と2名の一般人を救出して下さい」
 尚、バグア側研究者と思われる男及び、研究施設が存在する場合はそれへの対処も依頼される。そして、町ではキメラが待ち構えているだろう。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
朝霧 舞(ga4958
22歳・♀・GP
鳳由羅(gb4323
22歳・♀・FC
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
白姫 鏡花(gb7108
20歳・♀・DF
真山 亮(gb7624
23歳・♂・ST

●リプレイ本文

●夜陰
 薄い雲間から差す月明かりが廃墟となった街並みを照らす。戦火に追われ住民達がいなくなって久しいこの街に生活の明かりは無く、ただ何処かで獣の遠吠えが聞こえる。
「きな臭い街だったが、こう言うカラクリだったとはね」
 小さく言ちる地堂球基(ga1094)。ここは街からやや離れた郊外で、目立たない様に木陰には三台のジーザリオ。
「どんな研究かは知らないけれど‥‥どうせろくな事で無いのでしょうね」
 隣では鳳由羅(gb4323)が微苦笑していた。再び訪れたこの街は、前にも増して怪しく感じる‥‥夜だからと言うだけでは無いだろう。
 これより二班に分かれての陽動と救出行動に移る手筈となっており、用意して貰った最新の地図で最後の確認が行われていた。
 夜間行動になるので、作戦開始などの合図はライター光を使ったシグナルミラーやハンドサインが用いられる。捕まっている一般人を考慮して、慎重で迅速な動きが求められる。
「キメラの配置は以前と変わりないね。このルートで潜入するので、此方へ敵の誘導を頼めるかな」
 自分のジーザリオのキーを取り出し、陽動班に渡すホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)。狼キメラ達の行動範囲と、それからボス格から離れると連携行動が取れなくなる事を捕捉。
「こいつは必ず返す‥‥だから救出の方は頼んだぞ?」
 首肯してキーを受け取った真山 亮(gb7624)は、頼りなく注ぐ月明かりを仰ぎ見る。濃い雲が月に近付いていた。
「しかし‥‥単身潜入とは勇ましい嬢ちゃんだね。応援想定で動いてくれてる事を祈ろう」
 ボス格の獣人キメラの位置や、現時点での一般人達の安否。それから先行して街に単独で入った傭兵カルラの行動。球基は髪を掻き上げながら、夜の街に目を細める。
「無茶してないと良いが。無事でいろよ‥‥カルラ」
 何処か苛立たしげに煙草をくわえていたヤナギ・エリューナク(gb5107)も、単独行動のカルラを案じていた。護対象の一般人がいる以上、一人で出来る事は限られてくる。
 自らに気合いを入れる様にして煙草を揉み消すと、静かに街を見つめている白姫 鏡花(gb7108)に気遣わしげな視線を向けた。
「あ、大丈夫です。無事に助け出しましょう」
 視線に気付いて肯きを返す。今は出来得る全力と最善を尽くすだけだ‥‥月が雲に隠れ始める。
「人体実験なんて真似、許すつもりはねえ」
 天原大地(gb5927)が押し殺した怒りを交え、忌々しそうに呟く。獣人キメラはもすかすると、その人体実験によって生み出された可能性も‥‥。
 これ以上の被害者を出さない為にも、意地でも無事に助け出してみせる‥‥鋭い眼光が街を睨み付けていた。
「目にもの見せて差し上げましょう。それから実験データなども没収ですね」
 大地に同意する朝霧 舞(ga4958)。今回の任務では一般人救出の他に、敵側の研究者と研究施設及びキメラへの対処も現場の判断に委ねられている。勿論カルラの救助や実験データの回収もだ。
 そして訪れる濃い夜闇。
「月が隠れました‥‥参りましょう」
 由羅の言葉に、二班での行動が開始された。

●廃墟
 先ず街へ潜入したのは救出班。暗視スコープを装備したホアキンが先導する。風下から入って建物や瓦礫を利用しながら商業区を目指す。
 一度来た事のある場所だけに潜入ルートは完璧だった。キメラに遭遇する事無く、商業区にあるガソリンスタンドに到着‥‥ここは以前の任務に縁ある場所。
 事務所のある建物に入り込むと直ぐに手掛かり捜索が開始され、程なく走り書きのメモが見つかった。
「伝言の様ですね。シーラッハさんが残していったものでしょう」
 舞がメモを振って示す。メモと言っても、化粧品を使ってハンカチに書き付けた物に要点がまとめられていた。

『一般人2名、庁舎1F倉庫内で健在。研究施設は同建物1F奥の会議室。応援があるまで現状を維持する』

 現状を維持‥‥つまりは応援が到着するまでは護り通しておく、と言う意味だろう。
「気の利いた姉ちゃんだぜ。ちゃんと手前の役割を解ってやがる」
「俺達がこの場所を確認すると、信じてくれていたのだろうね」
 大地とホアキンが肯いた。ならばその期待に応えなくてはならない。一般人の延命行動を取ってくれているならば急ぎ駆け付けよう。
「このハンカチは、必ず返さなければ‥‥だね」
 舞からハンカチを受け取り、球基も首肯した。直ぐにシグナルミラーで陽動班へのサインが送られる。作戦開始の合図が。


 街近くの高台に待機していた陽動班四人は、小さく明滅する明かりを確認していた。
「作戦開始の合図確認‥‥始めましょうか」
「さて、お仕事お仕事」
 短く告げる由羅の言葉に続いて、亮がジーザリオのエンジンをかける。
 車両はライトを落としたまま徐行運転で街へと近付き‥‥そのまま慎重に市街に。ヘッドライトが点灯された。亮のくわえた煙草にも火が点る。
「結構、運転は得意なんだ‥‥ぜ」
 全神経を運転に集中。覚醒を行い、アクセルを踏み込む。
「運転中の煙草は、危ないから‥‥だめ、ですよ」
 そして煙草は鏡花に没収された!
「そうだな。任務が終わってから、ゆっくり一服と行こうか」
 助手席のヤナギは周囲を警戒していた。車は街並みを縫う様に進み、キメラ達の警戒を惹き付けていた‥‥最初の一匹が瓦礫の影から現れる。
 続けてもう一匹‥‥二匹。狼キメラ達は侵入者の追跡を始める。それを引き離しすぎない距離を保ちながら、街の外周部‥‥居住区へと誘導。少しでも多く、少しでも庁舎から遠くへ。
 追いかけてくるキメラは4匹になっていた。回り込もうとするものもいたが、亮が巧みにハンドルを切ってそれを許さない。
 居住区に入ると狼キメラ達が追跡の歩を緩め始める。街の外まで付き合ってはくれない事は事前に織り込み済みだったので、ここで時間を稼がなければならない。居住区をぐるりと回り終えた頃には、キメラは6匹いた。
「十分な数だろう。陽動が露見して引き返される前に、ここで仕留めておくか」
 ヤナギの言葉に肯いて、亮は少し開けた場所でブレーキを踏んだ。たちまちキメラ達は車を取り囲む。
「人狼タイプのものはいませんね‥‥これ、なら」
 これなら連携も脅威では無いだろう。街中を引っ張り回してある程度の時間は稼げたので、後はもう少しだけ時間を稼ぎながら追加のキメラが現れればそれも対処する。
 車から降りた四人は、其々の武器を手にキメラに向き合った。既に全員が覚醒を終えていた。
「翻弄して差し上げます‥‥掴まえてごらんなさい」
 飛びかかってくる牙に対し、最初に動いたのは由羅。小銃でキメラを分断させながら、鮮やかに舞う様な足取りで攻撃を捌き続ける。
 その分断されたキメラ達にヤナギが切っ先を向けた。
「おら、お前ェらの相手はこっちに居るぜ?」
 血走った目で襲い来るキメラの攻撃を、踏み込みながら剣で受け流してゆく。
 鏡花も長刀を振るって牽制を行っている。敵を近付けさせず、そして着実に時間は稼がれていた。
「真山さん‥‥どうですか?」
「増援が現れないって事は、ボス格のヤツは別の指示でも受けてると考えて良さそうだな」
 周囲に気を配っていた亮が口早に言葉を返すと、状況を判断して素早く仲間達の武器に練成強化を行う。
「もう十分な時間は稼いだ。一気に決めてくれ」
「じゃあ、片付けるとするか。ほらほらお遊戯はこれからだゼー♪」
 淡い輝きが武器に灯ると、ヤナギの瞳が怪しく細められた。近付いてきたキメラの足を払い斬り、すかさず刺突で仕留める。
「一般人の方達、無事だと良いですが。その為にも‥‥退路を」
 距離を取ろうとしたキメラに対し、長物の鏡花がその暇なく斬撃を見舞う。敵はもう完全に統制を失っていた。
「刮目なさい‥‥何が起きたか理解できないかもしれないけどね‥‥」
 瞬きの間に由羅は一気に敵との距離を詰め、連続して刺突を繰り出して一匹を仕留め、次のキメラが牙を剥いた刹那にはその喉を貫いていた。何が起きたかさえ解らないまま、キメラ達は仕留められてゆく。
 掃討に移ってから間もなくで戦闘は終わる。陽動班は引き続き警戒を行い、救出班からの連絡を待ちつつ退路の確保に動くのだった。

●獣人
 救出班の四人は庁舎入口で身を潜めていたが、見張りのキメラ達が陽動班を追って走り去ったのを確認すると即座に建物内に進入した。
 庁舎であったこの建物は造りがしっかりしており、2〜3階部分は傷みが激しかったが1階は補強もされ使用に耐えている。
 一行は入口にあった老朽化した案内図からなんとか場所を確認し、先ずはカルラと合流すべく倉庫と思われる場所を目指す‥‥外にも増して暗い建物内を、慎重に進んでゆく。
 研究施設として使われている会議室には何らかの手段で照明があるだろうが、廊下には一切の明かりは無く、窓から僅かに差し込む月明かりだけが頼りだった。
 幸い見張り等に遭遇せずに目的の倉庫へと辿り着いた彼等に、小さく‥‥短い誰何の声が飛ぶ。
 女性の声。その声には僅かに緊張の色。暗視スコープは、柱の影から現れた一人の熱源を捕捉していた。
「救助を依頼された傭兵だよ。あなたがカルラ・シーラッハだね?」
 ホアキンの声で相手が緊張を解くのが伝わってくる。月明かりの中に進み出てきた女性は、手にしていたナイフを収めて小さく息を吐く。
「救援感謝する。一般人二人は無事だよ」
 一見して目立った外傷は無い。ただ気疲れと言おうか、練力の方には余裕が無さそうに感じた。手短に名乗り合ってから、情報交換を。
 カルラが言うには、街で騒ぎが起こった――陽動班の行動が開始された――刻から庁舎は慌ただしくなり、閉じこめた一般人達は放置されているらしい。
 恐らく研究者が街からの脱出準備に掛かったと思われるのだが、この場所を離れる訳にはいかなかったカルラは詳細を確認出来ていない。
 それから、研究者よりも立場が上と思われる男が一人いると言う。研究者は助手を含めて二人だけで、他は獣人キメラが一体と狼キメラが数体。
「既に脱出していたとしても、何か資料が残されているかも知れません。火でも放たれる前に、急ぎましょう」
 舞が状況を整理する。人質を確保したら直ぐに研究施設である会議室に向かうべきだろう。
「極秘研究施設‥‥か。企みの真相もだが、研究者の上役と思われる男が気になるね」
 スコープを外しながらホアキン。会議室内は予想通り照明が効いているとの事なので、ならば戦闘しやすい様にと身軽なスタイルに戻した。
「会議室は獣人型のキメラが護っている。謎の男と研究者二人も其処だろう‥‥逃げて無ければ」
「では俺達はそっちへ向かう。カルラ‥‥きみは疲労が見受けられるので人質二人と一緒に安全な場所で待っていて貰えるかい?」
 カルラが球基に肯いたタイミングで、サプレッサーを取り付けた銃で倉庫の鍵を撃ち抜くホアキン。
「人質が無事でなによりだ。あとは、クソ野郎共を思い知らせねえとな」
 疲労してはいたが、それでも怪我の無い人質達を確認して小さく安堵する大地。握った拳を廊下の奥に向け、真っ先に走りだした。


 大地は両開きの大きな扉を蹴り開ける。会議室の中には様々な機材や実験器具。発電器と照明具‥‥そして、驚いた顔でこちらを振り返った二人の白衣の男。彼等が研究者だろう。
「ちっ‥‥お偉いさんはもう逃げちまったってか?」
 研究者達に向けられる大地の鋭い視線。その視線を遮るように、天井に空いた穴から降ってくる獣人キメラ。情報通りの狼男だった。
 獣人を確認すると、大地の目が微かに辛さを映す。この獣人が元は人間である事の可能性‥‥。
 驚きで硬直していた研究者達は、慌ててキメラに向かって叫ぶ。侵入者を排除せよ、と。
「‥‥鬱陶しいわね。訊きたい事が山ほどあるから、逃がさないわよ」
 冷たい視線で、キメラと研究者を睨め付ける舞。覚醒して、手には銀色の小銃が握られている。
 その刻、会議室のスピーカーから男の声が聞こえてきた。若い男の声で、何処か挑発的な響きがあった。

「傭兵諸君。実験の最終段階を目前に、邪魔をしてくれた事に先ずは礼を言っておこう」
 声の調子からして、移動しながら喋っていると思われた。既にこの場所を離脱し、遠隔で声を送っているのだろう。

「完成品の獣人キメラには程遠いが、今回は試作品のそのキメラで我慢して欲しい」
「次の機会には‥‥ヒトの知能とケモノの体躯を持った完成品でお相手出来ると思うが」

 大地の拳が手近な机を叩き砕いた。それはつまり、人間の脳を実験に使うと言う事だろう。
 それが可能かどうかは別にして、ふざけた真似を許すつもりは無い。大地の怒りに研究者達は完全に怯えきっている。

「では、また会う日まで」
 声は途絶えた。

「つまり君達は見捨てられた‥‥と言う事かな」
 球基が溜め息混じりの言葉を研究者達に投げる。その彼等の前に立つ狼の獣人キメラ。
「ほんと‥‥祟られるわね、キメラには‥‥」
 舞の呟きで戦いが始まる。
「悪い‥‥キメラは任せるぜ。俺はあいつ等を一発ブン殴らねぇと気がすまねえ!」
 立ちはだかる獣人を無視して大地は研究者へと走った。それをフォローする舞の銃口がキメラの足を狙って火を噴く。
 球基も電波増幅を行い、超機械で攻撃を合わせる。大地は一気に走り込んで研究者の横面に拳を叩き込んだ。
 吹き飛んでもう一人の研究者も巻き込みながら床に倒れ込む。
「痛えか? だがな‥‥てめえらに実験の道具にされた奴らの痛みは、こんなもんじゃねえんだよ‥‥」
 押し殺した怒りが空気を伝う。あまりの迫力に、研究者は気を失った。

「遅い‥‥それでは切り札の毒も、俺の身体には届かないな」
 左手の剣で毒爪を捌き、右手の銃を確実に当てて機動力を削いでゆく。一流の闘牛士は牛の角にギリギリまでその身を晒すと言うが、当にホアキンがそうであろう。
 球基と舞の絶妙な援護でキメラが怯むと、そこに必殺のタイミングで急所突き‥‥敵の喉を見事に穿ち、獣人の身体はゆっくりと沈んだ。


 二名の研究者を拿捕し、残されていた研究データや資料を押収した救出班は、待機していたカルラと一般人達を回収して陽動班と合流していた。
 既に街を出ており、見晴らしの良い高台で迎えの輸送機を待っている。月は雲から姿を見せており、先刻までいた街を照らす。
「やっぱ仕事の後は美味いな‥‥成功ならなおさら」
 ようやく煙草にありつけた亮。その向こうでは、街を眺めながら球基がカルラにハンカチを返している。
「こう陰謀が含まれると、夜の影が深く不気味に感じるね‥‥そう思わない?」
 球基の問い掛けにゆっくり応えるカルラ。
「全くだ‥‥良い子が安心して眠る事も出来ない程に、な」

 敵の企みは捕らえた研究者達から明かされるだろう。そして、逃げた男との対決の日もいつか。