●リプレイ本文
●レース開始
晴れ空の下にファンファーレが鳴り響く。
特設ステージの周りは予想以上の観客達で賑わっていた。併設された屋台の売り子さん達も一生懸命客引きに励む。
先ずは主催者からレース内容の説明と挨拶が行われ、続いて出場者達の入場。広場に大きな拍手が沸き起こり、レースでダイスを振る順に入場が行われる。この順番もダイスで決められたらしい。
最初に登場したのはメイフィア(
gb1934)。進行役がマイクに向かって入場を告げた。
「まずは、カンパネラ学園生のメイフィア選手! 友人を息抜きに誘って参加してくれました!」
「健康的な小麦色の肌。沈む夕陽の砂浜‥‥ビーチボールを両手に抱いた水着の彼女が静かに振り返る‥‥!」
「これでもう世界は彼女の虜! まさに絵画! 私ランキングでは、一緒に海に行きたい女性第一位!!」
進行役は女性だったが、妄想癖でもあるのだろうか‥‥少々変わった人だ。
次にコールされたのは槇島 レイナ(
ga5162)。
「続いてはご存じの方もいるでしょう、惜しまれながらも引退したグラビアアイドルの槇島 レイナ選手!」
「魅惑のボディラインは地上の楽園! アイドルならではの仮装で魅了してくれるでしょう!」
「浴衣で花火。見上げる青い眸と揺れる金の髪。一緒に花火大会に行きたい女性の私ランキング第一位!!」
続いて霧島 和哉(
gb1893)の名前がコールされる。
「続いては今回ただ一人の男性参加者、霧島 和哉選手! メイフィアさんに誘われての参加です!」
「可愛らしい笑顔に纏った淡く柔らかい空気! のんびりとした喋り方も愛おしくて‥‥抱きしめたい!」
「手を繋いで一緒にお出かけ。これはもう言うまでも無く、弟にしたい男の子の私ランキング第一位!!」
進行役の女性が鼻血を出したのでスタッフがティッシュを持ってくる。
続いて武弥 飛沫(
gb7167)がコールされた。
「続いては現代に見参した忍者ガール、武弥 飛沫選手! 元気と笑顔の手裏剣を撒き散らします!」
「黒髪黒目に秘められた和の心。そして激甘料理と激辛料理の両方を得意とする両刀(党)使い!」
「驚かせて可愛い悲鳴と涙目‥‥そう、一緒にお化け屋敷に行きたい女性の私ランキング第一位!!」
妄想はまだ終わらない。最後の選手、ミリー(
gb4427)がコールされた。
「最後はまさにこの大会のエキスパート、コスプレを極めるべく舞い降りた使者、ミリー選手!」
「歌って躍って戦える万能コスプレイヤー! 可愛い着ぐるみから、際どいセクシー衣装まで何でも着こなす!」
「スーツ姿。教鞭片手に眼鏡を掛けて、優しく叱って貰う‥‥私ランキングでは女教師にしたい女性第一位!!」
会場を割れんばかりの拍手が包み込む。進行役は達成感に充実した顔で空に拳を突き上げている。
選手達がスタートである0のマスに揃って並び、いよいよ仮装すごろくレースの開始。特製ダイスがメイフィアに手渡され、そして転がった。
ころころ‥‥2!
メイフィアが2のマスへと進むと、そのマスの得点と指令が発表された。2のマスは1点で、指令内容は自由仮装。
「自由仮装のマスは、用意してきた衣装でも貸し出しの衣装でも良いので、好きな衣装に着替えてもらいます」
「次に仮装の指令マスに止まるまではそのままの衣装となりますのでご注意下さい!」
レースが始まると進行役も真面目に仕事をしている。貸し出し衣装はカタログから選ぶ様になっていて、着替えは数ヶ所に設置されたドレッサールームで行われる。
「そうですね、まずはソフトに‥‥」
メイフィアは衣装を手にドレッサーへと向かう。着替えから戻った彼女は‥‥三角巾と割烹着に身を包み、おたまと丼を手にしていた。
そのまま観客席の方を向いて一言。
「お腹いっぱいどうぞ」
学食のおばちゃん! いや、お姉さん! かつてこれほど可愛い学食の人がいただろうか!
観客席から歓声があがる。進行役も興奮しまくっている。こんな風にご飯を盛って貰えたら、それだけで三杯は行けると誰もが思った。
そして『おかわり』コールが沸き起こる。これはご飯のお代わりと言うよりもアンコール的な意味合いが強いだろう。
これ以降、レース中のアンコールはおかわりと叫ばれる事となる。まさにメイフィア効果だった。
続いてレイナがダイスを転がす。ころころ‥‥3!
3のマスは3点で、自由仮装。レイナは衣装とウィッグを手にしてドレッサーへ。
戻ってきた彼女は、黒髪の三つ編みでブレザーを着込み、眼鏡を掛けた女学生に変身しており‥‥恥ずかしそうに少しうつむき加減で口を開く。
「先生‥‥大好き‥‥」
観客席が沸いた。そしてそれ以上に進行役のアイツが沸いた。
「キャーッ! 大好きって言われちゃいましたー!!」
自分が言われた訳では無いのにこの興奮ぶり‥‥正直少し怖い。しかし今の台詞にはそれくらいの破壊力があったのだ!
興奮さめやらぬ会場の中、続いて和哉がダイスを転す。
ころころ‥‥3! レイナと同じマスに移動する。
ドレッサールームから戻った彼の姿は、ダークな雰囲気を漂わせた魔法使い。とんがり帽子を被って漆黒のローブに身を包む。
「さて、誰を呪って欲しいね。報酬は弾んでくれるんだろう?」
手にした樫の杖を掲げて和哉が決める。先程までとは口調も変わっており、役を完璧に演じている。
ツボだった。進行役のアイツは鼻血も出らんばかりに叫ぶ。
「報酬は私よ! 私を受け取ってー!!」
熱狂的なその声にも対して反応は薄い。そこがまた良いらしく、進行役は暫く悶えていたと言う。
次にダイスを振るのは飛沫。良い目が出るように、何やらダイスに念を送っている。
ころころ‥‥6!
念の効果なのか、大きな数を出せば良いと言う訳では無かったが、これはこれで凄い。
「スタートダッシュでござるよ〜!」
意気揚々と6のマスへ。このマスは1点で、指令内容は隠し芸。
飛沫はスタッフに激辛のカレーを用意して貰うと、運ばれてきた激辛カレーに追加で香辛料を振りかけた。
観客席が息を呑む中、スプーンでカレーを掬い‥‥そっと口に運ぶ。
「辛っ! こんな辛いもの食べれる訳ないでござろう!?」
口から火を噴きそうな勢いで逆ギレ。急いで水を飲んで息を落ち着かせると、観客席から健闘を称える拍手が送られた。
そして1順目の最後をミリーが飾る。
「よし、頑張っちゃうぞ!」
ころころ‥‥1!
出目が小さいのが駄目な訳でも無いが、心情的には少し悲しい。ここは2点で、指令内容は指定口調。
「指定口調のマスに止まりました! ミリーさんは次の指令までの間、赤ちゃん言葉で会話して下さい!」
「ふふふ、それくらいおやしゅいご用でちゅ!」
流石はコスプレ専門家。これしきの内容ではビクともしない。
「次は頑張って良い目を出ちまちゅよー」
●デッドヒート
2順目。再びメイフィアがダイスを転がす。ころころ‥‥6!
8のマスへと移動する割烹着娘。このマスは2点で、指令内容は物真似。
「さあ物真似マスです。張り切ってお願いします!」
少し考える様に小首を傾げるメイフィア‥‥割烹着姿が何ともチャーミングだ。そして何かを思い付いたのか顔をあげた。
「ふむ‥‥留守電、いきます」
「ただいま居留守しております。ピーっという電子音が鳴った後にお名前とご用件をお話し下さい」
観客席から名前と用件の嵐。負けじと進行役のアイツも激しく手を振ってアピール中だ‥‥電話だったら手を振っても見えないのだが、居留守と言うところにツッコミを忘れる程に可愛かった!
続いてレイナ。女学生姿でダイスを転がした。ころころ‥‥4!
7のマスへ。3点獲得で自由仮装。
先程に続いて連続での3点獲得に、観客席から拍手が起こる。今度は黒いレオタードに猫耳と猫グローブ‥‥黒猫現る!
黒猫レイナはきょろきょろと周囲を見回すと、困った顔でそこに座り込み‥‥もう一度ゆっくりと周囲を見回す。
「誰か‥‥誰か、私を拾って欲しいニャ‥‥」
衝撃が走り、沸き起こる歓声。この破壊力に耐えられる者はそうそういない。
流石はアイドルぢからと言うべきなのか、物凄い歓声だ。進行役のアイツなんかもう拾う気全開だ。
「お願いだから拾わせてっ、絶対幸せにするからっ!」
「本当に可愛いでござる。お嫁さんに欲しいでござるな!」
隣の6のマスでも飛沫が肯く。彼女も鼻血が出そうな勢いだ‥‥類は友を呼んで仕舞ったのだろうか。
気を取り直してレースは続行。魔法少女‥‥少女なのか‥‥和哉がダイスを転がす。
ころころ‥‥6!
9のマスへ。2点獲得で指定仮装となる。
「このマスは着ぐるみ限定の仮装になります!」
「ん‥‥じゃあ、僕も‥‥猫でいこう‥‥かな」
そしてにゃんこ和哉が爆誕した。白い猫の着ぐるみを被った彼の姿は、まさに大きな招き猫。
「にゃー。千客万来にゃ〜」
ちょこんと首を傾げて手を曲げる‥‥こんな招き猫があったら商売繁盛間違いないだろう。観客席から女性達の歓声が飛ぶ。
「少し暑いけど、うけたから成功にゃ〜」
進行役のアイツは失神寸前だった!
続いて飛沫が、再びダイスに念を込めて転がす。ころころ‥‥3!
和哉と同じマスへ。
「着ぐるみ限定でござったな」
むむ〜と首を捻って、和哉の格好を見てから何か思い付いたらしく、ドレッサーへと向かった。
戻ってきた飛沫は魚の着ぐるみに身を包んでいた。そして巨大魚は奇妙な踊りをおどった!
「魚を好きになる踊りでござるよ〜。からだに良いのでちゃんと食べるでござる〜」
フラダンスを独創的にした感じの踊りは、それでもかなり可愛かった。和哉もサービス精神で魚の尻尾にじゃれて見せる。
踊りは10分続いた。これで観客の人達が魚を好きになったかは定かでは無いが、進行役のアイツは今晩は魚を食べると胸に誓った。
「さて、私の番でちゅね!」
ダイスを受け取り、ミリーが勢いよく転がす‥‥そして、ころころ‥‥1!
「こう言う事もありまちゅよね‥‥」
連続の1に落ち込みつつも、口調を忘れないところは立派だった。このマスは1点で自由仮装。
ここでミリーの口調は元に戻り、衣装を手にしてドレッサーに向かった。
ミリーの仮装は、上半身はそのままで下半身が馬のケンタウロス。そして何より観客の目を釘付けにしたのは、馬の前足‥‥ミリーの生足だった!
大きな歓声があがり、進行役も手を叩いて喜んでいる。馬の衣装との組み合わせが何とも言えずセクシーだ。
レースは順調に進んでゆく。その経過をダイジェストでお贈りしよう。
3順目。メイフィアは2点獲得し、自由仮装でメイド服を着たカフェ店員。同じく3順目でここに止まった和哉もメイド服になり、二人で息もぴったりの店員振り。
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
「本日のオススメは『ジャンボチョコレートパフェ』になりますっ、いかがですかー♪」
レイナは2点獲得。物真似ではキャンキャンと仔犬の鳴き真似をし、そしてキャンキャンとキリンの鳴き真似。
「同じような鳴き声じゃない!」
飛沫は4を振り1点。自由仮装でセーラー服になる。
「もぅお兄ちゃん、早くしないと遅刻しちゃうでござるよ」
ミリーは3回連続で1を振る。3点獲得で自由仮装だが、3連続1に気分はボッコボッコだった。
4順目。メイフィアが2点獲得して和風の仮装。これには進行役も飛沫も大喜び。続くレイナは更に3点獲得で、暴走族のクラクションの声真似を披露。
和哉は1点獲得で指定仮装のリアルなキツネの着ぐるみ。飛沫も同じマスに止まりニワトリの着ぐるみで新しい踊りを見せつける。
ミリーはまさかの4連続で出目が1。しかも−1点で肩を落とす。
そんな具合にレースは展開されて、5順目が終わったところで点数の途中発表があった。
現時点での点数は、メイフィア10点。レイナ12点。和哉10点。飛沫8点。ミリー7点。暫定トップはレイナだ。
6順目。メイフィアは2点獲得。続くレイナはここでも3点獲得で独走態勢に入る。和哉は2点獲得で隠し芸を披露。
彼が覚醒すると氷霧の虚像が展開される。その中で和哉がくるくる踊ると、虚像は舞い散って幻想的な雰囲気を醸し出す。
「見た目は‥‥涼しい。動き回ってる僕は‥‥暑い‥‥けど、ね」
飛沫は1点獲得で、ミリーは2点獲得。眈々と逆転を狙う。
●ゴールイン
7順目。ここで和哉がゴールして、4人になってのラストスパート。
メイフィアは3点獲得して女王様コスチュームに。ハードレザーのコートとパンツにショートブーツ、ベルトとグローブも装備でレザーウィップを振るった。
「根性、叩き直します」
当然進行役は鼻血。観客席からおかわりコールが沸き起こる中、彼女は次の8順目でゴールを決める。
レイナは1点獲得してボンテージスーツに。連続するセクシー路線におかわりコールが連呼される。さらにサービスとポールダンスまで披露!
「レイナ、ポールダンスを踊ります〜」
ちょっとだけ恥ずかしそうにしてみせる仕草が破壊力大。余韻を残しながらも彼女も8順目でゴールイン。
続いて飛沫。ここに来て−2点を出してしまうも、めげずに隠し芸に挑戦。目隠しして鼻をつまみ、何を食べたかを当てる!
「舌が焼け付くようなこの感じ‥‥さっきの激辛カレーでござるよ!?」
食べ物を粗末にしない素晴らしいスタッフ達だった。飛沫も次の8順でゴールする。
脅威の追い上げを見せるのはミリー。6の目を振って3点獲得で隠し芸。
テーブルとアツアツのおでんが用意され、鍋の前に座るミリー。何故か動けないように椅子に固定されている。
「何から食べますか〜?」
進行役はノリノリだ。
「うーん‥‥大根が良いな」
かかってこい、的な表情のミリー。湯気の立つ鍋から大根を摘み上げると、それをミリーのほっぺたに!
「あつい! 本当に熱いよ!?」
想像以上に熱かったらしい。それを見て、ゴールを決めた他の選手達も協力を申し出てくる。
「拙者も食べさせてあげたいでござる!」
「あら、じゃあ私も」
「私もお手伝いします」
「うん‥‥僕も」
アツアツの卵が、はんぺんが、ちくわが、コンニャクが、ミリーの口に運ばれる。
観客からは惜しみない拍手と笑い声。最後はミリーがおいしく締めてくれたのだった。
ミリーは次も6を振り、その次の9順目でゴールイン。
いよいよ結果発表。果たして優勝は‥‥。
優勝。16点の槇島 レイナ
2位。15点のメイフィア
3位。14点のミリー
4位。12点の霧島 和哉
5位。7点の武弥 飛沫
優勝したレイナには、主催者より『仮面舞蕩(カメンブトウ)』の称号が贈られる。
最後にもう一度、出場選手達に惜しみない拍手が送られて、仮装すごろくレースはその幕を閉じた。