タイトル:【NE】海峡文書マスター:九重陸

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/24 17:27

●オープニング本文


 グリーンランド北西部とエルズミーア島の間を隔てるネアズ海峡に、バグア側が何らかの工作を企てている。
 情報の発信源は、グリーンランド某所にある旧軍事施設を拠点に動いていた偵察部隊からで、仔細な情報も掴んでいたのだが、前線からの長時間に及ぶ通信はバグア側に傍受される恐れがあるので、直接チューレ基地まで情報を持ち帰る事となる。
 マティアスと言う隊員が基地へ向けて即座に出発した。一度陸路で小型の偵察機を隠している場所まで向かい、そこから偵察機を使ってチューレ基地に帰投する予定だった。
 この季節であれば四半日と掛からないはずだが、半日経っても到着しないマティアスに何かあったのかと偵察部隊に連絡を入れたところ‥‥応答が無い。
 すぐにチューレ基地のレーダー管制室に連絡を取り、マティアスが搭乗したと思われる偵察機が9時間前に飛び立った事は確認できた。
 しかし機は基地へ向けて離陸した後、直ぐに逆方向へと飛行を開始していた。レーダーが捉えたもうひとつの機影‥‥小型のヘルメットワームと接触したと思われる。
 マティアスの乗った機はタシーラク方面に向かい、タシーラクからから西北西100キロ程の地点で不時着している。またマティアス機が不時着する少し前に、ヘルメットワームと思われる機影は機首を返して去って行った。
 レーダーの記録に残っていたのはそこまでたった。敵の不可解な行動の意味は‥‥そして何よりもマティアスの安否が気遣われる。

 機が不時着した地点から数百メートルの場所には小さな町があった。戦火に追われて今では無人となった町だが、マティアスが無事であればこの町に向かい、そこで何らかの通信及び移動手段を手に入れようとするはずだ。
 またバグア側も情報奪還の為に追っ手を放つ可能性がある。グリーンランド戦線のバグア軍が、みすみすUPC北方軍に渡すとは思えない。
 さらに無人となったこの町で、以前に狼型のキメラが複数目撃されたと言う報告もあった。
 キメラを配置する何かしらの理由がこの町にはあるのかも知れない。親バグア派の隠れ家として利用されている事なども十分に考えられる‥‥何にしろ状況は予断を許さない。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
エインレフ・アーク(ga2707
25歳・♂・GP
ドリル(gb2538
23歳・♀・DG
鳳由羅(gb4323
22歳・♀・FC
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

●ネアズ・レポート
 ネアズ海峡にバグアの部隊が集結している。大規模な軍事演習の為とされていたが、これは裏で行われている工作活動のカムフラージュだと判明。
 北米大陸との中継地点であるこの海上に移動型拠点を設置し、チューレ基地への牽制と包囲を目的とした工作があり、その敵軍配置と兵器データを我が隊は入手。
 しかしこれはバグア側からの偽情報で、UPC北方軍の戦力を一時的にネアズ海峡へと裂かせ、行動に遅滞を生じさせる事こそが真の目的である。

●秒読み開始
 目的の町から少し離れた郊外、一同は用意した地図の再確認を行っていた。傍らの木陰には目立たないように停められたジーザリオが二台。
 車両は天原大地(gb5927)と、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が持ち込んでくれたもので、マティアスが怪我をしていても速やかに離脱が可能となる。
「マティアスが身を隠せそうな場所に印を付けて置いた」
 地堂球基(ga1094)が地図を指で辿って要所を告げると、鹿島 綾(gb4549)も補足する。
「バツ印を付けた所は袋小路になってるから、移動の際は注意な」
 ここからは町へ先行偵察に向かう班と、マティアス機の不時着地点を確認に行く班とに分かれて行動する事に。
「合流して情報交換するまでは無理は避ける。無線連絡も緊急時のみ、で良いね?」
 ドリル(gb2538)の言葉に全員短く肯いた。シグナルミラーとハンドサインによる連絡方法は打ち合わせ済みだ。
「じゃ、行こうか。ホアキン頼む」
 綾に促されてホアキンは時計を確かめた。他の者達もそれにならう。
「3‥‥2‥‥1、セットだ」
 カウントダウンで全員の時計が合わせられ、班ごとの行動が開始された。

(「状況から推測すると、時間に余裕はないみたいね‥‥」)
 町へと向かう班。鳳由羅(gb4323)の口元には静かな笑みが浮かんではいたが、その目は思案気に現状を分析する。
「目が怖いぜ。気分でも悪いのか?」
 大地に声を掛けられ、振り向いた由羅の目は普段の赤を称えていた。
「大丈夫です。マティアスさんが心配なので急ぎましょう」
「大丈夫なら良いが‥‥こっちにもっと難しい顔してるヤツがいるしな」
 続いて大地はエインレフ・アーク(ga2707)を見遣る。こちらは反応を見せずに考え込んでいた。
「エインレフ?」
 球基に呼ばれてゆっくりと視線を向けるが、表情はまだ少し硬い。
「ん‥‥直感的に何かが引っ掛かっているだけだ。心配無い」
「ホアキン君も言ってましたね‥‥キメラが無人の町でどうやって餌を得ているのかと」
 由羅の言葉にエインレフは再び眉根を寄せた。
「餌か‥‥ハムで無い事だけは確かなのだが」
「当たり前だっつーの。それよりそろそろ到着するぜ」
 裏手ツッコミしてから大地が周囲に注意を払うと、エインレフも双眼鏡を取りだす。球基も隣に立って双眼鏡を手にし、レンズの反射に注意しながら町を覗く。
 視界内に動くものは無かったが、それが返って不気味に感じる。監視カメラなどが設置されている可能性もあるがここからでは確認出来ない。
 4人は慎重に町へと向かう。無人になって数年経つ町並みが近付いてくると、球基が皆を制した。
「これ、足を引きずって歩いたような跡だ‥‥マティアスか?」
「町の中に続いていますね。辿ってみましょうか」
 由羅は目を細めた。罠で無いとは断言出来ないが、引き返す訳にはいかない。足跡は追跡出来る程度に残っていたので物陰に身を隠すようにしながら町へと踏み行った。
 ふう‥‥と、誰からとも無く溜息が漏れる。今は無人とは言え、町中は舗装されている。所々劣化はしていたがさすがに足跡は追えない。
 こうなると目星を付けた場所から探してゆくしかないが、近い順に回るのが効率的なので最初は食料品店だったらしい建物へと。
 店内は荒れ果て、ガラスは割れて壁にも大きなひび割れが見えた。食べれそうなものは残って無く、床に積もった埃の層がここに誰も来てない事を告げている。
 次に向かったのは小さな病院。ここは建物自体が完全に瓦解しており中に入る事は出来なかったが、入口付近の植え込みからいくつかの足跡が発見できた。
「形と大きさからして、狼型キメラの可能性が高い」
 屈み込んで足跡を確認する球基。それを庇える位置に立って周囲を見回す大地。
「町の中心に近くなってきたしな。この辺からがキメラのテリトリーって事か」
 次の場所に移動しようとした時‥‥路地の向こうから獣の唸り声が聞こえてきた。エインレフは素早く植え込みの周りにスブロフを撒いて匂いを誤魔化す。
 姿はまだ確認出来ないが確実に近付いてくる。急いでこの場を離れると、4人は近くにあった建物の陰に身を潜めた。

●不時着現場
「追い詰められて敵地の中か。どうにも罠の匂いしかしないが‥‥」
 双眼鏡を手に小さく呟く綾。不可解な立ち去り方をしたヘルメットワームが気になっていた。
「連絡機周辺に怪しいところは無さそうだね」
「いきなり爆発したりもしないだろう。行くぞ」
 ドリルとホアキンも双眼鏡を覗いていたが、周囲に異常は無いので慎重に不時着機へと進む。
 近付くと機体に損傷が少ない事が解った。両翼に砲撃のかすめた跡は残っていたが、明らかに狙って直撃を外した様に思える。
 この場所まで追い込んで、そして不時着させる事が目的だったとしか考えられない。一体何の為に?
 機内は無人で荷物も残されて無く、ネアズ・レポートと思われるものも無い。不時着の衝撃で痛んでいたので飛ぶ事は出来そうにないが。
「無線機は使えないね、不時着で壊れたのかな。血痕とかも見当たらない」
 ドリルが手早く無線を調べている間に、ホアキンは地面に足跡を発見していた。
「片足を引きずって歩いてるな。出血はないにしても打撲や骨折の可能性が高い」
 足跡は町の方に続く。マティアスが機内より脱出して町に向かったことは確かだろう。
 他に手掛かりが残ってないか探していた綾は、シートの下から書き付けを見付ける。手帳を破いたものに殴り書き‥‥急いで書いたのだろう。

『マティアスよりG・Sへ。近くに町があるのでそこに向かう』

 メモを残したのがマティアス本人なのは疑うまでもない。町が無人なのを知っていたかは不明だが、足跡が示すように彼は町へ向かっている。
「このG・Sって、誰かのイニシャルみたいに書かれてるけど‥‥やっぱりあれだよね」
「ああ。自分の名前はちゃんと書いてるのに、宛先にだけイニシャルを使うのは不自然だ」
 ドリルと綾は肯き合い、出発しようとしているホアキンに並んだ。
「G・S‥‥ガソリンスタンドにいる、もしくはそこにネアズ・レポートを隠す、か」
 ホアキンが呟いたその時、町の方で何かが光る。シグナルミラー‥‥このサインは敵キメラを発見した時のものだ。
「サインを送るだけの余裕はあるようだが、急いで合流するぞ」
「マティアスの事も心配だしね」
「頼むから無事でいてくれよ‥‥」

●救出
 両班が合流したのは小さなビルの3階。先行偵察班の4人はキメラを巧くやり過ごしてここに移動したのだった。
 情報の共有が素早く行われる。現時点で確かなのは、マティアスがガソリンスタンドに向かった事と、そして片足を骨折などして負傷している事。
 ネアズ・レポートはマティアス本人所持か、ガソリンスタンドに隠されている。食料品店と診療所は捜索済みで、キメラのテリトリーは町中心部付近。
 ガソリンスタンドは町の中心近くにあるので、時間が経つ程にマティアスの危険は増すだろう。
「スタンドまでの経路を記した。それから退路用のルートも」
 球基が地図を示す。ここからスタンドまではそう離れてないが、敵に見つからずに移動するのは難しいだろうと付け加える。
「目立たない方が良いですね。先程の班に分かれて救出と退路確保としましょう」
「ちょっと良いか? 情報交換して確信したんだが」
 由羅に言葉に続いて、エインレフが口を開く。
「マティアスがここに追い込まれた理由だ」
 ふむ、と顎先に指を当てホアキンが応じた。
「キメラの食料として、とも考えたが‥‥それだけでは説明が付かない」
「ああ。マティアス救出に来るであろう者達‥‥つまり俺達を誘い込む為の罠とも考えられる」
 綾の言葉に皆が肯いた。マティアスは仕組まれた様に手際よくこの場所に追い込まれた。バグア側からすれば、救出隊が派遣される事は容易に予測がつく。
 町にキメラが配置されている事から、救出には傭兵達が来るであろう事も、だ。つまりバグアは傭兵達に対して何らかの企みがあるのではないか。
「何かの実験の為に俺達は誘い込まれた‥‥と考えられないか?」
 エインレフの一言で小さな沈黙が皆を包む。沈黙を破ったのは大地だった。
「だとしても敵の陰謀に付き合ってやる必要はねぇな」
「それに私達相手に何か企むのなら、潜入が気付かれた時点でマティアスさんは用済みになります」
 由羅も危惧を挙げる。傭兵相手に実験をしたいのなら、恐らく新兵器のテストか何かだろう。その為の囮としてマティアスが選ばれたのだとしたら、バグアは手の込んだ事をしてくれるものだ。
「何にしても大地の言う通り。マティアスとネアズ・レポートを確保してさっさと脱出ね」
 ドリルの言葉に肯く一同。先行偵察の4人がマティアス救出に、不時着機確認の3人が退路確保に向かう。

 4人は最短ルートでガソリンスタンドに移動したが、そこには3匹の狼型キメラが敷地の入口を塞ぐように待ち構えていた。
 隠れて様子を窺うと、給油設備は使えそうに無く車両も見当たらない‥‥マティアスが隠れているとすれば奥側にある事務所の建物だろう。
「自分が囮になる。キメラが移動したらマティアスを確保してくれ」
「一人で大丈夫ですか?」
 心配そうな視線を向けてくる由羅に小さな笑みを見せると、エインレフはキメラ達の前に姿をさらした。
 3匹のキメラが牙を剥いて近付いて来る。エインレフは見通しの利く路地を選んで走りだす‥‥キメラ達もそれを追って地面を蹴った。
 キメラが見えなくなったのを確認して、由羅達は事務所の建物へ駆け込む。
 中に入ると、散らかった床に積もった埃が足跡を見付けさせてくれた。スタッフルームへと続く足跡を追い、そのドアを開ける。
 壁を背にして座り込んでいる男が一人。生きてはいるが衰弱はしているように見える‥‥写真で確認したマティアスだった。
 彼はこちらに気付くと警戒したが、思うように動けないらしくそのままの姿勢で手にした拳銃を握り直す。
「きみがマティアスだね。3時方向に異常は無い」
 球基の意味不明な一言でマティアスは警戒を解いた。出発前に球基が訊いておいた部隊用の符丁‥‥暗号のようなものだ。
「応急手当が済んだら急いで脱出しましょう」
 救急セットを取り出す由羅に、しかしマティアスは短く首を左右に振った。
「私は足手まといになる。これを持って行ってくれ」
 差し出されたのは小型のケースで、この中にネアズ・レポートが収められていた‥‥が、大地が一喝する。
「こんな危険な場所に置いていけるワケねぇだろ!」
 襟首を掴んで大地が詰め寄る。気迫に押されて黙り込むマティアス。
「アンタがいなくなりゃ泣く奴だって居るだろうが! そんな涙なんざ一筋だって流させたくねえんだよ!!」
 項垂れるマティアス。由羅はすでに応急手当を始めていた。
「従った方がいい。彼は君を気絶させてでも連れ帰るだろうから」
 静かに球基が諭す。顔をあげたマティアスの目はもう、死を覚悟した者の目では無かった。

 その頃エインレフは、瞬天速を駆使して追っ手のキメラを翻弄していた。
「もう助け出した頃かな。こちらも離脱させて貰おう‥‥あまり使うのは拙いが、なっ!」
 キメラ達を置き去りにする瞬天速‥‥この超移動に付いてこれたのは、彼自身の影だけだった。
 エインレフがガソリンスタンドに戻り着いたその時、建物からマティアスを伴って3人が出てくる。
 無事を安堵する3人にエインレフは親指を立てて見せ、急いでこの場を離脱した。

「‥‥唸り声? ひとつやふたつじゃないよ」
 ドリルが警戒を発した。退路確保の為に大通りの建物に身を潜めていた3人は、即座に覚醒して武器を手にする。
「囲まれてる? あ、大地達が見えたよ‥‥マティアスも一緒だ」
 綾の言葉が終わらないうちにホアキンは駆け出していた。左手に長剣、右手にはエネルギー銃が。
「彼等の脱出を援護する」
 ホアキンに気付いた救助班4人はマティアスを庇う位置取りに。足を折っているマティアスには大地が肩を貸している。
 皆が合流した刹那、塀を飛び越え狼型キメラが5匹飛び掛かって来た‥‥が、ドリルと綾の真デヴァステイターの銃口が吼えてそれを撃ち落とす。
 さらに左右の路地から5匹ずつ、奥の路地からも5匹‥‥数は多いがボスと思われる大型のものはいない。
 ホアキンがしんがりを務め、左右をドリルと綾がカバー。その内側に球基、エインレフ、由羅の3人が、マティアスに肩を貸して移動する大地を庇う様な隊列が組まれた。
 キメラの半数は近付く事さえ出来ずに撃ち抜かれてゆくが、それでも数匹は銃弾をかいくぐり追いすがって来た。
「これ以上近付けさせません‥‥排除します」
 円閃‥‥由羅の身体がつむじを描いて回り、飛び込んで来たキメラをツインブレイドの刃が袈裟斬りに撫でた。そして一瞬後に逆袈裟と裂き、刺突で仕留める。
 別の一匹の牙はエインレフのバックラーで受け流された。そこに球基の超機械が電磁波を見舞い、隙だらけのキメラを大地が瞬断する。
「肩を貸してるのに器用に戦うのだね」
 感心したように球基が言う。事実彼の体力は大したもので、ここまで肩を貸してるのに息一つ上がってない。
 町の出口が見え始めた頃、キメラ達の動きが急に悪くなる。後方に回ったキメラ全てを一人で相手取っていたホアキンはいち早くそれに気付いた。
「キメラのテリトリーが町中心付近だと訊いて想像はしていたが‥‥」
 左右から同時に迫る2匹のキメラを難なくいなす。手練れの傭兵であるホアキンに、この程度のキメラは物の数では無い。
「中央にいるボスから離れると性能が下がるのか。俺達で実験したいならばボスが来るべきだったな」
 一同は町からの離脱に成功する。キメラは町の外まで追ってこなかったので、急いでジーザリオを隠した場所まで向かった。

 迎えの高速輸送機が見えた頃、マティアスは耐えてきた骨折の痛みと疲労から気を失っていた。
 ネアズ・レポートがチューレ基地に届けられればまた彼も忙しくなるだろうが、彼と情報を無事護れた事を今は誇ろう。
 バグアの真の目的が何だったにせよ、何もさせなかった手際は見事だった。任務は成功したのだ。