タイトル:【Gr】嘆きの歌声を撃てマスター:紀藤トキ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/30 01:35

●オープニング本文


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「欧州の状況は諸君らも理解していると思う。イベリア半島の戦線は戦略的後退を達成しつつあり、上空は広範囲にわたって敵味方入り乱れた混戦模様だ」
 禿頭の将軍は居並ぶ正規軍パイロットと傭兵に向けて、そう語りだした。この方面での空中部隊は、大規模作戦の前哨戦に於いて敗北を繰り返している。その記録は地図上のマーカーが示していた。
「だが、悪い情報ばかりではない。暗黒大陸から北上してきた敵の目は現在、概ね東方へ向いており、それは噂の新型も例外ではないようだな」
 敵にしてみれば、イベリアはほぼ制圧できたと思っているのだろう。実際に戦域地図上では半島は赤いバグアの勢力下に収まっているように見える。
「実際の戦争はチェス盤の上でのようにはいかん。こちらの後退で一気に広がった地域に対して、敵の戦力展開は明らかに間に合っていない」
 従前のように南方、グラナダ周辺に篭っていた時よりも敵の密度はむしろ薄くなっている、と少将は言う。それは、PN作戦の発令により大規模な戦闘が繰り返され、敵も疲弊していることの表れでもあろう。
「この機を、私は逃すべきではないと判断した。傭兵諸君には、この隙に長躯グラナダを奇襲して欲しい」
 元マドリード駐留の飛行隊は全機が傭兵たちの陽動に回るという。乾坤一擲の奇襲作戦だった。陽動目的ではなくとも大規模作戦での大空中戦はこちらの目的をごまかすのには好都合だ。

「グラナダで諸君に攻撃して欲しい物のデータは私から説明しよう」
 少将の脇にいた白衣の女がそう口を開く。イベリア半島の戦域地図を写していたスクリーンがさっと10代の少女のものに切り替わった。それがUPC軍内の知る人ぞ知るアイドル、ミク・プロイセンと気付いた者が、思わずどよめきを漏らす。
「先の任務で回収してもらった偵察機のブラックボックスから得られたデータには奇妙なものが含まれていた」
 それが、この少女の歌声だという。黒髪の女のチームは、それが昨年に北海道で阻止された音波洗脳兵器と同じものだと突き止めたらしい。ただし、完成度はそのときとは段違いのようだ。
「音波兵器と便宜上言うが、それ以上のものだ。現在の我々の科学技術で対抗策は無い。あるいは音波ではなく重力振動なのやもしれんな。‥‥ただ、この記録された音波そのものからは洗脳効果は発揮されない」
 変調機のような物が必要になるはずだ、と彼女は言う。おそらくは、グラナダ近郊の要塞作業場で確認されたアリ型ワームがその役を担っているのだろう、とも。
「つまり、グラナダに存在するはずの音波発生源を叩けば、要塞の作業場の人々は洗脳から解放されるだろう、というのが我々の分析だ」
 それがどのような結果をもたらすかは予測不能だという。解放された人々がワームに一斉処理される可能性も考慮されている。だが、危険性を踏まえてもなお、この作戦で得られる敵要塞建設の遅延は有効だ、と参謀部は分析した。
「データを分析した結果、音波発生源は、2ないし3。グラナダのやや北側に存在するようだ」
 地上にあるか、空中にあるかは定かではない。地上施設の場合、対地攻撃用のフレア弾の装備が必要になるだろう。奇襲とはいえ、敵地の真っ只中だ。降下して白兵で破壊する余裕はないと考えたほうが良い。

「グラナダ周辺に予想される戦力は、哨戒のヘルメットワーム部隊が前回の倍で6つ、そしてグラナダ自体では強化された中型ヘルメットワームが上空警戒にあたっているようだ」
 再び少将が口を開く。哨戒部隊は以前にも交戦した物と同じ編成だ。グラナダ上空の部隊は小回り重視の4機1組でそれが複数、散開警備にあたっている。無論、敵の数は増援によってはこれよりも増加するだろう。
「キューブワームについては確認できていない。が、戦力拠点である以上、配置はされているだろうと予測する。ファームライドについては全く不明、だ」
 ただでさえ神出鬼没な敵だ。どこにいてもおかしくない。もちろん、分身できるわけではないゆえ、他所で暴れているときを選ぶことが出来れば、直面する危険は減るだろう。
「傭兵諸君には、私のつてで準備できるあらゆる支援を行おう。非常に困難な作戦であるのは言うまでも無い。が、諸君と再び戦勝の杯を掲げられる事を私は信じている」
 少将はそう、重々しく告げた。

●参加者一覧

エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
増田 大五郎(ga6752
25歳・♂・FT

●リプレイ本文

●前哨戦
 低空を這うように進む機内で、アルヴァイム(ga5051)は眉間に微かな皺を寄せた。大規模戦闘で幾度と無く感じた、頭痛に似た不快感。
「見つかりましたか‥‥ふむ」
 予想よりも早くも無く、遅くもない。事前に空軍の少将から聞きだしていた敵軍の配置予測は概ね正しかったらしい。機首を引き上げ、高度をあげる彼のディスタンに、目の醒めるような青の機影が2機追随した。直線編隊を取る彼らは、さながら天を射る矢の如く。
「皆で無事に戻ってくるためにも‥‥張り切っていきますよ!」
 ソード(ga6675)の導き通り、彼の愛機『フレイア』は死の銃弾を送る。一撃でその輝きを失ったキューブに目を留めず、彼は周囲の気配へ注意を向けていた。敵の警戒線に達したという事は、すぐに迎撃が現われるはずだ。報告にあった中型ワームの小隊か、あるいはあの緋色の悪魔か。
「僕の、『ジブリールII』‥‥今度も、よろしく、ね」
 愛機にそう呟きかけたラシード・アル・ラハル(ga6190)もまた、会敵直後でキューブワームを屠っていた。移動力に特化した彼の機体は、ソードのフレイアほどの打撃力はない。とはいえ、キューブ如きであればその差は問題にならなかった。しかし、警戒線上にはまだ、キューブワームが距離を置いて浮遊しているのが見える。
「左、中型ワーム編隊を視認‥‥」
 アルヴァイムの鋭い声は、密な直線編隊を組んだ僚機にしか届くまい。高度を上げた3機の作る矢を押し包むように、ワームが迎撃シフトを組む。瞬間、矢状編隊の先端にあたるアルヴァイム機がプロトン砲の交差射撃に晒された。キューブワームの執拗な思考妨害を受けていなければ回避もできたやもしれぬが、現状ではそうもいかない。赤い光線はアルヴァイム機をしっかりと捉えていた。


 彼らの交戦開始よりも時を遡り、作戦はリスボンへの通常機部隊の移動によって端を発していた。傭兵達はリスボン沖に展開した英空母からの出撃を依頼したのだが、元々は傭兵達12機の利用を企図して回された小空母だ。120機もの大部隊を受け入れる余裕はない。ラファール改の航続距離も勘案して、軍は部隊をよりグラナダに近い場所へと前進させた。
「リスボン空港は、敵の反撃を受ける可能性もある。直援を3編隊残し、陽動に回すのは9隊という事になるな」
 地図上では、少将の声と共にリスボンからの部隊を示すマーカーが散開しつつグラナダを目指すように移動をはじめる。だが、これは明らかに陽動だった。敵にも分かるだろうが、座視するわけにもいくまい。ここで、敵の哨戒部隊の4、できれば5編隊をひきつける。これが作戦の第一段階だ。
「続いて、KV隊が東から回り込む。こちらは君達の提案どおり、3編隊で行おう」
 レオンからのKV隊が迂回しつつ、グラナダ東部の要塞地帯へ向かうような軌道を取った。うち2隊は敵機と交戦を行い、最後の1隊は強行偵察を試みるフリをする。その事で、敵に本命視させようというのが傭兵達の意図だった。
「まあ複雑にしても手が回らなくなるし、こんぐらいの方が敵の裏もかけそうだよな」
 ザン・エフティング(ga5141)の声に、少将は重々しく頷く。
「こちらへの対処は、残りの哨戒ワーム編隊では足りるまい。グラナダの直衛もある程度は引き出せる、と期待する」
 その代償として、強行偵察役のKV隊は相応の損害を受けるだろう。帰還できる保障など、ない。
「危険は、あると思う‥‥無理は、しないで。もう‥‥誰の命も、消えて欲しくない‥‥」
 ラシードの言葉に、僅かな微笑みと鮮やかな敬礼を返して、陽動要員は会議室を後にする。
「限界線上の舞台に感謝を。但し、杯に入る血の多さはお覚悟を」
 静かな口調でそう告げるアルヴァイムの視線を、少将は正面から見つめ返した。
「貴君らには流れる血に恥じぬ戦果を期待する。‥‥私の部下に犬死だけはさせてくれるなよ」
 無茶な作戦である事は、この戦線に数度関わってきた霞澄 セラフィエル(ga0495)にも分かっている。それでも、各自がベストを尽くせば、結果はついてくるはずだ。だから、彼女はふんわりと微笑んで、こう言った。
「‥‥帰って来たら皆で打ち上げをしましょうね」

●グラナダを目指して
 場所は敵地。ほぼ完璧な無線封鎖下において、フランス空軍の陽動の効果はおろか、先発の3機の様子を知る術さえない。グラナダに近接し、目標への攻撃にはいる頃には無線の信頼性は相当に低くなっているだろう。それを見越して、南部 祐希(ga4390)は仲間達にバンクによる簡単な合図を徹底していた。空中戦の最中でなければ、目標施設の発見、敵の発見辺りはそれでなんとか伝わるはずだ。
「‥‥妨害が、少し軽くなったんじゃないか?」
 ザンの雑音交じりの声は、8機の仲間に緊張を走らせる。先発機が戦端を開いた事が、間接的に伝わってきたのだ。
「外敵なんてない‥‥。戦う相手は常に、自分自身のイメージ‥‥。落ち着けよ、希明‥‥」
 戦いを前にして、伊佐美 希明(ga0214)は自分に言い聞かせるように呟く。空と地上の違いこそあれ、ここは迷いを抱いたのと同じイベリア半島だった。希明は覚醒により醜く歪んだ左貌と歳相応の幼さの残る右貌を共に正面へ向け、静かに意識を研ぎ澄ます。そんな彼女を気遣いつつも、エミール・ゲイジ(ga0181)は声をかけない。言葉をかけない事が優しさに繋がる事もあるから。
「ここは1つ、英国紳士のエスコートに期待させて貰うんだよー」
 早めに増槽を切り離しつつ、爆装した獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)が自機をやや後方、希明と同位置に下げる。爆撃第1班はエミールを先頭のV字編隊だった。
「ドロップタンク投下‥‥これからが正念場ですね」
 霞澄機、そして増田 大五郎(ga6752)も続くように増槽を捨てる。第3班は大五郎と霞澄を前に、爆撃役の祐希が後方の逆V字編隊を取っていた。交戦しつつ敵中へ切り込む事になるだろう今回の作戦では、速度を重視した自分達の班の役割は大きい、と大五郎は理解している。生産機数からすれば貴重なK−111を駆りながらも、彼はいざとなったら機を失う覚悟も固めていた。
「エミール、ザン、全機そろって凱旋するわよっ」
 シャロン・エイヴァリー(ga1843)はあえて明るい掛け声で気を引き立たせる。機内でサムアップサインを掲げた彼女に、応、と馴染みの声が返った。彼女の属する第2班も爆撃担当の三島玲奈(ga3848)を後ろに置いた逆V編隊である。
「蟻だけにいわゆる一つのジャイアントな陰謀を潰すねんな?」
 玲奈も仲間の気をほぐそうと冗談を飛ばした。贔屓の球団の敵にあたる選手の口調を敢えて使った彼女の洒落っ気は、残念ながら世界的な理解を得られるほどではなかったようだ。
「‥‥って所でキューブ発見、やね」
 ジョークを飛ばす間も、目視に注力していた彼女が声をあげる。この距離であれば敵からも発見されたと見て間違いないだろう。そして、その下に見える奇怪な影。
「おし。一つ目発見。‥‥行くか!」
 エミール機が翼を振って左へと機首を転じる。僚機も一糸乱れぬ動きで追随した。行きがけの駄賃、とばかりに目に付いたキューブを撃墜しつつ、残り2班は、真っ直ぐの最短コースで南を目指す。


「‥‥こんなものですか」
 緑の中に幾ばくかの黄色のアラートランプが混ざる計器を前に、アルヴァイムは微かに笑う。中型ワームの交差射撃を受けてなお、彼の機体は問題になる程の損傷を被ってはいなかった。
「‥‥邪魔」
 ラシードの声が、青白く輝くキューブを貫く。予想外のディスタンの頑健さに敵が動揺し、別の手立てを講じるまでの貴重な時間をラシードとソードは存分に活用していた。青き女神と大天使の周囲のキューブは既にいない。敵機が手強いアルヴァイム機を避けて後ろに向かうが、妨害の減じた状況では青の2機を火網に捉えるのも容易ではなかった。
「そりゃあ無理はしませんけど、ね」
 無抵抗で撃たれるつもりもない、と笑うソードの迎撃にあった1機が、衝撃にぐらつく。数でこそ負けていたが、先発隊の3機は正面切っての撃ち合いとあれば中型ワームとも遜色ない戦いができそうだった。少なくとも、しばらくの間は。

●サイレンの叫び
 真っ先に目標を確認したのは第1班の3機だった。キューブワームが猛烈に妨害をしかけてくる直下に、確かに奇妙な建造物がある。細い軸の先に、大きな釣鐘型のカサのついたキノコのような物体だ。
「悪趣味っていうかなんていうか」
 そんな感想を漏らしつつ、エミールは警戒を怠らない。ファームライドの襲撃はどこから来るか読めないのだから。
「あれになら、この距離からでも‥‥中てる!!」
 キノコの直上のキューブが遠間からの希明の一撃で吹き飛んだ。思い出したように対空砲火があがってくるが、爆撃の脅威になるような代物ではない。
「このワンアプローチで決める! 貴重な時間を稼ぎだしてくれた友軍の為にも!」
 場所はスペイン、そして己の身体に流れる血の半ばはドイツ。急降下爆撃を初めて実用化した場所と祖国と。出来すぎともいえる取り合わせに心を躍らせながらも、獄門は冷静に目標を見据えていた。進路を塞ぐ敵は無く、ターゲットは大きい。
「ジェリコのラッパを聞きたまェー! シュトゥーカ!!」
 先達に捧ぐ雄たけびと共に、獄門機はフレア弾を放つ。至近に着弾すれば十分な広域破壊用の爆弾は、見事にカサの根に直撃した。機首を引き起こしながら、獄門は合図の照明弾を上げる。

 先発隊からも視認することが出来た。ワームの動きが明らかに乱れる。
「ごめん、先に‥‥引き上げる、ね」
 ダメージが蓄積していたラシードが敵の隙を見て離脱した。ソード機、アルヴァイム機も相当に損傷が目立つようになっている。
「まだ行けますかね?」
 僚機へと問うようなアルヴァイムの呟き。
「俺はまだもう少し、いけそうですね。せっかくですから付き合ってもらいましょうか!」
 離脱の動きを見せた敵機を牽制するように攻撃を加えて、ソードが笑う。彼らが身を挺して稼いだ時間のお陰で、この敵は爆撃部隊の阻害にはとうとう間に合わなかった。

 ほぼ無傷で任務を終えた第1班ほど、他班は幸運では無かった。目標を発見、キューブ処理にかかった直後に、東から姿を現わした中型ワーム隊の邀撃にあっていたのだ。第2班は、辛うじて追いついてきた敵の攻撃を側面から受ける形になった。
「そう簡単には、食いつかせないわ。タイミング、合わせるわよっ」
 爆撃アプローチへ入る玲奈機をカバーするべく、シャロンがワームへ攻撃をしかける。その火線に晒されつつ、ワームが低空へ遷移した玲奈に追いすがり‥‥、その正面をザンのディスタンが塞いでいた。
「ここは俺たちが請け負ったんでな。通りたければ俺に倒されてから行きな!」
 ライフルの迎撃に、回り込むタイミングを失したワームがプロトン砲を連射する。ザン機ごと巻き込む怪光線の斉射は、玲奈のバイパーにも少なからぬ損傷を与えた。だが、その翼はまだ力を失わず、前へ。
「これは酷いジャイアント‥‥」
 オバケキノコを目の当たりにして、玲奈は爆撃用の照準をあわせながら思わず口走る。ターゲット、捕捉。玲奈の口を、勝利の笑みが彩った。
「人類数百万年のカルチャーを舐めるな!」
 彼女が気合と共に放ったフレア弾は見事に着弾。閃光を確認してから、ザンが照明弾を打ち上げる。これで合図は2つめだ。
「『蟻』がとう御座いました。お帰りはこちら‥‥!」
 中型ワームへとそう言い放ちながら、玲奈は高度を上げる。シャロン、ザンも残る燃料をブースト機構へと放り込んだ。その背後で、倒れたオバケキノコが騒々しい共鳴現象を伴って崩壊する。
「‥‥でっかい鐘、か」
「その呼び名には異議を唱えたいわね」

●敵の足掻きと
 撤収する第2班を追うのを諦めたワームは、更にグラナダ方面へと切り込む第3班の追撃へと機首を転じた。高速で移動する3班の各機へ追いつくのは困難だろうが、爆撃の瞬間には速度を落とさざるを得ない。そして、最奥の攻撃目標の周囲には、無傷のキューブ編隊の姿があった。攻撃力は皆無に等しいとはいえ、物理的に爆撃コースを塞がれるのは厄介だ。
「進路を‥‥空けてもらいましょうか」
 祐希のスナイパーライフルが、次いで大五郎のロケットと霞澄のミサイルがキューブを砕く。進路手前の敵はこれで沈黙した。
「爆撃コースそのままで御願いします、何とか持たせますから」
 霞澄機が機首を転じる。次いで、大五郎機もワームの迎撃に向かった。だが、4機と2機では明らかに分が悪い。対空迎撃の様子を見た祐希は、ロケット弾の引き金から手を外した。奥に残るキューブや対空砲を潰してから爆撃に掛かる時間の余裕はないし、この程度の砲火なら彼女のディアブロを落とせはしない。高度、低下。最終アプローチ。淡々と手順をこなす間にも、背後の殺気は膨れ上がる。
「落せないまでも時間稼ぎくらいは‥‥!」
 近づいてくる敵機をG放電装置で迎撃していた霞澄のアンジェリカが、不向きな格闘戦に持ち込まれていた。ワームの先端部分が、まるで甲殻昆虫の大顎の如く開き、アンジェリカの右前部を切り裂く。激しく突っかかってくるワームを無視して残り3機の行動を阻害するのは困難だった。
「ここは任せて先へ行ってください!!」
 大五郎がその前に躍り出る。
「一回限りの大技だが、これでようやく最新機に並べるかどうかなんだよなぁ!!」
 限界まで燃料を注ぎ込まれたK−111が轟音と共にワームへと挑みかかった。霞澄機の場合とは逆に、格闘戦に引きずり込まれる側になったワームが1機、追撃から脱落する。
「改にしたけど相変わらずだ!!」
 不利な交戦にも関わらず、それでも大五郎機は辛うじて生き残っていた。
「くっ」
 投弾態勢に入った祐希機を、深紅の光条が撃ち貫いた。プロトン砲、だがまだ。冷静に目標を見据える祐希の視界が、揺れる。
「体当たり‥‥!?」
 フォースフィールドを纏ったまま、ヘルメットワームが斜め後ろから突っ込んできていた。衝撃で照準がずれる、しかし。瞬時の迷いの後、祐希は引き金を引いた。しくじったとしても、2度めのアプローチは不可能だった。戦果を見ぬままに、爆撃完了を意味する照明弾を打ち上げる。
「‥‥離脱を」
 温存していたブーストを使って引き上げる各機を、バグアは追撃する様子は見せなかった。


「よくやってくれた。目標の2つは完全破壊。観測された音紋データからするに、残る1つにも損傷を与えたと思われる」
 そう言って一行を出迎えた少将の表情は、常よりも険しかった。成功の代償は、指揮下のKV隊の半数を失うという大きな物だったのだ。陽動にあたっていた通常戦闘機の被害こそ軽微だったが、彼の部隊はしばらく動きを制限される事になるだろう。