タイトル:【BD】七つ首の大蛇マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/06 22:00

●オープニング本文


「白瀬、状況を報告して。‥‥動けないのは、じれったいわね」
 いまだ機関部の応急手当中のブリュンヒルデ艦橋から、マウルは南の空を見る。これまでの間、奇妙な沈黙を守ってきたエクアドル軍が繰り出してきた戦力は、決して多くは無い。多くは無いのだが、全体的に強力な部隊だった。
「迎撃に出た北中央軍の空母『J・P・H』の艦載機が迎撃に出て、3割の喪失で後退しているの」
「‥‥COPフェニックスと、スピリットゴーストの最新鋭隊じゃない。ヘルメットワーム相手なら余裕で相手できる筈よ」
 続々投入される新鋭KVの前に、いわば『旧式』と化していたはずのヘルメットワームを舐めて掛かった先鋒部隊が遭遇したのは、これまでの資料にあるものよりも一回り、いや二回りは強力な敵だった。出てきた有人機は、指揮機らしい一機のみだという。
「ただ、それ以外に変なヘルメットワームが1機いたらしいの」
 コンソールから顔を上げた留美に、マウルは怪訝そうな目を向けた。解析についてはずばぬけた能力を持つこの少女が『変な』などというのだから、今までに例の無い機体なのだろう。
「‥‥7つ首が生えてるの」
 彼女のディスプレイの前に呼び出されているのは、一昔前、いや二昔は前の映画の映像だ。アルゴー探検隊の果たした使命の、終盤に立ちはだかったその怪物の名は。
「ヒュドラ、ね‥‥」
 こく、と頷く留美。満足したのか、再びコンソールに向かい、映像データを呼び出し始めた。後方に控えたSゴーストの支援砲撃を受けつつ飛び回るフェニックスの一機に四角いカーソルが当たり、数値が並ぶ。
「Sゴーストの攻撃に比べて、フェニックスの攻撃が効いてないの。多分、これが何かしてると思うの」
 命中の角度や位置などの差を考慮しても尚、ありえない位の差が出ているようだ。正確に言えば、フェニックス隊の攻撃が本来あるべき威力を半分ほどしか発揮していない。不思議なのは、同じSゴーストの攻撃でも通っている物と、威力が低下している物が存在する事だ。残念ながら、偵察機が随伴していなかった為、得られた情報は分析を可能とするほど詳細ではなかった。
「できれば、情報収集に出て欲しいって要請が来てるの」
 マウルは難しい顔をする。ブリュンヒルデの艦載部隊は、精鋭だ。そういった要請が来るのは不思議ではない。だが、第一フェイズからの戦闘で受けたダメージは決して少なくない。情報の有用性も理解できるだけに、マウルはしばし悩んだ。

「‥‥で、一度後退した敵は、またこっちに出てきてるのね?」
 勢力圏の際をうろついているのを見ても、威力偵察ではない。示威行動か、あるいは実戦テストのいずれかだろう。ふ、と息を吐いてから彼女は意味も無く片腕をぐるぐると回し、頬をぴしゃりと叩いた。
「いいわ、傭兵に声を掛けて。動けない艦のキャプテンシートに居てもできる事は余りないし、私が出ます。置いていかれた機体のテストもしたいし」
「アナートリィ中尉は」
「疲れてるだろうから、やすませてあげて」
 いいおいて、艦長席からマウルは立ち上がる。KVに乗るのは久しぶりだ。格納庫に置いてある『ワイズマン』は戦闘には不向きな機体だが、官給品にけちをつけても仕方がない。納品に来たドロームの技術者が、何とも言えない顔で言った台詞が思い出される。
『今度は、せめて実戦で壊してくださいね』
 フェニックスの空中変形機構の実用テスト中に、変形と同時に着陸を掛けようとして失敗、大破させたマウルの前科は、結構有名らしい。実際、あれはまずかったと自分でも思ってはいた。思っているだけに、何度も言われるとそれなりに腹が立つ。
「たまにはKVにも乗らないと、なまっちゃうわよ」
 ――艦長になる前は、この艦のKV隊長のアナートリィ中尉よりもマウルの方が上だったのだ。本当なら、本来の自機のフェニックスDで出撃して暴れたいところだが、立場やら情報収集の必要性やら何やかやを考えれば、ワイズマンの方が向いているのは仕方がない。
(‥‥傭兵が偵察機持って来てくれれば、考えようもあるかもしれないけど)
 などという内心はおくびにも出さず、マウルは格納庫へと歩いていった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
白蓮(gb8102
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

●出撃準備
 格納庫に降りてきたマウルの表情が、見て判るほどにパァッと明るくなった。
「ワイズマンがもう一機‥‥。誰のか知らないけど傭兵のよね? という事は」
 今回の編成で、管制機が2機は必要ない。という事は大手を振ってフェニックスで出ることが出来る。艦長に不満がある訳ではないが、たまには難しいことを考えずに動きたい事もあるのだ。鼻歌交じりに自機へ3歩歩き出してから、マウルはそんな自分を微笑ましげに見ている傭兵達にようやく気がついた。
「‥‥! べ、別に私はどっちでもいいんだけど、仕方が無いからフェニックスで出るわよ」
 誰も聞いていないのに、そう宣言して胸を張る。仕草や表情は子供っぽいだけに、強調されるバストがやや目の毒だ。
「くっ‥‥、胸なんて飾りよ。男どもにはそれが分からないのよ。くっ‥‥」
 ワイズマンを用意してきたファルル・キーリア(ga4815)が、敗者‥‥いや、闘う事すら出来なかった負け犬の風情で視線を床に落とした。最近は諦め気味の白蓮(gb8102)が向ける同情の視線が胸に痛い。
「よ。今回は宜しくな、可愛い少佐サン?」
「ちょっと、格納庫は禁煙よ、傭兵!」
 タバコを咥えかけたヤナギ・エリューナク(gb5107)へ、マウルは眉をしかめて注意する。双方立派な成人なのだが、クラスの不良と学級委員にしか見えなかった。
「おっと、失敬‥‥」
 きゅきゅ、と素直に火を消すヤナギに頷いてから、マウルはゆっくりと今回のメンバーに目を動かしていく。
「‥‥ま、また随分と豪華なメンバーね‥‥」
「私が敵なら、ブースト全開で地球の‥‥いえ、宇宙の果てまで逃げ出したくなるような顔触れですな」
 さらっと言う飯島 修司(ga7951)自身も含めて、歴戦の傭兵の中でもなお名の知れた者が幾人もいる。敵の新型の調査任務は、実際に干戈を交えるであろう傭兵達にとってこそ、重要という思いの表れだろう。‥‥自分が危なっかしいから集まった、などという思考は脳裏の端に少し浮かんだ時点で抹殺した。
「‥‥そう言えば、少佐はここしばらく司令部や艦長勤めが主だったと思うが、操縦のブランクはどの程度だ?」
 白鐘剣一郎(ga0184)の問いに、実戦から離れて半年、シミュレーターは欠かしていない、と答えていたマウルの横へ、月神陽子(ga5549)が並ぶ。くるっと振り向いた彼女の表情は、『人類の守護者モード』であった。
「皆さん。あのヒュドラはCW以来の厄介な能力を持つ敵です。無策で戦えばこの先の戦いで人類は大変な被害を受ける事でしょう」
 こういう時の黒髪の少女は、見慣れた者でも目を奪われるほどに凛々しい。
「『首七つ』とか‥‥さすが宇宙人☆センス判らンわー♪」
「新しくたって自分達が丸裸にしてやりますよっ」
 けらけらと笑う聖・真琴(ga1622)も、拳を握る白蓮も、新型の厄介さは十分に承知しているのだろう。目は笑っていなかった。陽子は頷いて言葉を続ける。
「幾千幾万の戦友達の為にも情報は必ず持ち帰らなくてはいけません。‥‥マウルさん、他に何か?」
「‥‥いえ、私からは特に何も無いわ」
 用意していた内容が全部言われ、言うべき事が思いつかない‥‥という事実は恥ずかしいので口には出さなかった。
「せっかくの機会ですし、汚名返上、名誉挽回と行きましょう、少佐?」
「それじゃ、マウル少佐のお手並みをこの機体でつぶさに観察させてもらうわね」
 元気付けるように、如月・由梨(ga1805)が言う横で、ファルルが拗ねたように口を尖らせる。コンプレックスの胸が絡むと小隊長の怜悧さよりも乙女の意地が前に出るらしかった。

●未知とのヘッドオン
「なんか、アレを見ると調べるまでも無い気がしてきたわ‥‥」
 ファルルが苦笑する。敵の編隊は、ここが空中である事を忘れたかのような密集隊形を保持していた。七つ首の中型『ヒュドラ』の前面に2機、やや下がった位置に4機。指揮機らしい本星型は、ヒュドラのすぐ脇に滞空している。隊列の端から端まででも300m無い程の過密な編隊飛行は、慣性制御の賜物だろう。
「『示威行動か、あるいは実戦テストのいずれか』‥‥でしたか。あちらもデータ取りが目的なのでしょうかね」
 首を傾げつつも、修司機らフロントは敵へ近づいていく。真琴のパンテオンや陽子、ヤナギと修司のK−02等の有効射程まであと少し、という所で後方の小型機がプロトン砲を斉射した。
「おわ!?」
 ヤナギがとっさに機首を返し、回避する。しかし続く第二射がその位置を予想したように伸びてきていた。
「うぬぬっ、敵ながらやりますねっ!」
「先手‥‥取られたか。じゃあ仕返しだ♪」
 白蓮の台詞に、真琴が応じて引き金を引く。ほぼ同時に陽子と修司がK−02を発射、
「行くゼ、スティングレイ‥‥!」
 後方HWまでを多弾頭ミサイルの範囲に捉えようと、被弾を押してヤナギは前へ出た。
「距離は取りたいが‥‥この配置ではな!」
 本星を抑える為に、剣一郎も前へ。ラックを空にした修司もフロントへ回る。
「‥‥? 何か、光った?」
 ヒュドラの周囲が、薄い輝きに覆われたような気がした。光線、ではない。何か力場のような物を展開している。と同時に、前衛各機から報告が始まった。
「やはり、思った通りですか‥‥ファルルさんデータを送ります」
 ――SES出力低下。機体本体の機動には影響はないが、兵装関係はのきなみパワーダウンを告げている。既に発射されたミサイルが白煙を引きながら敵へ向かい、前衛にいた敵機がそれを迎撃した。収束されていない真紅の光条はその何割かを着弾前に破壊する。その迎撃を掻い潜ったミサイルが敵機へ命中。次々と紅蓮の華を咲かせていった。
「お仕事終わりっと。護衛に戻るから、後はよろしく♪」
 着弾を見届けてから、真琴は見事なターンで後方のファルル機へ向かう。効果の解析は、
「重要なのは距離か、角度か、首か、武装なのか‥‥。何でもいいから試してみて」
 データの奔流を受け止めつつ、ファルルが言う。ブリュンヒルデへもデータを中継してはいるが、反射的な処理能力であれば一般人の留美よりもエミタを所持するファルルの方が速い。
「私のG放電装置は、効いていますか?」
 首を傾げつつ言った由梨へ、ファルルから分析データが返って来る。初手、最大距離で撃ち込んだ物はダメージを与えていたが、接近して放った二発目は明らかに減衰していた。していたが、十分ダメージは通っている。その他、ギリギリで打ち込んだ陽子と修司のK−02と、踏み込んだヤナギ機のそれの比較などのデータから導きだされるものは。
「効果範囲は、『ヒュドラ』から半径500、であってるかしら?」
『こちらで照合しても同じ、ポジティブなの。どうも攻撃の物理、非物理は問わないみたいなの』
 ワイズマンの通信ラインはクリアで、電子の要塞に篭った留美の返答にキーを叩く音まで聞こえてきた。カタカタと言う響きを背景に、『ヒュドラ』の特性が一つ裸にされていく。

●大乱戦
 無論、敵とて黙って見てはいない。
「ええと、首の向きはっ」
 言った白蓮が、小型の砲撃の巻き添えを喰った。敵が密集しているという事は、味方のアプローチラインも限られるのだ。側面より割り込む事を最初から考えていた由梨以外、多かれ少なかれ交戦各機は反撃を受けていた。回避に秀でた機体も多いが、接近中に飽和射撃を掛けられては回避しきれはしない。
「案外、やりますね」
「小型の癖に、確かに手ごわいわね!」
 修司の独り言に、マウルがそう応じる。甘く見た、訳ではない。だが、後衛の小型4機が撃ち出してきたプロトン砲の威力は、これまで見慣れていたHWの物とは一線を画している様に思えた。一撃や二撃で機体の動きに問題は出ないだろうが、このまま敵の距離で撃ち合っていては不利だ。かといって間を詰めれば敵の思う壺だろう。
 ――並みのKVであれば。バグアにとって不幸な事に、たとえ攻撃力が半減しようがハンデ戦にもならない怪物が、この空域には4機もいる。減衰前の陽子と修司の攻撃を受けた『ヒュドラ』は、既に首の2つがへし折れて嫌な黒色の煙を吐き出していた。このまま実験されていては早晩落ちるかもしれない。
「こうなるかもしれない、と少しは危惧しましたが」
 まさか本当になるとは、と修司が苦笑する。彼とマウルの担当は小型ワームだが、前に出ていた2機は対空仕様らしかった。初手で手痛く撃ち込まれていた筈だが、まだ飛んでいる。
「援護するから、突っ込みなさい」
 マウルが敵機に牽制弾を撃つ。詰めた間合いから放ったエニセイが、横を向いたワームに刺さった。1発、次いで2発目でようやく落ちる。
「まずは1機‥‥」

 首を二つ破壊されたヒュドラの、残る首がうねうねと動く。
「首‥‥アレの向きとか関係あンのか‥‥な?」
 そのうち1つが自分の方を向いている気がして、真琴は自機を横に振った。刹那、その口から砲弾が吐き出される。空戦スケールからすればのろくさい速度は、ミサイルというよりは――
「煙幕弾?」
 思いついた所で、それは弾けた。銀色っぽい薄い輝きが瞬時、周囲に広がって行く。
「出力低下‥‥! まさか、撃ち出してくるとはね」
 慌てて範囲から抜け出そうとするが、抜けたところで10秒やそこらは火器のパワーが上がりそうも無い。一方、攻撃以外が主眼のファルルのワイズマンは支障を来たしてはいなかった。
「本当に、攻撃系だけなのね。本当ならキューブワームと組み合わさるような機体なのかしら」
 ヒュドラの放つ砲弾は、距離をとって交戦していた各機の周囲へも着弾していく。
「やはり、そうなるか」
 本星を叩きに回っていた剣一郎は、試しに撃ちこんだG放電装置があっさりと弾かれたのを見てため息をついた。赤いフィールドすら張らないのは、防御に自信があるが故なのだろう。
「ならば、引き離しにかかるまでだ」
 側面を取った白蓮機とタイミングを合わせて、スナイパーライフルを叩き込む。

「こりゃ駄目か? っと」
 肉薄したヤナギの高分子レーザーは、ヒュドラの装甲に弾かれた。お返しとばかりに降り注ぐフェザー砲で装甲を刻まれつつ、後衛から飛ぶ反撃の砲火をロールして回避する。
「そのまま一気に抜けましょう。後ろのHWが厄介です」
「オーケィッ」
 由梨のブリューナクは効いてはいたが、それは単に彼女のシヴァが反則級の打撃力を持っているからだろう。ヒュドラの効果範囲内では、普段の手ごたえはない。更に撃ち込まれたプロトン砲を回避。敵ワームの砲身が、何かを吐き出すのを見る。
「排莢‥‥か?」
 呟くヤナギ。人類の武装で言えば、それが一番イメージに近く思えた。そのまま、二機のディアブロは後方へ抜け、機体を反転させる。
「ヒュドラから距離700‥‥。ここならどうですか!」
 ごぅん、とブリューナクが吼え、それまであんなにしぶとかったHWがひしゃげる。再装填。練力が砲身にみなぎり、解き放たれる。
「こりゃすげぇ」
 呆れたように言うヤナギの前で、小型HW一機が四散した。それと共に、中央部でも戦局が動く。本星型ワームが、剣一郎の圧力に抗しかねてヒュドラからじわり、引き離されたのだ。先までの小型機のプロトン砲は本星型の指示で撃たれていたらしく、さしもの剣一郎の流星皇といえど攻めあぐねていたのだが。
「正面切ってであれば、お相手しよう」
 一進一退、しかし本星型が流星皇を押していられるのは、装甲が万全であるという自信ゆえに攻め一辺倒でいられる為だ。その自信は、位置取りが動いた時点で終わる。
「飛べ、螺旋弾頭っ!? 標的を抉り貫く為に〜っ」
 側面、中距離からの白蓮の螺旋弾頭が本星型に刺さり、装甲をがりっと削った。続く二発目は、赤い強固なフィールドに阻まれる。損傷は軽微なのだから放置しておけば良かった、と思ったか否か。
「目標の追い込みを開始〜っ」
「削り切る。行くぞ!」
 二人掛りの攻撃が、本星型の真紅の輝きを無理やり引っ張り出していく。一方、カバーの多くを失ったヒュドラは、陽子の夜叉姫の前にサンドバックと化していた。近距離からのエニセイが攻撃力の低下を物ともせずに外装をぶち抜く。既にヒュドラは飛んでいるのが不思議な状態だ。後衛側の小型機は大口径のプロトン砲以外に武器らしい物を備えていなかったらしく、近接した由梨とヤナギ、そして合流した修司とマウルに挟まれていいように叩かれている。
「‥‥となると、そうだろうな」
 輝きをひときわ増した本星型を見て、剣一郎は苦笑した。追い討ちを掛けて落とせるか、と言われれば答えは否。フィールドを張るエネルギーこそ多少は削った物の、本星型はほとんど無傷だ。
「離脱する本星型は捨て置きなさい。残存を片付けるわよ」
 マウルの判断も、同じだったらしい。その後10秒もせずにヒュドラが四散し、残っていた小型もすぐに後を追う。しばし棚引いていた黒煙と銀光もしばらくするうちに消え去り、南米の空は元の静けさを取り戻した。

●解析結果
「結論から言うと、首の向きは関係なさそうね。それと、交戦中の水素濃度は確かに低下していたわ」
 帰還後、出来立てほやほやの分析結果を手に、ファルルはそう言った。予想が半ば以上的中していた陽子が微笑する。
「それ以外にも、色々とあったようね」
 解析に当たっていた留美は、直衛の小型機の砲撃能力が過大だった点も指摘していた。確かに、傭兵中でも最高クラスの防御性能を持つ各機が無傷ではないと言う一点をもってしても、異常事態を言うに十分だろう。
「正面からの一斉射撃ばかりでしたから何とかなりましたが、包囲されていれば――」
 どれだけ装甲を鍛えても、やはり守りきれない隙と言う物は出てくる。修司のディアブロはモンスターと言うに相応しい頑丈さだったが、真後ろからノズルにでも打ち込まれたと想像すれば、嫌な汗も出ると言う物だ。――外見からはそうは見えないが。
「ヒュドラ以外も、色々と実験機を混ぜてたのでしょうか」
 首をかしげて考え込む由梨。多弾頭ミサイルを拡散プロトン砲で迎撃するなどというのも、やってきたのが有人機ではなく無人ワームである時点でパターン化された攻撃なのだろう。
「こっちまで来なかった‥‥っていうのは相手も同じ感じだったンかね?」
 新型機であるワイズマンを狙ってくるかと警戒していた真琴は、肩透かしを喰った格好だった。だが、交戦目的ではなく様子見であったのならば合点は行く。そう思い返せば、敵の行動も迎撃を主体にしている物だったようだ。
「ともあれ、初期目標は達成出来たか。お疲れ様だ」
「そうね。この情報、なるべく大急ぎで前線に回すわ。間に合えばいいけど」
 通信兵を捕まえに、ブリッジへと駆けて行くマウル。その背中に、佐官や艦長としての威厳はあまりなかったが、それはそれでいいのだろう。多分。