タイトル:【EF】コンペティションマスター:紀藤トキ

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 16 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/13 00:49

●オープニング本文


 足並みの揃わぬ欧州メガコーポレーションが重い腰を上げたのは、1つにはドローム主体の軍用KV市場への参入に、協調が不可欠と判断したためだ。プロジェクトチームの発足は半年前。軍部への販路を開く前に、まず傭兵からの意見集約を試みた彼らからの提案書は、計画自体の骨子となっている。
 汎用機の概念からするとやや大型のフォルムは、特異な前進翼とカナードのせいで優美ながらも攻撃的な印象を与える。しかし、ユーロファイターの革新的な部分は、外見にはなかった。メインフレーム以外の大胆なブロック化。それは、生産の最適化においても現場レベルの補修交換においても、計り知れぬアドバンテージになるはずだ。
 その目指すところは、ブロック交換による真の意味でのマルチロール化だった。メインフレームを共同で開発し、任務や装備に最適化したプランによって各社の特質を活かし、欧州の技術力の土壌であった競争関係を維持するのが、その意図だ。

 英国製のエンジンをプチロフのフレームに組み込み、クルメタルの機体制御システムを走らせる。最終調整は、職人揃いのカプロイアの技術者達を以ってしても困難を極めた。様々なトラブルを乗り越え、製造工場にてくみ上げられたテスト用のベース機がミラノへとたどり着いたのは、暫く前の事となる。が、それですぐに完成、と言うわけにはいかなかった。


「これでは、年内にも間に合いませんわね」
 伯爵に状況を問われたソーニャは、そう一刀両断する。手元に届いたユーロファイターの素体を、制御するOSの話だ。正確に言えば、『全部盛り込むならば間に合わない』と言うべきなのだろう。空中戦、陸戦、水中戦と突撃戦闘に特化した形態を考慮し、同じコアで制御するのはかなり困難な事なのだ。
『ふむ。欧州軍内からの要請もある。まずは一部づつでも、ラインに載せられないかな?』
 通信回線の向こう、伯爵が珍しく渋面を見せる。彼の人脈や政治力を以ってしても、今回の開発計画はかなり強引なもので、そのしわ寄せは時間と共に大きくなっていた。
「‥‥仕方がありません。プランBで行きましょうか」
『プランB? ああ、一部を先倒しにする方法だね。それも是非もなし、‥‥かな』
 ソーニャがいったのは換装パーツのみを後から生産ラインに載せ、OSをそれにあわせて随時アップデートする方法だ。当初に予定していたインパクトは薄れる物の、先行で一部をロールアウトすれば、そこから得られるデータフィードバックは貴重なものだ。現場からは、以前よりそちらを強く押されていたのだが。
『判った。各社は説得しよう。その線で進めてくれたまえ』
 厳しい表情の伯爵を映していた映像回線は、その言葉を最後に消えた。
「マーケティング的には、一斉発売のほうがうまいんだろうけどねぇ」
 黒い通信画面にチラッと目を向けて、男が呟く。その目の下には、黒々と隈が刻まれていた。質実剛健なプチロフはまだしも、クルメタルやカプロイア、英国といった癖の強い機体の制御システムを組み合わせるのは、パーツの組み込み以上に困難な行程らしい。
「では、現時点から、コンペに入ります。開発に残すのは2つ。いいですわね、2つです」
 最終的に、2つの素案が両方通るのか、それとも時間差になるのかはわからない。
「どれにするんですか? 主任」
 男が首を傾げる。正規軍からは、どれも相応の評価を受けていた。再度聞き込みに回る時間も無いし、シミュレーターを走らせる事は可能だが将軍たちの多くは能力者ではなく、それを体感する事は出来ない。
「傭兵に聞きましょう。彼らほど多くの機種を見てきた人材はいませんわ。彼らに、正規軍への採用を前提と言う事を添えて意見を求めれば、きっと実りのある結果になると思います」


―――ユーロファイター企画コンペティション資料―――
 現在の所、素体は完成しています。やや生存面にシフトしたバランス型の能力分布をしており、積載重量、武装、アクセサリのどれも突出した要素はありません。価格帯は200万C台を意図。移動は4、行動は3となっています。

素体特殊能力
「操縦補助システム」
 パイロットの動きを補助する特殊AIにより、機体能力に加味される操縦値が2倍になる。
「垂直離着陸能力」
 飛行形態でのみ使用可能な垂直離着陸能力。
 練力を50消費することによって、離陸時の行動力消費及び滑走路を無視できる。
 コスト面を重視した為、歩行形態からの離陸はできない。


現在、考慮されているプランは以下の通りです。
 皆様にはこの中から自分の推すプランを意見を添えてプレゼンしてもらったり、あるいは初期の2機種には漏れるにしても、今後に求めるプランを提案したりして欲しい、というのが開発部の意図になります。

『空戦仕様』
特殊能力「VFC」
 過流制御装置。練力を消費する事で、空中での移動行動中に旋回行動を取る事が可能。90度あたり練力消費20を必要とする。
特徴:空戦のみに使用可能なドッグファイト向きの特殊能力を持つ。なお、陸戦が出来ないわけではない。

『陸戦仕様』
特殊能力「スナイプシステム」
 練力20を消費する事で作動する陸戦専用の狙撃補助システム。命中判定の前に使用を決定することで、その攻撃に限り距離による補正を1/4にする事が出来る。
 射撃時に肩部の専用測距センサーを開くほか、一瞬だけ脚部を固定する事で精度を向上させている。
特徴:陸戦時のみに使用可能な狙撃補正システムを持つ。命中補正や距離の向上が無い代わりに消費が控えめで、継戦能力に優れた機体を目指している。なお、空戦ができないわけではない。

『突撃戦仕様』
特殊能力「ストームブースト」
 1戦闘につき一度のみ使用可能。ブーストに加えて練力80を消費する事で移動に+2、防御と抵抗に+60の効果を得、変形に行動力を消費しない。
特徴:敵前展開に重点を置いたコンセプトであり、強襲作戦を行う為の能力を持っている。
 各社のブーストや練力補助システムを組み合わせた能力は強力だが消費練力の関係で多用は難しい。

(参考出品)
『水中戦仕様』
特殊能力「水上・水中航行(低)」
 KVにおいて水中移動を可能とした機能。使用中は水深75mまで、潜ることができる。
特徴:無理やり水中に適応させているため、移動力が低下する。
※ カプロイアの技術主任の逃亡により開発が遅れている為、今回の2機種コンペでは採用は困難だが、その後の優先順位を問う為に選択肢として残されている。

●参加者一覧

/ 白鐘剣一郎(ga0184) / 榊 兵衛(ga0388) / 新条 拓那(ga1294) / 漸 王零(ga2930) / UNKNOWN(ga4276) / クラーク・エアハルト(ga4961) / アルヴァイム(ga5051) / 井出 一真(ga6977) / ロジャー・藤原(ga8212) / 守原有希(ga8582) / 佐伽羅 黎紀(ga8601) / エレノア・ハーベスト(ga8856) / 桐生 水面(gb0679) / 赤崎羽矢子(gb2140) / 冴城 アスカ(gb4188) / 禍神 滅(gb9271

●リプレイ本文

●ユーロを導く者
 ソーニャが内心で危惧していたよりも、ユーロファイターへの傭兵達の関心は高かった。
「交通費も出るかどうか怪しい報酬ですのに‥‥、こんなに大勢に来て頂いて申し訳ありませんわね」
 少し斜に構えた様子の彼女に、アルヴァイム(ga5051)が書類を手渡す。
「‥‥これは?」
「軍の動向や現状配備されている機体の特徴などを、まとめてみました」
 昔取った杵柄と言う奴だろうか。アルの持参した資料は、ソーニャが纏めた物よりも判りやすく簡潔に仕上がっていた。
「ありがとうございます。助かりますわ」
 礼を言った彼女の前に、さっとカップが差し出される。
「ユーロファイター開発は‥‥やはり難航してますねぇ。ソーニャさんは、紅茶ですか?」
 ぱちくりと目を瞬かせた女科学者に、佐伽羅 黎紀(ga8601)が笑いかけた。緑茶に、アップルパイとのど飴も用意しているらしい。
「あの伯爵が絡む仕事に楽な物があるのかどうか。レモンを付けて下さいな」
 遠慮なくそんな事を言うソーニャの脇で、コーヒー党のアルの手が僅かに躊躇う。
「コーヒーなら、売るほどありますわ。始まる前に淹れてきましょうか」
 堅苦しい会議ではないのだから、と席を立ったソーニャに、クラーク・エアハルト(ga4961)が手を上げた。
「ソーニャさん、お久しぶりです。元気そうでなによりです」
 以前よりも明るい様子の青年は、その理由を聞かれる前から種を明かす。
「あら、結婚ですか? おめでとうございます」
「これが妻のレオノーラの写真です」
 漂う新婚オーラ。放っておけば小一時間くらい惚気そうな気配を察知して、ソーニャは微笑した。平和なのは悪くない。
「ユーロファイターもいよいよですか。どんな機体に仕上がるのか楽しみですね」
 構想段階の打ち合わせにも出席していた井出 一真(ga6977)が、興味深そうに周囲を見回す。黎紀達が関わった輸送中はモスグリーンだった機体が、白と赤のテストカラーに塗り替えられた写真パネルが数枚立っていた。
「これで欧州4社回れば、全企業の開発依頼制覇ですね。‥‥一寸した目標です」
 隣に座った守原有希(ga8582)が微笑する。KV開発にしのぎを削るメガコーポ各社は、実戦データを最も蓄えているだろう傭兵達への聴取も先年以降、積極的に行なっていた。その成果が形になったのが、1ヶ月に1機以上とも言われる最近の新型機ラッシュだろう。
「俺も、ユーロファイターの構想には以前参加させて貰ったが‥‥。それがいよいよ完成に近付いていると聞けば、感慨深いモノがあるな」
 お茶を啜りながら、榊兵衛(ga0388)も頷く。それが人類の一翼を担う新たな戦力足りうれば最上だ。兵衛も忌憚の無い自らの意見を述べるつもりで、再び会議の場へと出向いていた。
「正規軍の運用が基本ですが、傭兵にとってもメリットがある機体になるといいですね」
 ロジャー・藤原(ga8212)は、それとは別に自身で用意した機体愛称も提案するつもりだった。『クルセイダー』という案は欧州が一丸となって戦った十字軍にちなんでのものだ。もっとも、それを前面に押し出しては、トルコを初めとした東の国の視線が怖い。
「侵略者を撃退する騎士であるというUPCの気概を名に込めようという意図です」
「あの伯爵だったら喜びそうな提案ですわね。‥‥それとも、何か腹案を持っているのでしょうか」
 コーヒーを用意していたソーニャが考え込む。そういえば、かつて頓挫した計画から、ユーロファイターの愛称を借用してはいるが、実際に名付けるのは別の名称になる筈だ。
「部門に伝えてはおきますわ。軍向けの機体ですし、軍が勝手に考えるのかもしれませんけれど」

 一方、井出や榊らと同様に前回からの参加の赤崎羽矢子(gb2140)は、入り口で手渡された資料のカタログスペックを眺めながら目を見張っている。
「各社の技術の寄せ集めでなく、更に上の次元に進化したもの‥‥、とは言ったけど。まさかこんなものが出てくるなんて」
 『操縦補助システム』などという隠し玉が出てくるとは、予想もしていなかったと言う彼女。しかし、実際に生産ラインに乗るのかどうか、という辺りも心配らしい。
「ある程度の数を揃えないと意味が無い物ですから、軍向けに採用されるならばその辺りは解決すると思いますわ」
 ただ、傭兵向けに販売が可能かどうかは、軍との交渉次第だとソーニャは表情を硬くした。欧州軍は、ファームライドの事もあって機密には極めてうるさいらしい。
「このスペックなら普段は汎用でも十分で、物足りなければ換装で特化でしょ? 俺的に理想系ですよ、これ」
 ニコニコと笑う新条 拓那(ga1294)は、ラストホープを訪れたばかりの傭兵が最初に紹介される幾つかの部隊の中核的存在の1人だ。部隊の性質上、実戦経験の浅い者と共に飛ぶ事も多い。それだけに、価格なども含めたユーロファイターに向ける期待は大きいようだった。
「稼動機の試験運用の際には、是非呼んで下さい」
 冗談めかして、崩れた敬礼をしてみせる拓那。一度関わった機体に浪漫を抱くのは彼だけではない。
「新型機か、開発段階から関わるのはちょっとワクワクするわね」
 楽しげに、リラックスした様子の冴城 アスカ(gb4188)が、入り口で唸っている禍神 滅(gb9271)に首を傾げる。
「今回、こういう場は初めてなんで‥‥」
「大丈夫。案ずるよりも産むが安いわよ、きっと」
 頭が回らないし、と不安を訴える滅の背を、アスカは勢い良く押した。その後ろで、黒衣の男がなにやらごねている。
「なに? けーいちさんの依頼ではないのかね? え? 違うのかね?」
 カプロイアの社章をつけた技術者に絡んでいるのは、UNKNOWN(ga4276)だった。カプロイア伯爵の関係する開発依頼と聞いて、自らの愛機たるK−111の改良と勘違いしてやってきたらしい。
「まぁまぁ、落ち着いてコーヒーでも如何ですか」
 もっと浪漫を、とかけーいちさんに愛を、などとブツブツ言いながらも、UNKNOWNはアルに壁際へ引っ張られていった。

●コンペティション:空
 もとより、開発側が提示したのは可能性まで含めて4つ。いや、開発が遅延している水中仕様を除けば実質3つだ。しかし、傭兵達からの意見が比較的偏るのではないか、というソーニャ達の予想は、良い方に覆された。各案について、実に活発な議論が行なわれたのである。
「天衝の総長として空を戦ってきて思ったのは、敵との戦いにおいて空戦は不利な点が多い事だね」
 ラストホープ中でも屈指の規模の小隊を率いていた漸 王零(ga2930)の言葉には、居並ぶ傭兵達からも異論は出なかった。むしろ、その多くが自身の実感としてそれを感じていたと言って良い。
「火力や射程の不足は今回言っても仕方なので省くが、何より機動性・旋回性の差が大きい」
 王零は、大規模作戦での敵の軽快な動きに、KVが未だに追随が困難な局面があると指摘する。元はと言えばHWの万能性に対抗するために生み出されたKVだが、その実用化から数年。『慣性制御』の四文字はいまだ大きな壁となって立ちはだかっていた。バグアとの基礎技術の格差は容易に埋められる物ではないのだ。
「依頼でも、HWが持つ慣性制御による動きにどうしても振り回され、後手に回らざるを得ない時が多々あるな」
 兵衛が腕組みをする。少数による短期の戦いになるULTの依頼では、誘導弾を撃ちつくした後に補給を受けるわけにはいかない事が多い。格闘戦に持ち込んだときの優位を、少しでも確保できるのでは無いかという彼の声に、隅にいたプチロフの役員が深く頷いた。
「HWもそうだけど、これって新型機のタロスにも大きなアドバンテージになるんじゃないかしら?」
 アスカの言葉に、傭兵の間の空気が張り詰めた。まだ目撃データも少ない新型については、空陸海においてHW以上の展開速度が懸念されている。そのざわつく空気を、白鐘剣一郎(ga0184)の静かな声が制した。
「『空戦仕様』は、確かにバグアの慣性制御への対抗策としては興味深いシステムだが‥‥」
 これまでにない挙動。それを完全に制御できるパイロットがいるのか、が彼の心配時だった。どれだけ優れた性能を持っていても、それを引き出せるパイロットがいなければ無意味な物だ。
「VFCは今までにない発想の能力ですので、活用するためのノウハウが蓄積されるまでは大変かもしれませんね」
 一真も、同様の懸念は感じていたようだ。であっても、空戦と陸戦が戦闘の基本である点は変わらないのだから、正規軍向けにはそれこそが必要だろうと彼は言う。
「‥‥時間を掛けられるのなら解決する問題かもしれない」
「むしろ、今までに無い分野だからこそ、時間を掛ける価値があると思います」
 難しい顔で、そう言った剣一郎の後を受けたのは、有希だった。気流制御の能力化はKV開発の新領域であり、ここでユーロファイターに採用されれば、その運用データはいずれそれ以外にも応用できるようになるのではないか、と彼は語る。
「‥‥それ以外、といいますと?」
「陸での高速移動についても気流の制御は重要な要素です。この技術のフィードバックが図れれば、例えばヘルヘブン750のキャリバーチャージの安定性を高める等という事も可能なのではないでしょうか」
 有希が熱っぽくそう語った。将来性を見据えると言う意味では、同じ考えでいるらしいエレノア・ハーベスト(ga8856)が、我が意を得たりと頷く。
「他社の話やけど、フェニックスの気流制御力場発生装置で簡易慣性機動が出来るか試してもろたんや」
 彼女が語る同社での実験結果は、否。フェニックスの力場が効力を発揮するのは比較的短時間であり、そういう用途には向かないと言う結論だったと言う。しかし、ユーロファイターのVFCならば。
「VFCを使用した機体からデータをフィードバックして、更に躍進的な過流制御装置の開発。果ては慣性制御に、近い装置の開発。それには1社だけでのうて他の開発機関とも共同開発を行い‥‥て、ちょっと夢を語ってますけど」
 エレノアの意見は、技術者的には頷ける物もあるようだ。しかし、欧州軍への提案に盛り込むわけには行かない、とソーニャは言う。
「‥‥ベータ版を売りつける、等と聞こえれば彼らが臍を曲げるのは間違いありませんわね」
 苦笑しつつ、彼女が思い浮かべていたのはピエトロ中将の顔だった。実戦部隊について強固な権限を持つあの軍団長が求めるのは、一歩先の技術革新の為の何かではなく、今この瞬間の堅実な成果のみだろう。

「そうですか‥‥。この子がドロームの危機感を煽り、不死鳥改良の切欠になって‥‥。此方もお互い気流制御で切磋琢磨、自他共栄て形になれば、と思ったんですけれど‥‥」
 想い人が駆るというフェニックスには、思い入れもあるのだろう。少し未練の残る有希の言葉に、クルメタルの技術者が苦い顔を向けていた。傭兵達のあずかり知らぬ所ではあるが、カプロイアがドロームとロングボウの技術提携を結んだ際、最も警戒を募らせていたのがクルメタルだ。自社の技術への誇りと、それ以上に確たるビジネスへの拘りを見せる彼らは、今回のユーロファイターの計画に際しても、『カプロイアがドロームに技術を売らない保障』を明確な形で求めていた。
「まぁ、今回は欧州四社のコンペになるので。その話は置いておきましょう」
 どちらかというと依頼者側の方面が険悪になりかけたのを察して、アルが仕切りなおしを提案する。そこで、技術者の1人が発言を求めた。
「‥‥失礼。その点については1つ誤解を解いておきたいと思う。ドローム社のフェニックスの特殊能力とたまたま名称こそ似ているが、VFCの技術は決して目新しい物ではない」
 高速移動中に旋回する方法として、揚力バランスを崩すというのはレシプロ時代から存在する。機械的な仕組みとして、フラップは皆が身近に見ているものだろうし、その一種の究極形がシュテルンの十翼だ。
「翼自体の形状変化ではなく、瞬間的なガス噴射によって擬似的にそれを行なう。その制御システムは画期的なものだと自負はしているが‥‥」
 異質に見えても、VFCは20世紀には確立されていた既存技術の進化系に過ぎないのだと彼は言う。少なくとも、ドローム社のフェニックスの機動を可能とするのに必要なブラックボックスは、VFCには存在し無い。
「旋回性を高めはする。エミタAIの補助で最適化された操作による効果は劇的、と言っても良い。が‥‥」
 揚力を使って旋回している以上、前進はせざるをえない。あくまでも、VFCによる旋回は移動行動のおまけだ。例えば側面を取られた瞬間に、従来の旋回運動以上の効率で反転できる、というような便利な物ではないのだと、彼はすまなそうに告げてから着席した。
 少し、冷えかかった空気を動かすように、隅から低い声が響く。
「将来に目をやらずとも今、空戦の魅力が生きてくる機体というのは、欲しい。空戦は難しい、といわれるのを何とか防ぎたいというのが希望だからね」
 コーヒーカップを手に眼を閉じているUNKNOWN。一同の注目を浴びた所で、その目が開く。
「しかし、それはさておき、考えるべきはけーいちさんだ。そうではないかね? こう、ブーストで残像が出るとかなんとか‥‥」
 身振り手振りを交えながら熱弁を振るう彼を、呆気にとられたように見つめる一同。隅から現われた黒子がブツブツ呟く彼をチェアごと運び出す。
「子供たちに『けーいちさん格好いい!』と言われる様に‥‥」
 それが、扉から連れ出される前に聞こえた最後の台詞だった。
「‥‥確かに、空は慢性的に人手と決定打が不足してる気が‥‥。なら術を増やし質を少しでも高めるしか無いかなとは思います」
 黎紀が、何事も無かったかのようにそう口を開く。ほっとしたような空気が辺りに漂った。
「空戦で小回りの利く能力も、出鱈目な動きのHWとやり合う時に便利なのはまぁ、間違いないね」
 これまで聞きに回っていた羽矢子が、確認するようにそう纏めた。
「燃費も良いですし。陸戦特化能力の空戦機はあるけど逆はない。空戦専門小隊も多いしそれは強みになります」
 という有希へ、その空戦小隊の1つを預かるクラークが異論を挟む。
「背後を取られた場合に反撃可能になるのは良い事だと思いますが、錬力消費をもう少し抑えられないものかな?」
 ドッグファイトであれば位置の入れ替わりは少なくない。多用する為にはもう少し使いやすい物であって欲しいというのが彼の意見だった。桐生 水面(gb0679)はそれとは逆の考えを主張する。
「VFCの練力消費が満足って訳やない。少なくなるに越した事はないけど、空戦ですぐさま方向を変えられる、ってのは結構重要なことやと思うんや」
「いっそ、更に向上させる考え方もありじゃないかしら? この空戦仕様、旋回力を増すために機体自体は既に特化されてるみたいだけど‥‥」
 VFCに、移動や回避などの機動力を向上させる機能を連動させてはどうかとアスカが提案した。VFCを敵に側背を取られた際の窮余の一手として捉えるならば、燃費を悪化させても緊急回避向けに特化するという意見も的外れな物ではない。現行でも有効と見るか、改良して出しなおす方が良いと見るか。2つの意見の双方を、ソーニャは書き留めていく。その次に挙手をした黎紀は、燃費の面では問題が無い派のようだ。
「それにこれ、使い方によってドッグファイト以外の攻守でも役立ちません?」
「確かに。空戦においては距離があっても敵の動きに後手を踏む事は多いからね」
 過去の戦いを思い出すように、王零が眼を閉じる。鋭角の急旋回や、後進、空中変形など、バグア側が見せるこちらの常識外の動きに苦渋を飲んだ例は枚挙に暇が無い。
「そういったことに対して即座に‥‥ではなくとも、一歩早く対応できるようになるVFCは劣勢な空の戦いの台風の目となることはまちがないと思う」
 そう締めくくった王零の言葉に、開発担当らしき技術者が頷いた。

●コンペティション:陸
「では、次は陸戦仕様について伺いますわね」
 一段落したと見て取ったソーニャの言葉に、奥の方から黒い影がゆらっと立ち上がる。
「『スナイプシステム』は、欲しいものであるとは思う‥‥」
 UNKNOWNがそう、夢見るように呟く。まだ、何処か遠くを見ているようだった。
「確かに、これは陸戦での長射程武器の運用が変わりますね。派手さはないですが、使いでのある能力だと思います」
「確かに低消費で使い勝手が良い‥‥。でも陸戦向き機体は、結構充実してる気がします」
 そう肯定する一真に、黎紀が首を傾げる。
「汝の言うように陸には他と比べてすでに十分な戦力がある。ガンスリンガ―とも傾向がかぶりそうだな。」
「さやね、競合してシュアが伸びへんような気がします」
 王零、エレノアは販売的な面から陸戦仕様の先行きを危惧していた。実際、陸戦を主体とするならばドロームの陸専用KV、他にも格闘に秀でたアヌビスとライバルは多い。
「それに、格闘戦が多い現行の陸戦ではこの能力だと物足りなさも感じるのも確かだよね。だから」
 拓那が提案したのは、陸戦ではデッドウェイトになりかねない垂直離着陸機能を排除し、浮いた余裕を装甲や増槽に回すという改装だった。しかし、エンジンブロックに属する垂直離着陸機能を外すのには、無用な手間が掛かってしまう、と渋い顔をされる。
「陸戦の需要がどの程度あるか次第だろうが、それでも俺は『陸戦仕様』を推す」
 特に錬力消耗が低く、軍で運用する場合も使う局面を選ばないだろう、という剣一郎の意見にはロジャーも同意見のようだ。
「確かに、軍ならローリスクな遠距離射撃が主な戦術になるだろうから、それに適した特殊能力を持つコイツは押しだな」
 2人の意見を聞いていた軍人が、手元のメモに何かを書き込んでいく。今度は隅の方から、滅が発言を求めて挙手した。
「武器使用に関して命中率の向上は必須と思われます。射程の長い武器も威力の高い武器も敵に命中しなけば意味が無いからです」
 はきはきと言う様子からは、もう最初の頃の自信の無さは見受けられない。その意見には、実戦を幾度も経験した傭兵の多くが頷いた。
「陸戦では射程が長い武器を使っても最大射程じゃ中々当たらないし、距離修正を少なく出来る能力はぜひ欲しいね」
 部隊長を長く務めている羽矢子もその1人だ。
「でも、この補正が無いと当らない距離の銃器ってどれ位あるんでしょう?」
 黎紀の疑問に大しては、一般的に使われることも多い武装をを引き合いに出して、命中補正が逓減する意義を水面が語る。
「空中に比べて、陸は距離による補正を受ける事が大きいんや。バルカン使っていてもとこれ位にはなる」
「なるほど、陸版のロングボウみたいですね」
 そう応えた黎紀に、カプロイアの技術者が苦笑した。実際、制御部分は別物だが測距装置などのノウハウは同じ物がベースになっている。
「いや、ロケット以外にも使えるのは大きいでしょう。いっそ陸戦仕様には長距離レーザー砲を搭載できませんか」
 熱っぽく語るロジャーに、クルメタルの技術者は難しい表情で腕組みした。技術的には可能なのだが、長射程の光線兵器はどうしても高額になる。
「追加による価格上昇を考えれば、今のプランのままが望ましいと思います」
 それを聞いたクラークが残念そうに首を振った。

●コーヒーブレイク
「‥‥少々長くなりましたし、一度休憩を挟みましょうか」
 アルの提言は、喋り詰めだった参加者だけではなくオブザーバーの軍人や研究者からも歓迎された。
「一応確認までに、ユーロファイターの技術分担がどうなっているか教えて貰えるだろうか?」
 剣一郎の質問に、コーヒーを傾けていた技術者は困ったような顔をする。
「各社、優秀な技術者を送り込んできていますから‥‥」
 横から話を引き取ったソーニャは、そこで少し考えてから言葉を続けた。
「例えば陸戦仕様でしたら、機体の瞬間的ロック機構はクルメタル、複合センサーがプチロフ、照準制御をカプロイア、出力調整は英国の担当が主に仕切っておりますわ」
 欧州各社は、実務レベルで共同開発に入った経験は今までにも多い。大きい所では、高分子レーザーの共通企画の時だろうか。ライバル意識も大きいが、現場レベルでは認め合ってもいる間柄ゆえに、共同作業はやりやすいらしい。
「いっその事、空戦特化型KVとか開発できない物ですかね? 今回のユーロファイターとは別に」
 陸上での行動に支障が出ても構わないので、空中戦闘にのみ特化した機体を、とクラークは言う。
「地形に左右される陸よりも、空は機体能力の差がダイレクトに響きます。可能ならば、不慣れな新兵がHWに引けを取らぬような空戦機体が欲しい」
「それなら、うちが求めた物が叶うやも知れへん」
 エレノアが笑顔を見せた。希望は少しばかり高望みだが、目標は大きすぎるくらいがいいのかもしれない。大きすぎる目標といえば、カプロイアの技術者を捕まえたUNKNOWNはここぞとばかりに熱弁を振るっている。
「今はそう、けーいちさんだ。もっと浪漫ある機体に改装を、こう、カプロイアの職人たちに‥‥」
「あー、気持ちは判りますが、今日はこの辺りにしておきましょうか」
 寄って来た黒子に摘み出されていく彼に、ちょっとホッとした様子の技術者。出口の向こうから、もっと浪漫を、とかゲーテのような声が最後に聞こえてきた。
「‥‥そうだ。取り回しの良いロケットランチャーは開発できませんか?」
 咳払いをひとつして、クラークが話題を戻す。最近の大規模作戦では対地任務も多く、光線兵器よりも面攻撃のできるロケット弾の活躍する機会が多いとクラークは分析していた。空陸両用で使いやすい物があれば、という彼の意見に火砲部門の研究者が興味深げに頷いている。
「個人的には、『瞬発力』、というか『回避力』と『近接格闘戦能力』を重視した、いわば『近接戦仕様』というかんじのものが欲しいですねえ」
 その一真の言葉には、居並ぶ技術陣は渋い顔を返した。現状では格闘モーションの研究はアジアの独壇場であり、後発の彼らが成果を挙げるのは容易ではないのだという。
「物理と知覚の切換が出来る武器は出来ない? 両刃の剣で片刃は物理、もう片刃は非物理武器とか」
 できれば推奨武器でという羽矢子の提案は、珍しい物好きなカプロイアの興味を引いたようだ。とはいえ、カプロイアだけに期待は出来ないが。
「あと、バージョンアップは一度換装した仕様に戻す時はコストがかからないようにして欲しいね。依頼に入る度に星を払って仕様変更するのも痛いし、換装を強制されたりとか余計なトラブルを招く気もするんだよね」
 釘を刺すような彼女のもう1つの指摘は、傭兵に販売される場合の事を考慮してだろう。が、技術者は難しいという。
「パーツをその辺に保管しておけば費用が掛からない、というわけには行かないんですよ」
 再セットであっても調整の手間は同じか、稼動チェックの分だけ余分にかかってしまう。保管の手間も考えると、収支面でそこまでの効果はないのだそうだ。
「ま、ULTの補助次第ですねぇ。希望は伝えておきますよ」
「頑張ってね。これでも期待してるんだから‥‥ね?」
 笑顔を向ける羽矢子にまんざらでもない表情を向けながら、営業担当は検討を約した。アップルパイのあるコーナーでは、ユーロファイターへのより広範な意見も交わされている。
「クルメタルのシュテルン、アレのPRMシステムみたいなのを乗っけられれば面白い機体になりそうだけどどうかしら?」
「PRMは、正規軍向けではないと思います」
 自社の名を聞いたクルメタル社員が、肩を竦めた。傭兵達も実感しているだろうが、PRMは融通の利く機能の代償として扱いにくい。限られた機能で、どの能力をどこのタイミングでどのように向上させるか、という配分は戦闘経験豊富な傭兵達にとっても厄介な問題だった。
「提案したいのは、操縦系統インターフェイスの単純化、コクピット、マニピュレーターの共通化による整備手順の合理化、単純化です。これにより稼働率の向上、KV自体の扱いやすさが見込めると思います」
 すらすらとそう口にする滅を、整備出の一真が感心したように見る。さまざまな共通化はユーロファイターの設計理念でもあり、そういった個々の部分へも配慮を向ける事で、現場レベルではより扱いやすい物になるだろう。
「ユーロファイターは『操縦補助システム』だけでも十分魅力的な機体だと思いますよ。反面、鹵獲された後が凄く怖い機体です」
 黎紀の言葉に、カプロイアの重役が苦笑した。あの赤い機体がこの星の空を飛ぶ限り、カプロイアはあの失態に背を向けることは出来ない。
「鹵獲への懸念は理解する。採用の暁には、我々もバグアのような徹底した機密保持策を取る事になるだろう」
 軍の将校は、そのような言い方で自爆装置の埋め込みを示唆している。

●コンペティション:突撃
「一服したところで‥‥。あの男は、いないわね」
「言いたい事を言って満足したのか、BARに出かけたようですが」
 アルの返事にほっとすべきかどうか、ソーニャは微妙に迷ってから苦笑した。ンな事はどっちでもいい。
「では、最後の突撃戦仕様について意見を伺います」
 彼女の言葉に、傭兵達は微妙に先を譲る様子を見せた。僅かの間の後で、王零が口を開く。
「突撃仕様の『ストームブースト』は空陸どちらでも使えるのが良いな。移動距離と共に防御も上がるといった一撃離脱用能力として大いに期待できる代物だと思うよ」
「そうですね。『操縦補助システム』との相性も良いですし」
 そう付け足した黎紀の後で、これまでは余り口を開かないでいた兵衛も大きく頷いた。
「機体の素体能力としての垂直離着陸能力と組み合わせれば、上空から地上への強襲突撃のまたとない手助けとなるだろうからな」
 彼らの見込みに、開発側からの異論は無い。というよりも、まさにそういう用途を考えて開発された仕様だったのだ。傭兵達を正規軍向け開発プランの策定に加える事に最後まで難色を示していた軍の将軍が、感心したように2度頷く。
「俺も、この能力を推したい。ただし、皆もそうだと思うが、改善すべき点を踏まえての話になるな」
 剣一郎の言葉に傭兵達は概ね同意していた。一致している改善希望は、練力消費が余りに過大すぎるという点についてだ。
「使用制限が1回の『出撃』でなく『戦闘』となっているので、錬力が許せば相応の効果が見込めると思う。が、いかんせん錬力消耗が激し過ぎて標準仕様で使えるのは実質1回だろう」
 戦闘時間も、勢い削られてしまう。そういった用途が正規軍であるのかどうか、熟慮すべきだと剣一郎は述べた。
「改善の余地があるのなら、防御と抵抗のプラス幅をもう少し削ることで練力消費を抑えることは出来ないだろうか?」
 兵衛の意見は、効果を全体的に低下させる事と引き換えに、継戦能力を確保しようという物だった。
「物理攻撃と非物理攻撃を同時に受ける状況って中々ないし、一緒に能力を上げる必要はないと思うんです」
 それに対して、拓那の選んだのは選択式の採用だ。クルメタルのPRMの簡易版的に、二種類のどちらかを選ぶならば消費を抑えられるのではないか、と彼は言う。
「防御性能が上がるというのはそれほど多くは無い特殊能力ですから。売りにはなるんじゃないかな」
 それとは別に、あえて強化する事で売りにしようという意見も少数ながら存在した。
「確かに、減らせば使い勝手はありそうやけどね。低速で空中変形可能な能力を付加すれば、強襲的な使い方が出来ると思うんよ」
 エレノアの念頭にあるのは、やはりフェニックスのようだ。しかし、空中変形は現時点で考慮には入っていないと技術者陣は言う。
「悔しいですが、現時点の我々の手持ち技術では不可能に近いというのが一点。もう1つは、平均的な正規軍パイロットにそこまでの技量の持ち主は居ないという事です」
 率直な言葉だが、オブザーバーの軍人からの異論は無い。一部の精鋭はともかく、欧州軍の一般的な兵士は技量的に見れば傭兵に劣っているのが実情だ。
「うーん。素の移動力に比べて、能力で増える移動力が2ってのもすこし少ないんやないかな? ワイバーンの強化量に比べたら‥‥」
 消費に対するリターンがつりあわない、と水面は首を傾げる。が、英国工廠の技術者によれば、移動の強化は通常の5割り増し程度、という意味では同等の内容だそうだ。ワイバーンに比べて、ユーロファイターの素体の戦闘速度が低めなのが原因らしい。
「消費については、その他の上昇関係といっしょくただから、こうなっているだけだ。速度向上だけならワイバーン並の消費には当然できるが‥‥」
 英国人は、途中で言葉を宙に浮かせると肩を竦めて着席した。再び、兵衛が手を上げる。
「そういう事なら、いっそ移動力のアップは切り捨て、防御抵抗のプラス幅はそのままという考え方もある。ブースト使用前提なら、移動力アップを切り捨てても突破力としては充分かも知れぬしな」
「傭兵ならこれでもいいけれどね。イザという時にブーストで逃げる事が出来ないのは考え物だよ」
 兵衛や羽矢子の念頭にあったのは、比較的小規模の敵戦力と対峙する状況想定ようだった。これには、軍の側からの異論が出る。
「諸君の懸念も判るのだが。戦線を挟んで正面から対峙する状況で、背面展開を可能とするにはやはりkm単位の移動力を確保しておきたい」
 敵中ではなく後方へ、ある程度纏まった戦力を送り込む事が、正規軍の念頭にある運用方法のようだ。そして、少数戦力でのぶつかり合いであっても、移動力に重きを置く意見もある。
「突撃戦に必要なのは速度と突進力だと思います。速度が速ければ相手の懐に潜りやすく近接武器の突進力に対して非常に助けとなるからです」
 滅の淀みない口調に、入り口での姿を見ていたアスカがクスッと笑った。有希が改めて、確認するように希望を述べる。
「うちは傭兵としての見方しかできませんが‥‥。強襲の出来る量産機で防御性能上昇もあれば頑健な部隊を高速展開可能。客層を選ばぬ機体に思えます。だからこそ」
 傭兵向きのプランが出来るのならば、選択式であれ、能力低下であれ、消費を抑えるデチューンをして欲しいと有希は言う。周囲の傭兵達も、概ね同意のようだ。部隊単位で機種をそろえる運用は、普通の傭兵がやる事はまず無い事ゆえに、特化しすぎるのも考え物と言うことだろう。

●結果発表
「今回は外れていたけど、水中機の種類が少ない事も考えると『水中仕様』も需要はあると思うよ」
 羽矢子の言葉に、ソーニャは苦笑を返した。
「空・陸・海をこなせるのならそれは理想の1つですよね? 尤も傭兵には既存の水中機体で十分でしょうが‥‥」
 黎紀の慰め交じりの言葉に、王零がゆっくりと首を振る。
「空戦や水中戦は必要なものではある。そういう意味では水中用機能がないのがかなしいね」
「‥‥まぁ頑張ってくれとしか。相当難儀しているようだな」
 そう言う剣一郎も、それに去ったUNKNOWNも水中機が採用可能なら重きを置いただろう。早期の実現を努力するという開発陣の下へ、水面が急いで走ってくる。
「思い付いたんやけど、素の性能は決して低くないみたいやし、ジャミング中和装置を積めれば、前線でガチで戦えるうえに電子戦もできる機体になるんやないかな?」
 ジャミングカテゴリが他の機体と被らなければなおいい、と早口で言う水面の後ろで、ロジャーが頷く。
「今回は無理だけど、出来そうなら考えてみてくれねぇかな?」
 『電子戦機は設計段階から電子戦機として作らないと無理』みたいな話を報告書で読んだという彼は、水面とは違い、半ば駄目もとで提案していた。ブロック換装のユーロファイターならその辺の融通が利くかも、という彼の期待に、開発者は渋面を返した。
「言いたい事は判るし、搭載量やAIのキャパシティ的に不可能ではないとは思う」
 が、と2人の喜びを制すように男は言う。それで出来るのは、中途半端な上に高価すぎる代物だと。
「そか‥‥」
 残念そうに俯く水面。ロジャーはやはり、というように苦笑した。

 最終的に、傭兵達の意見にそれぞれの軽重を考慮した結果に、ソーニャが少し考え込む。
「空戦、陸戦の仕様が僅差で突撃仕様を上回ったようですわね」
 とはいえ、この意見の分かれ方では決定的というほどではない。出た意見を参考にして、最終決定は軍が行う事になるだろう。
「ともあれ、今日はお疲れ様でした」
 ソーニャは、珍しく微笑を浮かべてゲストやオブザーバーを送り出した。一部の傭兵は、後片付けを手伝いに残っているが、傭兵達も多くが帰路につく。口々に、ユーロファイターの前途へ期待する言葉を残していく彼らに、開発者達も気持ちを新たにしているようだった。