タイトル:【SC】死神の欠片マスター:紀藤トキ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/30 23:38

●オープニング本文


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 マドリード近郊の新設された基地にて。真新しい匂いのする会議室に、傭兵達が集められていた。
「これからお話しすることは、極秘事項です」
 普段よりも改まった口調で、エレンが切り出す。
「いま話しているこの場所の地下に、元蠍座のエルリッヒ・マウザーがいるのは、皆さんご存知の通りだと思います」
 いる、というよりは置いてあるというような状態ではあるのだが。
「彼の覚醒実験に用いる、ある物資を積んだ車が、昨晩消息を絶ちました」
 エレンは、プロジェクターにイベリア半島の地図を映し出す。すぐに、北側から、赤いラインが時折折れつつ南に引かれた。トゥールーズから西へ、ポーから南下し、サラゴサを西に迂回する線は、すぐに車の移動ルートだと判る。
「このルートでフランスから移動中で、ポーを出たのは確認されています。その後、ハカに出る予定でしたが予定時刻を過ぎても、車は現れませんでした」
 軍の輸送部隊ではなく、一般自動車を用いた工作員が運んでいたらしい。自動車は、白のライトバン。積荷の大きさは一抱えほどで、せいぜい、ミカン箱一つ分位の小さな荷物だとエレンは言う。微妙な例えが、日本マニアの彼女らしかった。
「バルセロナやサラゴサ周辺は、まだバグアの勢力下です。そこからは充分に離れたルートを選んだはずだったのですが‥‥」
 運が悪かった、らしい。小規模な中、大型キメラの群れが山脈を西進しているという報告は、山岳パトロールから上がっていたのだ。
「依頼は、その回収です。近辺に中型以上のキメラが4匹程確認されています。ただし、先週の時点でパトロールの報告にあったのは10匹程の群れだったそうですから、実数はもっと多いかもしれません」
 付近の道路は封鎖されており、近いうちにフランスの現地部隊による掃討作戦が行われるはずだ。
「ですが、それよりも早く物資を回収する必要があります。皆さんは、ヘリで付近まで移動して頂き、速やかに目標の物を確保、離脱してください」
 他人に見られて困る、と言うほどシビアな隠密作戦ではないが、可能な限り迅速にという条件だった。

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 そして、依頼にはもう一つ条件がある。それが、積荷の中身を任務終了後に口外しない、と言うものだ。
「‥‥まぁ、見ても判るかどうかは微妙な物ですが。万が一中身に推測がついても、口にしないで頂きたいのですよ」
「俺は、あの中身は先に話してしまった方がいいと、思うんだがな。この連中は、ヘタな身内よりも信用できると思うぞ」
 口を挟んできた少将に、ミノベは苦笑を浮かべた。
「ふ、ふふふ。あれの中身をご存知ですか。いやはや、さすがに前線の部隊というのは抜け目がありませんね」
「海の向こうの古馴染みが、鼻の利く連中でな」
 ニコリともせず言うベイツに、ミノベも笑みを消す。
「まぁ、協力を要請するに当たり、答えられる質問には答えましょう」
 応接用の椅子に浅く座りなおして、ミノベは机に両肘を突いた。
「さしあたっての質問は、荷物についてですね? ファームライドの部品、ですよ」
 ロシアで捕獲したものを解体し、ラストホープで解析した順に送っていると、ミノベは言う。
「ラストホープでも、ブラックボックスについてはお手上げなようです。操作方法がわかれば、検証もできるのでしょうが‥‥」
 できる事にも限りがあるのだ。通電して起動しない装置が、電気が定格外だから動かないのか、そもそも電気で動く物でないのかすら判らない。
「で、我らの眠り姫にそもそもの動かし方を教えて欲しい、というのが上の意向です」
 厳重な隔離施設をグリーンランドに作った直後に、再びスペインに身柄を移送した理由は、それだった。ファームライドの生産元であるカプロイアから適度な距離の場所だというのもある。
「欧州本部のあるドイツや、フランス、イギリスに持ち込む事も提案されたのですが、却下されました」
 再び薄笑いを浮かべながら、ミノベは言う。
「この計画を嗅ぎつけたバグアが、どれほどの熱意を見せるか判りませんからね。どこの国も、婆札は引きたくないのですよ」
「‥‥なるほど、な。大体は予想通りだ」
 腕組みするベイツ。バグアが本腰を入れて攻めてきた時に矢面に立たねばならない事については、彼も部下も気にはしない。それが妥当に見える理由であれば、尚更の事だ。
「ミノベ大‥‥、ミノベさん、は今回同行されるのですか?」
「いや。私は別にアレには興味がありませんからね」
 エレンの質問に、ミノベは首を振った。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
暁・N・リトヴァク(ga6931
24歳・♂・SN
ルクレツィア(ga9000
17歳・♀・EP
二条 更紗(gb1862
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

●作戦前に
「それほど、詳細な地図はないんだけど、これで良ければ」
 エレンが出してきたのは、欧州戦当時の情報を基にした地図だった。時間をかければもう少しマシなものも見つかるだろうが、急いている状況は緋沼 京夜(ga6138)にも解っている。
「登山の助けになるようなものは?」
 という問いには、ヘリ備え付けのセットを示された。様々な場所に出向く機体だけに、色々と装備しているらしい。ルクレツィア(ga9000)が欲しがっていた担架も、椅子の下に入っていた。
「‥‥ま、あちらはほっといても平気でしょう」
 横目で見てから、フォル=アヴィン(ga6258)は視線を別の方角へ巡らせた。準備にあたふたするエレンを目で追いながら、時折唇を噛んでいる柚井 ソラ(ga0187)。
「どうか、しましたか」
「‥‥何でも、ありません」
 く、と顎を引く。言葉を掛けられた事に、少年は救われたのかもしれない。エレンには、安全な場所でにいて欲しいと願う反面、彼女がいることで安心する自分もいる。本人には言えないぐるぐるした思いに区切りをつけるのは、自分だけでは難しかったから。
「ま、あまり難しく考えずに、平常心で行きましょう。」
 叩かれた肩に、少年は笑む。
「それより、俺、ファームライドって生で見た事、無いんです」
 噂には聞いているけれど、という少年を見ながら、霞澄 セラフィエル(ga0495)はこの一年ほどに思いを馳せていた。幾度と無く、渡り合った事がある真紅の機体との縁は、深いように思える。そして、そのパイロットとも。
「‥‥『彼ら』に出来る事が増えるのは、良い事ですね」
 その裏でどんな意図が動いていようとも、その事は確かで。その為にも、この任務は成功させたいと彼女は感じていた。

「AU−KVの重さで、傾いたりしませんか?」
 バイク形態のリンドヴルムを押しながら、二条 更紗(gb1862)が首を傾げる。ヘリのパイロットがチラッと一瞥して、頷いた。
「ま、その程度なら平気だな。固定だけはちゃんとしておいてくれよ」
 新型のエピメーテウスには及ばないものの、ヘリ自体の出力にはまだまだ余裕があるのだとか。SES機関の恩恵は、こんな所にも及んでいるらしい。
「現地のキメラの情報については、何か新しく判りましたか」
 アルヴァイム(ga5051)の問いに、エレンの答えは否。彼は1つ頷くと、これまでに判っている内容をヘリの操縦者達へ確認し始めた。
「飛行する型が確認されておりますので、そちらには注意を」
「ああ。逃げ足と目には自信がある。あんたらを信用はしているが、ね」
 危険な任務にも慣れている様子のパイロットを、暁・N・リトヴァク(ga6931)は懐かしげに見る。操る機種こそ違えど、かつては彼もあちら側の人間だったのだ。
「俺も、信用していますよ」
 言ってから、暁はまだ熱さの残る空気をゆっくりと吸う。彼の中に流れる血の幾分かが、浮つく気がした。スペインは父の故郷なのだ。
「今度は、銃を持たずに来たいな」
 1つ伸びをして、友人へ視線を向ける。空閑 ハバキ(ga5172)が、何かを手にじっと見つめていた。
「それ、何?」
「っと。お守り、だよ」
 覗きこんだ暁に驚いた様子を見せてから、ハバキは笑う。その笑顔が寂しげに見えて、暁が言葉を探す間に、ハバキはそれを上着の内側へ滑らせた。
「エレンさんは、治療の準備をしていて下さいね」
 現地で助けを待っているだろうエージェントの事をソード(ga6675)は言っていた。最後の足取りを確認されてから、半日にもならない時間だ。生存の可能性を、傭兵達は信じていた。ルカが担架を用意したのも、京夜が登山道具を探したのも、その為だ。
「‥‥任せておいて」
 微笑んで、頷く。ただの医療士官の彼女が、強いてヘリに同行しようとした理由は、傭兵達の思いと同じだったから。

●急ぎ、飛べ
 車が通る予定だった道筋を、高度を取って飛ぶ事2時間ほど。
「‥‥あれ、かな?」
 ルカが、道路脇に引っかいたような跡を見つけた。それが車の滑り落ちた跡と分かるまでに、寸秒。
「2度、旋回してから引き返すぞ」
 コクピットからの声に、狭い窓から外を見る。機首カメラの映像も、後席へと転送されていた。上を仰いで吼えているキメラが見える。
「この高度までは届かないという事でしたが‥‥、念のため、敵の警戒は俺達がしましょう」
 ソードの言葉に、ハバキも頷いた。彼ら2人は、ヘリの護衛に残る事になっていたためだ。2度の旋回は、回収に向かう残りの面々が、現地の地形を把握するには短いが。
「着陸は、南2kmの地点にする。降下準備に入ってくれ」
 再び、前席からの指示が入った。暁の指示で、フォル、それにアルが降下装備を身に着けていく。
「‥‥チェック、OK」
 互いの装備を確認し終えたところで、ヘリの動きが変わった。速度を落とし、降下し始める気配だ。側面ドアの解放指示。続けて、ロープを3本落とす。
「まずは2人でいこう」
 今回、降下するのは3名。本職並の技量の持ち主ばかりならば、3人どころか同時に4人で降下も可能だが、暁は慎重を期した。
「援護は、任せてください」
 ドアの隅に、ライフルを抱えたソードが陣取る。
「じゃあ、お任せしますよ‥‥っと」
 フォルと暁が機外へ。お互いのロープに絡まる事も無く、降下する。続いて、アルが無言のまま飛び出した。3人とも、無事に地上へ着いた様子に誰かがほっと息をつく。
「鳥が来ましたね」
 言いながら、ソードが銃口でキメラを追った。まだ距離がある。3人が、ヘリの降下地点を守るように前へ出るのが見えた。
「‥‥他には見えないか?」
「はい」
 パイロットからの声に、ルカが頷く。
「じゃあ、あれは下の連中に任せた。これ以上増える前に、降下するぞ」
 一度目標地点上空を外れてから、ぐるりと輪を描くように高度を落とす。その間に、鳥キメラと地上班の交戦が始まっていた。
「‥‥的が大きいのはありがたい事です」
 大口径のハンドガンを全弾撃ち込み、アルはリロードして更に構える。一足先に降りた2人は、キメラの反撃を受けつつもそれに倍する猛射を加えていた。ヘリが降りる頃には、キメラは地に落ちている。

●回収作戦
「ヘリは、ちゃんと護っとくから!」
 手を振るハバキに送られて、回収班の7名は先を急いだ。先頭の暁は斥候役だ。
「無理はしないように‥‥。バックアップは、任せてくださいね」
「猫は道を見つけるのが得意だからね。やれるさ」
 二番手を歩く予定の霞澄に頷いてから、スカーフを上げて北へ。古いフラメンコの鼻歌が聞こえてきた。
「奴に関わって死ぬ奴を、1人でも減らしてみせる」
 呟いて、歩き出す京夜の斜め後ろに、フォルがつく。こうしている間にも、京夜の言う『奴』の命と時間が磨り減っているのを知るルカは、唇を結んでその後ろへ。
「バイクを手押しなんて、大誤算」
 音を抑えるべく、AU−KVを押す更紗が続き、最後尾には眠そうな目のソラが立った。敵との遭遇を警戒し、2人を前に置いたやや縦に長いシフトで移動する一行。その意図どおり、最初に敵に遭遇したのは暁だった。ヘリを追っているのだろう。四足で走る熊型キメラが2匹、南下していく。
「山岳戦の基本は先手必勝、だけど我慢我慢‥‥」
 言いながら、無線で後衛へと連絡する。
「どうせ、帰り道でやりあう事になりますし。潰しておきましょう」
 フォルの意見に、異論は出なかった。暁と、次いで霞澄の指示で熊の進路を塞ぐように移動し、一斉に攻撃を加える。奇襲は、速やかにかつ徹底的に。基本に忠実な攻撃に、為すすべも無く敵は地に伏せた。
「うまく行きましたね」
 能力者側の手傷は、最後に撃ち返して来たブレスによって前衛が受けた軽傷だけだ。
「‥‥ここで怪我をするわけにも、いかないからな」
 接近戦を避け、無傷の京夜が乾いた口調で言った。

「お、手伝ってくれるのか。助かるね」
「むしろ、俺達がやりますから。皆さんは中で待機していてください」
 出てきた副操縦士を制して、居残り組トリオはヘリへ偽装を加えていく。すぐに飛び立てるように、細心の注意を払いながら。
「3人しかいないけれど、手分けして警戒しようか」
 ハバキの提案に、アルが頷く。
「俺は、あの樹に登りますよ」
 ソードがやや南の、視野を確保できそうな木の枝を指した。では、と残る2人が北東、北西へ。無線機が、前衛と熊キメラの交戦を伝えたのはその時だった。
「怪我は無し、か。良かった」
 ホッと息を吐いたエレンに、ハバキが問いかける。
「‥‥怖くは、ない?」
 一般人の身で、キメラのいる戦地に立つ彼女へ。エレンは瞬きしてから、笑った。
「怖いわよ、当然じゃない」
 でも、基地で空を見上げて待っていた時より怖くはない、と続ける。聞いていた3人は、同じ日の事を思い出した。グラナダの空で、星が堕ちた日を。
「皆の方が、出来る事はもちろん任せるわよ。でも、私が役に立てる事もあると思うから、ね」
 ポンポン、とエレンは赤い十字が描かれた腕章を叩く。信頼してるから、守ってね、という声には三者三様の首肯が返った。

●そして、生存者は
「あれか。‥‥面倒だな」
 京夜が苦笑いする。滑り落ちた白いライトバンは、横倒しの形で止まっていた。その脇に、マンティコア型のキメラが2匹。少し離れた岩の上に、鳥型のキメラが羽を休めている。その足元に見える布地っぽいものが何かに気づいて、ルカが視線を落とした。人間の衣服、だ。
「‥‥酷い」
 固まった少女の肩を、フォルが叩く。彼の指差す先を見たルカの表情が、少し暗さを減じた。
「室内に、誰か残っていますね」
 双眼鏡で確認していた霞澄の言葉。京夜が舌打ちする。
「‥‥厄介だな。ガソリン漏れをしてやがる」
 漂う匂いは薄く、その多くは既に揮発したのだと知れる。が、地に染み込んだ分だけでも、車内の人間を蒸し焼きにするには十分だろう。無論、まだ生きていれば、だ。
『近くには、あれ以外いないね』
 仲間達が観察する間に、周囲を確認していた暁が無線機越しに言う。
「じゃあ、やりますか」
 フォルが刀を握る手に力を込めた。引火の危険がある以上、車に向けて銃を撃つわけには行かない。
「俺は、鳥を」
 ガトリングガンを構えたソラの前に、盾を持ったルカが出る。
「援護、お願いします」
 切り込むフォルに、弓を携えた霞澄が頷いた。

 激しい戦いは、マンティコアが車の側から釣りだされた時点で、ケリがついた。更紗とソラ、霞澄が警戒に立ち、フォルと京夜、ルカが車へ向かう。
「‥‥こっちは、俺達に任せてくれても良かったんだけど」
 見れば辛い物があるやもしれない、とフォルは思っていた。しかし、ルカは静かに首を振る。それ以上、フォルも重ねて言おうとはしない。
「後方を、見ておくよ」
 暁は再び斥候に立った。一度クリアになった道筋だが、再び敵が現れている可能性は高い。
「‥‥歪んでるな。よいしょ‥‥っと」
「フォル、手を貸せ。ここが開く」
 ドアを引き抜くように、助手席のドアをこじ開ける。その間、ルカはじっと車内の人影を見ていた。ピクリ、と動く。目の錯覚ではなく、もう一度。今度は確かに。姿勢的に、向こうからはこちらが見えないのだろう。
「安心しろ、味方だ」
 それが、銃を探す手の動きだと見て取った京夜が声をかけた。
「‥‥味、方? エヴァは逃げ切ったのか」
 しわがれ声。その人名が何を指すのか察して、ルカの表情が曇る。
「持ち上げます。引っ張り出してください。いいですか? 1.2‥‥」
 ぐっと引き出されたのは、若い男だった。足が折れているし、長時間胸部を圧迫されていた影響も懸念されるが、今の所は、無事だ。運転席側のもう1人の手は、冷たかった。
「‥‥お前の仕事は俺達が引き継ぐ」
 呟いて、京夜はベルトを切る。引っ張り出した遺体は、損傷の度合いは低く見えた。手早く眼を閉じさせてから、振り返る。
「こっちが、少し平らですから」
 生存者を抱え上げたルカとフォルに、ソラが手を振った。折り畳み式の担架を開いて、男を横たえる。霞澄が手早く応急キットを広げていた。フォルが、その耳元へ口を寄せる。
「積荷はどこですか?」
「‥‥エヴァが、持っていったはずだ。それを聞かれるって、事は‥‥」
 答えてから、男は目を瞑った。
「俺、行って来‥‥」
「いや。俺が行きますよ」
 ソラを制して、フォルが岩の上へ向かう。哀れな遺体の中に、その荷物は見つかった。手首だけになってなお、取っ手をしっかり握っていた細い指を、丁寧に開く。
「お疲れ様、でした」
 フォルの声は、勇敢な女性へ届いただろうか。

●帰路
 黙祷を捧げてから、彼はさっと立ち上がった。
「急ぎましょう。ここでしくじったら、申し訳がない」
「お預かりします」
 リンドヴルムにまたがった更紗へ、荷を託す。ソラとフォルが併走して、ヘリへと急ぐ手筈だった。京夜とルカが担架を持ち、霞澄が横につく。
「敵が回り込んでいる。気をつけて」
 暁の言葉に、更紗は左右の仲間を見た。
「やりたいのは山々だけど、キメラは任せる」
「は、はい」
 キメラを視認して、更紗はスロットルを絞った。敵は3匹。1匹は、踊りこんだフォルに止められ、もう1匹はガトリングの弾幕に阻まれた。残る1匹を、速度で振り切りに掛かる。火の弾がバイクのすぐ脇に落ちた。
「戦わないのはストレス溜まるな」
 バックミラー越しに、怪鳥を見て呟く少女。が、言う間に敵が赤く輝いた。
「やらせるわけにはいかないんですよ」
 ソードの狙撃。気がつけば、ヘリの間際まで戻っていた。追い打つ敵を遮るように、アルが前へでて弾幕を張る。
「おかえりっ」
 生存者の存在を通信で聞いたハバキの表情は明るい。その手に、更紗は荷物を押し付けるように渡した。
「これをお願いします。溜まった鬱憤、熨斗をつけてプレゼントです」
 振り返り、アクセルを吹かす。彼女を先に行かせるべく残った2人は、苦戦を強いられているだろうから。

 その、十分ほど後。生存者は、エレンの手当てを受けて眠っていた。もう大丈夫という声に、ヘリの周りで警戒に当たっていた能力者達が戻ってくる。
「なんとかやれたかな‥‥」
 耳に懐かしいエンジン音を聞きながら、暁は煙草の火を消した。
「後で、渡してやってくれ」
 乗り込んできた京夜が、皆で持ってきた男の仲間達の遺品をエレンに託す。そして、ハバキが一抱えほどの小包をヘリの床に置いた。
「これが、そうなのね」
 手にしてみればずしりと重い気がする。2人分の、いやそれ以上の重みがそこにはあった。
「過去を無かった事にする事はできません、でも今と未来を紡ぐ事は出来ますから‥‥」
 霞澄が言う。未来を閉ざされた人達の為にも、今はそれを活かす事を考えねばならない、と。
「あとは‥‥彼らがどうするか‥‥」
 ふ、と遠い目をした少女が思い浮かべた相手。幾人かは、それぞれの表情で思う。今はまだ眠りし、蠍座の男の事を。